特許第5984226号(P5984226)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984226
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】可動式海上バリア
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/00 20060101AFI20160823BHJP
   B63B 35/44 20060101ALI20160823BHJP
   B63J 1/00 20060101ALI20160823BHJP
   B63H 7/02 20060101ALI20160823BHJP
   B63H 25/42 20060101ALI20160823BHJP
   B63B 21/16 20060101ALI20160823BHJP
   B63B 21/00 20060101ALI20160823BHJP
   E02B 3/06 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B63B35/00 T
   B63B35/44 Z
   B63J1/00
   B63H7/02
   B63H25/42 Z
   B63B21/16
   B63B21/00 Z
   E02B3/06 302
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-517944(P2014-517944)
(86)(22)【出願日】2012年7月2日
(65)【公表番号】特表2014-529018(P2014-529018A)
(43)【公表日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】GB2012051541
(87)【国際公開番号】WO2013005018
(87)【国際公開日】20130110
【審査請求日】2015年7月1日
(31)【優先権主張番号】1111334.7
(32)【優先日】2011年7月4日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514002628
【氏名又は名称】インテリジェント オーガニクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INTELLIGENT ORGANICS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン,ロバート ウィリアム リンゼイ
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公開第2463461(GB,A)
【文献】 特表平5−506701(JP,A)
【文献】 特開2003−213652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04−3/14
E02B 7/20
B63B 21/00
B63B 21/16
B63H 7/02
B63H 25/42
B63B 35/00
B63B 35/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動式海上バリア(1)において、当該バリア(1)が、基部(2)と、前記基部(2)の遠位端に配置されたフード(6)とを具えており、
前記フード(6)は、開口端を有する伸縮式じょうご部(15)と、前記じょうご部(15)内に配置された遠位面(16)とを具え
前記伸縮式じょうご部(15)は、前記基部(2)の遠位端から伸張するとともに当該遠位端に向けて収縮して、当該伸縮式じょうご部(15)の開口端の面積を変更する手段を与えることを特徴とする可動式海上バリア。
【請求項2】
請求項に記載の可動式海上バリア(1)において、当該可動式海上バリア(1)が、水塊内での移動に適合していることを特徴とする可動式海上バリア。
【請求項3】
請求項1または2に記載の可動式海上バリア(1)において、当該可動式海上バリア(1)が、水塊内で当該バリア(1)を推進させて方向付ける手段を提供する1以上の推進プロペラシステム(39)および/または1以上の指向性推進システム(40)を具えていることを特徴とする可動式海上バリア。
【請求項4】
請求項に記載の可動式海上バリア(1)において、前記1以上の推進プロペラシステムおよび/または1以上の指向性プロペラシステム(44a、44b)が、前記基部(2)の対向する表面に配置された一対の推進および/または指向性プロペラ(42a、42b、44a、44b)を具えていることを特徴とする可動式海上バリア。
【請求項5】
請求項に記載の可動式海上バリア(1)において、前記基部(2)内の導管(43、45)が、一対の推進プロペラ(42a、42b)および/または指向性プロペラ(44a、44b)の間を流体連通するための手段を提供することを特徴とする可動式海上バリア。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の可動式海上バリア(1)において、当該可動式海上バリア(1)が更に、前記基部(2)に配置された動作ハウジング(3)を具えていることを特徴とする可動式海上バリア。
【請求項7】
請求項に記載の可動式海上バリア(1)において、前記動作ハウジング(3)が1以上のデッキ(7、8、9、10)を具えていることを特徴とする可動式海上バリア。
【請求項8】
請求項に記載の可動式海上バリア(1)において、前記動作ハウジング(3)が、前記1以上のデッキが、空間デッキ(7)、制御デッキ(8)、作業デッキ(9)、および宿泊デッキ(10)からなる群から選択された1以上のデッキ(7、8、9、10)を具えていることを特徴とする可動式海上バリア。
【請求項9】
請求項6乃至8の何れか一項に記載の可動式海上バリア(1)において、前記動作ハウジング(3)が、前記海上バリア(1)用の通信手段を提供するアンテナ(11)を具えていることを特徴とする可動式海上バリア。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか一項に記載の可動式海上バリア(1)において、当該可動式海上バリア(1)が更に、前記基部(2)の底面に配置された1以上のアンカーポッド(41)を具えていることを特徴とする可動式海上バリア。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一項に記載の可動式海上バリア(1)において、当該可動式海上バリア(1)が更に、脱塩装置(32、33)を具えていることを特徴とする可動式海上バリア。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか一項に記載の可動式海上バリア(1)において、当該可動式海上バリア(1)が更に、前記基部(2)と流体連通するように配置された少なくとも1の汚染物質用ズック(4)を具えていることを特徴とする可動式海上バリア。
【請求項13】
自然発生現象から海岸線地域を保護する方法において、当該方法が:
保護される海岸線地域の付近に、請求項1乃至12の何れか一項に記載の1以上の可動式海上バリア(1)を配置するステップと;
前記可動式海上バリア(1)のフード(8)を選択的に展開するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の海岸線地域を保護する方法において、前記フード(6)を選択的に展開するステップが、伸縮式じょうご部(15)の全長を設定するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の海岸線地域を保護する方法において、当該方法が更に、前記可動式海上バリア(1)の位置を固定するように1以上のアンカー(41)を展開するステップを含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海岸保護の分野に関するものである。より具体的には、本発明は、熱帯暴風雨または高潮といった自然発生現象から海岸を保護するために選択的に展開することができる可動式海上バリアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
世界中の如何なる海岸線沿いにも、浸水しやすいという欠点が存在する。これらの欠点はしばしば、熱帯暴風雨あるいは津波などの自然発生現象による風津波または高潮の発生後に認識される。
【0003】
どのように風津波が発生し、その被害が何であるかの現在の知識についての考察を、http://www.magazine.noaa.gov/stories/mag178.htmに見ることができる。このウェブサイトは、活発な暴風雨から次の大波を予報して正確にモデリングする手段を提供する、SLOSHとして知られているNOAAの風津波モデルについても考察している。この記事はさらに、移動中の高潮に関する最新のオプション、及び1つの風津波またはその脅威が引き起こしうる関連する(経済上、生態上、環境上、および物流上の)混乱や欠点についての説明を提供している。
【0004】
上述した欠点はしばしば、海に向かって離れたところにある岩の多い層の地理的分布の変動によって生じる。海岸/世界規模の海底の完全なマッピングは、ナショナルジオグラフィックデータセンターのウェブサイトで見ることができる(www.ngdc.noaa.gov/mgg/coastal/coastal.html参照)。全ての大陸棚に沿って、地質分布がどのように展開しているかの違いがある。
【0005】
本発明の実施形態の目的は、頻繁な自然現象の影響を受けやすい海岸線の脆弱な地域を保護するための可動式海上バリアを提供することである。
【0006】
本発明の実施形態の更なる目的は、展開された地域周辺の淡水の供給源として機能する可動式海上バリアを提供することである。この淡水供給源は、家庭用、商業用、あるいは工業的用途に利用することができる。
【0007】
本発明の実施形態の他の更なる目的は、海岸地域に流出等するのを防ぐために、液体の汚染物質を収容する手段をもたらす可動式海上バリアを提供することである。
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の態様によると、可動式海上バリアが提供されており、当該バリアは基部とその遠位端に配置されたフードとを具え、このフードは、伸縮式じょうご部とじょうご部内に配置された遠位面とを具える。
【0009】
上記機構は、遠位面に向かって流体が流れるようにじょうご部が内部に配置された可動式海上バリアを提供している。したがって、じょうご部と遠位面を組み合わせる効果は、接近中の自然の多量の水移動を逸らす手段をバリアに与え、物理的な波をその外側へと戻すように逸らすことである。このようにして、接近中の波は海へと戻り、海上バリアから離れるように、且つバリアが展開された場所に隣接する海岸線から離れるように再度方向付けられる。
【0010】
遠位面の方へと誘導される水の量を変化させるために、伸縮式じょうご部を利用して、フードの全長、ひいてはその開放端の面積(すなわち、高さ及び幅)を適切と認められるように変更することができる。
【0011】
このフードは、フード内に位置する可変容量チャンバの一部を形成する可動面を具えうる。したがって、可動面の移動がチャンバの体積を変化させるように機能する。
【0012】
任意に、この可動面は、例えば、炭素線維強化型の炭素または炭素繊維型の炭化ケイ素といった柔軟な材料を含む。柔軟な材料から可動面を作成することにより、チャンバの流体容量に応じて、この表面の形状を変形させることができる。
【0013】
このフードは更に、流体をチャンバに入れる、あるいはチャンバから出す手段を提供するように配置された1以上のえら部(gill)を具えうる。
【0014】
好適には、流体は、可動面の可変位置に応じてチャンバに入る、あるいはチャンバから出る。
【0015】
このフードは、基部の底面に固定された部分を具えることが好ましい。
【0016】
任意に、このフードは更に、海上バリアが使用する風力エネルギを利用するための手段を提供する1以上のウインドタワーを具える。
【0017】
このウインドタワーは導管を具え、当該導管内には1以上の風力タービンが配置されうる。したがって、これらの導管は、周辺の構成要素による潜在的な破損を回避するために風用タービン用に一定の物理的保護をもたらす。
【0018】
可動式海上バリアは、水塊内での移動に適合することが好ましい。この海上バリアは、水塊内のバリアを推進させる手段を提供する1以上の推進プロペラシステムを具えうる。好適には、この推進プロペラシステムは、基部の対向する表面に配置された一対の推進プロペラを具える。基部内の導管は、一対の推進プロペラの間に流体連通を提供しうる。
【0019】
海上バリアは、水塊内のバリアを方向付ける手段を提供する1以上の指向性プロペラシステムを具えうる。好適には、指向性プロペラシステムは、基部の対向する表面に配置された一対の指向性プロペラを具える。基部内の導管は、一対の指向性プロペラの間に流体連通を提供しうる。
【0020】
任意に、可動式海上バリアは1以上の太陽光パネルを具える。この太陽光パネルは、バリアが使用する電力を生成する手段を提供する。
【0021】
最適には、可動式海上バリアはさらに、基部に配置された動作ハウジングを具える。この動作ハウジングは、その中に収容される構成要素に対して、横風、津波または風津波の影響による最大限の保護をもたらすよう空気力学的に形成されることが好ましい。
【0022】
この動作ハウジングは1以上のデッキを具えうる。1以上のデッキは、空間デッキ、制御デッキ、作業デッキ、および宿泊デッキからなる群から選択されたデッキを具えうる。
【0023】
好適には、動作ハウジングは、海上バリア用の通信手段を提供するアンテナを具える。
【0024】
この海上バリアはさらに、基部の底面に配置された1以上のアンカーポッドを具えうる。好適には、1以上のアンカーポッドはアンカーを具え、その位置はプーリーシステムによって制御される。
【0025】
基部にアクセスシャフトが設けられることが好ましい。このアクセスシャフトは、メンテナンスおよび/または内側への移動を容易にするために、乗務員に海上バリアの内側容積へのアクセス手段を提供する。アクセスシャフトへの入口は、基部の底面に配置されることが好ましい。したがって、アクセスシャフトは、海上バリアへの海中アクセスを提供する。
【0026】
任意に、海上バリアはさらに、水塊を淡水供給に転換する手段を提供する脱塩装置を具える。
【0027】
任意に、可動式海上バリアはさらに、基部と流体連通するように配置された少なくとも1の汚染物質用ズックを具える。好適には、少なくとも1の汚染物質用ズックは半球体を具える。このようなデザインにより、バリアが操作された時にズックが呈する抵抗レベルを減少させるように、このズックは水面下のみに沈むことが可能となる。
【0028】
好適には、水塊から液体汚染物質を濾過する手段を提供するため、基部と少なくとも1の汚染物質用ズックの間にフィルタが配置される。好適には、液体汚染物質は少なくとも1の汚染ポッド内へと誘導される。
【0029】
海上バリアについて、1以上の水保持タンクを更に具えることが好ましい。水保持タンクは、海上バリアの安定性を高めることができる流体の保持手段を提供する。水保持タンク内の流体を利用して、フードの内部チャンバを満たすこともできる。
【0030】
本発明の第2の態様によると、自然発生現象から海岸線地域を保護する方法が提供されており、当該方法は:
−保護すべき海岸線地域の付近に、本発明の第1の態様による1以上の可動式海上バリアを配置するステップと、
−可動式海上バリアのフードを選択的に展開するステップと、を具える。
【0031】
好適には、フードの選択的な展開は、伸縮式じょうご部の全長を設定するステップを含む。
【0032】
好適には、フードの選択的な展開は、フードのじょうご部内の遠位面に対して移動可能な面の位置を設定するステップを含む。
【0033】
フードの選択的な展開はさらに、フードのチャンバで流体レベルを制御するステップを含みうる。
【0034】
可動式海上バリアの位置は、接近中の脅威に関するメッセージを受信すると作動しうる。
【0035】
海岸線地域を保護する方法はさらに、可動式海上バリアの位置を固定するように1以上のアンカーを展開することを含みうる。
【0036】
本発明の第2の態様の実施形態は、本発明の第2の態様の好適または任意の特徴を実行するための特徴を具えうる、またはその逆であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明の態様および利点は、以下の詳細な説明を読み、以下の図面を参照すると明らかとなるであろう。
図1図1は、本発明の実施形態による可動式海上バリアの側面図を表している。
図2図2は、図1の可動式海上バリアの断面側面図を表している。
図3図3は、図1の可動式海上バリアの上面図を表している。
図4図4は、図1の可動式海上バリアの底面図を表している。
図5図5は、図1の可動式海上バリアのフードの断面上面図を表している。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施形態による可動式海上バリア1を図1乃至5と関連して記載する。特に、図1乃至4は、可動式海上バリア1の側面図、断面側面図、上面図および底面図をそれぞれ表しており、図5は可動式海上バリア1のフード部分の断面上面図を表している。
【0039】
基部2を具え、その上に動作ハウジング3が配置された可動式海上バリア1を見ることができる。基部2の近位端には、柔軟なパイプ5を介して基部2に接続された汚染物質用ズック4が配置されており、基部2の遠位端にはフード6が配置されている。全てのこれらの特徴の更に詳細は、以下に与えられている。
【0040】
動作ハウジング3が可動式海上バリア1の主要構造である。これは空気力学的性能を高めるために滑らかな外面を有しており、空間デッキ7、制御デッキ8、作業デッキ9、および宿泊デッキ10を収容している。制御デッキ8は、運用乗務員が海上バリア1を動作させる補助をする全てのコンピュータや関連設備が収容されている場所である。作業デッキ9が次にあり、運用乗務員が海上バリア1で作業するために利用される。乗務員の視界を補助するために、窓を取り付けてもよい。好適には、作業デッキ9は、乗務員に必要な宿泊設備を船内に収容する上側のデッキ10へのアクセスを提供する。
【0041】
動作ハウジング3の上部には通信アンテナ11が配置されている。これは、その地域に、すなわち差し迫った津波また接近中の高潮から必要なアクションや保護に関し、運用乗務員が可動式海上バリア1を遅れずに作動させることができるように、早期警告システムからの全てのメッセージを受信する。
【0042】
動作ハウジング3の外面には、制御デッキ8、作業デッキ9、および宿泊デッキ10を基部2の上面13に接続する梯子12がある。この梯子12は、運用乗務員のためのアクセス地点を提供しており、関連する早期警告システムに登録されていない予想外の津波等の自然現象における危急の場合の緊急出口を提供する。
【0043】
海上バリア1の外面上に太陽光パネルを配置してもよい。例として、基部2の上面13上に配置された太陽光パネル14が図示されている。以下に更に詳しく記載するように、これらの太陽光パネル14を利用して、海上バリア1の様々な機構に必要なパワーやエネルギを供給することができる。
【0044】
フードは、遠位面16、すなわち使用時に接近中の熱帯暴風雨または高潮の方に向けられるよう配置される海上バリア1の面から延在する、じょうご部15を具えることが見て取れる。このじょうご部15は、接近中の自然の多量の水移動を遠位面16に向かって誘導する、あるいは向ける手段を提供する。したがって、じょうご部15と遠位面16を組み合わせる効果は、接近中の自然の多量の水移動を逸らす手段をフード6に与え、物理的な波をその外側へと戻すように逸らすことである。このようにして、接近中の波は海へと戻り、海上バリア1から離れるように、且つ最終的には保護がなければ破壊されたかもしれない海岸線から離れるように再度方向付けられる。
【0045】
じょうご部15は、伸長または収縮する手段を提供するような伸縮式であることが好ましい。伸縮式じょうご部15を利用することにより、遠位面16の方へと誘導される水の量を変化させるために、適切と認められるフード6の全長、ひいては開放端の面積(すなわち、高さ及び幅)を変更することができる。
【0046】
図4に見ることができるように、フード6の下側部分は基部2の周りに巻きつくよう設計されている。したがって、フード6は海上バリア1の前方側あるいは基部2の脚部側のいずれにも延在し、これにより、海上バリア1の残りの構成要素への損傷に対して物理的な保護をも提供する。
【0047】
フード6の内側の構成要素の更に詳細は、図2および5の断面図から見ることができる。フード6は、内部滑走索18に取り付けられた可動面17を具えることが見て取れる。滑走索18上の可動面17の位置は、プーリーシステム20を作動させるホイール19の動作によって制御される。特に、ホイール19は、第1の歯車22の周囲に巻き付けられた制御ワイヤ21を押す、あるいは引っ張るように作用する。第1の歯車22が回転すると、その外面の歯が第2および第3の歯車23および24の外面の歯と相互に作用する。第2および第3の歯車23および24は同一直径であることが好ましい。第2および第3の歯車23および24の周囲に巻き付けられた取付ワイヤ25は、プーリーシステム20を可動面17に接続している。
【0048】
当業者が認識するように、可動面17と遠位面16の内側面の間にチャンバ26が形成される。可動面17の移動は、チャンバ26の体積を変化させるように機能する。フード6の側面の上側および底側にはえら部27が配置されており、海上バリア1の動作時に、水や空気をチャンバ26に出し入れする手段を提供している。これは、可動面17が滑走索18に沿って押し引きされたときに、可動面17の移動がチャンバ26内に一定の圧縮を作り出すように作用し、これにより、チャンバ26からの空気や水を圧迫する、あるいはチャンバ26内へと空気や水を引き込むことによって実現する。チャンバ26内に入る、あるいは出ていく流体に応じて表面の形状を変形させることができるように、可動面17は柔軟な材料から作られることが好ましい。可動面17に適した材料は、炭素繊維強化炭素または炭素繊維強化炭化ケイ素を含む。このようにして、熱帯暴風雨または高潮といった接近中の自然発生現象に対して適切と認められるように、海上バリア1の強度を変化させることができる。
【0049】
フード6は、海上バリア1で使用する自然の風力エネルギを利用するような、ウインドタワーとして機能する2つのエネルギシステム28をさらに具えることが見て取れる。これらのエネルギシステムは、フード6を通って空気が自由に流動できるように空気路を規定した導管29を具えており、当該導管内には複数の風力タービン30が配置されている。したがって、風力タービン30を利用して、海上バリア1が使用する、および/または海上バリア1内に蓄電される電気エネルギを生成することができる。有利に、この導管29は、周辺の構成要素による潜在的な破損を回避するために風力タービン30用に一定の物理的保護をもたらす。
【0050】
図4に見ることができるように、運用乗務員のための主なアクセス地点としてアクセスシャフト31が設けられている。小型の水中作業船を使用することによってアクセスを実現することができる。環境的、生態学的の双方の面、かつ運用乗務員の安全性という意味で海上バリア1内では過酷な作業状況が一般には展開されるため、この形態の移動が好ましい。
【0051】
図2および4はさらに、淡水供給をローカル地域に提供することができるように、基部2内に収容された脱塩装置を表している。これは明らかに、津波または風津波の発生後に特に重要となる。この脱塩装置は、必要に応じたサイズの一連のフィルタを介して、海水を水保持タンク33へと汲み上げるために使用される複数のフィルタポンプ32を具えている。このフィルタポンプ32は、塩水または塩分濃度、および海洋の粒子汚染物質が集まりやすい場所に配置される。水保持タンク33は、海から汲み上げられる、淡水の量を測定してモニタしながら、機中での調整を補助するため重要である。これは、制御デッキ8に配置されたコンピュータによって制御される、空間デッキ7に沿って配置されたモニタセンサおよび測定センサによって実現する。さらに、水保持タンク33内に水を与えると、海上バリア1の全体的な安定性を高めるように作用する。保持タンク33からの水は、フード6の内部チャンバ26を満たすように誘導することもできる。
【0052】
次いで、水保持タンク33からの濾過された水が、水じょうご部34に沿って汲み出される。水じょうご部34内の内部バルブ35が、保持タンク33を通り、じょうご出口36を通って海に汲み出される水の量を調整する手段を提供する。汚染物質用ズック4から汚染物質を開放する必要があるため、内部バルブ35は緊急時の手動制御機能を組み込んだ機械的なバルブであることが好ましい。内部バルブ35は、制御デッキ8を介して、運用乗務員によって遠隔操作される。
【0053】
水が流れて水じょうご部34を出る際、分子保護フィルタ37を通過する。淡水の分子構造は塩分を含む他の水ベースの汚染とは異なることが分かっているため、内側フィルタは淡水の分子量、重量及び大きさに応じたサイズにすることができる。汲み出された淡水は、ホースフックアップ地点(図示せず)を介して海上バリア1に出るように誘導することができる。汲み出された水の残りの部分は、柔軟なパイプ5へと通過し続け、ひいては汚染物質用ズック4に向かって誘導される。
【0054】
内部チャンバは上述した脱塩装置、例えば水力タービンまたは再生可能エネルギを利用するのに適した他の装置に代わる装置を具えうることを当業者は理解するであろう。
【0055】
パワーシャフト38および空間デッキ7は、蓄積されたエネルギまたは動力をデッキを通って基部2に向けて下方に移動させる手段を提供しており、動力の大部分は、例えば、フィルタポンプ32を動作させるのに必要とされる。空間デッキ7は海上バリア1を横断して動力を移動させることができるのみならず、デッキ8、9および10と水保持タンク33の下方に保持された水との間の保護ディバイダとしても機能する。
【0056】
図1乃至4から、海上バリア1が、複数の推進プロペラシステム39と、複数の指向性プロペラシステム40と、複数のアンカーポッド41とを更に具えることが見て取れる。これらのシステムはそれぞれ、更に詳しく説明される。
【0057】
推進プロペラシステム39は、基部2の近位端および遠位端に向かって配置されている。これらは一対の推進プロペラ42aおよび42bをそれぞれ具えており、これらのプロペラは、基部2を通って自由な空気の流動を可能にする空気路を規定する推進プロペラ導管43の対向する端部に配置されている。通常使用時、推進プロペラ42aおよび42bは、水との関節的な接触を有するように設計されている。これは、プロペラ42aが水面を直接かき乱さないことを意味する。これらのプロペラは、海上バリア1の安定性を補助するように、水面の上に位置している。基部2の外側に向かって推進プロペラシステム39を配置すると、安定性およびエネルギの効果において利点があることが分かっている。
【0058】
本書に記載の推進プロペラシステム39の更なる利点は、基部13の上面における推進プロペラ42bの位置により生じる。このような設計により、推進プロペラシステム39は、基部2が部分的に水中にある間でさえも、バリア1に推進力を提供し続けることが可能となる。
【0059】
指向性プロペラシステム40を利用して、動作時、あるいは所定の位置への海上バリア1の移動時の何れの間も方向安定性を維持し、沿岸の潮流や悪天候による動作位置の再調整も必要とされる。基部2を通って自由な空気の流動を可能にする空気路を規定する指向性プロペラ導管45の対向する端部に配置された一対の指向性プロペラ44aおよび44bをそれぞれ具えているという点で、指向性プロペラシステム40の設計はプロペラシステム39に関して上述したものと類似している。この設計により、指向性プロペラシステム40は、基部2が部分的に水中にある間でさえも、バリア1に方向的制御を提供し続けることが可能となる。
【0060】
推進プロペラシステム39および指向性プロペラシステム40の双方はさらに、双方向動作を呈することが好ましい。これにより、海上バリア1に動作の信頼性や動作移動をもたらす。
【0061】
アンカーポッド41は、能動的な動作時に海上バリア1を安定させる手段を提供する。各アンカーポッド41は、アンカープーリーシステム47に吊り下げられたアンカー46を具えている。このアンカー46は、制御デッキ8のアクセスパネルを介して乗務員に操作されるプーリーシステム47により下降することができる。一旦定位置へと下降すると、アンカー46は基部2のカバーエリアに比例する集合的な重量を作り出し、作業時に周囲環境に損害を与えることなく、海上バリア1に動作の適応性を与える。プーリーシステム47を利用してアンカー46を引き上げた場合、これらは基部2内に完全に収容され、海上バリア1の移動または位置調整を妨げることはない。
【0062】
海上バリア1の近位側に配置された汚染物質用ズック4の更に詳細を記載する。この汚染物質用ズック4は、上述した脱塩プロセスの際に生じる汚染物質を保持するために利用される。これは、柔軟なパイプ5を介して基部2に取り付けられた半球体を具えている。このズックが呈する抵抗レベルを減少させるように、水面下のみに沈むよう設計されている。この汚染物質用ズック4は、緊急時には海底へと落下できるように、素早く取り外すことができる。汚染物質用ズック4の位置は一般に、「有害」な作業環境にあるため、汚染物質用ズック4の構造は塩分や化学的な浸食に耐性を有することが好ましい。
【0063】
汚染物質用ズック4はさらに、液体汚染物質を開放するためのアクセス地点を具えることが好ましい。この地点は、ポッドからその目的地へとアルカリ水を運搬するために、付随の船から手動で作動させることができる。
【0064】
汚染物質用ズック4への入口には、1以上のフィルタ48があってもよい。これらのフィルタ48は、収容される水がどれほど「清浄」または「塩分を含まない」かを正確に読み取りながら、汚染物質を通過させることができる。このフィルタ48はさらに、海水が収容された汚染物質に侵入する、あるいは汚染物質が周囲の海水に漏出するのを防ぐように、汚染物質用ズック4の密閉を補助する。
【0065】
フィルタ48内には、汚染物質用ズック4内の空気圧を正確に読み取ることができる圧力フィルタがあってもよい。これは、汚染物質用ズック4が半分空であること、あるいはズック4自体に漏出があることをオペレータに知らせることができるため有利である。これは特に、汚染物質を付随の船に開放する間に重要となる。
【0066】
1つの可動式海上バリア1が詳しく上述されているが、実際には、保護すべき海岸線の全長に及ぶように多くの可動式海上バリア1を共に展開することができることを当業者は理解するであろう。
【0067】
可動式海上バリア1の動作は、以下の通りである。
1)通信アンテナ11を介して、風津波といった接近中の脅威に関するメッセージを受信する。
2)次に、運用乗務員によって手動制御される内部の駆動プロペラ39および40を介して、可動式海上バリア1を定位置に移動させる。
3)次に、伸縮式じょうご部15および/または可動面17の双方の位置を設定することにより、運用乗務員はフード6を展開する。
4)好適に、海上バリア1の位置を固定するためにアンカーポッド41を展開する。
5)接近中のエネルギが通過した場合、海上バリア1を他の場所へと移動自由にしながら、フード6およびアンカー46を格納し、保管しておくことができる。
【0068】
要約すると、上述した可動式海上バリア1は、熱帯暴風雨または高潮といった自然発生現象に対して順応性のある海岸保全を与えるために、その形状、サイズおよび強度を変形させることができるフード6を具えている。これは、じょうご部15と遠位面16とを具えるフード6によって実現する。フード6の全長およびその開放端の面積(すなわち、高さ及び幅)を変更することができるように、じょうご部15は伸縮自在であることが好ましい。
【0069】
遠位面16は、フード内に配置された可変容量チャンバ26の一部を形成する可動面17を具えることが好ましい。可動面17の移動は、海水などの流体で満たす、あるいは空にすることができるチャンバ26の体積を変更するように作用する。この可動面17は、チャンバ26に入る、あるいはそこから出る流体に応じて、この面の形状を変形させることができるように、柔軟な材料から作られることが好ましい。このようにして、接近中の自然発生現象、例えば熱帯暴風雨または高潮に関して適切と認められるように海上バリア1の強度を変化させることができる。
【0070】
海上バリア1はさらに、横風の影響および津波や高潮の風津波の影響に対して最大限の保護をもたらすよう空気力学的に形成されている。
【0071】
一連の推進プロペラ39および指向性プロペラ40を組み込むことにより、所望の位置および向きに配置して、海岸地域にもたらす保護を最大限にすることができるように、海上バリア1は水塊内での移動に適合している。運用乗務員は、作業デッキ9に搭載されたこのステアリング機構を操作することができる。運用乗務員は、彼らの視点から、フード6を展開するように伸縮式じょうご部15および可動面17を操作することもできる。
【0072】
海上バリア1を本来展開した位置に留まる補助をするために、バリア1を海底に固定する手段を提供するよう基部2内にアンカーポッド41が設けられている。
【0073】
したがって、可動式海上バリア1は、順々に既存の防御をも弱体化させる常時上昇する海水面に対する海岸防御として機能する。さらに、自然エネルギ資源を電気に変換するために、および/または淡水の供給源として利用することもできる。
【0074】
基部と、その遠位端に位置するフードを具える可動式海上バリアが記載されている。このフードは、自然発生現象に対して順応性のある海岸保全を与えるために、その形状、サイズおよび強度を変形させることが可能なじょうご部およびその中に位置する遠位面を具えている。これは、遠位面へと誘導される水の量を変化させるべく、フードの全長、ひいてはその開口端の面積を変更することができるように、伸縮式じょうご部を組み込むことにより実現する。このフードはさらに、フード内に位置し、流体で充満したり空にすることができる可変容量チャンバの一部を形成する可動面を具えうる。
【0075】
本発明の上述した記載は例示および説明のために提示されたものであって、網羅する、あるいは開示された厳密な形態に本発明を限定することを意図するものではない。本発明の原理およびその実用的な用途を最適に説明し、それにより、当該分野における他の当業者が、意図する特定の使用に適した様々な変更と共に、様々な実施形態の発明を最適に利用できるようにするため、記載された実施形態が選択され説明されている。したがって、添付の特許請求の範囲により規定されるような発明の範囲から逸脱することなく、更なる改変または改善を組み込むことができる。
図1
図2
図3
図4
図5