(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来の作業機械の油圧制御装置としては、油圧ポンプから吐出され油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する方向制御弁にブリードオフ通路を設け、このブリードオフ通路をバイパスラインに配置したブリードオフ方式の油圧システムが古くから良く用いられている。ブリードオフ方式の油圧システムは、方向制御弁の操作量(ストローク)に応じてブリードオフ通路を介して油圧ポンプの吐出流量の一部をタンクへ戻すブリードオフ制御を行うことで、アクチュエータへの流量を制御している。
【0003】
このようなブリードオフ方式の油圧システムに対し、エネルギー効率向上の観点から、ブリードオフ通路を介してタンクに戻される流量(ブリードオフ流量)を削減もしくは低減する方向での技術開発がなされており、その一例として特許文献1記載のものがある。
【0004】
特許文献1記載の油圧システムでは、クローズドセンタタイプの制御バルブ(方向制御弁)を用い、コントローラで油圧ポンプの吐出流量を制御することで、実際にタンクへ油圧ポンプの吐出流量の一部を逃がすことなく、ブリードオフ通路を備えた制御バルブ(方向制御弁)と同等のブリードオフ制御を再現している。
【0005】
また、作業機械の油圧制御装置には、通常、油圧機器保護のためリリーフ弁が設けられ、油圧アクチュエータの駆動時、油圧ポンプの吐出圧がリリーフ弁の設定圧以上に高くなろうとすると、リリーフ弁が動作して油圧ポンプの吐出流量の一部をタンクへ戻し、油圧ポンプの吐出圧がリリーフ弁の設定圧以上に高くならないようにしている。しかし、この場合も、リリーフ弁からタンクに戻るリリーフ流量はエネルギーロスとなり、リリーフ流量を低減する技術開発がなされている。その一例として特許文献2及び特許文献3記載のものがある。
【0006】
特許文献2記載の油圧システムでは、ポジティブポンプ流量制御と圧力フィードバック制御とPQ制御のそれぞれでポンプ流量指令値を演算し、それらのポンプ流量指令値のうちポンプ流量を最も小さくするポンプ流量指令値を選択して油圧ポンプの吐出流量を制御している。ここで、圧力フィードバック制御とは、油圧ポンプの吐出圧力と圧力設定値との偏差に基づいてポンプ流量指令値を演算する制御(カットオフ圧力制御)であり、これにより油圧ショベルの旋回体の駆動時のように油圧ポンプの吐出圧力が急上昇する場合であっても、リリーフ流量(損失)を低減してエネルギー効率を向上させている。
【0007】
また、特許文献3記載の油圧システムでは、上記特許文献2において、圧力フィードバック制御のポンプ流量指令値が選択されたとき、その選択時点から、時間の経過とともに流量指令値を増加させる流量増加制御を行うようにしており、これにより圧力フィードバック制御の後半で油圧ポンプの吐出圧を高めて駆動力(坂道での登坂力や旋回力)を確保している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の油圧システムは、クローズドセンタタイプの制御バルブ(方向制御弁)を用いてコントローラで油圧ポンプの吐出流量を制御しているが、制御の内容はブリードオフ制御の再現であり、ブリードオフ通路を設けた方向制御弁のブリードオフ制御による油圧ポンプの吐出流量の絞り捨ての損失を低減することはできても、ブリードオフ制御の再現以上の特性や性能の改善は期待できない。
【0010】
例えば、油圧ショベルの掘削作業はアームシリンダを伸長させることでアームをクラウド方向に回動させてバケットの刃先を地面に食い込ませ、バケットシリンダを伸長させることでバケット内に土砂を掻き込む作業である。アームシリンダの伸長動作及びバケットシリンダの伸長動作はそれぞれの操作レバー装置をオペレータが操作することで行う。この掘削作業では、操作レバー装置の操作量に応じて油圧ポンプの吐出圧力を制御することで掘削力を調整できると掘削し易くなり、操作性能(オペレータの操作のし易さ、操作フィーリング、作業効率等)が向上し、便利である。しかし、特許文献1記載の油圧システムでは油圧ポンプの吐出圧力は操作レバー装置の操作量に応じて一義的に決まらないため、そのような制御はできなかった。
【0011】
特許文献2及び特許文献3に記載の油圧システムにおいても、操作レバー装置の操作量に応じて油圧ポンプの吐出圧力を制御することができない点は同じであり、同様の課題があった。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブリードオフ制御による油圧ポンプの吐出流量の絞り捨ての損失を低減して、エネルギー効率を向上させるとともに、油圧ポンプの吐出圧力を操作レバー装置の操作量に応じて制御可能とし、操作性能も向上できる作業機械の油圧制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記課題を解決するため、本発明は、原動機と、この原動機により駆動される可変容量型油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出される圧油により駆動される油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する方向制御弁と、オペレータが操作指令を入力する操作レバー装置と、前記操作レバー装置の操作量を検出する操作量検出器と、前記油圧ポンプの吐出圧力を検出する圧力検出器と、前記油圧ポンプの傾転量を制御するポンプ制御装置とを備えた作業機械の油圧制御装置において、前記ポンプ制御装置は、前記操作量検出器からの操作量信号に基づいて、前記操作量検出器からの操作量信号が増加するにしたがって増加する目標ポンプ吐出圧力を算出する目標ポンプ圧力設定部と、前記操作量検出器からの操作量信号に基づいて、前記操作量検出器からの操作量信号が増加するにしたがって増加するポンプ流量上限値を算出するポンプ流量上限設定部と、前記目標ポンプ圧力設定部で算出した目標ポンプ吐出圧力と、前記ポンプ流量上限設定部で算出したポンプ流量上限値と、前記圧力検出器で検出した前記油圧ポンプの吐出圧力とに基づいて前記油圧ポンプの傾転量を制御する傾転量制御部とを有するものとする。
【0014】
このように本発明においては、傾転量制御部がポンプ流量上限設定部で算出したポンプ流量上限値に基づいて油圧ポンプの傾転量を制御することで、ブリードオフ制御による油圧ポンプの吐出流量の絞り捨ての損失を低減して、エネルギー効率を向上させることができる。また、傾転量制御部が目標ポンプ圧力設定部で算出した目標ポンプ吐出圧力と圧力検出器で検出した油圧ポンプの吐出圧力とに基づいて油圧ポンプの傾転量を制御することで、油圧ポンプの吐出圧力を操作レバー装置の操作量に応じて制御可能となり、操作性能を向上させることができる。
【0015】
(2)上記(1)の作業機械の油圧制御装置は、好ましくは、前記原動機の回転数を検出する原動機回転検出器と、前記ポンプ制御装置は、前記ポンプ流量上限設定部で算出したポンプ流量上限値を前記原動機回転検出器で検出した前記原動機の回転数で補正したポンプ傾転上限値を算出する回転数補正部を更に備え、前記傾転量制御部は、前記回転数補正部で算出した前記ポンプ傾転上限値に基づいて前記油圧ポンプの傾転量の上限を制限する制御量制限部を有する。
【0016】
このように本発明においては、原動機の回転数でポンプ流量上限値を補正してポンプ傾転上限値を算出し、油圧ポンプの傾転量の上限を制限することで、原動機の回転数が変化しても、油圧ポンプの吐出流量の上限が常に算出したポンプ流量上限値となるよう制御されるため、操作レバー装置の操作量に応じた正確な油圧ポンプの吐出流量制御が可能となる。
【0017】
(3)上記(1)又は(2)の作業機械の油圧制御装置は、また好ましくは、前記油圧ポンプの吸収動力量を制限するための動力制限値を設定するポンプ動力上限設定装置と、前記ポンプ動力上限設定装置で設定した動力制限値を前記圧力検出器で検出した前記油圧ポンプの吐出圧力で補正してポンプ流量上限値を算出する流量上限値補正部と、前記ポンプ流量上限設定部で算出したポンプ流量上限値と前記流量上限値補正部で算出したポンプ流量上限値とを比較し、それらの小さい方を選択する選択部とを更に備え、前記傾転量制御部は、前記選択部で選択したポンプ流量上限値に基づいて前記油圧ポンプの傾転量を制御する。
【0018】
このように本発明においては、ポンプ流量上限設定部で算出したポンプ流量上限値と流量上限値補正部で算出したポンプ流量上限値の小さい方を選択して油圧ポンプの傾転量を制御することで、油圧ポンプの動力制限値をも制約に加えた制御を行うことができ、更にシステムの操作性能が向上できる。
【0019】
(4)上記(3)の作業機械の油圧制御装置において、好ましくは、前記ポンプ動力上限設定装置は、オペレータが操作装置を操作することで前記動力制限値を変更できるように構成する。
【0020】
これによりオペレータの意志で動力制限値を自由に設定できるので、更にシステムの操作性能が向上できる。
【0021】
(5)上記(1)〜(3)の作業機械の油圧制御装置において、好ましくは、前記目標ポンプ圧力設定部は、予め複数の目標ポンプ圧力特性を設定し、オペレータが操作装置を操作することで所望の1つを選択できるように構成する。
【0022】
これによりオペレータの意志で自由に目標ポンプ圧力特性を調整することが可能になり、操作性能が更に向上する。
【0023】
(6)上記(1)〜(3)の作業機械の油圧制御装置において、また好ましくは、前記ポンプ流量上限設定部は、予め複数のポンプ流量上限値特性を設定し、オペレータが操作装置を操作することで所望の1つを選択できるように構成する。
【0024】
これによりオペレータの意志で自由にポンプ流量上限値の特性を調整することが可能になり、操作性能が更に向上する。
【0025】
(7)上記(1)〜(3)の作業機械の油圧制御装置において、また好ましくは、前記目標ポンプ圧力設定部と前記ポンプ流量上限設定部は、前記目標ポンプ圧力設定部での前記操作量信号に対する目標ポンプ圧力を大きい設定値とした特性と前記ポンプ流量上限設定部での前記操作量信号に対するポンプ流量上限値を大きい設定値とした特性とを組み合わせたハイパワーモードと、 前記目標ポンプ圧力設定部での前記操作量信号に対する目標ポンプ圧力を中間付近の設定値とした特性と前記ポンプ流量上限設定部での前記操作量信号に対するポンプ流量上限値を中間付近の設定値とした特性とを組み合わせたスタンダードモードと、前記目標ポンプ圧力設定部での前記操作量信号に対する目標ポンプ圧力を小さい設定値とした特性と前記ポンプ流量上限設定部での前記操作量信号に対するポンプ流量上限値を小さい設定値とした特性とを組み合わせた微操作モードとを備え、オペレータが操作装置を操作することで所望のモードを選択できるように構成する。
【0026】
これにより目標ポンプ圧力設定部及びポンプ流量上限設定部に特性の組み合わせが多く存在する中で、煩雑な設定を代表的な組合わせ(モード)に置き換えて選択することができるようになり、組み合わせの選択操作が簡素化され、オペレータの労力低減が図れ、使い勝手が向上する。
【0027】
(8)上記(1)〜(3)の作業機械の油圧制御装置は、また好ましくは、前記油圧ポンプと前記方向制御弁とを接続するポンプ吐出油路に接続され、前記ポンプ吐出油路の圧力の上限を規定するメインリリーフバルブを更に備え、前記目標ポンプ圧力設定部は、前記目標ポンプ圧力の最高圧力として、前記メインリリーフバルブの開放圧力より低い圧力Ppmax1と前記メインリリーフバルブの開放圧力より高い圧力Ppmax2を設定し、オペレータが操作装置を操作することでそのうちの一方を選択できるように構成する。
【0028】
これにより通常使用時は、目標ポンプ圧力設定部に目標ポンプ圧力の最高圧力として圧力Ppmax1を設定することで、油圧ポンプの最大吐出圧力をメインリリーフバルブのクラッキング圧力より低くすることができ、これによりメインリリーフバルブの開放によるエネルギ損失が低減され、エネルギ効率が向上する。また、低温時などでは、目標ポンプ圧力設定部に目標ポンプ圧力の最高圧力として圧力Ppmax2を設定することで、油圧ポンプの最大吐出圧力をメインリリーフバルブのクラッキング圧力より高くすることができ、これにより油圧ポンプの吐出圧力がリリーフ圧に達し、油圧ポンプの吐出流量の一部がメインリリーフバルブにて放出されて、熱に変換され作動油を暖気することができる。
【0029】
(9)上記(1)〜(3)の作業機械の油圧制御装置において、また好ましくは、前記ポンプ制御装置は、前記傾転量制御部以外の機能をコントローラに持たせ、前記傾転量制御部の機能をメカニカルなレギュレータに持たせる。
【0030】
これにより圧力制御などの高応答高精度な制御はメカニカルなレギュレータにて行うので、コントローラが高速な制御演算性能を有していなくても高応答の制御が可能となる。また、部品構成の組み合わせ自由度が向上し、システムの構成が容易となり好適である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ブリードオフ制御による油圧ポンプの吐出流量の絞り捨ての損失を低減して、エネルギー効率を向上させるとともに、油圧ポンプの吐出圧力を操作レバー装置の操作量に応じて制御可能とし、操作性能も向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0034】
図1は、本発明に係る油圧制御装置を備える作業機械の一例である油圧ショベルを示す側面図である。
【0035】
この
図1に示す油圧ショベルは、走行体101と、この走行体101上に配置される旋回体102と、この旋回体102に取り付けられる作業装置(フロント作業機)103とを備えている。旋回体102は運転室110を備え、運転室110内にはオペレータが着座する座席と、オペレータが操作する操作レバー装置5(
図2参照)等の操作装置が配置されている。作業装置103は、旋回体102に上下方向に回動可能に取り付けられたブーム104と、このブームの先端に上下方向に回動可能に取り付けられたアーム105と、このアーム105の先端に上下方向に回動可能に取り付けられたバケット106とを備えている。
【0036】
走行体101は左右の履帯111a,111bと、左右の履帯を駆動して走行を行わせる左右の走行モータ112a,112bを備え、旋回体102は旋回輪(図示せず)を駆動して走行体101に対して旋回体102を旋回させる旋回モータ113を備えている。作業装置103は、ブーム104を作動させるブームシリンダ107と、アーム105を作動させるアームシリンダ108と、バケット106を作動させるバケットシリンダ109とを備えている。
【0037】
〜第1の実施の形態〜
図2は、本発明の第1の実施の形態における油圧制御装置の一部分を示す図である。
【0038】
本実施の形態の油圧制御装置は、原動機(例えばディーゼルエンジン)1と、この原動機1により駆動される可変容量型の油圧ポンプ2と、この油圧ポンプ2から吐出される圧油により駆動される油圧アクチュエータ4と、油圧ポンプ2から油圧アクチュエータ4に供給される圧油の流れを制御する方向制御弁3と、オペレータが操作指令を入力する操作レバー装置5と、油圧ポンプ2と方向制御弁3とを接続するポンプ吐出油路7に接続され、ポンプ吐出油路7の圧力(油圧ポンプ2の吐出圧力)の上限を規定するメインリリーフバルブ8と、油圧ポンプ2と、方向制御弁3と、メインリリーフバルブ8等に接続されるタンク15とを備えている。
【0039】
油圧ポンプ2は例えば可変容量型の斜板ポンプであり、斜板の傾転量を変化させることで吐出流量を変化させるレギュレータ2aを備えている。
【0040】
方向制御弁3は、中立位置でポンプ吐出油路7をブロックするクローズドタイプのバルブである。また、方向制御弁3のスプール両端には受圧部3a,3bが設けられ、受圧部3a,3bはパイロット油路5a,5bを介して操作レバー装置5と接続され、操作レバー装置5から操作パイロット圧が受圧部3a,3bのいずれかに導かれることで、中立位置から図示左右の作動位置のいずれかに切り換えられる。
【0041】
油圧アクチュエータ4は、上述した油圧ショベルのブームシリンダ107、アームシリンダ108、バケットシリンダ109、左右の走行モータ112a,112b、旋回モータ113の1つを代表するものであり、好ましくは、作業装置103の油圧アクチュエータであるブームシリンダ107、アームシリンダ108、バケットシリンダ109のいずれかである。
【0042】
方向制御弁3の2つのアクチュエータポートの一方は油圧管路9Aを介して油圧アクチュエータ(以下適宜油圧シリンダという)4のボトム側室4aに接続され、他方のアクチュエータポートは油圧管路9Bを介して油圧シリンダ4のロッド側室4bに接続されている。油圧管路9A,9B間にはオーバロードリリーフバルブ10A,10Bと補給用チェックバルブ11A,11Bが配置されている。
【0043】
また、この油圧制御装置は、操作レバー装置5の操作量を検出する操作量検出器20A,20Bと、油圧ポンプ2の吐出圧力を検出する圧力検出器21と、原動機1の回転数を検出する回転検出器22と、油圧ポンプ2の傾転量を制御するコントローラ6とを備えている。操作量検出器20A,20Bはパイロット油路5a,5bの圧力(操作パイロット圧)を検出する圧力検出器である。操作量検出器20A,20Bは操作レバー装置5のレバーストロークを検出する位置検出器であってもよい。
【0044】
図3はコントローラ6の制御ロジックを示す図である。
【0045】
コントローラ6は、操作量検出器20A,20Bからの操作量信号を入力し、操作量検出器20Aからの操作量信号を正の値として出力し、操作量検出器20Bからの操作量信号を負の値として出力する減算器から構成される操作量検出部31と、操作量検出器20A,20Bからの操作量信号に対する目標ポンプ圧力の関係が予め設定されており、操作量検出部31からの操作量信号に基づいて対応する目標ポンプ圧力を算出する目標ポンプ圧力設定部32と、操作量検出器20A,20Bからの操作量信号に対するポンプ流量上限値の関係が予め設定されており、演算部31からの操作量信号に基づいて対応するポンプ流量上限値を算出するポンプ流量上限設定部33と、目標ポンプ圧力設定部32で算出した目標ポンプ圧力から圧力検出器21で検出した油圧ポンプ2の吐出圧力を減算して圧力偏差ΔPを算出するフィードバック減算部34と、フィードバック減算部34で算出した圧力偏差ΔPに対してPI演算/PID演算を行い、油圧ポンプ2の目標傾転量を算出する制御量演算部35と、ポンプ流量上限設定部33で算出したポンプ流量上限値を回転検出器22によって検出した原動機1の回転数Nengで除した値に補正係数K1をかけることで、ポンプ流量上限値を原動機1の回転数で補正したポンプ傾転上限値を算出する回転数補正部36と、制御量演算部35で演算した目標傾転量の上限を回転数補正部36で算出したポンプ傾転上限値に制限し、目標傾転量の下限を負の微少な一定値に制限するリミッタ(制御量制限部)37とを有している。リミッタ37で得られた値は油圧ポンプ2のレギュレータ2aに対する傾転指令として出力される。
【0046】
ここで、フィードバック減算部34と制御量演算部35は、圧力検出器21で検出した油圧ポンプ2の吐出圧力を目標ポンプ圧力設定部32で算出した目標ポンプ圧力に一致させるための目標傾転量を算出する制御量演算部を構成する。
【0047】
フィードバック減算部34、制御量演算部35及びリミッタ37と、油圧ポンプ2のレギュレータ2aは、目標ポンプ圧力設定部32で算出した目標ポンプ圧力と、ポンプ流量上限設定部33で算出したポンプ流量上限値と、圧力検出器21で検出した油圧ポンプ2の吐出圧力とに基づいて、油圧ポンプ2の吐出流量がポンプ流量上限値に達するまでは油圧ポンプ2の吐出圧力が目標ポンプ圧力となるよう油圧ポンプ2の傾転量を制御し、油圧ポンプ2の吐出流量がポンプ流量上限値に達した後は、油圧ポンプ2の吐出流量がポンプ流量上限値を超えないように油圧ポンプ2の傾転量を制御する傾転量制御部を構成する。
【0048】
図3Aは、目標ポンプ圧力設定部32に設定される操作量信号に対する目標ポンプ圧力の関係を示す図である。
【0049】
目標ポンプ圧力設定部32は、
図3Aに示すように、操作量検出器20A,20Bからの操作量信号(操作レバー装置5の操作量)が増加するにしたがって油圧ポンプ2の吐出圧力が上昇するように設定してあり、操作レバー装置5のフルレバー操作付近以上では最大の回路圧力が確保できるように構成し、逆に中立付近においては回路圧力を小さく抑えるように構成する(回路圧力をゼロとしても良い)。
【0050】
ここで、操作レバー装置5のフルレバー操作付近以上で設定される最大の回路圧力は、エネルギ効率向上の観点から、油圧ポンプ2の吐出圧力を制限するメインリリーフバルブ8の開放圧力(クラッキング圧力)よりも小さく設定されている。これにより回路圧力の制限は基本的に目標ポンプ圧力設定部32の設定に基づく油圧ポンプ2の吐出流量の制御にて行われるようになるので、メインリリーフバルブ8の開放によるエネルギ損失が低減され、エネルギ効率が向上する。
【0051】
図3Bは、ポンプ流量上限設定部33に設定される操作量信号に対するポンプ流量上限値の関係を示す図である。
【0052】
ポンプ流量上限設定部33は、
図3Bに示すように、操作量検出器20A,20Bからの操作量信号(操作レバー装置5の操作量)が増加するにしたがって油圧ポンプ2の吐出流量が増加するように設定してあり、操作レバー装置5のフルレバー操作付近以上では最大の流量が確保できるように構成し、逆に中立付近においてはポンプ流量上限値を小さく抑えるように構成する。
【0053】
また、油圧シリンダによる作業装置103の駆動などでは操作レバー装置5の操作レバーの押し引き操作は中立に対して非対称な異なる特性が必要である場合が多いので、目標ポンプ圧力設定部32とポンプ流量上限設定部33は、それぞれ、操作量検出器20Aからの操作量信号と操作量検出器20Bからの操作量信号に対し、その異なる特性に応じた特性を予め設定しておくことで、操作レバー装置5の操作方向に見合った特性とすることができる。
【0054】
図3Cは、リミッタ37に設定される目標傾転量に対する制限値の関係と、回転数補正部36で算出したポンプ傾転上限値による目標傾転量制限値の変化を示す図である。
【0055】
リミッタ37は、
図3Cに示すように、目標傾転量の上限値は回転数補正部36で算出したポンプ傾転上限値に制限され、目標傾転量の下限値は負の微少な一定値に制限されるよう、制御量演算部35で算出した目標傾転量と目標傾転量の制限値との関係が設定されている。目標傾転量の上限値を回転数補正部36で算出したポンプ傾転上限値に制限するのは、操作レバー装置5の操作量(要求流量)に応じて油圧ポンプ2の最大吐出流量を調整するためであり、目標傾転量の下限値を負の微少な一定値に制限するのは、操作レバー装置5の非操作時(レバー中立時)にポンプ吐出油路7内の圧油をタンク15に戻せるようにすることで、油圧ポンプ2の吐出圧力の上昇を抑えるためである。
【0057】
オペレータの操作レバー装置5のレバー入力(操作量)が中立のとき、レバー入力が微小であるときのA操作、レバー入力がそれより大きめであるときのB操作に分けて説明する。
図4は、操作レバー装置5のレバー入力(操作量)に対する目標ポンプ圧力設定部32とポンプ流量上限設定部33の算出状況を分かりやすく示した図である。また、
図5はそのときのレバー入力(操作量)と、そのレバー入力に対する油圧ポンプ2の吐出流量(ポンプ流量)、油圧ポンプ2の吐出圧力(ポンプ庄力)、油圧シリンダ4の駆動速度(シリンダ速度)を説明する図である。
【0058】
まず、操作レバー装置5のレバー入力が中立のときは、オペレータの操作量はゼロであり、目標ポンプ圧力設定部32よりポンプ目標ポンプ圧力として小さい値npが算出される。さらに、圧力検出器21で検出した油圧ポンプ2の吐出圧力をフィードバックし(フィードバック減算部34)、ポンプ圧力が目標ポンプ圧力となるような目標傾転量を算出する(制御量演算部35)。また、ポンプ流量上限設定部33よりポンプ流量上限値として小さい値nqが算出され(図示の例ではnq≒0)、その値を回転検出器22で検出した原動機1の回転数で補正してポンプ傾転上限値を求める(回転数補正部36)。先の目標傾転量に対し、そのポンプ傾転上限値にてリミッタ37によってリミッタ処理が施され、油圧ポンプ2のレギュレータ2aに傾転指令が算出され、油圧ポンプ2の傾転量が制御される。一方、
図2に示す方向制御弁3は中立であり、従って油圧ポンプ2の吐出流量は方向制御弁3で止められる。また、油圧シリンダ4は油圧管路9A,9Bが閉じられていることから動作せず、停止状態が維持される。更に、油圧ポンプ2の吐出流量は方向制御弁3で止められるため、ポンプ吐出油路7の圧力は上昇しようとするが、フィードバック制御の圧力偏差が負の値になるとリミッタ37で演算される値は下限値(負の微少な一定値)となるため、油圧ポンプ2は傾転量を0傾転より少し低め、すなわち、ポンプ吐出油路7内の圧油を吸い込み、タンク15に戻すよう動作する。この結果、ポンプ吐出油路7の圧力上昇(油圧ポンプ2の吐出圧力の上昇)は抑えられる。なお、油圧ショベルの作業中断時など、中立状態の時間が長くなる場合には、ポンプ吐出油路7の圧力が負圧となり、キャビテーションが生じる可能性を抑えるため、ポンプ吐出油路7とタンク15との間に図示しないメイクアップバルブを設けてもよい。
【0059】
次に、操作レバー装置5の入力が微小であるA操作では、オペレータの操作量がわずかにあり、目標ポンプ圧力設定部32よりポンプ目標圧力としてnpより大きい、小さめの値apが算出される。更に、圧力検出器21で検出した油圧ポンプ2の吐出圧力をフィードバックし(フィードバック減算部34)、ポンプ圧力が目標ポンプ圧力apとなるような目標傾転量を算出する(制御量演算部35)。また、ポンプ流量上限設定部33よりポンプ流量上限値としてnqより大きい、小さめの値aqが算出され、その値を回転検出器22で検出した原動機1の回転数で補正してポンプ傾転上限値を求める(回転数補正部36)。先の目標傾転量に対し、そのポンプ傾転上限値にてリミッタ37によってリミッタ処理が施され、油圧ポンプ2のレギュレータ2aに傾転指令が算出され、油圧ポンプ2の傾転量が制御される。一方、
図2に示す方向制御弁3は微小ではあるが変位しており、従って油圧ポンプ2の吐出流量は方向制御弁3のメータイン絞りを通り、更に油圧管路9Aを通って油圧シリンダ4のボトム側室4aに導かれる。また、油圧シリンダ4のロッド側室4bの排出油は油圧管路9Bを通り、更に方向制御弁3のメータアウト絞りを通ってタンク15に排出される。
【0060】
このとき、レバー入力に対するポンプ流量、ポンプ圧力とシリンダ速度は
図5のA操作に示すように変化する。すなわち、ポンプ流量は油圧シリンダ4のポンプ流量上限値aq(要求流量)に応じた流量に制御されつつ、ポンプ圧力は流量が飽和していない領域では目標ポンプ圧力設定部32のポンプ目標圧力apに制御されている。これにより操作レバー装置5の入力が微小であるA操作では、ポンプ流量がポンプ流量上限値aq(要求流量)に達しない状態では、ポンプ圧力はレバー操作量に応じた目標ポンプ圧力ap(一定値)となり、ポンプ流量がポンプ流量上限値aqの要求流量に達すると、ポンプ圧力はその要求流量を維持するのに必要な圧力へと低下し、シリンダ速度はポンプ流量上限値aqに対応した速度となる。これによりシリンダ速度がポンプ流量上限値aqに対応した速度となるまでは、油圧シリンダ4はレバー操作量に応じた力で駆動され、シリンダ速度がポンプ流量上限値aqに対応した速度になると、ポンプ流量はポンプ流量上限値aqに保たれ、無駄なポンプ流量を吐出させずに希望する性能を得ることができる。なお、制御量演算部35に含まれる積分演算において、積分された蓄積分により応答性に影響が出る可能性が有る場合には、リミッタ37にて飽和状態を別途検出して積分演算を一次停止し、その時の値を保持するなどの公知技術(アンチワインドアップ方法とも呼ばれる)を用いてもよい。
【0061】
更に、操作レバー装置5の入力がA操作より大きいB操作では、オペレータの操作量が大きめであり、目標ポンプ圧力設定部32よりポンプ目標圧力としてapより大きい値bpが算出される。更に、ポンプ圧力検出器21で検出した油圧ポンプ2の吐出圧力をフィードバックし(フィードバック減算部34)、ポンプ圧力が目標ポンプ圧力bpとなるような目標傾転量を算出する(制御量演算部35)。また、ポンプ流量上限設定部33よりポンプ流量上限値としてaqより大きい値bqが算出され、その値を回転検出器22で検出した原動機1の回転数で補正してポンプ傾転上限値を求める(回転数補正部36)。先の目標傾転量に対し、そのポンプ傾転上限値にてリミッタ37によってリミッタ処理が施され、油圧ポンプ2のレギュレータ2aに傾転指令が算出され、油圧ポンプ2の傾転量が制御される。一方、
図2に示す方向制御弁3は変位しており、従って油圧ポンプ2の吐出流量は方向制御弁3のメータイン絞りを通り、更に油圧管路9Aを通って油圧シリンダ4のボトム側室4aに導かれる。また、油圧シリンダ4のロッド側室4bの排出油は油圧管路9Bを通り、更に方向制御弁3のメータアウト絞りを通ってタンク15に排出される。
【0062】
このとき、レバー入力に対するポンプ流量、ポンプ圧力とシリンダ速度は
図5のB操作に示すように変化する。すなわち、ポンプ流量は油圧シリンダ4のポンプ流量上限値bq(要求流量)に応じた流量に制御されつつ、ポンプ圧力は流量が飽和していない領域では目標ポンプ圧力設定部32のポンプ目標圧力bpに制御されている。これにより操作レバー装置5の入力が大きめであるB操作では、ポンプ流量がポンプ流量上限値bq(要求流量)に達しない状態では、ポンプ圧力はレバー操作量に応じた目標ポンプ圧力bp(一定値)となり、ポンプ流量がポンプ流量上限値bqの要求流量に達すると、ポンプ圧力はその要求流量を維持するのに必要な圧力へと低下し、シリンダ速度はポンプ流量上限値bqに対応した速度となる。これによりシリンダ速度がポンプ流量上限値bqに対応した速度となるまでは、油圧シリンダ4はレバー操作量に応じた力で駆動され、シリンダ速度がポンプ流量上限値bqに対応した速度になると、ポンプ流量はポンプ流量上限値bqに保たれ、無駄なポンプ流量を吐出させずに希望する性能を得ることができる。なお、前述のA操作と同様、制御量演算部35に含まれる積分演算において、積分された蓄積分により応答性に影響が出る可能性が有る場合には、リミッタ37にて飽和状態を別途検出して積分演算を一次停止し、その時の値を保持するなどの公知技術(アンチワインドアップ方法とも呼ばれる)を用いてもよい。
【0063】
ここでは、A操作とB操作の2つの操作量について説明したが、全ての操作領域において同様にそれぞれ無駄なポンプ流量を吐出させずに希望する性能を得ることができる。
【0064】
このように本実施の形態によれば、ブリードオフ制御での油圧ポンプ2の吐出流量の排出を抑制し、油圧ポンプ2の吐出流量の絞り捨ての損失を低減して、エネルギー効率を向上させることができるとともに、油圧ポンプ2の吐出圧力を操作レバー装置5の操作量に応じて制御可能とし、操作性能をも向上させることができる。
【0065】
〜第2の実施の形態〜
図6は、本発明の第2の実施の形態における油圧制御装置のコントローラの制御ロジックを示す図である。図中、第1の実施の形態と同一のものは同一の符号を付し、説明を省略する。
【0066】
図6において、本実施の形態では、コントローラ6Aは、
図3に示すものに加えて、新たに、油圧ポンプ2の吸収動力量を制限するための動力制限値Pwr_refを設定するポンプ動力上限設定装置41と、ポンプ動力上限設定装置41で設定した動力制限値Pwr_refを圧力検出器21で検出した油圧ポンプ2の吐出圧力(現在圧力)で除した値に補正係数K2をかけることで、ポンプ流量上限値を算出する流量補正部42(流量上限値補正部)と、ポンプ流量上限設定部33で算出されたポンプ流量上限値と流量補正部42で算出されたポンプ流量上限値の小さい方を選択する小側選択部43(選択部)とを備え、小側選択部43で選択されたポンプ流量上限値が回転数補正部36に入力され、ポンプ傾転上限値が算出される。
【0067】
ポンプ動力上限設定装置41は操作装置41aを有し、オペレータが操作装置41aを操作することで、動力制限値Pwr_refを自由に変更可能である。
【0068】
このように操作量検出器20A,20Bからの操作量信号(レバー操作量)によるポンプ流量上限値とポンプ動力上限設定装置41からのポンプ流量上限値の小さい方が選択され、選択されたポンプ流量上限値に基づいて油圧ポンプの傾転量を制御することにより、第1の実施の形態に対して更に油圧ポンプ2の動力をも制約に加えた制御を行うことができる。
【0069】
これによりブリードオフ等のポンプ吐出流量の排出を抑制するので、エネルギ効率的には好適でありながら、そのポンプ吐出流量や圧力を制御でき、操作性能も向上できる上、さらには油圧ポンプ2の動力を制限することも可能となるので、更にシステムの操作性能が向上できる。
【0070】
図7は、第1及び第2の実施の形態における目標ポンプ圧力設定部及びポンプ流量上限設定部の変形例を示す図である。第1及び第2の実施の形態においては、目標ポンプ圧力設定部32及びポンプ流量上限設定部33に操作量信号に対する目標ポンプ圧力の関係(以下目標ポンプ圧力特性という)と操作量信号に対するポンプ流量上限値の関係(以下ポンプ流量上限値特性という)をそれぞれ1つずつ設定したが、
図7に示す変形例では、目標ポンプ圧力設定部32A及びポンプ流量上限設定部33Aのそれぞれに複数の目標ポンプ圧力特性Ap,Bp,Cp及びポンプ流量上限値特性Aq,Bq,Cqを設定し、オペレータが操作装置46,47を操作することでそれらの特性の所望の1つを選択できるように構成したものである。
【0071】
これによりオペレータの意志で自由に目標ポンプ圧力特性とポンプ流量上限値特性を調整することが可能になり、操作性能が更に向上する。
【0072】
図8は、第1及び第2の実施の形態における目標ポンプ圧力設定部及びポンプ流量上限設定部の他の変形例を示す図である。この変形例は、
図7に示す変形例において、目標ポンプ圧力設定部32A及びポンプ流量上限設定部33Aは、目標ポンプ圧力設定部32Aにおける操作量信号に対する目標ポンプ圧力を大きい設定値とした特性Apとポンプ流量上限設定部33Aにおける操作量信号に対するポンプ流量上限値を大きい設定値とした特性Aqとを組み合わせることで力と速度を比較的高めた設定としたハイパワーモードと、目標ポンプ圧力設定部32Aにおける操作量信号に対する目標ポンプ圧力を中間付近の設定値とした特性Bpとポンプ流量上限設定部33Aにおける操作量信号に対するポンプ流量上限値を中間付近の設定値とした特性Bqとを組み合わせたスタンダードモードと、目標ポンプ圧力設定部32Aにおける操作量信号に対する目標ポンプ圧力を小さい設定値とした特性Cpとポンプ流量上限設定部33Aにおける操作量信号に対するポンプ流量上限値を小さい設定値とした特性Cqとを組み合わせた微操作モードとを備え、オペレータが操作装置48を操作することで所望のモードを選択できるように構成したものである。
【0073】
これにより目標ポンプ圧力設定部32A及びポンプ流量上限設定部33Aに特性の組み合わせが多く存在する中で、煩雑な設定を代表的な組合わせ(モード)に置き換えて選択することができるようになり、組み合わせの選択操作が簡素化され、オペレータの労力低減が図れ、使い勝手が向上する。
【0074】
図9は、第1及び第2の実施の形態における目標ポンプ圧力設定部の更に他の変形例を示す図である。この変形例では、目標ポンプ圧力設定部32Bに目標ポンプ圧力の最高圧力として、メインリリーフバルブ8の開放圧力(クラッキング圧力)より低い圧力Ppmax1とメインリリーフバルブ8の開放圧力(クラッキング圧力)より高い圧力Ppmax2を設定しておき、オペレータが操作装置49を操作することでそのうちの一方を選択できるように構成したものである。
【0075】
第1及び第2の実施の形態における目標ポンプ圧力設定部32は、
図3Aを参照して説明したように、操作量検出器20A,20Bからの操作量信号(操作レバー装置5の操作量)が増加するにしたがって油圧ポンプ2の吐出圧力が上昇するように設定してあり、操作レバー装置5のフルレバー操作付近以上では最大の回路圧力が確保できるように構成し、逆に中立付近においては回路圧力を小さく抑えるように構成した。ここで、操作レバー装置5のフルレバー操作付近以上で設定される最大の回路圧力の設定値は、エネルギ効率向上の観点から、油圧ポンプ2の吐出圧力を制限するメインリリーフバルブ8の開放圧力(クラッキング圧力)よりも小さく設定されている。これにより回路圧力の制限は基本的に油圧ポンプ2の吐出流量の制御にて行われるようになるので、メインリリーフバルブ8の開放によるエネルギ損失が低減され、エネルギ効率が向上する。
【0076】
一方、冬場等の気温の低いときにエンジン1を始動して油圧回路の作動油、機器類を暖気したい場合においては、最大の回路圧力の設定値は油圧ポンプ2の吐出圧力を制限するメインリリーフバルブ8の開放圧力(クラッキング圧力)よりも高くすることが有効である。これは油圧シリンダ4のストロークエンドに押し当てて操作レバー装置5を入力することで、油圧ポンプ2の吐出流量がリリーフ圧に達し、油圧ポンプ2の吐出流量の一部がメインリリーフバルブ8にて放出されて、熱に変換され作動油が暖気されることになるからである。
【0077】
本変形例はこのような2つの課題を達成するものである。すなわち、通常使用時は、目標ポンプ圧力設定部32に目標ポンプ圧力の最高圧力として圧力Ppmax1を設定することで、油圧ポンプ2の最大吐出圧力をメインリリーフバルブ8のクラッキング圧力より低くすることができ、これによりメインリリーフバルブ8の開放によるエネルギ損失が低減され、エネルギ効率が向上する。また、低温時などでは、目標ポンプ圧力設定部32に目標ポンプ圧力の最高圧力として圧力Ppmax2を設定することで、油圧ポンプ2の最大吐出圧力をメインリリーフバルブ8のクラッキング圧力より高くすることができ、これにより油圧ポンプ2の吐出圧力がリリーフ圧に達し、油圧ポンプ2の吐出流量の一部がメインリリーフバルブ8にて放出されて、熱に変換され作動油が暖気することができる。
【0078】
〜第3の実施の形態〜
図10は、本発明の第3の実施の形態における油圧制御装置のポンプ制御装置の構成とコントローラの制御ロジックを示す図である。図中、第1の実施の形態と同一のものは同一の符号を付し、説明を省略する。
【0079】
第1の実施の形態では、油圧ポンプ2の目標傾転量を決定するまでの機能の全てをコントローラ6に持たせてソフトウエアで行い、コントローラ6で決定した目標傾転量とする機能をメカニカルなレギュレータ2aに持たせたが、本実施の形態では、目標ポンプ圧力設定部32とポンプ流量上限設定部33の機能をコントローラ6Bに持たせ、それ以外の処理機能(フィードバック減算部34、制御量演算部35、リミッタ37の機能)である圧力制御系の機能をメカニカルなレギュレータ2aAに持たせたものである。
【0080】
図10において、本実施の形態では、ポンプ制御装置はコントローラ6Bと、レギュレータ2aAと、電磁比例弁62,63とを備えている。
【0081】
コントローラ6Bは、操作量検出部31と、目標ポンプ圧力設定部32と、ポンプ流量上限設定部33と、反転部64とを備えている。操作量検出部31と目標ポンプ圧力設定部32とポンプ流量上限設定部33は第1の実施の形態のコントローラ6に備えられるものと同じである。反転部64は目標ポンプ圧力設定部32で算出された目標ポンプ圧力が増加するにしたがって小さくなる値を演算し、その演算値を電磁比例弁62の制御信号として出力する。また,ポンプ流量上限設定部33は算出したポンプ流量上限値を電磁比例弁63の制御信号として出力する。
【0082】
コントローラ6Bは、
図3のコントローラ6と同様に、回転数補正部36を更に備え、ポンプ流量上限設定部33で算出したポンプ流量上限値を回転検出器22によって検出した原動機1の回転数Nengで除した値に補正係数K1をかけることで、ポンプ流量上限値を原動機1の回転数で補正してもよい。また、コントローラ6Bは、
図6のコントローラ6Aと同様に、流量補正部42及び小側選択部43を更に備え、ポンプ流量上限設定部33で算出されたポンプ流量上限値とポンプ動力上限設定装置41で設定した動力制限値Pwr_refから算出したポンプ流量上限値の小さい方を選択し、ポンプ傾転上限値を算出してもよい。
【0083】
レギュレータ2aAは、サーボピストン装置71と、圧力制御スプール弁72と、流量制御スプール弁73とを有している。サーボピストン装置71は、ピストン71a、大径シリンダ室71b、小径シリンダ室71cとを備え、ピストン71aは油圧ポンプ2の斜板にリンク結合され、大径シリンダ室71bは圧力制御スプール弁72と流量制御スプール弁73を介してパイロット油圧源74とタンク15に接続され、小径シリンダ室71cはパイロット油圧源74に直接接続されている。圧力制御スプール弁72は、スプール72aと、バルブポートを形成するスリーブ72bと、油圧ポンプ2の吐出圧力(自己圧)が導かれる受圧室72cと、電磁比例弁62が出力する制御圧力が外部パイロット信号として導かれる受圧室72dとを備えている。流量制御スプール弁73は、スプール73aと、バルブポートを形成するスリーブ73bと、バネ73cと、電磁比例弁63が出力する制御圧力が外部パイロット信号として導かれる受圧室73dとを備えている。圧力制御スプール弁72のスリーブ72bと流量制御スプール弁73のスリーブ73bはサーボピストン装置71のピストン71aとリンク結合され、メカニカルな構成にてピストン71aの変位がフィードバックされるように構成されている。したがって、レギュレータ2aAは、メカニカルな構成でありながら、スプール72a,73aの変位に対して高い位置制御性能を有している。
【0084】
このように構成したコントローラ6Bとレギュレータ2aAとを組み合わせは、機能的には、回転数補正部36の原動機回転数補正の機能がない点を除いて、第1及び第2の実施の形態と同等であり、しかも第1及び第2の実施の形態のコントローラ6の圧力制御系の機能をメカニカルなレギュレータ2aAにて実現することができる。
【0085】
本実施の形態によれば、圧力制御などの高応答高精度な制御はメカニカルなレギュレータ2aAにて行うので,コントローラ6Bが高速な制御演算性能を有していなくても高応答の制御が可能となる。また、部品構成の組み合わせ自由度が向上し、システムの構成が容易となり好適である。