(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部が、心嚢内への液体の供給開始時から次第に送液速度を大きくするとともに、心嚢内への液体の供給終了前には次第に送液速度を小さくするように前記ポンプを制御する請求項1から4のいずれかに記載の心嚢内液量制御システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術のように、心嚢内に気体が充満されると以下のような不具合が発生する。
(1)心外膜が乾燥して組織にダメージを与える。
(2)体表や食道壁に設置された超音波プローブからの超音波が、気体層により反射されて超音波伝播を阻害する。
(3)心嚢内に挿入した電極カテーテルの電極が、周囲の気体により絶縁させられて電気信号の伝達を阻害する。
一方、心嚢内に液体を注入した場合には、心嚢内に注入された液体により心臓の拍動が阻害される、いわゆる心タンポナーデを惹起するという不都合がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、心タンポナーデを惹起することなく、内視鏡画像の視野を良好に確保することができる心嚢内液量制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、心嚢内に挿入される管路と、該管路
への液体の供給および
前記管路からの液体の排出を行うポンプと、心電情報を検出する心電情報検出部と、該心電情報検出部により検出された心電情報に同期して、心臓の収縮時に前記管路を介して心嚢内に液体を供給するとともに、心臓の拡張時に前記管路を介して心嚢内から液体を排出するように前記ポンプを制御する制御部とを備え
、該制御部は、心嚢内に供給する液量と心嚢内から排出する液量とが略同量となるように前記ポンプを動作させ、前記心嚢内を略一定の圧力に維持するように前記ポンプを制御する心嚢内液量制御システムを採用する。
【0007】
本発明によれば、心嚢内に管路が挿入された状態において、心電情報検出部により心電情報が検出され、該心電情報に同期してポンプの動作が制御部により制御される。具体的には、心臓の収縮時に管路を介して心嚢内に液体を供給するとともに、心臓の拡張時に管路を介して心嚢内から液体を排出するようにポンプが制御される。
【0008】
上記のように心電情報に同期させて心嚢内に液体の注入・排出を行なうことで、心嚢内に液体を貯留させつつ、心臓の拡張時において、心臓の拡張を抑制する心嚢内の液体を除去して心臓を十分に拡張させることができる。これにより、心嚢内に貯留された液体により心臓の拍動が阻害される、いわゆる心タンポナーデを防止することができる。
【0009】
また、心嚢内に液体を貯留することで、心外膜の乾燥を防ぐとともに、液体により心嚢内を拡張させ、心嚢内に挿入した内視鏡の視野を確保することができる。また、心嚢内に貯留された液体は、心嚢内に挿入した超音波デバイスの音響媒体やアブレーションデバイスの冷却媒体としても使用することができる。また、心嚢内の液体の浮力により小さい力で心臓を心嚢内で持ち上げることもでき、心臓後壁へのアクセスをより容易化することができる。
【0010】
上記発明において、心嚢内に液体を供給する供給路と心嚢内から液体を排出する排出路とを1本の流路にまとめる流路結合部を備えることとしてもよい。
このような流路結合部を備えることで、心嚢内に液体を供給する供給路と心嚢内から液体を排出する排出路とを体外においてまとめて管路に接続することができる。これにより、送液ルート(例えばチューブ)を減らして、心嚢内への送液作業の容易化を図ることができる。
【0011】
上記発明において、前記ポンプを複数備え、心嚢内に液体を供給する供給路と心嚢内から液体を排出する排出路とが、別々の前記ポンプに接続されていることとしてもよい。
このような構成とすることで、心嚢内に液体を供給する供給路と、心嚢内から液体を排出する排出路と別々のルートとすることができる。これにより、供給路から新鮮な液体を心嚢内に供給して、心嚢内の液体の透明度を高く維持することができ、内視鏡等により明瞭な心嚢内の画像を得ることができる。
【0012】
上記発明において、前記心電情報検出部により検出された心電情報から心電図を生成する心電図生成部と、該心電図生成部により生成された心電図からR波を検出するR波検出部とを備え、前記制御部が、前記R波検出部によりR波が検出されたタイミングから所定時間経過後に前記ポンプを動作させることとしてもよい。
このような構成とすることで、R波検出部により心電図からR波を検出することによって、心臓の収縮・拡張の期間を正確に把握することができ、そのタイミングに合わせてポンプを動作させて心嚢内への液体の注入・排出を行うことができる。これにより、心タンポナーデを確実に防止することができる。
【0013】
上記発明において、前記制御部が、心嚢内に供給する液量と心嚢内から排出する液量とが略同量となるように前記ポンプを動作させるこ
とで、心嚢内を略一定の圧力とすることができ、心嚢内の液体の圧力変動による心臓および心嚢膜へのダメージを抑制することができる。また、心拍間における心嚢内の液量の増減がないため、長時間安定した心嚢内の液量コントロールを行うことができる。
【0014】
上記発明において、前記制御部が、心嚢内への液体の供給開始時から次第に送液速度を大きくするとともに、心嚢内への液体の供給終了前には次第に送液速度を小さくするように前記ポンプを制御することとしてもよい。
このようにすることで、ポンプの動作開始時や動作終了時、特に給液と排液が入れ替わるときの給液抵抗を小さくすることができ、正確な給液コントロールが可能となる。
【0015】
上記発明において、前記制御部が、心嚢内
からの液体の排出開始時から次第に送液速度を大きくするとともに、心嚢内
からの液体の排出終了前には次第に送液速度を小さくするように前記ポンプを制御することとしてもよい。
このようにすることで、ポンプの動作開始時や動作終了時、特に給液と排液が入れ替わるときの排液抵抗を小さくすることができ、正確な排液コントロールが可能となる。
【0016】
上記発明において、前記制御部が、前記ポンプの送液速度の変化量が一定となるように前記ポンプを制御することとしてもよい。
このようにすることで、急激に送液速度が変化した場合における送液抵抗の増加を無くすことができ、ポンプへの負担を低減するとともに、安定した送液コントロールが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、心タンポナーデを惹起することなく、内視鏡画像の視野を良好に確保することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施形態]
以下に、本発明の第1の実施形態に係る心嚢内液量制御システム101について図面を参照して説明する。
本実施形態における心嚢内液量制御システム101は、
図1に示すように、液体を定量輸送するポンプ1,2と、これらポンプ1,2を制御するポンプ制御装置(制御部)5と、ポンプ制御装置5に心電図を送る心電計(心電図生成部)6と、心電図を計測するために体表に貼り付けられた心電図用電極(心電情報検出部)7a,7bと、生理食塩水を貯蔵した生理電解液容器8と、心嚢C内から排出された液体を保管する廃液容器9と、ポンプ1,2からの送液ルートを1本にまとめる逆止弁付コック(流路結合部)10とを備えている。
また、符号14は、後述するように、体表から超音波を心臓B内に照射して超音波画像を得るための超音波プローブを示している。
【0020】
体外と心嚢C内とを結ぶ送液ルート13はチューブであり、その一端は、剣状突起下から挿入されたシース(管路)11の内腔と、シース11に挿入されたデバイス(ここでは内視鏡12)との隙間に接続されている。また、体外と心嚢C内とを結ぶ送液ルート13の他端は、逆止弁付コック10に接続されている。
【0021】
シース11は、例えばセントジュードメディカル社製アジリス・ステラブルシース11のようにステアリング機構を備えたシース11が好ましく、一般的なシース11と同様に、心嚢C内に貫通しているルート(空間)が図示しない3方活栓で終端している。
【0022】
シース11の3方活栓には、
図2に示すような逆止弁付(分岐)コック10が接続されている。逆止弁付コック10は、シース11からの1本の流路を分岐し、分岐した流路の一方にはシース11側に注入する流れのみを許容する逆止弁15aが取り付けられ、他方の流路にはシース11側からの流れのみを許容する逆止弁15bが取り付けられている。
【0023】
なお、
図2に示す例においては、分岐は3本とし、残り1本を非常時に開放するための非常弁16を設けた例を示しているが、非常弁16はシース11の3方活栓で代用することもできる。
また、逆止弁15a,15bは、廃液容器9からの逆流を防止する目的で設けているが、ポンプ1,2として、ぺリスタポンプ等の逆流の生じにくいポンプを使用した際には設けなくても良い。
【0024】
心電図用電極7a,7bは、心電図(心電情報)を計測するために体表に貼り付けられた電極であり、計測した心電情報を心電計6に出力するようになっている。
心電計6は、心電図用電極7a,7bにより計測された心電情報から心電図を生成し、該心電図をポンプ制御装置5に出力するようになっている。
【0025】
生理電解液容器8は、生理食塩水を貯留する容器である。生理電解液容器8は、ポンプ1に接続されており、ポンプ1を動作させることで、生理電解液容器8内に貯留された生理食塩水が、逆止弁付コック10および送液ルート13を介して心嚢C内に注入されるようになっている。
【0026】
なお、心嚢膜Aと心臓Bとの間の空間である心嚢C内に注入する液体としては、生理食塩水やリンゲル液等の生理電解液が好ましく、本実施形態では、生理電解液である生理食塩水を用いて説明する。
【0027】
廃液容器9は、心嚢C内から排出された液体を保管する容器である。廃液容器9は、ポンプ2に接続されており、ポンプ2を動作させることで、心嚢C内に貯留された生理食塩水が、逆止弁付コック10および送液ルート13を介して心嚢C内から排出されて、廃液容器9に送られるようになっている。
【0028】
ポンプ制御装置5は、
図4に示すように、心電計6により生成された心電図(心電図用電極7a,7bにより計測された心電情報)に同期してポンプ1,2を制御するようになっている。具体的には、ポンプ制御装置5は、心臓Bの収縮時には、ポンプ1を動作させて送液ルート13を介して心嚢C内に生理食塩水を供給する。一方、ポンプ制御装置5は、心臓Bの拡張時には、ポンプ2を動作させて送液ルート13を介して心嚢C内から液体を排出する。
【0029】
ポンプ制御装置5は、
図5に示すように、心電計6からの信号を受け取って心電図のR波を検出するR波検出部21と、R波検出のタイミングから所定時間後に、ポンプ1,2に対して、生理電解液容器8から心嚢C内へ液体を注入する注入動作信号および心嚢C内から生理電解液容器8に液体を吸引する吸引動作信号を出力する動作信号発生部22とを機能として備えている。
【0030】
ここで、心タンポナーデは、心嚢C内に貯留される液体量が多すぎる時に、心拡張期において心嚢C内の液体が心室の拡張を妨げ、心室が十分に拡張せずに心収縮期に入ることで、心拍出量が低下することにより惹起される。言い換えれば、心拡張末期において心室が十分に拡張できるくらいに心嚢C内の液体量がコントロールされていれば、心タンポナーデの惹起を低減することができる。
【0031】
そこで、本実施形態に係る心嚢内液量制御システム101では、心電図に同期させて、
図3に示すように、心収縮時には心嚢C内に液体を注入し、心拡張時には心嚢C内の液体を吸引するようにした。
このようにすることで、心拡張末期の心嚢C内の液量が心拡張末期において心臓Bが十分拡張できる量まで減少させることができるため、心タンポナーデを惹起することなく心嚢C内に液体を貯留することができる。また、心嚢C内に液体を貯留することで、心外膜の乾燥を防ぐとともに、心嚢C内を拡張させて心嚢C内に挿入した内視鏡の視野を確保することができる。また、体表および食道壁を介して超音波観察、心嚢C内に挿入した内視鏡12の電気インピーダンスに基づく電極位置検出などを同時に行うことができる。
【0032】
また、心嚢C内に貯留された液体は、心嚢C内に挿入した超音波内視鏡12の音響媒体やアブレーション内視鏡12の冷却媒体としても使用できるばかりでなく、心嚢C内液の浮力によって小さい力で心臓Bを心嚢C内で持ち上げることもでき、心臓Bの後壁へのアクセスをより容易にすることができる。
【0033】
以下、本実施形態に係る心嚢内液量制御システム101の使用方法について説明する。
まず、シース11(例えば、セントジュードメディカル社製アジリス・ステラブルシース11)を、剣状突起下よりSosaらの手法(参考文献:Sosa E et al.,Nonsurgical transthoracic epicardial catheter ablation to treat recurrent ventricular tachycardia occurring late after myocardial infarction.J Am Coll Cardiol 2000;35:1442-1449.)により、シース11内に生理食塩水が充満された状態で心嚢C内に留置する。
【0034】
次に、内視鏡12による心臓Bの表面観察の視野を確保するため、患者の血行動態をモニターしながら、ポンプ1を動作させ、生理電解液容器8から生理電解液を、逆止弁付コック10およびシース11と内視鏡12との隙間を介して心嚢C内に注入する。
【0035】
この時、心電計6からの信号線が接続されたポンプ制御装置5において、後述する生理電解液量コントロールをスタートさせることで、心室収縮期にはポンプ1により生理電解液が心嚢C内に注入される。また、引き続き起こる心室拡張期にあわせてポンプ2を動作させ、血行動態を破綻させる過剰な心嚢C内の液体を、心嚢C内から廃液容器9に排出する。
【0036】
図6にポンプ制御装置5による生理電解液量コントロール(生理電解液を注入および排出するためのポンプ1,2の制御)の一例を示す。
心電図のR波を捕捉するトリガー条件でトリガー信号が生成され、トリガー信号の立ち上がりから一定時間(Δt1)後に、生理電解液を心嚢C内に注水するポンプ1を一定時間Δt2動作させる信号をポンプ1に出力する。
【0037】
また、ポンプ1の動作信号がOFFになったときからΔt3時間間隔をあけて、生理電解液を心嚢C内から排出するポンプ2を一定時間Δt4動作させる信号をポンプ1に出力する。
ここで、以下の関係となるようにそれぞれの動作時間を選定する必要がある。
RR間隔(Δt
R−R)>Δt1+Δt2+Δt3+Δt4
【0038】
本実施形態に係る心嚢内液量制御システム101によれば、上記関係が成り立っている範囲においてRR間隔(心拍動間隔)が変動しても、安定した心嚢C内の液量コントロールが可能である。よって、トリガー信号が出力されてから次のトリガー信号が出力されるまでの不応時間Δtiを以下のように決定することにより、ノイズに起因するトリガー信号出力を抑制することができ、安定した生理食塩水量コントロールが可能となる。
Δt1+Δt2+Δt3+Δt4<Δti<Δt
R−R
【0039】
その後、生理電解液容器8からポンプ1によりΔt2時間に注入される生理食塩水量とポンプ2によりΔt4時間に廃液容器に排出される液量を等しくなるように制御する。ここでは、給水および排水スピードを等しくしてΔt2=Δt4とした場合を例示しているが、もちろんこれに限るものではなく、給水量と排水量が同量となるように送排水スピードと送排水時間を調節することとしてもよい。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る心嚢内液量制御システム101によれば、心収縮期においては心嚢C内の液量を増加させて、内視鏡12による観察や処置具を用いて治療を行なう心嚢C内のスペースを確保するとともに、心嚢C内に挿入した内視鏡12のレンズ曇りをなくすことができ、内視鏡画像を向上させることができる。この場合において、心拡張期において心嚢C内の液量を減少させ、心嚢C内の液体による心室拡張への影響を小さくし、心タンポナーデを惹起させないようにすることができる。
【0041】
また、心臓B表面の心外膜の乾燥によるダメージも少なくすると同時に、超音波プローブ14によって体表から超音波を心臓B内に照射して、超音波画像を得ることができる。
なお、
図1に示す例では、超音波プローブ14を体表においた場合を図示したが、本実施形態に係る心嚢内液量制御システム101によれば、経食プローブや心嚢C内に挿入した超音波プローブにおいても、特別な音響媒体保持機構を必要とせずに、超音波画像を表示することができる利点がある。
【0042】
更に、心嚢C内に生理食塩水等の生理電解液を貯留することにより、心臓Bに浮力が働くため、炭酸ガス等の気体を貯留した場合に比べて弱い力でも心嚢C内中で心臓Bの位置を動かすことができる。特に心臓Bの後壁に内視鏡12を挿入して処置を行う際には、心臓Bを持ち上げて作業空間を確保しやすい。また、心嚢C内の液体の浮力を利用して内視鏡12を操作する際の媒体としても作用させることができる。
【0043】
[第2の実施形態]
以下に、第2の実施形態に係る心嚢内液量制御システム102について、
図7を参照して説明する。以降では、各実施形態に係る心嚢内液量制御システムについて、前述の実施形態に係る心嚢内液量制御システムと共通する点については同一の符号を付して説明を省略し、前述の実施形態に係る心嚢内液量制御システムと異なる点について主に説明する。
【0044】
図7に本実施形態に係る心嚢内液量制御システム102の概略構成図を示す。
本実施形態に係る心嚢内液量制御システム102が第1の実施形態に係る心嚢内液量制御システム101と異なる点は、心嚢C内への生理食塩水の注入経路と、心嚢C内からの生理食塩水の吸引経路とを独立にした点である。
【0045】
シース11の3方活栓は、心嚢C内の液体を廃液容器9に吸引廃棄するポンプ2に接続されており、心嚢C内に生理食塩水を注入するポンプ1は、シース11内に挿入された内視鏡12の内部に連通され、内視鏡12の先端に開口する図示しない内視鏡貫通孔(チャネル)に接続される。
【0046】
本実施形態に係る心嚢内液量制御システム102によれば、内視鏡12の先端部近傍に新鮮な生理食塩水が供給されるため、第1の実施形態と同様の効果に加えて、心嚢C内の生理食塩水の透明度を高く維持することができ、内視鏡12にて明瞭な画像を得ることができる。
【0047】
[第3の実施形態]
以下に、第3の実施形態に係る心嚢内液量制御システム103について、
図8から
図11を参照して説明する。
図8に、本実施形態に係る心嚢内液量制御システム103の概略構成図を示す。
本実施形態では、前述の実施形態に係る心嚢内液量制御システム101に、電気インピーダンスに基づく内視鏡12の位置検出システムを採用した例について説明する。ここでは、電気インピーダンスに基づく内視鏡位置検出システムとして、例えばセントジュードメディカル社製EnSite NavXシステムの位置検出機能を用いる場合を例に挙げて説明する。
【0048】
セントジュードメディカル社製EnSite NavXシステムでは、生体中に3軸の電位勾配をつけるため、
図8に示すように、体表の上下、前後、左右それぞれに1対のパッチ電極31が貼られ、各対のパッチ電極31間に微弱な電流を流して生体内に電位勾配を形成し、生体内に挿入した内視鏡12(12a,12b)に設けられた電極が記録する電位に基づき位置検出が行なわれる。
【0049】
このような電気インピーダンスに基づく内視鏡位置検出システムは、心嚢C内に挿入した内視鏡12の周囲が気体で充満された状態では、心嚢C内に挿入した内視鏡12の位置検出が困難であるという不具合が生じていた。
【0050】
本実施形態では、心嚢C内に生体組織の電気伝導度に近い生理電解液を貯留し、電気インピーダンスに基づく内視鏡12の位置検出を行う例について以下に説明する。
本実施形態に用いられる生理電解液としては、生理食塩水やリンゲル液等の公知のものが使用できる。
また、本実施形態では、前述の実施形態におけるポンプ1,2に代えて、正逆運転が可能なポンプ3を使用する。
【0051】
まず、剣状突起下より前述のSosaらの手法を用いて、心嚢C内にアクセスするシース11(例えば、セントジュードメディカル社製アジリス・ステラブルシース11)を2本留置後、心嚢C内を観察するための内視鏡12aとアブレーションカテーテル等の内視鏡12bをそれぞれのシース11を介して、心嚢C内に挿入する。
【0052】
上記2本のシース11の心嚢C内に貫通しているルート(空間)は、終端している図示しないそれぞれの3方活栓の活栓側が、
図9に示す連結器(流路結合部)30により1本の送水経路にまとめられている。まとめられた送水経路は、生理電解液が一時的に保管されている生理電解液容器8およびポンプ3に接続されている。
連結器30には、非常時に開放する弁33が設けられており、この弁33を介して注射筒等により心嚢C内に生理電解液を補充する経路としても用いられる。
【0053】
連結器30で複数の心嚢C内への送液経路がまとめられることにより、心嚢C内からのそれぞれの送液経路の送液抵抗が異なる場合であっても、送液抵抗の少ない送液経路には多くの生理電解液が流れ、送液抵抗の大きな送液経路には少量しか生理電解液が流れないように調整されるため、効率の良い送液が可能となる。
【0054】
心嚢C内での位置検出を行ないたいデバイス(ここでは内視鏡12a,12b)には、
図10に示すように、電気生理学検査用のカテーテルに設けられているようなリング電極35a,35bが、位置検出用として1対設けられている。
【0055】
上記のリング電極35a,35b付の内視鏡12a,12bを、シース11を介して心嚢C内に挿入する。
ポンプ3は、ポンプ制御装置5により生理電解液の注排水がコントロールされる。そのコントールの一例を
図11に示す。
【0056】
ポンプ制御装置5において、心電図のR波を捕捉するトリガー条件でトリガー信号が生成され、トリガー信号の立ち上がりから一定時間(Δt1)後に、ポンプ3に生理電解液を心嚢C内に注水する信号を出力する。この際、
図11の給水量・排水量と時間とのグラフにおける傾斜部分に示すように、Δt2時間、注入開始と注入終了時に送水スピードを変化させながら出力する。その後、生理電解液を心嚢C内から排出する信号をΔt4時間、注入時と同様に、排水開始と注入終了時に排水スピードを変化させながら動作させる信号をポンプ3に出力する。
【0057】
ここで、以下の関係となるようにそれぞれの動作時間を選定する必要がある。
RR間隔(Δt
R−R)>Δt1+Δt2+Δt3
本実施形態に係る心嚢内液量制御システム103によれば、上記関係が成り立っている範囲においてRR間隔(心拍動間隔)が変動しても、安定した心嚢C内の生理電解液量コントロールが可能である。
【0058】
不応時間Δtiについても第1の実施形態と同様に、以下のように決定することにより、ノイズに起因するトリガー信号の出力を抑制することができ、安定した生理電解液量コントロールが可能となる。
Δt1+Δt2+Δt3<Δti<Δt
R−R
【0059】
ここで、生理電解液容器からポンプ3によりΔt2時間に給水される生理電解液量と、Δt3時間に排水される生理電解液量とが等しくなるように制御することで、心拍間における心嚢C内の生理電解液量の増減がないため、長時間安定した心嚢C内の生理電解液量コントロールができる。
【0060】
また、給排水スピードを徐々に変化させているため、第1の実施形態で示したON−OFF制御に比べ、立ち上がり時や立下り時、特に給水と排水が入れ替わるときの給排水抵抗を小さくすることができ、正確な給排水コントロールが可能となる。
【0061】
上記の心嚢C内の生理電解液量コントロールを動作させ、ポンプ3により心拍に合わせて給水する生理電解液量と排水する生理電解液量とを同じに制御した状態で、
図9に示す連結器30の弁33に、注射等により生理電解液を心嚢C内に追加することとしてもよい。このようにすることで、心拍動に伴う心嚢C内の生理電解液量の影響を抑制しながら、心嚢C内の生理電解液の総量を調節することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、ポンプ制御装置5による心嚢C内の生理電解液量コントロールは、心拍中の生理電解液の給水量と排水量とを等しく制御し、連結器30の弁33から注入する生理電解液により心嚢C内の生理電解液総量を調節する方法について説明したが、心嚢C内の生理電解液総量を増加させたい時には心拍中の「生理電解液の給水量>生理電解液の排水量」とし、心嚢C内の生理電解液総量を減少させたい時には心拍中の「生理電解液の給水量<生理電解液の排水量」となるようにコントールすることで調節してもよい。
【0063】
また、本実施形態では、2本のシース11とそれぞれに挿入される内視鏡12a,12bとの隙間を経路として生理電解液量をコントロールする例を示したが、シース11の本数を2本に限らず、更に多数のシース11を1本の給排水経路としてまとめても良いし、シース11中に挿入される内視鏡12に送排水経路が付属している場合には、それらの送排水経路もまとめてもよい。
【0064】
また、
図8においては、患者に貼り付けた心電図用電極7a,7bを心電図計に接続し、計測した心電図をポンプ制御装置5に入力する例を示したが、位置検出用の勾配電位を形成するためのパッチ電極31間で計測された信号を心電図の代替として用いてもよい。
【0065】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記の各実施形態を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよい。
【0066】
(付記項1)
心嚢内に管路を挿入するとともに、心電情報を検出し、
検出した心電情報に同期して、心臓の収縮時に前記管路を介して心嚢内に液体を供給するとともに、心臓の拡張時に前記管路を介して心嚢内から液体を排出する心嚢内液量制御方法。
【0067】
(付記項2)
心電情報から心電図を生成するとともに、該心電図からR波を検出し、
R波が検出されたタイミングから所定時間経過後に心嚢内への液体の供給または排出を行う付記項1に記載の心嚢内液量制御方法。
【0068】
(付記項3)
心嚢内に供給する液量と心嚢内から排出する液量とが略同量となるように心嚢内への液体の供給または排出を行う付記項1に記載の心嚢内液量制御方法。
【0069】
(付記項4)
心嚢内への液体の供給開始時から次第に送液速度を大きくするとともに、心嚢内への液体の供給終了前には次第に送液速度を小さくするように心嚢内への液体の供給を行う付記項1に記載の心嚢内液量制御方法。
【0070】
(付記項5)
心嚢内への液体の排出開始時から次第に送液速度を大きくするとともに、心嚢内への液体の排出終了前には次第に送液速度を小さくするように心嚢内への液体の排出を行う付記項1に記載の心嚢内液量制御方法。
【0071】
(付記項6)
心嚢内への送液速度の変化量が一定となるように心嚢内への液体の供給または排出を行う付記項4または5に記載の心嚢内液量制御方法。