特許第5984570号(P5984570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984570
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20160823BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   H01B5/14 A
   B32B9/00 A
【請求項の数】12
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-176852(P2012-176852)
(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公開番号】特開2014-35903(P2014-35903A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】鷹尾 寛行
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−101622(JP,A)
【文献】 特開2003−197034(JP,A)
【文献】 特開2009−235488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
B32B 7/02
B32B 9/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状フィルム基材と、第1導電層と、第2導電層と、第3導電層とをこの順に有する導電性フィルムであって、
前記長尺状フィルム基材は、長手方向とそれに直交する幅方向を有し、
前記長尺状フィルム基材の幅方向寸法は1m以上であり、
前記第1導電層は、インジウム系酸化物層であり、
前記第2導電層は、金属層であり、
前記第3導電層は、スパッタ成膜された物であって、厚み1nm〜15nmの酸化金属層であ
表面抵抗値が0.1Ω/□〜0.6Ω/□である、
ことを特徴とする導電性フィルム。
【請求項2】
前記長尺状フィルム基材の幅方向寸法が1m〜3mであることを特徴とする、請求項1記載の導電性フィルム。
【請求項3】
表面抵抗値が0.3Ω/□〜0.6Ω/□であることを特徴とする、請求項記載の導電性フィルム。
【請求項4】
前記幅方向における表面抵抗値の標準偏差が0.01Ω/□以下であることを特徴とする、請求項1記載の導電性フィルム。
【請求項5】
前記幅方向における表面抵抗値の標準偏差が、0.001〜0.005Ω/□であることを特徴とする、請求項記載の導電性フィルム。
【請求項6】
前記第3導電層は、酸化銅、酸化銀、酸化銀合金又は酸化チタン合金からなることを特徴とする、請求項1記載の導電性フィルム。
【請求項7】
前記第2導電層は、銅、銀、銀合金又はチタン合金からなることを特徴とする、請求項1記載の導電性フィルム。
【請求項8】
前記第2導電層の厚みが、20nm〜700nmであることを特徴とする、請求項記載の導電性フィルム。
【請求項9】
前記第1導電層は、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物又は酸化インジウム−酸化亜鉛酸化物からなることを特徴とする、請求項1記載の導電性フィルム。
【請求項10】
前記第1導電層の厚みが、20nm〜80nmであることを特徴とする、請求項記載の導電性フィルム。
【請求項11】
前記長尺状フィルム基材の厚みが、80μm〜200μmであることを特徴とする、請求項1記載の導電性フィルム。
【請求項12】
前記長尺状フィルム基材がポリシクロオレフィンからなることを特徴とする、請求項11記載の導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指やスタイラスペン等の接触によって情報を入力することが可能な入力表示装置等に適用される導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、インジウムスズ酸化物層と、銅層とを積層した導電性フィルムが知られている(特許文献1)。上記導電性フィルムの銅層は、例えば、狭額縁対応のタッチセンサを作製するために、タッチパネル画面(中央窓部)の外縁部に引き回し配線を形成するように加工される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−060146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記導電性フィルムは、銅層を加工する前に、ロール状にして長期間保管されることがあり、この場合、上記銅層は大気中の酸素の影響を受けて自然に酸化し、その表面に酸化銅層が形成される。しかしながら、上記導電性フィルムのフィルム幅がある程度大きい場合、酸化銅層が自然酸化により形成されると、部分的に酸化の度合いに差が生じて、フィルム幅方向に表面抵抗値のばらつきが生じ、フィルム特性が低下する場合がある。
【0005】
本発明の目的は、幅方向における表面抵抗値のばらつきが少なく、フィルム特性の良好な導電性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る導電性フィルムは、長尺状フィルム基材と、第1導電層と、第2導電層と、第3導電層とをこの順に有する導電性フィルムであって、前記長尺状フィルム基材は、長手方向とそれに直交する幅方向を有し、前記長尺状フィルム基材の幅方向寸法は1m以上であり、前記第1導電層は、インジウム系酸化物層であり、前記第2導電層は、金属層であり、前記第3導電層は、スパッタ成膜された厚み1nm〜15nmの酸化金属層であることを特徴とする。
【0007】
好ましくは、前記長尺状フィルム基材の幅方向寸法が1m〜3mである。
【0009】
さらに好ましくは、前記導電性フィルムの表面抵抗値が0.3Ω/□〜0.6Ωである。
【0010】
また好ましくは、前記幅方向における表面抵抗値の標準偏差が0.01Ω/□以下である。
【0011】
さらに好ましくは、前記幅方向における表面抵抗値の標準偏差が、0.001〜0.005Ω/□である。
【0012】
前記第3導電層は、酸化銅、酸化銀、酸化銀合金又は酸化チタン合金からなるのが好ましい。
【0013】
前記第2導電層は、銅、銀、銀合金又はチタン合金からなるのが好ましい。
【0014】
また、前記第2導電層の厚みは、20nm〜700nmであるのが好ましい。
【0015】
前記第1導電層は、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物又は酸化インジウム−酸化亜鉛酸化物からなるのが好ましい。
【0016】
また、前記第1導電層の厚みは、20nm〜80nmであるのが好ましい。
【0017】
前記長尺状フィルム基材の厚みは、80μm〜200μmであるのが好ましい。
【0018】
また、前記長尺状フィルム基材は、ポリシクロオレフィンからなるのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、長尺状フィルム基材の幅方向寸法が1m以上であり、第1導電層は、インジウム系酸化物層であり、第2導電層は、金属層であり、第3導電層は、スパッタ成膜された物であって、厚み1nm〜15nmの酸化金属層であり、表面抵抗値が0.1Ω/□〜0.6Ω/□である。この構成によれば、幅方向寸法が1m以上である導電性フィルムにおいて、その幅方向における表面抵抗値を小さくすることができ、フィルム特性の良好な導電性フィルムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る導電性フィルムの構成を示す斜視図である。
図2図1の導電性フィルムの変型例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る導電性フィルム1は、長尺状フィルム基材2と、インジウム系酸化物層3(第1導電層)と、金属層4(第2導電層)と、酸化金属層5(第3導電層)とを、この順に備えている。この長尺状フィルム基材1は、長手方向とそれに直交する幅方向とを有しており、該長尺状フィルムの幅方向寸法は1m以上である。
【0023】
上記導電性フィルム1では、金属層4の表面に、スパッタ成膜された酸化金属層5が形成される。このため、導電性フィルムが長期間保管されても、自然酸化によっては、これ以上の酸化金属層は形成されない。自然酸化により形成される酸化金属層の厚み分布は、大気中における導電性フィルムの保管環境や状態によって左右されるのに対し、スパッタ成膜により形成された酸化金属層の厚み分布は比較的一定であるため、幅方向において表面抵抗値のばらつきが小さい導電性フィルムから得られる。
【0024】
本発明の導電性フィルム1の表面抵抗値は、好ましくは0.1Ω/□〜0.6Ω/□であり、さらに好ましくは0.3Ω/□〜0.6Ω/□である。上記導電性フィルム1の幅方向における表面抵抗値の標準偏差は、好ましくは0.01Ω/□以下であり、さらに好ましくは0.001〜0.005Ω/□である。
【0025】
(2)長尺状フィルム基材
本発明に用いられる長尺状フィルム基材2は、長手方向とそれに直交する幅方向とを有する。本発明において「長尺状」とは、長手方向寸法が、幅方向寸法よりも十分に大きいことをいい、好ましくは長手方向寸法が、幅方向寸法に対して10倍以上であることをいう。
【0026】
上記長尺状フィルム基材2の幅方向寸法(単に「幅」ともいう)は1m以上であり、好ましくは1m〜3mである。上記長尺状フィルム基材の長手方向寸法は(単に「長さ」ともいう)は、好ましくは1000m以上である。このような条件下にて、本発明の導電性フィルムは優れた効果を奏する。
【0027】
上記長尺状フィルム基材2は、好ましくは、押出成形されたポリシクロオレフィンフィルムである。押出成形されたポリシクロオレフィンフィルムは、残存揮発分量が少ないため、各導電層に及ぼす発生ガスの悪影響を小さくすることができ、成膜直後における各伝導層の表面抵抗値を均一にすることができる。上記ポリシクロオレフィンフィルムの標準試験方法ASTM D570(2010)に準じて求めた吸水率は、好ましくは0.1%以下であり、さらに好ましくは0.05%以下である。
【0028】
さらに、上記ポリシクロオレフィンフィルムは、残存揮発分量が少ないため、厚みを大きくして、取扱性を向上させることもできる。上記長尺状フィルム基材の厚みは、好ましくは80μm〜200μmである。
【0029】
なお、上記長尺状フィルム基材2は、その表面に、インジウム系酸化物層3と該長尺状フィルム基材との密着性を高めるための易接着層10を有していてもよく、また、長尺状フィルム基材2の反射率を調整するための屈折率調整層11(Index-matching layer)を有していてもよい(図2)。あるいは、上記長尺状フィルム基材の表面に傷が付き難くするためのハードコート層(不図示)を有していてもよい。
【0030】
(3)インジウム系酸化物層(第1導電層)
本発明に用いられるインジウム系酸化物層3は、例えば、本発明の導電性フィルム1をタッチセンサに用いる場合、タッチパネル画面(中央窓部)の透明導電層として用いられる。
【0031】
インジウム系酸化物層3を形成する材料は、透明性と導電性に優れる点から、好ましくは、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物又は酸化インジウム−酸化亜鉛酸化物である。インジウム系酸化物層3の厚みは、好ましくは20nm〜80nmである。
【0032】
(4)金属層(第2導電層)
本発明に用いられる金属層4は、例えば、本発明の導電性フィルムをタッチセンサに用いる場合、タッチパネル画面(中央窓部)の外縁部に引き回し配線を形成するために用いられる。
【0033】
上記金属層を形成する材料は、例えば、銅、銀、銀合金又はチタン合金である。このような材料は、電気伝導性に優れるため、引き回し配線を細く形成することができる。上記金属層の厚みは、例えば、20nm〜700nmである。
【0034】
(5)酸化金属層(第3導電層)
本発明に用いられる酸化金属層5は、スパッタ成膜された厚み1nm〜15nmの層である。上記酸化金属層は、第2導電層(金属層)が、大気中の酸素の影響を受けて自然に酸化することを防止するために設けられる。
【0035】
酸化金属層5を形成する材料は、例えば、酸化銅、酸化銀、酸化銀合金又は酸化チタン合金である。密着性や耐腐食性の観点から、上記第3導電層を形成する材料は、上記第2導電層を形成した金属材料と同一金属材料の酸化物であることが好ましい。例えば、第2導電層が銅層である場合、第3導電層は、好ましくは酸化銅層である。
【0036】
酸化金属層5の厚みは、自然酸化を防止するために、1nm〜15nmであり、好ましくは3nm〜10nmである。
【0037】
上記のように構成される導電性フィルム1は、例えば、幅1.1m、長さ500m〜5000mの長尺状フィルム基材のロールをスパッタ装置に入れ、これを一定速度で繰り返しながら、該長尺状フィルム基材の一方の面に、インジウム系複合酸化物層、金属層及び酸化金属層を、スパッタ法により順次形成する方法により製造される。
【0038】
上記スパッタ法は、低圧気体中で発生させたプラズマ中の陽イオンを、負電極であるターゲット材表面から飛散した物質を基板に付着させる方法である。この際、上記スパッタ装置内には、成膜する材料の焼成体ターゲットが、積層順に対応するように配置される。
【0039】
上述したように、本実施形態によれば、長尺状フィルム基材2の幅方向寸法が1m以上であり、第1導電層はインジウム系酸化物層3であり、第2導電層は金属層4であり、第3導電層は、スパッタ成膜された厚み1nm〜15nmの酸化金属層5である。この構成によれば、幅方向寸法が1m以上である導電性フィルム1において、その幅方向における表面抵抗値を小さくすることができ、高品質な導電性フィルムを提供することが可能となる。
【0040】
以上、本実施形態に係る導電性フィルムについて述べたが、本発明は記述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0041】
次に、本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
先ず、幅1.1m、長さ2000m、厚み100μmの押出成形されたポリシクロオレフィンフィルム(日本ゼオン社製 商品名「ZEONOR」(登録商標)」からなる長尺状フィルム基材の一方の側に、第1導電層として厚み25nmのインジウムスズ酸化物層を、第2導電層として厚み50nmの銅層を、第3導電層として厚み7nmの酸化銅層を、それぞれスパッタ法により順次形成した。
(実施例2)
スパッタリング時間を変更することにより、酸化銅層の厚みを5nmに変更した以外は、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを作製した。
(実施例3)
スパッタリング時間を変更することにより、酸化銅層の厚みを1.5nmに変更した以外は、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを作製した。
(比較例1)
第3導電層としての酸化銅層を形成しなかった以外は、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを作製し、23℃の大気中で72時間保管して、第2導電層(銅層)の表面に、厚み1.7nmの酸化皮膜層を形成した。
【0043】
次に、上記実施例1〜3および比較例1の各導電性フィルムを、以下の方法にて測定・評価した。
【0044】
(1)第1導電層及び第2導電層の厚みの測定
透過型電子顕微鏡(日立製作所製 H−7650)により断面観察して、インジウムスズ酸化物層と銅層の厚みを測定した。
【0045】
(2)第3導電層の厚みの測定
X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析装置(PHI社製 製品名「QuanteraSXM」を用いて、酸化銅層の厚みを測定した。
【0046】
(3)表面抵抗値の測定および評価
得られた導電性フィルムの表面抵抗値を、4端子法を用いて、幅方向に15cm間隔で5点測定し、その標準偏差を求めた。
【0047】
上記(1)〜(3)の方法にて、実施例1〜3および比較例1の導電性フィルムを測定・評価した結果を表1に示す。なお、表1中、実施例1〜3における「厚み」は、第3導電層の厚みを示し、比較例1の「厚み」は酸化皮膜層の厚みを示す。
【表1】
【0048】
表1の結果から、実施例1〜3に示すように、幅寸法1.1mの導電性フィルムにおいて、酸化銅層の厚みが1.5nm、5nm、7nmの場合に、幅方向における表面抵抗値の標準偏差が0.002〜0.004Ω/□となり、ばらつきの小さい良好な表面抵抗値を示すことが分かった。一方、比較例1に示すように、幅寸法1.1mの導電性フィルムにおいて、自然酸化による厚み1.7nmの酸化皮膜層を形成した場合、幅方向における表面抵抗値の標準偏差が0.023Ω/□となり、ばらつきが大きいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の導電性フィルムは、例えば、ディスプレイサイズに切断加工され、静電容量方式等のタッチセンサに使用される。
【符号の説明】
【0050】
1 導電性フィルム
2 長尺上フィルム基材
3 インジウム系酸化物層
4 金属層
5 酸化金属層
10 易接着層
11 屈折率調整層
21 導電層
図1
図2