特許第5984255号(P5984255)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5984255きのこの栽培用添加材、きのこの人工培養基、及びそれを用いたきのこの人工栽培方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984255
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】きのこの栽培用添加材、きのこの人工培養基、及びそれを用いたきのこの人工栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 1/04 20060101AFI20160823BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   A01G1/04 A
   C12N1/14 F
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-157026(P2012-157026)
(22)【出願日】2012年7月13日
(65)【公開番号】特開2014-18097(P2014-18097A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591062146
【氏名又は名称】一般社団法人長野県農村工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】森 泰一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮口 克一
(72)【発明者】
【氏名】城石 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 敬一
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−109995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 1/04
C12N 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無定形相が70%以下で、結晶化度指数が半値幅で1.0以下の結晶性鉱物を含有する硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上とを含有してなることを特徴とするきのこ栽培用添加材。
【請求項2】
前記硫酸アルミニウムの粒度が、ブレーン法による比表面積値で500〜10,000cm2/gであることを特徴とする請求項1に記載のきのこ栽培用添加材。
【請求項3】
Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のきのこの栽培用添加材。
【請求項4】
Fuchs法試験で測定したpH3.0までの到達時間が120秒以内であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のきのこの栽培用添加材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のきのこの栽培用添加材を含有してなることを特徴とするきのこの人工培養基。
【請求項6】
請求項5に記載のきのこの人工培養基を用いてなることを特徴とするきのこの人工栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、きのこの栽培用添加材、きのこの人工培養基、及びそれを用いたきのこの人工栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、きのこの栽培は、くぬぎ、ぶな、及びならなどの原木を利用した、ほだ木栽培がほとんどであり、そのため気象条件により、収穫が左右されることが多いという問題があった。
また、ほだ木栽培では栽培期間が長く、種菌の接種から、きのこの収穫までに1年半〜2年も要するので、生産コストが相当高くつくという問題もあった。
【0003】
そこで、近年、えのきたけ、ひらたけ、なめこ、及びしいたけなどは、例えば、鋸屑に米糠を配合した培地を用い、瓶又は箱で培養を行う菌床人工栽培方法が確立され、一年を通じて、四季に関係なく安定してこれらのきのこが収穫できるようになっている。
【0004】
すなわち、農家での副業的性格が強く、小規模生産に頼っていた従来のきのこの栽培が、現在では大規模専業生産が可能で、かつ、原料が入手しやすい菌床人工栽培方法に移りつつある。
【0005】
ここで、培地とは、微生物あるいは動植物の組織等を培養するために調製された液状又は固形の物質で、培養基ともいわれている。
【0006】
しかしながら、この菌床人工栽培においても、きのこを大量に連続栽培するには、いまだ収率も低く、かつ、栽培期間がかなり長いため、その生産コストは安価とは言えず、今後、これらの生産性の改善が切望されている。
【0007】
生産性を改善する方法として、培地に特定の化合物を配合する方法が知られている。
培地に配合する特定の化合物として、例えば、アルミノシリケート系化合物(特許文献1)やマグネシウムアルミニウムシリケート系化合物(特許文献2や特許文献3)、アルミノケイ酸カルシウム系化合物(特許文献4〜特許文献6)、カルシウムアルミネート系化合物(特許文献7や特許文献8)、及びカルシウムアルミネート系化合物と硫酸塩とを併用したもの(特許文献7)などが挙げられる。
しかしながら、いずれも収量が低いものであり、収量を高くするなど、生産性の改善が切望されている。
【0008】
一方、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩と、アルミノケイ酸カルシウムとを、きのこ栽培用培養基に使用することが提案されている(特許文献5)。
しかしながら、特許文献5には、硫酸アルミニウムの物性に関する規定や、きのこの栽培用添加材のpHを規定することについてはなんら記載がない。
【0009】
また、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、及び複合水酸化物からなる群から選ばれた一種又は二種以上を含有してなる、きのこの人工培養基も提案されている(特許文献9や特許文献10)。
しかしながら、特許文献9や特許文献10には、硫酸アルミニウムについて、また、きのこの栽培用添加材のpHを規定することについてはなんら記載がない。
【0010】
また、硫酸アルミニウムのような、水溶液が酸性を示す無機塩と、アルミノケイ酸カルシウムガラスと、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、及び複合水酸化物からなる群から選ばれた一種又は二種以上とを含有してなり、Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5である、きのこの栽培用添加材も提案されている(特許文献11)。
しかし、水溶液が酸性を示す無機塩として硫酸アルミニウムを配合した、きのこ栽培用添加材は、貯蔵安定性が悪くて、きのこの生産性が低下する問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2829400号公報
【特許文献2】特許第2860959号公報
【特許文献3】特開2002−119133号公報
【特許文献4】特許第2766702号公報
【特許文献5】特開平11−243773号公報
【特許文献6】特開2003−070351号公報
【特許文献7】特許第3534295号公報
【特許文献8】特開平2003−070349号公報
【特許文献9】特開2006−271303号公報
【特許文献10】特開2011−109996号公報
【特許文献11】特開2011−109995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、形や大きさが良好なきのこを、高い収率で、短期間で栽培でき、貯蔵安定性に優れる、きのこの栽培用添加材、きのこの人工培養基、及びそれを用いたきのこの人工栽培方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)無定形相が70%以下で、結晶化度指数が半値幅で1.0以下の結晶性鉱物を含有する硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上とを含有してなるきのこ栽培用添加材である。
(2)前記硫酸アルミニウムの粒度が、ブレーン法による比表面積値で500〜10,000cm2/gである前記(1)のきのこ栽培用添加材である。
(3)Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5である前記(1)又は(2)のきのこの栽培用添加材である。
(4)Fuchs法試験で測定したpH3.0までの到達時間が120秒以内である前記(1)〜(3)のいずれか一のきのこの栽培用添加材である。
(5)前記(1)〜(4)のいずれか一のきのこの栽培用添加材を含有してなるきのこの人工培養基である。
(6)前記(5)のきのこの人工培養基を用いてなるきのこの人工栽培方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のきのこの人工培養基を使用すると、きのこ栽培用添加材の貯蔵期間に左右されず、形や大きさが良好なきのこを高い収率で栽培できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明で使用する部や%は、特に規定のない限り質量基準である。
【0016】
本発明で使用する人工培養基とは、培地ときのこの栽培用添加材とを必須成分とするものである。
本発明で培地とは、鋸屑、コーンコブ、ふすま、及びもみがらなどの炭素源と、米糠や大豆粕等の窒素源とを主体とするもので、きのこの栽培用添加材とは、無定形相が70%以下である硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上とを含有してなるきのこの栽培用添加材であり、Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5であるきのこの栽培用添加材である。これら培地と、きのこの栽培用添加材との混合物に水を適当量加え、これを瓶又は箱に圧詰めしてきのこの人工培養基とする。
【0017】
培地を調製するための、炭素源の量、窒素源の量、及び水量は、その種類や含有水分量等により変化し、一義的に決定されるものではない。例えば、炭素源として鋸屑を用いる場合、鋸屑は、乾燥状態(乾物量)で培地全乾物量の20〜90%程度の範囲で使用することができるが、この量は窒素源として用いる培地成分によって変動する。例えば、窒素源に米糠を使用する場合、鋸屑は、乾物量で培地全乾物量の40〜70%程度が好ましい。また、鋸屑を、乾物量で培地全乾物量の20〜90%の範囲で使用する場合、鋸屑と米糠とを質量比1:1の割合で混合した混合物に水を加えて、含水率を55〜70%に調整したものを、瓶又は箱に圧詰めして調製することが好ましい。また、鋸屑としては広葉樹鋸屑あるいは針葉樹鋸屑をそれぞれ単独あるいは混合して使用することも可能である。
【0018】
本発明で使用するきのこの栽培用添加材とは、無定形相が70%以下の硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上とを含有するものであり、硫酸アルミニウムに含まれる結晶性鉱物の結晶化度指数が半値幅で1.5以下の結晶性鉱物を含有するものであり、Fuchs法試験で測定したきのこの栽培用添加材の最高pHが3.5〜4.5であるものである。
【0019】
本発明で使用する硫酸アルミニウムとは、示性式がAl2(SO4)3・nH2O(ただし、n≧0)であるアルミニウム塩のうち固体の硫酸アルミニウムであり、貯蔵性の面から、無定形相が70%以下であり、60%以下のものが好ましい。
硫酸アルミニウムの水和塩の水和量は、通常8〜18であり、8水塩や16水塩の硫酸アルミニウムがよく使用される。本発明では、無水塩と16水塩とは貯蔵劣化が生じにくい。
【0020】
また硫酸アルミニウムは、Al2(SO4)3で示されるミロセビッチ石(Millosevichite)及び/又はAl2(SO4)3・H2Oで示されるアルノーゲン(Alunogen)の結晶性鉱物を含有する。含有するこの結晶性鉱物の結晶化度指数は半値幅で1.0以下である。半値幅は、ミロセビッチ石(Millosevichite)だと面間隔が3.5020Åの結晶面(113)の回折ピーク、アルノーゲン(Alunogen)だと面間隔が0.489Åの結晶面(0-41)の回折ピークから求められる。結晶性が高い硫酸アルミニウムを使用することにより、きのこの栽培用添加材の貯蔵安定性が良好となる。
【0021】
硫酸アルミニウムの粒度は、きのこの品質と収率の向上の面や、人工培養基中での分散性の面から、ブレーン法による比表面積値(以下、ブレーン値という)で500〜10,000cm2/gが好ましい。
【0022】
本発明で使用するアルミノケイ酸カルシウムガラスとは、CaO原料、Al2O3原料、及びSiO2原料等を電気炉や高周波炉等で加熱溶融したもので、CaO原料としては、生石灰、消石灰、及び石灰石等が使用でき、Al2O3原料としては、アルミナやボーキサイトなどが使用でき、SiO2原料としては、ケイ石、ケイ砂、及び石英等が使用可能である。
なお、これら原料中には、MgO、TiO2、Fe2O3、Na2O、及びK2Oなどの不純物が含まれているが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば許容されるものである。
きのこの品質や収率の向上等の面から、アルミノケイ酸カルシウムガラスのCaO含有率は30〜60%、Al2O3含有率は10〜65%、SiO2含有率は5〜45%が好ましく、CaO含有率40〜60%、Al2O3含有率10〜40%、及びSiO2含有率10〜40%がより好ましい。
本発明で使用するアルミノケイ酸カルシウムガラスの粒度は、きのこの品質と収率の向上の面や、粉砕動力の面から、ブレーン値で2,000〜10,000cm2/gが好ましい。
本発明のアルミノケイ酸カルシウムガラスのガラス化率は、きのこの品質や収率の向上の面で、50%以上が好ましい。
【0023】
ガラス化率の測定方法は、例えば、下記に示すエックス線回折図形を使用したリートベルト解析によって行うことが可能である。
すなわち、粉砕した試料に酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの内部標準物質を所定量添加し、めのう乳鉢等で充分混合したのち、粉末X線回折測定を実施する。測定結果を定量ソフトで解析し、ガラス化率を求める。定量ソフトには、Sietronics社製の「SIROQUANT」などを用いることが可能である。
【0024】
本発明で使用するアルカリ土類金属の酸化物としては、酸化ベリリウム(BeO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、及び酸化バリウム(BaO)などが挙げられる。この中でも、きのこの品質、収率の向上、及び経済性の面から、酸化マグネシウム(MgO)や酸化カルシウム(CaO)のアルカリ土類金属の酸化物を用いることが好ましい。
アルカリ土類金属の酸化物の粒度は、ブレーン値で2,000〜10,000cm2/gが好ましい。
【0025】
本発明で使用するアルカリ土類金属の複合酸化物としては、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、カルシウムシリケート(例えば、2CaO・SiO2や3CaO・SiO2)、及びポルトランドセメントなどが挙げられ、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムが好ましいる。
アルカリ土類金属の複合酸化物の粒度は、ブレーン値で2,000〜10,000cm2/gが好ましい。
【0026】
本発明で使用するアルカリ土類金属の水酸化物としては、Ca(OH)2やMg(OH)2などが挙げられる。Caの部分が、Be、Mg、Sr、又はBaで置き換わった水酸化物も使用可能であり、きのこの品質や収率の向上と経済性の面からMgやCaを用いることが好ましい。
なお、アルカリ土類金属の水酸化物の粒度は、ブレーン値で2,000〜10,000cm2/gが好ましい。
【0027】
本発明で使用するアルカリ土類金属の複合水酸化物としては、2CaO-Al2O3-SiO2-8H2OなどのCaO-Al2O3-SiO2-H2O系化合物、2CaO-Al2O3-8H2OなどのCaO-Al2O3-H2O系化合物、及び5CaO-6SiO2-5H2OなどのCaO-SiO2-H2O系化合物等がある。Caの部分が、Be、Mg、Sr、又はBaで置き換わった複合水酸化物も使用可能であり(MgO-Al2O3-SiO2-H2O系化合物など)、きのこの品質や収率の向上と経済性の面からMgやCaを用いることが好ましい。
また、アルカリ土類金属の複合水酸化物の粒度は、BET法による比表面積(以下、BET値という)で0.5〜20m2/gが好ましい。
また、本発明では、アルカリ土類金属の複合水酸化物として、アルカリ土類金属の水酸化物や複合水酸化物が炭酸化された物質も使用可能であり、例として、塩基性炭酸マグネシウムやドロマイトなどが挙げられる。
アルカリ土類金属の複合水酸化物の組成比は特に限定されるものではないが、きのこの品質や収率の向上の面から、CaOなどのアルカリ土類金属酸化物の含有率は10〜60%、Al2O3の含有率は0〜50%、SiO2の含有率は0〜50%、H2Oの含有率は10〜50%が好ましい。
これらアルカリ土類金属の複合水酸化物は、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化アルミニウム、シリカゾル、及びシリカゲルなどを原料として水熱合成しても良いし、カルシウムアルミネート化合物のように水和活性を示すものは、CaOとAl2O3とを焼成等熱処理し、水と反応させて複合水酸化物を合成することも可能である。
【0028】
本発明で使用するハイドロタルサイトとは、一般式が、[M2+6-6xM3+6x(OH)126x+(An-)6x/n・yH2O(但し、M2+はMg2+とZn2+などの二価金属イオン、M3+はAl3+などの三価金属イオン、An-はCO32-などのn価の陰イオン、nはn≧1、xは0.1≦x≦0.5、yはy≧0)で表される化合物である。
ハイドロタルサイトの粒度は、BET値で0.5〜20m2/gが好ましい。
【0029】
本発明で使用するきのこの栽培用添加材は、無定形相が70%以下の硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上とを含有してなるものである。
硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上との配合量は、培地や栽培するきのこの種類によって変化するため特に限定されるものではないが、通常、Fuchs法試験で測定した最高pHと到達時間によって決められ、最高pHが3.5〜4.5、到達時間が120秒の範囲になるよう、きのこの栽培用添加材の成分割合や、各成分の化学組成を調整する。
【0030】
Fuchs法試験とは、0.1規定の塩酸50mlをビーカーにとり、1gのきのこの栽培用添加材を加えて撹拌し、pHを測定(最初のpH)し、撹拌開始から10分後以降、1規定の塩酸2mlを10分おきに加え、pHを読み取り、最初のpHになるまで続ける方法であり、最初のpHから、pHが3.0に到達するまでの時間(到達時間)と、到達時間以降の最高pHによって、きのこの品質や収率を評価するものである。
【0031】
本発明のきのこの栽培用添加材は、きのこの品質や収率の向上の面から、Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5であることが好ましい。最高pHを3.5〜4.5にするために、きのこの栽培用添加材の成分割合や、各成分の化学組成を変えることなどが可能である。
【0032】
また、Fuchs法試験で測定した到達時間は、きのこの品質や収率の向上の面から、10分以内が好ましく、120秒以内がより好ましい。
【0033】
硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上との使用量は、培地や栽培するきのこの種類によって変化するため特に限定されるものではなく、Fuchs法試験で測定した最高pHと到達時間とによるが、通常、人工培養基1,000部に対して、硫酸アルミニウムを1〜5部、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上を1〜5部併用することが好ましい。
【0034】
きのこの栽培用添加材の成分のそれぞれは、従来、きのこの収率を向上させる目的で使用されているが、硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上の両者を併用することによって相乗効果を呈し、きのこの品質や収率が大幅に向上する。
【0035】
本発明の人工培養基を用いてきのこを栽培する方法は、各々の環境や状況等に応じて任意に変えることができるので特に限定されるものではないが、通常、本発明のきのこの栽培用添加材を含有した人工培養基に水を加えて、人工培養基の水分含有量を50〜70%に調整し、必要に応じて殺菌・冷却後、菌を接種し、各々のきのこについて通常採用されている培養工程や生育条件に従って行うことが好ましい。
例えば、ぶなしめじ栽培の場合は、菌を接種した人工培養基を22〜26℃で30〜40日間培養後、40〜50日間、培養とほぼ同条件で熟成し、菌かき後に温度14〜17℃、湿度95〜100%で20〜25日間育成を行って、ぶなしめじを栽培し収穫する。
また、しいたけ栽培の場合は、菌を接種した人工培養基を20〜25℃で約30日間培養後、26〜30℃で40〜50日間熟成し、その後、温度13〜17℃で1〜3日間低温処理し、温度17〜20℃、湿度90〜95%で約10日間発生を行ってしいたけを収穫し、この際に第1回目の収穫後に再び発生にかけて第2回目のしいたけの収穫を行うことも可能である。
【0036】
本発明で栽培されるきのこは人工栽培できるきのこであり、例えば、えのきたけ、ひらたけ、なめこ、ぶなしめじ、まいたけ、きくらげ、さるのこしかけ、及びしいたけなどが挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、実験例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
実験例1
CaO原料、Al2O3原料、及びSiO2原料を所定の割合で混合し、高周波炉で溶融後、急冷却し、アルミノケイ酸カルシウムガラスを合成し、粉砕して粒度をブレーン値で6,000cm2/gとした。
いっぽう、広葉樹鋸屑250g、針葉樹鋸屑250g、米糠500g、及び水140mlからなる培地を調製し、培地1,000部に対して、表1に示す無定形相の異なる硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラスとを配合した後、混合し、プラスチック製850ml広口瓶に圧詰めした。
その後、120℃飽和蒸気圧下で加熱殺菌後、ぶなしめじの菌を植え付け、暗所、温度25℃、湿度55%の条件下で2ヶ月間かけて菌を培養した。
菌の培養後、広口瓶の中央に直径1cm程度の穴を開け(菌かき)、充分に吸水させた後、15℃、湿度95%、及び照度20ルックスの条件下で4日間培養して子実体原基を形成し、照度を200ルックスに上げて2週間程度培養を続け、子実体の収量を測定し、コントロール対比と品質とを評価した。
ぶなしめじの栽培実験は製造直後に実施するとともに、紙袋中に密封した状態で室温35℃、相対湿度90%の室温内で1ヶ月間貯蔵後のものについても同様に実験した。
なお、硫酸アルミニウムだけを用いた場合、アルミノケイ酸カルシウムガラスだけを用いた場合、両方とも用いなかった場合を比較例とした。結果を表1に併記する。
【0039】
<使用材料>
硫酸アルミニウムA:硫酸アルミニウム16水塩、市販品、無定形相85%、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数1.00、ブレーン値1,600cm2/g
硫酸アルミニウムB:硫酸アルミニウム16水塩、市販品、無定形相0%、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数1.00、ブレーン値1,600cm2/g
硫酸アルミニウムC:硫酸アルミニウムAと硫酸アルミニウムBとの混合品、無定形相30%、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数1.00、ブレーン値1,600cm2/g
硫酸アルミニウムD:硫酸アルミニウムAと硫酸アルミニウムBとの混合品、無定形相55%、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数1.00、ブレーン値1,600cm2/g
硫酸アルミニウムE:硫酸アルミニウムAと硫酸アルミニウムBとの混合品、無定形相60%、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数1.00、ブレーン値1,600cm2/g
硫酸アルミニウムF:硫酸アルミニウムAと硫酸アルミニウムBとの混合品、無定形相70%、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数1.00、ブレーン値1,600cm2/g
CaO原料 :炭酸カルシウム、関東化学社製、試薬一級
Al2O3原料 :酸化アルミニウム、関東化学社製、試薬一級
SiO2原料 :二酸化ケイ素、関東化学社製、試薬一級
アルミノケイ酸カルシウムガラス:CaO50.0%、Al2O3 20.0%、SiO2 30.0%、ガラス化率100%、ブレーン値6,000cm2/g
広葉樹鋸屑:ぶな材の鋸屑
針葉樹鋸屑:すぎ材の鋸屑
米糠 :市販品
水 :純水
【0040】
<測定方法>
無定形相 :ガラス化率、硫酸アルミニウム3.5部に酸化マグネシウム1.5部を添加し、メノウ乳鉢で充分混合したのち、粉末X線回折測定を実施した。測定結果をSietronics社製定量ソフト「SIROQUANT」で解析し、無定形相の含有量を求めた。
コントロール対比:収率、きのこの栽培用添加材を添加した場合の子実体収量(g)/無添加の子実体収量(g)×100(%)
品質 :次の基準に基づいて目視評価した。子実体の大きさが揃っていて、傘の開きがない場合は「優」、子実体の大きさが揃っていない、もしくは傘がやや開き気味の場合は「可」、子実体の大きさが揃っておらず、傘もやや開き気味の場合は「不可」とした。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示すように、無定形相が70%以下の硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラスとを併用したときに、ぶなしめじの品質や収量が向上することが分かる。また、きのこ栽培用添加材を1ケ月間貯蔵後に使用しても、貯蔵開始時と同等にぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。
【0043】
実験例2
表2に示す硫酸アルミニウムとアルミノケイ酸カルシウムガラスとを使用したこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0044】
<使用材料>
硫酸アルミニウムG:硫酸アルミニウム16水塩、市販品、無定形相55%、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数1.50、ブレーン値3,000cm2/g
硫酸アルミニウムH:硫酸アルミニウム16水塩、市販品、無定形相55%、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数1.00、ブレーン値3,000cm2/g
硫酸アルミニウムI:硫酸アルミニウム16水塩、市販品、無定形相55%、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数0.75、ブレーン値3,000cm2/g
硫酸アルミニウムJ:硫酸アルミニウム16水塩、市販品、無定形相55%、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数0.50、ブレーン値3,000cm2/g
硫酸アルミニウムK:硫酸アルミニウム16水塩、市販品、無定形相55%、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数0.25、ブレーン値3,000cm2/g
【0045】
<測定方法>
結晶化度指数 :粉末X線回折を実施し、測定結果より半値幅を、含有する結晶性鉱物であるミロセビッチ石(Millosevichite)だと面間隔が3.5020Åの結晶面(113)の回折ピーク、アルノーゲン(Alunogen)だと面間隔が0.489Åの結晶面(0-41)の回折ピークからそれぞれ求めた。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示すように、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数が1.0以下であるときに、ぶなしめじの品質や収率が向上することが分かる。また、きのこ栽培用添加材を1ケ月間貯蔵後に使用しても、貯蔵開始時と同等にぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。
【0048】
実験例3
硫酸アルミニウムJを粉砕してブレーン値の異なる硫酸アルミニウムを調製した。調製した硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラスとを表3に示すように使用したこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0049】
【表3】
【0050】
表3に示すように、硫酸アルミニウムのブレーン値が500〜10,000cm2/gの範囲内では、ぶなしめじの品質や収率には大きな影響がなく、貯蔵1ケ月後も、貯蔵開始時と同等にぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。
【0051】
実験例4
表4に示すように、硫酸アルミニウムLとアルミノケイ酸カルシウムガラスとを使用して、最高pHと到達時間の異なるきのこ栽培用添加材としたこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0052】
<使用材料>
硫酸アルミニウムL:硫酸アルミニウム8水塩、市販品、無定形相50%、含有する結晶性鉱物の結晶化度指数0.50、ブレーン値1,600cm2/g
【0053】
<測定方法>
到達時間 :0.1規定の塩酸50mlをビーカーにとり、1gのきのこの栽培用添加材を加えて撹拌し、pHを測定して最初のpHとする。撹拌開始から10分ごとに1規定の塩酸を2ml加え、最初のpHになるまで続けた時に、きのこの栽培用添加材を加えてからpHが3.0に到達するまでの時間
最高pH :到達時間以降、pHが3.0になるまでの間の最高pH
【0054】
【表4】
【0055】
表4に示すように、Fuchs法試験で最高pHが3.5〜4.5であるとき、ぶなしめじの品質や収率が向上することが分かる。この時、きのこ栽培用添加材を1ヶ月間貯蔵後に使用しても、貯蔵開始時と同等にぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。また、Fuchs法試験で測定したpH3.0までの到達時間が120秒以内であるとき、ぶなしめじの品質や収率が向上することが分かる。この時、きのこ栽培用添加材を1ケ月間貯蔵後に使用しても、貯蔵開始時と同等にぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。
【0056】
実験例5
表5に示すように硫酸アルミニウムLと、アルミノケイ酸カルシウムガラスの代わりにアルカリ土類金属の複合水酸化物とを使用したこと以外は、実験例4と同様に行った。結果を表5に併記する。
【0057】
<使用材料>
アルカリ土類金属の複合水酸化物:MgO-Al2O3-SiO2-H2O系化合物、MgO17.9%、Al2O3 26.4%、SiO2 23.0%、H2O 32.7%、BET値53m2/g
【0058】
【表5】
【0059】
表5に示すように、硫酸アルミニウムと、アルカリ土類金属の複合水酸化物とを併用し、Fuchs法試験で測定した最高pHが3.5〜4.5の範囲にある時に、ぶなしめじの品質や収率が向上することが分かる。
【0060】
実験例6
硫酸アルミニウムLと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトを表6に示す割合で併用したこと以外は実験例4と同様に行った。結果を表6に併記する。
【0061】
<使用材料>
アルカリ土類金属の酸化物:酸化カルシウム、試薬一級、ブレーン値5,000cm2/g
アルカリ土類金属の複合酸化物:ジカルシウムシリケート、CaO 65%、SiO2 35%、ブレーン値6,000cm2/g
アルカリ土類金属の水酸化物:水酸化カルシウム、試薬一級、ブレーン値5,000cm2/g
ハイドロタルサイト:Mg4Al2(OH)12CO3・3H2O、MgO 34.4%、Al2O3 21.7%、CO2
9.4%、H2O 34.5%、BET値7.6m2/g
【0062】
【表6】
【0063】
表6に示すように、硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上とを併用すると、さらに、ぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。また、きのこ栽培用添加材を1ケ月間貯蔵後に使用しても、貯蔵開始時と同等にぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。
【0064】
実験例7
硫酸アルミニウムLと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトを表7に示す割合で併用したことを併用したこと以外は実験例4と同様に行った。結果を表7に併記する。
【0065】
【表7】
【0066】
表7に示すように、硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラスと、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた二種とを併用すると、さらに、ぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。また、きのこ栽培用添加材を1ケ月間貯蔵後に使用しても、貯蔵開始時と同等にぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。
【0067】
実験例8
硫酸アルミニウムLと、アルミノケイ酸カルシウムガラス、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトを表8に示す割合で併用したこと以外は実験例4と同様に行った。結果を表8に併記する。
【0068】
【表8】
【0069】
表8に示すように、硫酸アルミニウムと、アルミノケイ酸カルシウムガラスと、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の複合酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の複合水酸化物、及びハイドロタルサイトからなる群から選ばれた三種以上とを併用すると、さらに、ぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。また、きのこ栽培用添加材を1ケ月間貯蔵後に使用しても、貯蔵開始時と同等にぶなしめじの品質や収率が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のきのこの人工培養基を使用すると、形や大きさが良好なきのこを高い収率で栽培できるため、えのきだけ、ひらたけ、なめこ、ぶなしめじ、まいたけ、きくらげ、さるのこしかけ、及びしいたけなど広範なきのこの栽培に使用することができる。