(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1燃料噴射手段は、前記吸気弁の裏側で吸気弁の中央部に向かって噴射する第1燃料噴射ノズルからなり、前記第2燃料噴射手段は、該第1燃料噴射ノズルと該第1燃料噴射ノズルからの噴射燃料を吸気流の中心流に乗る方向に変更させるアシストエアの供給手段とを有し、該アシストエアが前記微細化手段としても機能することを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料噴射装置。
前記第1燃料噴射手段は、吸気ポートに取り付けられ前記吸気弁の裏側で吸気弁の中央部に向かって噴射する第1燃料噴射ノズルからなり、前記第2燃料噴射手段は、前記第1燃料噴射ノズルより上流側であって前記吸気流の中心流の上流位置に配設された第2燃料噴射ノズルから構成されることを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料噴射装置。
前第2燃料噴射ノズルは、前記第1燃料噴射ノズルに比べると噴口の数が多いと共に、第1燃料噴射ノズルより高い圧力で噴射され、該第2燃料噴射ノズルによって前記微細化手段が構成されることを特徴とする請求項4記載のエンジンの燃料噴射装置。
前記第1燃料噴射手段と前記第2燃料噴射手段とが一体になり、噴射方向および噴射圧力を変更できる噴射方向切替え噴射ノズルによって構成されることを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料噴射装置。
前記吸気弁の燃焼室中心軸側の前記膨出部の外周面の傾斜が該吸気ポート内を流れる吸気流に略沿う方向に形成されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれ1項に記載のエンジンの燃料噴射装置。
【背景技術】
【0002】
エンジンへの燃料供給装置として、吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射装置、燃焼室内に直接燃料を噴射する筒内直接噴射装置、これらを併用する装置が知られている。
ポート噴射装置においては、一般的に、吸気弁が閉じている排気行程で、吸気弁の裏を狙ってポート内に噴射し、燃料が高温の吸気弁に当たることに加えて蒸発時間が長くとれるため、良質な均一混合気が得られる。しかし、燃焼室へ流入する混合気の冷却が得られ難く、ノッキングの発生、高圧縮比化が難しい課題を有している。
【0003】
また、ポート噴射装置において、エンジンの高回転または高負荷運転時に、混合気の冷却効果と良質な均一混合気を得るために、吸気行程噴射が行われている。
しかし、
図10(A)に示すように、低回転または低負荷運転時に、吸気弁の裏を狙った方向のままで、高回転または高負荷運転時に吸気行程噴射すると、噴霧が吸気の流れに乗らずに吸気ポート壁面に当たってしまい壁面に付着してしまう問題が生じる。
また、うまく吸気流に乗った噴霧も多くが吸気弁の裏面に衝突して付着してしまい燃焼室内への流入が妨げられる。
また、噴霧の一部が吸気弁から筒内に入るが、対面のシリンダ壁に付着してしまう問題も生じる。
また、噴射期間が吸気行程内であるため噴射期間が短く、高回転高負荷では燃料噴射量が不足するとともに、霧化気化時間が不足することで、良質な混合気が得られない問題も有している。
【0004】
ポート噴射装置における吸気行程噴射に関する先行技術として、特開2001-263142号公報(特許文献1)、及び特開2012−87695号公報(特許文献2)が提案されている。
特許文献1には、ポート噴射リーンバーンエンジンにおいて、燃料噴射弁、及び吸気ポートを開閉する吸気弁と、吸気弁の上流側に配設される吸気流制御装置とを備えて、エンジンが低負荷・低回転時には、噴射燃料を低ペネトレーション噴霧(噴霧到達距離が短い噴射)とし、高負荷・高回転時には高ペネトレーション噴霧(噴霧到達距離が長い噴射)とすることにより、エンジンの吸気行程に同期させて噴射すると共に、吸気流制御装置(スワールコントロールバルブ)から流入する気流で搬送するようにして壁面付着を抑制する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ポート噴射装置において、エンジン回転数とエンジン負荷とエンジン冷却水温度等に基づいて、所定負荷以上の性能重視運転の第1噴射モードと、排ガス重視運転の第2噴射モードとのどちらに制御するかを判断し、第1噴射モードのとき、燃料噴射弁は吸気行程において吸気バルブとバルブシートとの隙間に向けて燃料を噴射し、第2噴射モードのとき、燃料噴射弁は、気排気行程または膨脹行程において吸気バルブの中央付近を狙って燃料を噴射する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、高回転・高負荷時の吸気行程噴射のときに、高ペネトレーション噴射にする(噴霧到達距離が長い噴射)ため、ポート内壁面への燃料付着は抑制されるものであるが、吸気弁の裏面近くまで噴霧が到達するようになるため、吸気弁傘部への衝突および付着についての問題は依然として有する。また。吸気弁の上流側に吸気流の向きを制御する吸気流制御装置(スワールコントロールバルブ)を設けるため吸気流路の損失が増大するとともに、吸気流路の構造が複雑化する。
【0008】
また、特許文献2には、所定負荷以上の時に第1噴射モードを選択して、燃料噴射弁は吸気行程において吸気バルブとバルブシートとの隙間に向けて燃料を噴射するものであるが、噴射方向の切換えは電磁アクチュエータを用いて燃料噴射弁自体を回動して噴射方向を変更するものであるため、回動機構による装置の大型化や回動機構による吸気ポート内のシール性の問題等を有する。さらに、前記特許文献1でも説明したように、吸気弁の傘部への衝突および付着についての問題は依然として有する。
【0009】
従って、吸気ポート噴射装置による吸気行程時噴射を行う技術として前記特許文献1、2が提案されているが、吸気弁裏面(傘部)への衝突および付着についての問題や、簡単化した装置によって、吸気行程の短時間の間に噴霧燃料を燃焼室に効率よく多く導入することについては依然問題があり、改善の余地を有している。
【0010】
そこで、本発明はかかる従来技術の問題点に鑑み、ポート噴射の燃料噴射装置による吸気行程時の噴射において、噴霧燃料の吸気弁裏面への衝突および付着を抑制すること、および大きな構造変更をすることなく簡単な装置によって噴霧燃料を吸気ポート内の吸気流に乗せてポート壁面への付着を抑制して燃焼室内に流入させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はかかる目的を達成するため、吸気ポートに設けられて吸気弁に向かって燃料を噴射する燃料噴射弁を備えたエンジンのポート噴射装置において、
エンジンンの部分負荷運転時には、吸気弁閉時に前記吸気弁の裏側で吸気弁の中央部に向かうように噴射する第1燃料噴射手段と、エンジンの高負荷運転時には、吸気弁開時に前記吸気ポート内を流れる吸気流の中心流に乗るように噴射する第2燃料噴射手段と、前記高負荷運転時に噴射する第2燃料噴射手段からの噴霧を前記第1燃料噴射手段による噴霧より微細化する微細化手段と、前記吸気弁は、軸部と該軸部の一端側に設けられた弁体部とを有し、該弁体部の裏面側に前記軸部から弁体部の外周に向かって形成された傾斜面を有し、前記高負荷運転時における前記中心流に乗って流れる噴霧の前記弁体部の裏面側への衝突角度を減少させる膨出部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
かかる発明によれば、エンジンの高負荷運転時には、吸気弁開時に吸気ポート内を流れる吸気流の中心流に乗るように第2燃料噴射手段によって噴射するため、吸気ポート壁面に当たって付着することが抑制される。
【0013】
また、吸気弁の弁体部の裏面側に軸部から弁体部の外周に向かって傾斜面を有する膨出部を形成したので、高負荷運転時に前記中心流に乗って流れる噴霧が吸気弁の裏面側へ衝突する衝突角度が減少するため、衝突した噴霧が蒸発せずにはじかれる割合が大きくなる。これによって、吸気弁に衝突して付着する割合が減少して、燃焼室へ効率よく多量の燃料が導入されて気化熱による混合気温度の低下が得られる。
さらに、微細化手段を備えているため、噴霧が微細化されることで、吸気流に乗って流れやすくなるため、吸気弁への付着が減少する。
【0014】
従って、混合気の冷却効果が得られて耐ノッキング性が向上して高負荷時の高圧縮化、高出力化が可能になる。
【0015】
また、本発明において好ましくは、前記第1燃料噴射手段は、前記吸気弁の裏側で吸気弁の中央部に向かって噴射する第1燃料噴射ノズルからなり、前記第2燃料噴射手段は、該第1燃料噴射ノズルと該第1燃料噴射ノズルからの噴射燃料を吸気流の中心流に乗る方向に変更させるアシストエアの供給手段とを有し、該アシストエアが前記微細化手段としても機能する。
【0016】
かかる構成によると、高負荷時に吸気行程噴射した噴霧が、アシストエアによって吸気ポート内を流れる吸気流の中心流に乗るように、吸気ポートの中央部に押し出されて向きが変えられるため、気流に乗った噴霧の大部分は吸気弁に衝突することなく燃焼室内に入り、燃焼室内に入る吸気は燃料の気化熱で冷却されて温度が低下する。
【0017】
さらに、アシストエアが前記微細化手段としても機能するため、すなわち、噴霧方向を変えるためのアシストエアによって、噴霧が微細化される。
従って、前述のように、アシストエアによって吸気ポート内を流れる吸気流の中心流に乗るように、吸気ポートの中央部に押し出されて向きが変えられだけでなく、噴霧の微細化によって、気流に乗った噴霧の大部分が吸気弁に衝突することなく燃焼室内に入る効果を一層得られる。
【0018】
また、本発明において好ましくは、前記アシストエアの供給手段が前記第1燃料噴射ノズルの内部に組み込まれているとよい。
かかる構成によると、第1燃料噴射ノズルとは別に、さらに吸気ポート内にアシストエアの噴出口を設ける必要がないため、装置構造を簡単化できる。
【0019】
また、本発明において好ましくは、前記第1燃料噴射手段は、吸気ポートに取り付けられ前記吸気弁の裏側で吸気弁の中央部に向かって噴射する第1燃料噴射ノズルからなり、前記第2燃料噴射手段は、前記第1燃料噴射ノズルより上流側であって前記吸気流の中心流の上流位置に配設された第2燃料噴射ノズルから構成されるとよい。
【0020】
かかる構成によると、高負荷時に吸気行程噴射する第2燃料噴射ノズルが、前記吸気流の中心流の上流位置に配設されているため、第2燃料噴射ノズルからの噴霧は、吸気流の中心流に乗るように噴射されため、噴霧方向を変えるアシストエアのような手段を設ける必要がないため、装置構造を簡単化するとともに、吸気流の中心流に乗る噴霧を確実に生成できる。
【0021】
また、本発明において好ましくは、前第2燃料噴射ノズルは、前記第1燃料噴射ノズルに比べると噴口の数が多いと共に、第1燃料噴射ノズルより高い圧力で噴射され、該第2燃料噴射ノズルによって前記微細化手段が構成されるとよい。
【0022】
かかる構成によると、前第2燃料噴射ノズルは、第1燃料噴射ノズルより高流量および高圧力に対応した燃料噴射ノズルを用いるため、燃料の微細化および高流量化が促進されて、高負荷運転時に、吸気弁に衝突して付着する割合が減少して、燃焼室へ効率よく多量の燃料を導入して気化熱による混合気温度の低下が得られる。
【0023】
また、本発明において好ましくは、前記第1燃料噴射手段と前記第2燃料噴射手段とが一体になり、噴射方向および噴射圧力を変更できる噴射方向切替え噴射ノズルによって構成されるとよい。
【0024】
かかる構成によると、第1燃料噴射手段である第1燃料噴射ノズルとは別に、第2燃料噴射手段である第2燃料噴射ノズルを別々に設置し、また第1燃料噴射ノズルに対してアシストエアの供給手段を設ける必要がないため、装置構造を簡単化できる。
【0025】
また、本発明において好ましくは、前記吸気弁の膨出部の内部が中空となっているとよい。
このように、内部が中空状態になっているため、軽量化できる。さらに、吸気弁の膨出部によって噴霧の弁体部の裏面への衝突角度が浅くなることに加えて、中空としたことによって、傘部温度が中実に比べて低くでき、衝突した噴霧の蒸発が抑制されて、蒸発せずにはじかれる割合が増加し、吸気弁に衝突して付着する割合が減少して、燃焼室へ効率よく多量の燃料を導入できるようになる。
【0026】
また、本発明において好ましくは、前記吸気弁の膨出部は略円錐形状に形成されているとよい。
このように、吸気弁の膨出部が略円錐形状に形成されているため、吸気弁の膨出部によって噴霧の弁体部の裏面への衝突角度が浅くなることによって得られるはじかれる作用を効果的に得ることができる。
【0027】
また、本発明において好ましくは、前記円錐形状の外表面は前記弁体部の外周側から軸部側に縮径する流線形の湾曲面に形成されているとよい。
このように、前記円錐形状の外表面は前記弁体部の外周から軸部側に縮径する流線形の湾曲面に形成されているため、吸気流路損失を与えず、かつ吸気流路の面積を確保して吸気流量が膨出部によって低減することを抑制できる。
【0028】
また、本発明において好ましくは、前記吸気弁の燃焼室中心側の前記膨出部の外周面の傾斜が該吸気ポート内を流れる吸気流に略沿う方向に形成されるとよい。
すなわち、
図10(C)に示すように、膨出部の傾斜方向が、吸気ポート内の吸気流の方向に略沿った形状となっているため、吸気弁の裏面への噴霧の衝突が軽減されるとともに、対面するシリンダの壁面の付着も低減される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ポート噴射の燃料噴射装置による吸気行程時の噴射において、噴霧燃料の吸気弁裏面への衝突および付着を抑制することができ、さらに大きな構造変更をすることなく簡単な装置によって噴霧燃料を吸気ポート内の吸気流に乗せてポート壁面への付着を抑制して燃焼室内に流入させることができる。
その結果、燃焼室へ効率よく多量の燃料を導入して気化熱による混合気温度の低下が得られ、混合気の冷却効果が得られて耐ノッキング性が向上して高負荷時の高圧縮化、高出力化が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0032】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、
図1、2を参照して説明する。
図1、
図2に、車両用のエンジンとしてポート燃料噴射の4サイクルガソリンエンジン(以下、単にエンジンという)1を示す。エンジン1は、吸気2弁、排気2弁を有する複数の気筒(シリンダ)3を備えている。本実施形態では4気筒の例を示し、該4気筒を有するシリンダブロック5と、その上に取付けられたシリンダヘッド7とを備えている。各気筒3にはピストン9が往復動可能に収容されている。
【0033】
気筒3毎の燃焼室11には、スロットルバルブ13、サージタンク15、吸気マニホールド17等を有する吸気通路19が接続されている。吸気通路19の最下流部分は、シリンダヘッド7に形成された吸気ポート21によって構成されている。
【0034】
また、エンジン1には、過給機23が備えられており、過給機23の過給コンプレッサ23aによって加圧された給気は、インタークーラ25によって冷却されて、冷却された給気はスロットルバルブ13を介してサージタンク15内に流入し、サージタンク15内に流入した給気は、各気筒3の吸気ポート21を通って燃焼室11に流入するようになっている。
また、排ガスは、排気ポート27に接続された排気マニホールド29によって各気筒3の排ガスが集められて、過給機23の過給タービン23bに導かれ、過給機23を作動して、その後、図示しない排ガス処理装置を通って排出されるようになっている。
【0035】
図2に示すように、シリンダヘッド7には、吸気ポート21と燃焼室11との開口部の開閉を行う吸気弁31と、排気ポート27と燃焼室11との開口部の開閉を行う排気弁33とが、気筒3毎にそれぞれ2本ずつ往復動可能に設けられている。
【0036】
これらの吸・排気弁31、33はバルブスプリング35によって、前記開口部を閉じる方向(閉弁方向)である上方へ常に付勢されている。吸気弁31の略上方には吸気カム36を有する吸気カムシャフト37が設けられ、また排気弁33の略上方には排気カム38を有する排気カムシャフト39が設けられている。これらの吸・排気カムシャフト37、39は、エンジン1の出力軸である図示しないクランクシャフトの回転が伝達される。
【0037】
このクランクシャフトからの伝達により吸・排気カムシャフト37、39が回転し、スイングアーム41、43が回動することによってバルブスプリング35に抗して吸・排気弁31、33をそれぞれ押下げる。これらの押下げにより、吸・排気ポート21、27の各開口部が開放される。
【0038】
エンジン1には、各気筒3に気筒の中央部に点火プラグ45が取り付けられている。また、吸気マニホールド17の下流端部には、吸気ポート21内の下流に向けて燃料を噴射する第1燃料噴射手段である第1燃料噴射ノズル47が各気筒に対応して取り付けられている。
【0039】
図8は、第1燃料噴射ノズル47からの燃料噴射方向を示す平面視図である。
図8の符号Aで示すように、第1燃料噴射ノズル47は、2つの吸気弁31、31のそれぞれ弁体部31b(
図9参照)の中央部に向かって噴射するように設定されている。なお、符号Aで示す噴射方向は、噴霧の中心方向を示すものであり、噴口は必ずしも左右1つずつではなく、複数の噴口からの噴霧の中心方向であってもよい。
【0040】
図1に示すように、第1燃料噴射ノズル47への燃料は、第1燃料ポンプ49から加圧燃料が各第1燃料噴射ノズル47に供給されて、制御装置51からの制御信号によって、第1燃料噴射ノズル47が開閉作動して、噴射開始、停止を行うようになっている。
【0041】
アシストエアを供給する電動エアポンプ53が設けられ、第1燃料噴射ノズル47の噴口の直下にアシストエアの出口55が設けられている。フィルター54を介して導入した大気を圧縮する電動エアポンプ53からのアシストエアは、各気筒3に対応して設けられたアシストエア制御弁57に供給されて、制御装置51からの制御信号によって、アシストエア制御弁57が開閉作動して、アシストエアの噴射開始、停止を行うようになっている。
【0042】
アシストエアが供給されると、
図2のように、第1燃料噴射ノズル47から吸気弁31の弁体部31bの中央に向かって噴射された噴霧Aが、アシストエアによって吸気ポート21内を流れる吸気流の中心流Cに乗る噴霧Bのように、吸気ポート21の中央部に押し出されて向きが変えられる。
これによって、噴霧の大部分は吸気ポート21内の吸気の気流に乗ることができるため吸気弁31の弁体部31bの裏面に衝突することなく燃焼室11内に入り、燃焼室11内に流入した吸気は燃料の気化熱によって冷却が促進される。
【0043】
なお、第1燃料噴射ノズル47とアシストエア制御弁57によって、本発明の第2燃料噴射手段を構成している。
また、高負荷運転時に、吸気行程噴射を行うときに、アシストエアの噴射と同時に第1燃料噴射ノズル47への燃料供給圧力も高めて、噴射圧力を高めるようにしている。
【0044】
次に、吸気弁31について説明する。
吸気弁31は、
図9のように、軸部31aと、該軸部31aの一端側に設けられた円形状の弁体部31bとによって構成され、該弁体部31bの裏面側に軸部31aから弁体部31bの外周に向かって略円錐形状の円錐傾斜面31cを有する膨出部61が形成されている。弁体部31bの外周端面にはシート面31dが形成され、該シート面31dは、吸気ポート21の開口端縁に着座する角度に設定されている。
【0045】
膨出部61は、所謂傘部を形成するものであるが、弁体部31bとの傾斜角度θ(
図9参照)は、15°〜60°の範囲に設定され、望ましくは50°〜60°に設定されるとよい。ポート燃料噴射のエンジンにおいては、吸気閉弁時に吸気弁裏面に向けた噴射によって、吸気弁に衝突させて蒸発させることで混合状態を良好にしているため、ポート燃料噴射のエンジンにおける吸気弁は一般的に、前記傾斜角度θは、5°〜15°の範囲に設定されている。しかしこの範囲では吸気弁への衝突、付着問題の解消の効果は期待できないため、この15°を超える角度として設定するとともに、また60°を超えると、吸気ポート21内の流路断面積を膨出部61によって狭めてしまい吸気流量を確保できなくなるおそれがあるからである。
【0046】
前記範囲内の角度にすることで、吸気弁31の膨出部61が略円錐形状に形成されているため、この吸気弁31の膨出部61によって噴霧の弁体部31bの裏面への衝突角度が浅くなることによって、噴霧がはじかれる作用を効果的に得ることができる。
【0047】
また、
図9のように、円錐形状の外表面が弁体部31bの外周側から軸部31a側に縮径する流線形の湾曲面31eによって形成されていてもよい。
図9には、便宜的に円錐傾斜面13cと湾曲面31eとの両方の形状を重ねて示す。
このように、弁体部13bの外周から軸部13a側に縮径する流線形の湾曲面13eに形成することによって、吸気流路の面積を確保して吸気流量が膨出部61によって大幅に低減することを抑制できる。
【0048】
吸気弁31と吸気ポート21とのシリンダヘッド7内における設定角度によって、最適な傾斜角θは変化するが、前記範囲内の角度の膨出部61によって、
図10(C)のP部に示すように、吸気弁31の気筒中心側の膨出部61の傾斜角度θは吸気ポート21内を流れる吸気流の流れに略沿う方向に形成される。すなわち、膨出部61の傾斜方向が、吸気ポート21内の吸気流の方向に略沿った形状とされるため、吸気弁31の裏面への噴霧の衝突が軽減されるとともに、対面するシリンダの壁面の付着も低減される。
【0049】
図10(A)は、従来技術を示し、低負荷運転時に吸気弁の裏を狙った方向のままで、高負荷運転時に噴射すると、噴霧が吸気の流れに乗らずに吸気ポート壁面に当たってしまい壁面に付着してしまう。
図10(B)は、参考例を示し、高負荷運転時に噴射方向を下向きにした場合を示し、吸気弁31には膨出部61が設けられていない場合を示し、噴霧は吸気の流れに乗っているが、噴霧は吸気弁31の裏面側に衝突して付着する。
図10(C)は、本願発明であり、膨出部61を設けた場合を示し、前述のように、円錐傾斜面31cが吸気ポート内の吸気流の方向に略沿った形状となっている。このため、吸気弁の裏面への噴霧の衝突が軽減されるとともに、対面するシリンダの壁面の付着も低減される。
【0050】
また、吸気弁31は、
図9に示すように中空部32を有する構造としてもよい。さらに、中空部32には金属ナトリウムを封入してもよい。中空部32の構造とすることで、吸気弁31の裏面への熱伝達が阻害されて温度が低下するので、衝突した燃料が蒸発せずに、はじかれる割合が多くなり、燃焼室11内への燃料の流入割合が増大する。さらに、中空部分に金属ナトリウムを封入することで、熱伝導率が増大して裏面温度を高めることができるので、金属ナトリウムの量によって、高温が望ましい部分負荷と低温が望ましい高負荷のバランスを取ることができる。
【0051】
次に、燃料噴射装置の作動について説明する。
図1に示すように、制御装置51は、エンジン回転数およびエンジン負荷信号をもとにエンジン1の運転状態を検出し、部分負荷または中、低回転の運転状態か、高負荷または高回転の運転状態かの判定を行い、部分負荷または中、低回転の運転状態の時には、前記第1燃料噴射ノズル47に噴射開始信号を、吸気弁31が閉じているタイミングで出力する。
【0052】
また、高負荷または高回転の運転状態の時には、前記第1燃料噴射ノズル47に噴射開始信号を、吸気弁31が開時の吸気行程のタイミングで出力する。それとともに、アシストエアの供給と同時に第1燃料噴射ノズル47への燃料供給量および圧力を高めて、噴射量および噴射圧力を高める。
【0053】
このように、高負荷または高回転時の吸気行程噴射時に、アシストエアが前記微細化手段としても機能し、噴霧方向を変えるアシストエアによって、噴霧が微細化される。
従って、アシストエアによって吸気ポート内を流れる吸気流の中心流に乗るように、吸気ポートの中央部に押し出されて向きが変えられだけでなく、噴霧の微細化によって、気流に乗った噴霧の多くが吸気弁31に衝突することなく燃焼室11内に入るようになる。
【0054】
以上の第1実施形態によれば、噴霧燃料の吸気弁31の裏面への衝突および付着を抑制することができ、さらに、第1燃料噴射ノズル47と、アシストエア制御弁57を設けることで、吸気ポート21内の構造を大きな変更をすることなく、外部からの装着で簡単な装置によって噴霧燃料を吸気ポート21内の吸気流に乗せて吸気ポート壁面への付着を抑制して燃焼室11内に多くの燃料を流入させることができる。
その結果、燃焼室11へ効率よく多量の燃料を導入して気化熱による混合気温度の低下が得られ、混合気の冷却効果が得られて耐ノッキング性が向上して高負荷時の高圧縮化、高出力化が可能になる。
【0055】
(第2実施形態)
図3、4を参照して第2実施形態を説明する。
第2実施形態は、第1実施形態のアシストエアの供給手段が第1燃料噴射ノズル47の内部に組み込まれている。その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0056】
図3、
図4(A)のように、アシストエアを供給する電動エアポンプ53が設けられ、第1燃料噴射ノズル65に設けられたアシストエア取入口68に、電動エアポンプ53からのアシストエアが供給される。
制御装置51からの制御信号によって、アシストエア制御弁67が開閉作動して、アシストエアの噴射開始、停止を行うようになっている。
アシストエアの噴射タイミングについて、およびアシストエアの噴射と同時に第1燃料噴射ノズル65への燃料供給量および圧力を高めて噴射量および圧力を高めるようにする点については、第1実施形態と同様である。
【0057】
図4(B)のように、第1燃料噴射ノズル65の先端部分に、アシストエア噴口70が形成されており、第1燃料噴射ノズル65の噴口69からの噴霧を、このアシストエア噴口70からのアシストエアによって、向きを変えるとともに微細化する。
【0058】
かかる第2実施形態によれば、第1燃料噴射ノズル47とは別に、さらに吸気ポート21内にアシストエアの出口55を設ける必要がないため、装置構造を簡単化できる。その他の作用効果は第1実施形態と同様である。
【0059】
(第3実施形態)
図5、6を参照して第3実施形態を説明する。
第3実施形態は、第1実施形態に対して、第2燃料噴射ノズル71が、第1燃料噴射ノズル47より上流側であって吸気ポート21内の吸気流の中心流Cの上流位置に配設されている。
【0060】
第1燃料噴射ノズル47が、第1実施形態および第2実施形態と同様の位置に配置されている。しかし、第1実施形態および第2実施形態でのアシストエアの供給手段は設けられていない。
アシストエアの供給手段に代えて、高負荷運転時の吸気行程時に噴射する第2燃料供給手段である第2燃料噴射ノズル71が、サージタンク15の各気筒に対応する位置に設けられている。すなわち、各気筒3の吸気管73の入口に対向する位置に設けられている。
また、この第2燃料噴射ノズル71は、吸気ポート21の吸気流の中心流Cの方向に噴射方向の中心が指向している。また、第1燃料噴射ノズル47より噴口の数が多く、多量で高圧の燃料が噴射されるようになっている。
【0061】
第1燃料噴射ノズル47には、第1燃料噴射ポンプ49からの吐出圧力の燃料が供給され、第2燃料噴射ノズル71には、第2燃料ポンプ75からの吐出圧力の燃料がそれぞれ別々に供給されるようになっている。それぞれの噴射ノズルに適した圧力を供給できるようになっている。
【0062】
第3実施形態によれば、第2燃料噴射ノズル71からの噴霧を微細化し、多量の燃料を吸気ポート21の吸気流の中心流Cに乗せることができる。
また、第2燃料噴射ノズル71は吸気流の中心流Cの上流位置に配設されているため、第2燃料噴射ノズル71からの噴霧は、噴霧方向を変えるアシストエアのような手段を設ける必要がないため、装置構造を簡単化するとともに、吸気流の中心流Cに乗る噴霧を確実に生成できる。
また、第2燃料噴射ノズル71で噴射された噴霧は、吸気管73の管長があるためその内部で、吸気流に乗って気化混合しながら吸気弁31に向かうため混合促進され混合気温度が低下する。
【0063】
さらに、高圧、高流量に対応できる第2燃料噴射ノズル71を用いるため、分割噴射を行うことができるようになる。すなわち、1サイクル中に噴射する燃料を、時間間隔を設けて複数回に分けて噴射することにより、噴射した燃料が複数の噴霧の塊になって、噴霧の外周に加えて前後でも空気と混ざるので、混合が促進されるとともに微細化も促進される。
【0064】
さらに、第2燃料噴射ノズル71は、サージタンク15に取り付けられるため、温度環境や圧力環境への対応が容易であるため筒内直接噴射の噴射ノズルよりも大幅に低コストで実現でき、筒内直接噴射と同様に気化熱によって筒内温度を低下できる吸気ポート噴射を達成できる。
【0065】
(第4実施形態)
図7を参照して第4実施形態を説明する。
第4実施形態は、第1実施形態および第2実施形態において、アシストエアを用いて噴霧の向きを変えていたが、アシストエアを用いずに、噴射方向を変えるとともに噴射圧力を変更できる噴射方向切替え噴射ノズル81を用いるものである。
【0066】
図7(A)の全体構成は、
図1においてアシストエアの供給手段が設けられていない構成と同様である。
第1実施形態の第1燃料噴射ノズル47に代えて、当該位置に噴射方向切替え噴射ノズル81を設けたものである。
図7(B)は、
図7(A)の噴射方向切替え噴射ノズル81の概略構成を示す模式図である。
【0067】
噴射ノズル本体83の下端部には、低圧用噴口85が直下に噴霧を噴射するように設けられ、下部の斜め上方には、高圧用噴口87が斜め下方に噴霧を噴射するように設けられている。
低圧用噴口85は低圧用針弁89の上下動によって開閉され、同様に、高圧用噴口87は高圧用針弁91の上下動によって開閉されるようになっている。
【0068】
低圧用噴口85から噴射した場合には、第1実施形態の
図2で示すように、A方向に噴射するようになっており、高圧用噴口87から噴射した場合には、B方向に噴霧が向かうようになり、吸気量の中心流C方向に乗るように噴射する。
【0069】
高圧用針弁91の中央部に低圧用針弁89が内嵌している。それぞれの針弁89、91は、閉弁方向に付勢する低圧用閉弁スプリング93、高圧用閉弁スプリング95によって閉弁されている。
【0070】
噴射ノズル本体83の上部には、燃料噴射制御弁97および切替えバルブ99が設けられている。燃料噴射制御弁97は、燃料噴射量、噴射タイミングを制御するものであり、高圧燃料噴射ポンプ101からの高圧燃料を、切替えバルブ99に供給する。
切替えバルブ99に供給された燃料は、燃料圧力を利用して自動的に低圧の場合には、低圧燃料通路103に切替えられ、高圧の場合には高圧燃料通路105に自動的に切り替えられる。
【0071】
低圧噴射に切り替えられた場合には、低圧燃料通路103に供給された燃料は、前記低圧用針弁89のシート部に供給し、低圧用閉弁スプリング93の押圧力に抗して該低圧用針弁89を押し上げることで、低圧用噴口85が開口して低圧噴射が下方向に行われる。
【0072】
一方、高圧噴射に切り替えられた場合には、高圧燃料通路105に供給された燃料は、前記高圧用針弁91のシート部に供給され、高圧用閉弁スプリング95の押圧力に抗して該高圧用針弁91を押し上げることで、高圧用噴口87が開口して高圧噴射が斜め下方向に行われる。
【0073】
以上のような、噴射方向切替え噴射ノズル81を用いることによって、第1実施形態および第2実施形態のアシストエアの供給を不要とし、また第3実施形態の第1燃料噴射ノズル47とは別に第2燃料噴射ノズル71とを設ける必要がないため、装置構造を簡単化できる。その他の作用効果については第1実施形態の説明と同様である。