特許第5984307号(P5984307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5984307セルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984307
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20160823BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20160823BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20160823BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   C08J9/26 102
   C08J9/26CES
   C08L23/00
   C08L1/08
   H01M2/16 P
   H01M2/16 N
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-117630(P2013-117630)
(22)【出願日】2013年6月4日
(65)【公開番号】特開2014-234472(P2014-234472A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2015年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147500
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 雅啓
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179914
【弁理士】
【氏名又は名称】光永 和宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 諭
(72)【発明者】
【氏名】串崎 義幸
(72)【発明者】
【氏名】石黒 亮
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 まり子
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/017335(WO,A1)
【文献】 特開2013−056958(JP,A)
【文献】 特開2012−167202(JP,A)
【文献】 特開2003−123724(JP,A)
【文献】 特開2009−293167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
C08L 1/08
C08L 23/00
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末粒のセルロースの水酸基を二塩基酸無水物を用いて親油性処理したものを、可塑剤に均一分散させてセルロース粉末分散混合物を得る第1工程と、前記セルロース粉末分散混合物とポリオレフィンとを溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る第2工程と、前記ポリオレフィン樹脂組成物を押出成形して押出成形体を得る第3工程と、前記押出成形体をフィルム延伸機(1)で延伸してフィルムを得る第4工程と、前記フィルムから可塑剤を抽出する第5工程と、前記可塑剤を抽出後に前記ポリオレフィン原料の融点以下の温度で前記フィルムを延伸しつつ収縮性を抑えるための熱固定を行う第6工程と、とからなり、二軸混練押出機(2)は前記第2、第3工程を通して一度だけの使用であることを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記親油性処理は、半エステル化処理を行った後、二次的にプロピレンオキシド付加処理を行うことを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記可塑剤として、流動パラフィン、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカンの鎖状又は環式の脂肪族炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレートの室温では液状のフタル酸エステルのうち一種類又は数種類の混合物を用いることを特徴とする請求項1または2記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記セルロース粉末分散混合物中のセルロース粉末が0.01〜30重量パーセントであることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法及びセルロースナノファイバー微多孔複合フィルム及び非水二次電池用セパレータに関し、特に、セルロース粉末を分散させた可塑剤と、それを用いてポリオレフィンなどの高分子と二軸押出機を用いた混練で複合化して、セルロースをナノファイバー状に均一分散させたセルロースナノファイバー微多孔複合フィルムを製造するための新規な改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種のセルロースナノファイバー微多孔複合フィルムの製造方法としては、次の通りである。
従来、セルロースナノファイバー(CeNF)は水酸基を擁するため親水性であり、ポリオレフィンなどの母材に混ぜて複合化する場合、CeNF同士が水素結合により凝集し塊となり母材中で均一に分散することができなかった。例えばCeNFを複合化したフィルムを製造する場合、まず親水性のセルロースナノファイバーを水中に分散させた水スラリーを、押出機で混練中のポリオレフィンに注入混合し、その後脱水することでCeNF複合ポリオレフィン材料を製造し、これを原料としてフィルムを製造していた。または、CeNF自体を主成分とした不織布として使用していた。
また、微多孔化したポリオレフィンシートは、非水系二次電池のセパレータとしての使用が考えられ、セパレータの製造方法としては、一般的に湿式法により前記CeNF複合ポリオレフィン原料とパラフィンなどの可塑剤を両者の融点以上の温度下で混練してTダイから押出成形し冷却した後、相分離した可塑剤を塩化メチレンなどの抽出剤で除去して微多孔を開孔したフィルムを製造していた。
【0003】
次に、CeNFのポリオレフィンへの分散・混合による微多孔シート製造方法を説明する。まず、前述のように、CeNFはそのままではポリオレフィン中へ均一分散された複合材を作製することは困難であることが知られていた。そこで、セルロースの水酸基の一部をエステル化しスターバースト処理したセルロース水系スラリーを作製した上で、ポリオレフィンと複合化する技術が進められてきた(特許文献1)。ここではそれら知見を超える技術を開発すべく鋭意検討した結果、水酸基の一部をエステル化処理したセルロースをそのままで、流動パラフィンなど可塑剤と混合・膨潤させてスラリーを得、スターバースト処理などのナノファイバー化処理を特段に行うことなく、二軸押出機または加圧ニーダで溶融混練し、セルロースをナノファイバー化しながらポリオレフィンと複合し、良分散させるという従来法に比べより合理的で簡便化させた手法を見出した。これは本発明の目的としているセルロースナノファイバー強化微多孔複合シート(フィルム)製造を実現させる基幹技術となるものである。この二軸押出機または加圧ニーダで混練後、Tダイから押出し、キャストロールへ冷却成形することでパラフィンとポリオレフィンが相分離した原反フィルムを製造する。次いで、この物を非水系二次電池用セパレータとして用いるためには、微多孔フィルム化する必要がある。そのためには、原反フィルムを縦横二軸延伸または同時二軸延伸した後、可塑剤を塩化メチレンなどの抽出剤で抽出しヒートセットを行うことで、微多孔フィルムを得る。
【0004】
また、一般的な非水系二次電池用セパレータの基本的な機能について説明する。リチウムイオン電池用セパレータは正負極間に位置し、連通微細孔に電解液を保持した状態で存在する。充電時に正極のリチウムイオンは電子を残して電解液中に電離し、セパレータの微細孔を通過して負極に到達し、カーボン格子間に貯蔵される。この時、電子は回路を通って負極へ運ばれるが、セパレータは正負極間で短絡しないように絶縁体であることが必要である。その他、リチウムイオン電池で使用されるセパレータには、両極間のイオン伝導を妨げないこと、電解液を保持できること、電解液に対して耐性を有すること等が求められる。電極捲回時における巻き締まりや充放電時の電極の膨張・収縮による圧力、あるいは電池を落下させたときの衝撃などでのセパレータの破膜を防止するためにも、高い突刺し強度が求められている。また、高い突刺し強度は、継時的にリチウムイオン電池が劣化すると、炭素負極にリチウムが析出し針状結晶化するため、セパレータを突破り正極と接触することで短絡を起こし、さらに異常発熱による暴走を引起すことに対しても重要である。
【0005】
また、ポリオレフィン材料にセルロースナノファイバーを複合化することが有効であることは特許文献2ですでに確認されている。その具体的な製造工程は、水に分散させたセルロースナノファイバーを一旦2軸混練機にてポリオレフィンと複合化しペレットを作製する。それを再度、もう一台の2軸混練機にてパラフィンと混合するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−293167号公報
【特許文献2】特開2013−56958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち、特許文献2の方法では、従来の湿式法で製造する工程の前に、CeNF複合ポリオレフィンペレット原料を製造する必要があることが、この材料の製造工程増大、ひいてはコストアップに繋がるという課題があった。また、作製された材料は、セルロースが水懸濁液中に残留してしまうことで含有率の低下が起こったり、一旦ペレットにしたものを再度混練することで混練の際にポリオレフィン中で再凝集させてしまう。このため分散状態を悪化させ、本来得られるべき、突刺し強度、熱収縮性を満足できない場合があった。
この発明は従来のものの課題を解決するためになされたもので、リチウムイオン電池用セパレータとして要求される機械的、熱的特性のうち、特に突刺し強度とショート温度を改善したCeNF複合ポリオレフィンセパレータを高品質にかつ従来法と比べて安価に提供することを目的としている。
また、本発明は粉末粒のセルロースの水酸基を二塩基酸無水物を用いて親油性処理したものを、可塑剤に均一分散させて得たセルロース粉末分散混合物を得、それを用いてポリオレフィンと混練・解繊し、高分散状態で複合化することで、一般的な湿式法の装置構成およびプロセスを変えることなく、かつ、工程中で二軸押出機は一度だけの使用として、非水系二次電池用微多孔シート等のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムを製造可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法は、粉末粒形のセルロースの水酸基を二塩基酸無水物を用いて親油性処理したものを、可塑剤に均一分散させてセルロース粉末分散混合物を得る第1工程と、前記セルロース粉末分散混合物とポリオレフィンとを溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る第2工程と、前記ポリオレフィン樹脂組成物を押出成形して押出成形体を得る第3工程と、前記押出成形体をフィルム延伸機(1)で延伸してフィルムを得る第4工程と、前記フィルムから可塑剤を抽出する第5工程と、前記可塑剤を抽出後に前記ポリオレフィン原料の融点以下の温度で前記フィルムを延伸しつつ収縮性を抑えるための熱固定を行う第6工程とからなり、二軸混練押出機(2)は前記第2、第3工程を通して一度だけの使用である方法であり、また、前記親油性処理は、半エステル化処理を行う方法、あるいは、二次的にプロピレンオキシド付加処理を行う方法であり、また、前記可塑剤として、流動パラフィン、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカンの鎖状又は環式の脂肪族炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレートの室温では液状のフタル酸エステルのうち一種類又は数種類の混合物を用いる方法であり、また、前記セルロース粉末分散混合物中のセルロース粉末が0.01〜30重量パーセントである方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法及びセルロースナノファイバー微多孔複合フィルムは、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、粉末粒形のセルロースの水酸基を二塩基酸無水物を用いて親油性処理したものを、可塑剤に均一分散させてセルロース粉末分散混合物を得る第1工程と、前記セルロース粉末分散混合物とポリオレフィンとを溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る第2工程と、前記ポリオレフィン樹脂組成物を押出成形して押出成形体を得る第3工程と、前記押出成形体をフィルム延伸機(1)で延伸してフィルムを得る第4工程と、前記フィルムから可塑剤を抽出する第5工程と、前記可塑剤を抽出後に前記ポリオレフィン原料の融点以下の温度で前記シートフィルムを延伸しつつ収縮性を抑えるための熱固定を行う第6工程とからなり、二軸混練押出機(2)は前記第2、第3工程を通して一度だけの使用であることにより、親油性処理化などの修飾処理を施したセルロース粉末を可塑剤であるパラフィン中に分散させた混合物を用いて、従来の湿式法と同じ方法でポリオレフィンに添加して、ポリオレフィンと可塑剤を相溶化し、同時にCeNFをポリオレフィン中に分散・複合化する事で、従来のセパレータと比較し2軸混練機を1度使用するだけでよいため、複合セパレータ中へのセルロースの収率も制御しやすく、またポリオレフィン中での均一分散が可能となる。このことにより、コストダウンとなる。また得られた材料の機械強度および熱特性が改善され、安全性が向上した製品とすることが可能となる。
また、所定の粉末粒形のセルロースの水酸基を二塩基酸無水物を用いて半エステル化処理したものを、流動パラフィンからなる前記ポリオレフィンの前記セルロース粉末分散可塑剤に均一分散させたことを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法により、従来の装置構成を変えずに複合化が可能になる効果が得られる。
また、前記親油性処理として半エステル化処理を行った後、二次的にプロピレンオキシド付加処理を行ったことを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法により、大きな分子であるプロピレンオキシドが付加され、立体的障害効果とより高い親油性の付与により、さらなる高分散、凝集抑制の効果が得られる。
また、前記可塑剤として流動パラフィン、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカンの鎖状又は環式の脂肪族炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレートの室温では液状のフタル酸エステルのうち一種類又は数種類の混合物を用いることを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法により、原料ポリオレフィンに対する適切な組合せを選定できる効果が得られる。
また、前記セルロース粉末分散混合物中のセルロース粉末が0.01〜30重量パーセントであることを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法により、要求に応じた特性の付与が可能となる効果が得られる。
また、請求項1から4の何れかの製造方法で製造した前記セルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムからなることを特徴とするセルロースナノファイバーポリオレフィン微多孔複合フィルムにより、シートの耐熱性、強度向上の効果が得られる。
また、請求項1から4の何れかの製造方法で製造した前記ポリオレフィン微多孔延伸フィルム中のセルロース粉末が前記ポリオレフィン微多孔延伸フィルム全重量に対して0.01〜30重量パーセントであることを特徴とするセルロースナノファイバー微多孔複合フィルムにより、目的に適した配合による、最適な特性が付与できる効果が得られる。
また、請求項1から4の何れかの製造方法で製造した前記セルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムからなることを特徴とする非水二次電池用セパレータにより、セパレータの安全性向上の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に用いる小型ニーダの外観図である。
図2】ニーダで混練後に金型でプレスして製作した原反の延伸状況を示す説明図である。
図3】連続混練機TEX30αの外観である。
図4】親油性処理化処理の有無での化学修飾セルロース粉末のパラフィン中への分散を示す写真である。
図5】実施例1で製作した微多孔フィルムのSEM像を示した写真である。
図6】実施例2で製作した微多孔フィルムのSEM像を示した写真である。
図7】実施例3(参考例)で製作した微多孔フィルムのSEM像を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、粉末粒形のセルロースの水酸基を二塩基酸無水物を用いて親油性処理したものを、可塑剤に均一分散させてセルロース粉末分散混合物を得、それを用いてポリオレフィンなどの高分子と一度だけ使用の二軸押出機を用いた混練で複合化して、セルロースをナノファイバー状に均一分散させたセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法及びセルロースナノファイバー微多孔複合フィルム及び非水二次電池用セパレータを提供することである。
【実施例】
【0012】
以下、図面と共に本発明によるセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法及びセルロースナノファイバー微多孔複合フィルム及び非水二次電池用セパレータの好適な実施の形態について説明する。
本発明はCeNF複合化セパレータを製造するために、一般的な湿式法で用いられるパラフィンなどの可塑剤へCeNFを高度に均一分散させることで、従来の装置構成は変えずに、二軸混練押出機を一度だけ用いることにより、高強度・高耐熱なセルロースナノファイバー微多孔複合フィルムによる非水系二次電池用セパレータの供給を可能としたものである。
【0013】
ここで、使用する原料セルロースはそのままでは親水性であり、パラフィン中への分散は困難である。本発明では、セルロースナノファイバー分子構造中の水酸基をエステル化やエーテル化したもの、またはエステル化処理後にプロピレンオキシドなどを二次的に付加処理したものをパラフィンなどの可塑剤へ分散させた懸濁液を用いて、従来の装置構成およびプロセスと同じ湿式法で微多孔シートの製造を可能としたものである。
【0014】
尚、本発明におけるポリオレフィン樹脂は、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用するポリオレフィン樹脂をいい、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル―1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のホモ重合体及び共重合体、多段重合体等を使用することができる。また、これらのホモ重合体及び共重合体、多段重合体の群から選んだポリオレフィンを単独、もしくは混合して使用することもできる。前記重合体の代表例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。本発明の微多孔膜を電池セパレータとして使用する場合、高融点であり、かつ高強度の要求性能から、特に高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂を使用することが好ましく、シャットダウン性等の点から、樹脂成分の50重量%以上をポリエチレン樹脂が占めることが好ましい。またポリオレフィンの分子量が100万以上の超高分子量ポリオレフィンが10重量部を超すと均一に混練することが困難となることから10重量部以下であることが好ましい。
【0015】
本発明に使用するCeNFは、ポリオレフィン中に分散された状態において繊維径がナノオーダーで、繊維表面に存在する水酸基の一部が多塩基酸モノエステル化されている。これにより、自身の凝集を押さえポリオレフィンとの均一分散性が高く、混練とシート化が容易で且つ、従来のセパレータ特性より優れた機械的、熱的特性を有するセパレータを提供できる。尚、CeNFはモノエステル化後に、さらに分散性を向上させるためにプロピレンオキシド付加(PO付加)などの二次処理を施しても良い。
また、本発明に用いる可塑剤は流動パラフィンなどの他にノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカンの鎖状又は環式の脂肪族炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルなどが挙げられる。
【0016】
さらに、本発明のCeNF複合多孔フィルムは単層であっても多層であってもよく、多層フィルムの場合構成する少なくとも一層にCeNFが含まれていればよい。最終的な膜厚は5μm以上50μm以下の範囲が好ましい。膜厚が5μm以上であれば機械強度が十分であり、また、50μm以下であればセパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向がある。本発明の多孔フィルムの透気度は50秒/100cc以上1000秒/100cc以下の範囲が好ましい。電池用セパレータとして使用した際に透気度が50秒/100cc以上では自己放電が少なく、1000秒/100cc以下では良好な充放電特性が得られる。
【0017】
以下、この発明の各実施例について説明する。しかし、本発明はこれらの実施例等により何ら限定されるものではない。尚、本発明の微多孔膜についての諸特性は次の試験方法により評価した。
膜厚と空孔率:膜厚はサンプルを50×50mm角に切出し、マイクロケージを用いてシートの各部25点を計測し、平均値を膜厚とした。空孔率はシートの実測重量と密度と体積から算出した理論重量より算出した。
ガーレ値:ガーレ値の測定には、ガーレ式自動計測機(TESTING MACHINES INC 社製)
を用いて測定した。本測定は、JISP8177に規定されている通り、100ccの空気がシートを通過するまでに要する時間をガーレ値とした。
突刺し強度:突刺し強度の測定には、自動化突刺し強度計(カトーテック社製:KES-FB3-AUTO)を用いて計測を行った。作製したシートを50×50mm角に切出し、5mm間隔で各位置の突刺強度を算出して各シートの平均値を求めた。
FE−SEM観察:作製したシートはイオンスパッタ装置(エリオクス社製ESC-101)を使用し、約3nmの厚さでプラチナ蒸着を行い、FE−SEM(カールツァイス社製SUPRA55VP)を使用して表面をミクロ観察した。
【0018】
(実施例1)
セルロース粉末試料としてセオラスFD−101(旭化成ケミカルズ(株)製)を用いてセルロース:無水コハク酸(SA)=100:11.81の重量比で加圧ニーダにて125℃、20分間混練による半エステル化反応を行い、その後アセトン抽出により未反応物を除去した(周知のSA化処理)。その後、そのSA化処理セルロース微粉末をパラフィン中に混合して24時間膨潤と撹拌処理を行った。原料の組成を表1の実施例1に示した。これを図1のニーダで上記パラフィン70重量部に対し三井ハイゼックス(030S)30重量部を混合して混練後、図2のテンターで同時二軸延伸を行った。混練条件および延伸条件は表2、表3に示した。テンターで二軸延伸を行った後に、塩化メチレンにて流動パラフィンを脱脂し、118℃で10分間ヒートセットを行った。なお、表1の実施例3は参考例である。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
(実施例2)
実施例1の方法で、SA化処理後に二次処理としてプロピレンオキシドを付加したセルロースナノファイバーを用いた。原料組成は表1の実施例2に示した。それ以外は、実施例1と同様である。
参考例:実施例3)
実施例1の方法で、原料として周知のSA化処理を行わないセルロースを用いた。原料組成を表1に実施例3として示した。それ以外は、実施例1と同様である。
【0023】
(比較例1)
実施例1の方法で、セルロースナノファイバーを用いない原料でシートを製作した。原料組成は後述の表1の比較例1に示した。それ以外は実施例1同様である。
(比較例2)
実施例1の方法で、原料セルロースをSA化してスターバースト処理を施した水スラリーを030Sと混練・脱水して製造したセルロースナノファイバー複合ポリエチレンペレットを使用してシートを製造した。原料組成は表1の比較例2に示した。その他は実施例1と同様とした。
(比較例3)
原料セルロースをSA化してスターバースト処理を施した水スラリーを030Sと混練・脱水して製造したセルロースナノファイバー複合ポリエチレンペレットを使用して、図3のTEX30αで連続的に混練して原反を製造した。原料組成は表1の比較例3に示した。その後の同時二軸延伸と脱脂およびヒートセットは実施例1と同様とした。
結果比較
前記SA化前後、18時間膨潤および撹拌処理後40分経過時のパラフィン中への分散状況を図4に示したが、処理無しに比べて周知のSA化したセルロースは格段にパラフィン中への分散が向上している。
【0024】
図5図6図7に実施例1〜3の条件で製作した微多孔膜のSEM像を示した。図7は未処理セルロース粉末をそのまま流動パラフィン及び超高分子量ポリエチレン粉末と混合した原料をニーダで混練したのちフィルム化したサンプルである。これから、ポリエチレン結晶繊維中に節となるような塊が多く見られる。この部分にセルロースが凝集していると考えられ、ポリエチレン中の分散状態が良くないと推定される。図5は事前にSA化したセルロース粉末を用いたサンプルであるが、図7と比較して節となる塊が少なくなっており、分散状態が改善されたと推定される。さらに、図6は事前にSA化したのち、二次的にPO付加処理したサンプルでの結果である。図5に比べて、ほとんど塊が見られなくなっており、超高分子量HDPE中でセルロースナノファイバーが良好に均一分散していると考えられる。
【0025】
表4に実施例1〜3、比較例1〜3での主なセパレータ特性を示した。実施例1〜3の結果を比較すると、リチウムイオン電池の電池特性に影響する透気度の数値は実施例2<実施例1<実施例3の順になっている。ガーレ値が低いということはリチウムイオンが通り易いことを示している。このことは、実施例2が他に比べてCeNFの分散が良好で凝集が無いことで微細孔が良好に形成していることを示している。空孔率は実施例1の方が大きいが、微多孔分布にムラがあり、実施例2に比べて、径が大きな孔が不均一に開いていることが原因と考えられる。
突刺強度は電池の巻捲時に異物による破膜防止、経時的劣化で生じるリチウムイオンデンドライトによる破膜での短絡防止などに重要である。実施例1、2は3と比較して突刺強度が大きく増加しており、CeNFの添加効果での結果と考えられる。
熱収縮性は電池の安全に寄与するものであるが、特にTDの収縮性が小さければ電池の暴走時の異常発熱によるシートの収縮による正負極間での短絡を防止する。実施例1〜3のTDで比較すると、実施例3よりも実施例1、2に改善効果が見られる。特に、実施例2が小さな値となっており、CeNFの添加効果によるものと考えられる。
【0026】
【表4】
【0027】
実施例1〜3をCeNFを複合化しない従来のセパレータと比較すると、実施例3以外は透気度、突刺強度、120℃熱収縮のどの特性値も改善された値を示している。ただ、実施例3の空孔率と透気度はCeNFを複合化しないサンプルに比べて特性が悪くなった。これは、CeNFの分散状態が悪いことで微多孔が均一に成形されないことが空孔率、透気度に影響していると考えられる。
比較例2は事前にCeNFを複合化したポリエチレンペレットを同様な方法でフィルム化した結果であるが、ニーダでフィルム成形を他と同条件で行うと、全ての特性値で悪くなる。一方、比較例3で示したように、パラフィンを連続的にTEX30αで混練したフィルムの特性は各特性値が良好な結果を示している。湿式セパレータ製造プロセスでは一般的に混練時の状態で結果が大きく違ってくるが、特にパラフィンとの相溶化に影響する膨潤がペレット状態では不足することで、上手く微多孔が形成されないためと考えられる。つまり、比較例2と3の結果と同様に、実施例1、2の結果は、連続的混練によるシート形成でさらに最適化されることを示しており、SA化処理したCeNFをパラフィンに分散させたものを用いるだけで従来法では到達できない特性が改善されたセパレータが提供可能であることを示している。
【0028】
次に、前述の本発明の各実施例1〜3の要旨をまとめると、次の通りである。
すなわち、粉末粒形のセルロースの水酸基を二塩基酸無水物を用いて親油性処理したものを、可塑剤に均一分散させてセルロース粉末分散混合物を得る第1工程と、前記セルロース粉末分散混合物とポリオレフィンとを溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る第2工程と、前記ポリオレフィン樹脂組成物を押出成形して押出成形体を得る第3工程と、前記押出成形体をフィルム延伸機(1)で延伸してフィルムを得る第4工程と、前記フィルムから可塑剤を抽出する第5工程と、前記可塑剤を抽出後に前記ポリオレフィン原料の融点以下の温度で前記フィルムを延伸しつつ収縮性を抑えるための熱固定を行う第6工程とからなり、二軸混練押出機(2)は前記第2、第3工程を通して一度だけの使用であることを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法であり、また、前記親油性処理は、半エステル化処理を行った後、二次的にプロピレンオキシド付加処理を行うことを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法であり、また、前記可塑剤として、流動パラフィン、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカンの鎖状又は環式の脂肪族炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレートの室温では液状のフタル酸エステルのうち一種類又は数種類の混合物を用いることを特徴とする請求項1または2記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法であり、また、前記セルロース粉末分散混合物中のセルロース粉末が0.01〜30重量パーセントであることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明による、セルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法及びセルロースナノファイバー微多孔複合フィルム及び非水二次電池用セパレータは、突刺し強度を向上させたフィルム製品の実現に寄与できる。
【符号の説明】
【0030】
(1) フィルム延伸機
(2) 二軸混練押出機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7