特許第5984325号(P5984325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5984325リチウムイオン電池電極用バインダー、それを用いたリチウムイオン電池電極用ペーストおよびリチウムイオン電池電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984325
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池電極用バインダー、それを用いたリチウムイオン電池電極用ペーストおよびリチウムイオン電池電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20160823BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20160823BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20160823BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/1391
   H01M4/1395
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2009-238012(P2009-238012)
(22)【出願日】2009年10月15日
(65)【公開番号】特開2011-86480(P2011-86480A)
(43)【公開日】2011年4月28日
【審査請求日】2012年10月4日
【審判番号】不服2014-26314(P2014-26314/J1)
【審判請求日】2014年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】富川 真佐夫
(72)【発明者】
【氏名】弓場 智之
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 小川 進
【審判官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−238562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/1395
H01M 4/1391
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[1][2]のうち、1種類を含有するリチウムイオン電池電極用バインダー。
[1]アミン成分として96.0〜98.5モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1.5〜4.0モル%の下記一般式(1)で表されるジアミン、酸成分として無水ピロメリット酸および3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、または酸成分として3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を重合してなるポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体。
[2]アミン成分として67.2モル%の2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、28.8モル%の2,4−ジアミノトルエン、4.0モル%の下記一般式(1)で表されるジアミン、酸成分として3,3’4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物を重合してなるポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体。
【化1】
(上記一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、フェニル基または水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜10のアルキル基で置換したフェニル基を示す。RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数4〜10のシクロアルキレン基またはフェニレン基を示す。mは1〜10の範囲を示す。mが1より大きい場合、複数のRおよびRは同じでも異なってもよい。)
【請求項2】
前記[1]のポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体において、
重合に用いる酸成分が等モル量の無水ピロメリット酸および3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、または3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である請求項1に記載のリチウムイオン電池電極用バインダー。
【請求項3】
アミン成分として92.0〜98.0モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2.0〜8.0モル%の下記一般式(1)で表されるジアミン、酸成分としてトリメリット酸クロリドを重合してなるポリアミドイミドを含有するリチウムイオン電池電極用バインダー。
【化2】
(上記一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、フェニル基または水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜10のアルキル基で置換したフェニル基を示す。RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数4〜10のシクロアルキレン基またはフェニレン基を示す。mは1〜10の範囲を示す。mが1より大きい場合、複数のRおよびRは同じでも異なってもよい。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン電池電極用バインダーと、ケイ素原子、スズ原子またはゲルマニウム原子を含むリチウムイオン電池負極活物質とを含有するリチウムイオン電池負極用ペースト。
【請求項5】
請求項4記載のリチウムイオン電池負極用ペーストを金属箔上に1μm〜100μmの厚みで塗布し、100℃〜500℃で1分間〜24時間熱処理するリチウムイオン電池負極の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン電池電極用バインダーと、ニッケル原子を含むリチウムイオン電池正極活物質とを含有するリチウムイオン電池正極用ペースト。
【請求項7】
請求項6記載のリチウムイオン電池正極用ペーストを金属箔上に1μm〜500μmの厚みで塗布し、100℃〜500℃で1分間〜24時間熱処理するリチウムイオン電池正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池電極用バインダー、それを用いたリチウムイオン電池負極用ペーストおよびリチウムイオン電池正極用ペースト、リチウムイオン電池負極の製造方法およびリチウムイオン電池正極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、充電可能な高容量電池として、電子機器の高機能化、長時間動作を可能にした。さらに自動車などに搭載され、ハイブリッド車、電気自動車の電池として有力視されている。現在広く使われているリチウムイオン電池は、コバルト酸リチウムなどの活物質とポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダーを含むペーストをアルミ箔上に塗布して形成される正極と、炭素系の活物質とPVDFやスチレン・ブタジエン・ゴム(SBR)などのバインダーを含むペーストを銅箔上に塗布して形成される負極を有する。
【0003】
リチウムイオン電池の容量をさらに大きくするために、負極活物質としてシリコン、ゲルマニウムまたはスズを用いることが検討されている(例えば、特許文献1参照)。これらの負極活物質は、従来用いられていた炭素系材料に対して単位体積あたりのリチウムイオンの吸蔵量が大きいため、充電・放電のサイクルにおけるリチウムイオンの出入りが増加し、充放電の間の体積変化が増大する。このために、従来用いられていたPVDFやSBRなどのバインダーでは機械強度が低く、活物質の体積変化に追従できずに、活物質がバインダーから剥がれる場合があり、電池の大容量化の大きな妨げになっていた。また、短時間に充放電を行うと、急激なイオンの移動により発熱するため、バインダーに耐熱性が求められている。そこで、機械強度と耐熱性に優れるポリイミドやポリアミドイミドなどをバインダーに用いた電極が提案されている(例えば、特許文献2〜3参照)。しかしながら、これらのバインダーはシリコンなどの無機材料に対する接着性が低く、充放電を繰り返すと活物質が剥がれる課題があった。
【0004】
一方、正極活物質として、希少元素であるコバルトにかえて鉄やニッケルなどを適用することが検討されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、ニッケルを正極活物質として用いる場合、ニッケルの塩基性が強いために、充放電中の化学反応でPVDFが劣化するなど、バインダーの耐薬品性に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−199761号公報
【特許文献2】国際公開第2004/004031号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008/105036号パンフレット
【特許文献4】特開2007−109631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、新規負極活物質であるケイ素原子、スズ原子またはゲルマニウム原子などの大きな体積変化に耐えることができる機械強度とこれらの材料に対する優れた接着性を有し、電解液や塩基に対して高い耐性を有したリチウムイオン電池電極用バインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1][2]のうち、1種類を含有するリチウムイオン電池電極用バインダーである。
[1]アミン成分として96.0〜98.5モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1.5〜4.0モル%の下記一般式(1)で表されるジアミン、酸成分として無水ピロメリット酸および3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、または酸成分として3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を重合してなるポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体。
[2]アミン成分として67.2モル%の2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、28.8モル%の2,4−ジアミノトルエン、4.0モル%の下記一般式(1)で表されるジアミン、酸成分として3,3’4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物を重合してなるポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体。
また、本発明は、アミン成分として92.0〜98.0モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2.0〜8.0モル%の下記一般式(1)で表されるジアミン、酸成分としてトリメリット酸クロリドを重合してなるポリアミドイミドを含有するリチウムイオン電池電極用バインダーである。
【0008】
【化1】
【0009】
上記一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、フェニル基または水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜10のアルキル基で置換したフェニル基を示す。RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数4〜10のシクロアルキレン基またはフェニレン基を示す。mは1〜10の範囲を示す。mが1より大きい場合、複数のRおよびRは同じでも異なってもよい
【発明の効果】
【0010】
本発明により、機械強度と活物質や金属との接着性に優れ、電解液や塩基に対する耐薬品性に優れたリチウムイオン電池電極用バインダーを得ることができる。本発明のリチウムイオン電池電極用バインダーを用いれば、リチウムイオン電池の充放電サイクル特性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のリチウムイオン電池電極用バインダー(以下、バインダーと称する場合がある)は、下記[1][2]のうち、1種類を含有する。
[1]アミン成分として96.0〜98.5モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1.5〜4.0モル%の一般式(1)で表されるジアミン、酸成分として無水ピロメリット酸および3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、または酸成分として3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を重合してなるポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体。
[2]アミン成分として67.2モル%の2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、28.8モル%の2,4−ジアミノトルエン、4.0モル%の一般式(1)で表されるジアミン、酸成分として3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を重合してなるポリイミドおよび/またはポリイミド前駆体。
また、本発明のリチウムイオン電池電極用バインダーは、アミン成分として92.0〜98.0モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2.0〜8.0モル%の一般式(1)で表されるジアミン、酸成分としてトリメリット酸クロリドを重合してなるポリアミドイミドを含有する。電解液に対する耐薬品性の観点から、ポリイミドおよびポリイミド前駆体が好ましく、ポリイミド前駆体がより好ましい。以下、各樹脂について説明する。
【0012】
ポリイミドは、後述するポリイミド前駆体を加熱処理や化学処理により閉環することにより得られ、テトラカルボン酸二無水物残基とジアミン残基を有する。
【0013】
本発明において、ポリイミド前駆体とは加熱処理や化学処理によりポリイミドに変換できる樹脂を指し、例えば、ポリアミド酸、ポリアミド酸エステル、ポリイソイミドなどが挙げられる。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合させることにより得られ、テトラカルボン酸残基とジアミン残基を有する。ポリアミド酸エステルは、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとを重合させることにより、またはポリアミド酸のカルボキシル基にエステル化試薬を反応させることにより得られ、ジカルボン酸ジエステル残基とジアミン残基を有する。エステル化試薬の例としては、ジメチルホルムアミドジアルキルアセタールなどのアセタール化合物、ジヒドロピラン、ハロゲン化アルキル、ビニルエーテルなどが挙げられる。ポリイソイミドは、ポリアミド酸をジシクロヘキシルカルボジイミド、無水トリフルオロ酢酸などを用いて脱水閉環することにより得られ、ジイソイミド残基とジアミン残基を有する。
【0014】
本発明において、ポリイミド前駆体に好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ヘキサフルオロプロピリデンビス(フタル酸無水物)、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物や、下記一般式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらはポリアミド酸のテトラカルボン酸残基、ポリアミド酸エステルのジカルボン酸ジエステル残基、ポリイソイミドのジイソイミド残基を構成する。以下、テトラカルボン酸二無水物残基、テトラカルボン酸残基、ジカルボン酸ジエステル残基、ジイソイミド残基をあわせて酸残基とする。
【0015】
【化2】
【0016】
上記一般式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のフルオロアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシル基、トリメチルシリル基、フェニル基、OH、COOH、NO、CN、F、Cl、BrまたはIを示す。なお、フェニル基は、水素原子の少なくとも一部が炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基またはヒドロキシル基で置換されていてもよい。Rは単結合、−C(CH−、−C(CF−、−O−、−SO−、−CO−、−CH−、−CF−、−Si(CH−、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基またはフルオレニル基を示す。
【0017】
また、ジカルボン酸ジエステルとしては、前記テトラカルボン酸二無水物のジエステル化物を挙げることができる。
【0018】
また、上記テトラカルボン酸二無水物やジカルボン酸ジエステルとともに、トリメリット酸、トリメシン酸などのトリカルボン酸やその誘導体、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、ヘキサメチレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのジカルボン酸やその誘導体などを共重合してもよい。これらの残基の含有量は、前記酸残基100モル部に対して50モル部以下が好ましい。
【0019】
本発明において、ポリイミドおよびポリイミド前駆体は、下記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中1.0〜4.5モル%有することを特徴とする。かかるジアミンの残基を全ジアミン残基中1.0モル%以上有することにより、ケイ素原子、スズ原子、ゲルマニウム原子を含む活物質や金属箔に対する接着性を飛躍的に向上させることができる。さらに、電解液に対する耐薬品性を向上させることができる。2.0モル以上が好ましい。一方、下記一般式(1)で表されるジアミンの残基含有量が4.5モル%を超えると、電解液や塩基に対する耐薬品性や機械特性が低下する。また、機械強度が低下すると、活物質の体積変化によるストレスで膜が破壊され、活物質の剥離が生じる場合がある。4.0モル%以下が好ましい。
【0020】
【化3】
【0021】
上記一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、フェニル基または水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜10のアルキル基で置換したフェニル基を示す。RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数4〜10のシクロアルキレン基またはフェニレン基を表す。mは1〜10までの範囲を示す。mが1より大きい場合、複数のRおよびRは同じでも異なってもよい。
【0022】
前記一般式(1)で表されるジアミンとしては、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラエチルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメトキシジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラプロピルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)ジメチルジフェニルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)トリメチルヒドロジシロキサン、ビス(4−アミノフェニル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)テトラフェニルジシロキサン、α、ω−ビス(3−アミノプロピル)ヘキサメチルトリシロキサン、α、ω−ビス(3−アミノプロピル)パーメチルポリシロキサン(m≒9.8)、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラフェニルジシロキサン、1,5−ビス(2−アミノエチル)テトラフェニルジメチルトリシロキサンなどが挙げられる。
【0023】
一般式(1)において、mは1〜10の範囲を示す。接着性や耐熱性をより向上させる観点から、1〜3の範囲が好ましい。
【0024】
なお、本発明において、ポリイミドまたはポリイミド前駆体における一般式(1)で表されるジアミンの残基の含有量は、次の方法で測定することができる。まず、ポリイミドまたはポリイミド前駆体を、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液中、100〜300℃の温度で加熱処理することにより加水分解する。加水分解したサンプルを、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、NMRまたはガスクロマトグラフィーに質量分析を結合したGC−MSを用いて分析することにより、ジアミン残基の含有量を求めることができる。
【0025】
本発明において、ポリイミドおよびポリイミド前駆体は、前記一般式(1)で表されるジアミンの残基に加えて他のジアミンの残基を有する。本発明において用いられる他のジアミンとしては、芳香族環を1つ有するフェニレンジアミン、そのアルキル基置換体であるジアミノトルエン、ジアミノキシレン、ジアミノエチルベンゼン、芳香族環を2つ有するジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルフィド、ジアミノジフェニルスルホン、ベンチジン、ジアミノベンズアニリド、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、芳香族環を3つ有する1,4−ビス[1−(4−アミノフェニル)−1−メチルエチル]ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、芳香族環を4つ有するビス(アミノフェノキシフェニル)スルホン、ビス(アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス(アミノフェノキシフェニル)、あるいはこれらのジアミンの芳香族環の水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシル基、フェニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基またはエステル基で置換したものや、下記一般式(3)〜(5)のいずれかで表されるジアミンなどの芳香族ジアミン化合物、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサンジアミン、ヘプタンジアミン、オクタンジアミン、ジアミノエチレングリコール、ジアミノプロピレングリコール、ジアミノポリエチレングリコール、ジアミノポリプロピレングリコール、シクロペンチルジアミン、シクロヘキシルジアミンなどの脂肪族ジアミンなどを挙げることができる。これらはポリイミドおよびポリイミド前駆体のジアミン残基を構成する。これらのジアミンは、前記一般式(1)で表されるジアミンと共重合することが好ましく、ランダム共重合でもブロック共重合でもかまわない。
【0026】
【化4】
【0027】
上記一般式(3)中、R10、R11、R13およびR14はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のフルオロアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシル基、トリメチルシリル基、フェニル基、OH、COOH、NO、CN、F、Cl、BrまたはIを示す。なお、フェニル基は、水素原子の少なくとも一部が炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基またはヒドロキシル基で置換されていてもよい。R12は単結合、−C(CH−、−C(CF−、−O−、−SO−、−CO−、−CH−、−CF−、−Si(CH−、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基またはフルオレニル基を示す。
【0028】
【化5】
【0029】
上記一般式(4)中、R15〜R17はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のフルオロアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシル基、トリメチルシリル基、フェニル基、OH、COOH、NO、CN、F、Cl、BrまたはIを示す。なお、フェニル基は、水素原子の少なくとも一部が炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基またはヒドロキシル基で置換されていてもよい。
【0030】
【化6】
【0031】
上記一般式(5)中、R18およびR19はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のフルオロアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシル基、トリメチルシリル基、フェニル基、OH、COOH、NO、CN、F、Cl、BrまたはIを表す。なお、フェニル基は、水素原子の少なくとも一部が炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基またはヒドロキシル基で置換されていてもよい。
【0032】
これらの中でも、耐熱性、耐薬品性をより向上させる観点から芳香族ジアミンが好ましい。
【0033】
また、ジアミンとともに、トリアミノベンゼン、トリアミノジフェニルエーテル、トリアミノベンズアミドなどのトリアミン類、テトラアミノベンゼン、テトラアミノジフェニルエーテル、テトラアミノビフェニルなどのテトラアミン類を共重合してもよい。トリアミンとテトラジアミン残基の合計量は、ジアミン残基100モル部に対して30モル部以下が好ましい。
【0034】
本発明において、ポリイミドおよびポリイミド前駆体の数平均分子量は、機械強度をより向上させる観点から5,000以上が好ましく、7,500以上がより好ましく、10,000以上がより好ましい。一方、粘度を適切な範囲に調整するために、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000がより好ましい。本発明におけるポリイミドおよびポリイミド前駆体の数平均分子量とは、GPC法により、ポリスチレンを基準として、展開溶媒にリン酸、塩化リチウムを各0.05モル/Lの濃度で添加したNMPを用いて測定した値をいう。
【0035】
次に、ポリアミドイミドについて説明する。ポリアミドイミドは、トリカルボン酸またはその誘導体と、ジアミンまたはこれに対応するジイソシアネート化合物とを重合させることにより得られ、トリカルボン酸残基とジアミン残基を有する。
【0036】
ポリアミドイミドに好ましく用いられるトリカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、トリカルボキシジフェニルエーテル、トリカルボキシベンゾフェノン、トリカルボキシビフェニル、トリカルボキシターフェニルなどの芳香族トリカルボン酸や、トリカルボキシブタン、トリカルボキシペンタン、トリカルボキシヘキサン、トリカルボキシシクロブタン、トリカルボキシシクロペンタン、トリカルボキシシクロヘキサンなどの脂肪族トリカルボン酸などを挙げることができる。これらの中でもトリメリット酸が好ましい。
【0037】
また、トリカルボン酸とともに、フタル酸、アジピン酸などのジカルボン酸、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ジフェニエーテルテトラカルボン酸などのテトラカルボン酸を共重合してもよい。ジカルボン酸とテトラカルボン酸の残基の合計量は、トリメリット酸残基100モル部に対して50モル部以下が好ましい。
【0038】
本発明において、ポリアミドイミドは前記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中1.0〜10.0モル%有することを特徴とする。かかるジアミンの残基を全ジアミン残基中1.0モル%以上含有することにより、ケイ素原子、スズ原子、ゲルマニウム原子を含む活物質や金属箔に対する接着性を飛躍的に向上させることができる。さらに、電解液に対する耐薬品性を向上させることができる。2.0モル%以上が好ましく、4.0モル%以上がより好ましい。一方、下記一般式(1)で表されるジアミンの残基含有量が10.0モル%を超えると、電解液や塩基に対する耐薬品性や機械特性が低下する。8.0モル%以下が好ましく、5.0モル%以下がより好ましい。なお、ポリアミドイミドは、ポリイミドやポリイミド前駆体に比べて、一般式(1)で表されるジアミンの残基を多く含むことによる機械強度の低下が少なく、該残基を比較的多く有することができる。繰り返し単位中にアミド構造を有するポリアミドイミドは、水素結合により、機械強度の低下を抑制できるものと推測される。
【0039】
前記一般式(1)で表されるジアミンとしては、ポリイミドおよびポリイミド前駆体について例示したものを挙げることができる。
【0040】
なお、本発明において、ポリアミドイミドにおける一般式(1)で表されるジアミンの残基の含有量は、ポリイミドまたはポリイミド前駆体と同様に、加水分解した後に、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、NMRまたはガスクロマトグラフィーに質量分析を結合したGC−MSを用いて分析することにより求めることができる。
【0041】
本発明において、ポリアミドイミドは前記一般式(1)で表されるジアミンの残基に加えて他のジアミンの残基を有する。他のジアミンとしては、ポリイミドおよびポリイミド前駆体について例示したものを挙げることができる。
【0042】
本発明において、ポリアミドイミドの数平均分子量は、機械強度をより向上させる観点から5,000以上が好ましく、7,500以上がより好ましく、10,000以上がより好ましい。一方、粘度を適切な範囲に調整するために、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下がより好ましい。本発明におけるポリアミドイミドの数平均分子量とは、GPC法により、ポリスチレンを基準として、展開溶媒にリン酸、塩化リチウムを各0.05モル/Lの濃度で添加したNMPを用いて測定した値をいう。
【0043】
本発明のバインダーは、前記ポリイミド、ポリイミド前駆体またはポリアミドイミドを含有する。これらを2種以上含有してもよい。また、これらの樹脂に加えて、SBR、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの比較的低温で分解する樹脂を含有してもよい。後述する電極の製造方法において、熱処理によりかかる樹脂を分解することで、気孔が内部にある電極を得ることができる。前記ポリイミド、ポリイミド前駆体またはポリアミドイミドの総量と、低温分解樹脂の比率は重量比で100:1〜50:50の範囲が好ましい。
【0044】
さらに、必要に応じ、界面活性剤、粘性調整剤などを含有してもよい。粘性調整剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどを挙げることができる。また、アミノプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、トリメトキシグリシドキシシランなどのシランカップリング剤、トリアジン系化合物、フェナントロリン系化合物、トリアゾール系化合物などを、ポリイミド、ポリイミド前駆体またはポリアミドイミドの総量100重量部に対して0.1〜10重量部含有してもよい。これらを含有することにより、活物質や金属箔との接着性をさらに高めることができる。
【0045】
次に、本発明のバインダーの製造方法について説明する。
【0046】
ポリアミド酸の場合、ジアミンをN−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの溶媒に溶解し、テトラカルボン酸二無水物を添加して反応させる方法が一般的である。反応温度は−20℃〜100℃が一般的であり、0℃〜50℃が好ましい。反応時間は1分間〜100時間が一般的であり、2時間〜24時間が好ましい。反応中は窒素を流すなどして水分が系内に入らないようにすることが好ましい。
【0047】
ポリアミド酸エステルの場合、テトラカルボン酸二無水物をエタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコールとピリジンやトリエチルアミンなどの塩基触媒と混合し、室温〜100℃で数分間〜10時間程度反応させ、ジカルボン酸ジエステル化合物を得る。また、テトラカルボン酸二無水物を直接アルコールに分散させてもよいし、テトラカルボン酸二無水物をNMP、DMAC、DMF、DMSO、GBLなどの溶媒に溶解し、アルコールと塩基触媒を作用させてもよい。得られたジカルボン酸ジエステルを、チオニルクロリド中で加熱処理したり、オキザロジクロリドを作用させたりしてジカルボン酸クロリドジエステルにする。得られたジカルボン酸クロリドジエステルを蒸留などの手法で回収し、ピリジンやトリエチルアミンの存在下、ジアミンをNMP、DMAC、DMF、DMSO、GBLなどの溶媒に溶解した溶液に滴下する。滴下は−20℃〜30℃で実施することが好ましい。滴下終了後、−20℃〜50℃で1時間〜100時間反応させてポリアミド酸エステルを得る。なお、ジカルボン酸ジクロリドジエステルを用いると副生成物として塩酸塩ができるため、ジカルボン酸ジエステルを、チオニルクロリド中で加熱処理したり、オキザロジクロリドを作用させたりする代わりに、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのペプチドの縮合試薬によりジアミンと反応させることが好ましい。また、先に説明したポリアミド酸にジメチルホルムアミドジアルキルアセタールなどのアセタール化合物を反応させることによってもポリアミド酸エステルを得ることができる。アセタール化合物の添加量により、エステル化率を調整することができる。
【0048】
ポリイソイミドの場合、ポリアミド酸をジシクロカルボジイミド、無水トリフルオロ酢酸などを用いて脱水閉環させることにより得ることができる。
【0049】
ポリイミドの場合、上記ポリイミド前駆体を加熱処理や化学処理によりイミド閉環することにより得ることができる。化学処理としては、無水酢酸とピリジンによる処理、トリエチルアミン、ドデシルウンデセンなどの塩基処理、無水酢酸、無水コハク酸などの酸無水物処理などが挙げられる。
【0050】
ポリアミドイミドの場合、ジアミンをNMP、DMF、DMAC、GBL、DMSOなどの溶媒に溶解したジアミン溶液にトリカルボン酸クロリドを作用させ、100℃〜300℃で1分間〜24時間加熱処理する方法が一般的である。この場合、無水酢酸などの酸無水物や、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリンなどの塩基を触媒として添加して、イミド化反応を促進してもよい。触媒量は、得られるポリアミドイミド100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましい。また、ジアミンと無水トリメリット酸クロリドをピリジン、トリエチルアミンなどの存在下で反応させてポリアミド酸アミドを重合し、得られたポリアミド酸アミドの固体を100℃〜300℃の温度で1分間〜24時間加熱することによっても、ポリアミドイミドを得ることができる。また、ジアミン化合物のアミノ基をイソシアネートに置換したものとトリカルボン酸を、必要によりスズ系触媒の存在下、室温〜200℃の温度範囲で1分間〜24時間反応させることによっても、ポリアミドイミドを得ることができる。反応中は窒素を流すなどして水分が系内に入らないようにすることが好ましい。
【0051】
本発明のバインダーは、前記ポリイミド、ポリイミド前駆体またはポリアミドイミドを含むものであり、これらを2種以上含有する場合や、低温分解樹脂を含む場合には、公知の方法でこれらを混合すればよい。また、界面活性剤、粘性調整剤、シランカップリング剤、トリアジン系化合物、フェナントロリン系化合物、トリアゾール系化合物などの添加剤を含有する場合、これらの添加剤を添加して混合すればよく、後述するバインダー溶液に添加してもよい。
【0052】
本発明のバインダーは、溶液として用いられる場合もある。バインダー溶液の濃度と粘度の範囲は、濃度1〜50重量%で粘度1mPa・秒〜1000Pa・秒の範囲が好ましく、より好ましくは濃度5〜30重量%で粘度100mPa・秒〜100Pa・秒である。
【0053】
バインダー溶液に用いられる溶媒としては、NMP、DMAC、DMF、DMSO、GBL、プロピレングリコールジメチルエーテル、エチルラクテート、シクロヘキサノン、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。また、バインダー溶液の塗布性を向上させる目的で、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、各種アルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの溶媒を、好ましくは全溶媒中1〜30重量%含有することもできる。
【0054】
次に、本発明のリチウムイオン電池電極用ペーストについて説明する。
【0055】
本発明のリチウムイオン電池負極用ペースト(以下、負極用ペーストと称する場合がある)は、本発明のバインダーと、ケイ素原子、スズ原子またはゲルマニウム原子を含むリチウムイオン電池負極活物質とを含有する。このような負極活物質は単位体積あたりの充放電容量が大きく、電池の大容量化に有用である。これらを2種以上含有してもよい。
【0056】
ケイ素原子を含む負極活物質としては、例えば、(1)シリコン微粒子、(2)スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンまたはクロムと、ケイ素との合金、(3)ホウ素、窒素、酸素または炭素とケイ素との化合物や、これらにさらに(2)に例示した金属を有するものなどが挙げられる。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB、SiB、MgSi、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<v≦2)あるいはLiSiOなどが挙げられる。
【0057】
スズ原子を含む負極活物質としては、例えば、(1)ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンまたはクロムと、スズとの合金、(2)酸素または炭素とスズとの化合物や、これらにさらに(1)に例示した金属を有するものなどが挙げられる。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnO(0<w≦2)、SnSiO、LiSnOあるいはMgSnなどが挙げられる。
【0058】
ゲルマニウム原子を含む負極活物質としては、ケイ素やスズとゲルマニウムとの合金などが挙げられる。
【0059】
負極活物質の平均粒径は0.1〜10μmが好ましい。また、負極活物質の表面には、シランカップリング剤などによる処理が施されていてもよい。
【0060】
本発明の負極用ペーストにおいて、バインダーの含有量は、負極活物質100重量部に対して1重量部以上が好ましく、接着性をより向上させることができる。3重量部以上がより好ましく、5重量部以上がより好ましい。一方、電気抵抗を低減し、負極活物質の充填量を増加させるためには20重量部以下が好ましく、15重量部以下がより好ましい。
【0061】
電気抵抗を低下させるために、本発明の負極用ペーストに、グラファイト、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、アセチレンブラックなどの導電性粒子を含有してもよい。これらの含有量は、負極活物質100重量部に対して0.1重量部以上20重量部以下が好ましい。
【0062】
本発明の負極用ペーストは、本発明のバインダー、上記負極活物質、必要により界面活性剤、溶媒、架橋剤などの添加剤を混練することにより得ることができる。混練には、プラネタリーミキサー、三本ロール、ボールミル、ホモジナイザーなどを用いることができ、これらを2種以上組み合わせてもよい。
【0063】
本発明のリチウムイオン電池正極用ペースト(以下、正極用ペーストと称する場合がある)は、本発明のバインダーと、ニッケル原子を含むリチウムイオン電池正極活物質とを含有する。ニッケル原子を含む正極活物質は、単位体積あたりのリチウムイオン放出量が大きく、電池の大容量化に有用である。ニッケル原子を含む正極活物質としては、例えば、ニッケル酸リチウム、ニッケル、コバルト、鉄の三元系酸化物のリチウム塩などが挙げられ、より具体的には、特開2009−129820号公報などに例示されている。ニッケル原子を含む正極活物質は塩基性が強いために、本発明のバインダーの耐薬品性の効果が顕著に奏される。
【0064】
正極活物質の平均粒径は0.1〜10μmが好ましい。また、正極活物質の表面には、シランカップリング剤などによる処理が施されていてもよい。
【0065】
本発明の正極用ペーストにおいて、バインダーの含有量は、正極活物質100重量部に対して1重量部以上が好ましく、接着性をより向上させることができる。3重量部以上がより好ましく、5重量部以上がより好ましい。一方、電気抵抗を低減し、正極活物質の充填量を増加させるためには30重量部以下が好ましい。
【0066】
電気抵抗を低下させるために、本発明の正極用ペーストに、グラファイト、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、アセチレンブラックなどの導電性粒子を含有してもよい。これらの含有量は、正極活物質100重量部に対して0.1重量部以上20重量部以下が好ましい。
【0067】
本発明の正極用ペーストは、本発明のバインダー、上記正極活物質、必要により界面活性剤、溶媒、架橋剤などの添加剤を混練することにより得ることができる。混練方法は負極用ペーストと同様である。さらに、正極活物質は水に非常に不安定であり、特に水の混入に注意する必要がある。このため、溶媒としては吸水性の低いものが好ましく、特にGBL、プロピレングリコールジメチルエーテル、エチルラクテート、シクロヘキサノン、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。また、バインダー溶液の塗布性を向上させる目的で、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、各種アルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの溶媒を、好ましくは全溶媒中1〜30重量%含有することもできる。
【0068】
次に、本発明のリチウムイオン電池電極の製造方法について例を挙げて説明する。
【0069】
リチウムイオン電池負極(以下、負極と称する場合がある)の場合、本発明の負極用ペーストを金属箔上に1μm〜100μmの厚みで塗布する。金属箔としては、銅箔が一般的に用いられる。塗布には、スクリーン印刷、ロールコート、スリットコートなどの方法を用いることができる。
【0070】
バインダーとしてポリイミド前駆体を用いる場合、塗布後、100℃〜500℃で1分間〜24時間熱処理することにより、ポリイミド前駆体をポリイミドに変換し、信頼性のある負極を得ることができる。好ましくは200℃〜450℃で30分間〜20時間である。また、バインダーとしてポリイミドまたはポリアミドイミドを用いる場合、塗布後、100℃〜500℃で1分間〜24時間熱処理することにより、溶媒を除去することが好ましい。イミド化する必要がないため、120℃〜300℃で10分間〜24時間がより好ましい。いずれの場合においても、水分の混入を抑えるために、窒素ガスなどの不活性ガス中または真空中で加熱することが好ましい。
【0071】
バインダーに低温分解樹脂を含む場合、熱処理により低温分解樹脂を分解することで、気孔が内部にある負極を得ることができる。この場合、低温分解樹脂の分解温度より高く、バインダーの分解温度より低い温度で熱処理することが好ましく、300℃〜450℃で30分間〜20時間が好ましい。
【0072】
リチウム電池正極(以下、正極と称する場合がある)の場合、本発明の正極用ペーストを金属箔上に1μm〜500μmの厚みで塗布する。金属箔としては、アルミ箔、ニッケル箔、チタン箔、銅箔などが挙げられ、アルミ箔が一般的に用いられる。塗布方法は負極と同様である。
【0073】
バインダーとしてポリイミド前駆体を用いる場合、塗布後、100℃〜500℃で1分間〜24時間熱処理することにより、ポリイミド前駆体をポリイミドに変換し、信頼性のある正極を得ることができる。好ましくは200℃〜450℃で30分間〜20時間である。また、バインダーとしてポリイミドまたはポリアミドイミドを用いる場合、塗布後、100℃〜500℃で1分間〜24時間熱処理することにより、溶媒を除去することが好ましい。イミド化する必要がないため、120℃〜300℃で10分間〜24時間がより好ましい。いずれの場合においても、水分の混入を抑えるために、窒素ガスなどの不活性ガス中または真空中で加熱することが好ましい。
【0074】
バインダーに低温分解樹脂を含む場合、熱処理により低温分解樹脂を分解することで、気孔が内部にある正極を得ることができる。この場合、低温分解樹脂の分解温度より高く、バインダーの分解温度より低い温度で熱処理することが好ましく、300℃〜450℃で30分間〜20時間が好ましい。
【0075】
次に、本発明の正極および負極を用いたリチウムイオン電池について説明する。本発明の正極と負極の間にセパレーターを挟み、極性有機溶媒を入れることにより、リチウムイオン電池を得ることができる。極性有機溶媒は、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動することができる媒質の役割を果たす。極性有機溶媒としては、カーボネート系、エステル系、エーテル系、ケトン系、アルコール系、非陽子性溶媒を挙げることができる。前記カーボネート系溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)などを挙げることができる。前記エステル系溶媒としては、メチルアセテート、エチルアセテート、n−プロピルアセテート、メチルプロピオン酸塩、エチルプロピオン酸塩、γ−ブチロラクトン、テカノライド、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトンなどを挙げることができる。前記エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラグライム、ジグライム、ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。前記ケトン系溶媒としては、シクロヘキサノンなどを挙げることができる。前記アルコール系溶媒としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどを挙げることができる。前記非陽子性溶媒としては、トリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、1,3−ジオキソランなどのジオキソラン類、スルホラン類などを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよく、含有量比は目的とする電池の性能に応じて適宜選択できる。例えば、前記カーボネート系溶媒の場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートを1:1〜1:9の体積比で組み合わせて使用することが好ましく、電解液の性能を向上させることができる。
【実施例】
【0076】
本発明をさらに詳細に説明するために実施例を以下に挙げるが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されるものではない。なお、各実施例中の特性は、以下の方法で評価した。
【0077】
(1)接着性
各実施例および比較例で得られた電極を、121℃、0.2MPaの飽和水蒸気下(EHS−211、エスペック(株)製)で100時間処理した後、ニチバン製セロハンテープによる剥離試験(JIS K−5600−5−6(1999年)に準拠)を行った。剥がれの有無を目視で評価し、剥がれた個数を計数した。格子幅は1mm、マス目数は100とした。
【0078】
(2)耐薬品性
(a)塩基処理
ポリイミド溶液、ポリアミド酸溶液またはポリアミドイミド溶液を4インチシリコンウェハー上に350℃焼成後の膜厚が10μm±1μmになるようにスピンコートした。これを窒素雰囲気下、80℃で1時間加熱した後、3.5℃/分で350℃まで昇温し、350℃で1時間加熱して硬化膜を得た。得られた硬化膜の膜厚を大日本スクリーン製造(株)製STM802で測定した。その後、硬化膜を80℃のジエタノールアミンに10分間浸漬し、水で十分洗浄した後、200℃で30分間乾燥した。乾燥後の膜厚を測定し、以下の式により膜厚減少率を算出した。
膜厚減少率(%)={(T1−T2)/T1}×100
ただし、T1は硬化膜の膜厚(μm)、T2は乾燥後の膜厚(μm)を示す。
【0079】
(b)電解液処理
エチレンカーボネート(三井化学(株)製)15g、ジエチルカーボネート(三井化学(株)製)29g、1−メチル−1−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(日本合成化学(株)製)44g、6フッ化リチウム(東京化成(株)製)12g、1,3−プロパンスルトン(ハイケム(株)製)3gを混合して電解液を得た。得られた電解液に、各実施例および比較例で得られた電極を80℃で10時間浸漬した後、ニチバン製セロハンテープによる剥離試験(JIS−K5600−5−6(1999年)に準拠)を行った。剥がれの有無を目視で評価し、剥がれた個数を計数した。格子幅は1mm、マス目数は100とした。
【0080】
(3)機械強度
JIS K−7113(1995)に準拠して評価した。ポリアミド酸溶液、ポリイミド溶液またはポリアミドイミド溶液を6インチシリコンウェハー上に350℃焼成後の膜厚が10μm±1μmになるようにスピンコートした。これを窒素雰囲気下、80℃で1時間加熱した後、3.5℃/分で350℃まで昇温し、350℃で1時間加熱して硬化膜を得た。得られた硬化膜の膜厚を大日本スクリーン製造(株)製STM802で測定した。その後、硬化膜を45重量%のフッ化水素酸水溶液に7分間浸漬することでポリイミド、ポリアミドイミドフィルムを得た。このフィルムを200℃で30分間乾燥した後、幅1cm、長さ10cmになるように切断し、エーアンドディー社製 引張試験機“テンシロン”RTM−10で引っ張り試験を行い、機械強度を求めた。測定条件は、測定温度23℃、測定湿度45.0%RH、引っ張りモード、初期試料長50.00mm、荷重フルスケール24.5N、クロスヘッド速度50.00mm/分、破断検出感度1.0%とした。
【0081】
実施例・比較例において略号で示した化合物の内容を以下に示す。
PMDA:無水ピロメリット酸(ダイセル(株)製)
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(ダイセル(株)製)
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(三菱化学(株)製)
TMA:トリメリット酸クロリド(東京化成(株)製)
ODPA:3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(JSRトレーディング(株)製)
DAE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(和歌山精化工業(株)製)
6FAP:2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製)
DAT:2,4−ジアミノトルエン(東京化成工業(株)製)
APDS:1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(東レダウコーニングシリコーン(株)製)
BY−16−853U:平均アミン価450の両末端3−アミノプロピルジメチルポリシロキサン(東レダウコーニングシリコーン(株)製) 。
【0082】
実施例1
よく乾燥させた4つ口セパラブルフラスコ中、窒素置換雰囲気下、DAE 19.22g(96.0ミリモル)とAPDS 0.99g(4.0ミリモル)をNMP 150gに溶解させた。ここにPMDA 10.69g(49.0ミリモル)とBTDA 15.79g(49.0ミリモル)をNMP 39.3gとともに加えて、50℃以上にならないように冷却しながら撹拌した。その後、40℃で4時間撹拌し、ポリアミド酸A溶液(固形分濃度20重量%)を得た。前記(3)記載の方法でポリアミド酸Aの硬化膜を作製し、機械強度を測定したところ、186MPaであった。
【0083】
金属シリコン微細粉末(茂原希少金属(株)製)とアセチレンブラック(三菱化学(株)製)との85:15(重量比)の混合物60gをポリアミド酸A溶液30gと混合した。これを3本ロールに3回通して負極用ペーストを得た。この負極用ペーストを電解銅箔(日鉱金属(株)製、HLPB)に厚み25μmとなるようにドクターブレードで塗布した。負極用ペーストを塗布した電解銅箔を、イナートオーブン(光洋サーモシステム製、INH−9)で酸素濃度20ppm以下になるように窒素を流しながら、80℃で1時間加熱後、3.5℃/分で温度を350℃まで上げ、350℃で1時間加熱(焼成)した。その後、オーブン内の温度が50℃以下になったところで取り出し、負極を得た。
【0084】
前記方法で接着性を評価した結果、剥がれは認められなかった。また、耐薬品性を評価した結果、塩基処理により膜厚減少率は1%以下であり、電解液処理でも剥離は認められなかった。
【0085】
実施例2
APDSを0.99g(4.0ミリモル)から0.37g(1.5ミリモル)に変更し、DAE量を19.22g(96.0ミリモル)から19.72g(98.5ミリモル)に変更した以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸B溶液(固形分濃度20重量%)および負極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0086】
実施例3
APDSを0.99g(4.0ミリモル)から0.74g(3.0ミリモル)に変更し、DAE量を19.22g(96.0ミリモル)から19.42g(97.0ミリモル)に変更した以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸C溶液(固形分濃度20重量%)および負極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0087】
比較例1
APDS量を0.99g(4.0ミリモル)から1.24g(5.0ミリモル)に変更し、DAE量を19.22g(96.0ミリモル)から19.02g(95.0ミリモル)に変更した以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸D溶液(固形分濃度20重量%)および負極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0088】
比較例2
APDSを添加せず、DAE量を19.22g(96.0ミリモル)から20.02g(100ミリモル)に変更した以外は実施例1と同様にしてポリアミド酸E溶液(固形分濃度20重量%)および負極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0089】
実施例1〜3および比較例1〜2で得られたバインダーの機械強度を対比するため、比較例2のポリアミド酸Eの機械強度に対するポリアミド酸A〜Dの機械強度の比率(強度保持率)を表2に示す。樹脂本来の強度を維持し、リチウムイオン電池の長期信頼性を向上させるためには、強度保持率は80%以上が好ましい。
【0090】
実施例4
よく乾燥させた4つ口セパラブルフラスコ中、窒素置換雰囲気下、DAE 19.22g(96.0ミリモル)、とAPDS 0.99g(4.0ミリモル)、トリエチルアミン(東京化成(株)製)10.1g(100.0ミリモル)をNMP 200gに溶解させた。ここにNMP 80gに溶解させたTMA 20.63g(98.0ミリモル)を滴下した。滴下終了後、液温を30℃に温調し4時間撹拌し反応させた。得られた重合溶液をイオン交換水2L中に入れ、濾過分別し、再度純水で洗浄してポリアミド酸の粉末を得た。得られたポリアミド酸の粉末を、真空度0.2Paの真空乾燥機中、150℃で5時間、次いで200℃で2時間、次いで240℃で4時間乾燥し、ポリアミドイミド樹脂の粉末を得た。得られたポリアミドイミド樹脂20gをNMP80gに溶解してポリアミドイミドF溶液(固形分濃度20重量%)を得た。
【0091】
ポリアミド酸A溶液にかえてポリアミドイミドF溶液を用い、焼成温度を350℃から300℃に変更した以外は実施例1と同様にして負極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0092】
実施例5
DAE量を19.22g(96.0ミリモル)から18.42g(92.0ミリモル)に変更し、APDS量を0.99g(4.0ミリモル)から1.99g(8.0ミリモル)に変更した以外は実施例4と同様にしてポリアミドイミドG溶液(固形分濃度20重量%)および負極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0093】
実施例6
DAE量を19.22g(96.0ミリモル)から19.62g(98.0ミリモル)に変更し、APDS量を0.99g(4.0ミリモル)から0.50g(2.0ミリモル)に変更した以外は実施例4と同様にしてポリアミドイミドH溶液(固形分濃度20重量%)および負極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0094】
比較例3
APDSを添加せず、DAE量を19.22g(96.0ミリモル)から20.02g(100.0ミリモル)に変更した以外は実施例4と同様にしてポリアミドイミドI溶液(固形分濃度20重量%)および負極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0095】
比較例4
DAE量を19.22g(96.0ミリモル)から17.02g(85.0ミリモル)に変更し、APDS量を0.99g(4.0ミリモルから3.73g(15.0ミリモル)に変更した以外は実施例4と同様にしてポリアミドイミドJ溶液(固形分濃度20重量%)および負極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0096】
実施例4〜6および比較例3〜4で得られたバインダーの機械強度を対比するため、比較例3のポリアミドイミドIの機械強度に対するポリアミドイミドF〜HおよびJの機械強度の比率(強度保持率)を表2に示す。樹脂本来の強度を維持し、リチウムイオン電池の長期信頼性を向上させるためには、強度保持率は80%以上が好ましい。
【0097】
実施例7
よく乾燥させた4つ口セパラブルフラスコ中、窒素置換雰囲気下、6FAP 24.61g(67.2ミリモル)、DAT 3.52g(28.8ミリモル)とBY−16−853U 3.60g(4.0ミリモル)をNMP 200gに溶解させた。ここにODPA 30.38g(98.0ミリモル)をNMP 48.4gとともに加えて、50℃以上にならないように冷却しながら撹拌した。その後、40℃で1時間撹拌し、溶液の温度を180℃にして4時間撹拌した。反応終了後に室温にまで溶液温度が低下してから、NMPで濃度を調整し、ポリイミドK溶液(固形分濃度20重量%)を得た。
【0098】
金属シリコン微細粉末(茂原希少金属(株)製)とアセチレンブラック(三菱化学(株)製)との85:15(重量比)の混合物60gをポリイミドK溶液30gと混合した。これを3本ロールに3回通して負極用ペーストを得た。この負極用ペーストを電解銅箔(日鉱金属(株)製、HLPB)に厚み25μmとなるようにドクターブレードで塗布した。負極用ペーストを塗布した電解銅箔を、イナートオーブン(光洋サーモシステム製、INH−9)で酸素濃度20ppm以下になるように窒素を流しながら、80℃で1時間加熱後、3.5℃/分で温度を300℃まで上げ、300℃で1時間加熱(焼成)した。その後、オーブン内の温度が50℃以下になったところで取り出し、負極を得た。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0099】
比較例5
6FAP量を24.61g(67.2ミリモル)から24.10g(65.8ミリモル)に変更し、DAT量を3.52g(28.8ミリモル)から3.45g(28.2ミリモル)に変更し、BY−16−853U量を3.60g(4.0ミリモル)から5.40g(6.0ミリモル)に変更した以外は実施例7と同様にしてポリイミドL溶液(固形分濃度20重量%)および負極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0100】
比較例6
BY−16−853Uを添加せず、6FAP量を24.61g(67.2ミリモル)から25.64g(70.0ミリモル)に変更し、DAT量を3.52g(28.8ミリモル)から3.68g(30.0ミリモル)に変更した以外は実施例7と同様にしてポリイミドM溶液(固形分濃度20重量%)および負極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0101】
実施例7および比較例5〜6で得られたバインダーの機械強度を対比するため、比較例6のポリイミドMの機械強度に対するポリイミドK〜Lの機械強度の比率(強度保持率)を表2に示す。樹脂本来の強度を維持し、リチウムイオン電池の長期信頼性を向上させるためには、強度保持率は80%以上が好ましい。
【0102】
実施例8
よく乾燥させた4つ口セパラブルフラスコ中、窒素置換雰囲気下、DAE 19.22g(96.0ミリモル)とAPDS 0.99g(4.0ミリモル)をNMP 150gに溶解させた。BPDA 28.83g(98.0ミリモル)をNMP 46.2gとともに加えて、50℃以上にならないように冷却しながら撹拌した。その後、40℃で4時間撹拌し、ポリアミド酸N溶液(固形分濃度20重量%)を得た。得られたポリアミド酸N溶液30g、ニッケル酸リチウム(田中化学研究所製)24g、アセチレンブラック6gを混合し、3本ロールを3回通して、正極用ペーストを得た。得られた正極用ペーストをアルミ箔(東洋アルミニウム(株)、E−FOIL)上に膜厚25μmになるようにドクターブレードで塗布して、実施例1と同様の熱処理を行い、正極を得た。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0103】
比較例7
APDSを添加せず、DAE量を19.22g(96.0ミリモル)から20.02g(100ミリモル)に変更した以外は実施例8と同様にしてポリアミド酸O溶液(固形分濃度20重量%)および正極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0104】
実施例8および比較例7で得られたバインダーの機械強度を対比するため、比較例7のポリアミド酸Oの機械強度に対するポリアミド酸Nの機械強度の比率(強度保持率)を表2に示す。樹脂本来の強度を維持し、リチウムイオン電池の長期信頼性を向上させるためには、強度保持率は80%以上が好ましい。
【0105】
比較例8
ポリフッ化ビニリデン(日本ポリペンコ(株)製、PVDF−SY)20gをNMP 80gに入れ、150℃で1時間加熱してポリフッ化ビニリデン溶液を得た。ポリアミド酸O溶液のかわりにポリフッ化ビニリデン溶液を用いて、焼成温度を350℃から180℃に変更した以外は実施例8と同様にして正極を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0106】
実施例1〜8および比較例1〜8の組成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】