特許第5984633号(P5984633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984633
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】複層摺動部材
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/12 20060101AFI20160823BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20160823BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20160823BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20160823BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20160823BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20160823BHJP
   B32B 15/02 20060101ALI20160823BHJP
   B32B 3/24 20060101ALI20160823BHJP
   B22F 7/00 20060101ALN20160823BHJP
【FI】
   F16C33/12 B
   F16C33/12 Z
   F16C33/20 Z
   C22C9/06
   C22C9/02
   C22C9/00
   C22C1/08 F
   B32B15/02
   B32B3/24 Z
   !B22F7/00 D
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-251904(P2012-251904)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-98467(P2014-98467A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年4月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(74)【代理人】
【識別番号】100179202
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 誠司
(72)【発明者】
【氏名】山内 貴文
(72)【発明者】
【氏名】辻本 健太郎
【審査官】 尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−220630(JP,A)
【文献】 特開平04−085398(JP,A)
【文献】 特開平07−150273(JP,A)
【文献】 特開2011−080525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/12
F16C 33/20
C22C 1/08
C22C 9/00
C22C 9/02
C22C 9/06
B32B 3/24
B32B 15/02
B22F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を主とする裏金層と、金属多孔質部材及び該金属多孔質部材に充填された樹脂組成物を有する多孔質層と、を備えてなる複層摺動部材であって、
前記金属多孔質部材はCuを主成分としてNi及びBiをそれぞれ0.5〜20.0質量%及び0.2〜30.0質量%含み、かつ粒状部とくびれ部を有し、前記粒状部同士が前記くびれ部で結合された構造を含み、
前記粒状部にはCu-Sn-Ni固溶体相が存在し、
前記くびれ部の一部又は全部はBi相とSn-Ni-Cu金属間化合物相とを有し、
前記粒状部間に形成された空隙に前記樹脂組成物が充填されている、複層摺動部材。
【請求項2】
前記金属多孔質部材はSnを3.0〜10.0質量%、Niを0.5〜15.0質量%、Biを0.2〜15.0質量%含み、残部が実質的にCuである、請求項1に記載の複層摺動部材。
【請求項3】
前記Biの配合量が1.5〜9.0質量%である、請求項2に記載の複層摺動部材。
【請求項4】
前記Biの配合量が2.0〜7.0質量%である、請求項2に記載の複層摺動部材。
【請求項5】
前記Niの配合量が2.0〜10.0質量%以下である、請求項4に記載の複層摺動部材。
【請求項6】
前記くびれ部のうち下記式(1)及び式(2)の条件を満足するネック部において、該ネック部の総数の30%以上50%以下にBi相及びSn-Ni-Cu金属間化合物相が析出している、請求項1〜5のいずれかに記載の複層摺動部材(ただし、Xは前記粒状部の曲率、xはくびれ部の曲率を示し、φ1は前記粒状部の径、φ2はくびれ部の径を示す)。
3X≦x・・・・(1) 2≦φ1/φ2≦5・・・・(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複層摺動部材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブシュとして利用される筒状の金属部材として、例えば筒状の鋼板からなる裏金層とこの裏金層の表面に形成される多孔質層とを備える複層摺動部材が提案されている。
ここに多孔質層は金属多孔質部材へ樹脂組成物を充填した構造であり、自動車部品に用いられるブシュでは、金属多孔質部材を銅合金製とすることが多い。他方、潤滑油には硫黄成分を含むものがあり、この硫黄成分は銅合金製の金属多孔質部材を腐食させ、その耐久性を低下させるおそれがある。
そこで、金属多孔質部材の材料(Cu−Sn系合金)に21〜35質量%のNiを含ませ、もってその耐食性向上を図っている(特許文献1)。
本案に関連する先行技術文献として、特許文献2及び特許文献3も参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−80525号公報
【特許文献2】特開2001−220630号公報
【特許文献3】特開平8−53725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属多孔質部材が焼結により形成されることにかんがみると、従来技術のように当該金属多孔質部材の原材料として、SnはもとよりCuよりも高い融点のNiを21〜35質量%も含ませると、その形成に高い焼結温度が要求される。またNiは高価な金属であるので、高い焼結温度とあいまって製造コストの上昇を引き起こす。
そこで本発明者らは、Niの配合量如何に拘わらず、即ち、別の観点から、腐食に強い複層摺動部材を提供すべく鋭意検討を重ねてきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、まず複層摺動部材の多孔質層における金属多孔質部材の耐久性低下の原因について、検討を行った。
そこで、金属多孔質部材の構造に着目した。金属多孔質部材は原料となる金属粉を焼結して得られるものであり、金属粉はその原形を保ちながら相互に連結されるので、金属粉がその原形を保った部分(この明細書で「粒状部」という)の間若しくは当該粒状部の二次粒子の間に空隙が形成され、これにより多孔質構造となる。かかる金属多孔質部材には、粒状部同士が細い径の部分(この明細書で「くびれ部」という。)で連結される構造が含まれる。
本発明者らは、径が細いこのくびれ部が金属多孔質部材の耐久性に大きく影響しているのではないかと考えた。換言すれば、このくびれ部の耐食性を選択的に向上させさえすれば、従来技術のように高価なNiを多量に配合しなくても、金属多孔質部材は、全体として、硫黄成分に対してその耐食性が向上すると考えた。
【0006】
そして、更に鋭意研究を行った結果、ともに耐食性に優れたBi相及びSn-Ni-Cu金属間化合物相をくびれ部の位置へ特異的に析出させることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の第1の局面は次のように規定される。即ち、
本発明の複層摺動部材は、鋼板を主とする裏金層と、金属多孔質部材及び該金属多孔質部材に充填された樹脂組成物を有する多孔質層と、を備えてなる複層摺動部材であって、
前記金属多孔質部材は粒状部とくびれ部を有し、前記粒状部同士が前記くびれ部で結合された構造を含み、
前記くびれ部の一部又は全部はBi相とSn-Ni-Cu金属間化合物相とを有している、複層摺動部材。
【0008】
このように規定される本発明の第1の局面の複層摺動部材によれば、硫黄成分に対する耐食性に優れたBi相と同じくSn-Ni-Cu金属間化合物相とがくびれ部に存在するので、当該くびれ部の耐食性が向上する。
金属多孔質部材においてこのくびれ部は、他の部分(粒状部等)に比べて細径ないし薄肉の部分であり、そもそも機械的強度を得難い上に、一旦腐食が生じると更に薄肉化が進むので、その機械的強度に大きく影響が生じる。
そこで、このくびれ部の耐食性が向上すれば、Cuを主成分とする金属多孔質部材全体としてその耐食性、ひいては耐久性が向上する。
【0009】
上記において、Bi相及びSn-Ni-Cu金属間化合物相がくびれ部以外の部分に存在することを否定するものではないが、本発明者らの検討によって、これらの相は、冷却速度を制御することにより、粒状部をくびれ部で結合した構造において、くびれ部に偏在させやすいことがわかった。
つまり、BiやNi等の耐食性原料の配合量を抑制しても、Bi相及びSn−Ni−Cu金属間化合物相をくびれ部へ特異的に析出させることによって、金属多孔質部材の耐食性を向上させられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1はこの発明の複層摺動部材の構造を示す模式図である。
図2図2は金属多孔質部材の構造を示す部分拡大図である。
図3図3はくびれ部におけるBi相及びSn-Ni-Cu金属間化合物相の析出状態を示す部分拡大図である。
図4図4はくびれ部のうちのネック部の定義を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1には、この発明の実施形態の複層摺動部材1の層構成を示す。
この複層摺動部材1は裏金層10、多孔質層20及び樹脂層40を順に積層した構造である。
裏金層10は筒状又は半円筒状に附形された鋼板11からなり、必要に応じて鋼板11の表面(内周面)にCuやNi等のめっきの層12が設けられる。
【0012】
多孔質層20は金属多孔質部材21とこの金属多孔質部材21の空隙に充填された樹脂組成物31とを備える。
金属多孔質部材21は原料となる金属粉を焼結して得られるものであり、金属粉はその原形を保ち粒状部を構成する。
図1に示すとおり、粒状部の一次粒子及びその二次粒子の間には空隙が形成され、そこへ樹脂組成物が充填される。
【0013】
かかる金属多孔質部材21をつぶさに観察したところ、図2に示す通り、粒状部23、23が小径部で連結された構造の部分であるくびれ部25が存在した。
くびれ部25に、Bi相26及びSn−Ni−Cu金属間化合物相27が析出した状態を図3に示す。なお、図中の符号28はCu−Sn−Ni固溶体相である。
即ち、本実施形態の複層摺動部材はその金属多孔質部材21において粒状部23、23をくびれ部25で結合した構造を含む。当該くびれ部25の一部又は全部は、図3に示されるように、Bi相26及びSn−Ni−Cu金属間化合物相27を有する。
【0014】
粒状部23の径をφ、粒状部23、23を繋ぐくびれ部25の径をφ、粒状部23の曲率をX=1/R(R:粒状部23の曲率半径)、くびれ部25の外周側曲率をx=1/r(r:くびれ部25の外周側曲率半径)としたとき、
3X ≦ x … (1)
2≦φ/φ≦5 … (2)
上記(1)及び(2)の関係を満足するくびれ部25をネック部125とする。
ここで、φは、図4に示すように、観察視野でのくびれ部25における粒状部23、23を繋ぐ2つの外縁の最短距離をいう。
本発明者らは、複層摺動部材を腐食に強いものとするには、このように定義されたネック部125を制御するのが効率的であることも見出した。
即ち、ネック部125の総数の30%以上50%以下にBi相26及びSn−Ni−Cu金属間化合物相27が析出しているのが好ましい。
勿論、既述の条件(1)及び(2)を満足しないくびれ部25(例えば、くびれ部25がネック部125の規格より太い場合)においても、そこにBi相26及びSn−Ni−Cu金属間化合物相27が偏在して析出する場合もあり、かかる場合も当該部位の耐食性は向上している。
なお、本実施形態の複層摺動部材の製造上の観点から全くびれ部数のうち40%以上がネック部125であることが望ましく、金属多孔質部材と樹脂組成物との接合安定性の観点から60%以上がより好ましい。
【0015】
金属多孔質部材21の組成は全体として、Snを2.0〜10.0質量%、Niを0.5〜15.0質量%、Biを0.2〜30.0質量%、残部を実質的にCuとすることができる。例えば自動車部品のブシュに要求される機械的耐久性はもとより、Bi相及びSn−Ni−Cu金属間化合物相を安定してくびれ部に偏在させられた。
金属多孔質部材21の組成の好ましい範囲はSnを3.0〜10.0質量%、Niを0.5〜15.0質量%、Biを0.2〜15.0質量%、残部を実質的にCuとすることである。なお、Biが15.0質量%を超えるとBi自体の脆さに起因して金属多孔質部材21の機械的強度が低下するおそれがある。また、Biが0.2質量%未満では、その量が少ないほどBi相及びSn−Ni−Cu金属間化合物相を安定してくびれ部へ析出できなくなっていくおそれがある。
より厳しい環境での使用のために、Snを4.0〜8.0質量%、Niを2.0〜10.0質量%、Biを1.5〜9.0質量%、残部を実質的にCuとすることができる。更に厳しい環境での使用のためには、Snを5.5〜7.5質量%、Niを2.5〜6.0質量%、Biを2.0〜7.0質量%、残部をCuとすることができる。
なお、金属多孔質部材21にはP、Fe、Zn、Al、Co、Sb等の微量な成分が総量で1質量%以下含まれる場合がある(例えば、P:0.1〜0.5質量%含)。これらの微量な成分は原料金属粉に含まれていたり、製造工程の途中で混入したりするものと考えられるが、偶然にせよ又は故意にせよ、かかる混入は当初から予想され、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0016】
金属多孔質部材21の空隙に充填される樹脂組成物31は、複層摺動部材の使用条件、用途等に応じて任意に選択できるものであるが、例えば以下に列挙の樹脂の一種又は複数種を採用できる。
フルオロカーボン重合体(ポリテトラフルオロエチレン樹脂等)、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂。
摺動特性の観点からポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂が特に好ましい。上記樹脂に二硫化モリブデン等固体潤滑剤等の添加物を混ぜても良い。
【0017】
多孔質層20の表面に積層される樹脂層40の材料も複層摺動部材の使用条件、用途等から任意に選択可能であるが、上記樹脂組成物31の材料と同一とすることが両者の接続強度維持及び製造工程を簡易にする見地から好ましい。
この樹脂層40の材料と樹脂組成物31の材料とを別体とすることもでき、また、この樹脂層40を省略することもできる。省略する場合、複層摺動部材の表面(内周面)は多孔質層20となる。
【0018】
次に、この複層摺動部材1の製造方法について説明する。
まず、Sn、Ni、Bi及びCu並びに用途に応じて他元素の各成分を用いて金属粉を製造する。金属粉はSn:3.0〜10.0質量%、Ni:0.5〜15.0質量%、Bi:0.2〜15.0質量%を含み、残部が実質的にCuからなるものとすることが好ましい。この場合、金属粉の粒径は250μm以下であることが好ましい。また、上記金属粉は狙い組成の一種類の合金化された金属粉に限られるものではなく、全体として上記組成となるならば、異なる組成の金属粉の混合物(例えばCu−Sn−Niからなる合金粉末とBi粉末の混合物等)であっても良い。
【0019】
例えば、上記成分からなる合金の金属粉を、表面に銅めっきが施された鋼板上に均一に散布し、還元雰囲気中で800〜950℃の温度範囲で焼結し、金属多孔質部材21を形成する。
焼結工程にて熱を加えて、金属粉中のBiを液相とする。液体となって固溶限が高くなったBiに、周りからSn、Ni等が拡散していく。そして、そのBiは、金属粉において固相を維持した部分である粒状部23と粒状部23との間に表面張力により集合する。
冷却工程にて温度を低下させて、液相のBiに溶けていたSn、Ni等を、隣接する固相に拡散させていく。このため、Bi相とCuを主とする相(Cu−Sn−Ni固溶体相)との界面付近にSn、Ni等が濃化するので、Sn−Ni−Cu金属間化合物相が、Bi相を取り囲むように析出する、と考えられる。
上記において粒状部23の間に集合した液相材料には表面張力が働いてその外周面が曲面的となり、いわゆる「くびれた」形状をとる。そしてこのくびれ部にBi相やSn−Ni−Cu金属間化合物相が析出する。本実施形態では、冷却工程において800℃から450℃への冷却速度を35〜90℃/分に制御して冷却した。
【0020】
その後、金属多孔質部材21へ樹脂組成物31を含浸させて複層摺動部材とする。
このとき、樹脂組成物31の含浸量を調整して、金属多孔質部材21の上に樹脂層40を形成することができる。その後、ロール圧延により表面を仕上げる。
このようにして得られたものを所定幅、所定長さに切断して断面円形に曲げ加工し、筒状の複層摺動部材とする。この複層摺動部材は、燃料噴射ポンプ、コンプレッサ等のブシュとして好適に使用される。
【0021】
<実施例及び比較例>
本発明者らは、上記の製法に従い、樹脂組成物として実施例1〜8、10、比較例1〜3ではポリテトラフルオロエチレン樹脂(三井・デュポン・フロロケミカル社製640-J)、実施例9ではポリアセタール樹脂(ポリプラスチックス社製AW−01)を選び、表1に規定する実施例及び比較例の複層摺動部材を作製した。なお、各実施例及び比較例の複層摺動部材の金属多孔質部材のP量は、0.3質量%程度であった。このP量が後述の試験に影響が無いことは確認済みである。そして、裏金層10において鋼板11の厚さは1.2mm、銅めっき層12の厚さは5μmとした。多孔質層20の厚さは0.3mm、樹脂層40の厚さは10μmとした。
【0022】
実施例及び比較例の複層摺動部材を厚さ方向に沿って切断し、切断面を光学顕微鏡で観察した。図1は、その観察結果を模式化したものである。
観察の結果、金属多孔質部材において、粒状部をくびれ部で結合した構造が存在した。
他方、金属多孔質部材を光学顕微鏡での観察結果と電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyser)での分析結果とを照らし合わせて、Bi相やSn−Ni−Cu金属間化合物相等の存在を同定した。
以上の知見を踏まえ、金属多孔質部材を光学顕微鏡で観察し(観察視野:1mm×1mm)、くびれ部において既述の定義に該当するネック部の総数に占めるBi相及びSn−Ni−Cu金属間化合物相が見えるネック部の割合を求めた。
結果を表1に示す。表1における実用性の欄では、◎は「非常に好ましい」、○は「好ましい」、×は「低い」を表す。なお、実施例及び比較例では、全くびれ部数のうち50%程度がネック部である複層摺動部材を用いて試験を行った結果を示した。
【表1】
【0023】
各実施例及び比較例の複層摺動部材から切出した試験片を120℃に加熱した極性油(硫黄添加オイル)中に1000時間浸漬した後、取り出し洗浄した。
オイルへの浸漬を終了した試験片について、次の様にして引張強度試験を行った。
試験台に固定した実施例及び比較例の試験片の樹脂層に接合ピンの一端を熱硬化性樹脂で接着し、接合ピンの他端を引っ張る。引っ張る力を徐々に強くしていくと、複層摺動部材が崩壊して、ピンに接着されている試験片の断片が試験片から離れる。このときの引っ張り力を引張強度としている。
結果は表1に示してある。
【0024】
表1に示すように、実施例1〜10では引張強度が3.00MPa以上であり、すべて実用に耐えるものと考えられる。
一方、比較例1〜3は、Bi相とSn−Ni−Cu金属間化合物相とを有するくびれ部が無く、引張強度が3.00MPaに満たなかった。
これは、くびれ部が腐食され易く、引張強度試験で加えられた力が脆弱となった当該くびれ部に集中し、金属多孔質部材の崩壊につながったからと考えられる。
また、表1では省略したが、Agを添加すると、引張強度が低下することが分かった。
【0025】
実施例1〜10の中でも、Biの含有量が15.0質量%以下である実施例1〜7及び実施例9の引張強度は4.00MPa以上であり、優れた引張強度を示す。従って、Biの配合量は0.2〜15.0質量%とすることが好ましい。
更には、実施例2(Bi:3.0質量%)、実施例3(Bi:5.0質量%)、及び実施例9(Bi:5.0質量%)の結果から、より好ましいBiの配合量は2.0〜7.0質量%と考えられる。
ここで、実施例5と7とを比較すると、実施例7は、Niが0.5質量%と少ないにもかかわらず、Ni含有量が15.0質量%の実施例5と比較的同等の引張強度を示している。これにより、Niの含有量を減らしても優れた引張強度を得られることが分かる。
【0026】
実施例1〜10の結果から、ネック部の総数に占めるBi相及びSn−Ni−Cu金属間化合物相が見えるネック部の割合を30以上50%以下とすることが特に好ましいことが分かる。
【0027】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
1 複層摺動部材、10 裏金層、11 鋼板、12 Cuメッキ層、20 多孔質層、21 金属多孔質部材、23 粒状部、25 くびれ部、26 Bi相、27 Sn−Ni−Cu金属間化合物相、31 樹脂組成物、40 樹脂層、125 ネック部。
図1
図2
図3
図4