(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シミュレーション実行手段は、前記X線管から放出される複数のX線光子について単位距離だけ進行させて散乱確率及び散乱角度をそれぞれ計算し、計算の結果、前記複数のX線光子が計算範囲外になるまで前記複数のX線光子について単位距離をそれぞれ進行させる処理を行なうことで、前記散乱光子分布を生成する請求項1に記載の光子計数型のX線コンピュータ断層装置。
前記シミュレーション実行手段は、前記散乱線シミュレーションで、前記X線光子のエネルギーに閾値を設ける請求項2に記載の光子計数型のX線コンピュータ断層装置。
前記X線管から放出される複数のX線光子について単位距離だけ進行させて散乱確率及び散乱角度をそれぞれ計算し、計算の結果、前記複数のX線光子が計算範囲外になるまで前記複数のX線光子について単位距離をそれぞれ進行させる処理を行なうことで、前記散乱光子分布を生成する請求項7に記載の散乱線補正方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の光子計数型のX線CT装置及び散乱線補正方法について、添付図面を参照して説明する。
【0012】
本実施形態のX線CT装置には、X線管とX線検出器とが一体として被検体の周囲を回転する回転/回転(ROTATE/ROTATE)タイプと、リング状に多数の検出素子がアレイされ、X線管のみが被検体の周囲を回転する固定/回転(STATIONARY/ROTATE)タイプ等様々なタイプがあり、いずれのタイプでも本発明を適用可能である。ここでは、現在、主流を占めている回転/回転タイプとして説明する。
【0013】
また、入射X線を電荷に変換するメカニズムは、シンチレータ等の蛍光体でX線を光に変換し更にその光をフォトダイオード等の光電変換素子で電荷に変換する間接変換形と、X線による半導体内の電子正孔対の生成及びその電極への移動すなわち光導電現象を利用した直接変換形とが主流である。
【0014】
加えて、近年では、X線管とX線検出器との複数のペアを回転リングに搭載したいわゆる多管球型のX線CT装置の製品化が進み、その周辺技術の開発が進んでいる。本実施形態のX線CT装置では、従来からの一管球型のX線CT装置であっても、多管球型のX線CT装置であってもいずれにも適用可能である。ここでは、一管球型のX線CT装置として説明する。
【0015】
図1は、本実施形態の光子計数型のX線CT装置を示すハードウェア構成図である。
【0016】
図1は、本実施形態の光子計数型のX線CT装置1を示す。X線CT装置1は、大きくは、スキャナ装置11及び画像処理装置12によって構成される。X線CT装置1のスキャナ装置11は、通常は検査室に設置され、患者(被検体)Oの部位に関するX線の透過データを生成するために構成される。一方、画像処理装置12は、通常は検査室に隣接する制御室に設置され、透過データを基に投影データを生成して再構成画像の生成・表示を行なうために構成される。
【0017】
X線CT装置1のスキャナ装置11は、X線管21、絞り22、光子計数型画像検出器(以下、単に「検出器」という。)23、DAS(data acquisition system)24、回転部25、高電圧電源26、絞り駆動装置27、回転駆動装置28、天板29、天板駆動装置30、及びコントローラ31を設ける。
【0018】
X線管21は、高電圧電源26から供給された管電圧に応じてタングステン(W)等の金属製のターゲットに電子線を衝突させることでX線を発生させ、検出器23に向かって照射する。X線管21から照射されるX線によって、ファンビームX線やコーンビームX線が形成される。X線管21は、高電圧電源26を介したコントローラ31による制御によって、X線の照射に必要な電力が供給される。
【0019】
絞り22は、絞り駆動装置27によって、X線管21から照射されるX線のスライス方向及びその直交方向の照射範囲を調整する。すなわち、絞り駆動装置27によって絞り22の開口を調整することによって、スライス方向及びその直交方向のX線照射範囲を変更できる。
【0020】
検出器23は、マトリクス状、すなわち、チャンネル方向に複数チャンネル、スライス方向に複数列の画素を有する。しかも、検出器23のチャンネル方向は、特に、X線管21からのX線ビームの広がり角度を考慮して湾曲を持たせている。なお、検出器23の全体の形状は、用途によって決まり、平板状であってもよい。以下、半導体検出器を例にとって説明するが、本発明は半導体検出器に限らず光子計算が可能な如何なる検出器にも適用できる。
【0021】
図2は、検出器の構成を説明するための斜視図である。
【0022】
図2に示すように、検出器23は、2次元面を複数の面に分割するように複数の検出器ブロック23aに分割され、かつ、複数の検出器ブロック23a同士を着脱自在に結合可能になっている。また、検出器ブロック23aのX線入射側の前面には、モリブデン製、又はタングステン製の図示しないコリメータがスライス方向に配置された状態で、X線管21からのX線透過像が得られるようになっている。
【0023】
各検出器ブロック23aは、化合物半導体によって構成され、かつ、所定サイズ(例えば数センチ×数センチ)の層状の半導体セルSと、半導体セルSの放射線入射面を電圧印加用の荷電電極E1で覆うと共に、半導体セルSの放射線入射面に反対側の面を2次元アレイ状(碁盤目状)に分割した複数の集電電極E2で覆うモノリシック構造を有する。集電電極E2が各画素に対応している。半導体セルSの材料としては、テルル化カドミウム半導体(CdTe半導体)、カドミウムジンクテルライド半導体(CdZnTe半導体)、シリコン半導体(Si半導体)等が用いられる。荷電電極E1には例えば数十V〜数百V程度の比較的高い電圧が印加される。これにより、半導体セルSに入射したX線光子に因り、その内部に電子と正孔の対が発生し、このうちの電子が相対的に正電位の集電電極E2それぞれに集められ、この電子による電荷がパルス状の信号として検知される。つまり、放射線入射面に入射したX線は電気量のパルス信号に直接、変換される。
【0024】
碁盤目状に分割された複数の集電電極E2それぞれのサイズにより、X線に対する画素のサイズが決まる。このサイズは、X線を光子(粒子)として検出することが可能な十分小さい値になっている。これにより、フォトンカウンティング(光子計数)が可能な検出器23が構成され、その全体では所定数個でかつマトリクス状の画素チャンネルが形成されている。
【0025】
これにより、患者Oを透過したX線は、検出器23によりX線粒子(すなわちX線光子)として一定時間毎に計数され、光子エネルギーに応じたアナログ量の検出信号が画素P(画素P1乃至Pk)毎に出力される。
【0026】
検出器23から出力された各画素の検出信号は、データ収集装置(DAS:data acquisition system)24に送られる。
【0027】
図3は、検出器23及びDAS24を中心とした電気的なブロック図である。
【0028】
図3に示すように、検出器23は、画素P毎に、コントローラ31によって制御される半導体セルSを備える。
【0029】
DAS24は、画素P毎に、コントローラ31によって制御される処理回路Cを備える。処理回路Cは、チャージアンプ51、波形整形回路52、n(n:正の整数)段の比較器(Dual Discri)53
1〜53
n、n段のスイッチ54
1〜54
n、閾値論理回路(Discri Logic)55、m(m:正の整数)段のカウンタ(Counter CLK)56
1〜56
m、重み付け回路57、及び加算回路58を備える。
【0030】
チャージアンプ51は、半導体セルSの複数の集電電極E2のそれぞれに接続される。チャージアンプ51は、X線粒子の入射に応答して集電される電荷を電圧パルス信号として出力する。チャージアンプ51の出力端は、ゲイン及びオフセットが調整可能な波形整形回路52に接続される。
【0031】
波形整形回路52は、検知した電圧パルス信号の波形を、予め調整されているゲイン及びオフセットで処理して波形整形する。波形整形回路52のゲイン及びオフセットは、半導体セルSの画素毎の電荷チャージアップ特性に対する不均一性を考慮した調整パラメータである。画素毎の波形整形回路52のゲイン及びオフセットをキャリブレーション作業にて事前に調整しておくことにより、かかる不均一性を排除した波形整形を行うことができる。この結果、各収集チャンネルの波形整形回路52から出力された、波形整形されたパルス信号は実質的に入射X線粒子のエネルギー量を反映した特性を有することになり、画素間のかかるばらつきは殆ど解消される。波形整形回路52の出力端は、複数の比較器53
1〜53
nの比較入力端にそれぞれ接続される。
【0032】
比較器53
1〜53
nの各基準入力端には、それぞれ値が異なる基準値TH1(上限基準値THH)〜THn(下限基準値THL)が印加されている。波形整形回路52から1個のパルス信号の波高値(吸収されたX線光子のエネルギー)を異なる基準値TH1〜THnで比較することで、半導体セルSで吸収されたX線光子(X線粒子)のエネルギーを、事前に複数に分けて設定されたエネルギー領域のうちいずれかに弁別できる。例えば、nが3である場合、パルス信号の波高値が基準値TH1〜TH3のどの値を超えているかにより、弁別されるエネルギー領域が異なる。波高値が基準値TH1とTH2との間にある場合、吸収されたX線光子のエネルギーは第1のエネルギー領域に含まれるように弁別される。波高値が基準値TH2とTH3との間にある場合、吸収されたX線光子のエネルギーは第2のエネルギー領域に含まれるように弁別される。波高値が基準値TH3(下限基準値THL)以下の場合や、基準値TH1(上限基準値THH)以上の場合は、外乱や半導体セルSやチャージアンプ51からのホワイトノイズを検出させないものとして弁別される。基準値TH1(上限基準値THH)以上の場合は、他にもX線光子が2個以上同時に画素に入射した場合にも起こりうるが、ここではそのような事象は発生確率が低いものとし画像情報を形成する主な信号ではないとして外乱などと同様に扱うものとする。
【0033】
なお、基準値の数が3、すなわち、弁別可能なエネルギー領域の数が3の場合に限定されるものではない。基準値の数は、2や4等であってもよいし、場合によっては、1個であってもよい。基準値の数が1の場合には、X線光子が入射したか否かの情報のみが得られる。比較器53
1〜53
nの出力端は、スイッチ54
1〜54
nに接続される。
【0034】
スイッチ54
1〜54
nは、比較器53
1〜53
nからそれぞれ出力されるパルス信号がスイッチ54
1〜54
nの基準値TH1〜THnを超える場合にオンとなり、それ以外の場合にオフとなるように設計されている。例えば、スイッチ54
1は、比較器53
1から出力されるパルス信号がスイッチ54
1の基準値TH1を超える場合にオンとなり、それ以外の場合にオフとなるように設計されている。スイッチ54
1〜54
nの出力端は、閾値論理回路55に接続されている。
【0035】
閾値論理回路55は、スイッチ54
1〜54
nからそれぞれ出力されるパルス信号を基に、比較器53
1〜53
nのうちいずれがオン(オフ)になっているかを読み取り、オンになっている比較器53
1〜53
nのうちの最大のパルス信号に対応する出力パルスを計数(カウント)するようにクロックパルスを発生する。閾値論理回路55の複数の出力端は、複数のカウンタ56
1〜56
mに各別に接続され、クロックパルスを計数する。複数のカウンタ56
1〜56
mはパルス信号の波高に対応してそれぞれのカウンタに計数するように動作する。例えばTH2を超えTH1より小さなパルスはカウンタ56
1で計数され、TH3を超えTH2より小さなパルスはカウンタ56
2で計数される(以下同様)。この場合は、必要なカウンタの数mは、比較器の数nを用いて、m=n−1となる。
【0036】
別の例ではカウンタの数mは、比較器の数nを用いて、m<n−1となることもある。各比較器で波高弁別されたパルス数をそれぞれの波高範囲毎ではなく、複数の波高範囲をまとめて計数する場合がそれに当たる。もっとも小さいカウンタの数mは、m=1である。この場合、閾値論理回路55が出力するクロックパルスを1つのカウンタにより計数するので、X線光子のエネルギーの区別をせずに光子数を計数することになる。
【0037】
カウンタ56
1〜56
mは、閾値論理回路55から出力されるクロックパルスをカウントアップして、各担当するエネルギー領域に入るX線光子の数を一定時間に渡って計測する。
【0038】
重み付け回路57は、カウンタ56
1〜56
mからそれぞれ出力される計数値に対する重み付けを行なう。
【0039】
加算回路58は、重み付け回路57から出力される、重み付けされたエネルギー領域別の計数値を相互に加算して、画素P毎の生データ(再構成前のデータ)を生成し、生データを、コントローラ31を介して画像処理装置12に送る。
【0040】
このように、DAS24は、リセットされるまでの一定時間の間に、複数のカウンタ56
1〜56
mにより、検出器23の各画素Pに入射したX線光子の数をカウンタの段数mに応じたエネルギー領域毎に計測する。その結果としての計数値、すなわち、X線光子の計数値は、複数のカウンタ56
1〜56
mからデジタル量の検出データ(生データ)として読み出される。データ読出しは、ASIC層AS内に画素P毎に行なわれる。
【0041】
図1の説明に戻って、回転部25は、X線管21、絞り22、検出器23、及びDAS24を一体として保持する。回転部25は、X線管21と検出器23とを対向させた状態で、X線管21、絞り22、検出器23、及びDAS24を一体として患者Oの周りに回転できるように構成されている。なお、回転部25の回転中心軸と平行な方向をz軸方向、そのz軸方向に直交する平面をx軸方向、y軸方向で定義する。
【0042】
高電圧電源26は、コントローラ31による制御によって、X線の照射に必要な電力をX線管21に供給する。
【0043】
絞り駆動装置27は、コントローラ31による制御によって、絞り22におけるX線のスライス方向及びその直交方向の照射範囲を調整する機構を有する。
【0044】
回転駆動装置28は、コントローラ31による制御によって、回転部25がその位置関係を維持した状態で空洞部の周りを回転するように回転部25を回転させる機構を有する。
【0045】
天板29は、患者Oを載置可能である。
【0046】
天板駆動装置30は、コントローラ31による制御によって、天板29をy軸方向に沿って昇降動させると共に、z軸方向に沿って進入/退避動させる機構を有する。回転部25の中央部分は開口を有し、その開口部の天板29に載置された患者Oが挿入される。
【0047】
コントローラ31は、CPU(central processing unit)、及びメモリによって構成される。コントローラ31は、検出器23、DAS24、高電圧電源26、絞り駆動装置27、回転駆動装置28、及び天板駆動装置30等の制御を行なってスキャンを実行させる。
【0048】
光子計数型のX線CT装置1の画像処理装置12は、コンピュータをベースとして構成されており、病院基幹のLAN(local area network)等のネットワークNと相互通信可能である。画像処理装置12は、大きくは、CPU41、メインメモリ42、画像メモリ43、HDD(hard disc drive)44、入力装置45及び表示装置46等の基本的なハードウェアから構成される。CPU41は、共通信号伝送路としてのバスを介して、画像処理装置12を構成する各ハードウェア構成要素に相互接続されている。なお、画像処理装置12は、記憶媒体ドライブ47を具備する場合もある。
【0049】
CPU41は、半導体で構成された電子回路が複数の端子を持つパッケージに封入されている集積回路(LSI)の構成をもつ制御装置である。医師等のオペレータによって入力装置45が操作等されることにより指令が入力されると、CPU41は、メインメモリ42に記憶しているプログラムを実行する。又は、CPU41は、HDD44に記憶しているプログラム、ネットワークNから転送されてHDD44にインストールされたプログラム、又は記憶媒体ドライブ47に装着された記憶媒体から読み出されてHDD44にインストールされたプログラムを、メインメモリ42にロードして実行する。
【0050】
メインメモリ42は、ROM(read only memory)及びRAM(random access memory)等の要素を兼ね備える構成をもつ記憶装置である。メインメモリ42は、IPL(initial program loading)、BIOS(basic input/output system)及びデータを記憶したり、CPU41のワークメモリやデータの一時的な記憶に用いられたりする。
【0051】
画像メモリ43は、生成された生データや再構成画像データを記憶する記憶装置である。
【0052】
HDD44は、磁性体を塗布又は蒸着した金属のディスクが着脱不能で内蔵されている構成をもつ記憶装置である。HDD44は、画像処理装置12にインストールされたプログラム(アプリケーションプログラムの他、OS(operating system)等も含まれる)や、データを記憶する記憶装置である。また、OSに、オペレータに対する情報の表示にグラフィックを多用し、基礎的な操作を入力装置45によって行なうことができるGUI(graphical user interface)を提供させることもできる。
【0053】
入力装置45は、オペレータによって操作が可能なポインティングデバイスであり、操作に従った入力信号がCPU41に送られる。
【0054】
表示装置46は、図示しない画像合成回路、VRAM(video random access memory)、及びディスプレイ等を含んでいる。画像合成回路は、画像データに種々のパラメータの文字データ等を合成した合成データを生成する。VRAMは、合成データを、ディスプレイに表示する表示画像データとして展開する。ディスプレイは、液晶ディスプレイやCRT(cathode ray tube)等によって構成され、表示画像データを表示画像として順次表示する。
【0055】
記憶媒体ドライブ47は、記憶媒体の着脱が可能となっており、記憶媒体に記録されたデータ(プログラムを含む)を読み出して、バス上に出力し、また、バスを介して供給されるデータを記憶媒体に書き込む。このような記憶媒体は、いわゆるパッケージソフトウエアとして提供することができる。
【0056】
画像処理装置12は、スキャナ装置11のDAS24からコントローラ31を介して入力された生データに対して対数変換処理や、感度補正等の補正処理(前処理)を行なって投影データ(再構成前のデータ)を生成する。また、画像処理装置12は、前処理された投影データに対して散乱線の除去処理を行なう。
【0057】
図4は、本実施形態の光子計数型のX線CT装置1の機能を示すブロック図である。
【0058】
図1に示すCPU41(又は、コントローラ31)がプログラムを実行することによって、X線CT装置1は、CT撮像部61、エネルギー弁別部62、減弱係数マップ生成部63、減弱係数マップ変換部64、シミュレーション実行部65、補正処理部66、及び画像再構成部67として機能する。なお、各部61乃至67の全部又は一部は、X線CT装置1にハードウェアとして備えられるものであってもよい。
【0059】
CT撮像部61は、コントローラ31を介してスキャナ装置11の動作を制御して、患者Oの撮像部位を撮像する機能を有する。ここで、検出器23のある画素で検出されるX線光子について、患者Oで全く反応せずに透過してきた最大ピークエネルギー(Kα線のエネルギー)のX線光子に対して、患者Oで散乱した散乱線光子のエネルギーが減少して特性X線の最大ピークエネルギー(Kα線のエネルギー)となるX線光子の割合は無視できるほど少ないと考えられる。よって、CT撮像部61は、コントローラ31を介してX線管21の管電圧を制御して、X線管21によって発生されるX線光子の最大エネルギーが特性X線の最大ピークエネルギーより大きくなるように制御すればよい。
【0060】
また、CT撮像部61は、患者Oで散乱した散乱線光子のエネルギーが減少して特性X線の最大ピークエネルギー(Kα線のエネルギー)となるX線光子の影響を極力避ける、すなわち、当該X線光子の数を限りなく0に近づけるような構成とすることもできる。その場合、CT撮像部61は、コントローラ31を介してX線管21の管電圧を制御して、X線管21によって発生されるX線光子の最大エネルギーが特性X線の最大ピークエネルギーと略一致するように制御する。例えば、X線管21のターゲットとしてタングステンを採用する場合、CT撮像部61は、コントローラ31を介してX線管21の管電圧を制御して、散乱線光子のエネルギーが減少してタングステンで発生した特性X線の最大ピークエネルギー(60keV付近)となることを極力避けるために、X線光子の最大エネルギーが特性X線の最大ピークエネルギー付近であり、かつ、最大ピークエネルギーより大きくなるように制御する。なお、X線管21のターゲットを変更すれば特性X線の最大ピークエネルギーが変更されることは言うまでもない。
【0061】
以下、CT撮像部61は、コントローラ31を介してX線管21の管電圧を制御して、X線管21によって発生されるX線光子の最大エネルギーが、特性X線の最大ピークエネルギーと略一致するように制御する場合について説明する。
【0062】
図5は、X線管21によって発生されるX線光子のエネルギースペクトルの一例を示す図である。
【0063】
図5は、管電圧110kV、管電流1mAで、ターゲットとしてタングステンを採用したX線管21が発生するX線光子のエネルギースペクトルを示す。X線管21によって発生されるX線光子は、エネルギー幅をもつ。また、エネルギースペクトルには、K吸収端と呼ばれる特性X線(Kα1,Kα2,Kβ1,Kβ2線)のエネルギーピークが存在する。
【0064】
図6は、管電圧を変更する場合のX線光子のエネルギースペクトルの変化を示す図である。
【0065】
図6に示すX線光子のエネルギースペクトルでは、フィルターを付加して軟線(低エネルギー成分)を除去している。特性X線は、本来線幅が極めて細いが、見やすくするためにある程度の幅を持たせてある。一方、連続X線は広い範囲に渡っている。
【0066】
図6に示すように、CT撮像部61は、X線管21の管電圧が小さくなるように制御すると、X線管21によって発生されるX線光子の最大エネルギーが小さくなる。
【0067】
図7は、X線光子の最大エネルギーが制御されたX線光子のエネルギースペクトルの一例を示す図である。
【0068】
図7に示すように、CT撮像部61は、X線光子の最大エネルギーが最大ピークエネルギー付近であり、かつ、最大ピークエネルギーより大きくなるようにX線管21の管電圧を制御する。
【0069】
図4に示すエネルギー弁別部62は、コントローラ31を介してDAS24の動作を制御して、特性X線の最大ピークエネルギーを含むエネルギー領域E1の生データ(再構成前のデータ)RE1を弁別すると共に、エネルギー領域E1とは異なる(エネルギー領域E1より小さい)1又は複数のエネルギー領域E2の生データRE2を弁別する機能を有する。以下、エネルギー弁別部62が、エネルギー領域E1の生データRE1として、60keVの生データを弁別する場合について説明する。
【0070】
減弱係数マップ生成部63は、エネルギー弁別部62によって弁別されたエネルギー領域E1の生データRE1に基づいて再構成画像を再構成して再構成画像を生成する、すなわち、エネルギー弁別部62によって弁別されたエネルギー領域E1の生データRE1に基づいて減弱係数マップME1を生成する機能を有する。減弱係数マップ生成部63によって生成される減弱係数マップME1は、散乱X線光子の影響を殆ど受けないものである。
【0071】
図8は、特性X線の最大ピークエネルギーを含むエネルギー領域E1の生データRE1に基づく減弱係数マップME1の一例を示す図である。
【0072】
図8は、エネルギー領域E1の生データRE1のみを用いて画像再構成を行なって得られた減弱係数マップME1である。上述の通り、X線管21の出力を調整し、特性X線の最大ピークのエネルギーよりも大きなエネルギーをもつX線を極力発生させないようにすれば、散乱したX線はエネルギーが小さくなるので、エネルギー領域E1の生データRE1は散乱X線光子を殆ど含まない。したがって、減弱係数マップME1には散乱線の影響が殆どないと考えられる。かつ、Triple Energy Window法等の定量的な散乱線補正を行なうことで、さらに散乱線の影響を小さくすることも可能である。
【0073】
図4に示す減弱係数マップ変換部64は、減弱係数マップ生成部63によって生成された、エネルギー領域E1の減弱係数マップME1を、エネルギー領域E2の減弱係数マップME2に変換する機能を有する。
【0074】
図9は、エネルギー変換後の減弱係数マップME2を生成するための変換式を説明するための図である。
【0075】
図9は、減弱係数マップ生成部63によって生成されたエネルギー領域E1としての60keVにおける減弱係数マップME1のμ値を、60keV以外のエネルギー領域E2、例えば20keVにおけるμ値に変換するための変換式を示す。減弱係数マップ変換部64は、減弱係数マップ生成部63によって生成されたエネルギー領域E1としての60keVにおける減弱係数マップME1に基づいて、60keV以外のエネルギー領域E2における減弱係数マップME2を生成する。エネルギー変換には、予め、変換式に基づく変換テーブルを用意しておき、変換テーブルに従って減弱係数マップME1が減弱係数マップME2に変換される。
【0076】
図4に示すシミュレーション実行部65は、減弱係数マップ変換部64によって変換後の減弱係数マップME2を用いて散乱線シミュレーションを行ない、検出器23に到達した散乱X線光子の分布(散乱光子分布)DE2を生成する機能を有する。複数のエネルギー領域E2について複数の減弱係数マップME2が存在する場合、シミュレーション実行部65は、減弱係数マップME2毎にシミュレーションを行なう。
【0077】
ここで、シミュレーション実行部65によって行なわれる散乱線シミュレーションについて
図10に示すフローチャートを用いて説明する。
【0078】
コンプトン散乱の起こる確率は電子1個当たりの全断面積(σ)で、入射光子数に対する散乱光子数の比の形で表すが、これに関しては、クライン・仁科の式(1)がある。すなわち、入射光子数が散乱角度θ方向の微小立体角dΩ中に散乱される確率について、次式(1)により自由電子1個当たりの微分断面積(dσ/dΩ)が求まる。
【0079】
まず、X線管21から1個のX線光子が放出されるとする(ステップST1)。X線光子を単位距離だけ進行させ(ステップST2)、X線光子が計算範囲外に達していないか否かが判断される(ステップST3)。ステップST3の判断にてYES、すなわち、ステップST2によってX線光子が単位距離だけ進行された結果、X線光子が計算範囲外に達していないと判断される場合、X線光子が検出器23の検出面に達したか否かが判断される(ステップST4)。ステップST4の判断にてNO、すなわち、ステップST2によってX線光子が単位距離だけ進行された結果、X線光子が検出器23の検出面に達していないと判断される場合、次式(1)に従って、散乱確率、及びその時の散乱角度θが算出される(ステップST5)。その後、再びX線光子をさらに単位距離だけ進行させるステップST2に戻り、処理を繰り返す。
【0081】
一方、ステップST3の判断にてNO、すなわち、ステップST2によってX線光子が単位距離だけ進行された結果、X線光子が計算範囲外に達したと判断される場合、計算を終了するか否かが判断される(ステップST8)。ステップST8の判断にてNO、すなわち、計算を終了しないと判断される場合、他の1個のX線光子について、ステップST1に戻る。
【0082】
ステップST4の判断にてYES、すなわち、ステップST2によってX線光子が単位距離だけ進行された結果、X線光子が検出器23の検出面に達したと判断される場合、X線光子のエネルギーと検出器23との検出確率に従って、X線光子が検出器23で検出されたか否かが判断される(ステップST6)。ステップST6の判断にてYES、すなわち、X線光子が検出器23で検出されたと判断される場合、検出された情報を散乱光子分布DE2に反映する(ステップST7)。一方、ステップST6の判断にてNO、すなわち、X線光子が検出器23で検出されていないと判断される場合、計算を終了するか否かが判断される(ステップST8)。
【0083】
ステップST8の判断にてYES、すなわち、計算を終了すると判断される場合、動作が終了される。
【0084】
図10に示すフローチャートでは、ある1個のX線光子についてエネルギー領域Ekでの計算を行なっていた場合に、ステップST5による算出の結果、X線光子のエネルギーがエネルギー領域Elの範囲になるとき、ステップST2に戻って処理を繰り返す。しかしながら、それに限定されるものではない。ある1個のX線光子についてエネルギー領域Ekでの計算を行なっていた場合に、ステップST5による算出の結果、X線光子のエネルギーがエネルギー領域Elの範囲になるとき、例えば、当該X線光子についての計算を終了して、他の1個のX線光子について、ステップST1に戻ってもよいし、当該X線光子の情報を保持したまま、エネルギー領域Elの計算に利用してもよい。なお、後者の方が散乱線補正の定量性が向上するが、計算時間は長くなる。
【0085】
図11は、式(1)によって計算された散乱角とその確率を示す図である。
【0086】
図11に示すように、入射光子のエネルギーが非常に小さいときの散乱光子分布DE2は90°対象に近いが、光子エネルギーの増大と共に前方への散乱が増す。散乱角θに関して上記式(1)を全立体角にわたり積分すると、電子1個当たりの全断面積(全散乱係数)σが得られる。
【0087】
なお、シミュレーション実行部65は、上述したステップST3の散乱線シミュレーションにおいてX線光子のエネルギーに閾値を設けることで、計算量を少なくすることが可能である。また、シミュレーション実行部65は、上述したステップST3の散乱線シミュレーションにおいてX線光子の散乱回数を制限することで、計算量を少なくすることも可能である。さらに、シミュレーション実行部65は、上述したステップST3の散乱線シミュレーションにおいて計算範囲を制限することで、計算量を少なくすることも可能である。
【0088】
図4の説明に戻って、補正処理部66は、エネルギー弁別部62によって弁別された、エネルギー領域E2の生データRE2を、シミュレーション実行部65によって生成された散乱光子分布DE2に基づいて補正して、補正後の生データR´E2を生成する機能を有する。補正処理部66は、生データRE2から散乱光子分布DE2を減算して、補正後の生データR´E2を生成する。複数のエネルギー領域E2について複数の散乱光子分布DE2が存在する場合、補正処理部66は、複数の生データRE2をエネルギー領域E2毎に、複数の散乱光子分布DE2に基づいて補正する。
【0089】
画像再構成部67は、補正処理部66によって補正後の生データR´E2に基づいて再構成画像を再構成して再構成画像IEを生成する機能を有する。画像再構成部67によって生成された再構成画像IEは、画像メモリ43に記憶されると共に、表示装置46を介して表示される。
【0090】
本実施形態の光子計数型のX線CT装置1によると、最大エネルギーが特性X線の最大ピークエネルギーより大きいエネルギーであるX線光子を発生することで、定量的に散乱線補正を行なうことができるので、正確で、かつ、精度のよいCT画像を提供することができる。
【0091】
さらに、本実施形態の光子計数型のX線CT装置1によると、最大エネルギーが特性X線の最大ピークエネルギーより大きいエネルギーであり、かつ、最大エネルギーが特性X線の最大ピークエネルギー付近であるX線光子を発生することで、より定量的に散乱線補正を行なうことができるので、正確で、かつ、精度のよいCT画像を提供することができる。
【0092】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。