特許第5984182号(P5984182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984182
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】グラスライニング集熱構造体
(51)【国際特許分類】
   F24J 2/24 20060101AFI20160823BHJP
   F24J 2/48 20060101ALI20160823BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20160823BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   F24J2/24 D
   F24J2/48 A
   G02B5/22
   G02B5/26
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-206526(P2012-206526)
(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公開番号】特開2014-62653(P2014-62653A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000209773
【氏名又は名称】池袋琺瑯工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147500
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 雅啓
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179914
【弁理士】
【氏名又は名称】光永 和宏
(72)【発明者】
【氏名】飯沢 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 和弘
(72)【発明者】
【氏名】河島 崇
【審査官】 吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−158227(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/118176(WO,A1)
【文献】 特開2000−297334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24J 2/00 − 2/52
G02B 5/20 − 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体(1)を収容するアルミニウム製の金属管(7)と、前記金属管(7)の外周に設けられたグラスライニング層(10)と、前記グラスライニング層(10)の外周に設けられ可視光波長より小さいナノ気泡を80%以上含むセラミックス粒子の不可逆層(11)と、前記不可逆層(11)の外周に設けられた赤外線反射膜(9)と、前記赤外線反射膜(9)の外周に設けられた選択吸収膜(5)とからなり、外部からの太陽光により前記熱媒体(1)を加熱することを特徴とするグラスライニング集熱構造体。
【請求項2】
前記グラスライニング層(10)は、黒色よりなり、前記不可逆層(11)は可視光波長より小さい気泡、ナノ気泡径1〜300nmを有するセラミックス粒子を含み、前記赤外線反射膜(9)は、可視光透過率を低下させず、赤外線を選択的に反射できるフィルム膜よりなり、前記選択吸収膜(5)はIn、Sn0、In/Sn0及びZn0の何れかよりなることを特徴とする請求項1記載のグラスライニング集熱構造体。
【請求項3】
前記グラスライニング層(10)の厚さは、0.1〜2.4mmであることを特徴とする請求項1又は2記載のグラスライニング集熱構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラスライニング集熱構造体に関し、特に、熱媒体を収容する金属管の外周に設けたグラスライニング層内に可視光波長より小さいナノ気泡を有するセラミックス粒子を含有させ、その表面に太陽光の中で熱エネルギーの小さい赤外線に対して赤外線反射膜を設け、その上に太陽光の熱エネルギーを効率良く吸収し、且つ、吸収した熱の放出を抑制する光選択吸収膜を設けて、真空部分を不要として太陽光熱エネルギーを高効率に取り込むための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種の管状集熱構造体としては、例えば、図6で示す特許文献1等に開示されているソーラー温水器の集熱パイプの構造、及び、図7で示す特許文献2等に開示されている真空層を有する金属管とガラス管の二重管型集熱構造体の構造を挙げることができる。
すなわち、特許文献1には具体的な管断面構造は示されていないが、例えば、図6の集熱パイプが採用されており、図6において、符号1で示されるものは、熱媒体であり、この熱媒体1を収容する第1ガラス管2の外周には真空層3を介して第2ガラス管4が設けられ、この第2ガラス管4の外周面には放射特性の向上を行うための選択吸収膜5が形成されている。
従って、外部からの太陽光6のエネルギーは、前記選択吸収膜5、第2ガラス管4、真空層3、第1ガラス管2を介して熱媒体1に吸収され、この吸収された熱は、前記真空層3によって外部への放熱が抑制されるように構成されている。
【0003】
また、特許文献2の太陽熱発電装置における真空コレクターも、断面構造は開示されていないが、実際には、図7で示される構造が一般に採用されている。
すなわち、図7において、符号1で示されるものは熱媒体であり、この熱媒体1を収容するための金属管7の外周面には黒色膜8が形成され、この黒色膜8の外周には真空層3を介してガラス管4が設けられ、このガラス管4の外周面には前記選択吸収膜5が形成されている。
従って、外部の太陽光6からのエネルギーは、選択吸収膜5、ガラス管4、真空層3、黒色膜8及び金属管7を介して熱媒体1に吸収され、この吸収された熱は、前記真空層3によって外部への放熱が抑制されるように構成されている。
また、図示していないが、特許文献3のグラスライニング集熱構造体の構造を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−57823号公報
【特許文献2】特開2007−132330号公報
【特許文献3】特開2011−158227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の集熱構造体は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、特許文献1及び2が示す図6及び図7の従来構成においては、何れも、ガラス管とガラス管を真空層を介して断熱するか、又は、金属管とガラス管を真空層を介して断熱しており、何れにしても真空層を必要とするため、真空シールの管理(例えば、時々、真空ポンプによる真空引きを要す)が必要で、わずかなクラックが発生しても運転不能となっていた。
また、真空層を用いると、前述の耐久性に加えて、長尺パイプ(例えば、何百メートル、何キロメートル)の製作が難しく、かつ、現場において真空層を形成することは極めて困難であった。
また、特許文献3のグラスライニング集熱構造体の場合は、真空層は必要ないが、金属管がステンレス及び鋼材質であるため、本発明に用いられているアルミニウム管に比べると、熱伝導性がステンレスは約1/16、鋼は約1/5劣り、集熱管としては熱伝達が悪いと云う課題が存在していた。
また、参考迄に述べると、前述のステンレス、鋼(鉄)及びアルミニウムの熱の伝わりの速さである熱伝導率は、次の表1の通りである。
【0006】
【表1】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるグラスライニング集熱構造体は、熱媒体を収容するアルミニウム製の金属管と、前記金属管の外周に設けられたグラスライニング層と、前記グラスライニング層の外周に設けられ可視光波長より小さいナノ気泡を80%以上含むセラミックス粒子の不可逆層と、前記不可逆層の外周に設けられた赤外線反射膜と、前記赤外線反射膜の外周に設けられた選択吸収膜とからなり、外部からの太陽光により前記熱媒体を加熱する構成であり、また、前記グラスライニング層は、黒色よりなり、前記不可逆層は可視光波長より小さい気泡、ナノ気泡径1〜300nmを有するセラミックス粒子を含み、前記赤外線反射膜は、可視光透過率を低下させず、赤外線を選択的に反射できるフィルム膜よりなり、前記選択吸収膜はIn、Sn0、In/Sn0及びZn0の何れかよりなる構成であり、また、前記グラスライニング層の厚さは、0.1〜2.4mmである構成である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるグラスライニング集熱構造体は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、熱媒体を収容するアルミニウム製の金属管と、前記金属管の外周に設けられたグラスライニング層と、前記グラスライニング層の外周に設けられ可視光波長より小さいナノ気泡を80%以上含むセラミックス粒子の不可逆層と、前記不可逆層の外周に設けられた赤外線反射膜と、前記赤外線反射膜の外周に設けられた選択吸収膜とからなり、外部からの太陽光により前記熱媒体を加熱することで、従来の真空層の代りにナノ気泡を80%以上含むセラミックス粒子を有するグラスライニング管を採用しているため、多少の破損が発生しても集熱機能を維持できる。
また、前記グラスライニング層は、黒色よりなり、前記不可逆層は可視光波長より小さい気泡、ナノ気泡径1〜300nmを有するセラミックス粒子を含み、前記赤外線反射膜は、可視光透過率を低下させず、赤外線を選択的に反射できるフィルム膜よりなり、前記選択吸収膜はIn、Sn0、In/Sn0及びZn0の何れかよりなることにより、最も集熱効果の高い構成を得ることができる。
また、前記グラスライニング層の厚さは、0.1〜2.4mmであることにより、据付け現場における組立て等を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明によるグラスライニング集熱構造体を示す断面図である。
図2図1の集熱構造体の他のグラスライニング構成を示す構成図である。
図3】本発明と従来の集熱構造体の暴露テストを示すグラフである。
図4図1又は図2の各色のグラスライニング構成図である。
図5】本発明の暴露テストの構成図である。
図6】従来のソーラー温水器の集熱パイプの断面図である。
図7】従来の金属管とガラス管の二重管型集熱構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、熱媒体を収容する金属管の外周に設けたグラスライニング層内にナノ気泡を有するセラミックス粒子を含有させ、赤外線反射膜を用い、真空部分を不要として、太陽光エネルギーを高効率に取り込むようにすると共に、さらに、金属管をアルミニウム製としたグラスライニング集熱構造体を提供することを目的とする。
【実施例】
【0011】
以下、図面と共に本発明によるグラスライニング集熱構造体の好適な実施の形態について説明する。
尚、従来例と同一又は同等部分には、同一符号を用いて説明する。
図1において、符号1で示されるものは、周知のR134a等からなる熱媒体であり、この熱媒体1はアルミニウムからなる金属管7内に収容されていると共に、この金属管7の外周には、一例として、厚さ0.1mmから2.4mmの黒色の周知の構成で金属との高密着層で太陽光エネルギーを高吸収するためのグラスライニング層10が形成されている。
【0012】
前記グラスライニング層10は黒色で、その外周には、可視光波長より小さい気泡が80%以上で、ナノ気泡含有セラミックスを含み、熱は入るが出にくい不可逆層11が設けられ、前記不可逆層11の外周にはエネルギーが低い赤外線を反射させるための赤外線領域780〜2100nmの赤外線反射膜9が形成されている。
前記赤外線反射膜9の外周には、太陽光の熱エネルギーを効率よく吸収し、且つ、吸収した熱の放出を抑制する光選択吸収膜である選択吸収膜5が設けられている。
【0013】
従って、前述のグラスライニング集熱構造体によれば、何百メートル、何キロメートルと云う長尺のパイプを、太陽熱発電等を行うサバク等の現地で製作することができ、従来のような真空管理が不要で安価となり、グラスライニング層10の部分的な剥離が発生しても、支障なく運転の継続ができる。
また、図2に示す構成は図1の他の構成で、前記選択吸収膜5がIn,Sn0,In・Sn0,Ti0の何れかより構成されている。
【0014】
次に、本出願人は、本発明によるグラスライニング集熱構造体のグラスライニング層10の色を種々変更し、その有効性について実験を行った。
まず、グラスライニング集熱構造体のテストピース20を、図5に示されるように300×500×深さ50mmの琺瑯皿21の中に置き、図4のように、水平な状態で太陽光を吸収させた。
尚、グラスライニング層10の種類は、ブランク、青色、無着色、黒色及び茶色とした。
【0015】
(実施例)
また、本発明におけるグラスライニング集熱構造体のグラスライニング層11は、フリット粉末100質量%に対して、外割でカルボキシメチルセルロース水溶(濃度:1質量%)液20質量%、亜硝酸ナトリウム0.3g、並びにアルコールを15質量%添加して、スリップを調整し、集熱パイプ母材22mmΦ×180m1×2.5mm厚さ(材質:表3の第3表の通り)の外面に施釉して、860℃×20分間焼成することにより、厚さ0.4〜0.5mmのグラスライニング集熱構造体を得た。
そのパイプ内に市販のエンジンラジエータ用の不凍液を25ml入れ、棒状ガラス温度計をゴム栓を介して取付けして、集熱体試料を作成した。
この試料を埼玉県で太陽光吸収テストとして、朝から夕方まで暴露して、温度上昇と降下を測定して実施した。
【0016】
図3と表2及び表3のように2012年1月30日の晴れ条件下で、本発明品(No.4)と他の比較例とを対比した結果を示す。
グラスライニング試料は何れも鉄素地のみよりも顕著な温度上昇を示し本発明における施工効果は認められた。
【0017】
【表2】
【0018】
【表3】
【0019】
尚、前述の本発明によるグラスライニング集熱構造体の要旨は、次の通りである。
すなわち、熱媒体1を収容するアルミニウム製の金属管7と、前記金属管7の外周に設けられたグラスライニング層10と、前記グラスライニング層10の外周に設けられ可視光波長より小さいナノ気泡を80%以上含むセラミックス粒子の不可逆層11と、前記不可逆層11の外周に設けられた赤外線反射膜9と、前記赤外線反射膜9の外周に設けられた選択吸収膜5とからなり、外部からの太陽光により前記熱媒体1を加熱する構成であり、また、前記グラスライニング層10は、黒色よりなり、前記不可逆層11は可視光波長より小さい気泡、ナノ気泡径1〜300nmを有するセラミックス粒子を含み、前記赤外線反射膜9は、可視光透過率を低下させず、赤外線を選択的に反射できるフィルム膜よりなり、前記選択吸収膜5はIn、Sn0、In/Sn0及びZn0の何れかよりなる構成であり、また、前記グラスライニング層10の厚さは、0.1〜2.4mmとした構成である。
【0020】
従って、本発明によるグラスライニング集熱構造体と従来例を比較すると、金属管7がアルミニウム製であること、不可逆層11が80%以上可視光波長より小さい気泡を含有していること、及び、赤外線反射膜9を有していること、である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によるグラスライニング集熱構造体は、金属管がアルミニウムよりなり、不可逆層が80%以上可視光波長より小さい気泡を含有し、さらに赤外線反射膜を有していることにより、従来よりも大幅な集熱効率アップを得ることができる。
【符号の説明】
【0022】
1 熱媒体
5 選択吸収膜
6 太陽光
7 金属管(アルミニウム製)
9 赤外線反射膜(赤外線領域780〜2100nm)
10 グラスライニング層(密着層)
11 不可逆層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7