(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1貫通穴は、前記複数の貫通穴のうち、前記板部材の前記治具配置エリアを複数の格子に分割する縦方向の仮想縦分割線と横方向の仮想横分割線との各交点に最も近い貫通穴であることを特徴とする請求項4に記載の穴あけ加工方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、穴あけ加工に用いられるツールとして、高速加工が可能な超硬ドリルが知られている。超硬ドリルはハイスドリルよりも高回転であるため加工時間の短縮化が図れるものの、ドリル挿入時の振動が大きく、板部材の跳ね上がりが発生しやすい。また、超硬ドリルの刃は剛性が高く且つ靭性が低いことから高精度の加工が可能であるが、板部材の跳ね上がり等によって刃先の折損等の不具合が生じやすい。そこで、超硬ドリルのように加工条件の厳しい穴あけツールであっても、円滑な穴あけ加工を可能とした板部材の固定方法が求められている。
【0007】
これに対して、特許文献1のように板部材の周囲をクランプで固定するのみでは、加工ポイント周辺の拘束力が弱く、板部材の剛性を十分に確保することは難しい。そのため、穴加工時に板部材の振動や跳ね上がりが発生し、貫通穴の精度に影響を及ぼすとともに刃先の折損等の不具合が生じやすい。なお、特許文献1では複数の板部材の間にスペーサを介装しているが、これは穴の面取りに必要となるもので固定を目的としたものではない。板部材の固定の観点からみても、スペーサは穴あけツール挿入時の反力を支持するのみで拘束力を向上させるものではなく、板部材の跳ね上がりが発生する可能性は回避できない。特許文献2及び3においても、板部材の一方の面からシリンダ又は押圧部材で押圧するのみでは板部材の拘束力が十分ではなく、跳ね上がりが発生するおそれがある。
また、特許文献2では、管板の下部にスペーサを敷く構成となっており、穴数が少なく四角ピッチ等の単純な穴配列でない限り、穴あけツールとスペーサが干渉するおそれがあり、スペーサの配置が困難となる。したがって、例えば復水器の管板や管支持板等のように穴配列が複雑で多数の貫通穴を有する板部材の穴あけ加工に適用することは難しい。同様に、特許文献3でも、板部材の全幅に亘って吸収部材を配置しているため、板部材の穴配列によってはその適用が困難となる。
さらに、特許文献3では、加工ポイント毎に押圧部材による押圧操作を行う必要があり、加工時間が長くなるという問題や、穴あけ加工時に発生する切粉が板部材と押圧部材の押さえ足との間に挟まる可能性があり、その場合押圧操作に不具合が生じるという問題もある。
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態の目的は、任意の穴配列の貫通穴を形成でき、且つ、精密な貫通穴の形成が可能であるとともに穴あけツールに折損等のトラブルが発生することを回避できる穴あけ加工方法及び穴あけ加工用治具、並びに熱交換器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態に係る穴あけ加工方法は
、穴あけツールを有する工作機械を用いて板部材に複数の貫通穴を形成する穴あけ加工方法であって、クリアランス穴を有する少なくとも一つの治具を前記工作機械のベッド上に固定する第1ステップと、前記少なくとも一つの治具上に前記板部材を載置し、前記板部材をクランプで前記ベッドに固定する第2ステップと、前記板部材を貫通した前記穴あけツールの先端部が前記クリアランス穴に挿入されるように前記工作機械を動作させ、前記板部材の前記クリアランス穴に対応する位置に前記複数の貫通穴のうち第1貫通穴を形成する第3ステップと、前記第1貫通穴に固定部材を挿通し、該固定部材によって前記板部材を前記少なくとも一つの治具に固定する第4ステップと、前記第4ステップの後、前記工作機械を動作させて前記複数の貫通穴のうち前記第1貫通穴以外の第2貫通穴を形成する第5ステップとを備えることを特徴とする。
一実施形態では、前記穴あけツールは、超硬ドリルを備えている。
なお、本明細書における“クリアランス穴”は、穴あけツールの外形との間に隙間が形成されるようなサイズの穴であればその形状は限定されず、例えば、丸穴、矩形穴を含む多角形穴等の種々の形状の穴であってもよい。
【0010】
上記穴あけ加工方法によれば、穴あけツール挿入時の板部材の振動や跳ね上がり等を抑制することによって、高速で穴あけ加工を行うことができ、加工時間の短縮化が図れる。また、任意の穴配列の貫通穴を形成でき、精密な貫通穴の形成が可能であるとともに穴あけツールに折損等のトラブルが発生することを回避できる。
【0011】
幾つかの実施形態では、前記第1ステップでは、前記工作機械の加工原点を基準として前記少なくとも一つの治具を位置決めし、前記少なくとも一つの治具を前記ベッド上に固定し、前記第2ステップでは、前記加工原点を基準として前記板部材を位置決めし、前記少なくとも一つの治具上に前記板部材に載置する。
この実施形態では、工作機械の加工原点を基準として少なくとも一つの治具を位置決めし、さらにこの加工原点を基準として板部材も位置決めするようにしたので、板部材に対して所定の位置関係で少なくとも一つの治具を高精度に配置することができる。
【0012】
幾つかの実施形態では、前記第2ステップでは、前記板部材のうち、前記少なくとも一つの治具の治具配置エリアの外周側を前記クランプで前記ベッドに固定し、前記第3ステップでは、前記少なくとも一つの治具によって前記板部材の前記治具配置エリアを下方から支えるとともに、前記クランプによって前記板部材の外周側を固定しながら前記第1貫通穴を形成する。
このように、治具配置エリアの外周側を固定するクランプによって板部材の拘束力を確保しながら治具配置エリアを下方から支える治具によって板部材の反力を受けるようにしたので、板部材の中央部に多数の貫通穴が位置する場合であっても、適切に穴あけ加工を行うことができる。なお、第1貫通穴および第2貫通穴が配列された領域を、治具配置エリアと呼ぶ。
【0013】
幾つかの実施形態では、前記第1貫通穴は、前記複数の貫通穴のうち、前記板部材の前記治具配置エリアを複数の格子に分割する縦方向の仮想縦分割線と横方向の仮想横分割線との各交点に最も近い貫通穴である。
これにより、板部材の中央部の治具配置エリアに略均等な間隔で治具が配置されるので、治具配置エリアの板部材の剛性を略均一に向上させることができ、より適切に穴あけ加工を行うことができる。
【0014】
本発明の少なくとも一実施形態に係る穴あけ加工用治具は、穴あけツールを有する工作機械を用いた板部材への複数の貫通穴の形成作業を補助するための穴あけ加工用治具であって、前記工作機械のベッド上に固定可能に構成されたベース部と、前記板部材の下面に上部が当接するように構成され、前記ベース部に下部が接続されるスタンド部とを備え、前記スタンド部の前記上部には、前記貫通穴を貫通した前記穴あけツールの先端部が挿入可能なクリアランス穴が形成されており、前記クリアランス穴の下方において、前記貫通穴及び前記クリアランス穴に挿通された前記板部材の固定用の固定部材を係止するための係止部が設けられたことを特徴とする。
【0015】
上記穴あけ加工用治具によれば、ベッド上にベース部を固定し、板部材をスタンド部上に載置した状態で、穴あけツールを用いて板部材の穴あけ加工を行うことによって、穴あけツール挿入時の反力をスタンド部で受けることができる。また、板部材固定用の固定部材を、板部材の貫通穴およびスタンド部のクリアランス穴に挿通させた状態で加工用治具に係止することによって、加工用治具を介して板部材をベッド側に固定できる。これにより、板部材の剛性を向上できることから、他の貫通穴の形成時に板部材の振動や跳ね返りを抑制でき、精密な貫通穴の形成が可能となるとともに穴あけツールに折損等トラブルが発生することを防止できる。
【0016】
幾つかの実施形態では、前記係止部は、谷部が前記貫通穴の内径よりも小径であり、前記固定部材に設けられた雄ねじに螺合する雌ねじである。
このように、スタンド部に形成され貫通穴の内径よりも小径である雌ねじに固定部材が係止されるように構成することで、雄ねじが形成された固定部材を、板部材の貫通穴及びクリアランス穴を介して雌ねじに螺合することによって、板部材をベッドに固定することができる。
【0017】
幾つかの実施形態では、前記クリアランス穴は、前記貫通穴の内径より大きい内径を有する。
このように、スタンド部の上部にクリアランス穴が形成されているので、貫通穴を貫通した穴あけツールの先端部によりスタンド部が削られることを阻止できる。
【0018】
幾つかの実施形態では、前記スタンド部の前記下部には、前記雌ねじの下方に空洞部が形成されており、前記空洞部に連通し、前記板部材への前記貫通穴の加工によって生じる切粉を排出するための切粉排出口が前記スタンド部又は前記ベース部に設けられている。
このように、スタンド部の下部に、穴あけ加工によって発生した切粉を溜める空洞部を設けるとともに、スタンド部又はベース部に、空洞部に溜まった切粉を排出する切粉排出口を設けるようにしたので、穴あけ加工によって発生した切粉を穴あけ加工用治具から外部へ円滑に排出することができる。
【0019】
幾つかの実施形態では、前記ベース部は、前記スタンド部に直交する方向に沿って延在しており、前記ベース部には、前記ベース部を前記ベッド上に締結するための締結部材の先端部が挿通可能なスリット又は長穴が前記ベース部の延在方向に沿って形成されている。
これにより、ベース部に形成されたスリット又は長穴の長手方向に対する固定部材の位置を調整することによって、ベース部に対する穴あけ加工用治具の取り付け位置を微調整できる。
【0020】
本発明の少なくとも一実施形態に係る熱交換器は、請求項1乃至4の何れか一項に記載の穴あけ加工方法によって前記貫通穴が形成された前記板部材からなる管板又は管支持板を備えている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、高速で穴あけ加工を行うことができ、加工時間の短縮化が図れる。また、任意の穴配列の貫通穴を形成でき、且つ、穴あけツール挿入時の板部材の振動や跳ね上がり等を抑制することによって、精密な貫通穴の形成が可能であるとともに穴あけツールに折損等のトラブルが発生することを回避できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、実施形態として以下に記載され、あるいは、実施形態として図面で示された構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0024】
図1は、本発明の実施形態が適用される復水器の管板を模式的に示す平面図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る工作機械の概略構成を示す側面図である。
図3は、本発明の一実施形態に係る穴あけ加工用治具及びクランプ機構を示す側面図である。
図4は、クランプ機構の他の構成例を示す側面図である。
以下、本実施形態では、加工対象である板部材80として復水器の管板を例示しているが、加工対象物はこれに限定されるものではなく、複数の貫通穴を形成すべき板部材80であれば何れであってもよい。
【0025】
図1に示すように、板部材80である管板には、伝熱管が貫通する貫通穴81,82が多数形成される。管板において、貫通穴81,82(又は貫通穴の形成予定箇所)が多数配列された穴配列は、通常、三角ピッチまたは四角ピッチの配列であるが、本実施形態に係る穴あけ加工方法及び穴あけ加工用治具2は、こういった配列にも好適に適用することができる。なお、管板と類似した穴配列を有する板部材80として、管支持板を加工対象としてもよい。また、
図1では、第1貫通穴81及び第2貫通穴82を含む複数の貫通穴からなる穴配列を、図中の塗りつぶした領域で示している。第2貫通穴82の形状の記載は省略しているが、塗りつぶした領域のうち第1貫通穴81を除く領域に、複数の第2貫通穴82が形成される。さらに、
図1において、板部材80の外周部には、後述するクランプ機構4によって固定されるクランプ位置85が示されている。
【0026】
一実施形態において、
図2及び
図3に示すように、板部材80の穴あけ加工をする工作機械1は、板部材80が固定されるベッド10と、第1貫通穴81の形成及び板部材80のベッド10への固定に用いられる穴あけ加工用治具2と、板部材80のベッド10への固定に用いられるクランプ機構4と、板部材80に貫通穴81,82をあけるための穴あけ機構12とを有する。
【0027】
ベッド10は、加工対象である板部材80の固定に用いられる。具体的に、ベッド10には、穴あけ加工用治具2が固定される治具固定部10aと、クランプ機構4が固定されるクランプ固定部10bとが設けられている。また、ベッド10上には、穴あけ機構12が配置される。そして、ベッド10上に固定された板部材80を、その上方から穴あけ機構12によって穴あけ加工するようになっている。
【0028】
穴あけ機構12は、ベッド10上に立設された少なくとも一対の支柱13と、少なくとも一対の支柱13の間に架け渡されたレール14と、レール14上を長手方向(
図1及び
図2に示すX方向)に移動するツール駆動部16と、ツール駆動部16に取り付けられた穴あけツール16とを有する。穴あけツール16は、ツール駆動部15によって回転されるとともに、高さ方向(
図2に示すZ方向)に上下動するようになっている。穴あけツール16としては、例えば、ハイスドリルや超硬ドリル等が用いられる。また、一対の支柱13は、レール14、ツール駆動部15及び穴あけツール16と共に、奥行き方向(
図1に示すY方向)に移動するようにしてもよい。これにより、
図1に示す板部材80の任意の位置に貫通穴を形成することができる。
【0029】
穴あけ加工用治具2は、第1貫通穴81に対応する位置でベッド10に固定され、板部材80への複数の貫通穴81,82の形成作業を補助する。なお、穴あけ加工用治具2の詳細な構成については後述する。
【0030】
クランプ機構4は、ベッド10に固定されたボルト40と、ボルト40に取り付けられ、板部材80を押さえるための押さえ板42と、押さえ板42を所定位置に固定するためのナット46と、ボルト40を挟んで板部材42とは反対側の押さえ板42の下面を支持するジャッキ48とを有する。なお、押さえ板42の損傷防止の観点から、押さえ板42とナット46との間にワッシャ44が介装されてもよい。また、ジャッキ48の替わりにシリンダやモータ等のアクチュエータを用いてもよい。
具体的には、ボルト40は、鉛直方向に立設するように、ベッド10のクランプ固定部10bに植え込まれている。ボルト40の上端側には雄ねじ41が形成されている。押さえ板42には不図示の貫通穴が設けられており、この貫通穴にボルト40の上端側が貫通している。さらに、ボルト40の上端側には、ワッシャ44、ナット46が順に嵌め込まれ、ナット46をボルト40の雄ねじ41に螺合することによって、押さえ板42から板部材80へベッド10側に向かう押圧力を付与し、押さえ板42をベッド10側に固定する。また、押さえ板42が傾くことを防止する目的で、ボルト40を挟んで板部材42とは反対側の押さえ板42の下面を支持するジャッキ48が設けられている。このジャッキ48を、板部材80の上面と略同一高さとなるように調整し、板部材42とは反対側の押さえ板42の下面を支持する。これにより、押さえ板42を水平方向に保持しながら板部材80に押圧力を付与することができる。
【0031】
図4に示すように、クランプ機構4の他の構成例として、ベッド10に対して着脱自在なボルト50を有してもよい。ボルト50は、両端に雄ねじ51,52が形成されている。ボルト50の上端側には、上述した
図3と同様に、押さえ板42、ワッシャ44、ナット46が嵌め込まれ、上部の雄ねじ51とナット46の雌ねじ46とを螺合することによって、押さえ板42から部材80に押圧力を付与するようになっている。一方、ベッド10のクランプ固定部10cは凹状に形成され、このクランプ固定部10cに、断面T字形状のナット54が収容されている。なお、ナット54はクランプ固定部10c内で回転しないように固定される。ナット54の内周側には雌ねじ56が形成されており、ボルト50の下部の雄ねじ52と螺合するようになっている。これにより、ボルト50を着脱自在にベッド10に固定することができる。例えば、板部材80の外周に複数のクランプ固定部10c及びナット54を予め設置しておけば、適宜選択された部位にのみクランプ機構4を設置することができる。
【0032】
ここで、
図3,
図5及び
図6を参照して、本発明の一実施形態に係る穴あけ加工用治具2の構成について詳細に説明する。なお、
図5(a)は本発明の一実施形態に係る穴あけ加工用治具の側面図で、(b)は底面図である。
図6は、
図5のA−A線断面図である。
一実施形態において、穴あけ加工用治具2は、ベッド10上に固定可能に構成されたベース部30と、板部材80の下面に上部が当接するように構成され、ベース部30に下部が接続されるスタンド部20とを備える。そして、穴あけ加工用治具2は、第1貫通穴81の形成時には、第1貫通穴81の周囲を下方から支持し、穴あけツール16の反力を受ける役割を有し、第2貫通穴82の形成時には、板部材80の固定用のボルト(固定部材)34によりベッド10に固定し、板部材80の剛性を上げる役割を有する。なお、第1貫通穴81は、複数の貫通穴のうち先に形成される貫通穴であって、貫通穴の形成後には、この第1貫通穴81を介して穴あけ加工用治具2に板部材80が固定される。第2貫通穴82は、第1貫通穴81を介して穴あけ加工用治具2に板部材80が固定された状態で形成される貫通穴である。
【0033】
スタンド部20の上部には、板部材80の第1貫通穴81を貫通した穴あけツール16の先端部が挿入可能なクリアランス穴22が形成されている。なお、“クリアランス穴22”は、穴あけツール16の外形との間に隙間が形成されるようなサイズの穴であればその形状は限定されず、例えば、丸穴、矩形穴を含む多角形穴等の種々の形状の穴であってもよい。また、スタンド部20の中間部には、谷部が第1貫通穴81の内径よりも小径である雌ねじ24が形成された中間空洞部24が設けられている。この雌ねじ24は、板部材固定用ボルト34に形成された雄ねじに螺合するように構成され、板部材固定用ボルト34を係止するための係止部として機能する。さらに、スタンド部20の上端のクリアランス穴22の周縁には、板部材80の下面が当接する平坦な支持部23が設けられている。
【0034】
上記構成を有する穴あけ加工用治具2は、ボルト38によってベッド10の治具固定部10aに穴あけ加工用治具2のベース部30が固定される。これにより、穴あけ加工用治具2はベッド10上に立設した状態で固定される。スタンド部20の支持部23には、板部材80が載置される。第1貫通穴81の形成時には、板部材80がスタンド部20上に載置された状態で、穴あけツール16を板部材80に挿入し、穴あけ加工が行われる。これにより、穴あけツール16の挿入時の反力をスタンド部20の支持部23で受けることができる。また、スタンド部20の上部にクリアランス穴22が形成されているので、第1貫通穴81を貫通した穴あけツール16の先端部によりスタンド部20の内面が削られることを阻止できる。
【0035】
第1貫通穴81の形成後には、板部材80の上方から第1貫通穴81に、雄ねじが形成されたボルト(板部材固定用ボルト)34を挿入し、スタンド部20の下部に形成された雌ねじ24にボルト34を螺着して、板部材80を穴あけ加工用治具2に固定する。なお、板部材80の損傷を防止する目的で、ボルト34の頭部と板部材80との間に、ワッシャ36を介装してもよい。このように、雄ねじが形成されたボルト34を板部材80の第1貫通穴81及びクリアランス穴22を介して雌ねじ24に螺着することによって、板部材80をベッド10側に固定することができる。
【0036】
第2貫通穴82の形成時には、少なくとも一つの第1貫通穴81を介して穴あけ加工用治具2およびベッド10に板部材80を固定した状態で、穴あけツール16によって第2貫通穴82を形成する。このとき、少なくとも一つの第1貫通穴81を介して穴あけ加工用治具2に板部材80が固定されているので、板部材80の剛性を向上でき、第2貫通穴82の形成時に板部材80の振動や跳ね返りを抑制できる。
上記構成によって、精密な第1貫通穴81及び第2貫通穴82の形成が可能となるとともに穴あけツール16に折損等トラブルが発生することを防止できる。
【0037】
幾つかの実施形態では、スタンド部20の下部に空洞部26が形成されていてもよい。この場合、空洞部26は雌ねじ24の下方に設けられ、雌ねじ24が形成された穴に連通している。この空洞部26には、穴あけ加工によって発生した切粉が落下して溜められる。空洞部26は、ベース部30又はスタンド部20に設けられた切粉排出口27によって外部と連通している。この構成により、空洞部26に溜まった切粉は切粉排出口27を介して外部へ排出される。
【0038】
また、一実施形態では、ベース部30は、スタンド部20に直交する方向に沿って延在しており、ベース部30には、ベース部30をベッド10上に締結するためのボルト38の先端部が挿通可能な長穴32がベース部30の延在方向に沿って形成されていてもよい。これにより、長穴32の長手方向に対するボルト38の位置を調整することによって、ベース部30に対する穴あけ加工用治具2の取り付け位置を微調整できる。なお、長穴32の替わりにスリットを用いてもよい。
【0039】
さらに、
図7および
図8に示す第1変形例および第2変形例に係る穴あけ加工用治具6を用いてもよい。上述の実施形態に示した治具2は、スタンド部20の垂直軸方向の中間部に雌ねじ24を備えているが、以下に説明する第1変形例(
図7)および第2変形例(
図8)に示す治具6は、スタンド部60の中間部の内壁が平滑な中間空洞部62を有する点が異なっている。他の構成は上述の実施形態と同一であるため、同一の構成については詳細な説明を省略している。なお、
図7は本発明の第1変形例に係る穴あけ加工用治具の断面図で、
図8は本発明の第2変形例に係る穴あけ加工用治具の断面図である。
【0040】
一方、板部材は固定部材を用いて穴あけ加工用治具に固定されるが、実施形態と第1変形例および第2変形例とでは、固定部材の構成が異なっている。すなわち、
図7に示す第1変形例では、板部材を治具6に固定する手段として、両ナット用ボルト66を固定部材に用いている。中間空洞部62の内面には、雌ねじが切られておらず、中間空洞部62の内径は、クリアランス穴の内径より小さく、両ナット用ボルト66の外径より、幾分大きくすることが好ましい。このような構成とすれば、両ナット用ボルト66を締結する際、空洞部64に配置されたナット46の座面が、空洞部64の天井面に当接され、両ナット用ボルト66に働く引張力をスタンド部60の天井面が支持できる。なお、第1変形例によれば、ナット46の座面が当接する空洞部64の天井面が、両ナット用ボルト(固定部材)66を係止するための係止部として機能する。
【0041】
また、中間空洞部62の下部が開口する空洞部64の水平面方向の断面は、中間空洞部62の開口が配置可能な断面であれば、丸穴、矩形穴を含む多角形穴等の種々の形状が適用できる。なお、両ナット用ボルト66の締結に用いるナット46のうち、空洞部64に配置するナット46は、空洞部64の天井面の中間空洞部62が開口する位置に、スポット溶接等で仮付けする構造としてもよい。
図7に示す第1変形例の構成によれば、中間空洞部62に雌ねじ部を設ける必要がなく、メンテナンスが容易である。
【0042】
図8に示す第2変形例では、第1変形例に示した固定部材としての両ナット用ボルトに代わって、特殊ボルト70および補助部材(くさび78)を適用した点が異なっている。すなわち、
図8に示すように、穴あけ加工用治具6を用いる点は、第1変形例と同じであるが、固定部材として、
図9(a)に示す特殊ボルト70を用いる点が異なっている。特殊ボルト70の長手方向の一方側には、雄ねじ部72が設けられ、他方側には下部固定部73が設けられ、両者は本体部71とともに、一体の固定部材を形成している。下部固定部73は、外周を8分割して、内側及び外周の一部を切削加工して、内側軸方向に逆円錐状の中空部76を形成し、外周側は4本足の突張部74を形成した構造としている(断面B―B)。この構成により、突張部74の各足は、特殊ボルト70の径方向に弾性変形可能なバネ性を備える。さらに、突張部74は、その端部に径方向に広がる鍔部75を備えている。なお、突張部74は、8分割(4本足)の例を示したが、少なくとも4分割以上であれば、この例に限られない。なお、第2変形例によれば、突張部74の外周面が当接する中間空洞部62の内周面、および、鍔部75が当接する空洞部64の天井面が、特殊ボルト(固定部材)70を係止するための係止部として機能する。
【0043】
なお、第2変形例に適用する治具6が、クリアランス穴22、中間空洞部62および空洞部64を有することでは、他の実施例および変形例と同様であるが、クリアランス穴22と中間空洞部62の接続部は、傾斜面等により内面が滑らかに接続するような形状を備えることが好ましい。また、クリアランス穴22の上端でやや大径とし、中間空洞部62の下端開口でやや小径として、クリアランス穴22の上端から中間空洞部62の下端開口まで、内面が一定の傾斜面を有する円錐形状としてもよい。このような形状とすれば、特殊ボルト70の鍔部75を頭にして空洞部64の開口まで特殊ボルト70を挿通する際、円滑に移動ができる。
【0044】
また、
図9(b)は、空洞部64に挿入される円錐状のくさび78を示している。
図8に示すように、鍔部75が空洞部64に出現するまで、特殊ボルト70を板部材80の上方から板部材80の貫通穴81を介してスタンド部60に挿入する。その場合、特殊ボルト70の鍔部75側を頭にして挿入する。鍔部75が空洞部64に到達すると、突張部74が有するバネ性により、鍔部75が特殊ボルトの径方向に拡張する。さらに、反対方向の空洞部64から、くさび78を特殊ボルト70の突張部74の間に形成された中空部76に挿入する。その結果、鍔部75および突張部74が径方向にさらに拡大して、4本足で形成される鍔部75の外周円(対向する鍔部同士の外面間の長さ)は、中間空洞部62の開口より大きくなる。特殊ボルト70の上部のナット46を締め込むと、鍔部75の水平面上面が空洞部64の天井面に密着する。この操作により、鍔部75を介して特殊ボルト70がスタンド部60に対して固定可能となり、板部材80を治具6に固定できる。
図8に示す第2変形例の構成によれば、実施形態と比較して、雌ねじを設けないので、メンテナンスが容易である。
【0045】
以下、一実施形態および各変形例に係る穴あけ加工方法について詳述する。
予め、加工対象となる板部材80には、複数の貫通穴位置からなる穴配列が設定されている。
まず、複数の貫通穴位置のうち第1貫通穴81となる貫通穴位置を選択する。具体的には、
図1に示すように、板部材80の治具配置エリアを、縦方向の仮想縦分割線90及び横方向の仮想横分割線92によって格子状に分割する。例えば、横方向、縦方向共に等間隔の約400mmピッチで分割する。そして、仮想縦分割線90と仮想横分割線92の各交点に最も近い貫通穴(交点上の貫通穴を含む)を選択し、これを第1貫通穴81に設定する。これにより、板部材80の中央部の治具配置エリアに略均等な間隔で穴あけ加工用治具2が配置されるので、治具配置エリアの剛性を略均一に向上させることができ、より適切に穴あけ加工を行うことができる。
【0046】
次に、
図2及び
図3に示すように、穴あけ加工用治具2を工作機械1のベッド10上に固定する。具体的には、工作機械1の加工原点Oを基準として少なくとも一つの治具2を位置決めし、少なくとも一つの治具2をボルト38によってベッド10上に固定する。なお、
図2において、加工原点Oは、工作機械側で定まる加工基準点であり、これを基準にツール駆動部15’及び穴あけツール16’および板部材の位置決めがされる。
【0047】
さらに、少なくとも一つの治具2上に板部材80を載置し、板部材80をクランプ機構4でベッド10に固定する。このとき、加工原点Oを基準として板部材80を位置決めし、少なくとも一つの治具2上に板部材80に載置してもよい。工作機械1の加工原点Oを基準として少なくとも一つの治具2を位置決めし、さらにこの加工原点Oを基準として板部材80も位置決めすることによって、板部材80に対して所定の位置関係で少なくとも一つの治具2を高精度に配置することができる。
【0048】
そして、板部材80を貫通した穴あけツール16の先端部がクリアランス穴22に挿入されるように工作機械1を動作させ、板部材80のクリアランス穴22に対応する位置に穴あけツールを位置決めして、第1貫通穴81を形成する。第1貫通穴81の形成時には、板部材80はクランプ機構4によってベッド10に固定されるとともに、穴あけツール16が挿入される第1貫通穴81の周囲は治具2によって下方から支持される。そのため、板部材80を治具2に固定しなくても、穴あけツール16挿入時の反力を治具2で受けることができ、板部材80の振動や跳ね上がり等を抑制できることから、精密な貫通穴の形成が可能であるとともに穴あけツール16に折損等トラブルが発生することを防止できる。
【0049】
続いて、第1貫通穴81にボルト34を挿通し、ボルト34によって板部材80を少なくとも一つの治具2に固定する。このように、複数の貫通穴のうち先に形成された第1貫通穴81を用いて板部材80をベッド10側に固定するようにしたので、三角ピッチや四角ピッチ等の穴配列の板部材80であっても容易にベッド10側に固定できる。
【0050】
さらに、工作機械1を動作させて複数の貫通穴のうち第1貫通穴81以外の第2貫通穴82を形成する。第2貫通穴82の形成時には、第1貫通穴81に挿通したボルト34によって板部材80がベッド10側に固定されているので、板部材80の剛性を向上させることができ、板部材80の振動や跳ね上がりを抑制できる。よって、精密な貫通穴の形成が可能であるとともに穴あけツール16に折損等トラブルが発生することを防止できる。また、第1貫通穴81の位置、すなわちボルト34の設置個所を適宜選択すれば、第2貫通穴82の周囲の板部材80の剛性を自在に調整することが可能である。
【0051】
一実施形態では、板部材80をクランプ機構4でベッド10に固定するとき、板部材80のうち、少なくとも一つの治具2の治具配置エリアの外周側をクランプ機構4でベッド10に固定してもよい。また、第1貫通穴81の形成時に、少なくとも一つの治具2によって板部材80の治具配置エリアを下方から支えるとともに、クランプ機構4によって板部材80の外周側を固定しながら第1貫通穴81を形成してもよい。このように、治具配置エリアの外周側を固定するクランプ機構4によって板部材80の拘束力を確保しながら治具配置エリアを下方から支える治具によって板部材80の反力を受けることによって、板部材80の中央部に多数の貫通穴が位置する場合であっても、適切に穴あけ加工を行うことができる。
【0052】
また、一実施形態では、穴あけツール16は、超硬ドリルであってもよい。これにより、高速で穴あけ加工を行うことができ、加工時間の短縮化が図れるとともに、より一層精密な貫通穴を形成することができる。
【0053】
次に、
図10を参照して、本発明の一実施形態に係る復水器100について説明する。なお、
図10は本発明の一実施形態に係る復水器の構成例を示す模式図である。
復水器100は、蒸気タービンの駆動に用いられた蒸気を凝縮して水に戻し、復水として再び蒸気を生成するボイラなどに供給するものである。本実施形態では、例えば、火力発電プラントや原子力発電プラント等に用いられる復水器100を例示している。
【0054】
図10に示すように、一実施形態において復水器100は、外形を構成する胴102と、蒸気を冷却する冷却管106の集合である冷却管群104とを有する。胴102には、冷却管群104とともに冷却水が循環する経路を形成する水室110と、蒸気から凝縮した水である復水が一時的に溜まるホットウェル112とが設けられている。さらに、胴102の上部には、蒸気タービンのタービン部114が配置され、タービン部114の下方に冷却管群104が配置されている。
【0055】
冷却管群104は、胴102の内部に複数配置されている。それぞれの冷却管群104は、タービン部114とホットウェル112との間に、タービン部114の回転軸線が延びる方向に沿って延設されている。
また、冷却管群104には、冷却管106を支持する複数の管支持板108が設けられている。管支持板108は、冷却管106が延設される方向に間隔をあけて配置され、冷却管群104の配列を保持するように構成される。
さらに、冷却管群104の端部には、管板80が設けられている。管板80は、上述したような穴あけ加工用治具2又は穴あけ加工方法を用いて作製されたものである。なお、管板80の他に管支持板108も、本実施形態に係る穴あけ加工用治具又は穴あけ加工方法を用いて作製されてもよい。
【0056】
以上説明したように、上述の実施形態によれば、任意の穴配列の貫通穴81,82を形成でき、且つ、穴あけツール16の挿入時の板部材80の振動や跳ね上がり等を抑制することによって、精密な貫通穴81,82の形成が可能であるとともに穴あけツール16に折損等のトラブルが発生することを回避できる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。