(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984455
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】編地の編成方法、および編地
(51)【国際特許分類】
D04B 1/10 20060101AFI20160823BHJP
D04B 1/00 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
D04B1/10
D04B1/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-79101(P2012-79101)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-209759(P2013-209759A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】内川 義久
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−191748(JP,A)
【文献】
特開昭55−112345(JP,A)
【文献】
特開平10−298847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00−39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を備え、前後いずれかの針床が左右にラッキング可能な横編機を用いて編地を編成する編地の編成方法において、
一方の針床で右方に向かって順に編目A0と編目Z0が係止され、他方の針床における編目A0と編目Z0との間の位置に編目P0が係止された状態から、
編目P0の位置を編目A0よりも左方に位置する状態にして、編目A0に続く新たな編目A1を編成することと、編目P0に続く新たな編目P1を編成することと、を連続して行なう工程αと、
編目P1の位置を編目Z0よりも右方に位置する状態にして、編目Z0に続く新たな編目Z1を編成することと、編目P1に続く新たな編目P2を編成することと、を連続して行なう工程βと、
を行なうことで、編目A1と編目Z1とを編幅方向における互いに近づく方向に寄せて、編地の厚み方向に凸状に盛り上げた凸状編み組織を形成することを特徴とする編地の編成方法。
但し、工程αと工程βは入れ替え可能であり、工程βを先に行なう場合、工程βにおける編目P1および編目P2をそれぞれ編目P0および編目P1に読み替え、工程αにおける編目P0および編目P1をそれぞれ編目P1および編目P2に読み替える。
【請求項2】
少なくとも前後一対の針床を備え、前後いずれかの針床が左右にラッキング可能な横編機を用いて編地を編成する編地の編成方法において、
一方の針床で右方に向かって順に係止される編目A0と編目Z0、他方の針床における編目A0と編目Z0との間の位置に係止される編目P0、および編目P0よりも右方でかつ編目Z0よりも左方の位置に係止される編目Q0を一単位とするユニットが編幅方向に二つ以上並んだ状態から、
編目P0の位置を編目A0よりも左方に位置する状態にして、編目A0に続く新たな編目A1を編成することと、編目P0に続く新たな編目P1を編成することと、を連続して行なう工程αと、
編目Q0の位置を編目Z0よりも右方に位置する状態にして、編目Z0に続く新たな編目Z1を編成することと、編目Q0に続く新たな編目P2を編成することと、を連続して行う工程βと、
を行うことで、右方のユニットの編目A1と、左方のユニットの編目Z1とを編幅方向における互いに近づく方向に寄せて、編地の厚み方向に凸状に盛り上げた凸状編み組織を形成することを特徴とする編地の編成方法。
【請求項3】
編目A1と編目P1を編成する編糸と、編目Z1と編目P2を編成する編糸と、を異なる種類の編糸とすることを特徴とする請求項1または2に記載の編地の編成方法。
【請求項4】
編地の全面にわたって前記凸状編み組織を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の編地の編成方法。
【請求項5】
少なくとも前後一対の針床を備え、前後いずれかの針床が左右にラッキング可能な横編機を用いて編成された編地において、
編幅方向に隣接する左方編目と右方編目とが編幅方向における互いに近づく方向に寄せられることで形成される凸状編み組織を備え、
前記左方編目は、その左方編目から延びて編地の裏側に配される編目に繋がる二本の渡り糸の長さが異なることによって、ウエール方向を軸に右回りに回転し、
前記右方編目は、その右方編目から延びて編地の裏側に配される編目に繋がる二本の渡り糸の長さが異なることによって、ウエール方向を軸に左回りに回転しており、
これら左方編目と右方編目における編地の裏側に配置される部分同士が接触するように前記左方編目と前記右方編目が互いに凭れ合い、前記凸状編み組織における左方編目と右方編目との境界側の部分が編地の表面側に突出していることを特徴とする編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編幅方向に隣接する二つの編目を互いに近づく方向に寄せて編地の表面に突出させることで形成される凸状編み組織を有する編地の編成方法、およびその編成方法により得られた編地に関する。特に、凸状編み組織における一方の編目を構成する編糸の種類と、他方の編目を構成する編糸の種類と、を異ならせることで、編地を左方からみた場合と右方から見た場合とで見え方の異なる編地の編成方法、およびその編成方法により得られた編地に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、鈎針を用いた手編みによって、アフガン編物の表面に凹状に低くなった低域部と、凸状に高くなった高域部とを形成し、その低域部と高域部とで色を異ならせることで、見る角度によって色彩が複雑に変化するアフガン編物を編成する技術が開示されている。この色彩の変化は、アフガン編物を見る角度によって低域部が見え隠れすることによって生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3159219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、見る角度によって見た目に違いがある編地を横編機で編成する技術は現在のところ提案されていない。そこで、本発明者は、編幅方向に隣接する二つの編目を互いに近づく方向に寄せて編地の表面に突出させることで形成される凸状編み組織を編成することができる編地の編成方法を検討した。編地に凸状編み組織を編成できれば、その凸状編み組織における一方の編目を構成する編糸と、他方の編目を構成する編糸と、を異ならせることで、左右から見たときの見た目に違いのある編地となると考えられるからである。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、編幅方向に隣接する二つの編目を互いに近づく方向に寄せて編地の表面側に突出させることによって形成される凸状編み組織を編成する編地の編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を備え、前後いずれかの針床が左右にラッキング可能な横編機を用いて編地を編成する編地の編成方法に係る。この本発明編地の編成方法は、一方の針床で右方に向かって順に編目A
0と編目Z
0が係止され、他方の針床における編目A
0と編目Z
0との間の位置に編目P
0が係止された状態から、次の工程α、工程βを行なうことを特徴とする。
[工程α]…編目P
0の位置を編目A
0よりも左方に位置する状態にして、編目A
0に続く新たな編目A
1を編成することと、編目P
0に続く新たな編目P
1を編成することと、を連続して行なう。編目P
1はタック目でも構わない。
[工程β]…編目P
1の位置を編目Z
0よりも右方に位置する状態にして、編目Z
0に続く新たな編目Z
1を編成することと、編目P
1に続く新たな編目P
2を編成することと、を連続して行なう。編目P
2はタック目でも構わない。
上記工程α,工程βを行なうことで、編目A
1と編目Z
1とを編幅方向における互いに近づく方向に寄せて、編地の厚み方向に凸状に盛り上げた凸状編み組織を形成することができる。
【0007】
なお、上記工程αと工程βは入れ替え可能であり、工程βを先に行なう場合、工程βにおける編目P
1および編目P
2をそれぞれ編目P
0および編目P
1に読み替え、工程αにおける編目P
0および編目P
1をそれぞれ編目P
1および編目P
2に読み替える(以下、参照)。
[工程β]…編目P
0の位置を編目Z
0よりも右方に位置する状態にして、編目Z
0に続く新たな編目Z
1を編成することと、編目P
0に続く新たな編目P
1を編成することと、を連続して行なう。
[工程α]…編目P
1の位置を編目A
0よりも左方に位置する状態にして、編目A
0に続く新たな編目A
1を編成することと、編目P
1に続く新たな編目P
2を編成することと、を連続して行なう。
【0008】
本発明編地の編成方法の一形態として、一方の針床に係止される編目A
0と編目Z
0、および他方の針床に係止される編目P
0と編目Q
0を一単位とするユニットが編幅方向に二つ以上並び、かつ上記編目Q
0が編目P
0よりも右方でかつ編目Z
0よりも左方の位置にある状態から工程αと工程βを行なう形態を挙げることができる。その場合、工程βでは、編目Q
0を編目Z
0よりも右方に位置する状態にして、編目P
2は、編目Q
0に続いて新たに編成する(なお、この構成では工程βを先に行なう場合でも編目の読み替えは行なわない;実施形態2を参照)。そうすることで、右方のユニットの編目A
1と、左方のユニットの編目Z
1とを編幅方向における互いに近づく方向に寄せて、編地の厚み方向に凸状に盛り上げた凸状編み組織を形成することができる。
【0009】
本発明編地の編成方法の一形態として、編目A
1と編目P
1を編成する編糸と、編目Z
1と編目P
2を編成する編糸と、を異なる種類の編糸とする形態を挙げることができる。もちろん、編目A
1と編目P
1を編成する編糸と、編目Z
1と編目P
2を編成する編糸と、を同じ種類の編糸としても良い。
【0010】
本発明編地の編成方法の一形態として、編地の全面にわたって上記凸状編み組織を形成する形態を挙げることができる。
【0011】
一方、本発明編地は、少なくとも前後一対の針床を備え、前後いずれかの針床が左右にラッキング可能な横編機を用いて編成された編地であり、編幅方向に隣接する左方編目と右方編目とが編幅方向における互いに近づく方向に寄せられることで形成される凸状編み組織を備える。左方編目は、その左方編目から延びて編地の裏側に配される編目に繋がる二本の渡り糸の長さが異なることによって、ウエール方向を軸に右回りに回転している。右方編目は、その右方編目から延びて編地の裏側に配される編目に繋がる二本の渡り糸の長さが異なることによって、ウエール方向を軸に左回りに回転している。そして、これら左方編目と右方編目とが背中合わせの状態で互いに凭れ合い、凸状編み組織における左方編目と右方編目との境界側の部分が編地の表面側に突出している。
【発明の効果】
【0012】
本発明編地の編成方法によれば、編目A
1と編目Z
1とを互いに近づく方向に寄せて、編地の表面に突出させた凸状編み組織を有する本発明編地を編成できる。この凸状編み組織において、編目A
1を構成する編糸と、編目Z
1を構成する編糸と、を異なる種類の編糸(例えば、異色の編糸や材質の異なる編糸、太さの異なる編糸)とすることで、編地を左方から見たときの見た目と、編地を右方から見たときの見た目と、を異ならせることができる。
【0013】
ここで、上記凸状編み組織は、編地の左方からの見た目と編地の右方からの見た目とを異ならせることを目的として発明されたものであるが、今までに無い新規な構造を持った編み組織である。そのため、凸状編み組織を構成する編目A
1の編糸と編目Z
1の編糸の種類を異ならせなかったとしても、凸状編み組織は、その新規な構造に基づく視覚的な効果を奏する。
【0014】
本発明編地の編成方法において編地の全面にわたって凸状編み組織を形成することで、凸状編み組織の効果を編地の全面に齎すことができる。特に、凸状編み組織を構成する編目A
1の編糸の色と、編目Z
1の編糸の色と、を異ならせることで、見る角度によって色が変化する玉虫色の編地を編成することができる。
【0015】
工程α,工程βの開始時に編目Q
0があり、工程βにおいて編目P
2を編目Q
0に続いて新たに編成する場合、編目Q
0を用いない場合に比べて厚手の凸状編み組織とすることができる。逆に言えば、編目Q
0を用いない場合、編目Q
0を用いた場合に比べて、編地の裏側(凸状編み組織が突出する側とは反対側)における編幅方向の目数が少ないため、薄手の凸状編み組織とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(A)は実施形態に示す編地を左方から見た写真を、(B)は同編地を右方から見た写真を示す図である。
【
図2】
図1の編地に備わる凸状編み組織の拡大写真を示す図である。
【
図3】実施形態1に示す凸状編み組織の編成手順を概略的に示す編成工程図である。
【
図4】実施形態1で編成した凸状編み組織の簡易ループ図である。
【
図5】実施形態2に示す凸状編み組織の編成手順を概略的に示す編成工程図である。
【
図6】実施形態2で編成した凸状編み組織の簡易ループ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明編地の編成方法の実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態では、左右方向に延び、かつ、前後方向に互いに対向する前針床(以下、FB)と後針床(以下、BB)を備え、BBが左右にラッキング可能な2枚ベッド横編機を用いた編成例を説明する。もちろん、使用する横編機は、2枚ベッド横編機に限定されるわけではなく、4枚ベッド横編機であっても良い。
【0018】
<実施形態1>
実施形態1では、
図1(A)に示すように編地を左方から見たときにアルファベットが、
図1(B)に示すように編地を右方から見たときに数字が浮き出て見える編地を編成する例を説明する。このような編地とするには、編地の表面に特殊な編み組織を形成する必要がある。
【0019】
図1の編地の表面には、
図2の拡大写真に示すように、隣接する二つの編目(左方編目2、右方編目3とする)を互いに近づく方向に寄せることで形成される凸状編み組織1が編地のウエール方向とコース方向に連続して複数設けられている。凸状編み組織1の左方編目2はウエール方向を軸に右回りに、右方編目3はウエール方向を軸に左回りに回転した状態で互いに凭れ合い、両編目2,3の境界側の部分が編地の表面に突出している。この凸状編み組織1の横断面を見ると、略三角形状に編地の表面側に盛り上がっている。そのため、この凸状編み組織1を左方から見れば左方編目2が見える割合が右方編目3よりも高く、右方から見れば右方編目3が見える割合が左方編目2よりも高くなる。つまり、編地において部分的に左方編目2と右方編目3の色を変えれば、
図1に示すような左右から見たときに見える柄が異なる編地を編成できる。
【0020】
次に、上記凸状編み組織1の編成手順を
図3の編成工程図に基づいて説明する。
図3における「アルファベット+数字」は編成工程の番号を、横棒は前針床(以下、FB)と後針床(以下、BB)を、○はFB,BBに係止される編目を、●は新たに形成された編目を示す。なお、針床に備わる編針については図示を省略する。
【0021】
図3のS1には、FBで右方に向かって順に編目A
0と編目Z
0が係止され、BBにおける編目A
0と編目Z
0との間に編目P
0が係止された状態が示されている。このS1では、紙面上、編目A
0,Z
0,P
0を一単位とするユニットが編幅方向に3ユニット並んでいる。
【0022】
S2では、BBを左方にラッキングさせて、編目P
0を編目A
0よりも左方に位置する状態にする(工程αの前半相当)。さらに、S2では、編目A
0に続く新たな編目A
1を編成することと、編目P
0に続く新たな編目P
1を編成することと、を連続して行なう(工程αの後半相当)。このS2により、編目A
1は編目A
0のウエール方向に連続して編成され、編目P
1は編目P
0のウエール方向に連続して編成される。このとき、FBとBBに編糸を給糸する給糸口の移動方向は限定されない。例えば、S2を行なう際に、編目A
0と編目P
0よりも給糸口が左方(右方)にあれば、給糸口を右方(左方)に移動させて、編目P
1(編目A
1)を編成した後、続いて編目A
1(編目P
1)を編成すれば良い。なお、編目P
1はタック目でも良い。編目P
1をタック目とする場合、次のタック編成までにタック目の編糸とは異なる編糸で編目P
1にニットを行ない、タック目を固定する。
【0023】
S3では、BBを右方にラッキングさせて、編目P
1を編目Z
0よりも右方に位置する状態にする(工程βの前半相当)。さらにS3では、編目Z
0に続く新たな編目Z
1を編成することと、編目P
1に続く新たな編目P
2を編成することと、を連続して行う(工程β相当)。このS3により、編目P
2が編目P
1のウエール方向に連続して編成され、編目Z
1が編目Z
0のウエール方向に連続して編成される。この工程βにおける給糸口の移動方向も限定されない。S3における給糸口の移動方向は、単にS3を行なう際に、給糸口が編目P
1と編目Z
0よりも左方にあるか、右方にあるかによって決定される。なお、編目P
2はタック目でも良い。編目P
2をタック目とする場合も、次のタック編成までにこのタック目にニットを行ない、タック目を固定する。
【0024】
以降、S2,S3を繰り返し、凸状編み組織のウエール方向に続く次の凸状編み組織を形成する。ここで、n回目(nは1以上の自然数)のS3からn+1回目のS2に移行する過程で、S3における編目A
1,Z
1,P
2の配置が、S1における編目A
0,Z
0,P
0と同じ状態になる(S3’参照)。つまり、n回目の編目A
1,Z
1,P
2は、n+1回目の編目A
0,Z
0,P
0と見做すことができる。
【0025】
上記S3で形成された編目A
1,Z
1,P
2が、編地において実際にどのような状態となっているかを
図4に基づいて説明する。
図4は、編地の横断面における編目の状態を簡易的に示すループ図である。
図4では、編目の変形状態と、編目間の渡り糸の繋がりが分かるように編目をデフォルメして示し、編糸の上下関係などは無視する。
【0026】
図4に示すように、一つのユニットの編目A
1は、同一ユニットの編目P
1と、紙面右隣の別ユニットの編目P
1とに渡り糸で繋がっており、前者の渡り糸が後者の渡り糸に比べて短くなっている。その結果、編目A
1は、ウエール方向を軸に右回りに回転しつつ、編目Z
1側に寄る。一方、一つのユニット内の編目Z
1は、同一ユニットの編目P
2と、紙面左隣の別ユニットの編目P
2とに渡り糸で繋がっており、前者の渡り糸が後者の渡り糸に比べて短くなっている。その結果、編目Z
1は、ウエール方向を軸に左回りに回転しつつ、編目A
1の側に寄る。これら編目A
1(左方編目2)と編目Z
1(右方編目3)とは、互いに反対方向に回転するため、背中合わせの状態で互いに凭れ合う。その結果、両編目A
1,Z
1によって構成される凸状編み組織1が編地の表面側に突出する。
【0027】
以上説明した編成工程を繰り返す際、編地における柄を形成するところで、編目A
1,編目P
1を編成する編糸の色と、編目Z
1,編目P
2を編成する編糸の色を異ならせることで、
図1に示す編地を編成することができる。この編地は、
図1(A),(B)から明らかなように、見る角度によって見た目が異なる。しかも、この編地は、編地のウエール方向に並ぶライン状の隆起を有するため、その隆起に基づく独特の見た目を備える。また、凸状編み組織1は、前後の針床を用いて編成され、編地の表面側に突出しているため、本実施形態の編地は、厚みを持っているが、その割には高い柔軟性を有する。
【0028】
<実施形態2>
実施形態2では、工程α,工程βを行う前の編目の配置状態が実施形態1と異なり、かつ工程βを工程αよりも先に行なう編地の編成手順を
図5に基づいて説明する。なお、
図5の見方は、
図3と同じである。
【0029】
T1には、FBに編目A
0と編目Z
0とが係止され、BBに編目P
0と編目Q
0とが係止されている状態が示されている。BBの編目Q
0は、編幅方向に編目P
0よりも右方で編目Z
0よりも左方に配置されている。このT1では、紙面上、編目A
0,Z
0,P
0,Q
0を一単位とするユニットが編幅方向に2ユニット並んでいる。
【0030】
T2では、BBを右方にラッキングさせ、編目Q
0を編目Z
0よりも右方に位置する状態にして、編目Z
0のウエール方向に連続する編目Z
1と、編目Q
0のウエール方向に連続する編目P
2と、を連続して編成する(工程β相当)。編目P
2は、タック目であっても良い。
【0031】
T3では、BBを左方にラッキングさせ、編目P
0を編目A
0よりも左方に位置する状態にして、編目A
0のウエール方向に連続する編目A
1と、編目P
0のウエール方向に連続する編目P
1と、を連続して編成する(工程α相当)。編目P
1は、タック目であっても良い。
【0032】
以降、T2,T3を繰り返し、凸状編み組織のウエール方向に続く次の凸状編み組織を形成する。ここで、n回目のT3からn+1回目のT2に移行する過程で、T3における編目A
1,Z
1,P
1,P
2の配置が、T1における編目A
0,Z
0,P
0,Q
0と同じ状態になる(T3’参照)。つまり、n回目の編目A
1,Z
1,P
1,P
2は、n+1回目の編目A
0,Z
0,P
0,Q
0と見做すことができる。
【0033】
上記T3で形成された編目A
1,Z
1,P
1,P
2が、編地において実際にどのようになっているかを
図6に基づいて説明する。なお、
図6の見方は、
図4と同様である。
【0034】
図6に示すように、紙面右方にあるユニット内の編目A
1は、同一ユニットの編目P
1と、紙面左隣の別ユニットの編目P
1とに渡り糸で繋がっており、前者の渡り糸が後者の渡り糸に比べて短くなっている。その結果、右方のユニットの編目A
1は、ウエール方向を軸に左回りに回転しつつ、左方のユニットの編目Z
1側に寄る。一方、紙面左方にあるユニット内の編目Z
1は、同一ユニットの編目P
2と、紙面右隣の別ユニットの編目P
2とに渡り糸で繋がっており、前者の渡り糸が後者の渡り糸に比べて短くなっている。その結果、編目Z
1は、ウエール方向を軸に右回りに回転しつつ、右方のユニットの編目A
1側に寄る。これら編目Z
1(左方編目2)と編目A
1(右方編目3)とは、互いに反対方向に回転するため、背中合わせの状態で互いに凭れ合う。その結果、両編目A
1,Z
1によって構成される凸状編み組織1が編地の表面側に突出する。
【0035】
以上説明した編成工程によれば、実施形態1の編成工程で編成した編地よりもしっかりとした編地とすることができる。これは、実施形態2の編地の裏側における編幅方向の目数が、実施形態1のそれよりも多いからである。
【0036】
なお、部分的に編糸の色や素材を異ならせることで、視覚的な柄として
図1に示すような見る角度により見え隠れする新規なジャカード柄を形成することができる。
【0037】
<実施形態3>
図2の左方編目2を編成する編糸の色と、右方編目3を編成する編糸の色とを、編地の全体にわたって異ならせても良い。例えば、左方編目2を赤色、右方編目3を緑色として編地を編成すれば、その編地を着用したときにカーブを描く部分(皺やたるみ、あるいは人体に沿ってカーブした部分)に色のグラデーションが生じる編地となる。グラデーションが生じるのは、編地のカーブの度合いによって左方編目2と右方編目3の見える割合が徐々に変化するからである。このような編地は、着用したときの皺やたるみ具合によって部分的に複雑に色が変化する玉虫色の編地となる。
【0038】
なお、実施形態1〜3では針床のラッキングのみで編目の位置を変更したが、針床のラッキングと、編目の目移しと、を利用して編目の位置を変更しても良い。
【符号の説明】
【0039】
1 凸状編み組織
2 左方編目
3 右方編目