(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2では、株間変速装置をミッションケースの内部に備えているのに加えて、トルクリミッタをミッションケースの内部に備えており、株間変速装置の動力がトルクリミッタを介して苗植付装置に伝達されるように構成している。
これにより、苗植付装置に掛かる負荷が設定値以下であると、トルクリミッタが伝動状態となって苗植付装置に動力が伝達されて、通常の植付作業が行われる。苗植付装置に掛かる負荷が設定値を超えると、トルクリミッタが遮断状態となって苗植付装置が停止し、各部の破損が防止される。
【0007】
前述のトルクリミッタは一般に、トルクリミッタに備えられたバネの付勢力によってトルクリミッタが遮断状態となる設定値が決まるので、所望の設定値で常にトルクリミッタが遮断状態となるように、トルクリミッタのバネの付勢力を比較的頻繁に調整する必要がある。
【0008】
本発明は、乗用型田植機において苗植付装置への伝動系に不等速伝動装置及びトルクリミッタを備えた場合、不等速伝動装置及びトルクリミッタのメンテナンス性を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は、乗用型田植機において次のように構成することにある。
エンジンの動力が、ミッションケースの内部に備えられた株間変速装置に伝達されるように構成し、
前記株間変速装置と苗植付装置との間に、不等速伝動装置と、前記苗植付装置に掛かる負荷が設定値以下であると下手側に動力を伝達し前記苗植付装置に掛かる負荷が前記設定値を超えると下手側への動力を遮断するトルクリミッタとを備えて、
前記株間変速装置の動力が前記不等速伝動装置
に伝達され、前記不等速伝動装置から前記トルクリミッタ
に伝達されて、前記苗植付装置に伝達されるように構成し、
前記不等速伝動装置及び前記トルクリミッタを収納する伝動ケースを、前記ミッションケースとは別に備えている。
【0010】
(作用及び発明の効果)
本発明の第1特徴によると、比較的頻繁に調整する必要がある不等速伝動装置及びトルクリミッタにおいて、ミッジョンケースとは別の同じ伝動ケースに不等速伝動装置及びトルクリミッタを収納しているので、伝動ケースを開けることにより、不等速伝動装置の調整及びトルクリミッタの調整を同時に行うことができる。
これにより、不等速伝動装置とトルクリミッタとを別々の伝動ケースに収納する構成に比べて、伝動ケースの開け及び閉じ作業の回数が少なくなって、メンテナンス性を向上させることができる。
【0011】
この場合、ミッションケースに不等速伝動装置及びトルクリミッタを収納することも考えられるが、ミッションケースには不等速伝動装置及びトルクリミッタ以外に走行用の変速装置や株間変速装置等が収納されており、ミッションケースは比較的大型であるので、ミッションケースの開け及び閉じ作業は非常に手間を要するものとなる。
これに対して本発明の第1特徴によると、伝動ケースは不等速伝動装置及びトルクリミッタのみを収納する程度の容積でよく比較的小型に構成することができるので、伝動ケースの開け及び閉じ作業はあまり多くの手間を要しない。
【0012】
[II]
(構成)
本発明の第2特徴は、本発明の第1特徴の乗用型田植機において次のように構成することにある。
前記不等速伝動装置が、
上手側の偏芯ギヤと下手側の偏芯ギヤとを咬合させて構成されている。
【0013】
(作用及び発明の効果)
本発明の第2特徴によると、上手側の偏芯ギヤと下手側の偏芯ギヤとを咬合させた比較的簡単な構造により不等速伝動装置が構成されるので、生産コストの低減の面で有利なものとなる。
【0014】
[III]
(構成)
本発明の第3特徴は、本発明の第1特徴の乗用型田植機において次のように構成することにある。
前記不等速伝動装置が、
上手側伝動軸と、前記上手側伝動軸の端部の半径方向外側に配置されて前記上手側伝動軸と一体回転する上手側伝動部と、偏芯した状態で前記上手側伝動軸の端部に突き合わされるように配置された下手側伝動軸と、前記下手側伝動軸の端部の半径方向外側に配置されて前記下手側伝動軸と一体回転する下手側伝動部とを備え、
前記上手側及び下手側伝動軸の偏芯に基づく回転軌跡の差を吸収する融通部を介して、前記上手側及び下手側伝動部を係合させることにより、前記上手側伝動軸の動力が前記下手側伝動軸に伝達されるように構成されている。
【0015】
(作用及び発明の効果)
本発明の第3特徴によると、上手側及び下手側伝動部を融通により係合させた比較的簡単な構造により不等速伝動装置が構成されるので、生産コストの低減の面で有利なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[1]
図1に示すように、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2を備えた機体の後部に、リンク機構3及びリンク機構3を昇降駆動する油圧シリンダ4が備えられており、リンク機構3の後部に6条植型式の苗植付装置5が支持されて、乗用型田植機が構成されている。
【0018】
図1に示すように、苗植付装置5は伝動ケース6、伝動ケース6の後部の右及び左側部に回転駆動自在に支持された植付ケース7、植付ケース7の両端に備えられた一対の植付アーム8、接地フロート9及び苗のせ台10等を備えて構成されている。これにより、苗のせ台10が左右に往復横送り駆動されるのに伴って、植付ケース7が回転駆動され、苗のせ台10の下部から植付アーム8が交互に苗を取り出して田面に植え付ける。
【0019】
図1に示すように、運転席11の後部に繰り出し部12及びホッパー13が備えられ、運転席11の下側にブロア14が備えられており、接地フロート9に備えられた作溝器15と繰り出し部12とに亘ってホース16が接続されて、施肥装置が構成されている。これにより、ホッパー13に貯留された肥料が繰り出し部12により繰り出されて、ブロア14の風によりホース16から作溝器15に供給され、作溝器15により田面に形成された溝に供給される。
【0020】
[2]
次に、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2への走行伝動系について説明する。
図1に示すように、機体の前部にミッションケース17が備えられ、ミッションケース17の前部に連結された支持フレーム18にエンジン19が支持されている。ミッションケース17の右及び左の横側部に右及び左の前車軸ケース20が連結されており、右及び左の前輪1が右及び左の前車軸ケース20の縦軸芯周りに操向自在に支持されている。
【0021】
図2に示すように、ミッションケース17の左の横側部における上部の前部に静油圧式無段変速装置21が連結されており、エンジン19の出力軸19aの動力が静油圧式無段変速装置21の入力軸21aに伝動ベルト23を介して伝達されている。静油圧式無段変速装置21は中立停止位置を備え、前進側及び後進側に無段階に変速自在に構成されている。ミッションケース17の内部において、伝動軸22が回転自在に支持されて、静油圧式無段変速装置21の出力軸21bと伝動軸22とがスプライン構造により連結されている。
【0022】
図2に示すように、伝動軸22に低速ギヤ24及び高速ギヤ25が固定されており、伝動軸22と平行に配置された伝動軸26に、シフトギヤ27がスプライン構造にて伝動軸26と一体回転及びスライド自在に外嵌されている。これにより、シフトギヤ27をスライド操作して低速ギヤ24及び高速ギヤ25に咬合させることによって、静油圧式無段変速装置21の出力軸21b及び伝動軸22の動力が、高低2段に変速されて伝動軸26に伝達される。
【0023】
これにより、
図2に示すように、伝動軸26の動力が伝動ギヤ30から前輪デフ機構(図示せず)及び前車軸ケース20の伝動軸(図示せず)を介して、右及び左の前輪1に伝達される。
図1に示すように、伝動ギヤ30から分岐した動力が伝動軸38から後車軸ケース28に伝達され、後車軸ケース28の伝動軸(図示せず)を介して右及び左の後輪2に伝達される。
【0024】
[3]
次に、苗植付装置5への植付伝動系について説明する。
図2に示すように、伝動ギヤ31がワンウェイクラッチ32を介して伝動軸22に外嵌されており、ワンウェイクラッチ32により静油圧式無段変速装置21の出力軸21bの前進の動力が伝動ギヤ31に伝達される。
【0025】
図2に示すように、伝動ギヤ33及び6枚の伝動ギヤ34が一体で回転するように互いに連結されて、伝動ギヤ33及び6枚の伝動ギヤ34が伝動軸26に相対回転自在に外嵌されており、伝動ギヤ31,33が咬合している。伝動軸26と平行に配置された伝動軸35に6枚の変速ギヤ36が相対回転自在に外嵌されて、6枚の伝動ギヤ34及び変速ギヤ36の各々が咬合している。
【0026】
図2に示すように、変速ギヤ36が外嵌された伝動軸35の部分が中空状(円筒状)に構成されて、この伝動軸35の部分の外周部に円形の開口部(図示せず)が形成されており、伝動軸35の開口部にボール(図示せず)が配置されている。伝動軸35に操作ロット37がスライド操作自在に挿入されており、操作ロッド37の先端部に大径部が備えられている。
【0027】
以上のように6枚の伝動ギヤ34及び変速ギヤ36及び操作ロッド37等により、株間変速装置38が構成されている。操作ロッド37をスライド操作して、操作ロッド37の大径部により選択したボールを外方に押し出して、選択したボールを伝動軸35の開口部と変速ギヤ36の内周部とに入り込ませることによって、一つの変速ギヤ36を伝動軸35に連結する。操作ロッド37により6枚の変速ギヤ36のうちの一つの変速ギヤ36を選択して伝動軸35に連結することによって、伝動軸22の動力が6段に変速されて伝動軸35に伝達される。
【0028】
図2に示すように、ミッションケース17の後部の上部に出力軸39が備えられて後向きに突出しており、出力軸39に相対回転自在に外嵌されたベベルギヤ40が伝動軸35に固定されたベベルギヤ41に咬合している。伝動軸35の動力を出力軸39に伝動及び遮断自在な植付クラッチ42が、伝動軸39とベベルギヤ40との間に構成されている。出力軸39と苗植付装置5の入力軸5aとに亘って、伝動軸43,44,45及び伝動ケース46が接続されている。
【0029】
これにより、
図2に示すように、伝動軸22の動力が株間変速装置38、ベベルギヤ40,41、植付クラッチ42、出力軸39、伝動軸43,44,45及び伝動ケース46を介して苗植付装置5に伝達される。株間変速装置38により苗植付装置5(伝動軸35)に伝達される動力を変速することによって、苗植付装置5(植付アーム8)による苗の植付間隔(苗の株間)(機体の作業走行速度に対する苗植付装置5(植付アーム8)の植付速度の比)を変更することができる。
【0030】
この場合、6段変速自在な株間変速装置38において、最高速位置(又は最高速位置と最高速位置から1段だけ低速の変速位置)が、密植位置となる(機体の作業走行速度に対して植付ケース7が高速で回転して、苗の植付間隔が小さなものになる状態)。最低速位置(又は最低速位置と最低速位置から1段だけ高速の変速位置)が、疎植位置となる(機体の作業走行速度に対して植付ケース7が低速で回転して、苗の植付間隔が大きなものになる状態)。前述の密植位置及び疎植位置以外の変速位置が標準位置となる。
【0031】
[4]
次に、昇降レバー47と植付クラッチ42との関係について説明する。
図1及び
図2に示すように、運転席11の右横側部に、昇降レバー47が前後に揺動操作自在に備えられており、昇降レバー47は上昇位置、中立位置、下降位置及び植付位置に操作自在に構成されている。油圧シリンダ4に作動油を給排操作する制御弁50と昇降レバー47とが接続されている。
【0032】
図2に示すように、植付クラッチ42の操作部42aがミッションケース17の後部の左横側部に備えられており、昇降レバー47と植付クラッチ42の操作部42aとに亘って操作ロッド48が接続されている。
この場合、機体前後方向に配置された右及び左の機体フレーム49と伝動軸43との下側において(伝動軸38の上側)、右及び左の機体フレーム49と伝動軸43とを平面視で斜めに交差するように操作ロッド48が配置されている。
【0033】
図2に示すように昇降レバー47を上昇位置に操作すると、植付クラッチ42が遮断状態に操作され、制御弁50が上昇位置に操作されて、苗植付装置5が上昇する。昇降レバー47を中立位置に操作すると、植付クラッチ42が遮断状態に操作され、制御弁50が中立位置に操作されて、苗植付装置5が停止する。昇降レバー47を下降位置に操作すると、植付クラッチ42が遮断状態に操作され、制御弁50が下降位置に操作されて、苗植付装置5が下降する。
昇降レバー47を植付位置に操作すると、苗植付装置5が他面から設定高さに維持されるように(植付アーム8による苗の植付深さが設定深さに維持されるように)、制御弁50が自動的に操作された状態で、植付クラッチ42が伝動状態に操作される。
【0034】
図2に示す植付クラッチ42は、180度の位相のずれた特定の2箇所において遮断状態となり、特定の2箇所において伝動軸39を保持するように構成されており、
図1に示す植付ケース7が田面と平行な前後向き姿勢が特定の2箇所に対応する。これにより、植付クラッチ42を遮断状態に操作すると、植付ケース7が田面と平行な前後向き姿勢で停止する。
【0035】
[5]
次に、伝動軸39と伝動軸43との接続部分、伝動軸43と伝動ケース46の入力軸87との接続部分、伝動ケース46の出力軸54と伝動軸44との接続部分について説明する。
前述の接続部分において、伝動軸39と伝動軸43との接続部分を代表して説明する。
図3(a)に示すように、伝動軸39,43の突き合わせ部分であるスプライン部において、外周部に等ピッチで凸条部39a,43aが形成され、180度の位相のずれを置いて一対の凹条部39b,43bが形成されている。
図3(b)に示すように、伝動軸39と伝動軸43とを接続する円筒状の連結部材60において、内周部に等ピッチで凹条部60bが形成され、180度の位相のずれを置いて一対の凸条部60aが形成されている。
【0036】
伝動軸39と伝動軸43とを接続する場合、伝動軸39の凹条部39bに連係部材60の凸条部60aが入り込むように、伝動軸39に連結部材60を取り付け、連結部材60の凸条部60aが伝動軸43の凹条部43bに入り込むように、連結部材60に伝動軸43を取り付ける。これにより、伝動軸39,43が同じ位相又は180度だけ位相がずれた状態で連結される。
【0037】
伝動軸43と伝動ケース46の入力軸87との接続部分、及び、伝動ケース46の出力軸54と伝動軸44との接続部分についても同様に行う。伝動軸44と伝動軸45との接続部分、及び、伝動軸45と苗植付装置5の入力軸5aとの接続部分は、自在継手51(ユニバーサルジョイント)であるので、接続状態での伝動軸44,45の位相は180度の位相のずれた特定の2箇所(前項[4]参照)に対応している。
【0038】
これにより、生産工程における伝動軸39,43,44,45、伝動ケース46の入力軸87及び出力軸54、苗植付装置5の入力軸5aの接続において、前項[4]に記載の植付クラッチ42の遮断状態での伝動軸39の保持位置と、植付ケース7が田面と平行な前後向き姿勢で停止する状態とがずれることはない。
【0039】
[6]
次に、伝動ケース46について説明する。
図1及び
図2に示すように、伝動ケース46はミッションケース17(株間変速装置38)の伝動下手側に配置されて、伝動軸43と伝動軸44との間に配置されており、運転席11の下方に配置されている。
【0040】
図4に示すように、伝動ケース46に不等速伝動装置52及びトルクリミッタ53が収納されており、伝動軸43が伝動ケース46の入力軸87にスプライン構造により接続され、伝動ケース46の出力軸54が伝動軸44にスプライン構造により接続されている(前項[5]参照)。これにより、伝動軸43の動力が伝動ケース46の入力軸87から不等速伝動装置52に伝達され、不等速伝動装置52の動力がトルクリミッタ53から伝動ケース46の出力軸54に伝達される。
【0041】
図4に示すように、伝動ケース46は略同じ形状の右部分及び左部分で構成された2分割構造に構成されている。これにより、伝動軸43,44を伝動ケース46の入力軸87及び出力軸54から取り外し、伝動ケース46を機体から取り外すことによって、伝動ケース46を開けることができる。
伝動ケース46を開けることにより、後述するように不等速伝動装置52の調整及びトルクリミッタ53の調整を同時に行うことができる。この場合、伝動ケース46を、大きな本体部分に対して伝動軸43側の部分又は出力軸54側の部分を蓋部分として着脱自在に構成してもよい。
【0042】
[7]
次に、伝動ケース46の不等速伝動装置52について説明する(その1)。
図4に示すように、伝動ケース46の内部において、伝動ケース46の入力軸87と平行に円筒軸55が備えられて、伝動ケース46の入力軸87に固定された伝動ギヤ56と円筒軸55に固定された伝動ギヤ57とが咬合している。伝動ギヤ56,57は同じ歯数を備えた円形ギヤに構成されており、伝動ケース46の入力軸87から円筒軸55へ等速の動力が伝達される。
【0043】
図4に示すように、円筒軸55に第1標準ギヤ61、第1密植ギヤ63及び第1疎稙ギヤ65が相対回転自在に外嵌されている。伝動ケース46の入力軸87と同芯状に伝動軸58が相対回転自在に支持されており、伝動軸58に固定された第2標準ギヤ62、第2密植ギヤ64及び第2疎稙ギヤ66が、第1標準ギヤ61、第1密植ギヤ63及び第1疎稙ギヤ65に咬合している。
【0044】
図4に示すように、第1及び第2標準ギヤ61,62は同じ歯数を備えた円形ギヤに構成されており、第1及び第2標準ギヤ61,62により円筒軸55から伝動軸58へ等速の動力が伝達される。
第1及び第2密植ギヤ63,64は同じ歯数を備えた偏芯ギヤに構成されており、第1及び第2密植ギヤ63,64により円筒軸55から伝動軸58へ不等速の動力が伝達される。第1及び第2疎植ギヤ65,66は同じ歯数を備えた偏芯ギヤに構成されており、第1及び第2疎植ギヤ65,66により円筒軸55から伝動軸58へ不等速の動力が伝達される。
【0045】
図4に示すように、円筒軸55の内部に操作軸59が軸芯方向に沿ってスライド自在に支持されて、操作軸59の端部に変速キー59aが備えられており、操作軸59が伝動ケース46の外部に出ている。第1標準ギヤ61、第1密植ギヤ63及び第1疎稙ギヤ65の各々にキー溝が1箇所だけ形成されている。これにより、伝動ケース46の外部から操作軸59をスライド操作することによって、操作軸59の変速キー59aを第1標準ギヤ61、第1密植ギヤ63及び第1疎稙ギヤ65のうちのいずれかのキー溝に挿入することができる。
【0046】
図4に示すように、操作軸59の変速キー59aを円筒軸55のキー溝と第1標準ギヤ61のキー溝とに亘って挿入すると、円筒軸55に第1標準ギヤ61が固定された状態となって、円筒軸55の動力が第1及び第2標準ギヤ61,62により伝動軸58に等速の動力として伝達される(標準状態)。
【0047】
図4に示すように、操作軸59の変速キー59aを円筒軸55のキー溝と第1密植ギヤ63のキー溝とに亘って挿入すると、円筒軸55に第1密植ギヤ63が固定された状態となって、円筒軸55の動力が第1及び第2密植ギヤ63,64により伝動軸58に不等速の動力として伝達される(密植状態)。
【0048】
図4に示すように、操作軸59の変速キー59aを円筒軸55のキー溝と第1疎植ギヤ65のキー溝とに亘って挿入すると、円筒軸55に第1疎植ギヤ65が固定された状態となって、円筒軸55の動力が第1及び第2疎植ギヤ65,66により伝動軸58に不等速の動力として伝達される(疎稙状態)。
以上のように、第1及び第2標準ギヤ61,62、第1及び第2密植ギヤ63,64、第1及び第2疎植ギヤ65,66、操作軸59等により不等速伝動装置52が構成されている。
【0049】
[8]
次に、伝動ケース46の不等速伝動装置52について説明する(その2)。
前項[3]に記載のように、株間変速装置38を標準位置に設定した場合、
図4及び前項[7]に記載のように、不等速伝動装置52を標準状態に設定する。
【0050】
前項[3]に記載のように、株間変速装置38を密植位置に設定すると、機体の作業走行速度に対して植付ケース7が高速で回転して、苗の植付間隔が小さなものになる。この場合、植付アーム8が田面付近を高速で通過して苗を植え付けることになり、植付アーム8が通過軌跡が適正なものではなくなって、植付アーム8による苗の植付姿勢が悪くなることがある。
【0051】
前述のように株間変速装置38を密植位置に設定した場合、
図4及び前項[7]に記載のように、不等速伝動装置52を密植状態に設定する。
不等速伝動装置52の密植状態において、植付アーム8が田面付近を通過する際に植付ケース7の回転が減速されて、植付アーム8が田面付近を適正な速度で通過するように、第1及び第2密植ギヤ63,64が設定されている。これにより、植付アーム8が田面付近を適正な速度で通過して苗を植え付けることになり、植付アーム8が通過軌跡が適正なものとなって、植付アーム8による苗の植付姿勢が良いものとなる。
【0052】
前項[3]に記載のように、株間変速装置38を疎植位置に設定すると、機体の作業走行速度に対して植付ケース7が低速で回転して、苗の植付間隔が大きなものになる。この場合、植付アーム8が田面付近を低速で通過して苗を植え付けることになり、植付アーム8が通過軌跡が適正なものではなくなって、植付アーム8による苗の植付姿勢が悪くなることがある。
【0053】
前述のように株間変速装置38を疎植位置に設定した場合、
図4及び前項[7]に記載のように、不等速伝動装置52を疎植状態に設定する。
不等速伝動装置52の疎植状態において、植付アーム8が田面付近を通過する際に植付ケース7の回転が増速されて、植付アーム8が田面付近を適正な速度で通過するように、第1及び第2疎植ギヤ65,66が設定されている。これにより、植付アーム8が田面付近を適正な速度で通過して苗を植え付けることになり、植付アーム8が通過軌跡が適正なものとなって、植付アーム8による苗の植付姿勢が良いものとなる。
【0054】
この場合、前項[6]に記載のように伝動ケース46を開けた状態において、第1及び第2密植ギヤ63,64を異なる偏芯状態の偏芯ギヤに交換したり、第1及び第2疎植ギヤ65,66を異なる偏芯状態の偏芯ギヤに交換したりして、不等速伝動装置52の調整を行う。
【0055】
[9]
次に、伝動ケース46のトルクリミッタ53について説明する。
図4に示すように、伝動軸58の端部に第1咬合部67が固定されている。伝動ケース46の出力軸54が伝動軸58と同芯状に相対回転自在に支持されて、伝動ケース46の出力軸54の端部に、第2咬合部68がスプライン構造にて伝動ケース46の出力軸54と一体回転及びスライド自在に外嵌されている。
【0056】
図4に示すように、伝動ケース46の出力軸54にバネ受け69が固定されて、第2咬合部68とバネ受け69とに亘ってバネ70が圧縮された状態(初期付勢力が与えられた状態)で取り付けられており、バネ70により第2咬合部68が第1咬合部67に向けて付勢されている。
この場合、バネ受け69の位置を伝動ケース46の出力軸54の軸芯方向に沿って調整することができるように構成されているので、バネ受け69の位置を調整することによって、バネ70の初期付勢力を調整することができる。
【0057】
図4において、苗植付装置5に掛かる負荷が設定値以下であると、トルクリミッタ53が伝動状態(バネ70の付勢力により第2咬合部68が第1咬合部67に咬合して、動力が第1咬合部67から第2咬合部68に伝達される状態)となって、苗植付装置5に動力が伝達されて、通常の植付作業が行われる。
苗植付装置5に掛かる負荷が設定値を超えると、バネ70の付勢力が負荷に負けて、第2咬合部68が第1咬合部67から
図4の紙面右方に離れる。これによって、トルクリミッタ53が遮断状態となって苗植付装置5が停止し、各部の破損が防止される。
【0058】
図4に示すように、バネ70の付勢力によって、トルクリミッタ53が遮断状態(第2咬合部68が第1咬合部67から離れる状態)となる設定値が決まる。
この場合、前項[6]に記載のように伝動ケース46を開けた状態において、バネ受け69の位置を調整してバネ70の初期付勢力を調整したり、別のバネ70に交換したりすることにより、トルクリミッタ53が遮断状態(第2咬合部68が第1咬合部67から離れる状態)となる設定値の調整を行うことができる。
【0059】
[発明の実施の第1別形態]
前述の[発明を実施するための形態]の不等速伝動装置52において、第1及び第2密植ギヤ63,64、第1及び第2疎稙ギヤ65,66に代えて、以下に示す構造を採用してもよい。
図5及び
図6に示すように、上手側伝動軸71が軸芯P1周りに回転自在に支持され、上手側伝動軸71の端部に円板部材72が固定されており、軸芯P1から所定距離だけ半径方向外側の円板部材72の位置にピン73(上手側伝動部に相当)が固定されて、ピン73にカラー74が回転自在に外嵌されている。
【0060】
図5及び
図6に示すように、下手側伝動軸75が上手側伝動軸71の端部に突き合わされるように配置され、軸芯P1とは偏芯した軸心P2周りに回転自在に支持されており、下手側伝動軸75の端部に円板部材76(下手側伝動部に相当)が固定されている。半径方向に沿った長孔76a(融通部に相当)が円板部材76に形成されており、ピン73(カラー74)が円板部材76の長孔76aに挿入(係合)されている。
【0061】
これにより、上手側伝動軸71の動力がピン73(カラー74)と円板部材76の長孔76aとの係合作用によって伝達される。この場合、ピン73(カラー74)を円板部材76に備え、長孔76aを円板部材72に備えてもよい。
【0062】
ピン73(カラー74)が
図5に示す位相に位置していると、ピン73(カラー74)と軸芯P2との距離が短くなるので、一定の角速度で回転する上手側伝動軸71に対して下手側伝動軸75が比較的高速の角速度で回転する。ピン73(カラー74)が
図5に示す位相から180度だけ離れた位相に位置していると、ピン73(カラー74)と軸芯P2との距離が長くなるので、一定の角速度で回転する上手側伝動軸71に対して下手側伝動軸75が比較的低速の角速度で回転する。
この場合、円板部材72におけるピン73(カラー74)の位置(軸芯P1とピン73(カラー74)との距離)を変更することにより、前述の下手側伝動軸75の角速度を変更することができる。
【0063】
[発明の実施の第2別形態]
前述の[発明を実施するための形態][発明の実施の第1別形態]
の不等速伝動装置52において、第1及び第2標準ギヤ61,62を備えないように構成してもよい。このように構成すると、密植又は疎稙専用の乗用型田植機となる。
【0064】
[発明の実施の第3別形態]
図7に示すように、伝動ケース6の後部の右及び左側部に回転駆動自在に支持された植付ケース7において、例えば6条植型式の乗用型田植機の場合、1,3,5条目の植付ケース7の位相を同じに設定し、2,4,6条目の植付ケース7の位相を、1,3,5条目の植付ケース7に対して90度だけ異ならせるように構成してもよい。
これにより、千鳥植えを行うことができるのであり、苗植付装置5の全体の振動を抑えることができる。
【0065】
[発明の実施の第4別形態]
図8に示すように、植付ケース7を側面視で三角形状に構成して、3個の植付アーム8を植付ケース7に等ピッチで備えるように構成してもよい。これにより、苗植付装置5の全体の振動を抑えることができる。
【0066】
[発明の実施の第5別形態]
エンジン19の出力軸19aの動力を静油圧式無段変速装置21の入力軸21aに伝達する伝動ベルト23に対して、以下に示す構造を採用してもよい。
図9に示すように、伝動ベルト23の張力を調節するテンションプーリー77、テンションプーリー77を支持するテンションアーム78、テンションアーム78を操作する電動式のアクチュエータ79、運転者が踏み操作するもので戻り側に付勢されたクラッチペダル80を備えて、伝動ベルト23によりテンションクラッチ型式の主クラッチを構成する。
【0067】
図9に示すように、アクチュエータ79を操作する制御装置81が備えられて、クラッチペダル80の操作位置を検出する位置センサー82の検出値が制御装置81に入力されている。エンジン19の出力軸19aの回転数を検出する回転数センサー83の検出値、及び静油圧式無段変速装置21の入力軸21aの回転数を検出する回転数センサー84の検出値が制御装置81に入力されている。
【0068】
これにより、クラッチペダル80を踏み込み操作すると、クラッチペダル80の操作位置に対応するテンションアーム78(テンションプーリー77)の位置となるように、制御装置81によりアクチュエータ79が操作される。クラッチペダル80を下限位置まで踏み込み操作すると、テンションプーリー77が伝動ベルト23から離れて、主クラッチの遮断状態となる。クラッチペダル80を上限位置まで戻し操作すると、テンションプーリー77が伝動ベルト23に押圧されて、主クラッチの伝動状態となる。
【0069】
この場合、回転数センサー83,84の検出値に基づいて、主クラッチの伝動状態での伝動ベルト23の滑りを検出することにより(伝動ベルト23の滑りが大きくなると、回転数センサー83,84の検出値の差が大きくなる)、伝動ベルト23の滑りが大きくなると、クラッチペダル80の上限位置でのテンションプーリー77の位置を、伝動ベルト23の押圧側に変更して、伝動ベルト23の滑りを少なくするように構成している。
【0070】
[発明の実施の第6別形態]
エンジン19の出力軸19aの動力を静油圧式無段変速装置21の入力軸21aに伝達する伝動ベルト23に対して、以下に示す構造を採用してもよい。
図10に示すように、エンジン19の出力軸19aに高速、中速及び低速の出力プーリー19bを固定して、静油圧式無段変速装置21の入力軸21aに高速、中速及び低速の入力プーリー21cを固定する。
【0071】
高速の出力及び入力プーリー19b,21c、中速の出力及び入力プーリー19b,21c、低速の出力及び入力プーリー19b,21cのうち、一組を選択して伝動ベルト23を巻回したり、別の入力プーリー19b,21cに巻回することにより、エンジン19の出力軸19aの動力を高速、中速及び低速の3段に変速して静油圧式無段変速装置21の入力軸21aに伝達することができる。
【0072】
[発明の実施の第7別形態]
静油圧式無段変速装置21において、以下に示す構造を採用してもよい。
図11に示すように、静油圧式無段変速装置21の入力軸21aを、静油圧式無段変速装置21の出力軸21bと同じ側まで貫通させて突出させる。遠心クラッチを利用した動力切換機構85を静油圧式無段変速装置21の出力軸21bに取り付けて、静油圧式無段変速装置21の入力軸21aと動力切換機構85とをギヤ機構86により接続し、動力切換機構85と伝動軸22とを接続する。
【0073】
静油圧式無段変速装置21が最高速位置よりも低速の状態であると、動力切換機構85において、静油圧式無段変速装置21の出力軸21bと伝動軸22とが接続され、静油圧式無段変速装置21の入力軸21a(ギヤ機構86)と、静油圧式無段変速装置21の出力軸21b及び伝動軸22とが遮断される。これにより、静油圧式無段変速装置21の出力軸21bの動力が伝動軸22に伝達される。
【0074】
静油圧式無段変速装置21が最高速位置の状態であると、動力切換機構85において、静油圧式無段変速装置21の入力軸21a(ギヤ機構86)と伝動軸22とが接続され、静油圧式無段変速装置21の出力軸21bと伝動軸22とが遮断される。これにより、静油圧式無段変速装置21の入力軸21aの動力が伝動軸22に伝達される。