(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変形部位の周囲には、前記変形部位に対して前記ワイヤの張力が作用する方向を規制するガイド部材、またはワイヤの張力により駆動されるリンク部材が設けられている、
請求項2または3記載の車両。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面を参酌して説明する。
【0019】
[第1実施形態]
図1および
図2は、本発明の第1実施形態に係る自動車の車体1を示す斜視図である。
図1は、車体1の上斜視図である。
図2は、車体1の下斜視図である。
本実施形態の車体1は、複数の骨格部材を組み合わせ、さらに組み上げた複数の骨格部材に鋼板を溶接したモノコック構造のものである。
【0020】
図1および
図2のモノコック構造の車体1は、具体的にはたとえば以下の骨格部材を有する。
車体1の乗車室のフロアパネル11の下には、フロアパネル11の左右両端縁とセンタートンネル12との間で前後方向へ延びる一対のフロアーメンバ13が設けられる。フロアパネル11の上には、フロアパネル11の左右両端縁に渡るフロアクロスメンバ14が設けられる。フロアーメンバ13とフロアクロスメンバ14とは、フロアパネル11を介して連結される。
フロアパネル11の前縁上には、ダッシュボード15が立設される。ダッシュボード15は、乗車室とエンジン室とを仕切る。ダッシュボード15の前面には、一対のフロントサイドメンバ16が前側へ突出させて取り付けられる。一対のフロントサイドメンバ16の先端部にラジエターパネル17、フロントバンパービーム18が取り付けられる。一対のフロントサイドメンバ16の後端は、一対のフロアーメンバ13の前端と連結される。
ダッシュボード15の左右両端縁には、一対のAピラー19が取り付けられる。一対のAピラー19には、一対のフロントアッパメンバ20がAピラー19から前方へ突出させて設けられる。Aピラー19には、図示外のフロントドアが開閉可能に取り付けられる。フロントドア内には、フロントドアビーム、フロントドアクロスメンバが設けられる。
フロアパネル11の左右両端縁には、一対のサイドシル21が設けられる。一対のサイドシル21の前端は、トルクボックス構造の鋼板22により、一対のフロントサイドメンバ16または一対のフロアーメンバ13と結合される。一対のサイドシル21は、フロアクロスメンバ14により連結される。
フロアパネル11の後端縁上には、乗車室と荷物室とを仕切るリアバルクヘッド23が立設される。リアバルクヘッド23の左右両端縁に、一対のCピラー24が取り付けられる。
一対のAピラー19の上端と一対のCピラー24の上端との間に、一対のルーフサイドレール25が取り付けられる。一対のルーフサイドレール25の間には、ルーフクロスメンバ26が左右方向に延在して設けられる。一対のルーフサイドレール25は、ルーフクロスメンバ26により連結される。サイドシル21の中央部とルーフサイドレール25の中央部との間に、Bピラー27が設けられる。サイドシル21とルーフサイドレール25とは、Bピラー27により連結される。一対のBピラー27には、図示外の一対のリアドアが取り付けられる。リアドア内には、リアドアビーム、リアドアクロスメンバが設けられる。
一対のサイドシル21の後端には、一対のリアサイドメンバ28の先端が連結される。一対のリアサイドメンバ28は、リアバルクヘッド23から後方へ向かって突出し、後端部にリアバンパービーム29が取り付けられる。
このような複数の骨格部材には、鋼板が溶接される。たとえば、Aピラー19とフロントアッパメンバ20との間に、リインフォースメント用の鋼板が取り付けられる。また、車体1には、外板として、たとえばボンネットフード板、左右のフェンダー板、トランクリッド板、ルーフ板などが取り付けられる。これにより、車体1が完成する。なお、複数の骨格部材は、溶接またはねじ止めにより連結できる。
【0021】
ところで、モノコック構造の車体1には、シャーシ台に骨格部材を取り付けたシャーシ構造の車体1と同様に、エンジン、モータなどの駆動源が取り付けられる。車体1の前部には、図示外のフロントサスペンションクロスメンバおよび一対のフロントサスペンションにより、左右一対の前輪が取り付けられる。車体1の後部には、図示外のリアサスペンションクロスメンバおよび一対のリアサスペンションにより、左右一対の後輪が取り付けられる。
一般的な車両では、エンジン、モータ、フロントサスペンションクロスメンバは、一対のフロントサイドメンバ16に取り付けられる。一対のフロントサスペンションの上端部は、一対のフロントサイドメンバ16と一対のフロントアッパメンバ20との間の板金に設けた鋼板の貫通孔30に挿入して取り付けられる。リアサスペンションクロスメンバは、一対のリアサイドメンバ28に取り付けられる。一対のリアサスペンションの上端部は、一対のリアサイドメンバ28に取り付けたリアバルクヘッド23の貫通孔に挿入して取り付けられる。車体1は、一対のフロントサスペンションおよび一対のリアサスペンションを通じて、前輪および後輪上に保持される。
【0022】
そして、車体1には、走行中の走行状態に応じた外力が作用する。走行中の外力は、フロントサスペンションの取付位置、フロントサスペンションクロスメンバの取付位置、リアサスペンションの取付位置、リアサスペンションクロスメンバの取付位置から、車体1に入力される。車体1は、これらの外力により変形し難いように形成する必要がある。また、車体1には、衝突安全性、走行性能、乗車感などの複数の性能が要求される。このため、車体1は、一般的に高剛性に形成する必要がある。
【0023】
しかしながら、車体1に要求される複数の性能、たとえば衝突安全性と走行性能とは、必ず両立するものではない。
たとえば、ダッシュボード15から前方へ突出するフロントサイドメンバ16は、エンジンを支持する。
走行性能のためには、コーナリング中にエンジンが変位しないように、フロントサイドメンバ16は、コーナリングフォースに抗してエンジンを十分に支えることかできる高い剛性に形成することが求められる。
これに対し、衝突安全性能のためには、フロントサイドメンバ16は、ある程度の高い剛性を確保しながらも強い衝撃に対して座屈して衝撃を吸収し、衝突の衝撃を吸収できるように形成することが求められる。
そして、一般的には走行性能よりも衝突安全性能が優先される。走行性能が犠牲になる。
衝突安全性能のために、たとえばフロントサイドメンバ16に使用する板金の肉厚が制限される。フロントサイドメンバ16の長さは、車体1のサイズに応じて決まる。板金を十分な厚さにできないと、エンジンがマウントされるフロントサイドメンバ16はコーナリング中に撓んだり、捩れたりする可能性がある。
このような車体1の剛性の制限は、フロントサイドメンバ16に限られない。車体1を構成する各部材は、衝突安全性能のために、剛性が制限されることがある。
その結果、車体1は、仮に複数の骨格部材をたとえば板金や金属ロッドのような剛体により補剛した車体構造であったとしても、走行中に歪み易く、車体1に望まれる高い走行性能、たとえばスポーツ車両に求められる高い操作応答性や操舵安定性などを実現できているとは必ずしも言えない。低速走行中で車体1に対して強い力が作用しない場合、車体1の剛性は、衝突安全性能のための剛性で足りる。これに対し、高速コーナリングなどの走行状態においては強い力が車体1に作用する。この場合、衝突安全性能のための剛性では、車体1の剛性が不足する可能性がある。車体1が歪む可能性がある。
【0024】
このような走行中の各種の走行状態に応じた剛性不足を補うために、本実施形態では、ワイヤ42を用いて車体1の剛性を補強する。特に、走行状態に応じてワイヤ42の張力を調整することにより、走行中の車体1の剛性を走行状態に対して適応的に変化できる。車体1の剛性を走行中に走行状態に対して可変させることにより、車体1自体の高い衝突安全性能を維持しながら、走行状態に応じて必要とされる車体1の剛性を得ることができる。走行中に車体1が歪み難くなる。
これに対し、単に板金や金属ロッドのような剛体により補剛した単一剛性の車体1では、衝突安全性能よりも走行性能や乗車感を優先しなければ、スポーツ走行に適した高い走行性能や乗車感を得ることが難しい。
【0025】
図3は、
図1の車体1に搭載される車体1の剛性制御装置41の一例を示すブロック図である。
図3の車体1の剛性制御装置41は、車体1に連結されるワイヤ42、第1ガイド用滑車43および第2ガイド用滑車44、動滑車45、補助ワイヤ46、アクチュエータ47、張力を走行状態に応じて調整するための制御信号をアクチュエータ47へ出力するコントローラ48、ワイヤ42の実際の張力を検出する張力検出部49、を有する。また、コントローラ48は、走行状態を判断するための情報を取得するために、車両に搭載される情報源機器50、たとえば走行制御装置51、ナビゲーション装置52、運転支援装置53、通信装置54に接続される。
【0026】
ワイヤ42は、車体1に連結されて、走行中の車体1に張力を作用させる。車体1の衝突安全性能は、基本的に車体1の骨格部材および骨格構造により確保される。よって、ワイヤ42は、車体1に与える張力に耐え得るものであればよい。ワイヤ42は、たとえばピアノ線を縒り合せた金属線でよい。
ワイヤ42は、車体1の補剛に用いられる板金や金属ロッドと異なり、可撓性を有する。ワイヤ42は、両端の間隔を広げる引っ張り方向において張力を発揮するが、両端の間隔を狭める短縮方向においては張力を発揮しない。車体1が座屈する場合に緩むようにワイヤ42を取り付けることで、車体1の変形を阻害し難い。ワイヤ42は、基本的に、車体1自体の衝突安全性能を損なわない。
図3のワイヤ42の両端は、車体1に取り付けられる。たとえば、車体1の左右側部に形成される一対のフロントサスペンションの取付位置に取り付けられる。
図1および
図2の車体1では、一対の貫通孔30が一対のフロントサスペンションの取付位置に該当する。一対のフロントサスペンションの取付位置は、車体1に対する外力の入力部であり、フロントサスペンションの挙動に応じた外力が入力されることにより変形する可能性がある。ワイヤ42の端部は、ねじ止め、溶接などにより、車体1に直接的に取り付けられてよい。
なお、ワイヤ42の車体1に対する取り付け方は、
図2に限られない。ワイヤ42は、たとえばその一端が車体1に取り付けられ、他端がアクチュエータ47に取り付けられてもよい。
図4は、車体1の骨格部材と、車体1に対する外力の入力部とを模式的に示した図である。
図4では、4本の骨格部材61が四角形の枠形状に組まれている。枠の外側に、外力の入力部62が存在する。外力の入力部62は、たとえばフロントサスペンションの取付位置であり、骨格部材61に取り付けた鋼板に位置する。
図3でのワイヤ42は、
図4の一対の外力の入力部62の間に架け渡される。この他にも、ワイヤ42は、たとえば外力の入力部62、骨格部材61の端部63、骨格部材61同士の結合部64、骨格部材の中央部65などに連結してよい。ワイヤ42は、たとえば一対の骨格部材61の端部63の間に架け渡されてよい。
【0027】
第1ガイド用滑車43および第2ガイド用滑車44は、車体1の左右側部において、ワイヤ42の両端の取付位置の近傍に取り付けられる。たとえば、フロントサスペンションを取り付ける貫通孔30の近くに設けられる。
これら一対のガイド用滑車は、ワイヤ42の取付部位に対して作用するワイヤ42の張力の作用方向を規制する。
図3では、一対のガイド用滑車は、車体1の左右側部に取り付けられる。このため、一対のガイド用滑車に架けられたワイヤ42は、フロントサスペンションの取付位置の外側から、フロントサスペンションの取付位置に取り付けられる。この場合、フロントサスペンションの取付位置は、ワイヤ42の張力により外側へ引かれる。フロントサスペンションの取付位置は、外力の入力により内側に倒れるように変形することがある。この変形を抑えることができる。
なお、ガイド用滑車の替わりに、ワイヤ42を架けることができるリブ、チューブなどを用いてもよい。車体1へのワイヤ42の取付位置とアクチュエータ47との配置関係によっては、ガイド用滑車を使用しなくてもよい。
【0028】
アクチュエータ47は、ワイヤ42に対して直接的にまたは間接的に張力を与える。アクチュエータ47は、走行中にワイヤ42の張力を調整する。これにより、車体1の剛性および剛性バランスは、走行中に変化する。
アクチュエータ47は、たとえばワイヤ42を巻き取るリール57が取り付けられた電動モータ58でよい。電動モータ58の駆動力によりワイヤ42がリール57に巻き取られる。電動モータ58の駆動力に応じた張力が、ワイヤ42およびその取付位置に作用する。電動モータ58の替わりに、オイルモータ、燃料を燃焼するエンジンを用いてよい。なお、電動モータ58、オイルモータまたはエンジンとともに、ワイヤ42の巻取状態を一定状態に維持するラチェット機構を用いてもよい。
アクチュエータ47を用いてワイヤ42の張力を調整することにより、走行状態に応じた張力を走行中の車体1に作用させることができる。これに対し、車体1にワイヤ42を所定の張力で固定した場合、ワイヤ42が車体1に与える張力は一定である。走行中の車体1に対して、走行状態に応じた適切な張力を作用させることができない。また、車体1は、元来、所定の剛性が得られるように形成される。ワイヤ42の張力が外力に対応したものでない場合、車体1は、車体1本来での変形とは異なる変形となる可能性がある。自動車の操作性や乗車感は、車体1の剛性または剛性バランスが微妙にずれていたとしても、大きく変化する可能性がある。ワイヤ42の張力を走行中に調整できるように構成することにより、走行状態の変化に応じて走行中の車体1の剛性を変化させ、良好な操作性や乗車感を得ることができる。
図3において、アクチュエータ47は、補助ワイヤ46により動滑車45に連結される。動滑車45は、ワイヤ42に架けられる。アクチュエータ47は、直接的には動滑車45を駆動し、車体1に張力を作用させるワイヤ42に対して間接的に張力を与える。また、アクチュエータ47は、車体1の中央線(Y0線)上に配置される。アクチュエータ47は、ワイヤ42の両端に対して、同じ張力を作用させることができる。
なお、車体1に張力を作用させるワイヤ42と、アクチュエータ47との連結は、
図3に限られない。アクチュエータ47は、ワイヤ42の一端に直接に連結されてよい。この場合、アクチュエータ47は、車体1に対し、ワイヤ42の張力に耐え得る強度で取り付ける必要がある。
【0029】
張力検出部49は、ワイヤ42が車体1に作用させる張力を直接的にまたは間接的に検出する。張力検出部49は、たとえば歪みゲージでよい。歪みゲージは、ワイヤ42の表面に張り付けることができる。歪みゲージは、ワイヤ42の伸縮に応じて変形し、その変形による抵抗値の変化により、ワイヤ42の張力を検出する。なお、ワイヤ42の一端は、張力検出部49を介して、車体1に取り付けられてもよい。この場合、張力検出部49は、車体1に対し、ワイヤ42の張力に耐え得る強度で取り付ける必要がある。
張力検出部49は、ワイヤ42が車体1に作用させる張力を示す検出信号をアクチュエータ47へ出力する。アクチュエータ47は、張力検出部49により検出される実際のワイヤ42の検出張力が、コントローラ48により指示される目標張力に収束するように、ワイヤ42に与える張力を調整する。
図3において、張力検出部49は、車体1に張力を作用させるワイヤ42に取り付けられ、このワイヤ42の張力を直接的に検出する。
なお、張力検出部49は、ワイヤ42の張力を間接的に検出してよい。たとえば動滑車45とアクチュエータ47とを連結する補助ワイヤ46に取り付けてもよい。
【0030】
コントローラ48は、走行状態に応じて張力を調整するための制御信号をアクチュエータ47へ出力する。コントローラ48は、たとえば車両に搭載されるECU(Engine Control Unit)、その他のマイクロコンピュータでよい。
マイクロコンピュータは、たとえばCPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力ポート、およびこれらを接続するシステムバスを有する。入出力ポートは、アクチュエータ47に接続される。CPUは、メモリに記憶されるプログラムを読み込んで実行する。これにより、コントローラ48が実現される。
コントローラ48は、走行中に、走行状態を繰り返し判断する。走行中の車両の走行状態には、たとえば加速、減速、停止、右旋回、左旋回、速度域などがある。コントローラ48は、判断した走行状態に対応するワイヤ42の張力を特定し、制御信号を生成し、生成した制御信号を入出力ポートからアクチュエータ47へ出力する。
【0031】
図5は、
図3の剛性制御装置41による、車体1の剛性を走行状態に応じて制御するフローチャートである。
コントローラ48は、
図5の制御を、車両の走行中に繰り返し実行する。
なお、コントローラ48は、
図5の剛性制御を、ドライバによるアクセル、ブレーキ、ステアリングの操作入力タイミングに実行してもよい。
【0032】
走行状態に応じた車体1の剛性制御において、コントローラ48は、まず、車両の走行状態に応じて車体1に作用する外力を判断するための情報(制御利用パラメータ)を取得する(ステップST1)。
コントローラ48は、たとえば車両の走行制御装置51から情報を取得する。走行制御装置51は、VDC(Vehicle Dynamics Control)により、前輪または後輪の横滑りを検出した場合に各車輪のブレーキおよびエンジン出力を制御し、車両の走行を安定させる。走行制御装置51は、走行状態に応じてフロントサスペンションまたはリアサスペンションに用いられているマグネティックライドサスペンションのダンパーの減衰力を調整する。走行制御装置51は、ドライバによるアクセル開度、ブレーキ操作量、ステアリングの舵角を検出する。コントローラ48は、走行制御装置51から、これらの検出情報、操作情報、制御情報を、車両挙動データとして取得する。
また、コントローラ48は、たとえばナビゲーション装置52から情報を取得する。ナビゲーション装置52は、目的地設定に応じて現在地からの案内経路を探索し、誘導する。経路探索には、地図データに含まれる道路を示すリンクデータ、地形データなどが用いられる。コントローラ48は、ナビゲーション装置52から、ナビゲーション情報として、たとえば案内経路、地形、道路の情報を取得する。
また、コントローラ48は、たとえば運転支援装置53から情報を取得する。運転支援装置53は、カメラにより車両の周囲または前方を撮像し、その撮像画像に基づいて衝突などの危険を予測し、警報を発する。また、警報後も危険状態が継続している場合、車両を停止させるなどの危険回避制御を実行する。コントローラ48は、運転支援装置53から、たとえば車両の周囲または前方の撮像画像、危険対象物の情報、危険予測情報を取得する。
また、コントローラ48は、たとえば通信装置54から、交通情報などを取得する。通信装置54は、たとえばITS(Intelligent Transport System)、VICS(Vehicle Information and Communication System)などでの交通情報を受信する。交通情報には、走行予定の道路の渋滞情報が含まれる。コントローラ48は、通信装置54から、たとえば交通情報を取得する。
【0033】
走行状態を判断するための情報を取得した後、コントローラ48は、取得した情報に基づく走行状態および外力の判断に先立って、衝突可能性を判断する(ステップST2)。
コントローラ48は、たとえば車両の前方の撮像画像または危険予測情報に基づいて、衝突する可能性が高い危険対象物の有無を判断する。
【0034】
衝突可能性があると判断した場合、コントローラ48は、後述する通常の張力制御に替えて、衝突用の張力制御を実行する(ステップST3)。
コントローラ48は、通常の走行状態に応じた制御信号に替えて、衝突予測時の制御信号を出力する。コントローラ48は、ワイヤ42の張力をたとえば解放する制御信号を、アクチュエータ47へ出力する。ワイヤ42の張力を解放する制御信号が入力されると、アクチュエータ47は、ワイヤ42の張力が0となるようにモータの駆動を停止する。ワイヤ42の張力は解放される。
このように衝突可能性を判断し、ワイヤ42の張力を解放する制御を実行することにより、車両が実際に衝突する前に、車体1にワイヤ42の張力が作用しないようにできる。車体1は、ワイヤ42の張力が作用していない状態で衝突できるので、それに作り込まれた衝突性能の下で衝突できる。ワイヤ42の張力により、車体1の衝突安全性能が低下してしまう可能性を無くすことができる。
また、走行状態に応じて車体1の剛性を制御する処理ルーチン内で、走行状態を判断するための情報を取得した直後に、かつ、実際に車体1の剛性を制御する前に、衝突可能性を判断し、ワイヤ42の張力を解放する。ワイヤ42の張力を解放するタイミングが遅れて、衝突回避制御状態においてワイヤ42の張力が変化し、衝突直前に車体1に不要な挙動を起こさせないようにできる。
【0035】
これに対し、衝突可能性がないと判断した場合、コントローラ48は、通常の張力制御を継続する。
コントローラ48は、取得した情報に基づいて、車両の走行状態および車体1に作用する外力を判断する(ステップST4)。コントローラ48は、判断した外力による車体1の歪みを抑制する張力を取得する(ステップST5)。コントローラ48は、取得した張力を指示する制御信号をアクチュエータ47へ出力する(ステップST6)。アクチュエータ47は、制御信号が更新されると、ワイヤ42の検出張力が、新たに指示された目標張力となるように、ワイヤ42の張力を調整する。アクチュエータ47は、動滑車45をワイヤ42に押し付けるように補助ワイヤ46を引き、ワイヤ42に張力を与える。
これにより、ワイヤ42の両端が取り付けられた一対の取付位置の間には、それらの間が狭まらないように張力が加えられる。走行中の車体1には、走行状態に応じた張力が作用する。車体1の剛性が、走行中に走行状態に応じて変化する。車体1の剛性は、走行状態に応じて車体1に作用する外力による車体1の歪みを抑制するように変化できる。
たとえば、コントローラ48は、車両挙動データによる車体1に実際に作用している外力の実測値と、経路情報などに基づいて予想される外力の予想値とに基づいて、現時点または近い将来において車体1に作用する外力を判断する。車体1に作用する外力は、加速、減速、停止、右旋回、左旋回、速度域などの走行状態に応じて異なる。
車両に対して強い外力が作用して車両に高い強度が要求されると判断した場合、コントローラ48は、その外力による車体1の歪みを抑える張力を演算し、その張力を指示する制御信号をアクチュエータ47へ出力する。アクチュエータ47は、車体1に作用させる張力を調整する。走行状態が変化すると、車体1に作用させる張力も変化する。
なお、コントローラ48は、車両挙動データおよび経路情報に基づいて外力を判断する際に、交通情報による渋滞の有無、舗装路または未舗装路などの路面状況を併せて判断し、これらに応じて張力を加減してよい。高速道路において加速する場合や、ワインディング道路を走行する場合、車体1には強い外力が作用する。これらの走行状態であったとしても、渋滞していたり、未舗装路であったりする場合、車体1に作用する外力は大きくならないと予想される。コントローラ48は、これらの路面状況に応じて車体1に作用する外力を加減して判断することにより、実際に車体1に作用する外力に対応する張力を車体1に加えることができる。
【0036】
以上のように、本実施形態では、車両の走行中に、走行状態に応じて、ワイヤ42の両端の取付位置の間に取り付けたワイヤ42の張力を可変調整する。車体1の剛性が走行状態によらず不足し難くなる。走行中に車体1が歪み難くなる。過剰な張力を一律に車体に作用させた場合のように車体の剛性を損なうことなく、走行中の車体の歪みを抑えることができる。広い走行状態の範囲において、単一剛性の車体1では得ることができない、高い走行性能、高い乗車感を実現できる。
特に、本実施形態では、コントローラ48は、車両挙動データなどの制御利用パラメータに基づいて車体1に作用する外力を得て、この外力による車体1の歪みを抑制するように一対のフロントサスペンションの取付位置の間に取り付けたワイヤ42の張力を調整する。ワイヤ42および車体1は、たとえば予想値に基づいてプリロードされる。このプリロードにより、外力によって実際に車体1が歪み始める前に、車体1の剛性を適応的に向上させて、車体1を歪み難くできる。
また、本実施形態では、衝突を予知した場合には、ワイヤ42の張力の制御を中断し、ワイヤ42の張力を解放する。よって、衝突時では、車体1にワイヤ42の張力が作用しなくなる。衝突する車体1は、車体1自体に作り込まれた衝突安全性能の下で、衝突できる。ワイヤ42の張力により、車体1自体に作り込まれた衝突安全性能を低下させてしまうことがない。
また、本実施形態では、張力検出部49の検出値に基づいてアクチュエータ47がワイヤ42の張力をフィードバック制御する。よって、撚り線のワイヤ42などのように張力によって伸びやすいものを使用しても、走行状態に応じた所望の張力を車体1に作用させることができる。
【0037】
このように、本実施形態の車体1の剛性制御装置41を用いることにより、衝突時の圧縮荷重などに対する車体1自体の特性を変化させることなく、走行中に車体1の剛性を可変できる。
また、ワイヤ42を使用することで、ワイヤ42の取付位置から離れた箇所にアクチュエータ47を配置することができ、車体1に対するエンジンなどの各種の部品の取り付け位置を変更することなく、車体1剛性を調整できる。車体1の狭い空間内でワイヤ42を引き回すことができる。
また、ワイヤ42は、車体1の剛性を補強するための張力に耐えられるものであればよく、衝突安全性などに耐えられるように強い剛性で形成する必要がない。ワイヤ42に使用する材料、材質には高い自由度がある。
また、ワイヤ42を使用することで、車体1の左右両側部などの狭い個所において、外向きの力を作用させることができる。しかも、ガイド用滑車などのガイド部材を用いて、ワイヤ42の先端の取付位置に対して、外力の作用する方向とは反対側から張力が作用するように、張力の作用方向を調整または規制できるので、所望の方向で張力を作用させることができる。
【0038】
[第2実施形態]
第1実施形態では、ワイヤ42は、車体1のたとえば一対のフロントサスペンションの取付位置(一対の貫通孔30)の間に架け渡され、アクチュエータ47は、動滑車45および補助ワイヤ46を通じて該ワイヤ42に張力を与える。これにより、たとえば一対のフロントサスペンションの取付位置の間を狭めるような外力が車体1に作用しても、その変形を抑制できる。
車体1に作用する外力は、これに限られない。
車体1に対する車体1へのワイヤ42の取り付け構造、たとえば取付方向、荷重方向、巻上げ方法などは、これに限定されない。
以下、車体1に対する各種のワイヤ42の取付構造について説明する。
以下の各実施形態では、第1実施形態からの変更点について説明する。
【0039】
図6は、車体1へのワイヤ42の取り付け構造の他の一例を示す説明図である。
図6の剛性制御装置41において、ワイヤ42の両端は、車体1に取り付けられる。ワイヤ42は、たとえば一対のフロントサスペンションの取付位置の間に架け渡される。ただし、第1実施形態の
図3と異なり、ワイヤ42は、一対のガイド用滑車に架けられていない。
このため、ワイヤ42の両端は、その取付位置の内側に取り付けられる。この場合、ワイヤ42の張力は、各取付位置に対して、内向きの張力を作用させる。フロントサスペンションの取付位置は、ワイヤ42の張力により内側へ引かれる。フロントサスペンションの取付位置は、外力の入力により、外側に倒れるように変形することがある。この変形を抑えることができる。
【0040】
[第3実施形態]
図7は、車体1へのワイヤ42の取り付け構造の他の一例を示す説明図である。
図7の剛性制御装置41において、第1ワイヤ71は、車体1と第1アクチュエータ72とを連結する。第1ワイヤ71は、第1ガイド用滑車43および第3ガイド用滑車73に架けられる。
第2ワイヤ74は、車体1と第2アクチュエータ75とを連結する。第2ワイヤ74は、第2ガイド用滑車44および第4ガイド用滑車76に架けられる。
コントローラ48は、第1アクチュエータ72および第2アクチュエータ75へ制御信号を出力する。
この場合、第1アクチュエータ72により、第1ワイヤ71の張力が調整される。第2アクチュエータ75により、第2ワイヤ74の張力が調整される。
第1ワイヤ71の取付位置と第2ワイヤ74の取付位置とは、たとえば一対のフロントサスペンションの取付位置でよい。この場合、一対のフロントサスペンションの取付位置に対して、左右別々の張力を与え、左右の剛性を異ならせることができる。たとえばコーナリング中の外側の剛性を向上させつつ、内側の剛性を通常通りに維持するように制御できる。
【0041】
[第4実施形態]
図8は、車体1へのワイヤ42の取り付け構造の他の一例を示す説明図である。
図8の剛性制御装置41において、ワイヤ42の両端は、車体1に取り付けられる。ワイヤ42は、たとえば一対のフロントサスペンションの取付位置(一対の貫通孔30)の間に架け渡されている。ただし、第1実施形態の
図3と異なり、車体1の左右両側部には、一対のリンクアーム81が回転可能に取り付けられ、ワイヤ42の両端は、一対のリンクアーム81の一端に連結される。一対のリンクアーム81の他端は、一対のフロントサスペンションの取付位置に連結される。
一対のリンクアーム81を用いることにより、車体1の左右両側部に、一対のガイド用滑車43,44を設ける必要がなくなる。リンクアーム81は、その回転軸を支点として、フロントサスペンションの取付位置に対して外向きの力を加えることができる。フロントサスペンションの取付位置が内側に倒れ難くなる。
【0042】
[第5実施形態]
図9は、車体1へのワイヤ42の取り付け構造の他の一例を示す説明図である。
図9の剛性制御装置41において、動滑車45には、第1補助ワイヤ91により第1アクチュエータ92が連結される。また、動滑車45には、第2補助ワイヤ93により第2アクチュエータ94が連結され、第3補助ワイヤ95により第3アクチュエータ96が連結される。第1アクチュエータ92は、車体1の中心線(Y0)上に配置される。第2アクチュエータ94および第3アクチュエータ96は、車体1の中心線(Y0)から均等に左右にずらして、第1アクチュエータ92の左右両側に配置される。コントローラ48は、第1アクチュエータ92、第2アクチュエータ94および第3アクチュエータ96へ制御信号を出力する。
この場合、第1アクチュエータ92により、ワイヤ42の基本的な張力が調整される。
第2アクチュエータ94または第3アクチュエータ96の張力により、動滑車45を、第1アクチュエータ92が引く方向とは異なる方向へ移動させることができる。
動滑車45が、第1アクチュエータ92の引き方向に対して左右へ移動することにより、ワイヤ42の両端が連結された、たとえば一対のフロントサスペンションの取付位置に対して、異なる向きの張力を作用させることができる。1本のワイヤ42の両端を一対のフロントサスペンションの取付位置に取り付けながら、左右に別々の張力を作用させることができる。
【0043】
[第6実施形態]
図10は、車体1へのワイヤ42の取り付け構造の他の一例を示す説明図である。
図10の剛性制御装置41において、第1ワイヤ101および第2ワイヤ102は、車体1の一対の箇所の間に共通に架け渡される。たとえば一対のフロントサスペンションの取付位置(一対の貫通孔30)の間に架け渡される。
第5ガイド用滑車103は、フロントサスペンションの取付位置を基準とする前後方向において、第1ガイド用滑車43の反対側に取り付けられる。第6ガイド用滑車104は、フロントサスペンションの取付位置を基準とする前後方向において、第2ガイド用滑車44の反対側に取り付けられる。
第2ワイヤ102は、第5ガイド用滑車103および第6ガイド用滑車104に架けられる。第2ワイヤ74の中央部には、第2動滑車105が架けられる。第2動滑車105は、動滑車45とともに補助ワイヤ46に連結される。
アクチュエータ47は、補助ワイヤ46を引くことにより、第1ワイヤ71および第2ワイヤ74に同じ張力を作用させる。第1ワイヤ71および第2ワイヤ74は、共通のワイヤ42の取付位置であるフロントサスペンションの取付位置に対して、外向きの力を作用させる。第1ワイヤ71の張力と第2ワイヤ74の張力とが同じ大きさで共通の箇所に作用することにより、フロントサスペンションの取付位置には、車体1の左右方向の外向きの合力が作用する。
フロントサスペンションの取付位置の外側に、一対のガイド用滑車43,44を取り付けるスペースを確保できない車体1であっても、複数のワイヤ101,102の張力の合力により、車体1の左右方向外向きの張力を作用させることができる。
【0044】
[第7実施形態]
図11は、車体1へのワイヤ42の取り付け構造の他の一例を示す説明図である。
図11の剛性制御装置41において、ワイヤ42は、車体1とアクチュエータ47とを連結する。アクチュエータ47は、ワイヤ42を直接的に引き、ワイヤ42に張力を与える。
本実施形態では、動滑車45などが不要である。簡易な構成の剛性制御装置41により、走行中の車体の変形を抑制できる。
【0045】
[第8実施形態]
図12は、車体1へのワイヤ42の取り付け構造の他の一例を示す説明図である。
図12の剛性制御装置41において、第1ワイヤ111は、たとえば一対のフロントサスペンションの取付位置(一対の貫通孔30)の間に連結される。第2ワイヤ113は、第1ワイヤ71に架けた第1動滑車112と車体1との間に連結される。第2ワイヤ113の一端は、たとえばラジエターパネル17に連結される。第2動滑車114は、第2ワイヤ74に架けられ、補助ワイヤ46によりアクチュエータ47に連結される。
アクチュエータ47は、第2動滑車114を引くことにより、一対のフロントサスペンションの取付位置の間に張力を作用させる。また、一対のフロントサスペンションの取付位置とラジエターパネル17との間にも張力を作用させる。この場合、フロントサスペンションの取付位置に作用する張力は、ラジエターパネル17に作用する張力の半分になる。
車体1に対するワイヤ42の3か所以上の取付箇所に対して、それらの間での張力のバランスを保ちながら、張力を作用させることができる。
【0046】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0047】
上記実施形態は、本発明を自動車の車体1に適用した例である。この他にもたとえば、本発明は、他の形状のたとえばバス、清掃車などの自動車、電車、バイク、自転車などに適用できる。これらの車体1でも、走行状態に応じた外力が作用する。また、本発明は、シャーシ構造の車体1にも適用できる。本発明が適用される車体1において、骨格部材は、車体1の板金やシャーシ台と一体化されてよい。車体1は、板金などの剛体を用いて補剛されていてもよい。