特許第5984620号(P5984620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5984620炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984620
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/46 20060101AFI20160823BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20160823BHJP
   C01B 3/40 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B01J23/46 M
   B01J23/63 M
   C01B3/40
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-231064(P2012-231064)
(22)【出願日】2012年10月18日
(65)【公開番号】特開2013-136047(P2013-136047A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2015年5月27日
(31)【優先権主張番号】特願2011-260683(P2011-260683)
(32)【優先日】2011年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】高見 晋
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩文
(72)【発明者】
【氏名】平野 竹徳
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−262746(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/001438(WO,A1)
【文献】 特開2004−230312(JP,A)
【文献】 特表2007−532305(JP,A)
【文献】 特開2011−104565(JP,A)
【文献】 特開昭50−005294(JP,A)
【文献】 特表2007−516825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C01B 3/40
CA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金とイリジウムとを、ともに無機酸化物担体に担持させてなる炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒であって、
前記無機酸化物担体に対して、
前記白金が0.5質量%以上2質量%以下担持され、前記イリジウムが0.5質量%以上2質量%以下担持された炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒。
【請求項2】
前記白金と前記イリジウムとの質量比が1対1である請求項1に記載の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒。
【請求項3】
前記無機酸化物担体がαアルミナ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる一種以上を主成分とするものである請求項1または2に記載の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒。
【請求項4】
前記無機酸化物担体が、ランタノイド金属酸化物成分を含有してなる請求項1〜のいずれか1項に記載の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒。
【請求項5】
白金塩とイリジウム塩とを無機酸化物担体に含浸させた後、ヒドラジンで液相還元処理することにより、白金とイリジウムとを、無機酸化物担体に担持させて請求項1〜のいずれか一項に記載の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒を製造する炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒の製造方法。
【請求項6】
白金塩とイリジウム塩とを無機酸化物担体に含浸させた後、乾燥、焼成することにより、白金とイリジウムとを、無機酸化物担体に担持させて請求項1〜のいずれか一項に記載の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒を製造する炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒の製造方法。
【請求項7】
前記無機酸化物担体は、無機酸化物基材に、ランタノイド金属塩を含浸させて得られる請求項またはに記載の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒、特に硫黄を含有する炭化水素化合物類を水蒸気改質反応によって一酸化炭素および水素を含む混合ガスに変換するのに好適に用いられる硫黄被毒耐性に優れた水蒸気改質触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素製造プロセスにおいて最も重要な位置を占めているのが炭化水素化合物類と水蒸気を反応させ、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンを得るいわゆる炭化水素化合物類の水蒸気改質技術である。ここで用いられる触媒として、ルテニウム、白金、イリジウム、パラジウム、ロジウム等の貴金属をアルミナ等の無機酸化物に担持した水蒸気改質触媒が知られている。しかし水蒸気改質触媒は硫黄によって活性が著しく低下することはよく知られている。
【0003】
硫黄による触媒劣化を防ぐことを目的として、原料を脱硫精製して硫黄濃度を極限にまで低下させることも考えられるが、脱硫精製コストに対して硫黄濃度の低下に限界があり、別途対策が望まれている。
【0004】
そこで、前記触媒自体を耐硫黄性の高いものに改良することが試みられている。このような試みとして、特許文献1には、「実質的にランタンにて安定化されたアルミナ基体材料またはマグネシウムを助触媒としランタンにて安定化されたアルミナ基体材料上に担持されたプラチナ、パラジウム、もしくはイリジウムよりなる耐イオウ性を有する高活性蒸気改質用触媒」が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、「単斜晶ジルコニアおよびアルカリ土類金属ヘキサアルミネートの少なくとも1つの触媒担体上に、たとえば、イリジウム、白金およびパラジウムの少なくとも1種の活性金属を含む触媒」が耐硫黄性を示すことが開示されている。また、先行技術文献3には、「ルテニウムと、ルテニウム以外の周期律表第8族金属より選ばれる少なくとも1種の金属とを、担体に担持させてなる硫黄を含有する炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒」が記載されている。また、先行技術文献4には、「(i)ロジウム含有物質またはイリジウム含有物質、(ii)ニッケル含有物質、(iii)周期律表第6B族、7B族および第8族金属から選ばれた少なくとも一種の金属を含む物質、および(iv)周期律表第Ia族金属またはIIa族金属を含む物質を、ジルコニア系またはアルミナ系担体に担持させた炭化水素の改質による水素製造用触媒、および、さらに、ランタノイド族金属から選ばれた物質を添加した水素製造用触媒。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−262746号公報
【特許文献2】特表2007−532305号公報
【特許文献3】特開2004−082033号公報
【特許文献4】特開2007−054721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの文献に開示されている技術によっても、充分な耐硫黄性が実現されているとはいいがたく、更なる改良が望まれている。さらにいえば、これら文献には、炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒として白金とイリジウムとを具体的に組み合わせて用いた例は示されておらず、特に前記特許文献1では、イリジウムの耐硫黄性に言及し、他の金属と複合しても利益は得られないとされている。
【0008】
このような状況を受け、本発明者らが鋭意研究したところ、特許文献1の記載にもかかわらず、白金およびイリジウムをともに無機酸化物担体に含浸担持させた場合、イリジウム触媒の高い水蒸気改質触媒としての性能を維持したまま、白金による高い耐硫黄性が発揮されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の目的は、耐硫黄性が高い炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒およびその製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
記目的を達成するための本発明の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒の特徴構成は、 白金とイリジウムとを、ともに無機酸化物担体に担持させてなる炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒であって、
前記無機酸化物担体に対して、
前記白金が0.5質量%以上2質量%以下担持され、前記イリジウムが0.5質量%以上2質量%以下担持された点にある。
【0011】
発明者らの知見によると、前記特許文献1に従えば、本来耐硫黄性が発揮されないとされていた、白金およびイリジウムをともに無機酸化物担体に担持させた触媒が、前記特許文献1の記載に反して、高い耐硫黄性と、高い水蒸気改質活性(メタン転化率)とを両立しうることが後述の実施例より明らかになった。
【0012】
理論に拘泥されるものではないが、これは、以下のように説明することができる。
【0013】
白金とイリジウムは周期律表では隣接する金属であり、そのため非常に安定した合金を作るものと推察される。一方、白金は硫黄と化合物を作り難い性質を持ち、イリジウムは比較的高い水蒸気改質活性を持っている。したがって特に、白金とイリジウムを無機酸化物に担持した水蒸気改質触媒は、白金とイリジウムの合金もしくは複合体中で、それぞれの金属の好ましい性質が安定して得られるために、比較的高い水蒸気改質活性を保った上で硫黄に対する高い耐久性を示すものと考えられる。
また、前記無機酸化物担体に対して担持させる白金は、すくなすぎると効果が薄く、多すぎると担持量対効果が飽和して費用的につりあわなくなると考えられる。本発明においては、0.5質量%以上で充分な高いメタン転化率と高い耐硫黄性とを兼ね備えることが見出されており、経済的に通常許容されうる上限濃度である2質量%としても高いメタン転化率と高い耐硫黄性が維持されていることが確認されていることから0.5質量%以上2質量%以下とする。
また、前記無機酸化物担体に対して担持させるイリジウムについても、すくなすぎると効果が薄く、多すぎると担持量対効果が飽和して費用的につりあわなくなると考えられる。本発明においては、0.5質量%以上で充分な高いメタン転化率と高い耐硫黄性とを兼ね備えることが見出されており、経済的に通常許容されうる上限濃度である2質量%としても高いメタン転化率と高い耐硫黄性が維持されていることが確認されていることから0.5質量%以上2質量%以下とする。
【0014】
また、前記白金と前記イリジウムとの質量比が1対1であるとよい。
【0015】
前記無機酸化物担体としては、αアルミナ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる一種以上を主成分とするものであってもよい。
【0016】
前記無機酸化物担体としては、αアルミナ、γアルミナ等のアルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、およびそれらの混合物等から選ぶことができるが、中でも、αアルミナ、ジルコニアおよびチタニアは、耐熱性が高く、加熱状態で長期使用が想定される本発明の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒の使用条件に特に適しているといえる。
また、後述の実施例より、ジルコニアを用いた炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒は、より高い活性を持つことが見出されており、特に好ましいと考えられる。
【0021】
た、前記無機酸化物担体に、ランタノイド金属酸化物成分を含有させておくことができる。
【0022】
た、本発明者等の知見によると、前記無機酸化物担体は、ランタノイド金属酸化物成分を含有する場合に特に高い活性を発揮しうることが後述の実施例に示されている。
【0023】
理論に拘泥されるものではないが、これは、以下のように説明することができる。
【0024】
ランタノイド系元素は、無機酸化物担体と活性金属(白金およびイリジウム)のいずれにも高い親和性を示すことから、活性金属の無機酸化物担体に対する分散性を高めるとともに、前記活性金属よりも硫黄に対する吸着性が高いことから、活性金属への硫黄の吸着を阻害するのに寄与すると考えられる。
【0025】
そのため、前記無機酸化物担体に、ランタノイド金属酸化物成分を含有させておくことによって、高いメタン転化率と高い耐硫黄性を両立させることができる。
【0026】
た、上記炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒を製造する炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒の製造方法の特徴構成は、
白金塩とイリジウム塩とを無機酸化物担体に含浸させた後、ヒドラジンで液相還元処理することにより、白金とイリジウムとを、無機酸化物担体に担持させる点にある。
【0027】
金とイリジウムとを、ともに無機酸化物担体に担持させる場合に、種々公知の方法で担持させることができるが、製造工数、費用の点から含浸法が好ましく、汎用されている。また、含浸法における後処理により、無機酸化物単体上に担持された材料は、熱分解、ヒドラジン還元等により、金属状態の白金とイリジウムとに変換される。本願において、白金とイリジウムとは、担持させる必要があるため、後処理は還元雰囲気で行うべきであること、生成した微粒子が凝集、成長せず微細な状態のままで分散することが好ましい点から、ヒドラジン還元を採用することが好ましい。
【0028】
前記含浸法とは、基材に対して担持すべき材料の水溶液を含浸させ、乾燥、必要に応じて焼成することにより、その基材に担持すべき材料を担持するものである。この含浸法によると、基材として用いる無機酸化物は、含浸前後で変化しないが、担持すべき材料は、水溶液の状態と担持された状態で性状が異なることになる。本発明の場合白金、イリジウムは、塩の状態で含浸され、金属の状態で担持される必要がある。貴金属塩の場合、水溶液状態では安定に存在するものの、担体表面では、熱分解して金属微粒子となることが知られている。
【0029】
しかし、担体表面における反応は、温度、濃度等の担持条件によって異なり、上述の含浸法を行った場合、担持される貴金属が、一部、酸化物や、塩の形態で担持される場合がある。また、水溶液状態から、水分が揮発して微粒子状態に変移する際に、凝集して粒子が大きくなり、単位金属量あたりの表面積が小さくなることもある。すると、活性金属(白金およびイリジウム)の触媒活性が低下するおそれが生じることになる。
【0030】
この点、白金塩とイリジウム塩とを無機酸化物担体に含浸させた後、ヒドラジンで液相還元処理すると、液相還元により白金塩とイリジウム塩とが金属の白金とイリジウムとに変換されるため、凝集するまでもなく素早く微粒子化して前記無機酸化物担体に分散担持される。そのため、より微細な白金およびイリジウムが前記無機酸化物担体に高分散で担持されることになり、きわめて活性の高い状態で、白金とイリジウムとを担持することができ、活性の高い炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒とすることができる。
【0031】
た、白金塩とイリジウム塩とを無機酸化物担体に含浸させた後、乾燥、焼成することにより、白金とイリジウムとを、無機酸化物担体に担持させることによっても、炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒を製造することができる。
【0032】
記製造方法によると、比較的簡便に各金属成分を無機酸化物担体に担持させることができ、効率よく水蒸気改質触媒を製造することができる。
【0033】
お、前記無機酸化物担体は、無機酸化物基材に、ランタノイド金属塩を含浸させた後、乾燥して得ることができる。
【0034】
た、前記無機酸化物担体に、ランタノイド金属酸化物成分を含有させる場合、前記無機酸化物担体自体がランタノイド金属酸化物成分を含有するものとすることもできるが、先に述べた、炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒の担体の基材として活性の高いαアルミナ、ジルコニア等を無機酸化物担体の基材として選択する場合には、その無機酸化物基材に対して、ランタノイド金属塩を含浸法により含浸させて容易にランタノイド金属酸化物成分を含有する無機酸化物担体を得ることができる。
【発明の効果】
【0035】
したがって、本発明の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒は、高いメタン転化率と高い耐硫黄性を備えるから、硫黄含有炭化水素化合物類を原料ガスとしても、長期にわたって高いメタン転化率を発揮し、水素製造プロセス等に用いた場合に、高い耐久性を発揮するとともに、高いメタン転化率を長期にわたって持続するから、水素製造プロセス等に用いるべき触媒量を少なく設定することができ、使用する触媒量を削減することにより、水素製造プロセスに用いられる水素含有ガス生成装置のコンパクト化が図れ、触媒にかかるコストの削減が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に本発明の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒を示す。
以下に本発明を具体的な実施形態に従って説明する。
【0037】
本発明の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒は、白金とイリジウムとを、ともに無機酸化物担体に担持させてなる。
【0038】
ここで、前記無機酸化物としては、αアルミナ、γアルミナ等のアルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、およびそれらの混合物等から選ぶことができる。なお、下記実施例においては、αアルミナおよびジルコニアについて詳述するが、本発明は下記実施例に限られるものではない。
【0039】
前記無機酸化物担体に対して、白金は、0.5質量%以上2質量%以下担持させることができる。また。前記無機酸化物担体に対して、イリジウムは、0.5質量%以上2質量%以下担持させることができる。これらの比率は、白金:イリジウム=1:4〜4:1の比で担持することにより、充分高いメタン転化率と高い耐硫黄性を両立できるものと期待できる。なお、下記実施例においては、白金:イリジウム=1:1の例について詳述するが、本発明は下記実施例に限られるものではない。
【0040】
無機酸化物担体は上記無機酸化物そのもので、高い転化率および高い耐硫黄性を両立でき、高い耐久性を備えるものが好適であるが、無機酸化物を複数組み合わせるあるいはその他の成分により特性を補わせることが考えられる。本発明では前記無機酸化物担体は、ランタノイド金属酸化物成分を含有する場合に特に高い活性を発揮しうることを後述の実施例により明らかにしている。ここで、前記ランタノイド金属酸化物成分を0.1質量%以上20質量%以下含有することができる。なお下記の実施例においては、ランタノイド金属酸化物成分を10質量%含有する例について詳述するが、本発明は下記実施例に限られるものではない。
【0041】
また、前記無機酸化物担体に、ランタノイド金属酸化物成分を含有させる方法、についても種々公知の方法を採用することができるが、簡便には、含浸担持法をおもに採用することができる。また、前記無機酸化物担体に、白金とイリジウムとを担持させる方法については、含浸担持後、ヒドラジンを用いた液相還元を用いることで特に高活性な微粒子状の白金とイリジウムとを担持させることができる。
【0042】
以下に本発明の炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒具体的な製造例および試験例を示す。なお、以下に示す好適な実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
触媒A(0.5質量%白金−0.5質量%イリジウム/αアルミナ触媒)
3mm径の無機酸化物担体としてのαアルミナ9.9gに塩化白金酸と塩化イリジウム混合水溶液3mL(白金、イリジウム含有量各0.05g)を全量含浸し、80℃で3時間乾燥し、0.375N−NaOH水溶液で20時間浸漬処理し、1%ヒドラジン水溶液で液相還元処理し、純水で洗浄処理した後、80℃で3時間乾燥して、αアルミナに0.5質量%白金および0.5質量%イリジウムを担持させてなる触媒(以下0.5質量%白金−0.5質量%イリジウム/αアルミナ触媒のように記載する)を得た。
【0044】
<比較例1>
触媒B(1質量%白金/αアルミナ触媒)
3mm径のαアルミナ担体9.9gに塩化白金酸水溶液3mL(白金含有量0.1g)を全量含浸した他は、実施例1と同じ方法で1質量%白金/αアルミナ触媒を得た。
【0045】
<比較例2>
触媒C(1質量%イリジウム/αアルミナ触媒)
3mm径の無機酸化物担体としてのαアルミナ担体9.9gに塩化イリジウム水溶液3mL(イリジウム含有量0.1g)を全量含浸した他は、実施例1と同じ方法で1質量%イリジウム/αアルミナ触媒を得た。
【0046】
<比較例3>
触媒D(0.5質量%白金−0.5質量%ロジウム/αアルミナ触媒)
3mm径の無機酸化物担体としてのαアルミナ担体9.9gに塩化白金酸と塩化ロジウム混合水溶液3mL(白金、ロジウム含有量各0.05g)を全量含浸した他は、実施例1と同じ方法で0.5質量%白金−0.5質量%ロジウム/αアルミナ触媒を得た。
【0047】
<比較例4>
触媒E(0.5質量%白金−0.5質量%ルテニウム/αアルミナ触媒)
3mm径のαアルミナ担体9.9gに塩化白金酸と塩化ルテニウム混合水溶液3mL(白金、ルテニウム含有量各0.05g)を全量含浸した他は、実施例1と同じ方法で0.5質量%白金−0.5質量%ルテニウム/αアルミナ触媒を得た。
【0048】
<比較例5>
触媒F(0.5質量%白金−0.5質量%パラジウム/αアルミナ触媒)
3mm径の無機酸化物担体としてのαアルミナ担体9.9gに塩化白金酸と塩化パラジウム混合水溶液3mL(白金、パラジウム含有量各0.05g)を全量含浸した他は、実施例1と同じ方法で0.5質量%白金−0.5質量%パラジウム/αアルミナ触媒を得た。
【0049】
<実施例2>(耐硫黄性比較試験)
前記実施例および比較例で得た触媒A〜Fを用いて、以下の条件で水蒸気改質反応を行った。
【0050】
触媒量:2mL
反応ガス組成:2%水素、10volppmDMS(ジメチルスルフィド)、残りメタン
反応ガス量:0.4L/min(標準状態)
水:0.8g/min
触媒中心温度:700℃
【0051】
この時のメタン転化率を表1に記す。
【0052】
メタン転化率(%)=(生成ガス中の一酸化炭素+二酸化炭素濃度)/(生成ガス中のメタン+一酸化炭素+二酸化炭素濃度)×100
【0053】
【表1】
【0054】
同じ金属濃度では、白金とイリジウム両方を担持した触媒Aのほうが、白金またはイリジウム単独担持触媒B,Cより、反応1時間後も5時間後もメタン転化率が格段に高いことから、白金−イリジウムをともに無機酸化物担体に担持した触媒は硫黄成分に対する耐久性が高いといえる。
【0055】
また、白金とロジウム両方を担持した触媒Dと白金とルテニウム両方を担持した触媒Eは、白金とイリジウム両方を担持した触媒Aより、反応1時間後のメタン転化率は高いが、反応5時間後には活性がほとんどなくなったことから、特に白金とイリジウム両方を無機酸化物担体に担持した触媒のほうが硫黄成分に対する耐久性が高いといえる。白金とパラジウム両方を担持した触媒Fについては、前記触媒Cと同等の性能しか得られていない。
【0056】
上述の結果より、従来の技術では、メタン転化率と耐硫黄性とを発揮しうる貴金属の組み合わせは十分に検討されないまま、貴金属同士の組み合わせによる効果は得られないとされていたが、水蒸気改質触媒として、白金とイリジウムとの組み合わせは、その他の組み合わせに比して、メタン転化率と耐硫黄性とに関して、顕著に高い効果を発揮しうることが明らかになった。
【0057】
<実施例3>
触媒G(2質量%白金−2質量%イリジウム/αアルミナ触媒)
3mm径の無機酸化物担体としてのαアルミナ担体9.6gに塩化白金酸と塩化イリジウム混合水溶液3mL(白金、イリジウム含有量各0.2g)を全量含浸し、80℃で3時間乾燥し、0.375N−NaOH水溶液で20時間浸漬処理し、1%ヒドラジン水溶液で液相還元処理し、純水で洗浄処理した後、80℃で3時間乾燥して、2質量%白金−2質量%イリジウム/αアルミナ触媒を得た。
【0058】
<実施例4>
触媒H(2質量%白金−2質量%イリジウム/10質量%セリウム/αアルミナ触媒)
3mm径の無機酸化物担体基材としてのαアルミナ9gに硝酸セリウム水溶液3mL(セリウム含有量1g)を全量含浸し60℃で15時間乾燥の後、800℃で5時間焼成して、無機酸化物担体としての10%セリウム/αアルミナ担体を得た。この無機酸化物担体9.6gに塩化白金酸と塩化イリジウム混合水溶液3mL(白金、イリジウム含有量各0.2g)を全量含浸し、80℃で3時間乾燥し、0.375N−NaOH水溶液で20時間浸漬処理し、1%ヒドラジン水溶液で液相還元処理し、純水で洗浄処理した後、80℃で3時間乾燥して、2質量%白金−2質量%イリジウム/10質量%セリウム/αアルミナ触媒を得た。
【0059】
<実施例5>
触媒I(2質量%白金−2質量%イリジウム/10質量%ネオジム/αアルミナ触媒)
3mm径の無機酸化物担体基材としてのαアルミナ担体9gに硝酸ネオジム水溶液3mL(ネオジム含有量1g)を全量含浸した他は、実施例4と同じ方法で2質量%白金−2質量%イリジウム/10質量%ネオジム/αアルミナ触媒を得た。
【0060】
<実施例6>
触媒J(2質量%白金−2質量%イリジウム/10質量%ランタン/αアルミナ触媒)
3mm径の無機酸化物担体基材としてのαアルミナ担体9gに硝酸ランタン水溶液3mL(ランタン含有量1g)を全量含浸した他は、実施例4と同じ方法で2質量%白金−2質量%イリジウム/10質量%ランタン/αアルミナ触媒を得た。
【0061】
<実施例7>
耐硫黄性比較試験
前記実施例で得た触媒G、H、IおよびJ触媒を用いて、実施例2と同じ条件で水蒸気改質反応を行った。
この時のメタン転化率を表2に記す。
【0062】
【表2】
【0063】
セリウム、ネオジムまたはランタンで修飾したαアルミナ担体(ランタノイド/αアルミナ担体)を用いた触媒H,I,Jのほうが、単にαアルミナ担体を用いた触媒Gより、反応1時間後においても5時間後においてもメタン転化率が高いことから、ランタノイド系元素で修飾することによりαアルミナ担体を用いた場合に比べて、硫黄成分に対する耐久性がより一層高められるといえる。
【0064】
<実施例8>
触媒K(2質量%白金−2質量%イリジウム/ジルコニア触媒)
3mm径の無機酸化物担体としてのジルコニア担体9.6gに塩化白金酸と塩化イリジウム混合水溶液3mL(白金、イリジウム含有量各0.2g)を全量含浸し、80℃で3時間乾燥し、0.375N−NaOH水溶液で20時間浸漬処理し、1%ヒドラジン水溶液で液相還元処理し、純水で洗浄処理した後、80℃で3時間乾燥して、2質量%白金−2質量%イリジウム/ジルコニア触媒を得た。
【0065】
<実施例9>
耐硫黄性比較試験
前記実施例で得た触媒Kを用いて、実施例2と同じ条件で水蒸気改質反応を行った。
この時のメタン転化率を表3に記す。
【0066】
【表3】
【0067】
白金−イリジウム/ジルコニア触媒Kも高いメタン転化率が得られていることから、αアルミナ担体に代えてジルコニア担体を用いても硫黄成分に対する耐久性を高めることができることがわかる。また、この場合、αアルミナ担体(G)に代えてジルコニア担体を用いた場合(K)、より高いメタン転化率が得られていることもわかる。
【0068】
<実施例10>
触媒L(0.5質量%白金−0.5質量%イリジウム/ジルコニア触媒)
3mm径の無機酸化物担体としてのジルコニア担体9.9gにジニトロジアミン白金と硝酸イリジウム混合水溶液4mL(白金、イリジウム含有量各0.05g)を全量含浸し、80℃で3時間乾燥した後、空気中450℃で2時間焼成して、0.5質量%白金−0.5質量%イリジウム/ジルコニア触媒を得た。
【0069】
<比較例6>
触媒M(1質量%白金/ジルコニア触媒)
3mm径の無機酸化物担体としてのジルコニア担体9.9gにジニトロジアミン白金水溶液4mL(白金含有量0.1g)を全量含浸した他は、実施例10と同じ方法で1質量%白金/ジルコニア触媒を得た。
【0070】
<比較例7>
触媒N(1質量%イリジウム/ジルコニア触媒)
3mm径の無機酸化物担体としてのジルコニア担体9.9gに硝酸イリジウム水溶液4mL(イリジウム含有量0.1g)を全量含浸した他は、実施例10と同じ方法で1質量%イリジウム/ジルコニア触媒を得た。
【0071】
<実施例11>
耐硫黄性比較試験
前記実施例及び比較例で得た触媒L、M及びNを用いて、以下の条件で水蒸気改質反応を行った。
【0072】
触媒量:5mL
反応ガス組成:2%水素、都市ガス(メタン88.9容量%、エタン6.8容量%、プロパン3.1容量%、ブタン1.2容量%、ジメチルスルサルファイド2.5容量ppm、ターシャリーブチルメルカプタン1.7容量ppm)
反応ガス量:1L/min(標準状態)
水:2.5g/min
触媒入口及び出口温度:660℃
【0073】
この時のメタン転化率を表4に記す。
【0074】
【表4】
ちなみに実施例11と、実施例2,9とは試験条件が異なっている。
【0075】
表4より、たとえば、白金塩とイリジウム塩とを無機酸化物担体に含浸させた後、乾燥、焼成することにより、白金とイリジウムとを、無機酸化物担体に担持させるなど、上記製造方法とは、異なる製造方法によっても、実施例2同様に耐硫黄性の高い水蒸気改質触媒が得られていることがわかる。
【0076】
なお、含浸法により白金塩とイリジウム塩とを無機酸化物担体に含浸したのち、乾燥焼成して担持させる場合には、乾燥温度60℃〜150℃、乾燥時間1時間〜24時間、焼成温度300℃〜700℃、焼成時間1時間〜24時間程度に設定することが好ましい。
【0077】
<実施例12>
触媒O(1質量%白金−1質量%イリジウム/チタニア触媒)
3mm径の無機酸化物担体としてのチタニア担体(Anatase)9.8gにジニトロジアミン白金と硝酸イリジウム混合水溶液4mL(白金、イリジウム含有量各0.1g)を全量含浸し、80℃で3時間乾燥した後、空気中450℃で2時間焼成して、1質量%白金−1質量%イリジウム/ジルコニア触媒を得た。
【0078】
<比較例6>
触媒P(2 質量%白金/チタニア触媒)
3mm径の無機酸化物担体としてのチタニア担体(Anatase)9.8gにジニトロジアミン白金水溶液4mL(白金含有量0.2g)を全量含浸した他は、実施例12と同じ方法で2 質量%白金/ジルコニア触媒を得た。
【0079】
<比較例7>
触媒Q(2質量%イリジウム/ チタニア触媒)
3mm径の無機酸化物担体としてのチタニア担体(Anatase)9.8gに硝酸イリジウム水溶液4mL(イリジウム含有量0.2g)を全量含浸した他は、実施例12と同じ方法で2質量%イリジウム/ジルコニア触媒を得た。
【0080】
<実施例13>
耐硫黄性比較試験
前記実施例で得た触媒O、PおよびQを用いて、実施例11と同じ条件で水蒸気改質反応を行った。
この時のメタン転化率を表5に記す。
【0081】
【表5】
【0082】
表5より、白金−イリジウム/チタニア触媒Oも高いメタン転化率が得られていることから、αアルミナ担体(A)と同様に、チタニア担体(O)を用いても硫黄成分に対する耐久性を高めることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により提供される炭化水素化合物類の水蒸気改質触媒は、高いメタン転化率と高い耐硫黄性を備えるから、都市ガス等の硫黄分を含有する炭化水素化合物類を原料とする
水素製造プロセスに有効に用いられる。