(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984598
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】燃料添加構造
(51)【国際特許分類】
F01N 3/36 20060101AFI20160823BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
F01N3/36 C
F01N3/24 L
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-205237(P2012-205237)
(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公開番号】特開2014-58929(P2014-58929A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 敏明
【審査官】
石川 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−031778(JP,A)
【文献】
特開2009−156073(JP,A)
【文献】
特開2012−107634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/36
F01N 3/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気系路の途中に燃料添加弁を取り付け且つ該燃料添加弁から排気系路内を流れる排気ガスに燃料を添加するようにした燃料添加構造であって、排気系路における燃料添加弁の取付位置に前記排気系路の内側から外側に向けて窪む噴霧ポケットを形成し、該噴霧ポケット内に前記燃料添加弁のノズル部を貫通配置して排気ガスの流れ方向に対し斜め下流側へ燃料を噴射し得るように構成すると共に、前記排気系路内における噴霧ポケットと対峙する位置に排気ガスの流れを噴霧ポケット側へ偏向させて該噴霧ポケット内に上流側へ還流する渦流を形成し且つ燃料添加弁のノズル部からの噴射燃料を衝突させて上流側へ跳ね返すスロープ部を設けたことを特徴とする燃料添加構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気系路の途中に取り付けた燃料添加弁により前記排気系路内を流れる排気ガスに燃料を添加するようにした燃料添加構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレート(Particulate Matter:粒子状物質)は、炭素質から成る煤分と、高沸点炭化水素成分から成るSOF分(Soluble Organic Fraction:可溶性有機成分)とを主成分とし、更に微量のサルフェート(ミスト状硫酸成分)を含んだ組成を成すものであるが、この種のパティキュレートの低減対策として、排気ガスが流通する排気管の途中に、パティキュレートフィルタを装備することが行われている。
【0003】
前記パティキュレートフィルタは、コージェライト等のセラミックから成る多孔質のハニカム構造となっており、格子状に区画された各流路の入口が交互に目封じされ、入口が目封じされていない流路については、その出口が目封じされるようになっており、各流路を区画する多孔質薄壁を透過した排気ガスのみが下流側へ排出されるようにしてある。
【0004】
そして、排気ガス中のパティキュレートは、前記多孔質薄壁の内側表面に捕集されて堆積するので、目詰まりにより排気抵抗が増加しないうちにパティキュレートを適宜に燃焼除去してパティキュレートフィルタの再生を図る必要があるが、通常のディーゼルエンジンの運転状態にあっては、パティキュレートが自己燃焼するほどの高い排気温度が得られる機会が少ないため、酸化触媒を一体的に担持させた触媒再生型のパティキュレートフィルタが採用されている。
【0005】
このような触媒再生型のパティキュレートフィルタを採用すれば、捕集されたパティキュレートの酸化反応が促進されて着火温度が低下し、従来より低い排気温度でもパティキュレートを燃焼除去することが可能となるが、斯かる触媒再生型のパティキュレートフィルタを採用した場合であっても、排気温度の低い運転領域では、パティキュレートの処理量よりも捕集量が上まわってしまうので、このような低い排気温度での運転状態が続くと、パティキュレートフィルタの再生が良好に進まずに該パティキュレートフィルタが過捕集状態に陥る虞れがある。
【0006】
そこで、パティキュレートフィルタの前段に再生用の酸化触媒を別途配置し、パティキュレートの堆積量が増加してきた段階で前記酸化触媒より上流側の排気ガス中に燃料を添加してパティキュレートフィルタを積極的に強制再生することが行われている。
【0007】
つまり、パティキュレートフィルタより上流側で添加された燃料が前段の酸化触媒を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガスの流入により直後のパティキュレートフィルタの触媒床温度が上げられてパティキュレートが燃やし尽くされ、パティキュレートフィルタの再生化が図られることになる。
【0008】
この種の燃料添加を実行するための具体的手段としては、圧縮上死点付近で行われる燃料のメイン噴射に続いて圧縮上死点より遅い非着火のタイミングでポスト噴射を追加することで排気ガス中に燃料を添加するのが一般的である。
【0009】
ただし、このようにポスト噴射で燃料添加を行うと、燃料とエンジンオイルと煤分とHCガスとが高温高圧環境下で混ざり合うことでHC重合が起こり易くなり、EGRクーラの出口等における急激な温度低下を伴う箇所でタール状の粘度の高い重合物が生成され、この重合物が吸気系や動弁系に悪影響を及ぼす虞れがあったため、ターボチャージャのタービンより下流の排気系路の途中に燃料添加弁を装備し、該燃料添加弁により燃料を排気系路内に直噴することで燃料添加を行うことも既に提案されている。
【0010】
尚、この種の排気管途中に添加弁を装備した構造に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−203248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、排気系路内へ燃料添加を行うにあたり、前述の如き燃料添加弁による直噴方式を採用すると、宅配便やコンビニエンスストア等への商品を配送する運搬車両等では、短時間の走行を挟んで停車を繰り返すような運行形態となり、排気ガスの温度が低く且つ流れも遅い運転状態が間欠的に連続することになるため、燃料添加弁の噴射口周囲に燃料の粒と煤分とが結びついたものが堆積して筒状のデポジットが形成されてしまうという問題があった。
【0013】
尚、このデポジットを放置しておくと、最終的に燃料添加弁の噴射口周囲が閉空間となって排気ガスへの燃料添加ができなくなってしまうため、燃料添加弁の装着部分を定期的に分解して清掃しなければならず、その清掃作業に多大な労力と時間を要することから大きな作業負担となっていた。
【0014】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、燃料添加弁の噴射口周囲におけるデポジットの形成を抑制し得る燃料添加構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、排気系路の途中に燃料添加弁を取り付け且つ該燃料添加弁から排気系路内を流れる排気ガスに燃料を添加するようにした燃料添加構造であって、排気系路における燃料添加弁の取付位置に前記排気系路の内側から外側に向けて窪む噴霧ポケットを形成し、該噴霧ポケット内に前記燃料添加弁のノズル部を貫通配置して排気ガスの流れ方向に対し斜め下流側へ燃料を噴射し得るように構成すると共に、前記排気系路内における噴霧ポケットと対峙する位置に排気ガスの流れを噴霧ポケット側へ偏向させて該噴霧ポケット内に上流側へ還流する渦流を形成
し且つ燃料添加弁のノズル部からの噴射燃料を衝突させて上流側へ跳ね返すスロープ部を設けたことを特徴とするものである。
【0016】
而して、このようにすれば、スロープ部により排気ガスの流れが噴霧ポケット側へ偏向されて該噴霧ポケット内に上流側へ還流する渦流が形成されるので、この渦流により燃料の粒と煤分とが結びついて次々と堆積していく過程が阻害されてデポジットの形成が抑制されることになる。
【0017】
この際、排気ガスの流れを噴霧ポケット側へ偏向させるスロープ部の傾斜角や長さ、その偏向された排気ガスの流れを呼び込む噴霧ポケット側の窪み形状等を適宜に選定して、デポジットの形成を抑制するのに最も効果的な渦流が噴霧ポケット内に形成されるように調整する必要があることは勿論である。
【0018】
また、噴霧ポケット内に燃料添加弁のノズル部を貫通配置して排気ガスの流れ方向に対し斜め下流側へ燃料を噴射させるようにしているので、煤分を含む排気ガスが燃料添加弁のノズル部の噴射口に対し正面から勢い良く吹き付けることが回避され、噴射口の煤分による閉塞が防止されることになる。
【0019】
更に、本発明においては、燃料添加弁のノズル部からの噴射燃料を衝突させて上流側へ跳ね返し得るようにスロープ部を形成
しているので、燃料添加弁のノズル部からの噴射燃料が、スロープ部に衝突して上流側へ跳ね返されることで排気ガスの流れに対し対向流として混ざり、排気ガスの流れに正面からぶつかることで蒸発と分散が著しく促進されることになる。
【0020】
即ち、燃料添加弁のノズル部の噴射口が煤分により閉塞しないよう排気ガスの流れ方向に対し斜め下流側へ燃料を噴射すると、排気ガスの流れと同じ向きに燃料が噴射されることになって、該燃料が円滑に排気ガスの流れに乗って微細化や拡散が起こらないまま進んでしまい、燃料の蒸発と分散が悪くなってしまうが、排気ガスの流れに対し対向流として混ぜれば、このような不具合を回避することが可能となる。
【0021】
尚、燃料の蒸発と分散が促進されると、燃料がHCガスとなって良好に分散した状態で酸化触媒に到り、該酸化触媒にて効果的に酸化反応を起こして効率良く排気ガスを昇温することが可能となるので、パティキュレートフィルタの強制再生を極力少ない時間のうちに完了することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
上記した本発明の燃料添加構造によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0023】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、燃料添加弁の噴射口周囲におけるデポジットの形成を抑制することができるので、燃料添加弁の装着部分を分解して清掃するといった面倒な清掃作業の頻度を大幅に減らすことができ、その清掃作業に要する労力と時間を削減して作業負担の大幅な軽減化を図ることができる。
【0024】
(II)本発明の請求項1に記載の発明によれば、噴霧ポケット内に燃料添加弁のノズル部を貫通配置して排気ガスの流れ方向に対し斜め下流側へ燃料を噴射させるようにしているので、煤分を含む排気ガスが燃料添加弁のノズル部の噴射口に対し正面から勢い良く吹き付けることを回避でき、燃料添加弁のノズル部の噴射口が煤分により閉塞してしまうことを確実に防止することができる。
【0025】
(III)本発明の請求項
1に記載の発明によれば、燃料添加弁のノズル部からの燃料をスロープ部に衝突させて上流側へ跳ね返すことにより排気ガスの流れに対し対向流として混ぜるとができ、排気ガスの流れに正面からぶつけることで前記燃料の蒸発と分散を著しく促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を示す断面図である。
【
図2】
図1のスロープ部がない場合について説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図中1は排気系路、2は該排気系路1の途中に取り付けられた燃料添加弁を示し、該燃料添加弁2から排気系路1内を流れる排気ガス3に燃料Fが添加されるようになっている。
【0029】
ここで、排気系路1における燃料添加弁2の取付位置には、前記排気系路1の内側から外側に向けて窪む噴霧ポケット4が形成されており、該噴霧ポケット4内に前記燃料添加弁2のノズル部5が貫通配置されて排気ガス3の流れ方向に対し斜め下流側へ燃料Fを噴射し得るように構成されている。
【0030】
図1に図示している例の場合、噴霧ポケット4は、頂点を排気ガス3の流れ方向上流側に片寄らせたピラミッド形の窪みとなっており、その頂点付近に燃料添加弁2のノズル部5が貫通配置されるようになっていて、該ノズル部5の貫通位置から下流側にかけて前記排気ガス3の流れ方向に対し傾斜角θ
1の勾配を持つ傾斜面4aが形成されている。
【0031】
一方、前記排気系路1内における噴霧ポケット4と対峙する位置には、排気ガス3の流れを噴霧ポケット4側へ偏向させて該噴霧ポケット4内に上流側へ還流する渦流6を形成するスロープ部7が設けられており、しかも、このスロープ部7は、燃料添加弁2のノズル部5からの噴射燃料Fを衝突させて上流側へ跳ね返し得るように形成されている。
【0032】
即ち、このスロープ部7は、排気ガス3の流れ方向に対し傾斜角θ
2の勾配を持つように形成されており、ここに排気ガス3の流れが乗り上げて噴霧ポケット4側に偏向されるようになっている。
【0033】
而して、このようにすれば、スロープ部7により排気ガス3の流れが噴霧ポケット4側へ偏向されて該噴霧ポケット4内に上流側へ還流する渦流6が形成されるので、この渦流6により燃料Fの粒と煤分とが結びついて次々と堆積していく過程が阻害されてデポジット8(
図2参照)の形成が抑制されることになる。
【0034】
この際、排気ガス3の流れを噴霧ポケット4側へ偏向させるスロープ部7の傾斜角θ
2や長さ、その偏向された排気ガス3の流れを呼び込む噴霧ポケット4側の窪み形状(傾斜面4aの傾斜角θ
1や長さ)等を適宜に選定して、デポジット8の形成を抑制するのに最も効果的な渦流6が噴霧ポケット4内に形成されるように調整する必要があることは勿論である。尚、噴霧ポケット4内に効果的な渦流6を形成することでデポジット8の形成を抑制できることは本発明者の鋭意研究により見いだされた事実である。
【0035】
もし仮にスロープ部7をなくして噴霧ポケット4内に渦流6が形成されない構成としたならば、
図2に示す如く、燃料添加弁2のノズル部5から噴射される燃料Fの方向に延びる筒状のデポジット8が形成されてしまうことになり、そのまま放置したならば、最終的には
図2で未だ塞がっていないデポジット8の先端部分も塞がって燃料添加が不可能となってしまう。
【0036】
また、噴霧ポケット4内に燃料添加弁2のノズル部5を貫通配置して排気ガス3の流れ方向に対し斜め下流側へ燃料Fを噴射させるようにしているので、煤分を含む排気ガス3が燃料添加弁2のノズル部5の噴射口に対し正面から勢い良く吹き付けることが回避され、噴射口の煤分による閉塞が防止されることになる。
【0037】
更に、本形態例においては、燃料添加弁2のノズル部5からの噴射燃料Fを衝突させて上流側へ跳ね返し得るようにスロープ部7が形成されているので、燃料添加弁2のノズル部5からの噴射燃料Fが、スロープ部7に衝突して上流側へ跳ね返されることで排気ガス3の流れに対し対向流として混ざり、排気ガス3の流れに正面からぶつかることで蒸発と分散が著しく促進されることになる。
【0038】
即ち、燃料添加弁2のノズル部5の噴射口が煤分により閉塞しないよう排気ガス3の流れ方向に対し斜め下流側へ燃料Fを噴射すると、排気ガス3の流れと同じ向きに燃料Fが噴射されることになって、該燃料Fが円滑に排気ガス3の流れに乗って微細化や拡散が起こらないまま進んでしまい、燃料Fの蒸発と分散が悪くなってしまうが、排気ガス3の流れに対し対向流として混ぜれば、このような不具合を回避することが可能となる。
【0039】
尚、燃料Fの蒸発と分散が促進されると、燃料FがHCガスとなって良好に分散した状態で酸化触媒に到り、該酸化触媒にて効果的に酸化反応を起こして効率良く排気ガス3を昇温することが可能となるので、パティキュレートフィルタの強制再生を極力少ない時間のうちに完了することが可能となる。
【0040】
従って、上記形態例によれば、燃料添加弁2の噴射口周囲におけるデポジット8の形成を抑制することができるので、燃料添加弁2の装着部分を分解して清掃するといった面倒な清掃作業の頻度を大幅に減らすことができ、その清掃作業に要する労力と時間を削減して作業負担の大幅な軽減化を図ることができる。
【0041】
また、噴霧ポケット4内に燃料添加弁2のノズル部5を貫通配置して排気ガス3の流れ方向に対し斜め下流側へ燃料Fを噴射させるようにしているので、煤分を含む排気ガス3が燃料添加弁2のノズル部5の噴射口に対し正面から勢い良く吹き付けることを回避でき、燃料添加弁2のノズル部5の噴射口が煤分により閉塞してしまうことを確実に防止することができる。
【0042】
更に、燃料添加弁2のノズル部5からの燃料Fをスロープ部7に衝突させて上流側へ跳ね返すことにより排気ガス3の流れに対し対向流として混ぜるとができ、排気ガス3の流れに正面からぶつけることで前記燃料Fの蒸発と分散を著しく促進することができる。
【0043】
尚、本発明の燃料添加構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、噴霧ポケットの形状は図示例に限定されないこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0044】
1 排気系路
2 燃料添加弁
3 排気ガス
4 噴霧ポケット
5 ノズル部
6 渦流
7 スロープ部
F 燃料