特許第5984253号(P5984253)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5984253研磨機用定盤の表面加工方法および研磨機用定盤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984253
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】研磨機用定盤の表面加工方法および研磨機用定盤
(51)【国際特許分類】
   B24B 7/04 20060101AFI20160823BHJP
   B24B 19/02 20060101ALI20160823BHJP
   B24B 49/02 20060101ALI20160823BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20160823BHJP
   B24B 49/14 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B24B7/04 Z
   B24B19/02
   B24B49/02 Z
   H01L21/304 631
   B24B49/14
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-104845(P2012-104845)
(22)【出願日】2012年5月1日
(65)【公開番号】特開2013-230533(P2013-230533A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年4月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236687
【氏名又は名称】不二越機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077621
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100146075
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100092819
【弁理士】
【氏名又は名称】堀米 和春
(74)【代理人】
【識別番号】100141634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 善博
(74)【代理人】
【識別番号】100141461
【弁理士】
【氏名又は名称】傳田 正彦
(72)【発明者】
【氏名】高野 秀樹
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−361548(JP,A)
【文献】 特開2001−277096(JP,A)
【文献】 特開平08−011049(JP,A)
【文献】 特開2004−330345(JP,A)
【文献】 特開平02−274464(JP,A)
【文献】 特開2004−230489(JP,A)
【文献】 特表2003−511255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 7/04
B24B 19/02
B24B 37/00
B24B 49/02
B24B 49/14
B24B 53/017
H01L 21/304
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する砥石が縦横の2軸方向に移動可能な平面研削盤を用いて、前記2軸方向の組み合わせで前記砥石を移動させて回転するテーブルに固定された被加工物としての研磨機用定盤に形状精密加工を行い、前記形状精密加工中の前記砥石の移動量を監視して、前記研磨機用定盤の表面を所望の凹凸形状を有する精密面に仕上げ加工する工程を備え
前記研磨機用定盤は、被加工時の定盤固定位置となる支点の位置を研磨機固定時と同じ位置にして研磨機固定時に生じる変形と同じ変形を予め生じさせた状態となる固定治具を用いて前記テーブルに固定されること
を特徴とする研磨機用定盤の表面加工方法。
【請求項2】
前記研磨機用定盤の表面を加工する工程は、該研磨機用定盤が研磨機に固定された状態で静的精度検査をする際の温度分布と、表面を加工する際の該研磨機用定盤の温度分布とを同じにして実施すること
を特徴とする請求項記載の研磨機用定盤の表面加工方法。
【請求項3】
前記研磨機用定盤は、内部に液体通流部を有しており、
前記研磨機用定盤の表面を加工する工程は、該研磨機用定盤の前記液体通流部に液体を通流させることによって該研磨機用定盤を所望の温度分布に調整しながら実施すること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の研磨機用定盤の表面加工方法。
【請求項4】
前記研磨機用定盤の表面を加工する工程は、縦軸方向における前記砥石の送り設定値を数μm単位とすることによって複数回に分けて実施すること
を特徴とする請求項1〜のいずれか一項記載の研磨機用定盤の表面加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨機用定盤の表面加工方法および研磨機用定盤に関し、さらに詳細には、被加工物としての研磨機用定盤の表面を所望の精密面に加工する表面加工方法、および当該表面加工方法を用いて表面が加工されて成る研磨機用定盤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリコンウェーハ等のワークの表面を研磨する研磨機として、ワークを両面同時に研磨する両面研磨機と、ワークを片面ずつ研磨する片面研磨機とが知られている。
【0003】
一般的な研磨機として、例えば両面研磨機の場合であれば図5に示すような構成を備えた研磨機20が知られている(特許文献1参照)。この研磨機20は、上面が研磨面とされた下定盤2(2A)と、下定盤2(2A)の上方に上下動自在に支持され、下面が研磨面とされた上定盤2(2B)とを具備する。上下定盤2A、2Bは駆動装置により軸線を中心として互いに反対方向に回転される。すなわち、上定盤2(2B)は、支持フレーム21に配設された駆動装置22によって回転駆動される。なお、上定盤2(2B)は、上下動機構として例えばシリンダ装置23により上下動可能となっている。一方、下定盤2(2A)はモータ24によって回転駆動される。また、下定盤2(2A)は、その下面がリング状の支持ベアリング25によって支持されている。さらに、下定盤2(2A)と上定盤2(2B)との間に、ウェーハ3を保持する透孔を有するキャリア(不図示)が配置される。これによれば、下定盤2(2A)上に供給パイプ26からスラリーを供給しつつ、上下定盤2A、2Bを回転させ、且つキャリアを回転させることにより、ウェーハ3は上下定盤2A、2Bに対して相対移動して、上下定盤2A、2B間に挟まれた当該ウェーハ3の両面を研磨することができる。
【0004】
ところで、研磨機による研磨対象物であるシリコンウェーハ等のワークは、表面が高精度に加工されることが要求されるため、当該ワークの加工(研磨)を行うための研磨機用定盤(例えば前述の下定盤、上定盤)の表面(ワークとの接触面)を高精度に仕上げ加工しておくことが必要となる。
【0005】
例えば、研磨機用定盤の表面加工方法として、特許文献2に例示されるように、ワークの研磨に用いられる下定盤(同文献中では、セラミック製ラップ面)の表面を加工するために、当該定盤を修正キャリアと接触させ、砥粒を供給しながら当該定盤と修正キャリアとを回転させて所定の平坦面に仕上げる定盤の表面加工方法が知られている。
【0006】
また、研磨機用定盤の表面加工方法の他の例として、図6に示すように、専用の機械(ラップ機30)を用いて、研磨機用定盤2(例えば前述の下定盤2A、上定盤2B)をラップ機30の回転するテーブル31上に固定して、ラップ盤32と接触させ、遊離砥粒を含む切削液を供給しながら当該定盤2とラップ盤32とを回転させて、当該定盤2を所定の平坦面に仕上げる表面加工方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−227393号公報
【特許文献2】特開2002−113656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記に例示される従来の表面加工方法の場合、被加工物である研磨機用定盤の研磨を行うラップ盤や修正キャリアの最適条件を見出し、設定するまでには経験的要素が多く求められ、非常に時間がかかってしまうという課題があった。加えて、被加工物である研磨機用定盤が研磨される際には、ラップ盤や修正キャリアも摩耗してしまうため最適条件が長時間維持できないという課題があった。これらは、いわゆる職人的技術が要求されるという課題でもあり、その解決が求められていた。
【0009】
また、近年、ワークの大径化・精密化に伴い、当該ワークを加工するための研磨機用定盤の大径化・精密化の要請が高まっている。そのような研磨機用定盤の表面加工を行う際に、上記に例示される従来のラップ機等のような専用の機械を用いる方法によれば、特に大型の専用機を準備しなければならないため、コスト面での負担が過大となり、装置の利用面でも非効率となってしまう課題があった。
【0010】
さらに、上記に例示される従来の表面加工方法の場合、被加工物である研磨機用定盤の研磨を行う際に遊離砥粒を供給しながら加工を行うため、当該砥粒が被加工物である研磨機用定盤の表面に食い込んだ状態で仕上がることが多い。その結果、表面加工がなされた装置(例えば、ポリシング機等)を設置するクリーンルームの清浄度維持やポリッシング時の異物混入防止の観点から、当該定盤に食い込んだ砥粒の除去が必要となっている。しかしながら、除去には酸洗浄が必要で専用設備が必要となってしまうため、コスト面での負担が過大となってしまう課題があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、経験的要素が多く含まれる職人的技術を必要とせず、被加工物である研磨機用定盤が大径の場合であっても専用機を用意することなく、当該定盤の表面を所望の凹凸形状を有する精密面に仕上げ加工することができ、加工後の洗浄も容易となる研磨機用定盤の表面加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0013】
開示する研磨機用定盤の表面加工方法は、回転する砥石が縦横の2軸方向に移動可能な平面研削盤を用いて、前記2軸方向の組み合わせで前記砥石を移動させて回転するテーブルに固定された被加工物としての研磨機用定盤に形状精密加工を行い、前記形状精密加工中の前記砥石の移動量を監視して、前記研磨機用定盤の表面を所望の凹凸形状を有する精密面に仕上げ加工する工程を備え、前記研磨機用定盤は、被加工時の定盤固定位置となる支点の位置を研磨機固定時と同じ位置にして研磨機固定時に生じる変形と同じ変形を予め生じさせた状態となる固定治具を用いて前記テーブルに固定されることを特徴とする。これによれば、専用機ではない平面研削盤を用いて被加工物である研磨機用定盤の表面を加工することができる。したがって、従来のラップ機を用いる加工方法と比較して、経験的要素が多く含まれる職人的技術を必要とせず、被加工物である研磨機用定盤が大径の場合にも研削盤に入るサイズであれば加工を行うことが可能となる。また、縦横の2軸方向の組み合わせで砥石を移動させて研削を行うため、曲線加工(曲面加工)が可能となり、所望の凹凸形状を有する面形状に仕上げ加工することが可能となる。さらに、砥石の移動量を監視してフィードバック制御を行うことで、高精度の精密面に仕上げ加工することが可能となる。また、加工時に砥粒を用いないため、当該定盤に食い込んだ砥粒を除去する工程が不要となり、そのための専用設備(洗浄設備)の設置も不要となって、簡易洗浄のみとすることができる。
【0014】
また、被加工物である研磨機用定盤が研磨機に固定される際の状態と同様の状態でテーブルに固定することが可能となる。すなわち、表面の加工時において、研磨機に固定される際の状態と同様の変形を研磨機用定盤に発生させることができる。これは、使用時(研磨時)と被加工時とで研磨機用定盤の固定位置(支点)を同様にすることができるためである。その状態で当該定盤の表面を加工すれば、研磨機に固定された際に当該定盤に生じる変形と同様の変形を予め生じさせた状態で加工が行われることとなるため、研磨機への固定後の変形によって当該定盤の表面に形状精度の低下が発生することが防止できる。したがって、所望の凹凸形状を高精度に形成することが可能となる。
【0015】
また、前記研磨機用定盤の表面を加工する工程は、該研磨機用定盤が研磨機に固定された状態で静的精度検査をする際の温度分布と、表面を加工する際の該研磨機用定盤の温度分布とを同じにして実施することが好ましい。これによれば、被加工物である研磨機用定盤が研磨機に固定された状態で静的精度検査をする際の温度環境と同様の温度環境下で研磨機用定盤の表面を加工することが可能となる。すなわち、被加工物である研磨機用定盤は、研磨機に固定された状態で静的精度検査をする際の温度環境と同様の温度環境下で加工されているため、静的精度検査時と被加工時との温度の相違による変形量の違いに起因して当該定盤の表面に形状精度の低下が発生することが防止できる。したがって、所望の凹凸形状を高精度に形成することが可能となる。
【0016】
また、前記研磨機用定盤は、内部に液体通流部を有しており、前記研磨機用定盤の表面を加工する工程は、該研磨機用定盤の前記液体通流部に液体を通流させることによって該研磨機用定盤を所望の温度に調整しながら実施することが好ましい。これによれば、被加工物である研磨機用定盤が研磨機に固定された状態で静的精度検査をする際の当該定盤の温度と、研磨機用定盤の表面を加工する際の当該定盤の温度とを同じにすることが可能となる。その結果、静的精度検査時と被加工時との温度の相違による変形量の違いに起因して当該定盤の表面に形状精度の低下が発生することが防止できる。したがって、所望の凹凸形状を高精度に形成することが可能となる。
【0017】
また、前記研磨機用定盤の表面を加工する工程は、縦軸方向における前記砥石の送り設定値を数μm単位とすることによって複数回に分けて実施することが好ましい。通常の研削工程においては、研削時間を短くするために砥石の送り設定値は可能な限り大きくして、研削回数も少なくすることが一般的である。しかしながら、砥石の送り設定値を数μm単位の小さな値とし、且つ、加工工程を複数回に分けて実施することによって、被加工物である研磨機用定盤の表面の加工時において、当該研磨機用定盤に砥石が押圧されることによって当該定盤に生じる応力を低減することができる。その結果、当該定盤の変形量を小さくすることができるため、変形によって当該定盤の表面に形状精度の低下が発生することが防止できる。したがって、所望の凹凸形状を高精度に形成することが可能となる。
【0018】
開示する研磨機用定盤は、前記の研磨機用定盤の表面加工方法を用いて、表面が所望の凹凸形状を有する精密面に仕上げ加工されていることを特徴とする。これによれば、使用時(研磨時)における表面形状が所望の凹凸形状に高精度に形成された研磨機用定盤が実現できる。
【発明の効果】
【0019】
開示する研磨機用定盤の表面加工方法によれば、経験的要素が多く含まれる職人的技術を必要とせず、被加工物である研磨機用定盤が大径の場合であっても専用機を用意することなく、当該定盤の表面を所望の凹凸形状を有する精密面に仕上げ加工することができ、加工後の洗浄も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る研磨機用定盤の表面加工方法に用いられる平面研削盤の例を示す斜視図(概略図)である。
図2】本発明の実施形態に係る研磨機用定盤の表面加工方法を説明するための説明図である。
図3】本発明の実施形態に係る研磨機用定盤の表面加工方法のフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に係る研磨機用定盤の表面加工方法を説明するための説明図である。
図5】本発明の実施形態に係る研磨機用定盤の表面加工方法における被加工物である研磨機用定盤が設けられている研磨機の概略図である。
図6】従来の実施形態に係る研磨機用定盤の表面加工方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、装置構成図は概略図であって、各装置構成における実際の寸法(比)を表示するものではない。
【0022】
先ず、本実施形態に係る研磨機用定盤の表面加工方法における被加工物である研磨機用定盤2の構成例について説明する。研磨機用定盤2は、前述の通り、シリコンウェーハ等のワーク3の表面を研磨する研磨機20(図5参照)において、当該ワーク3の加工(研磨)を行うための定盤(例えば前述の下定盤2A、上定盤2B)である。ここでは、研磨機用定盤2として研磨機20の下定盤2Aを例に挙げて説明する。
【0023】
従来の研磨機用定盤(例えば、セラミック定盤)としては直径800[mm]程度以下の構成が主であった。しかし、近年、ワークの大径化に伴い、研磨機用定盤の大径化(一例として直径1200[mm]程度)の要請がある。この点、本実施形態に係る加工方法においては、直径500〜2800[mm]程度の構成を有する研磨機用定盤についても被加工物とすることが可能となっている。特に従来、加工が困難であった直径800[mm]程度以上の構成を有する研磨機用定盤の表面加工を簡易に且つ高精度に行うことができる点で、非常に有効である。
【0024】
また、研磨機用定盤2を構成する材料の例としては、ステンレス材料、鉄系金属材料、セラミック材料が挙げられる。例えば、アルミナセラミックを用いた定盤の場合、従来のラップ機による表面加工においては、多量のダイヤモンド遊離砥粒を必要とするため、加工コストが上昇してしまうという課題があった。しかし、本実施形態に係る加工方法よれば、その解決が可能となる。
【0025】
次に、本実施形態に係る研磨機用定盤の表面加工方法に用いられる平面研削盤10の構成例について説明する。図1に平面研削盤10の斜視図(概略図)を示す。
【0026】
平面研削盤10は、一例として汎用の横軸円テーブル形平面研削盤である。被加工物を固定するための回転するテーブル11を備えている。当該テーブル11は直径1200[mm]程度以上の構成を有する研磨機用定盤2であっても、載置して固定することが可能となっている。なお、回転はインバータ制御されており、安定した回転が実現される。
【0027】
この平面研削盤10を用いて研磨機用定盤2の表面加工を行う場合、当該研磨機用定盤2は、研磨機20に固定される際の状態と同様の状態となる固定治具4を用いてテーブル11に固定される。
一例として、固定治具4は図2に示すように、リング状の部材である。より詳しくは、研磨機用定盤2(ここでは、下定盤2A)は、研磨機20(図5参照)に固定される際に、リング状のベアリング25(一例として、スラスト軸受)の上に載置された状態で固定される。したがって、当該ベアリング25と同一径且つ同一幅(すなわち、同一内径且つ同一外径)の板面を有するリング状部材を固定治具4として用いることが好適である。
【0028】
これによれば、被加工物である研磨機用定盤2が研磨機20に固定される際の状態と同様の状態でテーブル11に固定することが可能となる。すなわち、研磨機用定盤2の表面の加工時において、研磨機20に固定される際の状態と同様の変形を研磨機用定盤2に発生させることができる。これは、使用時(研磨時)と被加工時とで研磨機用定盤2の固定位置(支点)を同様にすることができるためである。その状態で当該定盤2の表面を加工すれば、研磨機20に固定された際に当該定盤2に生じる変形と同様の変形を予め生じさせた状態で加工(研削)が行われることとなるため、研磨機20への固定後の変形によって当該定盤2の表面に形状精度の低下が発生することが防止できる。したがって、研磨機用定盤2の表面加工において、所望の凹凸形状を高精度に形成することが可能となる。
【0029】
また、図2に示すように、平面研削盤10は回転する砥石12が縦横の2軸方向(縦軸方向および横軸方向)に移動可能な構成を備えている。より詳しくは、砥石12は、縦軸方向すなわち縦軸(図2中のZ軸)と平行な方向、および横軸方向すなわち横軸(図2中のY軸)と平行な方向に移動可能である。また、縦軸方向および横軸方向のそれぞれにリニアスケール(不図示)が設けられている。これにより、砥石12の移動量の正確な把握が可能となっている。
【0030】
上記の構成によれば、縦横の2軸方向の組み合わせで砥石12を移動させることができる。したがって、被加工物(研磨機用定盤2)の表面を曲線加工(曲面加工)することが可能となり、所望の凹凸形状を有する面形状に仕上げ加工することが可能となる。
【0031】
なお、平面研削盤10は、加工時に加工液を供給するための加工液供給手段(不図示)を備える構成としてもよい。
【0032】
続いて、本発明の実施形態に係る研磨機用定盤の表面加工方法について図3のフローチャートを用いて説明する。なお、本実施形態に係る研磨機用定盤2の表面加工方法は、前記の平面研削盤10を用いて実施する場合を例として説明する。
【0033】
先ず、研磨機用定盤2を、平面研削盤10のテーブル11に固定する(ステップS1)。
本実施形態においては、固定に際して、固定治具4を用いる。例えば、研磨機用定盤2(ここでは、下定盤2A)が被加工物である場合、前述のリング状の固定治具4をテーブル11上に配設し、当該固定治具4上に研磨機用定盤2を載置して固定する(図2参照)。
【0034】
次いで、本実施形態においては、研磨機用定盤2が研磨機20に固定された状態で静的精度検査をする際の温度環境と同様の温度環境下とする工程を実施する(ステップS2)。
【0035】
これによれば、被加工物である研磨機用定盤2が研磨機20に固定された状態で静的精度検査をする際の温度環境と同様の温度環境下で研磨機用定盤2の表面を加工することが可能となる。すなわち、被加工物である研磨機用定盤2は、研磨機20に固定された状態で静的精度検査をする際の温度環境と同様の温度環境下で加工されているため、静的精度検査時と被加工時との温度の相違による変形量の違いに起因して当該定盤2の表面に形状精度の低下が発生することが防止できる。したがって、所望の凹凸形状を高精度に形成することが可能となる。
【0036】
なお、ここで、研磨機用定盤2が内部に液体通流部(不図示)を有する構成を備えている場合には、上記ステップS2と共に、下記のステップS2’を実施してもよい。すなわち、ステップS2’として、研磨機用定盤2の表面を加工する工程は、当該研磨機用定盤2の液体通流部に所定温度の液体を通流させることによって当該研磨機用定盤2を所望の温度分布に調整しながら実施する。
これによれば、被加工物である研磨機用定盤2が研磨機20に固定された状態で静的精度検査をする際の当該定盤2の温度分布と、当該定盤2の表面を加工する際の当該定盤2の温度分布とを同じにすることが可能となる。その結果、静的精度検査時と被加工時との温度分布の相違による変形量の違いに起因して当該定盤2の表面に形状精度の低下が発生することが防止できる。したがって、所望の凹凸形状を高精度に形成することが可能となる。
【0037】
上記ステップS2に次いで、目標形状に基づいて砥石軌跡に対応した座標を入力する(ステップS3)。そして、上記ステップS3に次いで、砥石12を移動させて回転するテーブル11に固定された被加工物としての研磨機用定盤2を研削することにより形状精密加工を行う工程を実施する(ステップS4)。このとき、回転する砥石12が縦横の2軸方向(図2におけるY軸方向、Z軸方向)に移動可能な平面研削盤10を用いて、前記2軸方向の組み合わせで砥石12を移動させる。
これによれば、研磨機用定盤2の表面を所望の凹凸形状を有する精密面に仕上げ加工することが可能となる。ここで言う「精密面」とは、数μm〜数十μmの凹凸を有する凸形状(いわゆる、お椀形)、凹形状(いわゆる、すり鉢形)、W形状、逆W形状、カモメ形状、等(いずれも断面形状に由来する形状名称である)を意味する。
【0038】
なお、ステップS4を実施する際に、平面研削盤10が前述の加工液供給手段(不図示)を備える場合には、加工液の温度を所定温度に調整して供給することが好ましい。その理由として、被加工物である研磨機用定盤2の静的精度検査時と同様の温度分布にして、当該温度分布の変化に起因する当該定盤2の変形を防止することができるからである。
【0039】
また、ステップS4を実施する際に、砥石12の移動量を監視しながら加工(研削)を行う。平面研削盤10はリニアスケールを備えており、砥石12の移動量の正確な把握が可能となる。当該移動量を監視(計測)し、その監視結果(計測結果)に基づいて、制御部(不図示)がフィードバック制御を行う。より詳しくは、縦軸方向(Z軸方向)および横軸方向(Y軸方向)のそれぞれにおいて、リニアスケールにより砥石12の実移動量を監視し、フィードバック制御を行って、砥石12を移動させる。これによって、砥石12の移動量を高精度に制御できるため、研磨機用定盤2の表面を高精度に加工することが可能となる。
【0040】
ここで、形状精密加工中の砥石12の移動量を監視(計測)し、制御部が当該移動量が規定値(予め設定された移動量)に達したか否かを判定する(ステップS5)。判定の結果、当該規定値に達していない場合は砥石12の移動を継続して行い、当該規定値に達した場合は砥石12の移動を停止する。
【0041】
本実施形態においては、図4の説明図に示すように、縦軸方向(Z軸方向)における砥石12の送り設定値aを数μm単位とすることによって、研削工程を複数回(例えば、n回)に分けて実施する構成を特徴とする(これは、必要とされている研削量(Z軸方向の寸法)が、a[μm]×n[回]である場合の例である)。ただし、設定した軌跡でn回に達する前に加工表面が全面加工されたことを確認できれば、手動もしくは自動にて停止してもよい。
【0042】
ここで、図4中の破線が砥石12の軌跡である。より詳しくは、同図4に示すように研磨機用定盤2を中央が凸の形状に仕上げ加工を行う場合、制御部が砥石12の軌跡(図4中の破線)を算出し、1ストローク毎に設定した送り設定値aで送る制御を行う。これを同図4のように、研磨機用定盤2の半径片側全面が当たる(研削される)まで繰り返す。このとき、研磨機用定盤2はテーブル11に固定されて回転しているので、半径片側の軌跡が折り返し転写した形状で仕上がることとなる。
なお、上記1ストロークの始点は、研磨機用定盤2の中心側もしくは外周側のいずれにも設定することが可能である。
【0043】
これによれば、砥石12の送り設定値aを数μm単位の小さな値とし、且つ、加工工程(研削工程)を複数回(ここでは、n回)に分けて実施することによって、被加工物である研磨機用定盤2の表面の加工時において、当該研磨機用定盤2に砥石12が押圧されることによって当該定盤2に生じる応力を低減することができる。その結果、当該定盤2の変形量を小さくすることができるため、変形によって当該定盤2の表面に形状精度の低下が発生することが防止できる。したがって、所望の凹凸形状を高精度に形成することが可能となる。
【0044】
具体的な工程としては、砥石12を送る回数が規定回数(ここでは、n回)に達したか否かを制御部が判定する(ステップS6)。判定の結果、当該規定回数に達していない場合は、制御部(不図示)が縦方向における砥石12の送り設定値(予め設定された送り設定値)として設定された距離だけ、砥石12を縦軸方向に送る制御を行い(ステップS7)、次いで、ステップS4〜S6を繰り返して行い、当該規定回数に達した場合は、一連の工程が終了する。
【0045】
このようにして、本実施形態に係る研磨機用定盤の表面加工方法が完了する。
【0046】
以上、説明した通り、開示の研磨機用定盤の表面加工方法によれば、専用機ではない平面研削盤を用いて被加工物である研磨機用定盤の表面を加工することができる。したがって、従来のラップ機を用いる加工方法と比較して、ラップ盤の最適条件を見出し、設定するまでには経験的要素が多く求められ、非常に時間がかかってしまうという課題の解決が可能となる。また、被加工物である研磨機用定盤が研磨される際には、ラップ盤や修正キャリア等が摩耗してしまうため最適条件が長時間維持できないという課題の解決が可能となる。すなわち、いわゆる職人的技術が要求されるという課題の解決が可能となる。さらに、被加工物である研磨機用定盤が大径の場合にも加工を行うことが可能となる。
【0047】
また、縦横の2軸方向の組み合わせで砥石を移動させて研削を行うため、曲線加工(曲面加工)が可能となり、所望の凹凸形状を有する面形状に仕上げ加工することが可能となる。さらに、砥石の移動量を監視してフィードバック制御を行うことで、高精度の精密面に仕上げ加工することが可能となる。また、加工時に砥粒を用いないため、当該定盤に食い込んだ砥粒を除去する工程が不要となり、そのための専用設備(洗浄設備)の設置も不要となる。
さらに、被加工物(研磨機用定盤)の材質が変わっても、それに適した砥石に変えるだけで対応することができる。
【0048】
開示の研磨機用定盤の表面加工方法を用いれば、所望の凹凸形状を有する精密面、すなわち、数μm〜数十μmの凹凸を有する凸形状(いわゆる、お椀形)、凹形状(いわゆる、すり鉢形)、W形状、逆W形状、カモメ形状等に形成された研磨機用定盤2を実現することが可能となる。
【0049】
なお、本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。特に、被加工物である研磨機用定盤として両面研磨機の下定盤を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0050】
2 研磨機用定盤
2A 研磨機用定盤(下定盤)
2B 研磨機用定盤(上定盤)
3 ワーク
4 固定治具
10 平面研削盤
11 テーブル
12 砥石
20 研磨機
30 ラップ機
31 テーブル
32 ラップ盤
図1
図2
図3
図4
図5
図6