特許第5984208号(P5984208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5984208-燃焼物の減少量計測方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984208
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】燃焼物の減少量計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20160823BHJP
【FI】
   G01N29/04
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-152357(P2012-152357)
(22)【出願日】2012年7月6日
(65)【公開番号】特開2014-16187(P2014-16187A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】中山 秀夫
【審査官】 横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−115515(JP,A)
【文献】 特開平04−065668(JP,A)
【文献】 特開2010−243375(JP,A)
【文献】 米国特許第05272908(US,A)
【文献】 特開昭56−008505(JP,A)
【文献】 特開2011−067546(JP,A)
【文献】 特開2008−032466(JP,A)
【文献】 特開2011−141236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に充填された燃焼により充填厚さが減少する燃焼物の減少量を計測する燃焼物の減少量計測方法であって、
前記ケースの外面に超音波の送信側探触子及び受信側探触子をそれぞれ配置し、
前記燃焼物の燃焼面に向けて前記送信側探触子から超音波を送信して、前記燃焼面で反射する反射エコーと、前記ケースの外面に沿って伝搬する超音波エコーと、前記ケースの構成材料内で反射する構成材料内反射エコーとを前記受信側探触子で受信させて、この受信側探触子で受信した3つのエコーの各伝搬時間差を求めてBスコープ表示することで、前記燃焼面で反射する反射エコーの変化を顕在化させるに際して、
前記受信側探触子で受信した前記反射エコーの波形nに対して、該受信側探触子でi個前に受信した反射エコーの波形n−iを基準とするN=n−(n−i)の差分処理を実施するのに続いて、この差分処理で得られた差分波形(N)に対して増幅処理を施す
ことを特徴とする燃焼物の減少量計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、固体ロケットモータの固体推進薬の燃焼速度を計測するのに必要な固体推進薬の減少量を計測するのに用いられる燃焼物の減少量計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記した固体ロケットモータの燃焼性能は、実機モータ(実際の固体ロケットモータ)と同じ固体推進薬(燃焼物)を同じ要領で充填して成るサンプルモータの燃焼試験結果から得られる燃焼速度の値(固体推進薬厚さの減少量)に基づいて推測している。
【0003】
従来において、この固体推進薬厚さの減少量の計測には、TOFD法を用いた計測が試みられている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0004】
このTOFD法を用いた計測では、まず、燃焼物である固体推進薬が円筒状を成すようにして充填されたモータケースの外周面に超音波の送信側探触子及び受信側探触子をそれぞれ配置する。
次いで、固体推進薬の中心内孔を形成する内孔面に向けて送信側探触子から超音波を送信して、内孔面で反射する反射エコーを受信側探触子で受信する。
そして、この受信側探触子で受信した反射エコーの波形の音圧強度を色の明るさの違いで表示することで、内孔面で反射する反射エコーの微小な変化(燃焼速度の変化)を顕在化させるようにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】3rd European Conference for AeroSpace Sciences(EUCASS) 2009/7/6〜7/9 「Measurement of burning rate of full size rocket motors by ultrasonics」
【非特許文献2】4th European Conference for AeroSpace Sciences(EUCASS) 2011/7/4〜7/8 「Measurement of Burning Rate of Full Size Solid Rocket Motors by Ultrasonics(II)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記したようなTOFD法を用いた固体推進薬厚さの減少量の計測において、燃焼面である内孔面で反射する反射エコーの波形の音圧強度が比較的高い場合には、反射エコーの波形の変化が顕在化することで、この波形の変化(減少量の変化)を識別することができるものの、反射エコーの波形の音圧強度が低い場合には、反射エコーの波形の変化を顕在化し得ないので、波形の変化(減少量の変化)を識別することができない。
【0007】
上記したように、固体ロケットモータの燃焼性能は、サンプルモータの燃焼試験結果で得られる燃焼速度の値(固体推進薬厚さの減少量)に基づいて推測しているので、固体ロケットモータのより緻密な燃焼性能を認識するうえで、反射エコーの波形の音圧強度が低い場合に、如何にして減少量の変化を把握するかが従来の課題となっている。
【0008】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、例えば、モータケース内に円筒状に充填された固体推進薬の内孔面で反射する反射エコーの波形の音圧強度が低い場合であったとしても、反射エコーの波形の変化を確実に顕在化することができ、その結果、波形の変化(固体推進薬の減少量の変化)を識別することが可能である燃焼物の減少量計測方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明は、ケース内、例えば超音波が多重反射する材料から成るケース内に充填された燃焼により充填厚さが減少する燃焼物の減少量を計測する燃焼物の減少量計測方法であって、前記ケースの外面に超音波の送信側探触子及び受信側探触子をそれぞれ配置し、前記燃焼物の燃焼面に向けて前記送信側探触子から超音波を送信して、前記燃焼面で反射する反射エコーと、前記ケースの外面に沿って伝搬する超音波エコーと、前記ケースの構成材料内で多重反射する構成材料内反射エコーとを前記受信側探触子で受信させて、この受信側探触子で受信した3つのエコーの各伝搬時間差を求めてBスコープ表示することで、前記燃焼面で反射する反射エコーの変化を顕在化させるに際して、前記受信側探触子で受信した前記反射エコーの波形nに対して、該受信側探触子でi個前に受信した反射エコーの波形n−iを基準とするN=n−(n−i)の差分処理を実施するのに続いて、この差分処理で得られた差分波形(N)に対して増幅処理を施す構成としたことを特徴としており、この燃焼物の減少量計測方法の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0010】
本発明に係る燃焼物の減少量計測方法は、固体ロケットモータの固体推進薬の燃焼速度を計測する際に用いるのが好適であるが、これに限定されるものではなく、超音波が多重反射しない材料はもとより多重反射する材料、例えば、アルミやSUSや鋼やCFRPから成るケース内に燃焼物を充填して成る多層構造体における燃焼物の減少量の計測に対して適用可能であり、ケース内における燃焼物の充填形状も円筒状に限定されない。
【0011】
また、本発明に係る燃焼物の減少量計測方法は、実機モータと同じ固体推進薬を同じ要領で充填して成るサンプルモータにおける固体推進薬の減少量の計測に用いることができるほか、実機モータにおける固体推進薬の減少量の計測にも用いることができる。
【0012】
本発明に係る燃焼物の減少量計測方法において、例えば、サンプルモータにおける固体推進薬の減少量の計測に用いた場合、モータケースの外周面に配置した送信側探触子から固体推進薬の中心内孔を形成する内孔面に向けて超音波を送信すると、モータケースの構成材料及び固体推進薬の双方の音響インピーダンスの差が大きいので、超音波の大半(95%以上)はモータケースの構成材料内で多重反射するが、超音波の一部(3%前後)は内孔面で反射する。
【0013】
このモータケースでは、上記多重反射による多重反射エコーとモータケースの外周面上を伝搬する超音波エコーとが現れるが、固体推進薬内の音速は、約1800m/secであり、一方、モータケースの構成材料(例えば鋼)内での音速は、約5700m/secであるため、モータケースの構成材料内での超音波伝搬速度に比べて、固体推進薬内の伝搬速度は約1/3(=1800/5700)となることから、内孔面で反射する反射エコーと、モータケースの構成材料内で多重反射する多重反射エコーとは、時間軸上でほぼ識別可能である。
また、モータケースの外周面近傍を伝搬する超音波エコーは、モータケース外周面上を周回するため、外周長を音速(約5700m/sec)で除することで時間を特定することができ、したがってこれもほぼ識別可能である。
【0014】
そこで、モータケースの外周面に送信側探触子とともに配置した受信側探触子で、内孔面で反射する反射エコーと、モータケースの外周面上を伝搬する超音波エコーと、モータケースの構成材料内で多重反射する多重反射エコーとを受信させて、この受信側探触子で受信した3つのエコーの各伝搬時間差を求めてBスコープ表示すれば、内孔面で反射する反射エコーの変化時刻をほぼ特定できることとなる。
【0015】
この際、受信側探触子で受信した反射エコー(n)に対して、i個前に該受信側探触子で受信した反射エコー(n−1)を基準とするN=n−(n−i)の差分処理を実施し、これに続いて、この差分処理で得られた差分データNに対して任意の整数倍の増幅処理を施すと、例え反射エコーの波形の音圧強度が低い場合であったとしても、反射エコーの波形の微小な変化までもが確実に顕在化され、したがって、波形の変化(減少量の変化)を識別し得ることとなる。
【0016】
また、i=1であって(N=n−(n−1))では差分データNが微少の場合は、i=10等を入力して差分データNの変化量自体を大きくすることで、微少な変化をさらに顕在化させることができ、その結果、波形の変化(減少量の変化)をほぼ識別し得ることとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る燃焼物の減少量計測方法では、上記した構成としているので、例えば、固体推進薬の内孔面で反射する反射エコーの波形の音圧強度が低く、従来のTOFD法では顕在化できない場合であったとしても、反射エコーの波形の変化を確実に顕在化して、波形の微小な変化(固体推進薬の減少量の変化)をも確実に識別することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る燃焼物の減少量計測方法による減少量計測状況を示す構成説明図(a),図1(a)のA−A線位置に基づく断面説明図(b),図1(b)の送信側探触子配置部分の拡大断面説明図(c)及び反射エコーと多重反射エコーと表面近傍を伝搬する超音波エコーの時間軸上における伝搬状態を示す波形図(d)である。
図2】一実施形態に係る燃焼物の減少量計測方法の受信側探触子で受信した反射エコーに対して実施する差分処理を説明するための一つ前に受信側探触子で受信した基準となる反射エコーの波形図(a),この基準となる反射エコーの後に受信した反射エコーの波形図(b),図2(b)円内の微小な波形変化に差分処理を施して得られる波形図(c)及び図2(c)円内の両反射エコーの差分に増幅処理を施して得られる波形図(d)である。
図3】一実施形態に係る燃焼物の減少量計測方法により得られたロケットモータ燃焼中の反射エコーの波形図(a)及び従来の燃焼物の減少量計測方法により得られたロケットモータ燃焼中の反射エコーの波形図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る燃焼物の減少量計測方法を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は、本発明の一実施形態に係る燃焼物の減少量計測方法を説明する図であり、この実施形態では、本発明に係る燃焼物の減少量計測方法を実機ロケットモータと同じ固体推進薬(燃焼物)を同じ要領で充填して成るサンプルロケットモータにおける固体推進薬の減少量の計測に用いた場合を例に挙げて説明する。
【0020】
図1(a),(b)に示すように、この燃焼物の減少量計測方法では、まず、燃焼物である固体推進薬11が円筒状を成すようにして充填されたモータケース10の外周面に超音波の送信側探触子1及び受信側探触子2をそれぞれ配置する。
【0021】
次いで、モータケース10の外周面に配置した送信側探触子1から固体推進薬11の中心内孔11aを形成する内孔面(燃焼面)11bに向けて超音波を送信すると、モータケース10の構成材料及び固体推進薬11の双方の音響インピーダンスの差が大きいので、超音波の大半(95%以上)はモータケースの構成材料内で多重反射し、超音波の一部(3%前後)は内孔面11bで反射する。
【0022】
つまり、図1(c)にも示すように、モータケース10では、上記多重反射による多重反射エコーP2とモータケース10の外周面近傍を伝搬する超音波エコーP3とが現れるが、固体推進薬11内での超音波伝搬速度は、モータケース10の構成材料(例えばCFRP)内での伝搬速度の約1/3となることから、図1(d)に示すように、内孔面11bで反射する反射エコーP1と、モータケース10の構成材料内で多重反射する多重反射エコーP2と、モータケース10の外周面上を伝搬する超音波エコーP3とは、時間軸上でそれぞれ時刻t1,t2,t3として識別することができる。なお、図1(c)における符号12はインシュレーションである。
【0023】
そこで、モータケース10の外周面に送信側探触子1とともに配置した受信側探触子2で、内孔面11bで反射する反射エコーP1と、モータケース10の構成材料内で多重反射する多重反射エコーP2と、モータケース10の外周面上を伝搬する超音波エコーP3とを受信させて、この受信側探触子2で受信した3つのエコーP1,P2,P3の各伝搬時間差を求めてBスコープ表示すれば、内孔面11bで反射する反射エコーP1の変化を顕在化し得ることとなる。
【0024】
具体的には、受信側探触子2で受信した反射エコーP1の波形の音圧強度を色の明るさの違いで表示することで、内孔面11bで反射する反射エコーP1の微小な変化(固体推進薬11の厚さ減少量の変化)を顕在化し得ることとなる。
【0025】
この際、受信側探触子2で受信した図2(b)で示す反射エコーP1の波形(n)に対して、図2(a)で示すi個前に受信側探触子2で受信した反射エコーP1の波形(n−i)を基準とするN=n−(n−i)の差分処理を実施すると、図2(c)で示す差分の波形(N)が得られ、これに続いて、この差分処理で得られた差分波形(N)に対して任意の整数倍の増幅処理を施すと、例え反射エコーP1の波形の音圧強度が低い場合であったとしても、図2(d)で示す差分の拡大波形(Nw)が得られるので、反射エコーP1の波形の微小な変化までもが確実に顕在化され、したがって、波形の変化(固体推進薬11の厚さ減少量の変化)を識別し得ることとなる。
【0026】
また、i=1であって(N=n−(n−1))では差分データNが微少の場合は、i=10等を入力して差分データNの変化量自体を大きくすることで、微少な変化をさらに顕在化させることができ、その結果、波形の変化(固体推進薬11の厚さ減少量の変化)を識別し得ることとなる。
【0027】
図3(a)は、この実施形態に係る燃焼物の減少量計測方法により得られたロケットモータ燃焼中の反射エコーの波形図を示し、図3(b)は、従来の燃焼物の減少量計測方法により得られたロケットモータ燃焼中の反射エコーの波形図を示しており、従来の燃焼物の減少量計測方法と比べて、この実施形態に係る燃焼物の減少量計測方法では、燃焼速度の変化、すなわち、固体推進薬11の厚さが刻々と減少する様子が明瞭に捉えられていることが判る。
【0028】
したがって、この実施形態に係る燃焼物の減少量計測方法では、固体推進薬11の内孔面11bで反射する反射エコーP1の波形の音圧強度が低い場合であったとしても、反射エコーP1の波形の変化を確実に顕在化して、波形の微小な変化(固体推進薬11の厚さ減少量の変化)をも確実に識別することが実証できた。
【0029】
なお、上記した実施形態では、本発明に係る燃焼物の減少量計測方法を実機ロケットモータと同じ固体推進薬を同じ要領で充填して成るサンプルロケットモータにおける固体推進薬の減少量の計測に用いた場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、本発明に係る燃焼物の減少量計測方法を実機ロケットモータにおける固体推進薬の減少量の計測に用いることも当然可能である。
【0030】
また、本発明に係る燃焼物の減少量計測方法は、上記した固体推進薬の減少量の計測に用いることに限定されるものではなく、例えば、ロケットモータにおけるノズル断熱材の減少量の計測に用いることができるほか、超音波が多重反射しない材料はもとより多重反射する材料、例えば、アルミやSUSや鋼やCFRPから成るケース内に燃焼物を充填して成る多層構造体における燃焼物の減少量の計測に対して適用可能であり、ケース内における燃焼物の充填形状も円筒状に限定されない。
【符号の説明】
【0031】
1 送信側探触子
2 受信側探触子
10 モータケース(ケース)
11 固体推進薬(燃焼物)
11a 中心内孔
11b 内孔面(燃焼面)
P1 反射エコー
P2 多重反射エコー
P3 超音波エコー
図1
図2
図3