(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984494
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】炭素質音響板とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H04R 7/02 20060101AFI20160823BHJP
【FI】
H04R7/02 F
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-107687(P2012-107687)
(22)【出願日】2012年5月9日
(65)【公開番号】特開2013-236262(P2013-236262A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100141162
【弁理士】
【氏名又は名称】森 啓
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 厚則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 裕
【審査官】
冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−077998(JP,A)
【文献】
特開昭61−101195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/02
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス炭素を含み、嵩密度が一方の面から他方の面へ厚み方向において連続的に増加する炭素質音響板。
【請求項2】
嵩密度が0.2g/cm3乃至1.8g/cm3の範囲で連続的に変化する請求項1記載の炭素質音響板。
【請求項3】
平均嵩密度が1.0g/cm3以下である請求項1または2記載の炭素質音響板。
【請求項4】
気孔が存在する微細構造を有し、該気孔の存在割合が厚み方向において連続的に変化する請求項1〜3のいずれか1項記載の炭素質音響板。
【請求項5】
前記アモルファス炭素中に均一に分散した炭素粉末をさらに含み、厚み方向における嵩密度の変化にかかわらず組成は均一である請求項1〜4のいずれか1項記載の炭素質音響板。
【請求項6】
粒子が点融着した微細構造を有する請求項1〜3のいずれか1項記載の炭素質音響板。
【請求項7】
振動することにより音響を発生する振動板として使用される音響振動板である請求項1〜6のいずれか1項記載の炭素質音響板。
【請求項8】
異なる音響インピーダンスを有する2つの媒質の間に介在して音響インピーダンスを整合させる整合板として使用される音響整合板である請求項1〜6のいずれか1項記載の炭素質音響板。
【請求項9】
炭素を含む液状の樹脂に、樹脂の炭素化の過程で消失して気孔を形成する穴あけ材の粒子を混合して分散させて分散液とし、
前記分散液中に含まれる穴あけ材の粒子が沈降または浮上して、その存在割合に、鉛直方向における所望の違いを生じるに充分な時間をかけて、前記分散液中に含まれる樹脂を硬化させて板状に成型し、
前記板状に成型した、穴あけ材を含む樹脂を焼成して炭素化することを含む、炭素質音響板の製造方法。
【請求項10】
前記板状に成型することは、離型可能な硬さまで樹脂が硬化した時点で、穴あけ材の混合割合が異なる複数の半硬化シートを積層することを含む請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記分散液とすることは、比重の異なる複数種の穴あけ材を混合することを含む請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記板状に成型することは、穴あけ材の混合比が異なる複数の分散液を重ね塗りしたものを硬化させることを含む請求項9記載の方法。
【請求項13】
前記分散液とすることは、炭素粉末をさらに混合することを含む請求項9〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
点焼結が可能な樹脂の粉体に、樹脂の炭素化の過程において消失して気孔を形成する穴あけ材の粒子を混合比を変えて混合して複数の混合粉体を調製し、
前記複数の混合粉体を型内に順次層状に充填し、
前記層状に充填された混合粉体を加熱プレスによって点融着し、
前記点融着した樹脂を焼成して炭素化することを含む炭素質音響板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動することにより音響を発生する音響振動板、異なる音響インピーダンスを有する媒質の間に介在して音響インピーダンスを整合させる音響整合板などの音響板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種音響機器や映像機器、携帯電話等のモバイル機器等に使用されているスピーカの振動板には、広範囲な周波数帯域、特に高音域において明瞭な音を忠実に再生できる性質が要求される。そのため振動板の材質には、振動板に充分な剛性を付与すべく弾性率が高いことと、振動板を軽量化すべく密度が低いこと、という一見相反する性質が求められる。特に、近年注目されているデジタルスピーカ用の振動板には、振動応答性への要請から、これらの性質が強く求められている。
【0003】
このため、下記特許文献1には、樹脂の粉末を加熱して点融着させた低密度の樹脂の層の両面に密構造の樹脂フィルムを積層したものを焼成・炭素化することで、低密度かつ高弾性率の炭素質振動板を得ることが記載されている。しかしながら、材質または構造上の違いから、焼成時または使用時の内部応力歪みによる剥離が起こりやすい、という問題がある。
【0004】
特許文献2には、樹脂の炭素化の過程で消失して気孔を形成するPMMAなどの穴あけ材を樹脂中に分散させたものの両面を樹脂でコーティングし硬化させて焼成・炭素化することにより、気孔率40%以上で充分な強度を有する炭素質音響板を得ることが記載されている。しかしながら、密度差が焼成時の収縮の違いとなり剥離の原因となることがある、という問題がある。
【0005】
一方、例えば引用文献3に記載されているように、圧電部材から発振された超音波を機械共振させる金属部材、または圧電部材自身の音響インピーダンスと目的媒体の音響インピーダンスとを整合させるため、カーボンからなる音響整合部材をそれらの間に介在させることが行なわれる。この場合に、音響整合部材の音響インピーダンスはその厚み方向において連続的に変化することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−185099号公報
【特許文献2】特開2010−157926号公報
【特許文献3】特開2007−295540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の目的は、音響振動板や音響整合板としての特性に優れた炭素質音響板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、アモルファス炭素を含み、嵩密度が厚み方向において連続的に変化する炭素質音響板が提供される。
【0009】
この炭素質音響板の嵩密度は例えば0.2g/cm
3乃至1.8g/cm
3の範囲で連続的に変化する。嵩密度が0.2g/cm
3以下であると、強度不足で崩れやすい。また、1.8g/cm
3以上であると重くなり振動板特性において不利になることがある。
【0010】
また、平均嵩密度が1.0g/cm
3以下であることが望ましい。平均嵩密度が1.0g/cm
3以上であると重いため振動板特性において不利になることがある。
【0011】
具体的には、この炭素質音響板は例えば、気孔が存在する微細構造を有し、該気孔の存在割合が厚み方向において連続的に変化する。
【0012】
さらに、前記アモルファス炭素中に均一に分散した炭素粉末をさらに含み、厚み方向における嵩密度の変化にかかわらず組成は均一であることが望ましい。
【0013】
或いはまた、粒子が点融着した微細構造を有する。
【0014】
この炭素質音響板は、例えば、振動することにより音響を発生する振動板として使用される音響振動板である。
【0015】
或いはまた、この炭素質音響板は、異なる音響インピーダンスを有する2つの媒質の間に介在して音響インピーダンスを整合させる整合板として使用される音響整合板である。
【0016】
この炭素質音響板は、炭素を含む液状の樹脂に、樹脂の炭素化の過程で消失して気孔を形成する穴あけ材の粒子を混合して分散させて分散液とし、前記分散液中に含まれる穴あけ材の粒子が沈降または浮上して、その存在割合に、鉛直方向における所望の違いを生じる(例えば、下層1/3の平均嵩密度が上層1/3の平均嵩密度の1.04倍以上になる)に充分な時間をかけて(例えば、70℃以下の温度で1時間以上の時間をかけて、または100℃以下の温度で)、前記分散液中に含まれる樹脂を硬化させて板状に成型し、前記板状に成型した、穴あけ材を含む樹脂を焼成して炭素化することを含む方法により製造される。
【0017】
前記板状に成型することは、離型可能な硬さまで樹脂が硬化した時点で、穴あけ材の混合割合が異なる複数の半硬化シートを積層することを含む場合がある。
【0018】
或いはまた、前記分散液とすることは、比重の異なる複数種の穴あけ材を混合することを含む。
【0019】
さらにまた、前記板状に成型することは、穴あけ材の混合比が異なる複数の分散液を重ね塗りしたものを硬化させることを含む。
【0020】
前記分散液とすることは、炭素粉末をさらに混合することを含む場合がある。
【0021】
この炭素質音響板はまた、点焼結が可能な樹脂の粉体に樹脂の炭素化の過程において消失して気孔を形成する穴あけ材の粒子を混合比を変えて混合して複数の混合粉体を調製し、前記複数の混合粉体を型内に順次層状に充填し、前記層状に充填された混合粉体を加熱プレスによって点融着し、前記点融着した樹脂を焼成して炭素化することを含む方法によっても製造される。
【発明の効果】
【0022】
厚み方向において嵩密度を連続的に変化させることにより、密度境界がなくなり、層間剥離の問題を解決することができる。また、それに伴って、嵩密度と弾性率の関数である音響インピーダンスも厚み方向において連続的に変化するので、音響整合板としても適する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施例に係る炭素質音響板の第1の例の断面の微細構造を概念的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る炭素質音響板の第2の例の断面の微細構造を概念的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施例に係る炭素質音響板の第3の例の断面の微細構造を概念的に示す図である。
【
図4】本発明の一実施例に係る炭素質音響板の第4の例の断面の微細構造を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1〜4は、本発明の実施例において製造される炭素質音響板の断面の微細構造を概念的に示している。
図1において、樹脂の焼成・炭素化により得られるアモルファス炭素10中に、樹脂の焼成・炭素化の過程で消失して気孔を残す穴あけ材によって形成された気孔12が、図の下方へ行くほど密に分布している。したがって、
図1の炭素質音響板の嵩密度はその下面から上面へ厚み方向において連続的に増加する。音響振動板として使用する場合には、嵩密度の高い面をコイルとの接着面にすれば良い。音響インピーダンスも一方の面から他方の面へと連続的に変化するので、音響インピーダンスの整合板としても使用することができる。
【0025】
図1の炭素質音響板をその焼成前に嵩密度が低い面どうしを背中合わせに貼り合わせて焼成することにより、
図2に示すような、両表面の嵩密度が内部よりも高いものが得られる。嵩密度が高い面どうしを貼り合わせれば、
図2とは逆に、中心部の嵩密度が高いものが得られる。
【0026】
図3に示した炭素質音響板は、点焼結が可能な樹脂の粉体を加熱プレスにより点融着させ、焼結・炭素化して得られたものである。点融着前の樹脂の粉体に前述の穴あけ材を混合し、その割合を厚み方向において変えることで、
図3に示すような厚み方向において嵩密度が変化する炭素質音響板が得られる。
図4はその形状が棒状である樹脂を使用した場合を示す。
【実施例】
【0027】
〔実施例1〕
実施例1では、アモルファス炭素の骨格材である液状樹脂中に液状樹脂とは比重の異なる穴あけ材を分散させ、通常の硬化温度よりも低い温度で長い時間をかけて硬化させる。そのため、硬化反応が進行している間に穴あけ材が沈降もしくは浮上することにより穴あけ材の存在率が厚み方向において連続的に変化する成型物を得ることが出来る。それを焼成することにより、厚み方向において嵩密度が連続的に変化して層境界面を持たない炭素質多孔体が得られる。
【0028】
図2に示す構造の多孔体を得るためには、型から取り出すことが可能なほどに硬化反応が進んだ段階で加熱を止めて冷却することにより硬化反応を停止させ、2板を貼り合わせる。
【0029】
骨格材であるアモルファス炭素の炭素源としてのフラン樹脂59質量部(比重1.2g/cm
3)と、炭素粉末として黒鉛粒子1質量部と、気孔形成のための穴あけ材としてポリスチレン粒子(比重1.05g/cm
3)40質量部とを複合した組成物をポニーミキサーで十分に混合攪拌させた後に、硬化促進剤としてp−トルエンスルホン酸を1質量部加えて更に混合攪拌した。得られた組成物を型内で60℃の温度で硬化成型し厚み2mmの板状成型物を作成した。硬化完了までに3〜4時間を要した。その後、得られた板状成型物を型から取り外し、窒素雰囲気下において1000℃で3時間熱処理、引き続き真空下において1350℃で2時間熱処理を行い、炭素質多孔体を得た。
【0030】
得られた炭素質多孔体を上層部の厚み1/3が残るように研削して薄板を作成した。同様に中層部、下層部の厚み1/3が残るように研削して厚み方向に3分割した板を得た。得られた板の寸法・重量を測定し、3点曲げ試験を実施したところ表1のような結果となった。
【0031】
3点曲げ試験において、層間剥離は発生していない。
【0032】
【表1】
【0033】
表中の音速は
【0034】
【数1】
【0035】
により計算した。音響インピーダンスは嵩密度×音速により計算した。
【0036】
〔実施例2〕
実施例2では、実施例1のように硬化反応が進行している間に穴あけ材を沈降または浮上させることにより密度傾斜をつくることに加えて、穴あけ材の混合比を変えた複数の、離型可能な程度まで硬化させた半硬化シートを重ね合わせて一体化することにより密度差を大きくする。
【0037】
或いはまた、穴あけ材の混合比を変えた複数の硬化前の分散液の重ね塗りをして層を形成しても良い。
【0038】
骨格材であるアモルファス炭素の炭素源としてのフラン樹脂90質量部(比重1.2g/cm
3)と、炭素粉末として黒鉛粒子10質量部とを複合した組成物をポニーミキサーで十分に混合攪拌させた後に、硬化促進剤としてp−トルエンスルホン酸を1質量部加えて更に混合攪拌した。得られた組成物を型内で60℃の温度で流動性がなくなり離型可能な硬さになるまで硬化成型し厚み0.4mmのグリーンシートaを作成した。同じくフラン樹脂72質量部と、黒鉛粒子8質量部とポリメチルメタクリレート粒子20質量部を用いて厚み0.2mmのグリーンシートbと、さらにフラン樹脂45質量部と、黒鉛粒子5質量部とポリメチルメタクリレート粒子50質量部を用いて厚み0.4mmのグリーンシートcを作成した。その後、グリーンシート成型時の天地をあわせて下からグリーンシートabcの順番で空気をかまないように重ね合わせ荷重をかけたまま100℃で加熱して3枚が一体化された板状成型物を得た。得られた板状成型物を、窒素雰囲気下において1000℃で3時間熱処理、引き続き窒素雰囲気下において1350℃で2時間熱処理を行い、炭素質多孔体を得た。
【0039】
得られた炭素質多孔体を上層部の厚み1/3が残るように研削して薄板を作成した。同様に中層部、下層部の厚み1/3が残るように研削して厚み方向に3分割した板を得た。得られた板の寸法・重量を測定し、3点曲げ試験を実施したところ表2のような結果となった。
【0040】
3点曲げ試験において、層間剥離は発生していない。
【0041】
【表2】
【0042】
本実施例では、グリーンシートa,b,cにおけるフラン樹脂に対する黒鉛粒子の割合はいずれも同じであるから、焼成・炭素後の組成は全体が均一になる。したがって層間の明確な境界は存在せず、厚み方向において嵩密度が連続的に変化する。
【0043】
〔実施例3〕
実施例1と異なる点は比重の異なる複数種の穴あけ材を混合する点である。この場合に、実施例1よりも硬化温度を高くして短時間で硬化させても充分な密度差をつくり出すことができる。実施例1と同程度の温度で同程度の時間をかけて硬化させれば密度差をさらに大きくすることができる。
【0044】
骨格材であるアモルファス炭素の炭素源としてのフラン樹脂80質量部(比重1.2g/cm
3)と、比重の異なる2種の穴あけ材としてのポリメチルメタクリレート粒子15質量部(比重1.2g/cm
3)およびポリプロピレン粒子5質量部(比重0.9g/cm
3)とを複合した組成物をポニーミキサーで十分に混合攪拌させた後に、硬化促進剤としてp−トルエンスルホン酸を1.2質量部加えて更に混合攪拌した。得られた組成物を型内で90℃の温度で硬化成型し厚み2mmの板状成型物を作成した。その後、得られた板状成型物を型から取り外し、窒素雰囲気下において1000℃で3時間熱処理、引き続き窒素雰囲気下において1400℃で2時間熱処理を行い、炭素質多孔体を得た。
【0045】
得られた炭素質多孔体を上層部の厚み1/3が残るように研削して薄板を作成した。同様に中層部、下層部の厚み1/3が残るように研削して厚み方向に3分割した板を得た。得られた板の寸法・重量を測定し、3点曲げ試験を実施したところ表3のような結果となった。
【0046】
【表3】
【0047】
3点曲げ試験において、層間剥離は発生していない。
【0048】
〔実施例4〕
実施例4では、アモルファス炭素の骨格材としての点焼結が可能な樹脂の粒子と、穴あけ材を複数の異なる割合で混合した複数の混合粉体を作成し、型内に混合比の異なる複数層になるように充填して加熱プレスしてブロック体を作成する。それを焼成することによって、ミクロ的には層境界面を作らない点焼結による一体化が実現され、マクロ的には密度傾斜のある炭素質多孔体が得られる。
【0049】
骨格材であるアモルファス炭素の炭素源としての塩化ビニル樹脂と、気孔形成のための穴あけ材としてのポリメチルメタクリレート粒子とを下記配合にて遊星式攪拌混合機を用いて混合攪拌して混合粉体を得た。
【0050】
【表4】
【0051】
混合粉体1・2・3がそれぞれ同じ深さになるように型内に充填して、加熱プレスによって点融着させて厚さ6mmの板状成型物を作成した。その後、得られた板状成型物を型から取り外し、真空下において1000℃で3時間熱処理、引き続き真空下において1350℃で2時間熱処理を行い、炭素質多孔体を得た。
【0052】
得られた炭素質多孔体を上層部の厚み1/3が残るように研削して薄板を作成した。同様に中層部、下層部の厚み1/3が残るように研削して厚み方向に3分割した板を得た。得られた板の寸法・重量を測定し、3点曲げ試験を実施したところ表5のような結果となった。
【0053】
【表5】
【0054】
3点曲げ試験において、層間剥離は発生していない。
【0055】
本実施例における炭素質多孔体は、全体が同じ組成の塩化ビニル樹脂粉体を点融着させて焼成・炭素化したものであるから、明確な層境界は存在せず、嵩密度が厚み方向において連続的に変化する。
本発明の実施態様の一部を以下の項目〈1〉〜〈14〉に記載する。
〈1〉 アモルファス炭素を含み、嵩密度が厚み方向において連続的に変化する炭素質音響板。
〈2〉 嵩密度が0.2g/cm3乃至1.8g/cm3の範囲で連続的に変化する項目1記載の炭素質音響板。
〈3〉 平均嵩密度が1.0g/cm3以下である項目1または2記載の炭素質音響板。
〈4〉 気孔が存在する微細構造を有し、該気孔の存在割合が厚み方向において連続的に変化する項目1〜3のいずれか1項記載の炭素質音響板。
〈5〉 前記アモルファス炭素中に均一に分散した炭素粉末をさらに含み、厚み方向における嵩密度の変化にかかわらず組成は均一である項目1〜4のいずれか1項記載の炭素質音響板。
〈6〉 粒子が点融着した微細構造を有する項目1〜3のいずれか1項記載の炭素質音響板。
〈7〉 振動することにより音響を発生する振動板として使用される音響振動板である項目1〜6のいずれか1項記載の炭素質音響板。
〈8〉 異なる音響インピーダンスを有する2つの媒質の間に介在して音響インピーダンスを整合させる整合板として使用される音響整合板である項目1〜6のいずれか1項記載の炭素質音響板。
〈9〉 炭素を含む液状の樹脂に、樹脂の炭素化の過程で消失して気孔を形成する穴あけ材の粒子を混合して分散させて分散液とし、
前記分散液中に含まれる穴あけ材の粒子が沈降または浮上して、その存在割合に、鉛直方向における所望の違いを生じるに充分な時間をかけて、前記分散液中に含まれる樹脂を硬化させて板状に成型し、
前記板状に成型した、穴あけ材を含む樹脂を焼成して炭素化することを含む、炭素質音響板の製造方法。
〈10〉 前記板状に成型することは、離型可能な硬さまで樹脂が硬化した時点で、穴あけ材の混合割合が異なる複数の半硬化シートを積層することを含む項目9記載の方法。
〈11〉 前記分散液とすることは、比重の異なる複数種の穴あけ材を混合することを含む項目9記載の方法。
〈12〉 前記板状に成型することは、穴あけ材の混合比が異なる複数の分散液を重ね塗りしたものを硬化させることを含む項目9記載の方法。
〈13〉 前記分散液とすることは、炭素粉末をさらに混合することを含む項目9〜12のいずれか1項記載の方法。
〈14〉 点焼結が可能な樹脂の粉体に、樹脂の炭素化の過程において消失して気孔を形成する穴あけ材の粒子を混合比を変えて混合して複数の混合粉体を調製し、
前記複数の混合粉体を型内に順次層状に充填し、
前記層状に充填された混合粉体を加熱プレスによって点融着し、
前記点融着した樹脂を焼成して炭素化することを含む炭素質音響板の製造方法。