【実施例】
【0012】
以下、図面と共に本発明によるセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法及びセルロースナノファイバー微多孔複合フィルム及び非水二次電池用セパレータの好適な実施の形態について説明する。
本発明はCeNF複合化セパレータを製造するために、一般的な湿式法で用いられるパラフィンなどの可塑剤へCeNFを高度に均一分散させることで、従来の装置構成は変えずに、二軸混練押出機を一度だけ用いることにより、高強度・高耐熱なセルロースナノファイバー微多孔複合フィルムによる非水系二次電池用セパレータの供給を可能としたものである。
【0013】
ここで、使用する原料セルロースはそのままでは親水性であり、パラフィン中への分散は困難である。本発明では、セルロースナノファイバー分子構造中の水酸基をエステル化やエーテル化したもの、またはエステル化処理後にプロピレンオキシドなどを二次的に付加処理したものをパラフィンなどの可塑剤へ分散させた懸濁液を用いて、従来の装置構成およびプロセスと同じ湿式法で微多孔シートの製造を可能としたものである。
【0014】
尚、本発明におけるポリオレフィン樹脂は、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用するポリオレフィン樹脂をいい、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル―1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のホモ重合体及び共重合体、多段重合体等を使用することができる。また、これらのホモ重合体及び共重合体、多段重合体の群から選んだポリオレフィンを単独、もしくは混合して使用することもできる。前記重合体の代表例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。本発明の微多孔膜を電池セパレータとして使用する場合、高融点であり、かつ高強度の要求性能から、特に高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂を使用することが好ましく、シャットダウン性等の点から、樹脂成分の50重量%以上をポリエチレン樹脂が占めることが好ましい。またポリオレフィンの分子量が100万以上の超高分子量ポリオレフィンが10重量部を超すと均一に混練することが困難となることから10重量部以下であることが好ましい。
【0015】
本発明に使用するCeNFは、ポリオレフィン中に分散された状態において繊維径がナノオーダーで、繊維表面に存在する水酸基の一部が多塩基酸モノエステル化されている。これにより、自身の凝集を押さえポリオレフィンとの均一分散性が高く、混練とシート化が容易で且つ、従来のセパレータ特性より優れた機械的、熱的特性を有するセパレータを提供できる。尚、CeNFはモノエステル化後に、さらに分散性を向上させるためにプロピレンオキシド付加(PO付加)などの二次処理を施しても良い。
また、本発明に用いる可塑剤は流動パラフィンなどの他にノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカンの鎖状又は環式の脂肪族炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルなどが挙げられる。
【0016】
さらに、本発明のCeNF複合多孔フィルムは単層であっても多層であってもよく、多層フィルムの場合構成する少なくとも一層にCeNFが含まれていればよい。最終的な膜厚は5μm以上50μm以下の範囲が好ましい。膜厚が5μm以上であれば機械強度が十分であり、また、50μm以下であればセパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向がある。本発明の多孔フィルムの透気度は50秒/100cc以上1000秒/100cc以下の範囲が好ましい。電池用セパレータとして使用した際に透気度が50秒/100cc以上では自己放電が少なく、1000秒/100cc以下では良好な充放電特性が得られる。
【0017】
以下、この発明の各実施例について説明する。しかし、本発明はこれらの実施例等により何ら限定されるものではない。尚、本発明の微多孔膜についての諸特性は次の試験方法により評価した。
膜厚と空孔率:膜厚はサンプルを50×50mm角に切出し、マイクロケージを用いてシートの各部25点を計測し、平均値を膜厚とした。空孔率はシートの実測重量と密度と体積から算出した理論重量より算出した。
ガーレ値:ガーレ値の測定には、ガーレ式自動計測機(TESTING MACHINES INC 社製)
を用いて測定した。本測定は、JISP8177に規定されている通り、100ccの空気がシートを通過するまでに要する時間をガーレ値とした。
突刺し強度:突刺し強度の測定には、自動化突刺し強度計(カトーテック社製:KES-FB3-AUTO)を用いて計測を行った。作製したシートを50×50mm角に切出し、5mm間隔で各位置の突刺強度を算出して各シートの平均値を求めた。
FE−SEM観察:作製したシートはイオンスパッタ装置(エリオクス社製ESC-101)を使用し、約3nmの厚さでプラチナ蒸着を行い、FE−SEM(カールツァイス社製SUPRA55VP)を使用して表面をミクロ観察した。
【0018】
(実施例1)
セルロース粉末試料としてセオラスFD−101(旭化成ケミカルズ(株)製)を用いてセルロース:無水コハク酸(SA)=100:11.81の重量比で加圧ニーダにて125℃、20分間混練による半エステル化反応を行い、その後アセトン抽出により未反応物を除去した(周知のSA化処理)。その後、そのSA化処理セルロース微粉末をパラフィン中に混合して24時間膨潤と撹拌処理を行った。原料の組成を表1の実施例1に示した。これを
図1のニーダで上記パラフィン70重量部に対し三井ハイゼックス(030S)30重量部を混合して混練後、
図2のテンターで同時二軸延伸を行った。混練条件および延伸条件は表2、表3に示した。テンターで二軸延伸を行った後に、塩化メチレンにて流動パラフィンを脱脂し、118℃で10分間ヒートセットを行った。
なお、表1の実施例3は参考例である。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
(実施例2)
実施例1の方法で、SA化処理後に二次処理としてプロピレンオキシドを付加したセルロースナノファイバーを用いた。原料組成は表1の実施例2に示した。それ以外は、実施例1と同様である。
(
参考例:実施例3)
実施例1の方法で、原料として周知のSA化処理を行わないセルロースを用いた。原料組成を表1
に実施例3として示した。それ以外は、実施例1と同様である。
【0023】
(比較例1)
実施例1の方法で、セルロースナノファイバーを用いない原料でシートを製作した。原料組成は後述の表1の比較例1に示した。それ以外は実施例1同様である。
(比較例2)
実施例1の方法で、原料セルロースをSA化してスターバースト処理を施した水スラリーを030Sと混練・脱水して製造したセルロースナノファイバー複合ポリエチレンペレットを使用してシートを製造した。原料組成は表1の比較例2に示した。その他は実施例1と同様とした。
(比較例3)
原料セルロースをSA化してスターバースト処理を施した水スラリーを030Sと混練・脱水して製造したセルロースナノファイバー複合ポリエチレンペレットを使用して、
図3のTEX30αで連続的に混練して原反を製造した。原料組成は表1の比較例3に示した。その後の同時二軸延伸と脱脂およびヒートセットは実施例1と同様とした。
結果比較
前記SA化前後、18時間膨潤および撹拌処理後40分経過時のパラフィン中への分散状況を
図4に示したが、処理無しに比べて周知のSA化したセルロースは格段にパラフィン中への分散が向上している。
【0024】
図5、
図6、
図7に実施例1〜3の条件で製作した微多孔膜のSEM像を示した。
図7は未処理セルロース粉末をそのまま流動パラフィン及び超高分子量ポリエチレン粉末と混合した原料をニーダで混練したのちフィルム化したサンプルである。これから、ポリエチレン結晶繊維中に節となるような塊が多く見られる。この部分にセルロースが凝集していると考えられ、ポリエチレン中の分散状態が良くないと推定される。
図5は事前にSA化したセルロース粉末を用いたサンプルであるが、
図7と比較して節となる塊が少なくなっており、分散状態が改善されたと推定される。さらに、
図6は事前にSA化したのち、二次的にPO付加処理したサンプルでの結果である。
図5に比べて、ほとんど塊が見られなくなっており、超高分子量HDPE中でセルロースナノファイバーが良好に均一分散していると考えられる。
【0025】
表4に実施例1〜3、比較例1〜3での主なセパレータ特性を示した。実施例1〜3の結果を比較すると、リチウムイオン電池の電池特性に影響する透気度の数値は実施例2<実施例1<実施例3の順になっている。ガーレ値が低いということはリチウムイオンが通り易いことを示している。このことは、実施例2が他に比べてCeNFの分散が良好で凝集が無いことで微細孔が良好に形成していることを示している。空孔率は実施例1の方が大きいが、微多孔分布にムラがあり、実施例2に比べて、径が大きな孔が不均一に開いていることが原因と考えられる。
突刺強度は電池の巻捲時に異物による破膜防止、経時的劣化で生じるリチウムイオンデンドライトによる破膜での短絡防止などに重要である。実施例1、2は3と比較して突刺強度が大きく増加しており、CeNFの添加効果での結果と考えられる。
熱収縮性は電池の安全に寄与するものであるが、特にTDの収縮性が小さければ電池の暴走時の異常発熱によるシートの収縮による正負極間での短絡を防止する。実施例1〜3のTDで比較すると、実施例3よりも実施例1、2に改善効果が見られる。特に、実施例2が小さな値となっており、CeNFの添加効果によるものと考えられる。
【0026】
【表4】
【0027】
実施例1〜3をCeNFを複合化しない従来のセパレータと比較すると、実施例3以外は透気度、突刺強度、120℃熱収縮のどの特性値も改善された値を示している。ただ、実施例3の空孔率と透気度はCeNFを複合化しないサンプルに比べて特性が悪くなった。これは、CeNFの分散状態が悪いことで微多孔が均一に成形されないことが空孔率、透気度に影響していると考えられる。
比較例2は事前にCeNFを複合化したポリエチレンペレットを同様な方法でフィルム化した結果であるが、ニーダでフィルム成形を他と同条件で行うと、全ての特性値で悪くなる。一方、比較例3で示したように、パラフィンを連続的にTEX30αで混練したフィルムの特性は各特性値が良好な結果を示している。湿式セパレータ製造プロセスでは一般的に混練時の状態で結果が大きく違ってくるが、特にパラフィンとの相溶化に影響する膨潤がペレット状態では不足することで、上手く微多孔が形成されないためと考えられる。つまり、比較例2と3の結果と同様に、実施例1、2の結果は、連続的混練によるシート形成でさらに最適化されることを示しており、SA化処理したCeNFをパラフィンに分散させたものを用いるだけで従来法では到達できない特性が改善されたセパレータが提供可能であることを示している。
【0028】
次に、前述の本発明の各実施例1〜3の要旨をまとめると、次の通りである。
すなわち、粉末粒形のセルロースの水酸基を二塩基酸無水物を用いて親油性処理したものを、可塑剤に均一分散させてセルロース粉末分散混合物を得る第1工程と、前記セルロース粉末分散混合物とポリオレフィンとを溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る第2工程と、前記ポリオレフィン樹脂組成物を押出成形して押出成形体を得る第3工程と、前記押出成形体をフィルム延伸機(1)で延伸してフィルムを得る第4工程と、前記フィルムから可塑剤を抽出する第5工程と、前記可塑剤を抽出後に前記ポリオレフィン原料の融点以下の温度で前記フィルムを延伸しつつ収縮性を抑えるための熱固定を行う第6工程とからなり、二軸混練押出機(2)は前記第2、第3工程を通して一度だけの使用であることを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法であり、また、前記親油性処理は、半エステル化処理を行った後、二次的にプロピレンオキシド付加処理を行うことを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法であり、また、前記可塑剤として、流動パラフィン、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカンの鎖状又は環式の脂肪族炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレートの室温では液状のフタル酸エステルのうち一種類又は数種類の混合物を用いることを特徴とする請求項1または2記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法であり、また、前記セルロース粉末分散混合物中のセルロース粉末が0.01〜30重量パーセントであることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法であ
る。