【実施例】
【0015】
図1及び
図2に示すように、大形の歯車研削盤(図示省略)には、円形の回転テーブル11がテーブル回転軸C周りに回転可能に支持されている。そして、回転テーブル11の上面には、歯車であるワーク(被加工歯車、被測定物、被測定歯車)W、及び、後述する、円筒状の校正用治具としての基準円筒30が取付可能となっている。なお、基準円筒30の半径は、長さRに形成されている。
【0016】
ここで、歯車研削盤における座標系は、互いに直交する3つの座標軸(X軸(基準軸)、Y軸、Z軸)からなる直交3軸座標系となっており、この直交3軸座標系の原点は、回転テーブル11の中心(テーブル回転軸C上)に設定されている。即ち、テーブル回転軸Cは、Z軸周りの回転軸を示すものとなっている。
【0017】
更に、歯車研削盤は、その機上において、加工後のワークWを加工時の取付位置に取り付けたままの状態で、その加工精度を測定可能とする歯車測定機能(歯車測定装置)を有するものであって、歯車測定用(座標測定用)の測定器21を備えている。
【0018】
つまり、歯車研削盤には、測定器21がX軸、Y軸、Z軸方向に移動可能に支持されている。また、測定器21の先端には、球状の測定子22が設けられており、この測定子22は、回転テーブル11上に取り付けられたワークWの歯面Wa、及び、回転テーブル11上に取り付けられた基準円筒30の外周面に接触可能となっている。そして、測定器21においては、測定子22がワークWの歯面Wa及び基準円筒30の外周面に対して、所定の接触圧で接触すると、その測定子22の中心位置(中心座標)が検出されるようになっている。なお、測定子22の半径は、長さrに形成されている。
【0019】
従って、ワークWの形状(歯形、歯すじ、ピッチ、歯厚等)を測定器21により測定する場合には、ワークWが取り付けられた回転テーブル11をテーブル回転軸C周りに回転させると共に、測定器21をX軸、Y軸、Z軸方向に移動させ、回転するワークWの歯面Waや、所定の回転角度(割り出し角度)に位置決めされたワークWの歯面Waに対して、測定子22を接触させる。そして、このように、測定子22をワークWの歯面Waに接触させると、その測定子22の中心位置が検出され、この検出結果に基づいて、ワークWの形状が測定される。
【0020】
また、測定器21を基準円筒30を用いて校正する場合には、基準円筒30が取り付けられた回転テーブル11をテーブル回転軸C周りに回転させると共に、測定器21をX軸、Y軸、Z軸方向に移動させ、テーブル回転軸C周りに旋回して位置決めされた基準円筒30の外周面に対して、測定子22を接触させる。そして、このように、測定子22を基準円筒30の外周面に接触させると、その測定子22の中心位置が検出され、この検出結果に基づいて、測定子22の位置が校正される。
【0021】
即ち、歯車研削盤では、加工前において、ワークWを回転テーブル11に取り付けていない状態で、予め、測定器21を基準円筒30を用いて校正しておき、加工後において、ワークWを加工時の取付位置に取り付けたままの状態で、その加工精度を、校正した測定器21により測定するようになっている。
【0022】
次に、測定器21の校正方法について、
図2及び
図3を用いて詳細に説明する。
【0023】
図2に示すように、先ず、測定器21を移動させ、その測定子22の中心をX軸上に配置する。次いで、測定器21の校正用治具となる基準円筒30を、回転テーブル11上におけるX軸近傍の任意の位置に載置する。
【0024】
ここで、測定子22の中心及び基準円筒30の中心を、基準軸となるX軸上に配置することが好ましい。このように測定子22及び基準円筒30を配置することにより、測定子22の移動と基準円筒30の旋回とによる校正動作を、簡素で、且つ、容易に行うことができる。
【0025】
しかしながら、測定器21はX軸、Y軸、Z軸方向に移動可能に支持されているため、その測定子22の中心をX軸上に配置することは容易となる一方、基準円筒30は作業者の目視によって回転テーブル11上に載置されるため、その基準円筒30の中心をX軸上に配置することは困難となる。
【0026】
これにより、実際には、回転テーブル11上に載置された基準円筒30は、XY平面内において、その中心と回転テーブル11のテーブル回転軸Cとの間の軸間距離が長さLで、且つ、X軸に対する位相ずれがΔθとなるように配置されることになる。
【0027】
そこで、このように載置された基準円筒30の中心位置Ocを基準位置(旋回開始位置)とし、この基準位置に配置された基準円筒30を、左右両方向(一方向及び他方向)に同じ旋回角度φで旋回させて、X軸を中心とした左側(一方側)及び右側(他方側)のそれぞれに位置決めする。
【0028】
具体的には、回転テーブル11を所定の回転角度φで左回転させることにより、基準位置に配置された基準円筒30を、旋回角度φで左方向に旋回させて、X軸よりも左側(Y軸のマイナス側)に位置決めする。
【0029】
次いで、X軸上に配置した測定器21を移動させ、その測定子22を、X軸の左側に位置決めした基準円筒30の外周面に対して、それぞれ異なった位置で3回以上接触させる。このように、測定子22を基準円筒30に接触させると、各接触時における測定子22の中心位置Om
L-1,Om
L-2,Om
L-3…が検出される。
【0030】
なお、
図2においては、基準円筒30に対して、測定子22を異なった3箇所で接触させる様子を示しているが、以下、上記各接触時における測定子22の中心位置Om
L-1,Om
L-2,Om
L-3…については、中心位置Om
L-1,Om
L-2,Om
L-3のみを代表して記載する。
【0031】
そして、基準円筒30の半径R、測定子22の半径r、及び、測定子22の中心位置Om
L-1,Om
L-2,Om
L-3を用いて、X軸の左側に位置決めした基準円筒30の中心位置Oc
Lを求める。
【0032】
同様に、回転テーブル11を所定の回転角度φで右回転させることにより、基準位置に配置された基準円筒30を、旋回角度φで右方向に旋回させて、X軸よりも右側(Y軸のプラス側)に位置決めする。
【0033】
次いで、X軸上に配置した測定器21を移動させ、その測定子22を、X軸の右側に位置決めした基準円筒30の外周面に対して、それぞれ異なった位置で3回以上接触させる。このように、測定子22を基準円筒30に接触させると、各接触時における測定子22の中心位置Om
R-1,Om
R-2,Om
R-3…が検出される。
【0034】
なお、
図2においては、基準円筒30に対して、測定子22を異なった3箇所で接触させる様子を示しているが、以下、上記各接触時における測定子22の中心位置Om
R-1,Om
R-2,Om
R-3…については、中心位置Om
R-1,Om
R-2,Om
R-3のみを代表して記載する。
【0035】
そして、基準円筒30の半径R、測定子22の半径r、及び、測定子22の中心位置Om
R-1,Om
R-2,Om
R-3を用いて、X軸の右側に位置決めした基準円筒30の中心位置Oc
Rを求める。
【0036】
次いで、基準円筒30の中心位置Oc
L,Oc
Rを用いて、測定子22におけるX軸方向の位置誤差ΔX及びY軸方向の位置誤差ΔYを求める。即ち、中心位置Oc
L,Oc
RにおけるX座標の平均値が位置誤差ΔXとなり、中心位置Oc
L,Oc
RにおけるY座標の差分値が位置誤差ΔYとなる。
【0037】
そして、位置誤差ΔX,ΔYは、XY平面内における測定子22の校正値となるため、位置誤差ΔX,ΔYに応じて、測定子22の位置を校正することにより、ワークWの形状を測定子22によって高精度に測定することができる。
【0038】
また、上述したように、校正値となる位置誤差ΔX,ΔYは、基準円筒30を旋回させることにより求められるものであるため、基準円筒30の旋回精度、即ち、回転テーブル11の回転精度(位置決め精度)が、そのまま、測定器21の校正精度に影響を与えることになる。つまり、回転テーブル11の回転精度を向上させることにより、位置誤差ΔX,ΔYの演算精度を向上させることができるが、回転テーブル11の回転精度を向上させるにも限界がある。
【0039】
そこで、旋回角度φを段階的に変更しながら、その複数の異なった旋回角度φごとに位置誤差ΔX,ΔYを求めた後、それらを平均化しても構わない。
【0040】
例えば、
図3に示すように、先ず、基準円筒30を、3つの異なった旋回角度φ1,φ2,φ3で旋回させて位置決めした後、これら旋回角度φ1,φ2,φ3における中心位置Oc
L1,Oc
R1、中心位置Oc
L2,Oc
R2、中心位置Oc
L3,Oc
R3を求める。
【0041】
次いで、中心位置Oc
L1,Oc
R1を用いて位置誤差ΔX1,ΔY1を求め、また、中心位置Oc
L2,Oc
R2を用いて位置誤差ΔX2,ΔY2を求め、更に、中心位置Oc
L3,Oc
R3を用いて位置誤差ΔX3,ΔY3を求める。
【0042】
そして、位置誤差ΔX1,ΔX2,ΔX3及び位置誤差ΔY1,ΔY2,ΔY3を、それぞれ平均化して、最終的な位置誤差ΔX,ΔYを求める。
【0043】
これにより、回転テーブル11の回転においては、回転角度φが変わると、その回転角度φ内で、回転角度誤差が発生し、更に、この回転角度誤差にもばらつきが生じるため、複数の異なった回転角度(旋回角度)φ1,φ2,φ3を設定することにより、当該各回転角度φ1,φ2,φ3内の回転角度誤差を容易に抽出することができる。そして、位置誤差ΔX1,ΔX2,ΔX3及び位置誤差ΔY1,ΔY2,ΔY3を、それぞれ平均化することにより、上記各回転角度誤差も平均化されるため、最終的な位置誤差ΔX,ΔYに対して、各回転角度誤差の影響を極力小さくすることができる。この結果、位置誤差ΔX,ΔYの演算精度、即ち、測定器21の校正精度を更に向上させることができる。
【0044】
従って、本発明に係る測定器21の校正方法によれば、回転テーブル11上における任意の位置に載置した基準円筒30を、左右両方向に同じ旋回角度φで旋回させて、X軸の左右両側で位置決めし、この2つの位置で位置決めした基準円筒30に対して、測定子22を接触させて、測定子22の位置誤差ΔX,ΔYを求めることにより、回転テーブル11及びこの回転テーブル11に取り付けられるワークWの大きさに関わらず、測定子22の位置を、容易に、且つ、高精度に校正することができる。
【0045】
また、基準円筒30を、複数の異なった旋回角度φ1,φ2,φ3で段階的に旋回させることにより、測定子22の位置誤差ΔX,ΔYに対して、回転テーブル11の回転角度誤差の影響を十分に小さくすることができる。これにより、測定子22の位置を更に高精度に校正することができる。