(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984384
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】ウォータポンプ
(51)【国際特許分類】
F01P 5/10 20060101AFI20160823BHJP
F01P 7/14 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
F01P5/10 B
F01P7/14 J
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-287344(P2011-287344)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136954(P2013-136954A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年11月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石森 崇
(72)【発明者】
【氏名】谷 健作
【審査官】
小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】
実開平02−096426(JP,U)
【文献】
実開平03−047426(JP,U)
【文献】
実開昭60−026231(JP,U)
【文献】
特開2004−293508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 1/00−11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動されて該エンジンの冷却水を循環駆動するよう、ポンプ入口側から、インペラに隣接する予旋回室、及び前記インペラを介してポンプ出口側へ冷却水を流すウォータポンプにおいて、ポンプ出口側からポンプ入口側へ圧力差を利用して冷却水の一部を還流し得るリリーフ回路を設け、エンジン側が必要とする冷却水の量に対してウォータポンプの吐出量が過剰となる時に流路を開閉し得るリリーフバルブを前記リリーフ回路に設け、
前記リリーフ回路は、前記予旋回室直下に前記インペラの外周部の流路まで到るように穿設される横孔と、該横孔の中途部と前記予旋回室との間を連通する縦孔とにより形成され、
前記横孔の前記縦孔との連通部分より上流側には、弁座が形成され、
前記横孔の下流側には、前記横孔の開口部を塞ぐボルトが備えられ、
前記リリーフバルブは、前記横孔に摺動自在に収められる弁体と、前記ボルトと前記弁体との間に配置されるスプリングとにより構成され、
前記リリーフバルブは、前記スプリングにより前記弁体が前記弁座に着座して流路を閉塞し、
前記リリーフバルブが常時閉でポンプ出口側の水圧が所定値以上となった時に水圧により前記弁体が移動して自動的に開くように構成したことを特徴とするウォータポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォータポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8及び
図9は自動車用のエンジン7の冷却水9を循環駆動するためのウォータポンプ1の一例を示すもので、この種のウォータポンプ1においては、多数のベーン2を外周部に備えたインペラ3がポンプハウジング4内に回動自在に収容されており、前記インペラ3を軸支するシャフト5が、その先端のプーリ6に図示しないベルトを介して伝達されるエンジン7のトルクにより駆動されるようになっている。
【0003】
また、前記ポンプハウジング4内におけるインペラ3に隣接した位置には、ポンプ入口8から取り込まれる冷却水9に旋回方向の流れを誘導する予旋回室10が形成されており、該予旋回室10からインペラ3側に流れ込んだ冷却水9が、回転するインペラ3の各ベーン2によりポンプ出口11に向け掻き出され、該ポンプ出口11から圧力をかけられてエンジン7へと送り出されるようになっている。
【0004】
尚、この種のウォータポンプ1に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−280049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなメカニカル式のウォータポンプ1では、インペラ3の回転数に比例して吐出量が増加し、その消費馬力も増加することになるが、エンジン7側が必要とする冷却水9の量は、必ずしも回転数が上がっていくのに従って増えるわけではなく、例えば、自動車が登り坂を走行する場合には、回転数が低くてもエンジン7での燃料噴射量が増えてエンジン7の熱負荷が大きくなり、また、自動車が下り坂を走行する場合には、回転数が高くてもエンジン7での燃料噴射量が少なくなってエンジン7の熱負荷は小さくなる。
【0007】
このため、低回転時の最も熱負荷が厳しい条件に合わせて必要吐出量を満足するように回転数に対する吐出量の増加割合(回転数と吐出量との比例関係における傾き)を設定すると、高回転時における吐出量が過剰となって余分に馬力を消費してしまう結果となり、エンジン7の燃費が悪くなるという不具合があった。
【0008】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、エンジン側が必要とする冷却水の量に対しウォータポンプの吐出量が過剰になることを抑制して消費馬力を低減し得るようにしたウォータポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、エンジンにより駆動されて該エンジンの冷却水を循環駆動するよう、
ポンプ入口側から、インペラに隣接する予旋回室、及び前記インペラを介してポンプ出口側へ冷却水を流すウォータポンプにおいて、ポンプ出口側からポンプ入口側へ圧力差を利用して冷却水の一部を還流し得るリリーフ回路を設け、エンジン側が必要とする冷却水の量に対してウォータポンプの吐出量が過剰となる時に流路を開閉し得るリリーフバルブを前記リリーフ回
路に設け、
前記リリーフ回路は、前記予旋回室直下に前記インペラの外周部の流路まで到るように穿設される横孔と、該横孔の中途部と前記予旋回室との間を連通する縦孔とにより形成され、
前記横孔の前記縦孔との連通部分より上流側には、弁座が形成され、
前記横孔の下流側には、前記横孔の開口部を塞ぐボルトが備えられ、
前記リリーフバルブは、前記横孔に摺動自在に収められる弁体と、前記ボルトと前記弁体との間に配置されるスプリングとにより構成され、
前記リリーフバルブは、前記スプリングにより前記弁体が前記弁座に着座して流路を閉塞し、
前記リリーフバルブが常時閉でポンプ出口側の水圧が所定値以上となった時に水圧により前記弁体が移動して自動的に開くように構成したことを特徴とするものである。
【0010】
而して、このようにすれば、エンジン側が必要とする冷却水の量に対してウォータポンプの吐出量が過剰である場合に、リリーフバルブを開けてリリーフ回路を開通すると、圧力差によりポンプ出口側からポンプ入口側へ向け冷却水の一部が還流され、これによりウォータポンプの仕事量が減少することで消費馬力も低減される。
【0011】
また、高流量・高圧力になりそうな高回転時にリリーフ回路を開通して冷却水の一部を還流させるようにすれば、ポンプ入口側圧力(ポンプ吸込圧力)の過剰な低下(蒸気圧以下への圧力降下)を抑制してキャビテーションの発生を回避することも可能となる(一般的にキャビテーションが心配されるほどの高回転となるのはエンジンの無負荷最高回転などといった運転領域であり、このような運転領域での冷却水の必要量は少量である)。
【0012】
尚、エンジンのアイドル回転時にリリーフ回路を開通して冷却水の一部を還流させるようにすれば、エンジンへ送り出される冷却水の吐出量が低減され、エンジンの冷却水による水冷効果が低下してエンジンの暖機を促進することも可能となる。
【0013】
更に、本発明においては、リリーフバルブが常時閉でポンプ出口側の水圧が所定値以上となった時に水圧により自動的に開くように
構成すれば、複雑な制御系を要することなく比較的簡単な構成で冷却水の吐出量を自動的に調節することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
上記した本発明のウォータポンプによれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0016】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、エンジン側が必要とする冷却水の量に対してウォータポンプの吐出量が過剰となる時にリリーフバルブを開けてリリーフ回路を開通し、圧力差を利用してポンプ出口側からポンプ入口側へ向け冷却水の一部を還流させることができるので、エンジン側が必要とする冷却水の量に対しウォータポンプの吐出量が過剰になることを抑制して消費馬力を低減することができ、余分に馬力を消費しなくて済むことによりエンジンの燃費を大幅に向上することができる。
【0017】
(II)本発明の請求項1に記載の発明によれば、高流量・高圧力になりそうな高回転時にリリーフ回路を開通して冷却水の一部を還流させることにより、ポンプ入口側圧力(ポンプ吸込圧力)の過剰な低下(蒸気圧以下への圧力降下)を抑制してキャビテーションの発生を回避することができる。
【0018】
(III)本発明の請求項1に記載の発明によれば、エンジンのアイドル回転時にリリーフ回路を開通して冷却水の一部を還流されることにより、アイドル回転時にエンジンへ送り出される冷却水の吐出量を低減することができ、これによりエンジンの冷却水による水冷効果を低下せしめてエンジンの暖機を促進することができる。
【0019】
(IV)本発明の請求項
1に記載の発明によれば、リリーフバルブが常時閉でポンプ出口側の水圧が所定値以上となった時に水圧により自動的に開くように構成されているので、複雑な制御系を要することなく比較的簡単な構成で冷却水の吐出量を自動的に調節することができ、安価な実施コストでエンジンの燃費を効果的に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】
図2のリリーフ回路が閉塞した状態を示す拡大図である。
【
図4】
図3のリリーフ回路が開通した状態を示す拡大図である。
【
図7】
図6の弁体を抱持する曲面座について説明する断面図である。
【
図8】従来のウォータポンプの一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1及び
図2は本発明の第一形態例を示すもので、この第一形態例のウォータポンプ12においては、先の
図8及び図で説明した従来のウォータポンプ1と略同様の構成(
図8及び
図9と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている)を有しているが、ポンプ出口11付近の相対的に水圧の高い流路と、ポンプ入口8付近の相対的に水圧の低い流路との間が、リリーフ回路13により接続されており、該リリーフ回路13を介してポンプ出口11側からポンプ入口8側へ圧力差を利用して冷却水9の一部が還流されるようになっている。
【0024】
また、前記リリーフ回路13の途中には、流路を開閉し得るリリーフバルブ14が設けられており、ここに図示している例では、弁体15をスプリング16により弁座17に常時押し付けることでリリーフ回路13の流路を閉塞し、ポンプ出口11側の水圧が所定値以上となった時に前記スプリング16の弾発力に抗し弁体15を水圧により弁座17から離脱させることでリリーフ回路13の流路を開通するようにしたスプリング式のリリーフバルブ14が採用されている。
【0025】
より詳細には、
図3及び
図4に拡大して示す通り、予旋回室10直下にインペラ3の外周部の流路まで到る横孔13aが穿設されていると共に、該横孔13aの中途部と前記予旋回室10との間が縦孔13bにより連通されており、これら横孔13aと縦孔13bとによりリリーフ回路13が形成されるようになっている。
【0026】
そして、前記横孔13aの奥まった位置に、前記弁座17が形成され且つ該弁座17に着座して流路を閉塞するピストン状の弁体15が摺動自在に収められており、また、前記横孔13aの開口部は、先端側に凹部18を備えたボルト19により塞がれ、該ボルト19の凹部18と前記弁体15との間にスプリング16が圧縮状態で介装されるようにしてある。
【0027】
而して、このようにすれば、低回転時の最も熱負荷が厳しい条件に合わせて必要吐出量を満足するように回転数に対する吐出量の増加割合を設定しても、高回転時にポンプ出口11側の水圧が所定値以上となった時にスプリング16の弾発力に抗し弁体15が水圧により弁座17から離脱してリリーフ回路13が開通し、圧力差によりポンプ出口11側からポンプ入口8側へ向け冷却水9の一部が還流され、これによりウォータポンプ12の仕事量が減少して消費馬力が低減されるので、高回転時にエンジン7側が必要とする冷却水9の量に対しウォータポンプ12の吐出量が過剰になることが抑えられて余分な馬力の消費が抑制される。
【0028】
また、高流量・高圧力になりそうな高回転時にもリリーフ回路13が自動的に開通して冷却水9の一部が還流するので、ポンプ入口8側圧力(ポンプ吸込圧力)の過剰な低下(蒸気圧以下への圧力降下)を抑制してキャビテーションの発生を回避することが可能となる。尚、一般的にキャビテーションが心配されるほどの高回転となるのはエンジン7の無負荷最高回転などといった運転領域であり、このような運転領域での冷却水9の必要量は少量である。
【0029】
従って、上記形態例によれば、エンジン7側が必要とする冷却水9の量に対してウォータポンプ12の吐出量が過剰となる時にリリーフバルブ14を開けてリリーフ回路13を開通し、圧力差を利用してポンプ出口11側からポンプ入口8側へ向け冷却水9の一部を還流させることができるので、エンジン7側が必要とする冷却水9の量に対しウォータポンプ12の吐出量が過剰になることを抑制して消費馬力を低減することができ、余分に馬力を消費しなくて済むことによりエンジン7の燃費を大幅に向上することができる。
【0030】
しかも、エンジン7の無負荷最高回転などといった運転領域でキャビテーションが心配されるほどの高回転となっても、リリーフ回路13が自動的に開通して冷却水9の一部を還流させることができ、ポンプ入口8側圧力(ポンプ吸込圧力)の過剰な低下(蒸気圧以下への圧力降下)を抑制することができるので、高回転時のキャビテーションの発生を回避することができる。
【0031】
また、特に本形態例においては、リリーフバルブ14が常時閉でポンプ出口11側の水圧が所定値以上となった時に水圧により自動的に開くように構成されているので、複雑な制御系を要することなく比較的簡単な構成で冷却水9の吐出量を自動的に調節することができ、安価な実施コストでエンジンの燃費を効果的に向上することができる。
【0032】
図5は本発明の
参考例を示すもので、ここに図示している例においては、貫通孔20を有する弁体21をアクチュエータ22で回転することにより前記貫通孔20の開口面積を増減して任意な開度調節を行うようにしたコック式のリリーフバルブ32が採用されている。
【0033】
より詳細には、
図6及び
図7に拡大して示す通り、比較的平坦な矩形状断面としたリリーフ回路13の途中に、貫通孔20を中央部に開口した円柱状(リリーフ回路13が円管ならば球状としても良い)の弁体21が介装されていると共に、該弁体21を回動自在に抱持する曲面座23が形成されており、該曲面座23に前記貫通孔20が塞がれることでリリーフバルブ32としての開度が小さくなるようにしてある。
【0034】
また、前記弁体21の軸心方向の一端部には、リリーフ回路13の外部まで張り出す回転軸24が突設されており、該回転軸24に対しレバー部25を介して前記アクチュエータ22(
図5参照)が連結され、該アクチュエータ22の伸縮作動が前記レバー部25を介し回転作動に変換されて前記弁体21の回動操作が行われるようになっている。
【0035】
ここで、先の
図5に示してある通り、前記アクチュエータ22の伸縮作動は、制御装置26からの制御信号27により制御されるようになっており、前記リリーフバルブ32がエンジン7の運転状態に応じ任意に開度制御されるようになっている。
【0036】
即ち、前記制御装置26には、アクセルセンサ28からの負荷信号29や、エンジン7の回転数センサ30からの回転数信号31等の情報が入力されるようになっており、これらの情報に基づき現在のエンジン7の運転状態における冷却水9の必要量が判断されると共に、該冷却水9の必要量に対しウォータポンプ12の吐出量を過不足なく対応させるための適切なリリーフバルブ32の開度が決定され、その決定された開度に前記リリーフバルブ32の開度を調節し得る制御信号27が前記アクチュエータ22へ向け出力されるようになっている。
【0037】
而して、このようにすれば、リリーフバルブ32をエンジン7の運転状態に応じ任意に開度制御してアクチュエータ22により開け、エンジン7側での冷却水9の必要量に対しウォータポンプ12の吐出量を過不足なく対応させることができるので、エンジン7の運転状態に適応して木目細かく冷却水9の吐出量を調節することができ、ウォータポンプ12の消費馬力を必要最小限に抑えて更に効果的にエンジン7の燃費を向上することができる。
【0038】
また、この
参考例の場合においても、高流量・高圧力になりそうな高回転時にリリーフ回路13を開通して冷却水9の一部を還流させることにより、ポンプ入口8側圧力(ポンプ吸込圧力)の過剰な低下(蒸気圧以下への圧力降下)を抑制してキャビテーションの発生を回避することができる。
【0039】
しかも、この
参考例にあっては、エンジン7のアイドル回転時にリリーフ回路13を開通して冷却水9の一部を還流させる制御ロジックを制御装置26に組み込んでおくことにより、アイドル回転時にエンジン7へ送り出される冷却水9の吐出量を低減することもでき、これによりエンジン7の冷却水9による水冷効果を低下せしめてエンジン7の暖機を促進することができる。
【0040】
尚、本発明のウォータポンプは、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、リリーフ回路に設けられるリリーフバルブには図示以外の構造を適用しても良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
3 インペラ
7 エンジン
8 ポンプ入口
9 冷却水
10 予旋回室
11 ポンプ出口
12 ウォータポンプ
13 リリーフ回路
13a 横孔
13b 縦孔
14 リリーフバルブ
15 弁体
16 スプリング
17 弁座
19 ボルト