特許第5984603号(P5984603)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱航空機株式会社の特許一覧

特許5984603配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム
<>
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000002
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000003
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000004
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000005
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000006
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000007
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000008
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000009
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000010
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000011
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000012
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000013
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000014
  • 特許5984603-配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984603
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】配線のリスク判定方法、及び、配線のリスク判定システム
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/02 20060101AFI20160823BHJP
【FI】
   B60R16/02 620J
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-209317(P2012-209317)
(22)【出願日】2012年9月24日
(65)【公開番号】特開2014-61841(P2014-61841A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】508208007
【氏名又は名称】三菱航空機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(72)【発明者】
【氏名】外山 浩司
(72)【発明者】
【氏名】末廣 諭
(72)【発明者】
【氏名】中山 善博
【審査官】 佐々木 訓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−248772(JP,A)
【文献】 特開2011−061268(JP,A)
【文献】 特開2010−113475(JP,A)
【文献】 特開2007−062481(JP,A)
【文献】 特開昭59−136017(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0268507(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0050529(US,A1)
【文献】 国際公開第98/055924(WO,A1)
【文献】 米国特許第07536284(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
B64F 5/00
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の束であるハーネスが複数の端末装置の間に複数設けられコネクタを介して接続されている配線システムについて、
配線のリスク判定システムの処理部が、
複数の前記端末装置につながる電線が同じハーネスに束ねられている第一リスク、及び、前記ハーネスが同時に故障する第二リスク、を判定する方法であって、
前記第一リスクの判定は、
前記コネクタと前記ハーネスとの接続情報を記憶するデータベースから、複数の前記ハーネスの中から特定される対象ハーネスが間接的に繋がっている前記コネクタの数を特定することにより行われ、
前記第二リスクの判定は、
前記ハーネスの位置情報と危険源による影響範囲情報を記憶する前記データベースから、前記対象ハーネスの位置情報と危険源による影響範囲とを照合し、
前記対象ハーネスが前記影響範囲を通過するか否かを特定することにより行われる、
ことを特徴とする配線のリスク判定方法。
【請求項2】
前記第一リスクの判定において、
特定された前記コネクタの数に対応するリスク値が予め定められた値以上の前記対象ハーネスに束ねられる電線の識別情報を、前記接続情報から抽出する、
請求項1に記載の配線のリスク判定方法。
【請求項3】
前記第一リスクの判定方法において、
特定された前記コネクタの数に対応するリスク値が予め定められた値以上の前記対象ハーネスの分岐部分であるノードの識別情報を抽出する、
請求項1に記載の配線のリスク判定方法。
【請求項4】
前記第二リスクの判定方法において、
2つの前記対象ハーネスが前記影響範囲を通過することを示す各々のリスク値を演算処理することで、当該2つの前記対象ハーネスに前記第二リスクを算定する、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の配線のリスク判定方法。
【請求項5】
電線の束であるハーネスが複数の端末装置の間に複数設けられコネクタを介して接続されている配線システムにおいて、
複数の前記端末装置につながる電線が同じハーネスに束ねられている第一リスク、及び、前記ハーネスが同時に故障する第二リスク、を判定するシステムであって、
前記コネクタと前記ハーネスとの接続情報、及び、前記ハーネスの位置情報と危険源による影響範囲情報を記憶するデータベースと、
前記第一リスクの判定及び前記第二リスクの判定を行う処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記第一リスクの判定として、
複数の前記ハーネスの中から特定される対象ハーネスが指定されると、
前記接続情報に基づいて、前記対象ハーネスが間接的に繋がっている前記コネクタの数を特定し、
前記第二リスクの判定として、
前記対象ハーネスの位置情報と前記影響範囲情報とを照合し、
前記対象ハーネスが前記影響範囲を通過するか否かを特定する、
ことを特徴とする配線のリスク判定システム。
【請求項6】
前記処理部は、
前記第一リスクの判定において、
特定された前記コネクタの数に対応するリスク値が予め定められた値以上の前記対象ハーネスに束ねられる電線の識別情報を、前記接続情報から抽出する、
請求項5に記載の配線のリスク判定システム。
【請求項7】
前記処理部は、
前記第一リスクの判定方法において、
特定された前記コネクタの数に対応するリスク値が予め定められた値以上の前記対象ハーネスの分岐部分であるノードの識別情報を前記接続情報から抽出する、
請求項5に記載の配線のリスク判定システム。
【請求項8】
前記処理部は、
前記第二リスクの判定方法において、
2つの前記対象ハーネスが前記影響範囲を通過することを示す各々のリスク値を演算処理することで、当該2つの前記対象ハーネスに前記第二リスクを算定する、
請求項5〜7のいずれか一項に記載の配線のリスク判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタを介して複数の電子機器間を電線で接続された配線の安全性を解析するに当たり、(1)同時に故障してはならない組合せの電線が同じワイヤハーネス(wire harness 以下、単にハーネスということがある)に含まれるリスク(同束リスク)のあるハーネス、及び、(2)同時に故障すると安全性を損なうリスクのあるハーネスを抽出する方法及びシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、入力装置、制御装置及び出力装置の間をハーネスで接続されたシステムは、システムが組み上げられ、実際に使用される前に、ハーネスが必要な安全性を備えて配線されているかを確認する必要がある。特に、航空機ではこの安全性が人命に大きく係ることから、その確認は必須である。ところが、システムが大規模になると、ハーネスの数(配線数)、入力装置などの端末装置又は中継装置(以下、端末装置と総称する)の数が多いため、配線の安全性を確認するのは容易でない。また、航空機は、安全性を確保するために、電子機器(端末装置)及び電線に冗長性を持たせているが、それが故に安全性の確認をより困難なものにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7536284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、安全性を定量的に評価する手法が提案されている。そして、システムや機器については、通常、故障率を用いた定量的な安全性解析を行うことができる。これに対し、配線においては、アークフォルトによる配線故障の解析が必要となるが、アーク現象そのものの蓋然性により、故障率を計算により解析的に算出することができない。また、定量的な安全性解析では、冗長性が担保されていることを確認することはできない。
本発明は、このような課題に基づいてなされたもので、ハーネス(電線)、端末装置の数が多い大規模な配線システムであっても、同束リスクのあるハーネス、及び、同時に故障すると安全性を損なうリスクのあるハーネスを容易に抽出する方法を提供し、配線の安全性解析に寄与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
いかなる複雑な配線も、接続を示す情報は下記の(a)及び(b)のいずれかに集約できる。
(a)コネクタと電線
(b)コネクタと端末装置または中継装置
よって、コネクタに接続される電線や端末装置、中継装置の関係をデータベース化すれば、接続ルートをたどることにより、接続の状態を把握することができる。
また、故障を起させる原因となる危険源による影響範囲の位置情報、及び、ハーネスが引き回される位置情報についてもデータベース化しておけば、特定のハーネスが影響範囲を通過するか否かを容易に把握することができる。
そこでなされた本発明は、電線の束であるハーネスが複数の端末装置の間に複数設けられコネクタを介して接続されている配線システムについて配線のリスク判定システムの処理部が、複数の端末装置につながる電線が同じハーネスに束ねられている第一リスク、及び、ハーネスが同時に故障する第二リスク、を判定する方法に関する。
第一リスクの判定は、コネクタとハーネスとの接続情報を記憶するデータベースから、複数のハーネスの中から特定される対象ハーネスが間接的に繋がっているコネクタの数を特定することにより行われる。
また、第二リスクの特定は、ハーネスの位置情報と危険源による影響範囲情報を記憶するデータベースから、対象ハーネスの位置情報と危険源による影響範囲とを照合し、対象ハーネスが影響範囲を通過するか否かを特定することにより行なわれる。
【0006】
本発明の第一リスクの判定において、特定されたコネクタの数に対応するリスク値が予め定められた値以上の対象ハーネスに束ねられる電線の識別情報を抽出することができる。
また、本発明の第一リスクの判定において、特定されたコネクタの数に対応するリスク値が予め定められた値以上の対象ハーネスの分岐部分であるノードの識別情報を抽出することもできる。
さらに、本発明の第二リスクの判定方法において、2つの対象ハーネスが影響範囲を通過することを示す各々のリスク値を演算処理することで、当該2つの対象ハーネスの第二リスクを算定することができる。
いずれも、故障した場合の影響度を評価する便宜のためである。また、いずれも、以下の判定システムに適用することができる。
【0007】
本発明は、以上説明した配線のリスク判定方法を実行する以下の判定システムを提供する。
この判定システムは、電線の束であるハーネスが複数の端末装置の間に複数設けられコネクタを介して接続されている配線システムにおいて、複数の端末装置につながる電線が同じハーネスに束ねられている第一リスク、及び、ハーネスが同時に故障する第二リスク、を判定する。
このシステムは、コネクタとハーネスとの接続情報、及び、ハーネスの位置情報と危険源による影響範囲情報を記憶するデータベースと、第一リスクの判定及び第二リスクの判定を行う処理部と、を備える。そして処理部は、第一リスクの判定として、複数のハーネスの中から特定される対象ハーネスが指定されると、接続情報に基づいて、対象ハーネスが間接的に繋がっているコネクタの数を特定し、第二リスクの判定として、対象ハーネスの位置情報と影響範囲情報とを照合し、対象ハーネスが影響範囲を通過するか否かを特定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コネクタとハーネスとの接続関係を示す接続情報を用いることで、同束リスクのあるハーネス、及び、同時に故障すると安全性を損なうリスクのあるハーネスを容易に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】配線に必要な冗長数を示す図である。
図2】(a)は同束リスクを説明する図、(b)は同時故障リスクを説明する図である。
図3】ハーネスにより端末装置が接続されたシステムの構成例を示すブロック図である。
図4】本実施形態における評価対象抽出システム10の構成を示す図である。
図5】本実施形態におけるシステムリスク情報を示す図である。
図6】本実施形態におけるデバイスリスク情報を示す図である。
図7図6に示されるデバイスリスク情報に含まれる機器を示す図である。
図8図7に示されるコネクタとそれに接続されるハーネスを対応して示す図である。
図9図8に示されるコネクタに直接又は間接に接続されるハーネスの同束リスク値を列挙する図である。
図10】ハーネスの安全性を判断する第一手法に用いられる、ワイヤハーネスと電線が対応付けられた情報を示す図である。
図11】ハーネスと位置情報(x,y,z)が対応付けられた情報を示す。
図12】危険源に関する情報を示す。
図13】同時故障リスク値の演算結果を示す。
図14】同時故障リスクの演算結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
本実施形態によるハーネスの評価対象抽出システム10は、定性的な解析のための要求事項として、フォールト・トレランス(fault tolerance)の考え方を適用し、電線に必要な冗長数を設定する。例えば、図1に示すように、「致命的な故障事象(Catastrophic Failure)」に繋がる電線は、互いに独立した3系統(3冗長)以上確保することにより、発生確率として許容できるレベルである、極めて稀な発生確率(例えば、10−9相当)を達成しているものとする。同様に、「危険な故障事象(Hazardous Failure)」に繋がる電線は、互いに独立した2系統(2冗長)以上確保することにより、発生確率として許容できるレベルである、極めて少ない発生確率(例えば、10−7相当)を達成しているものとする。なお、必要な系統数(冗長度)は必要に応じて設定されることは言うまでもない。
故障事象には、Catastrophic Failure、Hazardous Failureよりも危険度の低い事象も規定されており、それらは例えば、「Major」、「Minor」などと定義されている。なお、この定義付けは一例である。
【0011】
図1の冗長系は、想定される故障原因から独立性が確保されている必要がある。つまり、3冗長を確保したとしても、各々のルートから分岐した電線が同じハーネスに含まれている(同束)と、当該束が故障(喪失)すると、安全性を保障できなくなるおそれがある。
例えば、図2(a)に示すように、ルートA,ルートB,ルートCからなる3冗長(3系統)の配線が設けられているケースを想定する。そして、ルートAがルートA1及びルートA2に分岐し、ルートBがルートB1及びルートB2に分岐し、ルートCがルートC1、C2及びC3に分岐するとともに、ルートA1とルートC1が同束αに属し、ルートB1とルートC2が同束βに属し、ルートC1、ルートA2及びルートB2が同束γに属するものとする。すなわち、このケースでは、同束γが故障するとルートA,ルートCについての安全性が低くなる。したがって、同束γのような同束のハーネス(配線)を抽出することにより、配線システムが安全性基準を満たすか否かを評価する必要がある。
また、同時に故障してはならない複数の電線が同束とされたハーネスが存在しない場合であっても、想定される危険事象の影響範囲内において、それらのハーネスが互いに近接して物理的に艤装されていると、当該危険事象が発生した場合に、安全性を保障できなくなるおそれがある。
その一例を図2(b)に示すが、ルートA〜ルートCの中で、ルートAとルートBの二つのハーネスが危険事象の影響範囲DAを通っている。したがって、ルートAとルートBの二つが同時に故障すると、安全性を損なうリスクを含んでいる。
そこで、本実施形態は、同束の可能性のあるハーネス(評価対象A)、及び、危険事象の発生時において同時に故障すると安全性を損なうリスクのあるハーネス(評価対象B)を抽出する評価対象抽出システム10を提供するものである。
【0012】
ここで、ハーネスは、コネクタと電線束(バンドル)で構成されるアセンブリである。各電線はコネクタのピン(又は端子)とそれぞれ電気的に接続されている。また、ハーネスは、クランプ等で固定することにより、機体(航空機の場合)に艤装される。
コネクタは、ハーネスと機器(端末装置、中継装置)を接続するもの、または、ハーネスとハーネスを接続するものに分類することができる。
バンドルは、以下の2種類に分類される。なお、ハーネス、コネクタ、バンドル、バンドルセクション及びノードは、識別情報が付与されることで各々が識別される。
バンドルセクション:同一の電線組合せで構成される、バンドルにおける最小単位。
ノード:バンドルの分岐部分であり、バンドルセクションの両方又は何れか一方と繋がる。
【0013】
図3に配線システムの一例を示す。図3の例は、4台の端末装置110〜140を備えており、端末装置110〜140の間には3つのハーネス210〜230が介在している。各端末装置110〜140は、ハーネス210〜230のコネクタ211〜218と電気的に接続されるコネクタ111〜141を備えている。
ハーネス210は、端末装置1,2と接続されるコネクタ211,212と、ハーネス220,230との中継を担うコネクタ213,214を備えている。コネクタ211〜214の間には電線の束であるバンドル225が介在している。また、コネクタ213,214は、各々、コネクタ215,216に接続される。
バンドル225は、5つのバンドルセクション225A〜225Eを備えている。
バンドルセクション225Aは、コネクタ211に接続される電線W1,W2が束ねられており、コネクタ211からノードN1までを占める。なお、ここでは理解を容易にするために2本の電線W1,W2のみを示しているが、実際のハーネスには2本を超える多数本の電線が束ねられることがあることは言うまでもない。以下も同様である。
バンドルセクション225Aは、ノードN1において、バンドルセクション225Bとバンドルセクション225Cに分岐される。バンドルセクション225Aの電線W1はバンドルセクション225Bに連なり、バンドルセクション225Aの電線W2はバンドルセクション225Cに連なる。バンドルセクション225Bは、コネクタ213を介してハーネス230(コネクタ215)に接続される。
バンドルセクション225Eは、コネクタ212に接続される電線W3,W4が束ねられており、コネクタ212からノードN2までを占める。ノードN2において、前述したバンドルセクション225Cとバンドルセクション225Dに分岐される。バンドルセクション225Eの電線W3,W4は、バンドルセクション225Dに連なる。このバンドルセクション225Dには、バンドルセクション225Cの電線W2も連なる。バンドルセクション225Dは、コネクタ214を介してハーネス220(コネクタ216)に接続される。
ハーネス220,230については、ハーネス210の説明を参照すればその構成を理解できるため、符号を付して詳細な説明を省略する。
図3は、ハーネスを備える配線システムの構成を理解するために用いたものであり、大規模なシステムにおいては、図3に例示した構成が多数組み合わされていることはいうまでもない。
【0014】
図4に示すように、本実施形態に係る評価対象抽出システム10は、入力部1と、処理部2と、第一データベース3と、第二データベース4と、表示部5と、を備えている。評価対象抽出システム10は、パーソナルコンピュータ、その他のコンピュータ装置により構成することができる。
また、評価対象抽出システム10は、配線描画システム20と接続されている。配線描画システム20もまた、コンピュータ装置により構成される。
【0015】
[評価対象抽出システム10の概要]
入力部1は、評価対象A(同束リスク)及び評価対象B(同時故障リスク)を抽出するために必要な指示を入力する部位である。コンピュータの入力装置としてのキーボードにより入力部1を構成できる。
処理部2は、入力部1からの指示に従って第一データベース3、第二データベース4に記憶された情報を読み出し、評価対象A,Bに関する情報を抽出するために必要な処理を行うとともに、抽出した情報を表示部5に表示させる。
第一データベース3は、安全性解析の対象を構成する複数のシステム、デバイス、機器及びハーネス、コネクタ、バンドル及び電線(以下、システム構成要素と総称することがある)の各々が有するリスク情報を当該システムと対応付けて記憶している。また、第一データベース3は、上記のリスク情報の他に、解析対象において想定される危険源と、当該危険源による影響範囲とを対応付けて記憶している。これらのリスク情報は、予め各システム及び危険事象について安全解析を行なって取得されているものである。
第二データベース4は、配線描画システム20から上述したシステム構成要素に関する配線接続情報、結線情報を取得し、記憶する。配線接続情報及び結線情報の具体的な内容については後述する。
表示部5は、処理部2により処理された結果を表示する。コンピュータの表示装置としてのディスプレイにより表示部5を構成できる。
【0016】
[配線描画システム20の概要]
配線描画システム20は、CAD(Computer Aided Design)21を備える。CAD21は、配線設計作業にともなうシステム構成要素に関する接続・位置情報を取得して、配線接続図(Wire Harness Diagrams、以下単にWHDということがある)、及び、結線図(Wiring Diagrams、以下単にWDということがある)を作成する。ここで、WHDはコネクタとバンドル(バンドルセクション、ノードを含む)との接続関係が図示されたものであり、WDはハーネスに含まれる電線とコネクタとの接続関係が図示されたものである。
CAD21は、取得した接続・位置情報を評価対象抽出システム10の第二データベース4に提供する。第二データベース4は、CAD21から提供される接続・位置情報を記憶する。
ここで、WHDに基づく接続・位置情報(配線情報)は、ハーネスの識別情報(Harness ID)と、バンドルセクションの識別情報(Bundle ID)と、ノードの識別情報(Node ID)と、位置情報(3次元位置x,y,z)とが対応付けられている。また、WDに基づく接続・位置情報(結線情報)は、ハーネスの識別情報(Harness ID)と、電線の識別情報(Wire ID)と、コネクタ及びコネクタピンの識別情報(Cone. ID/Pin ID)と、位置情報(3次元位置x,y,z)とが対応付けられている。なお、ここでは配線情報と結線情報を区別して説明したが、両者ともにハーネスの識別情報(Harness ID)を含んでいるので、両者を一元的に取り扱うこともできる。
【0017】
評価対象抽出システム10により評価対象を抽出する手順を図5図14を参照して説明する。
なお、本実施形態は航空機を対象とする例を示すが、原子力発電など安全性が重要となる他の大規模システムにも適用できることは言うまでもない。また、以下では、同束の可能性のあるハーネスを抽出する手法(評価対象Aの抽出法)と、危険事象の発生時において同時に故障すると安全性を損なうリスクのあるハーネスを抽出する手法(評価対象Bの抽出法)とを個別に説明するが、両者を一緒に抽出する評価対象抽出システム10とすることもできる。
【0018】
<評価対象Aの抽出法>
[システムリスク情報抽出]
はじめに、「システムリスク情報」を抽出するように入力部1より指示する。処理部2は、入力部1からの指示に基づいて、第一データベース3からシステムリスク情報を読み出し、それをテーブル形式のリストとして表示部5に表示させる。図5は「システムリスク情報」の一例を示している。
図5に示すように、「システムリスク情報」は、「No.」、「SYS ID」、「System name」、「項目数」、「LEVEL A」及び「LEVEL B」の各項目から構成される。
「No.」は、システムリスク情報に掲載されている各システムを識別するシリアル番号である。この例では、No.1からNo.24まで、合わせて24個のシステムが掲載されている。
「SYS ID」は、各システムを他のシステムと区別するための識別記号であり、図5の例ではSYS21からSYS70までの間で24個の識別記号が付与されている。
「System name」は、航空機を構成する各システムの名称を示している。図5の例では、No.1が「ENVIRONMENTAL CONTROL」であり、No.7が「FLIGHT CONTROLS」であり、No.21が「INERT GAS SYSTEM」であることが示されている。なお、それぞれ順に、「SYS21」、「SYS27」、「SYS47」という「SYS ID」が対応している。
なお、図5に示す例の場合、入力部1からの指示としては、SYS21からSYS70までを統括する上位の識別情報を入力することもできるし、SYS21からSYS70までの個別の識別情報を入力することもできる。
【0019】
「項目数」は、各システムに存在している危険レベル毎の危険状態の数の合計(システムリスク)を示している。
ここでいう危険レベルとは、前述した「Catastrophic Failure」、「Hazardous Failure」、「Major」、「Minor」であり、例えば、「Catastrophic Failure」が13、「Hazardous Failure」が12、「Major」が13、「Minor」が10だとすれば、「項目数」は48ということになる。
「LEVEL A」、及び、「LEVEL B」は、各々、全ての危険事象の中で、「Catastrophic Failure」と定義される危険状態の数、及び、「Hazardous Failure」と定義される危険状態の数をそれぞれ示している。例えば、No.7の「SYS27」の「FLIGHT CONTROLS」に関するシステムは、「Catastrophic Failure」と定義される危険状態の数が13、「Hazardous Failure」と定義される危険状態の数が12あることを示している。
【0020】
[デバイスリスク情報抽出]
図6は、上述した「FLIGHT CONTROLS」システムが有する13個の「Catastrophic Failure」事象の内訳を示す。この内訳は、「FLIGHT CONTROLS」システムを構成する各装置(デバイス)の故障レベル(デバイスリスク情報)を示しており、「Device ID」、「Device name」及び「LEVEL」の3つの項目から構成される。
「Device ID」は、各装置を他の装置と区別するための識別記号であり、図6の例ではSYS270101からSYS70までの13個の識別記号が記載されている。
「Device name」は、図5の「System name」に列挙されている各システムを構成する装置の名称(略称)を示している。図6の例では、「Device ID」がSYS270201の装置名称が「ACE」であり、また、「Device ID」がSYS270301の装置名称が「SREU」であることなどが示されている。
「LEVEL」は各装置の故障レベルを示しており、この例は全ての装置が「Catastrophic Failure」事象に該当するため、全ての「故障レベル」の欄に「A」が示されているが、「Hazardous Failure」事象を対象とする場合には、「故障レベル」の欄に「B」が示されることになる。
【0021】
以上のデバイスリスク情報も第一データベース3に記憶されている。このデバイスリスク情報は、図5に示したシステムリスク情報に関連付けて記憶されている。例えば、図5に列挙されるシステムリスク情報の中から、SYS IDの「No.7」を選択することにより、図6に示されるデバイスリスク情報を表示部5に表示させることができる。
また、以上では「FLIGHT CONTROLS」で特定されるシステムについて例示したが、図5に列挙される各システムについても同様にしてそれを構成する装置についてのデバイスリスク情報を読み出し、表示部5に表示させることができる。
【0022】
[機器抽出]
次に、図7は、図6の「Device name」に示された各装置を構成する機器(「Component」)を抽出し、それぞれに「Comp. ID」を付して表示したものである。図7には、図6の各装置(デバイス)のうち「ACE」、「SREU」を構成する機器が例示されている。図7の例では、「ACE」が2台の機器(Actuator Control Electronics1,Actuator Control Electronics2)から構成されており、「SREU」は1台の機器(Spoiler Remote Electronics Unit)から構成されている。
図7に示す機器に関する情報も第一データベース3に記憶されており、かつ、図6に示したデバイスリスク情報の「Device ID」に対応付けて記憶されている。図6に列挙されるデバイスリスク情報の中から、Device IDの「SYS270201」及び「SYS270301」を選択することにより、図7に示される機器情報を表示部5に表示させることができる。
【0023】
[コネクタ−ハーネス情報の抽出]
次に、図8は、図7において特定された上記3台の機器が備える機器コネクタ(以下、コネクタ)と、当該コネクタに接続されるハーネスとの関係(コネクタ−ハーネス情報)を抽出したものである。
図8に示すように、各コネクタには、「Cone. ID」として、各々を区別する識別記号(P27101,P27103,P27100…)が付与されている。すなわち、図8では、3台の機器が合わせて5つのコネクタを備えていることを示している。つまり、「Actuator control Electronics1」及び「Actuator control Electronics2」が合わせて4つのコネクタ(P27101, P27103, P27100, P27102)を備え、「Spoiler Remote Electronics Unit」が1つのコネクタ(P27088)を備えている。
また、各コネクタ(「Cone. ID」)に接続される電線の束であるハーネスの識別記号が「Harness ID」として付与されている。すなわち、P27102とP27088で特定されるコネクタの「Harness ID」が同じであり、同一のハーネスが2つのコネクタに跨って接続されていることを示している。
なお、図8に示すコネクタ−ハーネス情報は第二データベース4に記憶されており、図7に列挙される機器情報の中から、Comp. IDとして「270201」及び「270301」を入力部1を介して選択することにより、図8に示されるコネクタ−ハーネス情報を表示部5に表示させることができる。
【0024】
[評価対象の抽出]
次に、得られたコネクタ−ハーネス関連情報に基づいて、評価対象を抽出する。
抽出は、図8に示されるコネクタとハーネスの対応情報の中の基本事象をキーワードにして、上述した結線情報を検索することで行われる。結線情報は、前述したように、第二データベース4に記憶されている。処理部2は、評価対象の抽出を行なう際に、第二データベース4から結線情報を読み込む。
【0025】
図9に検索結果を示す。
図9は、処理部2により処理された結果として表示部5に表示される情報であり、図8に示される5台のコネクタ(基本事象)が合計で43本のハーネスを経由して端末装置に繋がっていることを示している。
なお、図9の結果を得る前の段階として、全ての故障事象(Failure Condition)に対し、評価が必要なハーネスをそれぞれ抽出したものを表示させることもできる。この表示は、例えば、ハーネスと故障事象を行・列(マトリックス状)に列挙し、その交点となるマスに評価対象A又は評価対象Bが記述される。
検索の手順は、例えば以下のように行なうことができる。
手順1:入力部1から、同時に故障してはならない組み合わせとなるCone. IDを全て入力。
手順2:処理部2が、結線情報を基に、入力したCone. IDに属するコネクタPIN情報を全て取得。
手順3:処理部2が、結線情報を基に、上記PINに電気的に繋がる電線を端末装置まで順次検索し、それら電線が束ねられているハーネスの識別記号(Harness ID)を全て取得する。
手順4:全てのコネクタに対して、手順2〜手順3を実施。
手順5:手順4において全てのコネクタについての検索が完了したら、図9の要領で集約、分析。
なお、同時に故障してはならない組み合わせとなるCone. IDは、リスク情報の一つとして、第一データベース3に記憶されている。
【0026】
その他の図9の各欄に掲載される情報の内容は以下の通りである。
「Harness ID」の欄には、検索により抽出されたハーネスの識別記号が記載されている。
「コネクタNo.」の欄には、図8に示される「No.」に対応する番号が記載されている。例えば、図9の「No.13」の「コネクタNo.」は「4」とされているが、この4は図8の「No.」の「4」に対応しており、P27102で特定されるコネクタであることを示している。同様に、図9の「No.17」の「コネクタNo.」は「2」とされているが、この「2」は図8の「No.」の「2」に対応しており、P27103で特定されるコネクタであることを示している。図9の「コネクタNo.」が空欄のものは、図8に示される5つのコネクタと間接的に繋がっているハーネスであることを示している。例えば、図8に示されるコネクタに繋がっているハーネス(第一世代)が、当該コネクタと対になる相手コネクタに繋がり、この相手コネクタが端末装置に繋がっているものとする。そして、当該端末装置にさらに相手コネクタが接続され、そこからハーネス(第二世代)が引き出されているものとする。そうすると、図9の「コネクタNo.」に数値(1〜5)が記載されているハーネスは第一世代ハーネスに該当し、「コネクタNo.」が空欄のハーネスは、第二世代あるいは第三世代以降のハーネスであることを示している。
【0027】
次に、「コネクタ組合せ」の欄は、直接又は間接かを問わず、当該ハーネスが繋がっているコネクタを示している。「コネクタ組合せ」の欄は「1」、「2」、「3」、「4」及び「5」の五つの欄に区分されているが、このいずれかの欄に数値(1〜5)が付されていれば、当該数値に対応するコネクタに当該ハーネスが繋がっていることを示している。例えば、図9の「No.1」(最上行)は、「コネクタ組合せ」の欄「1」、「2」、「3」、「4」及び「5」の全ての欄に数値が付されている。これは、「9111503」(Harness ID)で特定されるハーネスが、直接又は間接かを問わず、5つのコネクタに繋がっていることを示している。また、図9の「No.13」の「9121516」(Harness ID)で特定されるハーネスは、「コネクタ組合せ」の欄「1」、「2」及び「3」の欄に数値が付されている。これは、「9121516」(Harness ID)で特定されるハーネスは、直接又は間接かを問わず、3つのコネクタ(P27101,P27103,P27103)に繋がっていることを示している。
【0028】
次に、「同束リスク値」の欄は、当該ハーネスについて、「コネクタ組合せ」の欄で数値が付された欄の数の合計を示している。例えば、図9の「No.1」は、「コネクタ組合せ」の5つの欄全てに数値が付されているので、「同束リスク値」は5となる。また、図9の「No.13」は、「コネクタ組合せ」の3つの欄に数値が付されているので、「同束リスク値」は3となる。なお、「同束リスク値」は、「コネクタNo.」の欄に記載されるコネクタの分が加算されていない。つまり、「同束リスク値」は、間接的に繋がっているコネクタの数を示している。ただし、「コネクタNo.」の欄に記載される直接繋がっているコネクタを加算してもよいことは言うまでもない。
【0029】
「同束リスク値」が1のハーネスは、直接又は間接かを問わず、他のハーネスが接続されるコネクタに接続されることがなく独立性が担保されている。つまり、図9の「No.」が31から43までの13本のハーネスは、他のハーネスと「同束」になることがないので、同束リスクの観点での評価対象から外すことができるが、「同束リスク値」が2以上のハーネスは、直接又は間接かを問わず、他のハーネスが接続されるコネクタに接続される。つまり、図9の「No.」が1から30までの30本のハーネスは、各々、他のハーネスと「同束」になる可能性があるため、同束リスクの観点での評価対象Aとして抽出される。ただし、「同束リスク値」が1のハーネスであっても、評価対象Bとなり得る。
【0030】
評価対象Aの抽出としては、評価対象抽出システム10における処理手順は以上までで終了し、以降は、評価対象Aとして抽出されたハーネスについて、各システムの設計者又はその他の有識者が、それまでにCAD21により作成されたWHD及びWDを確認することにより、冗長系が担保されることで安全性が確保されているか否かを確認する。冗長系が担保されていれば配線をそのままにするが、そうでなければ該当部分の配線構造を変更することになる。
【0031】
[安全性判断]
次に、評価対象Aとして抽出されたハーネスの安全性を判断する手法を説明する。この手順には、例えば、以下の第1手法と第2手法がある。以下、順に説明するが、いずれか一方又は双方を採用することができる。なお、第一手法、第二手法ともに、後述する評価対象Bの抽出結果についても適用することができる。また、第一手法、第二手法は一例であり、他の手法を採用することを妨げない。
【0032】
(1)第一手法
第一手法の例について、図10を参照して説明する。
図10は、図9に示された各々のハーネスに含まれる電線を抽出した結果を示している。この抽出は、入力手段1からハーネスの識別情報を入力することで、処理部2が第二データベース4から読み出し、リスト化する。
図10には、ハーネスの識別情報(Harness ID)と、当該ハーネスに含まれる電線の識別情報(Wire ID)と、当該電線の両端に接続される一対のコネクタの識別情報(Cone. ID ITEM1,ITEM2)と、が対応付けて表示されている。例えば、図10において、Harness IDが9111503のハーネスには、Wire ID がCK0010で特定される電線が束ねられており、その電線の両端にはCone. ID のうちITEM1がP27101で特定されるコネクタとITEM2 P27101で特定されるコネクタが接続されていることが示されている。
以上のようにして抽出された電線の各々について、有識者がWD、WHDを参照することにより、同時に故障した場合の影響度を評価する。
【0033】
(2)第二手法
第二手法は、ノード情報及びバンドルセクション情報を利用して影響度を評価する。なお、ノード情報、バンドルセクション情報は、入力手段1からコネクタの識別情報を入力することで、処理部2が第二データベース4から読み出すことができる。
配線システムにおいて、以下のケース1〜3を想定する。
ケース1:コネクタA(Cone. ID=P76100), ノードA(Node ID=P3C061)
コネクタB(Cone. ID=P27101), ノードB(Node ID=J3C055)
ケース2:コネクタC(Cone. ID=P27102), ノードC(Node ID=P3C073)
コネクタD(Cone. ID=P24092B), ノードD(Node ID=P24092B)
ケース3:コネクタB(Cone. ID=P27101), ノードB(Node ID=J3C055)
コネクタE(Cone. ID= P27103), ノードE(Node ID= J3C036)
コネクタAとコネクタBの間(ケース1)に存在するノード、コネクタCとコネクタDの間(ケース2)に存在するノードは各々以下の通りとする。
ケース1(Node ID):N3CL 002,N3CL 001,N3CL 003,N3CL 007
ケース2(Node ID):N3CL 002,N3CL 001,N3CL 003,N3CL 004,N3CL 006
また、コネクタCとコネクタDの間(ケース2)に存在するノード(再掲)、コネクタBとコネクタEの間(ケース3)に存在するノードは各々以下の通りである。
ケース2(Node ID):N3CL 002,N3CL 001,N3CL 003,N3CL 004,N3CL 006
ケース3(Node ID):N3CL 007,N3CL 008
【0034】
以上を前提にして、ケース1とケース2を照合することにより共通するノードが存在することが判明する一方、ケース2とケース3を照合することにより共通するノードが存在しないことが判明する。そして、後者(共通するノードなし)の場合には、当該ケース間には同束がないものと判断できる。前者の場合には、同束の可能性があるものと判断できる。そこで、共通するノード間に存在するバンドル(バンドルセクション)を特定する。上記例の場合、特定されるバンドルは以下の二つとする。
特定されるバンドル(Bundle ID):BS3CL_002 ,BS3CL_005
次いで、特定されたバンドルに束ねられている全ての電線を抽出し、各電線について、同時に故障した場合の影響度を評価することになる。電線の抽出、及び、影響度の評価は、第一手法と同様にすればよい。
【0035】
<評価対象Bの抽出法>
次に、危険事象の発生時において同時に故障すると安全性を損なうリスクのあるハーネスを抽出する手法について説明する。
評価対象Bとなるハーネスを特定して入力部1にその識別記号(Harness ID)を入力する。ここでは、3冗長(3系統)をなす3つのハーネスA〜C(Harness ID=9121511,9121510,9121515)を例にする。処理部2は、入力部1を介して入力されたHarness IDの位置情報を読み出すために、第二データベース4を参照する。読み出された位置情報の例を図11に示すが、Harness IDと位置情報(x,y,z)が対応付けられている。なお、ハーネスA〜Cはシステム内で引き回されているので、一つのハーネスに対して引き回されている領域を特定する複数の位置情報が存在することになるが、図11には一つの位置情報のみを代表的に示している。
また、処理部2は、第一データベース3から、危険源情報を読み出す。読み出された危険源情報の例を図12に示すが、危険源の識別情報(Haz. ID)、危険源の名称(Haz. name)、発生部位(Incid. portion)、影響範囲(Inf. area)が対応付けられている。なお、危険源とは、それが故障することにより、当該影響範囲を通る電線に故障を生じさせるおそれがある機器、その他をいう。
【0036】
処理部2は、読み出されたハーネスの位置情報と危険源情報の影響範囲とを照合し、位置情報が影響範囲内にあるハーネスは同時故障リスク値=1と算定し、また、位置情報が影響範囲外にあるハーネスは同時故障リスク値=0と算定する。例えば、影響範囲が(x1〜5,y1〜5,z1〜5)とすれば、位置情報が(x,y,z)のハーネスAには同時故障リスク値=1が付与され、位置情報が(x,y,z)のハーネスCには同時故障リスク値=0が付与される。
以上のリスク値の演算結果は、テーブル形式のリストとして表示部5に表示される。その一例を図13に示すが、この例では、3つのハーネスA〜C(Harness ID=9121511,9121510,9121515)のうち、2つのハーネスA,Bが同時故障リスク値=1、つまり同時故障するとシステムの安全性を損なうリスクがあるが、残りのハーネスCは同時故障するとシステムの安全性を損なうリスクがないことを示している。
【0037】
次に、処理部2は、得られた同時故障リスク値を用いて、同時故障リスク判断の処理を行うことができる。この処理は、3つのハーネスA〜Cの中の2つのハーネスの同時故障リスク値を掛け合わせる演算により行なわれる。このリスク判断の演算結果は、テーブル形式のリストとして表示部5に表示される。その一例を図14に示すが、この例では、同時故障リスク値がともに1のハーネスAとハーネスBの組み合わせについては、同時故障リスク=1が算定され、その他のハーネスAとハーネスCの組み合わせ、ハーネスBとハーネスCの組み合わせについては、同時故障リスク=0が算定されている。
同時故障リスク=1が算定されたハーネスAとハーネスBの組み合わせは、同時に故障するリスクがあるものと認定することができ、他のハーネスAとハーネスCの組み合わせ、ハーネスBとハーネスCの組み合わせについては、同時に故障するリスクがないものと認定することができる。この認定結果に基づいて、ハーネスAとハーネスBのいずれか一方については、艤装位置を変える設計変更をすると判断することができる。または、同時に故障するリスクがあるか否かについてさらに詳細な評価を行う、といった判断をすることもできる。
これらの判断は、図13に示した同時故障リスク値を参照して行なうこともできる。つまり、2つのハーネスA,Bがともに同時故障リスク値=1であるので、ハーネスAとハーネスBのいずれか一方について、艤装位置を変えるというように判断することもできる。
【0038】
以上説明したように、コネクタとコネクタに接続されるハーネス(電線)の関係や危険源にかかる情報をデータベース化しておけば、航空機の製造に用いられる大規模の配線システムであった場合でも、必要な情報を検索することにより、第一世代〜第n世代のハーネスの接続先を含む配線状態などを抽出することができるので、「同束リスク値」及び「同時故障リスク値」を容易に求めることができる。
【0039】
なお、上記実施形態の説明に用いた配線構造はあくまで一例であり、他の配線構造についても本発明を適用できることは言うまでもない。
また、配線構造が適用される装置、機器類に制限はなく、端末装置及び中継装置が電線により接続された種々の装置、機器に本発明を適用することができる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 入力部
2 処理部
3 第一データベース
4 第二データベース
5 表示部
10 評価対象抽出システム
20 配線描画システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14