(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984650
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】ガス配管のパージ方法
(51)【国際特許分類】
F17D 1/02 20060101AFI20160823BHJP
【FI】
F17D1/02
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-266559(P2012-266559)
(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2014-111967(P2014-111967A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2015年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】古川 泰成
【審査官】
礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−125605(JP,A)
【文献】
特開2002−340299(JP,A)
【文献】
特開2006−170576(JP,A)
【文献】
特開2007−211964(JP,A)
【文献】
特開2005−298041(JP,A)
【文献】
特開2010−207812(JP,A)
【文献】
特開2009−108925(JP,A)
【文献】
特開2001−355800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17D 1/00 − 5/08
F16L 55/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側に遮断弁が設けられたパージ対象の配管の下流側に、当該配管からの流体の流出及び流出停止を操作可能な遮断手段を設ける遮断手段設置工程と、
前記遮断手段から流出する流体を捕集する捕集手段を設ける、もしくは外部放出する外部放出手段を設ける流出流体処理手段設置工程と、
前記配管の上流側から配管内に充満させる置換流体を供給し、配管内に充満された被置換流体を前記遮断手段を介して下流側へ流出させる置換工程とを含み、
前記置換工程において、前記遮断弁を開状態に維持して、前記遮断手段を開操作し、予め設定した置換流体供給時間後に前記遮断手段を閉操作する基本置換操作工程を繰り返すパージ方法。
【請求項2】
前記置換流体供給時間tを、前記配管の管内径をd、前記置換流体の動粘性係数をν、αを0.1より大きく6以下の定数として、t=α×0.065×d2/νとする請求項1記載のパージ方法。
【請求項3】
上流側に遮断弁が設けられたパージ対象の配管の下流側に、当該配管からの流体の流出及び流出停止を操作可能な遮断手段を設ける遮断手段設置工程と、
前記遮断手段から流出する流体を捕集する捕集手段を設ける、もしくは外部放出する外部放出手段を設ける流出流体処理手段設置工程と、
前記配管の上流側から配管内に充満させる置換流体を供給し、配管内に充満された被置換流体を前記遮断手段を介して下流側へ流出させる置換工程とを含み、
前記置換工程において、前記遮断弁を開状態に維持して、前記遮断手段を開操作し、予め設定した置換流体供給量の供給後に前記遮断手段を閉操作する基本置換操作工程を繰り返すパージ方法。
【請求項4】
前記置換流体供給量を、前記配管の管内径をd、前記配管内を流れる流体のレイノルズ数をReとして、以下の式
(0.065×Re×d)×((d/2)2×π)
で求められる値以下とする請求項3に記載のパージ方法。
【請求項5】
前記流出流体処理手段設置工程において、前記式で求められる値以下の容積を有する前記捕集手段が用いられ、かつ
前記置換工程において、前記遮断手段の開操作に伴って前記捕集手段が流体で充満した状態で前記遮断手段を閉操作して、前記捕集手段に充満した流体を外部放出する請求項4に記載のパージ方法。
【請求項6】
前記遮断手段の近傍の前記配管の部位における前記置換流体の濃度が、95体積%に到達するまで、前記遮断手段の前記基本置換操作工程を繰り返す請求項1〜5の何れか一項記載のパージ方法。
【請求項7】
前記捕集手段が、前記パージ対象の配管の配管容積以下で、1回の前記置換工程で配管内から流出される流体容積以上の容量を有するバッグである請求項1または2に記載のパージ方法。
【請求項8】
前記外部放出手段が、前記遮断手段の出口と外空間とを連通接続する配管である請求項1または2に記載のパージ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス配管のパージ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス配管の入替工事や既設管への新規接続工事などを行なう場合は、エアパージ(補修前に行なうガスをエアで置換するパージ)、ガスパージ(補修後に行なうエアをガスで置換するパージ)を行なう必要がある。そのようなパージに関して種々の方法が知られているが、例えば、特許文献1には、既設管に接続された幹管に複数の枝管を分岐接続しているガス供給用配管内の空気を置換用ガスで置換するエアパージ方法が開示されている。この特許文献1で開示されたエアパージ方法の1つでは、まず、既設ガス導管と幹管との接続部近くの都市ガス供給用として用いられている供給用枝管と、接続部から最も離れた箇所近くの空気放出用として用いられている放出用枝管とを含む数箇所の枝管を掘り起こす。さらに、それらの掘り起こし枝管のうち、供給用枝管に都市ガスを加圧供給可能なコンプレッサーを接続し、放出用枝管及び供給用枝管以外の一部の掘り起こし枝管に装着してあるキャップをガス濃度センサ付きのキャップに交換する。そして、放出用枝管の端部を塞いでいるキャップを外して、放出用枝管及び供給用枝管以外の残りの枝管の端部をキャップで塞いである状態で、コンプレッサーの作動で供給用ガス圧力以上の高圧に加圧した都市ガスを、供給用枝管を通して幹管に圧入する。これにより、放出用枝管の端部から幹管内の空気が管外に放出され、その幹管内の空気が都市ガスで置換された後、放出用枝管の端部をキャップで塞いで密閉し、幹管内の圧力が供給用ガス圧力以上の高圧に達するとコンプレッサーの作動を停止し、幹管内の都市ガスと枝管内の空気とが混ざり合うように所定時間だけ放置する。この置換工程を繰り返し、放置後の枝管内のガス濃度が所定濃度に達すると、供給用枝管に接続してあるコンプレッサーを外して、キャップで塞いで密閉する。
【0003】
このようなパージ作業、例えばエアパージ作業において、ガスがエアとあまり混ざり合わずにガスを押し流すことができると、わずかな時間または流れ量で効果的なパージを行うことができるが、ガスとエアとの混合が起こると、パージ完了までに時間を要する。このことは管内に存在するエアをガスで置換するガスパージ作業でも同様である。
【0004】
そこで、通常は、例えば、ガス配管のパージを行なう場合、管内流れを遷移領域を超えた乱流域の流れとして、パージを行っている。例えば、内径約80mmの配管に対して、レイノルズ数が10000となる流速で、エア、或は、ガスを流すことにより、エアとガスとの混合ができるだけ発生しない状態でパージ作業を行なうことで、短時間に、効率的にパージ操作を完了できる。
このような流れを乱流としてパージ操作を行える条件として、配管の下流側が大気に開放されており、下流側の配管部位の抵抗が比較的小さいことが挙げられる。
即ち、パージ作業対象の配管が、例えば、地表面付近に埋設され、当該配管が掘削作業により露出された場合の配管である場合には、ガス或は空気の大気開放を特に障害なく行うことができるため、送り込み対象の流体の流れを乱流として、パージ作業を行なえるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−125605号(段落番号0016−0026、
図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、パージ作業の対象となる配管としては、例えば、地下室内の配管等も存在し、このような配管に対するパージ作業では、先に説明したような流体を開放できる空間の容量が限られている、あるいはこの空間に流体を放散できないということがありうる。
このような制限のある配管に対してパージを行なおうとする場合、配管の下流側端に可撓性の比較的長い放散管を接続し、外空間まで流体を導いて放散するか、あるいは配管の下流側端にガスバッグを接続して、ガスバッグで放散する流体を捕集しながら、外空間に搬送して放散することとなる。
【0007】
これらの手法を採用すると、前者の場合は、配管の下流側端に可撓性の比較的長い放散管を接続し、外空間まで流体を導いて放散するため、全体の流路抵抗が格段に上昇し、配管内の流れを乱流とすることはできず、流れは、層流(例えば、レイノルズ数100程度の流れ)とならざるを得ない。後者の場合は、使用可能な容積のガスバッグを下流側に接続するため、同様に、管内流れを乱流として作業を進めることは、実質的に不可能に近い。
【0008】
管内の流れが層流となる場合は、ガスとエア(2種の流体)の境界が明確に形成されず、両流体の混合が起こり、本来の目的である、いずれか一方の流体で配管内が満たされた状態を実現するのに時間がかかるとともに、配管内のエアをガスで置換するパージ操作においては、作業時間が長くなるに従って、パージ作業に使用するガス量も増加するという問題が発生する。
【0009】
従って、本発明の目的は、流体(エア或はガス)の放散に困難性を伴い、配管内の流れが層流となってしまう管に対してパージ作業を行なう必要がある作業環境において、できるだけ短時間に効率的に作業を完了することができるパージ方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明によるパージ方法は、
上流側に遮断弁が設けられたパージ対象の配管の下流側に、当該配管からの流体の流出及び流出停止を操作可能な遮断手段を設ける遮断手段設置工程と、前記遮断手段から流出する流体を捕集する捕集手段を設ける、もしくは外部放出する外部放出手段を設ける流出流体処理手段設置工程と、前記配管の上流側から配管内に充満させる置換流体を供給し、配管内に充満された被置換流体を前記遮断手段を介して下流側へ流出させる置換工程とを含み、
前記置換工程において、前記遮断弁を開状態に維持して、前記遮断手段を開操作し、予め設定した置換流体供給時間後に前記遮断手段を閉操作する基本置換操作工程を繰り返すこととしている。
【0011】
即ち、本願に係るパージ方法では、置換区間の下流側に設けた遮断手段の開閉を一定の時間(本願にいう「置換流体供給時間」)毎に繰返す。このように開閉を繰返した場合、遮断手段の閉操作により、一旦流れは停止する。そして、この停止後に遮断手段を再度開操作すると、配管内の流れは、これまでの置換流体の送り込み操作に伴って配管内面から成長してきた境界層(配管内の流速が遅い場合は、この境界層の成長が管内流れの層流化を助長する)が崩され、再度、遮断手段を開操作した場合には、管断面で見て流速分布が比較的一様な、所謂、乱流の流速分布に近い流れとなる。このような流れでは、レイノルズ数が低い(管内流速が遅い流れ)状態で充分に発達した層流流れに較べ、上流側の流体(置換流体)と下流側の流体(被置換流体)との混合度が低いものとなる。
従って、本願では上記のような基本置換操作工程を繰り返すことにより、上流側の流体と下流側の流体の混合を回避しながら、結果的に、短時間でパージ作業を完了することができる。
【0012】
本発明の好適な実施形態では、置換流体供給時間tを、前記配管の管内径をd、前記置換流体の動粘性係数をν、αを0.1より大きく6以下の定数として、
t=α×0.065×d
2/ν
とすることが提案されている。この式は開空間から一定径の配管内に流入する流れの助走区間長さ:Xと管内径:dとの関係が、無次元値である、X/d=0.065Re(Reはレイノルズ数)で近似できるという流体力学の教えに従い、この無次元量との関係で、発明者らが実際に実験を行なって決定した値である。
発明者らは、αが0.1より大きく1以下の場合は無論のこと、助走区間長さの6倍程度でも、本願が期待する程度のエアとガスとのある程度の分離が可能であることを実験的に確認した。従って、この式を用いることで、簡単に1回の基本置換操作工程の実行時間を求めることができる。そして、発明者らの検討によれば、遮断手段の閉操作から開操作までの待機時間は、置換流体供給時間tに対して、その半分以下とですることが好ましい。
【0013】
上流側の流体と下流側の流体の混合が大きくならない程度に置換流体の供給を制限した基本置換操作工程の実現は、上述したように、置換流体供給時間を制限することで可能となるが、置換流体供給量を制限することによっても可能である。つまり、1回の置換流体の供給を上記助走区間長さを越えない程度に制限することである。このような発明者らの知見に基づく、上記課題を解決するための本発明によるパージ方法は、
上流側に遮断弁が設けられたパージ対象の配管の下流側に、当該配管からの流体の流出及び流出停止を操作可能な遮断手段を設ける遮断手段設置工程と、前記遮断手段から流出する流体を捕集する捕集手段を設ける、もしくは外部放出する外部放出手段を設ける流出流体処理手段設置工程と、前記配管の上流側から配管内に充満させる置換流体を供給し、配管内に充満された被置換流体を前記遮断手段を介して下流側へ流出させる置換工程とを含み、
前記置換工程において、前記遮断弁を開状態に維持して、前記遮断手段を開操作し、予め設定した置換流体供給量の供給後に前記遮断手段
を閉操作する基本置換操作工程を繰り返す。
その際、置換流体の連続した供給により管内に形成される層流におけるレイノルズ数をReとし、管内径をdとすると、助走区間長さ:Xは、(0.065×Re×d)で求めることができる。従って、1回の置換流体供給量を(0.065×Re×d)×((d/2)2×π)以下とすれば、供給された置換流体の移動距離は助走区間長さ以下に制限さ
れ、良好なパージが得られる。従って、本発明の好適な実施形態では、前記置換流体供給量を、前記配管の管内径をd、前記配管内を流れる流体のレイノルズ数をReとして、以下の式
(0.065×Re×d)×((d/2)
2×π)
で求められる値以下とする。
【0014】
上述した、置換流体供給量を制限する方法において、捕集手段の容積を1回の基本置換操作工程で流出される流体の量と関係付け、1回の基本置換操作工程が終了する毎に捕集手段を外部放出して空にするようにすれば、パージ作業の手順が分かり易くなり、実際的である。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記流出流体処理手段設置工程において、前記式で求められる値以下の容積を有する前記捕集手段が用いられ、かつ前記置換工程において、前記遮断手段の開操作に伴って前記捕集手段が流体で充満した状態で前記遮断手段を閉操作して、前記捕集手段に充満した流体を外部放出する。
【0015】
繰り返し実行される置換工程の終了判定には、ガス工事の実験的かつ経験的知識に基づいて行なう必要がある。本願発明者の知見では、パージされる管の最終位置領域での置換流体の濃度が95体積%である。このため、本発明の好適な実施形態では、前記遮断手段の近傍の前記配管の部位における前記置換流体の濃度が、95体積%に到達するまで、前記遮断手段の開操作と閉操作とを行ないながら前記置換工程が繰り返される。
【0016】
地下室内の配管等がパージ作業の対象である場合、パージ作業で流出されるガスを周囲に放散することが現実的には不可能である。このような状況では、流出されるガスを収容するバッグ(容器)の利用が好都合である。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記捕集手段が、前記パージ対象の配管の配管容積以下で、1回の前記置換工程で配管内から流出される流体容積以上の容量を有するバッグである。もちろん、パージ作業で流出されるガスの量はわずかであることから、周囲環境によってはガスを周囲に放散することが可能である。このような状況を考慮し、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記外部放出手段が、前記遮断手段の出口と外空間とを連通接続する配管である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のパージ方法の基本的な流れを示すタイムチャート図である。
【
図2】層流が十分に発達するまでの助走区間と層流境界層の関係を示す模式図である。
【
図3】パージ方法の実験例の構成を示す模式図である。
【
図4】
図3の実験例において得られた8つの濃度センサの測定結果を示すグラフである。
【
図5】
図4のグラフから第1の濃度センサの測定結果だけを取り出したグラフである。
【
図6】
図4のグラフから第8の濃度センサの測定結果だけを取り出したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、
図1を用いて、本発明のパージ方法の基本的な流れを説明する。ここでは、パージ対象配管は、ガス供給管2から分岐した分岐管1である。この分岐管1内部には工事等によってエアが滞留している。パージ前作業(遮断手段設置工程)として、この分岐管1の上流端に第1の遮断弁1Aが取り付けられ、その下流端には第2の遮断弁(遮断手段の一例)1Bが取り付けられている。パージ作業時に分岐管1を流れるガスとエアの混合気は第2の遮断弁1Bの流出口から流出されるが、流出流体処理手段設置工程としてこの第2の遮断弁1Bの流出口にはガスバッグ3(外部放出手段の一例)が装着され、流出される混合気はガスバッグ3に一時的に収容される。
【0019】
実質的なガスパージ作業は、分岐管1内に充満されたエア(被置換流体の一種)をガス供給管2を介して供給する都市ガス(置換流体の一種、以下単にガスと称する)で下流側に押し流して置き換える置換工程である。次に、この置換工程を
図1のタイムチャートを用いて説明する。
【0020】
(1)まず第1の遮断弁1Aを開操作してガス供給管2から分岐管1へのガスの流れ込みを可能にする。この時点で、第2の遮断弁1Bは閉状態に保っておく。
(2)1回目のパージの開始指令。
(3)開始指令に応答して、第2の遮断弁1Bを開操作することにより、ガス供給管2からのガスによる分岐管1内に滞留したエアのパージが始まる。このように第2の遮断弁1Bを開放することにより、当該遮断弁より下流側に位置するエアがガスにより下流側へ押し流される。そして、第2の遮断弁1Bを開状態に保ったままで、配管内の流れを維持すると、ガスの流速が小さい(レイノルズ数を臨界レイノルズ数以上には上げることができない)ため、
図3で模式的に示されているように、管壁からの境界層の発達により、所謂、本願においては好ましくない層流が形成される。このような層流が形成され、その流れが定常的に長い区間を流れた場合、管壁近傍に被置換流体であるエアが、管中心側に置換流体であるガスが分布することとなり、両流体の比較的長い混合域が形成され、この層流の状態を維持したのでは、配管内全体のガス濃度が所定の濃度(95体積%)以上になるのに、長時間を要する。
そこで、本願では、第2の遮断弁1Bの開操作と開操作に引き続く閉操作を一定の時間(この時間を本願では「置換流体供給時間」と呼んでいる)で繰返す。このように開操作と閉操作とを順次繰返した場合、流れは、断続的に停止されることとなり、配管内に層流が形成されるのを抑制することができる。即ち、
図2に示す助走区間が管路下手側に逐次延びた形態を呈する。
発明者らの検討では、このような「置換流体供給時間t」を、前記配管の管内径をd、前記置換流体の動粘性係数をν、αを0.1より大きく6以下の定数として、t=α×0.065×d
2/νとする。
(4)パージ時間を正確に計測するために、第2の遮断弁1Bを開操作に応答してタイマーをスタートさせる。タイマーは、先に算出されたパージ時間:tに設定されている。
(5)タイマーのタイムアップに応答して、第2の遮断弁1Bを閉操作され、パージ作業が終了する。パージ作業の終了後、ガスバッグ3に、少なくともあと1回のパージ作業で送り込まれる混合気の量を収容するだけの余裕がない場合、ガスバッグ3に充填された混合気を他の容器に回収するか、その混合気の放出が問題とならない場所で放出して、空にする。
(6)パージ作業の終了後、第2の遮断弁1Bの近傍の分岐管1に配置された濃度計4による濃度測定結果を評価して、所定の判定しきい値に達したかどうかチェックされる。この判定しきい値の一例として、95体積%のガス濃度値が採用される。
(7)測定されたガス濃度値が判定しきい値に達していない限り、続いて2回目、3回目・・・のパージ開始指令が出され、パージ作業(上記(1)から(6))が繰り返される。
(8)何回目かのパージ作業の終了後、測定されたガス濃度値が判定しきい値に達すると、このパージ作業が完了する。
【0021】
なお、第2の遮断弁1Bから、混合気を、ガス放出配管(外部放出手段の一種)によってその混合気の放出が問題とならない場所へ送り出すことができる場合には、ガスバッグ3による回収に代えて、そのようなガス放出配管を配備するとよい。
【0022】
次に、本発明によるパージ方法の実験例を
図3と
図4を用いて説明する。
この実験設備では、パージ対象管は、都市ガス(低圧13Aガス)の供給管2と遮断弁1Aを介して接続された直線状の管1である。管1の下流端はガスメータが接続されており、ガスメータの出口筒に遮断弁1Bを介してガスバッグ3が接続されている。管1の長さは8mである。管1の内部濃度を測定するために、8つに濃度センサS1〜S8が上流側から下流側にかけて均等配置されている。第1の濃度センサS1は、第1の遮断弁1Aから0.5mの位置に、その後第2の濃度センサS2から第8の濃度センサS8は1m間隔で配置されている。管1には大気圧のエアが充満している。ガスバッグ3の容量は5リットルである。
【0023】
このパージ実験は、
図1を用いて説明した本発明のパージ方法に準拠して行なわれている。つまり、以下の(1)から(4)、つまり
(1)第1の遮断弁1Aを開操作し、管1にガスを流入、
(2)第2の遮断弁1Bを開操作し、ガスバッグ3にパージされたパージガスを収容、
(3)第2の遮断弁1Bを閉操作し、ガスバッグ3を遮断弁1Bから取り外してパージガスを大気に放散、
(4)再度ガスバッグ3を遮断弁1Bに取り付ける、
を一回のパージ(パージ時間約1分)として、これを15回繰り返しながら、連続的に8つに濃度センサS1〜S8の測定値を取得する。
【0024】
約17分間に及ぶ15回のパージにおける8つの濃度センサS1〜S8の濃度測定結果が
図4に示されている。
図4のグラフでは、縦軸は体積%で表されたガス濃度が示され、横軸は分で表された実験経過時間である。
図4では、8つの濃度センサS1〜S8の濃度測定結果がそれぞれ独立したグラフ線で示されており、濃度センサS1の濃度測定結果を示すグラフ線にはS1が付記されており、同様に各濃度センサの濃度測定結果を示すグラフ線には濃度センサに割り当てられた図番が付記されている。
図5は、
図4のグラフから第1の濃度センサS1の測定結果だけを取り出したグラフであり、
図6は、
図4のグラフから第8の濃度センサS8の測定結果だけを取り出したグラフである。
【0025】
縦矢印は、それぞれ1〜8回目のパージの終了時点を示している。特に
図5と
図6との比較から明らかなように、上述したパージ作業を繰り返しによる管1の最上流側の位置での濃度変化は急速に立ち上がって徐々に上昇するのに対して、最下流側の位置での濃度変化はほぼ一定の比率で上昇している。例えば、1回目のパージの終了時点で最上流側の位置での濃度を示す第1の濃度センサS1の測定結果は60体積%を越えているのに対して、最下流側の位置での濃度を示す第8の濃度センサS8の測定結果は数体積%に過ぎない。また、10回目のパージの終了時点で最上流側の位置での濃度を示す第1の濃度センサS1の測定結果は既に100体積%に達しているのに対して、最下流側の位置での濃度を示す第8の濃度センサS8の測定結果はせいぜい90体積%である。
【0026】
パージ作業のおける好適な終了状態は、パージ対象となっている管1の最下流位置での濃度が95体積%に達することである。この実験例から、12回目のパージ終了時点で第8の濃度センサS8の測定結果は95体積%に達している。したがって、この実験例では、1回あたり約1分間のパージを12回繰り返すことで、管1のエアは十分に排除されたとみなされる。
【0027】
なお、12回目のパージ終了時点でのガスバッグ3に収納された混合気の濃度は80体積%であった。さらに3回のパージを行なうことにより、ガスバッグ3の濃度は95体積%となった。従って、ガスバッグ3の濃度は95体積%に達するまでパージ作業を行うとすれば、最下流位置での濃度センサS8による濃度が95体積%に達したのち、さらに数回のパージを行なうとよい。
【0028】
上述した実施形態では、1回の置換工程における置換流体の供給を時間で制限する形態を採用していたが、実質的には類似するが、これを、置換流体の供給量で制限する形態を採用してもよい。上流側の流体と下流側の流体との混合を抑えるために、この別実施形態では、1回の置換行程で置換流体を供給する量を、(0.065×Re×d)×((d/2)
2×π)以下に設定された設定置換量となるように制限する。つまり、置換工程において置換流体の供給量ないしは遮断手段からの流体の流出量が、設定置換量となった段階で遮断弁1Bを閉鎖する。この設定置換量は流量計を用いて測定することができる。また、設定置換量を容量とするガスバッグ3を用いた場合には、ガスバッグ3が満杯になるタイミングで遮断弁1Bを閉鎖し、ガスバッグ3を遮断弁1Bから取り外してパージガスを外部に放出することで、効果的なパージ作業を行うことができる。もちろん、ガスバッグ3の容量を設定置換量の整数倍とし、パージガスの外気放出を所定回数の基本置換操作工程終了毎に行うようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によるパージ方法は、層流状態の混入ガスで行なう必要がある、都市ガス以外のガスを含む種々のパージに適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1:分岐管(パージ対象となる配管)
1A:第1の遮断弁
1B:第2の遮断弁
2:ガス供給管
3:ガスバッグ