【文献】
Biochimie, 2003, Vol. 85, pp. 311-321
【文献】
Protein Expr. Purif., 2009, Vol. 67, pp. 7-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程b)が、(i)2回のアフィニティークロマトグラフィー工程、又は1回のアフィニティークロマトグラフィー工程及び1回の混合モードクロマトグラフィー工程と、(ii)1回の陰イオン交換クロマトグラフィー工程と、(iii)1回の陽イオン交換クロマトグラフィー工程とを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
多種多様なオリゴ糖構造及び多くのタイプの糖ペプチドが自然界で見出されており、これらは一部、多くのグリコシルトランスフェラーゼにより合成される。グリコシルトランスフェラーゼは、活性化した単糖残基又はオリゴ糖残基をドナーから存在するアクセプター分子へと移動させ、炭水化物鎖を開始する又は伸長することにより、糖脂質、糖ペプチド及び多糖の合成を触媒する。触媒反応はグリコシルトランスフェラーゼの好適なドメイン及び酵素の触媒部位によるドナー及びアクセプターの両方の認識を伴うと考えられる。
【0003】
全ての治療用タンパク質の30%超及び多くの潜在的なペプチド治療薬は、グリコシル化ペプチドである。正しいグリカン構造の付着が、治療用ペプチドのフォールディング、生体活性、生体分布及び薬理学的有効性に重要な役割を果たし得ることは当該技術分野で既知である。さらに、グリコシル化は治療用ペプチドのin vivo半減期及び免疫原性に影響を与える極めて重要な因子である。実際、ヒトは通常特定のタイプの炭水化物が付着した生物学的治療薬しか許容せず、非哺乳動物のオリゴ糖付着を含む糖タンパク質を拒絶することが多い。例えば、低グリコシル化ペプチドは肝臓によって「古い」と認識され、このため適切にグリコシル化されたペプチドよりも迅速に身体から排出される。これに対して、高グリコシル化ペプチド又は誤ってグリコシル化されたペプチドは免疫原性となる可能性がある。
【0004】
組換え非グリコシル化ペプチドとは異なり、組換え糖ペプチドの作製には、組換えによって作製されたペプチドに、細胞内においてin vivoで又は細胞によってペプチドが産生された後にin vitroで更なるプロセシング工程を行う必要がある。該ペプチドをグリコシルトランスフェラーゼを用いて酵素的に処理し、グリコシル基(単数又は複数)をペプチドに共有結合的に付着させることにより、1つ又は複数のグリコシル基をペプチドに導入することができる。
【0005】
ペプチドプロセシングの生体外のin vitro工程による糖ペプチドの作製は時間及び費用がかかり得る。これは一部、ペプチド及び糖ペプチドのin vitroグリコシル化のための組換えグリコシルトランスフェラーゼを作製し、糖ペプチド治療薬を作製するのにかかる負担及びコストによるものである。組換え糖治療薬の要求及び用法が増大するとともに、糖ペプチドをより効率的に調製するために新たな方法が必要となる。
【0006】
その上、より多くの糖ペプチドが多様な疾患の治療に有用であることが発見されるに伴い、それらの生産コストを下げる方法が必要となる。さらに、糖ペプチド治療薬を開発及び改良するのに使用される組換え糖ペプチドをより効率的に作製する方法を開発することも、当該技術分野において必要とされている。
【0007】
グリコシルトランスフェラーゼ及びタンパク質のグリコシル化のためのその使用は、特許文献1に開示されている。
【0008】
シアリルトランスフェラーゼは、シアル酸(N−アセチルノイラミン酸)の糖タンパク質及び糖脂質の末端位置でのアクセプターオリゴ糖基質への翻訳後移動を触媒するグリコシルトランスフェラーゼのファミリーを構成する(非特許文献1)。ヒトゲノムは、哺乳動物細胞に存在する全ての既知のシアロオリゴ糖構造を合成するのに必要とされる20個を超える様々なシアリルトランスフェラーゼをコードすることが推測されているが、16個の異なるヒトシアリルトランスフェラーゼのcDNAしかクローニングされていない(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。当初、シアリルトランスフェラーゼは生化学的に精製され、そのcDNAはN末端配列を用いてクローニングされていた。得られたcDNA配列の比較により、基質結合に関与する2つの高度に保存された領域(L−シアリルモチーフ及びS−シアリルモチーフと呼ばれる)が明らかになった。続いて、幾つかのシアリルトランスフェラーゼを、シアリルモチーフ内で設計された縮重プライマーを用いるPCRにより又は発現クローニングによりクローニングした(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。ディファレンシャルディスプレイによる遺伝子クローニングにより、疾患関連プロセスにおいて推定される機能的重要性を有する新規のシアリルトランスフェラーゼの同定に対して全く異なるアプローチが与えられる。
【0009】
シアリルトランスフェラーゼは、その基質特異性及び組織分布が異なり、合成する炭水化物連結に従って4つのファミリーに分類される:ST3Galファミリー、ST6Galファミリー、ST6GalNAcファミリー及びST8Siaファミリー。各ファミリーのメンバーは或る特定のアクセプター基に対して強い活性を示すが、これらの酵素の基質特異性は重複し、複数の酵素により1つの連結が合成されることがある。
【0010】
治療用糖ペプチドの開発及び作製における有用性を有するかかる特定のシアリルトランスフェラーゼの1つが、シアル酸のシアル酸ドナーからシアル酸アクセプターへの移動を触媒するN−アセチルガラクトサミン−α2,6−シアリルトランスフェラーゼ(ST6GalNAcI)である。全長ニワトリST6GalNAcI酵素は例えば、非特許文献8に開示されている。
【0011】
これまでは、糖ペプチドのin vitro作製に対する組換えシアリルトランスフェラーゼのアベイラビリティを増大することに注力されてきた。
【0012】
Institute of Physical & Chemical Researchの特許文献2及び特許文献3は、ST6GalNAcIから誘導され、その活性に関与する部分、すなわち活性ドメインを含む分泌型のタンパク質を作製するための大腸菌の使用に言及している。
【0013】
Neose Technologies Inc.の特許文献4は、原核宿主細胞における修飾されたST6GalNAcIポリペプチドの発現に好適な条件下で組換え原核宿主細胞を成長させることを含む、修飾されたST6GalNAcIポリペプチドを作製する方法を記載している。これらの修飾されたST6GalNAcIポリペプチドは、Gal−β1,3GalNAc−α2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST3GalI)ポリペプチドの第1部分と、GalNAc−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼI(ST6GalNAcI)ポリペプチドの第2部分とを含むキメラポリペプチドである。修飾されたST6GalNAcIポリペプチドは更に、真核宿主細胞又は原核宿主細胞においてST6GalNAcIシグナルドメインの全て若しくは一部、ST6GalNAcI膜貫通ドメインの全て若しくは一部、及び/又はST6GalNAcIステムドメインの全て若しくは一部を欠いている切断型ポリペプチドであり得る。
【0014】
Neose Technologies Inc.の特許文献5は、a)原核微生物において真核生物グリコシルトランスフェラーゼをコードする核酸を発現すること、及びそれからb)原核微生物の細胞内コンパートメント内で可溶性の活性型真核生物グリコシルトランスフェラーゼの発現を可能にする条件下で原核微生物を成長させることにより、酸化環境を有する原核微生物において可溶性の真核生物グリコシルトランスフェラーゼを作製する方法を開示している。
【0015】
非特許文献9は、或る特定のタイプの酸化細胞質を保有するか、又は分子シャペロン/コシャペロントリガー因子、DnaK/DnaJ、GroEL/GroES及びSkpを同時発現する、改変された大腸菌株においてヒトシアリルトランスフェラーゼST6GalNAcIを発現する方法に関するものであり、大幅に増大した量の可溶性ST6GalNAcIを作製することができる。
【0016】
しかしながら、タンパク質フォールディング及びジスルフィド結合の形成に対する大腸菌の能力は十分ではなく、これらの制限を克服するために開発されたツールが数多く存在する。さらに、大腸菌発現系における組換えタンパク質の高い発現収率は多くの場合、可溶性の活性型タンパク質を得る際に重大な障害となり得る封入体を形成する不溶性の凝集タンパク質の集積を引き起し得る(非特許文献10)。
【0017】
大腸菌培養物における組換えシアリルトランスフェラーゼ作製に関連する課題を克服するために、昆虫細胞培養系が開発されている。
【0018】
特許文献6及び特許文献7は、組換えポリペプチド、例えばシアリルトランスフェラーゼを含む組成物を作製する方法であって、ポリペプチドが(例えばバキュロウイルス発現系を用いて)昆虫細胞で発現され、組成物がエンドグルカナーゼ活性を本質的に有しない、組換えポリペプチド、例えばシアリルトランスフェラーゼを含む組成物を作製する方法を開示している。該方法は、(i)混合物と混合モードクロマトグラフィー媒体とを接触させる工程と、(ii)ポリペプチドを含むフロースルー画分を発生させる混合モードクロマトグラフィー媒体からポリペプチドを溶出する工程とを含む、ポリペプチドを含む混合物を、混合モードクロマトグラフィーに供することを含む。
【0019】
しかしながら、バキュロウイルス−昆虫細胞発現系が複雑であること、要求されるウイルス種ストックの貯蔵安定性の制限、及び有効な感染に対する非常に高いウイルス力価の要件により、大規模の生物学的生産ではその使用が制限される場合がある。さらに、バキュロウイルス等のウイルスベクターが、哺乳動物細胞、特にヒト細胞に感染する可能性があることが分かっている(非特許文献11、非特許文献12)。このため、これらのベクターは、特に大規模の組換えタンパク質生産に適用する場合に、大量の感染細胞を取り扱うことから安全性の問題に関して脅威となる。
【0020】
昆虫細胞培養系の使用の記載の制限を克服する代替方法は、組換えシアリルトランスフェラーゼの製造に哺乳動物細胞系を使用することである。
【0021】
Neose Technologies Inc.の特許文献8は、原核宿主細胞又は昆虫宿主細胞においてST6GalNAcIシグナルドメインの全て若しくは一部、ST6GalNAcI膜貫通ドメインの全て若しくは一部、及び/又はST6GalNAcIステムドメインの全て若しくは一部を欠いている、単離された切断型ST6GalNAcIポリペプチドを作製する方法を開示しており、概して該ポリペプチドは哺乳動物細胞でも作製することができることを言及している。
【0022】
カルフォルニア大学の特許文献3は、宿主細胞、例えばCHO細胞に、膜アンカーと開裂可能な分泌シグナルセグメントで置き換えたステム領域のほとんどとを有する、グリコシルトランスフェラーゼを発現する遺伝子を保有するベクターをトランスフェクトする方法を記載している。得られる可溶性グリコシルトランスフェラーゼは、細胞で発現される場合、細胞により分泌される。それから分泌された可溶性グリコシルトランスフェラーゼは工業用途又は炭水化物合成研究に使用するために細胞培養培地から分離される。さらに、特許文献3はアフィニティークロマトグラフィーを使用することにより可溶性グリコシルトランスフェラーゼを精製する方法を開示している。
【0023】
しかしながら、哺乳動物細胞における組換えシアリルトランスフェラーゼの作製に関して言及された文献はいずれも、活性が高く、医薬品グレードまで精製され、また大規模生産に適した、組換えシアリルトランスフェラーゼを提供する方法を開示してはいない。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、活性及び純度が高い改良されたシアリルトランスフェラーゼを作製及び精製する方法を提供する。この目的は、CHO細胞においてシアリルトランスフェラーゼポリペプチドを発現すること、発現されたシアリルトランスフェラーゼポリペプチドを含有する細胞培養培地を回収すること、並びに培養培地を、(i)少なくとも1回のアフィニティークロマトグラフィー及び/又は1回の混合モードクロマトグラフィープロセスと、(ii)少なくとも1回の陰イオン交換クロマトグラフィー及び/又は1回の陽イオン交換クロマトグラフィープロセスとに供することにより、シアリルトランスフェラーゼポリペプチドを培養培地から精製することにより達成される。
【0039】
より具体的には、本発明は、シアリルトランスフェラーゼポリペプチドの精製を以下の順番で行う方法に関する:
i.陰イオン交換クロマトグラフィー;
ii.第1のアフィニティークロマトグラフィー;
iii.第2のアフィニティークロマトグラフィー又は混合モードクロマトグラフィー;
iv.陽イオン交換クロマトグラフィー。
【0040】
他に特に規定がなければ、本明細書に用いられる技術用語及び科学用語は全て、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似の又は同等のあらゆる方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用することができるが、好ましい方法及び材料を本明細書に記載している。
【0041】
A.シアリルトランスフェラーゼポリペプチド及び発現カセット
一実施形態では、シアリルトランスフェラーゼポリペプチドは、シアリルトランスフェラーゼシグナルドメインの全て若しくは一部、シアリルトランスフェラーゼ膜貫通ドメインの全て若しくは一部、及び/又はシアリルトランスフェラーゼステムドメインの全て若しくは一部を欠いている切断型シアリルトランスフェラーゼポリペプチドである。好ましくは、シアリルトランスフェラーゼポリペプチドはシアリルトランスフェラーゼ活性ドメインのみを含む。シアリルトランスフェラーゼポリペプチドはシグナルペプチドを更に含むことができる。
【0042】
好ましい実施形態では、EPOシグナル配列及びシアリルトランスフェラーゼポリペプチド配列をコードする発現カセットを、CHO細胞においてシアリルトランスフェラーゼポリペプチドを発現するのに使用する。
【0043】
「ポリペプチド」(代替的には「タンパク質」と称される)は、モノマーがアミノ酸であり、アミド結合によって結合しているポリマーを指す。加えて、ポリペプチドには、非天然アミノ酸、例えばP−アラニン、フェニルグリシン及びホモアルギニンも含まれる。遺伝子によってコードされないアミノ酸も本発明に使用することができる。さらに、反応基、グリコシル化部位、ポリマー、治療部分、生体分子等を含むように修飾されているアミノ酸も本発明に使用することができる。本発明に使用されるアミノ酸は全て、D−異性体又はL−異性体のいずれであってもよい。通常L−異性体が好ましい。さらに、他のペプチド模倣体も本発明に有用である。本明細書で使用される場合、「ペプチド」はグリコシル化ペプチド及び非グリコシル化ペプチドの両方を指す。ペプチドには、ペプチドを発現する系により不完全にグリコシル化されているペプチドも含まれる。概評に関しては、Spatola, A. F., in "Chemistry and biochemistry of amino acids, peptides and proteins", B. Weinstein, eds., Marcel Dekker, New York, p. 267 (1983)を参照されたい。「ポリペプチド」という用語には、一般的にタンパク質又はペプチドと称される分子が含まれる。
【0044】
シアリルトランスフェラーゼポリペプチドは、α−(2,3)シアリルトランスフェラーゼ(ST3Gal3)(Kitagawa and Paulson, 1994, J. Biol. Chem. 269: 1394-1401)、α−N−アセチルガラクトサミドα−2,6−シアリルトランスフェラーゼI(ST6GalNAcI)(非特許文献8)、及びβ1,3GalNAc−α2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST3GalI)(Gillespie et al., 1992, J. Biol. Chem. 267(29): 21004-10)を含むがそれらに限定されない、当業者によって既知の任意のシアリルトランスフェラーゼポリペプチドであり得る。
【0045】
「切断型シアリルトランスフェラーゼポリペプチド」は、天然のシアリルトランスフェラーゼよりも少ないアミノ酸残基を有するが、酵素活性を保持するシアリルトランスフェラーゼを指す。酵素が活性を保持していれば、いずれの数のアミノ酸残基が欠失してもよい。幾つかの実施形態では、ドメイン又はドメインの一部が欠失していてもよい。本発明の好ましい実施形態では、シアリルトランスフェラーゼポリペプチドはシアリルトランスフェラーゼ活性ドメインのみを含む。
【0046】
「活性ドメイン」又は「触媒ドメイン」は、酵素により行われる酵素反応を触媒するタンパク質ドメイン又はその部分配列を指す。例えば、シアリルトランスフェラーゼの触媒ドメインは、ドナーからアクセプター糖へとシアル酸残基を移動するのに十分なシアリルトランスフェラーゼの部分配列を含む。触媒ドメインは、酵素全体、その部分配列を含み得るか、又は天然の酵素若しくはその部分配列には付着しない更なるアミノ酸配列を含み得る。触媒領域の例としては、配列番号2による全長配列の232位のアミノ酸残基から566位のアミノ酸残基を含む、ニワトリST6GalNacIの触媒ドメインであるが、それに限定されない。ニワトリST6GalNacIの触媒ドメインを配列番号4に示す。好ましい実施形態では、シアリルトランスフェラーゼはST6GalNAcIである。典型的には、ST6GalNAcIは、ヒト、チンパンジー、オランウータン、ブタ、ウシ、イヌ、ラット、マウス及びニワトリのST6GalNAcIからなる群から選択される(非特許文献8、非特許文献9、特許文献8)。最も好ましい実施形態では、ST6GalNAcIは、配列番号1のヌクレオチド配列によりコードされるニワトリST6GalNAcIである。好ましくは、ST6GalNAcIポリペプチドは、配列番号3又は配列番号5によるヌクレオチド配列によりコードされ、それぞれ配列番号4又は配列番号6によるアミノ酸配列を有する。
【0047】
B.発現系
本発明によれば、シアリルトランスフェラーゼポリペプチドをCHO細胞又は当業者に既知の同等の細胞株で発現する。可溶性シアリルトランスフェラーゼの発現のために各遺伝物質を宿主細胞に導入するのに使用される特定の手法は特に重要ではない。当業者により理解されるように、プロモーターの選択、並びに本発明のシアリルトランスフェラーゼポリペプチドを発現するのに使用される宿主細胞に遺伝物質を導入するための方法及び戦略が当該技術分野で既知である。
【0048】
これらには、プラスミドベクター、ウイルスベクター、及びクローニングしたゲノムDNA、cDNA、合成DNA又は他の外来遺伝物質を宿主細胞に導入するための他の既知の方法のいずれかの使用が含まれる。用いられる特定の遺伝子工学的手法は、全長又は遺伝子修飾型又は切断型のシアリルトランスフェラーゼを発現することが可能な宿主細胞に少なくとも1つの遺伝子を首尾よく導入することができさえすれば十分である。
【0049】
「ベクター」は単離核酸を含み、単離核酸を細胞の内部に送達するのに使用することができる物質の組成物である。様々な種類のベクターが当該技術分野で既知であり、これには直鎖核酸、イオン性化合物又は両親媒性化合物に関連する核酸、プラスミド及びウイルスが含まれるが、それらに限定されない。このため、「ベクター」という用語には、自己複製するプラスミド又は遺伝子修飾したウイルスが含まれる。この用語は、例えばポリリシン化合物、リポソームのような核酸の細胞への移動を促進する非プラスミド化合物及び非ウイルス化合物を含むように解釈されるものとする。
【0050】
好適なベクターは、例えばCMVプロモーターを伴う、pSV40ベクター、pEF−1−αベクター、pSV2ベクター、pT−Rexベクター、pSecTag2ベクター、pBudCE4.1ベクター、又はpCDNA/His Maxベクターを含む。本発明の好ましい実施形態では、異種遺伝子の高レベルの発現のために設計されているpMOZ−G8ベクターをシアリルトランスフェラーゼポリペプチドの発現に使用する。中でも好適な選択マーカーは、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン及びジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)である。
【0051】
C.CHO細胞培養
本発明の実施形態によれば、作製方法の工程a)を、無血清フェドバッチ培養を使用することにより、及び5×10
5生存細胞数/mL以上、好ましくは1.5×10
6生存細胞数/mL以上の所定の細胞密度に達した後、37℃±1℃から32℃±1℃へのインキュベーション温度変化を用いることにより行う。本発明者らは、この温度変化が細胞の生存率を増大させ、それにより細胞を培養物中でより長期間維持することができることを見出している。これにより、より高い生産収率がもたらされる。
【0052】
例えば、温度変化を用いないと、細胞は5日間しか培養することができず、約24mg/lという生産収率が得られる。これに対して、温度変化を適用する場合、細胞を9日間培養することができ、68mg/lという生産収率が得られる。
【0053】
シアリルトランスフェラーゼポリペプチドを、ST6GalNAc1を過剰発現するように改変されたCHO由来の細胞株を用いて無血清フェドバッチ培養において作製する。発酵プロセスのための接種材料を、マスターセルバンク(MCB)の1つのバイアルからTフラスコ又はスピナーフラスコを用いて成長させ、その後シードバイオリアクターで培養する。それから接種材料を生産用バイオリアクターに移し、そこで細胞密度が作製に適したレベルに達するまで更に細胞の増殖を行う。
【0054】
温度変化は規定の細胞密度で開始し、グルコースレベルをグルコース溶液の供給により規定の範囲内に維持する。培養の終了時に、培養物を回収する。培養物中の細胞及び残屑を深層ろ過により回収物から取り除く。回収物をタンパク質精製を開始するまで2℃〜8℃で保管する。
【0055】
図1は本発明の好ましい実施形態の様々な細胞培養工程及び回収工程を示している。
【0056】
D.シアリルトランスフェラーゼの精製
本発明の更なる態様によれば、培養培地からのシアリルトランスフェラーゼポリペプチドの精製を、培養培地を少なくとも1回のアフィニティークロマトグラフィー工程及び/又は混合モードクロマトグラフィー工程と、少なくとも1回の陰イオン交換クロマトグラフィー工程及び/又は陽イオン交換クロマトグラフィー工程とに供することにより行う。
【0057】
好ましい実施形態では、精製は以下の順番で達成される:
i.酵素を含有する溶液を濃縮し、DNA、宿主細胞タンパク質(HCP)及び発酵培地化合物等の夾雑物の最初の低減をもたらす陰イオン交換クロマトグラフィー、
ii.シアリルトランスフェラーゼ酵素を濃縮し、宿主細胞タンパク質を枯渇させる中間精製工程として用いられる第1のアフィニティークロマトグラフィー、
iii.宿主細胞タンパク質レベルを効果的に低減させるのに用いられる第2のアフィニティークロマトグラフィー又は混合モードクロマトグラフィー、及び
iv.あらゆる残存する宿主細胞タンパク質及び他の夾雑物を取り除くのに用いられる陽イオン交換クロマトグラフィー。
【0058】
図2は本発明の好ましい実施形態の様々な精製工程を示している。
【0059】
I.陰イオン交換クロマトグラフィー工程
本発明の実施形態によれば、シアリルトランスフェラーゼポリペプチド精製プロセスには、陰イオン交換クロマトグラフィー(AEC)工程が含まれる。
【0060】
AECは、サンプル中のタンパク質と樹脂上に固定化された電荷との間の電荷間相互作用によるものである。陰イオン交換クロマトグラフィーでは、タンパク質の結合イオンが負電荷であり、樹脂上に固定化された官能基は正電荷である。一般的に用いられる陰イオン交換樹脂は、Q樹脂、第四級アミン及びDEAE(ジエチルアミノエタン)樹脂である。しかしながら概して、陰イオン交換クロマトグラフィー工程は、あらゆる一般的な市販の陰イオン交換樹脂又は陰イオン交換膜によって行うことができる。陰イオン交換樹脂をプレパックドカラムの形態で使用することができる。代替的に、カラムを自ら調製することができる。通常のカラム以外のカラムには容積及び形状に関して特別な制限はない。当業者であれば、使用する陰イオン交換樹脂の量が、捕捉工程においてカラムに適用される細胞培養液又は任意の他の液体、例えば先行するクロマトグラフィー工程の溶出液の総タンパク質含有量に応じて変わることを認識している。
【0061】
本発明で使用することができる典型的な強陰イオン交換樹脂は、第四級アミノエチル(QAE)部分、第四級アンモニウム(Q)部分、及びトリメチルアンモニウムエチル(TMAE)基等の官能基を含む。
【0062】
第四級アミノエチル(QAE)部分を有する樹脂としては、例えばToyopearl QAE(Tosoh Bioscience, Germanyから入手可能)、Selectacel QAE(セルロースの第四級アミノエチル誘導体、Polysciences Inc., Pennsylvania USAから入手可能)等が挙げられる。第四級アンモニウム(Q)部分を有する樹脂としては、例えばQ Sepharose XL、Q Sepharose FF、Q Sepharose HP、Resource Q(GE Healthcare, Germanyから入手可能)、Macro Prep High Q(Bio-Rad, California, USA)、Toyopearl Super Q(Tosoh Bioscience, Germanyから入手可能)、及びUNOsphere Q(Bio-Rad, California, USAから入手可能)が挙げられる。トリメチルアンモニウムエチル(TMAE)基を有する樹脂としては、例えばFractogel EMD TMAE(Merck, Germanyから入手可能)が挙げられる。
【0063】
陰イオン交換クロマトグラフィーは、−N
+(CH
3)
3官能基を有する強陰イオン交換樹脂、又は同様の特性を有する樹脂を用いて行われる強陰イオン交換クロマトグラフィーであるのが好ましい。本発明で使用することができる強陰イオン交換樹脂の好ましい例は、UNOsphere Q、Q Sepharose HP、Q Sepharose FF、及び第四級アンモニウム(Q)部分を有する他の樹脂として当該技術分野で知られる第四級アンモニウム強陰イオン交換樹脂である。本発明の最も好ましい実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィーを市販のQ−Sepharose Fast Flow樹脂によって行う。
【0064】
陰イオン交換クロマトグラフィーの工程を、弱アルカリ性のpHを有する平衡バッファーを用いて行うのが好ましい。好適なバッファーとしては、例えばホウ酸バッファー、トリエタノールアミン/イミノ二酢酸、Tris、酢酸アンモニウム、トリシン、ビシン、TES、HEPES、TAPSが挙げられる。Trisバッファーの使用が好ましく、バッファーは、7.6のpHで20mMのTrisを含有するのがより好ましい。陰イオン交換樹脂を平衡バッファーで1回又は複数回洗浄し、フロースルー画分を廃棄する。陰イオン交換樹脂からの溶出は通常、塩、好ましくは塩化ナトリウムの添加により移動相の導電率を増大することにより達成される。好ましくは、陰イオン交換クロマトグラフィーは、溶離液として7.0〜8.0の範囲のpHでNaCl/Tris−HClバッファーを用いて行う。より好ましくは、溶出バッファーは、7.6のpHで800mMのNaCl及び20mMのTris/HClを含有する。
【0065】
II.第1のアフィニティークロマトグラフィー工程
本発明の実施形態によれば、シアリルトランスフェラーゼポリペプチド精製プロセスには、アフィニティークロマトグラフィー工程(好ましくは色素アフィニティークロマトグラフィーである)が含まれる。
【0066】
好ましい実施の形態では、シアリルトランスフェラーゼポリペプチドを精製する方法は、単一のアフィニティークロマトグラフィー工程を含み、単一のアフィニティークロマトグラフィー工程が色素アフィニティークロマトグラフィー工程であるのがより好ましい。
【0067】
色素アフィニティークロマトグラフィーは、サンプルのタンパク質上の結合部位に対する固定化色素の高い親和性に基づくものである。色素アフィニティークロマトグラフィーの工程は、固定化リガンドとして当業者に既知の色素化合物、すなわちCibacron Blue F3G−Aを有する樹脂を用いて行う。「固定化」という用語は、当業者によって十分に理解されるものであり、リガンドが樹脂と化学的に連結するという意味でリガンドを誘導体化することを意味する。特に好ましい樹脂は、Blue Sepharose FF(Amersham Biosciences Inc.から入手可能)である。
【0068】
本方法は同様の特性を有する代替的な樹脂により行うことができることが理解される。代替的な樹脂の例としては、Toyopearl AF−blue−HC−650M(Tosoh Bioscience)、Toyopearl SuperButyl 550、Toyopearl Phenyl 650、Blue Cellthru BigBead(Sterogene)、SwellGel Blue(Pierce)、Cibachrome blue 3GA−agarose 100(Sigma)、Affi−Gel Blue(BioRad)、Econo−Pac blueカートリッジ(Bio-Rad)、Blue sepharose HP(Amersham)、Cibacron Blue 3GA(Sigma)、Blue Sepharose 6FF(GE Healthcare)、ProSep PB(Millipore)、Methyl Sepharose、及びCDP Sepharose(Calbiochem)が挙げられる。
【0069】
色素アフィニティークロマトグラフィーの工程を、弱アルカリ性のpHを有する平衡バッファーを用いて行うのが好ましい。好適なバッファーとしては、例えばMES、Bis−Tris、ADA、PIPES、ACES、BES、MOPS、TES、HEPESが挙げられる。好ましくは、平衡バッファーは、リン酸カリウムバッファー及びNaClを含む。より好ましくは、平衡バッファーは、25mMのリン酸カリウムバッファー(pH7.5)及び50mMのNaClを含む。親和性樹脂を平衡バッファーで1回又は複数回洗浄し、フロースルー画分を廃棄する。より好ましい実施形態では、色素アフィニティークロマトグラフィーを、溶離液として7.0〜8.0の範囲のpHで塩酸L−アルギニン/リン酸カリウムバッファーを用いて行う。最も好ましくは、タンパク質を7.5のpHで500mMの塩酸L−アルギニン及び25mMのリン酸カリウムを含有するバッファーによって溶出させる。
【0070】
III.第2のアフィニティークロマトグラフィー工程又は混合モードクロマトグラフィー
本発明の実施形態によれば、シアリルトランスフェラーゼポリペプチド精製プロセスは、先の第II章に記載された第2のアフィニティークロマトグラフィー工程、又は混合モードクロマトグラフィー、好ましくはヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーを含む。
【0071】
ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーは、マトリクス及びリガンドの両方を形成する不溶性の水酸化リン酸カルシウムCa
10(PO
4)
6(OH)
2を利用する混合モードクロマトグラフィーである。官能基は、正に帯電したカルシウムイオン対(C部位)及び負に帯電したリン酸基の集団(P部位)からなる。ヒドロキシアパタイトとタンパク質との間の相互作用は複雑かつ多重モードである。相互作用の方法の1つでは、タンパク質上の正に帯電したアミノ基が負に帯電したP部位と結び付き、タンパク質上の負に帯電したカルボキシル基がC部位との配位錯体形成により相互作用する(Shepard (2000) J. of Chromatography 891:93-98)。
【0072】
結晶性ヒドロキシアパタイトは、クロマトグラフィーに用いられた最初のタイプのヒドロキシアパタイトであった。セラミックヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーはヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーにおける更なる改良型である。セラミックヒドロキシアパタイトは、ナノ結晶が凝集し、粒子となり、高温で融解して、クロマトグラフィー用途に好適な安定したセラミックミクロスフェアを生じる形態のヒドロキシアパタイトを指す。セラミックヒドロキシアパタイトの市販例としては、CHTタイプI及びCHTタイプIIが挙げられるが、それらに限定されない。
【0073】
セラミックヒドロキシアパタイトは、耐久性が高く、タンパク質結合能が良好であり、結晶性ヒドロキシアパタイトよりも高い流速及び圧力で使用することができる(Vola et al. (1993) BioTechniques 14:650-655)。ヒドロキシアパタイトはタンパク質、核酸及び抗体のクロマトグラフィーによる分離に用いられている。ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーでは、通常カラムを平衡状態にし、サンプルを低濃度のリン酸バッファー中で適用した後、吸着したタンパク質をリン酸バッファーの濃度勾配で溶出させる(Giovannini, (2000) Biotechnology and Bioengineering 73:522-529)。
【0074】
任意のヒドロキシアパタイト樹脂を用いて、本発明による方法の混合モードクロマトグラフィー工程を行うことができる。好ましい実施形態では、混合モードクロマトグラフィー工程は、タイプI又はタイプIIのヒドロキシアパタイト樹脂等のセラミックヒドロキシアパタイト樹脂で行う。ヒドロキシアパタイト樹脂は、20μm、40μm又は80μmのような任意のサイズの粒子を有し得る。非常に好ましい実施形態では、セラミックヒドロキシアパタイト樹脂は40μmのサイズを有する粒子を含む。特に好適なヒドロキシアパタイト樹脂は、CHTセラミックヒドロキシアパタイトタイプI(40μm)という商品名で市販されているカラムである。
【0075】
平衡バッファーは6.3〜7.3のpHでリン酸カリウムバッファーを含むのが好ましく、平衡バッファーはpH6.8で5mMのリン酸カリウムバッファーを含むのがより好ましい。ヒドロキシアパタイト樹脂を平衡バッファーで1回又は複数回洗浄し、フロースルー画分を廃棄する。本発明のより好ましい実施形態では、ヒドロキシアパタイトアフィニティークロマトグラフィーを、溶離液として6.3〜7.3の範囲のpHでNaCl/リン酸カリウムバッファーを用いて行う。最も好ましくは、溶出バッファーは、6.8のpHで5mMのリン酸カリウムバッファー及び1MのNaClを含有する。
【0076】
IV.陽イオン交換クロマトグラフィー工程
本発明の実施形態によれば、シアリルトランスフェラーゼポリペプチド精製プロセスには、陽イオン交換クロマトグラフィー(CEC)工程が含まれる。
【0077】
CECは、サンプル中のタンパク質と樹脂上に固定化された電荷との間の電荷間相互作用によるものである。陽イオン交換クロマトグラフィーでは、タンパク質の結合イオンが正電荷であり、固定化された官能基は負電荷である。一般的に用いられる陽イオン交換樹脂は、S樹脂、硫酸塩誘導体、及びCM(カルボキシメチル)樹脂、カルボキシル化誘導イオンである。
【0078】
しかしながら概して、陽イオン交換クロマトグラフィー工程は、あらゆる一般的な市販の陽イオン交換樹脂又は陽イオン交換膜によって行うことができる。陽イオン交換樹脂を、官能基、例えばスルホン酸が固定されている充填済みのカラム又は膜の形態で使用することができる。代替的に、カラムを自ら調製することができる。通常のカラム以外のカラムには容積及び形状に関して特別な制限はない。当業者であれば、使用する陽イオン交換樹脂の量が、細胞培養液又は任意の他の液体、例えば先行するクロマトグラフィー工程の溶出液の総タンパク質含有量に応じて変わることを認識している。
【0079】
様々なタイプの陽イオン交換材料は、Bio−Rex(商標)(例えばタイプ70)、Chelex(商標)(例えばタイプ100)、Macro−Prep(商標)(例えばタイプCM、High S、25 S)、AG(商標)(例えばタイプ50W、MP)(全てBioRad Laboratoriesから入手可能);WCX 2(Ciphergenから入手可能)、Dowex(商標)MAC−3(Dow Chemical companyから入手可能)、Mustang C及びMustang S(Pall Corporationから入手可能)、Cellulose CM(例えばタイプ23、52)、hyper−D、partisphere(Whatman plc.から入手可能)、Amberlite(商標)IRC(例えばタイプ76、747、748)、Amberlite(商標)GT 73、Toyopearl(商標)(例えばタイプSP、CM、650M)(全てTosoh Bioscience GmbHから入手可能)、CM 1500及びCM 3000(BioChrom Labsから入手可能)、SP−Sepharose(商標)、CM−Sepharose(商標)(GE Healthcareから入手可能)、Porous樹脂(PerSeptive Biosystemsから入手可能)、Asahipak ES(例えばタイプ502C)、CXpak P、IEC CM(例えばタイプ825、2825、5025、LG)、IEC SP(例えばタイプ420N、825)、IEC QA(例えばタイプLG、825)(Shoko America Inc.から入手可能)、50W陽イオン交換樹脂(Eichrom Technologies Inc.から入手可能)のように様々な商品名で、多くの供給業者から入手可能である。好ましくは、陽イオン交換材料は、Macro−Prep(商標)High S若しくは25S、MacroCap SP、Toyopearl(商標)SP 650M、Source S、SP Sepharose、又はPOLYCAT A等の強陽イオン交換材料である。
【0080】
本発明の好ましい実施形態では、陽イオン交換工程は、スルホプロピル陽イオン交換材料を含有する樹脂又は同様の特性を有する樹脂によって行う。本発明の最も好ましい実施形態では、陽イオン交換クロマトグラフィーは、市販のSP−Sepharose High Performance樹脂によって行う。
【0081】
陽イオン交換クロマトグラフィーの工程を、弱酸性のpHを有する平衡バッファーを用いて行うのが好ましい。好適なバッファーとしては、例えばマレイン酸、マロン酸、クエン酸、乳酸、ギ酸、ブタン二酸、酢酸、リン酸、HEPES及びBICINEが挙げられる。リン酸バッファーの使用が好ましく、平衡バッファーは、6.0のpHで25mMのリン酸カリウムバッファーを含有するのがより好ましい。陽イオン交換樹脂を平衡バッファーで1回又は複数回洗浄し、フロースルー画分を廃棄する。陽イオン交換樹脂からの溶出は通常、塩、好ましくは塩化ナトリウムの添加により移動相の導電率を増大することにより達成される。好ましくは、陽イオン交換クロマトグラフィーは、溶離液として6.0〜7.0の範囲のpHを有するNaCl/リン酸カリウムバッファーを用いて行う。より好ましくは、溶出バッファーは、6.0のpHで250mMのNaCl及び25mMのリン酸カリウムを含有する。
【0082】
V.更なる精製工程
さらに、本方法はろ過工程を含むことができる。ろ過プロセスは、当業者によって既知であり、あらゆる一般的な方法を使用することができる。本方法は、本方法の様々な工程で1つ又は複数の限外ろ過プロセスを含むことができる。本方法は、例えば最終的なウイルス除去のためにナノろ過を含むことができる。
【0083】
限外ろ過は静水圧によって液体が半透膜に押し付けられる形態の膜ろ過である。高分子量の懸濁固体及び溶質が保持される一方で、水及び低分子量の溶質が膜を通過する。限外ろ過は、巨大分子の溶液、特にタンパク質溶液を精製及び濃縮するのに一般的に用いられる分離方法である。限外ろ過はナノろ過に類似しているが、保持される分子のサイズが異なる。本発明の構成では、10kDaの分子量カットオフが好ましい(10kDa UF)。UF膜を希釈及び再濃縮の反復又は継続により、溶液から塩及び他の微細種を取り除く透析ろ過にも使用することができる。
【0084】
好ましくは、精製プロセスは1回又は複数回の限外/透析ろ過工程を含む。これらのろ過工程は、クロマトグラフィー工程の前に、その間に、及び/又はその後に行うことができる。好ましくは、1回の透析ろ過工程をクロマトグラフィー工程の間に、例えば混合モードクロマトグラフィー工程と陽イオン交換クロマトグラフィー工程との間に行い、1回の限外ろ過/透析ろ過工程をクロマトグラフィー工程の後に行う。これらのろ過工程は、市販のろ過デバイス、例えばGE Healthcare又はSartoriusから入手可能なろ過デバイスを用いて行うことができる。限外ろ過は、Sartoriusが提供するSartoconカセット及びSartocon Sliceカセットを用いて行うのが好ましい。
【0085】
E.作製されるシアリルトランスフェラーゼポリペプチド
別の態様では、本発明は、本発明による方法のいずれか1つにより作製されるシアリルトランスフェラーゼポリペプチドを提供する。
【0086】
一実施形態では、シアリルトランスフェラーゼポリペプチドは、シアリルトランスフェラーゼシグナルドメインの全て若しくは一部、シアリルトランスフェラーゼ膜貫通ドメインの全て若しくは一部、及び/又はシアリルトランスフェラーゼステムドメインの全て若しくは一部を欠いている切断型シアリルトランスフェラーゼポリペプチドである。本発明の好ましい実施形態では、シアリルトランスフェラーゼポリペプチドはシアリルトランスフェラーゼ活性ドメインのみを含み、上記ポリペプチドは可溶性である。最も好ましい実施形態では、シアリルトランスフェラーゼは、ST6GalNAcI、好ましくはニワトリ由来のST6GalNAcIであり、最も好ましくはシアリルトランスフェラーゼは配列番号4又は配列番号6によるタンパク質である。
【0087】
本発明の方法により作製されるシアリルトランスフェラーゼポリペプチドには、従来技術のシアリルトランスフェラーゼポリペプチドを上回る幾つかの利点がある。本発明の新規の改良された作製方法により、活性が高く、医薬品グレードまで精製され、また大規模生産に適したシアリルトランスフェラーゼポリペプチドが提供される。
【0088】
「純粋な(pure)」という用語は、シアリルトランスフェラーゼポリペプチドが、ポリペプチドを調製するのに用いられる混合物中に通常該材料とともに存在する構成要素、例えばDNA又は宿主細胞タンパク質を実質的に又は本質的に含まないことを指す。典型的には、本発明の方法により作製されるシアリルトランスフェラーゼポリペプチドは、少なくとも98%の純度、好ましくは少なくとも99%の純度である。純度は任意の当該技術分野で認識される分析方法(例えば銀染色ゲル上のバンド強度、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLC、RP−HPLC、ELISA又は同様の手段)により決定される。
【0089】
「活性型(active)」という用語は本発明の方法により作製されるシアリルトランスフェラーゼポリペプチドの比活性を指し、その活性はシアル酸部分をドナー分子からアクセプター分子へと移動させるシアリルトランスフェラーゼの触媒活性を意味する。
【0090】
ST6GalNAcIの触媒活性は、α2,6連結によりシアル酸部分をCMP−シアル酸から糖タンパク質のアミノ酸スレオニン/セリンとO連結したN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)残基に移動させることを指す。比活性は活性単位で表すことができる。本明細書で使用される場合、1活性単位は、所与のアクセプター基質、温度及びpH値で1分当たり1μmolの生成物の形成を触媒するものである。本発明では、ST6GalNAcIの比活性は、5U/mg〜10U/mg、好ましくは6U/mg〜9U/mg、最も好ましくは7U/mg〜8U/mgの範囲である。
【0091】
シアリルトランスフェラーゼ活性は既知の方法により決定することができる。かかる方法としては、蛍光アッセイ、RP−HPLCベースのアッセイ及び放射性アプローチが挙げられる(Spiegel et al., 1992, J Chromatogr., 573(1):23-7、Gross et al., 1990, Anal Biochem., 186(1):127-34、非特許文献9)。
【0092】
F.シアリルトランスフェラーゼの使用
更なる態様では、本発明は治療用タンパク質のグリコシル化のための、特にヒトG−CSF、エリスロポエチン、IFN、hGH、FSH、インスリン又は抗体の糖PEG化のための本発明による方法により作製されたST6GalNacIの使用を含む。
【0093】
グリコシルトランスフェラーゼST6GalNAcIは、治療用タンパク質のグリコシル化に必須の成分である。加えて、ST6GalNAcIは、治療的に重要な糖ペプチド及びオリゴ糖治療薬の研究及び開発に重要な成分である。
【0094】
本発明の修飾されたST6GalNAcIシアリルトランスフェラーゼ酵素は、グリコシル化ペプチドのin vivo及びin vitroでの調製に、並びに本発明の修飾されたグリコシルトランスフェラーゼ酵素により移動することができる特定のグリコシル残基を含有するオリゴ糖の作製に有用である。修飾型のST6GalNAcIポリペプチドは、その全長ポリペプチド対応物に匹敵する、場合によってはそれを超える生体活性を保有することができる。
【0095】
「グリコシル化」という用語は、本明細書で使用される場合、本発明の方法により調製されるシアリルトランスフェラーゼによる被修飾糖種と、ポリペプチド、例えばエリスロポエチンペプチドのアミノ酸残基又はグリコシル残基との酵素によって媒介される共役を指す。グリコシル化の下位種(Subgenera)は、「複合糖質化(glycoconjugation)」、及び被修飾糖の修飾基がポリ(エチレングリコール)、そのアルキル誘導体(例えばm−PEG)又は反応性誘導体(例えばH
2N−PEG、HOOC−PEG)である「糖PEG化」である。
【0096】
「治療用タンパク質」は、本明細書で使用される場合、疾患若しくは機能不全を治療するために、又は被験体の健康状態を改善するために被験体に投与されるタンパク質、ペプチド、糖タンパク質又は糖ペプチドを指す。好ましい実施形態では、被験体はヒトである。更に好ましい実施形態では、治療用タンパク質はヒトタンパク質である。更なる実施形態では、治療用タンパク質はCHO細胞で作製される1つ又は複数のグリコシルトランスフェラーゼによりグリコシル化されるか、又はそうでなければ修飾される。
【0097】
G−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)は、造血前駆細胞の増殖及び分化、並びに成熟好中球の活性化を刺激する造血成長因子である。G−CSFはin vitro及びin vivoで好中球増殖を支持することが可能である。ヒト型のG−CSFは1986年に日本及び米国のグループによってクローニングされた(例えばNagata et al., 1986, Nature 319: 415-418を参照されたい)。天然のヒト糖タンパク質は2つの形態で存在し、1つは174個のアミノ酸を有し、もう1つは177個のアミノ酸を有する。より豊富でかつ活性が高い174アミノ酸型が組換えDNA技術による医薬品の開発に使用されている。
【0098】
以下の実施例は、切断型のニワトリST6GalNAcIポリペプチドの作製及び精製を表し、本発明の方法を更に説明するために与えられているにすぎない。本発明の範囲が以下の実施例のみで構成されるものであるとは解釈されない。
【実施例】
【0099】
1.発現カセットの構築
発現カセットは、介在配列の8つのアミノ酸がN末端に付着した、アミノ酸K232でN末端切断したニワトリグリコシルトランスフェラーゼ(α−N−アセチル−ノイラミニル−2,3−β−ガラクトシル−1,3−N−アセチルガラクトサミニドα−2,6−シアリルトランスフェラーゼI)からなるST6GalNAcIポリペプチドの発現のために作製した。発現に用いられる全アミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0100】
翻訳開始シグナルを付加するため、及び発現率を増大するため、切断型ST6GalNAcIポリペプチドをコードする核酸をヒトゲノムのエリスロポエチン(EPO)の発現カセットに導入し、EPOのコード配列を置き換えた。
【0101】
ST6GalNAcI転写ユニットは全体として、以下の要素を含有するように設計された:
EPOシグナル配列(ヒトエリスロポエチンエキソン1(4つのアミノ酸をコードする)、イントロン1、及びエキソン2の一部(27個のアミノ酸:MGVHECPAWLWLLLSLLSL PLGLPVLGをコードする)からなる);
ST6GalNAcI及び介在配列のヌクレオチド配列(配列番号5);
ヒトエリスロポエチンの3’−UTR、285bp;
5’−Not I部位を有する45bpのリンカー(3’−MunI部位はSV40配列の不可欠部分である)。
【0102】
配列番号6で提示されるアミノ酸配列に基づき、成熟ST6GalNAcIのヌクレオチド配列を、CHO細胞でのコドン使用頻度に合わせて最適化した。しかしながら、ゲノムEPO配列から誘導されるヌクレオチドは、天然ヒトエリスロポエチン配列に適合しておらず、また対応していなかった。得られる発現カセットはEcST6と略される。EcST6のヌクレオチド配列はシークエンシングにより確認された(配列番号7)。配列一致度は100%であった。
【0103】
2.発現ベクターの構築
合成EcST6画分をNotI/MnuI画分として発現ベクターpMOZ−G8にクローニングした。
【0104】
このベクターは、アンピシリン耐性を与えるβ−ラクタマーゼ発現ユニットと、原核生物要素としてpBR322複製起点と、SV40初期遺伝子プロモーターにより誘導される真核生物選択マーカーであるジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)と、対応するSV40 3’−UTRとを含有するpSV2骨格に基づくものである。元のマウスDHFR選択マーカーをCHO DHFR遺伝子との部分融合により修飾し、選択剤メトトレキサート(MTX)に対する10分の1の親和性を示す組換えハイブリッドDHFR(DHFRec)を得た。DHFRec選択マーカーをトランスフェクトした細胞をより大量のMTXによって選択し、初めにCHOSI CHO DHFR前駆細胞株に存在する内因性DHFRをブロックし、プラスミド由来のDHFRecを保有する遺伝子操作した細胞のみを濃縮することができる。遺伝子発現は強いmCMVプロモーターの制御下にある。mCMVプロモーターの下流には、マルチクローニングサイト(MCS)及びウサギβ−グロビンイントロン、並びにcDNA転写産物の有効な発現を可能にする3’−UTRがある。
【0105】
カセットのベクターpMOZ−G8への挿入をPCRで確かめた。
【0106】
大腸菌細胞を発現プラスミドpMO7−G8 EcST6によって形質転換した。様々な形質転換体のコロニースクリーニングを行い、プラスミドDNAを選択クローンから調製した。pMO7−G8 EcST6の同一性を確認するために、全ヌクレオチド配列をDNAシークエンシングで確かめた。
【0107】
3.CHO細胞株
分泌型のニワトリST6Gal−NAcIの発現のために、チャイニーズハムスター卵巣細胞株を使用した。ST6GalNAcIの作製に用いられる親細胞株は、無血清及び無タンパク質の培地での成長に適しているジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)活性を欠いたチャイニーズハムスター卵巣細胞株(CHO dhfr−)であるCHOSI 4の誘導体である。
【0108】
宿主細胞株CHOSI 4の概要:
CHOSI 4宿主細胞株をCHO dhfr−から誘導した(ATCC番号CRL−9096;DSMZ, Braunschweig, GermanyによるACC126)。
CHOSI 4宿主細胞株は、MAM−PF2培地中の長期培養による無血清及び無タンパク質の既知組成培地中の成長に適していた。
CHOSI 4の形態は円形である。培養物は単一細胞懸濁液として成長させる。
CHOSI 4は血清、タンパク質、ペプチド又は加水分解物を含有しない、無動物成分の既知組成MAM−PF培地での成長に適している。また、細胞株を他の市販の無血清培地中で培養することができる。
CHOSI 4を1週間当たり1:50の総分割比で継代培養する。細胞を初めに1:20で分割し、新たなフラスコに入れ、4日後に初期容量の3/2の新鮮な培地を得る。CHOSI 4は、1日当たり1を超える比成長速度(D>1×d
−1)及び撹拌培養系においてバッチモードで2×10
6細胞数/mL、及びフェドバッチモードで1×10
7細胞数/mLという細胞密度を示す。
付着因子又はウシ胎仔血清を細胞培養培地に添加することにより、細胞形態が変化し、上皮層へとCHOSI 4細胞が逆戻りする。
【0109】
4.細胞の培養及び回収
Tフラスコ及びスピナーフラスコ内での細胞の解凍及び接種材料の増殖
MCBの単一バイアルを液体窒素の気相中での保管から取り出し、37±1℃の温浴で加温した。細胞を遠心分離により予め加温した新鮮な培養培地の入ったTフラスコ内に回収した。更なる接種材料の増殖は、スピナーフラスコ内での希釈工程及び継代培養工程により、培養培地の容量をバイオリアクター内でのシードとして用いるのに適切な最終容量まで増大することで達成された。
【0110】
シードバイオリアクター内での細胞増殖
スピナーフラスコ内での細胞の増殖後、接種材料をシードバイオリアクターに移し、新鮮な培地を用いて、容量を10Lの最終実施容量まで増大させた。生産用バイオリアクターでの接種に適切な細胞数が達成されるまで、細胞を3日間シードバイオリアクター内で培養した。
【0111】
生産用バイオリアクター内での培養
シードバイオリアクター内での成長後、シードバイオリアクターの内容物を無菌状態で生産用バイオリアクターに移し、移した培養物を新鮮な培養培地を用いて最終実施容量まで増殖させた。1.5×10
6生存細胞数/mL以上の所定の細胞密度に達した後、37℃±1℃から32℃±1℃へとインキュベーション温度を下げた。グルコースレベルは4g/L〜8g/Lの濃度のグルコース溶液を供給することにより、規定の範囲内に維持した。発酵プロセスは生産用バイオリアクター内での培養開始の14日〜17日後に終了させた。
【0112】
回収及び保管
発酵の終了後、滅菌使い捨てバッグでの回収物の深層ろ過により、生産用バイオリアクターの細胞懸濁液から細胞及び残屑を取り除いた。使い捨て深層フィルターを回収物のろ過に用いた。回収物を更なる下流の処理まで2℃〜8℃で保管した。
【0113】
5.精製
精製−実施例1
ST6GalNAcIの精製プロセスは、陰イオン交換カラムを用いる捕捉クロマトグラフィー工程から開始した。続く精製工程には、アフィニティークロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、限外ろ過/透析ろ過、陽イオン交換クロマトグラフィー、及び15nmのPlanova(商標)膜に通す最後のナノろ過が含まれていた。クロマトグラフィー工程は勾配クロマトグラフィー系を用いて行い、自動で実行した。UV吸収、導電率、pH、流速及び背圧をクロマトグラフィー工程ごとに好適なソフトウェアにより記録した。
【0114】
用いられるカラムのタイプ及び樹脂を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
第1のカラム:陰イオン交換クロマトグラフィー(Q−Sepharose FF)
Q−Sepharose Fast Flow樹脂による陰イオン交換クロマトグラフィーを第1のクロマトグラフィー工程として使用し、回収物中でST6GalNAcIを捕捉し、容量を低減した。
【0117】
ST6GalNAcIを、20mMのTris HCl(pH7.6)中での800mMのNaClの塩添加工程を適用することにより溶出した。溶出液をUV吸収プロファイルに基づき回収した。
【0118】
クロマトグラフィー条件は表2にまとめる。
【0119】
【表2】
【0120】
第2のカラム:アフィニティークロマトグラフィー(Blue Sepharose 6 FF)
Blue Sepharose 6FFは、色素Cibacron Blue(商標)と共有結合的に連結するアガロース樹脂であり、Q−Sepharose溶出液に含有される夾雑物の存在下でST6GalNAcIと優先的に結合させるのに使用した。ST6GalNAcIを25mMのリン酸カリウムバッファー(pH7.5)中の500mMの塩酸L−アルギニンによって溶出した。溶出液をUV吸収プロファイルに基づき回収した。
【0121】
クロマトグラフィー条件を表3にまとめる。
【0122】
【表3】
【0123】
第3のカラム:混合モードクロマトグラフィー(ヒドロキシアパタイト)
ヒドロキシアパタイト樹脂での混合モードクロマトグラフィーを、中間工程として使用して、HCP及びDNAのレベルを更に低減した。ST6GalNAcIを5mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.8)中の1.0MのNaClによって溶出した。溶出液をUV吸収プロファイルに基づき回収した。
【0124】
クロマトグラフィー条件を表4にまとめる。
【0125】
【表4】
【0126】
限外ろ過/透析ろ過
ヒドロキシアパタイト溶出液を、30kDaの分子量カットオフ(MWCO)でSartoconスライスモジュールを用いて透析ろ過した。接線流ろ過を実施し、生成物を脱塩及び濃縮して、最終的にバッファーを25mMのリン酸カリウムバッファー(pH6.0)に交換した。
【0127】
第4のカラム:陽イオン交換クロマトグラフィー(SP Sepharose)
陽イオン交換クロマトグラフィーを最終精製(polishing)工程として用い、残りの残存するHCPを可能な限り全て除去した。特定条件下で、適用されるST6GalNAcIを25mMのリン酸カリウムバッファー(pH6.0)中の250mMのNaClによって溶出した。
【0128】
クロマトグラフィー条件を表5にまとめる。
【0129】
【表5】
【0130】
限外ろ過/透析ろ過及び配合
SP−Sepharose溶出液を30kDaのMWCOでSartoconスライスモジュールによって透析ろ過した。接線流ろ過を実施し、生成物を脱塩及び濃縮して、バッファーを50mMのBisTris(pH6.5)、100mMのNaCl、5%ソルビトールに交換した。
【0131】
透析ろ過の完了後、Tween 80を最終濃度が0.003%になるまで添加した。
【0132】
精製−実施例2
第1のカラム:陰イオン交換クロマトグラフィー(Q Sepharose FF)
このプロセス工程を陰イオン交換クロマトグラフィーによる、清澄化した(clarified)滅菌ろ過済みのバイオリアクター回収物からのcST6の捕捉に用いる。バイオリアクターからの1000mLの上清をバッファーA(20mMのTris(pH7.6))で1:3に希釈して、omni 25/150 Q Sepharose FFカラムに充填した。cST6を線形NaCl勾配(0−1M、20CV)により溶出した。
【0133】
第2のカラム:アフィニティークロマトグラフィー(CDPアフィニティーマトリクス)
このアフィニティークロマトグラフィープロセス工程は、cST6純度を増大するのに重要な中間工程である。Q Sepharose捕捉工程からの画分9〜画分11のプールをバッファーA(10mMのMES(pH6.8)、25%グリセロール)で1:3に希釈して、XK 10/55 CDPアフィニティーカラムに充填した。CDPカラムの過充填を避けるために、充填物を2つの同一のCDP操作に適用した。cST6を線形NaCl勾配(0−1M、10CV)により溶出した。
【0134】
第3のカラム:陰イオン交換クロマトグラフィー(Mono Q Sepharose)
この陰イオン交換クロマトグラフィーを最終精製工程として用いた。CDP中間工程からのcST6画分のプールをバッファーA(20mMのTris(pH7.6))で1:10に希釈し、Mono Q HR 10/10カラムに充填した。cST6を線形NaCl勾配(0−0.6M、5CV)により溶出した。
【0135】
精製−実施例3
第1のカラム:陰イオン交換クロマトグラフィー(Q−Sepharose FF)
Q−Sepharose Fast Flow樹脂による陰イオン交換クロマトグラフィーを第1のクロマトグラフィー工程として使用し、回収物中でST6GalNAcIを捕捉し、容量を低減した。フェドバッチ培養バイオリアクターからの300mLの清澄化した滅菌ろ過済みの上清を精製した。
【0136】
クロマトグラフィー条件を表6にまとめる。
【0137】
【表6】
【0138】
第2のカラム:中間アフィニティークロマトグラフィー(Blue Sepharose FF)
このアフィニティークロマトグラフィープロセス工程はcST6純度を増大するのに重要な中間工程である。捕捉クロマトグラフィー工程の溶出液(29mL)を希釈し、Blue Sepharoseクロマトグラフィー工程により精製した。
【0139】
クロマトグラフィー条件を表7にまとめる。
【0140】
【表7】
【0141】
第3のカラム:精製アフィニティークロマトグラフィー(Prosep PB)
ProSep−PB媒体は孔径を制御したガラスビーズに固定化された合成m−アミノフェニルリガンドで構成されている。
【0142】
このアフィニティークロマトグラフィーを最終精製工程として用いた。15mLの中間溶出液をこのクロマトグラフィー工程で精製した。
【0143】
クロマトグラフィー条件を表8にまとめる。
【0144】
【表8】
【0145】
6.生成物のST6GalNAcI純度、比活性及び収率
実施例1
実施例1に従って精製したST6GalNAcIの純度を、3つのバッチにおいてクマシー染色したSDS−PAGE(
図3を参照されたい)、RP−HPLC、ELISA及び閾値アッセイにより測定した。ST6GalNAcIの比活性をRP−HPLCにより測定した。
【0146】
純度及び比活性は表9に示したとおりであった。
【0147】
【表9】
【0148】
精製したST6GalNacIの生産収率は65mg/L〜75mg/Lの範囲であった。
【0149】
比較研究を行い、CHO細胞におけるST6GalNAcIの発現と、昆虫細胞におけるST6GalNAcIの発現とを比較した。昆虫細胞由来のST6GalNAcIは2.5U/mgという比活性を示し、CHO由来のST6GalNAcIは7.8U/mgというより高い比活性を示した。
【0150】
実施例2
実施例2による精製したcST6画分をプールし、クマシー染色したSDS−PAGEにより純度を分析した(
図4を参照されたい)。3つの異なるクローンC1、C2及びC3から得られたcST6サンプルプールを、希釈せずに充填し、1:5に希釈して充填し、1:10に希釈して充填した。
【0151】
表10はサンプルの調製及び充填を示す。
【0152】
【表10】
【0153】
図4に示されるように、希釈していないプールは20kDa未満の微量の夾雑を示す。1:10に希釈したプールのシグナルは、希釈していないサンプルでの不純物のシグナルよりも強かった。これにより、純度は90%を超えると推測することができる。
【0154】
実施例3
実施例3に従って精製したST6GalNAcIの純度を、3つのバッチにおいてクマシー染色したSDS−PAGE、RP−HPLC、ELISA及び閾値アッセイにより測定した。ST6GalNAcIの比活性をRP−HPLCにより測定した。