特許第5984670号(P5984670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5984670FDP測定用試薬及び試薬キット、並びに測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984670
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】FDP測定用試薬及び試薬キット、並びに測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20160823BHJP
   G01N 33/577 20060101ALI20160823BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20160823BHJP
   C12N 15/02 20060101ALI20160823BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   G01N33/53 L
   G01N33/577 B
   G01N33/543 581A
   C12N15/00 C
   C12P21/08
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-526572(P2012-526572)
(86)(22)【出願日】2011年7月28日
(86)【国際出願番号】JP2011067326
(87)【国際公開番号】WO2012014996
(87)【国際公開日】20120202
【審査請求日】2014年7月2日
(31)【優先権主張番号】特願2010-172279(P2010-172279)
(32)【優先日】2010年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】小林 克史
(72)【発明者】
【氏名】村上 真澄
(72)【発明者】
【氏名】杉本 眞由美
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−105633(JP,A)
【文献】 特開平11−349600(JP,A)
【文献】 特開2000−193663(JP,A)
【文献】 特開昭59−183696(JP,A)
【文献】 特開2001−354700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号NITE BP−950として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2010年6月1日付けで受託されたハイブリドーマにより産生される第1のモノクローナル抗体、
X画分及びD画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分及びY画分とは反応する第2のモノクローナル抗体、及び
D画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分、X画分及びY画分とは反応し、FDPに対する反応性が前記第1のモノクローナル抗体とは異なる第3のモノクローナル抗体
からなる群より選択される、FDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体を含むFDP測定用試薬。
【請求項2】
D画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分、X画分及びY画分とは反応する第1のモノクローナル抗体、
受託番号NITE BP−951として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2010年6月1日付けで受託されたハイブリドーマにより産生される第2のモノクローナル抗体、及び
D画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分、X画分及びY画分とは反応し、FDPに対する反応性が前記第1のモノクローナル抗体とは異なる第3のモノクローナル抗体
からなる群より選択される、FDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体を含むFDP測定用試薬。
【請求項3】
D画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分、X画分及びY画分とは反応する第1のモノクローナル抗体、
X画分及びD画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分及びY画分とは反応する第2のモノクローナル抗体、及び
受託番号NITE BP−952として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2010年6月1日付けで受託されたハイブリドーマにより産生される第3のモノクローナル抗体
からなる群より選択される、FDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体を含むFDP測定用試薬。
【請求項4】
受託番号NITE BP−950として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2010年6月1日付けで受託されたハイブリドーマにより産生される第1のモノクローナル抗体、
受託番号NITE BP−951として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2010年6月1日付けで受託されたハイブリドーマにより産生される第2のモノクローナル抗体、及び
受託番号NITE BP−952として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2010年6月1日付けで受託されたハイブリドーマにより産生される第3のモノクローナル抗体
からなる群より選択される、FDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体を含むFDP測定用試薬。
【請求項5】
前記2種のモノクローナル抗体のうち、一方のモノクローナル抗体を感作した第1担体および他方のモノクローナル抗体を感作した第2担体を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のFDP測定用試薬。
【請求項6】
前記第1担体および第2担体が、粒子である請求項に記載のFDP測定用試薬。
【請求項7】
緩衝液を含む第1試薬;並びに
請求項1〜4のいずれか1項に記載の、第1のモノクローナル抗体、第2のモノクローナル抗体及び第3のモノクローナル抗体からなる群より選択される、FDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体のうち、一方のモノクローナル抗体を感作した第1担体粒子および他方のモノクローナル抗体を感作した第2担体粒子の懸濁液を含む第2試薬;
を含むFDP測定用試薬キット。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の、第1のモノクローナル抗体、第2のモノクローナル抗体及び第3のモノクローナル抗体からなる群より選択される、FDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体のうち、一方のモノクローナル抗体を感作した第1担体粒子および他方のモノクローナル抗体を感作した第2担体粒子の懸濁液と、生体試料とを混合する工程と、
抗原抗体反応により生じる、前記担体粒子の凝集の度合を測定する工程と
を含むFDP測定方法。
【請求項9】
前記凝集の度合の測定が、吸光度の変化の測定である請求項8に記載のFDP測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリン及びフィブリノゲンの分解産物であるFDPを測定するための試薬及び試薬キット、並びにFDPを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
止血又は何らかの病的要因により、血管内又は組織に血栓(安定化フィブリン)が生じると、これを除去するために生体内では線溶反応が起こる。この血栓を溶解する線溶反応は二次線溶と呼ばれ、血栓中のフィブリンはプラスミンなどの酵素の作用により分解されて血中にフィブリン分解産物(FbnDP;二次線溶物)を生じる。一方、生体内では、血栓の形成を伴わずに起こる一次線溶と呼ばれる線溶反応も起こる。一次線溶では、フィブリノゲンがプラスミンなどの酵素の作用により分解されて血中にフィブリノゲン分解産物(FbgDP;一次線溶物)を生じる。これらフィブリン及びフィブリノゲンの分解産物は、FDP(fibrinogen and fibrin degradation products)と総称される。
【0003】
血中でのFDPの存在は、生体の線溶亢進を推測する指標となる。それゆえ、現在、血中のFDPの測定は、血栓、循環器障害、線溶亢進、異常出血などに関する疾患や播種性血管内凝固症候群(DIC)などの診断に利用されている。特に、DICの病態を分類するためには、FDPの種類に関わらず、総FDP量を測定することが求められている。
【0004】
血中のFDPの測定用試薬には従来から免疫学的手法が適用されており、例えば免疫比濁法を利用する試薬が市販されている。そのようなFDP測定用試薬として、抗ヒトフィブリノゲン抗体などのポリクローナル抗体を用いた試薬がある。ただし、この試薬を用いるFDP測定では、検体として血清など、フィブリノゲンが除去された生体試料を用いなければ、FDP測定値が擬似的に高値となってしまう。しかし、血清を調製する作業は煩雑である。また、PT(プロトロンビン時間)、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、Fbg(フィブリノゲン濃度)のような血液凝固検査では、検体として血漿を使用するので、臨床現場では、血漿を使用可能なモノクローナル抗体を用いた血漿FDP測定用試薬が好まれている(特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−38906号公報
【特許文献2】特公平7−46104号公報
【特許文献3】特許第3472138号公報
【特許文献4】特開2001−354700号公報
【特許文献5】特開2002−372536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血清を使用するFDP測定用試薬は、一次線溶物及び二次線溶物に対して均等に反応する。しかしながら、従来の血漿FDP測定用試薬では、用いられるモノクローナル抗体の、一次線溶物に対する反応性と二次線溶物に対する反応性との間に差が認められる。すわなち、従来の血漿FDP測定用試薬では、一次線溶物に対する反応性よりも、二次線溶物に対する反応性の方が高い傾向にある。
【0007】
一般に、生理的な条件下ではフィブリノゲンの分解は起こらない。したがって、FDP中には二次線溶物が大部分を占めるので、上記の反応性の差は、通常の測定では問題にはならない。しかし、DIC、急性全骨髄性白血病などの患者においては、血中のプラスミンの活性が過剰となって一次線溶が亢進した状態にある。すなわち、そのような状態の被験者から得られた生体試料には一次線溶物が含まれる。したがって、一次線溶物に対する反応性の低い従来の血漿FDP測定用試薬では、線溶亢進状態にある被験者の総FDP量を正確に測定できないおそれがある。
【0008】
本発明は、一次線溶物及び二次線溶物の両方に均一に反応することにより、線溶亢進状態にある被験者のFDPを正確に測定できる試薬及び試薬キットを提供することを目的とする。さらに、本発明は、該試薬及び試薬キットを用いるFDPの測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、FDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体を感作した担体粒子の懸濁液を含む試薬を用いることにより、該担体粒子が生体試料中の一次線溶物及び二次線溶物と均一に反応することを見出して、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明によれば、
D画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分、X画分及びY画分とは反応する第1のモノクローナル抗体、
X画分及びD画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分及びY画分とは反応する第2のモノクローナル抗体、及び
D画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分、X画分及びY画分とは反応し、FDPに対する反応性が第1のモノクローナル抗体とは異なる第3のモノクローナル抗体
から選択される、FDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体を感作した担体を含むFDP測定用試薬が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、緩衝液からなる第1試薬、及び上記のFDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体を感作した担体を含む第2試薬を含むFDP測定用試薬キットが提供される。
さらに、本発明によれば、上記のFDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体を感作した担体粒子の懸濁液と、生体試料とを混合する工程と、抗原抗体反応により生じる、前記担体粒子の凝集の度合を測定する工程とを含むFDP測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のFDP測定用試薬及び試薬キット、並びに測定方法によれば、従来のFDP測定用試薬では正確な測定が困難であった一次線溶物が含まれる生体試料についても、FDPを高精度に測定できる。
また、本発明のFDP測定用試薬及び試薬キット、並びに測定方法によれば、一次線溶物及び二次線溶物に対して均等に反応するので、検体として血清及び血漿の両方を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のFDP測定試薬の一次線溶物及び二次線溶物に対する反応性を示すグラフである。
図2】本発明のFDP測定試薬の一次線溶物と二次線溶物とに対する反応比率を示すグラフである。
図3】本発明のFDP測定試薬及び他社製品における、一次線溶物と二次線溶物とに対する反応比率の違いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「FDP」とは、フィブリン分解産物及びフィブリノゲン分解産物の両方を意味する。
本明細書において、「フィブリン分解産物」とは、二次線溶物とも呼ばれ、トロンビンなどの酵素の作用により血液中のフィブリノゲンが凝固されて形成されるポリマーである安定化フィブリンが、プラスミンなどの酵素によって分解されて生じるタンパク質群である。フィブリン分解産物としては、DD画分、DD/E画分、XDP画分などが挙げられる。XDP画分としては、DD/E画分の多量体、例えばDD/E画分の3量体であるDXD/YY画分、DD/E画分の5量体であるYXY/DXXD画分、DD/E画分の7量体であるDXXD/YXXY画分などが挙げられる。また、当該技術においては、XDP画分はDダイマーとも総称される。
本明細書において、「フィブリノゲン分解産物」とは、一次線溶物とも呼ばれ、血液中に存在するフィブリノゲンがプラスミンなどの酵素によって分解されて生じるタンパク質群である。フィブリノゲン分解産物としてはX画分、Y画分、D画分及びE画分が挙げられる。
【0015】
本明細書において、「FDPに対する反応性」は、抗FDPモノクローナル抗体が特異的に反応するFDPの種類により規定されるか、あるいは、抗FDPモノクローナル抗体を感作した担体と、FDPとの抗原抗体反応により生じる凝集の度合いにより規定される。
したがって、ある抗FDPモノクローナル抗体と、別の抗FDPモノクローナル抗体との間で、特異的に反応できるFDPの種類が互いに異なるとき、これらの抗体のFDPに対する反応性は互いに異なると決定される。また、互いに同じ種類のFDPと反応する場合は、ある抗FDPモノクローナル抗体を感作した担体と、別の抗FDPモノクローナル抗体を感作した担体とをそれぞれ用いたFDP測定において、凝集の度合いが互いに有意に異なるとき、これらの抗体のFDPに対する反応性は互いに異なると決定される。
【0016】
本発明のFDP測定用試薬(以下、本発明の試薬ともいう)に用いられるモノクローナル抗体は、FDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体である。そのようなモノクローナル抗体としては、以下の第1のモノクローナル抗体、第2のモノクローナル抗体及び第3のモノクローナルから少なくとも2種選択されることが好ましい。
第1のモノクローナル抗体は、D画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分、X画分及びY画分とは反応する抗体である。
第2のモノクローナル抗体は、X画分及びD画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分及びY画分とは反応する抗体である。
第3のモノクローナル抗体は、D画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分、X画分及びY画分とは反応し、FDPに対する反応性が第1のモノクローナル抗体とは異なる抗体である。
【0017】
本発明の試薬に含まれるモノクローナル抗体の組合せとしては、例えば「第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体」、「第1のモノクローナル抗体と第3のモノクローナル抗体」、「第2のモノクローナル抗体と第3のモノクローナル抗体」及び「第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体と第3のモノクローナル抗体」が挙げられる。
【0018】
上記の第1、第2及び第3のモノクローナル抗体は、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ウマなどのいずれの哺乳動物に由来する抗体であってもよいが、それらの中でもマウスが好ましい。また、抗体のアイソタイプはIgG、IgM、IgE、IgAなどのいずれであってもよい。抗体には、抗体のフラグメント及びその誘導体も含まれる。具体例としては、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメントなどが挙げられる。
【0019】
上記の第1、第2及び第3のモノクローナル抗体は、当該技術において公知の免疫学的手法により得ることができる。すなわち、抗原としてのFDP(一次線溶物及び/又は二次線溶物)と、アジュバントとを任意に混合して動物を免疫にし、該動物から取得したBリンパ球と適当な骨髄腫細胞とを融合してハイブリドーマを作製し、該ハイブリドーマの培養上清を精製することにより、モノクローナル抗体を得ることができる。
【0020】
具体的には、以下の方法により、本発明の試薬に用いられる第1、第2及び第3のモノクローナル抗体を得ることができる。
(抗原の取得)
抗原として用いるFDPは、プラスミンのようなフィブリン及びフィブリノゲンを分解できる酵素をフィブリン及びフィブリノゲンに作用させて得ることができる。なお、FDPの原料となるフィブリン及びフィブリノゲンは市販されている。また、フィブリンは、フィブリノゲンにトロンビン、第XIII因子及びカルシウム塩を作用させて得ることができる。
【0021】
(免疫方法)
上記のようにして得られる抗原を、アジュバントと任意に混合し、適当な緩衝液に溶解又は懸濁して得られる抗原液で、動物を免疫することができる。該抗原液中の抗原の濃度は、50〜500μg/ml程度が好ましい。抗原の免疫原性が低い場合は、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニンのようなキャリアータンパク質を任意に抗原と結合させてもよい。
【0022】
アジュバントとしては、当該技術において公知のアジュバントを用いることができる。そのようなアジュバントとしては、例えばフロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、Ribi(MPL)、Ribi(TDM)、Ribi(MPL + TDM)、百日咳ワクチン(Bordetella pertussis vaccine)、ムラミルジペプチド(MPD)、アルミニウムアジュバント(ALUM)及びこれらの組み合わせが挙げられる。初回免疫時にFCAを用い、追加免疫時にFIAやRibiアジュバントを用いる組み合わせが特に好ましい。
【0023】
免疫にする動物はマウス、ラット、ハムスター、ウマ、ヤギ、ウサギなどのいずれであってもよく、好ましくはマウス、より好ましくはBALB/cマウスである。
免疫法は、使用する抗原の種類やアジュバントの有無により適宜選択することができる。例えばマウスを用いる場合、アジュバント混合抗原液0.05〜1ml(抗原10〜200μg)を腹腔内、皮下、筋肉内又は尾静脈内に注射し、初回免疫から約4〜21日毎に1〜4回追加免疫を行い、さらに約1〜4週間後に最終免疫を行う。抗原量を多くして腹腔内注射することにより、抗原液にアジュバントを用いずに免疫を行ってもよい。追加免疫の約5〜10日後に血液を採取して抗体価を測定する。抗体価は、後述する抗体価アッセイのような当該技術において公知の方法にしたがって測定できる。最終免疫から約3〜5日後に、免疫された動物から脾臓を摘出し、脾臓細胞を分離して抗体産生細胞を得ることができる。
【0024】
(モノクローナル抗体の作製)
モノクローナル抗体は、当該技術において公知の方法、例えばKohler及びMilstein, Nature, 256, 495-497 (1975)に記載の方法にしたがって作製できる。
用いる骨髄腫細胞は、マウス、ラット、ヒトなどいずれの哺乳動物に由来する細胞であってもよく、例えばマウスミエローマP3X63-Ag8、P3X63-Ag8-U1、P3NS1-Ag4、SP2/o-Ag14、P3X63-Ag8・653などの株化骨髄腫細胞が挙げられる。骨髄腫細胞の中には免疫グロブリン軽鎖を産生する種類の骨髄腫細胞があり、これを融合対象として用いると、抗体産生細胞が産生する免疫グロブリン重鎖とこの軽鎖とがランダムに結合することがある。したがって、免疫グロブリン軽鎖を産生しない骨髄腫細胞、例えばP3X63-Ag8・653、SP2/o-Ag14などを用いるのが好ましい。抗体産生細胞と骨髄腫細胞とは、同種動物、特に同系統の動物由来の細胞が好ましい。
【0025】
抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを作製する方法としては、ポリエチレングリコール(PEG)を用いる方法、センダイウイルスを用いる方法、電気融合装置を用いる方法などが挙げられる。PEGを用いる場合、約30〜60%のPEG(平均分子量1000〜6000)を含む適当な培地又は緩衝液中に脾臓細胞と骨髄腫細胞とを1〜10:1、好ましくは5〜10:1の混合比で懸濁し、温度約25〜37℃、pH6〜8の条件下で約30秒〜3分間程度反応させればよい。反応終了後、細胞を洗浄し、PEG含有溶液を除いて培地に再懸濁し、マイクロタイタープレート上に播種して培養する。
【0026】
上記のようにして融合させた細胞を選択培地上で培養して、ハイブリドーマの選択を行うことができる。選択培地としては、融合細胞のみが増殖し得る培地であればよく、例えばヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)培地が用いられる。ハイブリドーマの選択は、通常、細胞融合の1〜7日後に培地の一部、好ましくは約半量を選択培地と交換し、さらに2〜3日毎に同様にして培地交換を繰り返しながら培養し、培養終了後、顕微鏡観察によりハイブリドーマのコロニーが生育しているウェルを選択することにより行うことができる。
【0027】
このようにして得られたハイブリドーマが所望の抗体を産生しているか否かは、そのハイブリドーマの培養上清を採取して、抗体価アッセイを行うことにより確認できる。抗体価アッセイは当該技術において公知の方法により行うことができる。例えば、固相に固定化した抗原タンパク質に段階希釈した培養上清を添加し、さらに蛍光物質、酵素又は放射性同位体(RI)で標識した二次抗体(抗グロブリン抗体、抗IgG抗体、抗IgM抗体など)を反応させることにより抗体を検出できる。
【0028】
上記の抗体価アッセイにより所望の抗体を産生していることが確認されたハイブリドーマは、限界希釈法、軟寒天法、蛍光励起セルソーターを用いる方法などにより、単一クローンを分離できる。例えば限界希釈法の場合、ハイブリドーマのコロニーを1細胞/ウェル程度となるように培地で段階希釈して培養することにより、目的とする抗体を産生するハイブリドーマを単離できる。
【0029】
ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の取得方法は、モノクローナル抗体の必要量やハイブリドーマの性状により適宜選択できる。例えば、該ハイブリドーマを移植したマウスの腹水から取得する方法、細胞培養により培養上清から取得する方法などが挙げられる。マウスの腹腔内で増殖可能なハイブリドーマであれば、腹水から数mg/mlの高濃度のモノクローナル抗体を得ることができる。インビボで増殖できないハイブリドーマの場合には、細胞培養の培養上清からモノクローナル抗体を取得できる。この場合、抗体産生量は低いが、免疫グロブリンや他の夾雑物の混入が少ないので精製が容易である。
【0030】
ハイブリドーマを移植したマウス腹腔内から抗体を取得する場合、例えばプリスタン(2, 6, 10, 14-テトラメチルペンタデカン)のような免疫抑制作用を有する物質を予め投与したBALB/cマウスの腹腔内へハイブリドーマ(約1×106個以上)を移植し、約1〜3週間後に貯留した腹水を採取する。異種ハイブリドーマを移植する場合には、ヌードマウス、放射線処理マウスなどを用いるのが好ましい。
【0031】
細胞培養上清から抗体を取得する場合、例えば細胞維持に用いられる静置培養の他に、高密度培養法又はスピナーフラスコ培養法などによりハイブリドーマを培養して、抗体を含有する培養上清を得ることができる。培地に血清を添加すると、他の抗体やアルブミンなどの夾雑物が含まれることとなり、抗体の精製が煩雑になることが多いので、培地への血清の添加量は可能な限り少なくするのが好ましい。ハイブリドーマを慣用の方法により無血清培地に馴化させ、無血清培地で培養することがより好ましい。これにより、抗体精製が容易になる。
【0032】
腹水や培養上清からのモノクローナル抗体の精製は、公知の方法により行うことができ、例えば硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩を用いる塩析による分画法、ポリエチレングリコール分画法、エタノール分画法、DEAEイオン交換クロマトグラフィー法、ゲルろ過クロマトグラフィー法などに基づく方法が挙げられる。
【0033】
目的の抗体がマウスIgGである場合、プロテインA結合担体又は抗マウスイムノグロブリン結合担体を用いたアフィニティークロマトグラフィー法を用いて抗体を精製できる。
【0034】
本発明の試薬に用いられる第1のモノクローナル抗体としては、例えば受託番号NITE BP−950として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292−0818、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に2010年6月1日付けで受託されたハイブリドーマ「FDP3−797」により産生される抗体(以下、「FDP3-797抗体」ともいう)が挙げられる。
本発明の試薬に用いられる第2のモノクローナル抗体としては、例えば受託番号NITE BP−951として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292−0818、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に2010年6月1日付けで受託されたハイブリドーマ「FDP3−2935」により産生される抗体(以下、「FDP3-2935抗体」ともいう)が挙げられる。
本発明の試薬に用いられる第3のモノクローナル抗体としては、例えば受託番号NITE BP−952として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292−0818、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に2010年6月1日付けで受託されたハイブリドーマ「DD−M1051」により産生される抗体(以下、「DD-M1051抗体」ともいう)が挙げられる。
【0035】
本発明の試薬において、各モノクローナル抗体の間の濃度比は、特に限定されず、当業者が適宜決定できる。
【0036】
本発明の試薬は、上記の第1、第2及び第3のモノクローナル抗体から選択される、FDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体を感作した担体を含む。そのような担体としては、有機高分子化合物、無機化合物、赤血球などが挙げられる。有機高分子化合物としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、セルロース、ラテックス、ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレートなどが挙げられる。無機化合物としては、シリカ、アルミナなどが挙げられる。
【0037】
上記の担体の形状は特に限定されず、球状、平面状などいずれの形状であってもよい。球状である場合、担体粒子の平均径は測定機器などに応じて適宜選択できるが、通常0.05〜0.5μmが適当である。粒子の材質としては、ラテックスが特に好ましい。
【0038】
第1、第2及び第3のモノクローナル抗体を担体に感作する方法としては、当該技術において公知の物理的吸着法及び化学的結合法のいずれであってもよいが、操作が簡便であるので物理的吸着法が好ましい。
【0039】
上記の担体が粒子の場合、該担体粒子は、上記の2種または3種のモノクローナル抗体が感作された担体粒子であってもよいし、各モノクローナル抗体がそれぞれ個別に感作された担体粒子の混合物であってもよい。第1、第2及び第3のモノクローナル抗体の間で担体粒子への感作条件が互いに異なる場合は、各抗体を個別に担体粒子に感作することが好ましい。
【0040】
上記の担体粒子がラテックス粒子である場合、上記のモノクローナル抗体を感作した担体粒子は適当な緩衝液に懸濁されてなる。懸濁液中のラテックス粒子の濃度は、好ましくは0.5〜10 mg/ml、より好ましくは0.75〜5mg/mlである。また、該懸濁液中のモノクローナル抗体の総濃度は、好ましくは10〜100μg/ml、より好ましくは20〜50μg/mlである。
【0041】
上記の緩衝液としては、pH5〜10、好ましくはpH6〜9にて緩衝作用を有する緩衝液が挙げられる。具体的には、例えばリン酸緩衝液、イミダゾール緩衝液、トリエタノールアミン−塩酸、グッド緩衝液などが挙げられる。グッド緩衝液としては、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、Bis-Tris-Propane、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPSなどの緩衝液が挙げられる。それらの中でもMOPSOが好ましい。
【0042】
上記の緩衝液は、タンパク質安定化剤(例えばBSAなど)、防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、フェニルメタンスルホニルフルオリドなど)、pH調整剤、増感剤(例えばポリビニルピロリドン、ポリアニオン、ポリエチレングリコール、多糖類など)、無機塩(例えば塩化ナトリウム、塩化カルシウムなど)、バックグラウンド抑制剤(例えばヒト抗マウス抗体(HAMA)吸収剤など)などの添加物をさらに含み得る。
【0043】
本発明の試薬の一実施形態として、FDP測定用試薬キット(以下、本発明の試薬キットともいう)が挙げられる。本発明の試薬キットは、緩衝液からなる第1試薬と、上記の第1、第2及び第3のモノクローナル抗体から選択される少なくとも2種のモノクローナル抗体を感作した担体粒子の懸濁液を含む第2試薬とを含む。
本発明の試薬キットは、イムノアッセイ、例えば上記の少なくとも2種のモノクローナル抗体を感作したラテックス粒子と、生体試料中のFDPとを反応させるアッセイ(ラテックス凝集法)などにより、該試料中のFDPを検出するための試薬キットである。
本発明の試薬キットに用いられる第1、第2及び第3のモノクローナル抗体の一例としては、それぞれFDP3-797抗体、FDP3-2935抗体及びDD-M1051抗体が挙げられる。
【0044】
本発明の試薬キットの形態は、上記のとおり第1試薬と第2試薬とからなる2試薬型の形態であるが、1つの試薬からなる1試薬型の形態であってもよい。測定精度の観点などから、試薬キットの形態としては第1試薬と第2試薬とからなる2試薬型が好ましい。より好ましくは、本発明の試薬キットは、緩衝液を含む第1試薬と、上記の本発明のFDP測定用試薬からなる第2試薬とを含む形態である。
【0045】
本発明の試薬キットを構成する第1試薬に用い得る緩衝液としては、本発明の試薬において担体粒子の懸濁に用い得る緩衝液と同じ緩衝液が挙げられる。第1試薬は、上記のタンパク質安定化剤、防腐剤、pH調整剤、増感剤、無機塩などの添加物を含んでいてもよい。
【0046】
本発明のFDP測定方法は、本発明のFDP測定用試薬又は試薬キットを用いることで実施可能である。本発明のFDP測定方法の一実施形態として、本発明のFDP測定用試薬キットを用いて生体試料中のFDPを測定する方法について、以下に具体的に説明する。
まず、緩衝液を含む第1試薬と生体試料とを混合してインキュベートする。ここで、生体試料としては被験者から得られる血清、血漿、尿などが挙げられる。第1試薬と生体試料とを混合する際の容量比は、5:1〜50:1程度であればよい。また、インキュベート時間は1〜10分間程度であればよい。
【0047】
次いで、第1試薬と生体試料との混合物に、上記の第1、第2及び第3のモノクローナル抗体から選択される少なくとも2種のモノクローナル抗体を感作した担体粒子の懸濁液を含む第2試薬を添加する。該混合物と第2試薬とを混合する際の容量比は、1:0.05〜1:1.5程度であればよい。
【0048】
第2試薬を添加して混合すると、抗原抗体反応によりFDPと第2試薬中の担体粒子との凝集が生じる。この凝集の度合いを、1分間当たりの吸光度の変化量として測定する。この測定は、散乱光強度、吸光度又は透過光強度を測定可能な光学機器で行うことが好ましい。また、測定波長は300〜2400 nm、好ましくは300〜1000 nm、より好ましくは500〜1000nmの範囲から適切な波長を選択できる。
生体試料中のFDPの濃度及び/又は量は、濃度既知のFDP標準物質の測定により得られる検量線を用いて、測定した吸光度の変化量から算出できる。
【0049】
本発明の試薬キットでは、第1試薬と第2試薬とを混合した後、両試薬の混合物に生体試料を添加して担体粒子の凝集の度合いを光学的に測定する方法にも利用可能である。
なお、本発明のFDP測定方法に用いられる第1、第2及び第3のモノクローナル抗体の一例として、それぞれFDP3-797抗体、FDP3-2935抗体及びDD-M1051抗体が挙げられる。
【0050】
以下に、実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0051】
試験例1:各モノクローナル抗体の反応性の検討
第1、第2及び第3のモノクローナル抗体として、それぞれFDP3-797抗体、FDP3-2935抗体及びDD-M1051抗体を用いて、各抗体のフィブリン及びフィブリノゲン分解産物に対する反応性の違いを、以下のようなELISA法により検討した。
【0052】
(1)FDPの調製
(7-1)フィブリノゲン分解産物(FbgDP)の調製
フィブリノゲン(Sigma社)241 mg(39.7 mg/ml)に、プラスミン(Sigma社)を終濃度60 mU/mlとなるように添加して、37℃で8時間反応させた。その後、アプロチニンを終濃度1U/mlとなるように加えて、分解反応を停止させた。得られた反応液を12000×gで20分間遠心し、得られた上清を、50 mMトリス緩衝液(pH7.4)で平衡化したリジン-sepharose 4Bカラム(ボリューム8ml)に充填してクロマトグラフィーを行った後、スピンカラムにてセファロースを除き、FbgDP溶液を調製した。得られたFbgDP溶液のタンパク質濃度を、タンパク質定量試薬(Bio-Rad社)を用いて測定した。また、FbgDP溶液の一部を、後述する本発明のFDP測定用試薬のFDPへの反応性の確認に用いた。
得られたFbgDP溶液を、限外ろ過用遠心チューブ(アミコン15 50K;ミリポア社)によりサンプル緩衝液(62.5 mM Tris、192 mMグリシン、1%SDS(pH6.8))で2回置換した。得られた溶液をSephacryl S-300(GE Healthcare社)に充填し、ペリスタポンプを用いて流速70〜80μl/分で流して、10分ごとにフラクションを回収した。得られた各フラクションについて分子量マーカーを用いるSDS-PAGEにより解析して、X画分、Y画分及びD画分が含まれるフラクションをそれぞれ回収した。これをアミコン15 50K(ミリポア社)によりリン酸緩衝液(PBS)で2回置換して、FbgDP抗原とした。
【0053】
(1-2)フィブリン分解産物(FbnDP)の調製
フィブリノゲン(Sigma社)92 mg(23 mg/ml)に、塩化カルシウム、ヒトトロンビン(三菱ウェルファーマ社)及び第XIII因子(ニプロ社)をそれぞれ終濃度25 mM、4U/ml及び0.05 U/mlとなるよう加え、37℃で一晩反応させて、フィブリノゲンをフィブリンに変換させた。反応液中に生じたフィブリンゲルをトリス緩衝液(TBS(pH7.4))50 mlで洗浄し、4℃、3000×gで10分間遠心し、フィブリンゲルを回収した。この操作を2度繰り返した後、50 mlシリンジを用いてフィブリンゲルを砕いた。フィブリンゲルをTBS(pH7.4)4.6 mlに再懸濁した。懸濁液にプラスミンを終濃度75 mU/mlとなるように添加して、37℃で6時間反応させた。その後、アプロチニンを終濃度1U/mlとなるように加えて、分解反応を停止させた。得られた反応液を12000×gで20分間遠心し、得られた上清を、50 mMトリス緩衝液(pH7.4)で平衡化したリジン-sepharose 4Bカラム(ボリューム3.5 ml)に充填してクロマトグラフィーを行った後、スピンカラムにてセファロースを除き、FbnDP溶液を調製した。得られたFbnDP溶液のタンパク質濃度を、タンパク質定量試薬(Bio-Rad社)を用いて測定した。また、FbnDP溶液の一部を、後述する本発明のFDP測定用試薬のFDPへの反応性の確認に用いた。
【0054】
得られたFbnDP溶液を、限外ろ過用遠心チューブ(アミコン15 50K;ミリポア社)によりサンプル緩衝液(62.5 mM Tris、192 mMグリシン、1%SDS(pH6.8))で3回置換した。得られた溶液をSephacryl S-300(GE Healthcare社)に充填し、ペリスタポンプを用いて流速2ml/分で流して30秒ごとにフラクションを回収した。得られた各フラクションについて、分子量マーカーを用いるSDS-PAGEにより解析して、XDP画分、DD/E画分、DD画分が含まれるフラクションをそれぞれ回収した。これをアミコン15 50K(ミリポア社)によりリン酸緩衝液(PBS)で2回置換して、FbnDP抗原とした。
【0055】
各抗FDPモノクローナル抗体溶液をPBSで0.5μg/mlに希釈し、それぞれ100μlずつ96穴マイクロタイタープレートのウェルに分注し、4℃で18時間静置した。その後、0.05%Tween20含10 mMリン酸緩衝液(pH7.0)(以下、洗浄液と称する)でウェルを3回洗浄した。続いて、ウェルに1%BSA含10 mMリン酸緩衝液(以下、ブロッキング緩衝液と称する)を満たし、抗FDPモノクローナル抗体の抗体固相を得た。
ウェルを洗浄液で3回洗浄した後、該抗体固相の各ウェルに、上記で調製したFbgDP各抗原及びFbnDP各抗原を100μlずつ加え、室温で30分間反応させた。反応終了後、ウェルを洗浄液で3回洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識抗フィブリノゲン抗体(DAKO社)を100μlずつ各ウェルに加え、室温で1時間反応させた。反応終了後、ウェルを洗浄液で3回洗浄した後、ODP基質液(国際試薬株式会社)を100μlずつ各ウェルに加え、室温で15分間反応させた。続いて、2N硫酸を100μlずつ各ウェルに加えて、反応を停止し、490 nmにおける吸光度を測定した。
結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1において「+」は抗体が画分に対して反応することを示し、「−」は抗体が画分に対して反応しないことを示す。
表1より、FDP3-797抗体及びDD-M1051抗体は、D画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分、X画分及びY画分とは反応することがわかった。また、FDP3-2935抗体は、X画分及びD画分とは反応しないが、XDP画分、DD/E画分、DD画分及びY画分とは反応することがわかった。
【0058】
実施例1:FDP測定用試薬及び試薬キットの製造
(1)緩衝液を含む第1試薬の製造
各試薬を表2に示される終濃度となるように混合した緩衝液を、1M水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.1に調整した後、超純水で1リットルにメスアップすることにより緩衝液を製造した。
【0059】
【表2】
【0060】
(2)抗FDPモノクローナル抗体を感作した担体粒子の懸濁液を含むFDP測定用試薬の製造
(2-1)FDP3-797抗体のラテックス粒子への感作
FDP3-797抗体の終濃度が1mg/mlとなるように、50 mM 2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸/150 mM NaCl溶液に混合した。そして、この混合液と20%(重量比)ラテックス懸濁液(粒径0.238μm;JSR株式会社)とを混合した。
得られた混合液に、50 mM 2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸/150 mM NaCl溶液/2%BSA溶液を等量加えて混合した後、10℃、38400×gで30分間遠心した。上澄みを除去し、得られた沈殿物に、上澄みと等量の50 mM 2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸/150 mM NaCl溶液/2%BSA/1.5%シュークロース溶液を添加して混合した。
得られた混合液を、氷冷条件で超音波破砕機(大岳社製)、超音波処理装置(Dr. Hielscher Gmbh UP-200S相当品)を用いソニケーションを実施し、FDP3-797抗体を感作したラテックス粒子の懸濁液(抗体濃度39μg/ml)を得た。
【0061】
(2-2)FDP3-2935抗体のラテックス粒子への感作
FDP3-2935抗体の終濃度が1mg/mlとなるように、50 mM 2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸/150 mM NaCl溶液に混合した。以下、上記の(2-1)FDP3-797抗体のラテックス粒子への感作において述べたことと同様にして、FDP3-2935抗体を感作したラテックス粒子の懸濁液(抗体濃度39μg/ml)を得た。
【0062】
(2-3)DD-M1051抗体のラテックス粒子への感作
DD-M1051抗体の終濃度が1mg/mlとなるように、50 mM 2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸/150 mM NaCl溶液に混合した。以下、上記の(2-1)FDP3-797抗体のラテックス粒子への感作において述べたことと同様にして、DD-M1051抗体を感作したラテックス粒子の懸濁液(抗体濃度39μg/ml)を得た。
【0063】
(2-4)第2試薬の製造
ここで、FDP3-797抗体、FDP3-2935抗体及びDD-M1051抗体の各抗体を感作したラテックス粒子の懸濁液を、後述する図1及び図2において、それぞれA、B及びCと称する。これらの懸濁液を、「AとB」(図1及び図2のA/B)、「AとC」(図1及び図2のA/C)、「BとC」(図1及び図2のB/C)及び「AとBとC」(図1及び図2のA/B/C)の組み合わせでそれぞれ等量混合することにより、2種又は3種のモノクローナル抗体を感作した担体粒子を含むFDP測定用試薬を得た。以下、これらのFDP測定用試薬を第2試薬とした。
【0064】
実施例2:ラテックス凝集法による本発明のFDP測定用試薬のFDPへの反応性の確認
上記の実施例1で製造したFDP測定用試薬のフィブリン分解物及びフィブリノゲン分解産物に対する反応比率を、以下の手順によるラテックス凝集法により検討した。
上記の試験例1で調製したFbgDP溶液をTBSバッファーで希釈して、FbgDP検体(タンパク質濃度100μg/ml)とした。FbnDP溶液についても同様にして、FbnDP検体(タンパク質濃度100μg/ml)を調製した。
FbgDP及びFbnDPの各検体6μlの等量混合物と、上記の実施例1(1)で調製した第1試薬84μlとを混合し、37℃で20秒間反応させた。得られた反応液と、上記の実施例1(2)で調製した各第2試薬84μlとを混合し、ラテックス凝集反応を開始させた。反応開始から1分後及び2分後の波長800 nmにおける吸光度を、CS-2000i(シスメックス株式会社)を用いて測定した。これらの測定結果から、1分間あたりの吸光度の変化量を求めた。また、FbgDP及びFbnDPのそれぞれに対する反応性から反応比率を算出した。これらの結果をそれぞれ図1および図2に示す。
【0065】
図1において、FDP3-797抗体/FDP3-2935抗体の組み合わせ(図1のA/B)と、FDP3-2935抗体/DD-M1051抗体の組み合わせ(図1のB/C)とを比較すると、吸光度の変化量が互いに異なることから、FDP3-797抗体とDD-M1051抗体とは、FDPに対する反応性が互いに異なる抗体であることが示された。
したがって、上記の実施例1(2)で製造したFDP測定用試薬は、FDPに対する反応性が互いに異なる少なくとも2種のモノクローナル抗体を感作した担体粒子を含む試薬である。
また、図2より、いずれの抗体の組合せの測定試薬においても、FbgDPとFbnDPとに対しておおむね均一に反応することがわかった。これにより、本発明のFDP測定用試薬及び試薬キットは、一次線溶物が含まれる生体試料についてもFDPを高精度に測定可能であることが示された。
【0066】
実施例3:本発明のFDP測定用試薬キットと他社製品との比較
上記の実施例1で製造した本発明のFDP測定用試薬キットと、他社製品とを用いて血漿中のFDPを測定した。
本発明のFDP測定用試薬キットの第1試薬として、上記の実施例1(1)で製造した試薬を用いた。また、第2試薬として、上記の実施例1(2)で製造した、3種の抗体をそれぞれ個別に感作したラテックス粒子の懸濁液を含む試薬を用いた。また、検体としては、上記の実施例2で用いたFbgDP検体とFbnDP検体との等量混合物をパネル血漿として用いた。
【0067】
各検体6μlと第1試薬84μlとを混合し、37℃で20秒間反応させた。得られた反応液と、第2試薬84μlとを混合して、ラテックス凝集反応を開始させた。他社製品A〜Cについても、各製品に添付のマニュアルに従ってパネル血漿と試薬とを混合してラテックス凝集反応を開始させた。反応開始から1分後及び2分後の波長800 nmにおける吸光度をCS-2000iを用いて測定した。これらの測定結果から、各群について1分間あたりの吸光度の変化量を求めた。そして、FbgDP及びFbnDPのそれぞれに対する反応性から反応比率を算出した。結果を図3に示す。
【0068】
図3より、本発明のFDP測定用試薬ではFbgDP及びFbnDPに対して均一に反応したが、他社製品ではFbgDPよりもFbnDPに対して強い反応性を示すことがわかった。
よって、本発明のFDP測定用試薬及び試薬キットでは、他社製品に比べて、一次線溶物が含まれる生体試料についてもFDP濃度をより高精度に測定可能であることが示された。
【0069】
本出願は、2010年7月30日に出願された日本国特許出願特願2010−172279号に関し、これらの特許請求の範囲、明細書、図面及び要約書の全ては本明細書中に参照として組み込まれる。
図1
図2
図3