特許第5984737号(P5984737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984737
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】クローラ走行装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/253 20060101AFI20160823BHJP
   B62D 55/12 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B62D55/253 B
   B62D55/253 E
   B62D55/12 A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-94486(P2013-94486)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-213808(P2014-213808A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180507
【弁理士】
【氏名又は名称】畑山 吉孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137590
【弁理士】
【氏名又は名称】音野 太陽
(72)【発明者】
【氏名】石原 和真
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−001127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/00 − 55/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の芯金を周方向に一定ピッチで埋設したゴム製のクローラベルトと、前記クローラベルトを駆動する駆動スプロケットと、前記駆動スプロケットの前下方にて前記クローラベルトを回動案内する前側遊輪と、前記駆動スプロケットの後下方にて前記クローラベルトを回動案内する後側遊輪と、前記前側遊輪と前記後側遊輪との間にて前記クローラベルトを回動案内する複数の転輪とを備え、
前記クローラベルトは、その内周面の左右中央側箇所にて前記内周面から突出する複数の駆動用突出部を周方向に一定ピッチで整列形成し、
前記駆動スプロケットは、その外周縁から外向きに突出する複数の駆動用押圧部を周方向に一定ピッチで整列形成して、前記駆動用押圧部にて前記駆動用突出部を前記クローラベルトの回動方向に押圧するように構成し、
前記駆動用突出部のそれぞれは、前記芯金の左右中央側箇所にて前記駆動用押圧部と対向するように前記クローラベルトの内周面側に屈曲偏倚させた前記芯金の偏倚部と、前記偏倚部を覆う前記クローラベルトの被覆部とから構成したクローラ走行装置。
【請求項2】
前記前側遊輪と前記後側遊輪と複数の前記転輪とのそれぞれは、前記駆動用突出部の左右に隣接する左右の輪体を備えた外転輪型に構成し、
前記偏倚部のそれぞれに、左右の対応する輪体に隣接する一対の芯金突起を突出形成した請求項1に記載のクローラ走行装置。
【請求項3】
前記クローラベルトは、その内周面側の駆動用突出部間に前記駆動用押圧部が係入する凹入部を形成している請求項1又は2に記載のクローラ走行装置。
【請求項4】
前記凹入部のそれぞれは、前記凹入部に係入した前記駆動用押圧部の左右両端部分との当接により、前記駆動スプロケットに対する前記クローラベルトの左右方向への位置ズレを防止する当接部分を備えるように構成した請求項3に記載のクローラ走行装置。
【請求項5】
前記駆動用突出部は、前記被覆部における前記一対の芯金突起の間を埋める突起間部分の突出方向の長さが、前記一対の芯金突起の突出方向の長さよりも短くなるように形成して、前記駆動用突出部の突出端部位に凹入部分を備えるように構成し、
前記駆動スプロケットは、その外周縁に、前記凹入部分に係入して前記クローラベルトの左右方向への位置ズレを防止するリング状の係入部分を備えるように構成した請求項2〜4のいずれか一つに記載のクローラ走行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の芯金を周方向に一定ピッチで埋設したゴム製のクローラベルトと、前記クローラベルトを駆動する駆動スプロケットと、前記駆動スプロケットの前下方にて前記クローラベルトを回動案内する前側遊輪と、前記駆動スプロケットの後下方にて前記クローラベルトを回動案内する後側遊輪と、前記前側遊輪と前記後側遊輪との間にて前記クローラベルトを回動案内する複数の転輪とを備え、前記クローラベルトは、その内周面の左右中央側箇所にて前記内周面から突出する複数の駆動用突出部を周方向に一定ピッチで整列形成し、前記駆動スプロケットは、その外周縁から外向きに突出する複数の駆動用押圧部を周方向に一定ピッチで整列形成して、前記駆動用押圧部にて前記駆動用突出部を前記クローラベルトの回動方向に押圧するように構成したクローラ走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなクローラ走行装置としては、各芯金に、それらのベルト幅方向中間部位からベルト内周面側に突出する転輪案内用の左右一対の芯金突起(突起部分)を備え、クローラベルトの各駆動用突出部を、左右の芯金突起と、これらの芯金突起を覆うゴム製の左右の山形突起部とから、ベルト幅方向の中間部位に左右一対ずつ備えるように構成したものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−084092号公報(段落番号0017、0018、0021、図4図9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構成によると、駆動スプロケットからの駆動力によってクローラベルトを駆動する場合には、駆動スプロケットの各駆動用押圧部が、クローラベルトにおけるベルト幅方向の中間部位においてクローラベルトの内周面側に突出する左右の駆動用突出部に押圧作用することになり、クローラベルトに埋設した各芯金に対しては、それらの芯金におけるクローラベルトの内周面側に突出する左右の芯金突起に押圧作用することになる。そのため、駆動スプロケットからの駆動力を、クローラベルトに埋設した各芯金を介してクローラベルトに効率良く伝えることができず、クローラ走行装置の推進力を向上させる上において改善の余地があった。
【0005】
本発明の目的は、駆動スプロケットからの駆動力をクローラベルトに効率良く伝達して、クローラ走行装置の推進力を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題解決手段は、
複数の芯金を周方向に一定ピッチで埋設したゴム製のクローラベルトと、前記クローラベルトを駆動する駆動スプロケットと、前記駆動スプロケットの前下方にて前記クローラベルトを回動案内する前側遊輪と、前記駆動スプロケットの後下方にて前記クローラベルトを回動案内する後側遊輪と、前記前側遊輪と前記後側遊輪との間にて前記クローラベルトを回動案内する複数の転輪とを備え、
前記クローラベルトは、その内周面の左右中央側箇所にて前記内周面から突出する複数の駆動用突出部を周方向に一定ピッチで整列形成し、
前記駆動スプロケットは、その外周縁から外向きに突出する複数の駆動用押圧部を周方向に一定ピッチで整列形成して、前記駆動用押圧部にて前記駆動用突出部を前記クローラベルトの回動方向に押圧するように構成し、
前記駆動用突出部のそれぞれは、前記芯金の左右中央側箇所にて前記駆動用押圧部と対向するように前記クローラベルトの内周面側に屈曲偏倚させた前記芯金の偏倚部と、前記偏倚部を覆う前記クローラベルトの被覆部とから構成した。
【0007】
この手段によると、駆動スプロケットからの駆動力によってクローラベルトを駆動する場合には、駆動スプロケットの各駆動用押圧部が、クローラベルトに埋設した各芯金に対しては、それらの芯金における左右中央側箇所の偏倚部の全体に被覆部を介して適切に押圧作用することになる。これにより、駆動スプロケットからの駆動力を、駆動スプロケットの各駆動用押圧部がクローラベルトの各駆動用突出部に当接する際の衝撃音の発生を抑制しながら、クローラベルトに埋設した各芯金を介してクローラベルトに効率良く伝えることができる。
【0008】
従って、駆動時の騒音の発生を抑制しながら、クローラ走行装置の推進力を向上させることができる。
【0009】
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、
前記前側遊輪と前記後側遊輪と複数の前記転輪とのそれぞれは、前記駆動用突出部の左右に隣接する左右の輪体を備えた外転輪型に構成し、
前記偏倚部のそれぞれに、左右の対応する輪体に隣接する一対の芯金突起を突出形成した。
【0010】
この手段によると、クローラ走行装置の駆動時には、クローラベルトの各駆動用突出部に備えた一対の芯金突起と、前後の遊輪及び各転輪に備えた左右の輪体とが隣接することにより、前後の遊輪及び各転輪に対するクローラベルトの左右方向での位置ズレを防止することができる。
【0011】
そして、駆動スプロケットからの駆動力によってクローラベルトを駆動する場合には、駆動スプロケットの各駆動用押圧部が、クローラベルトに埋設した各芯金に対しては、それらの芯金における偏倚部の全体に加えて左右の芯金突起にも押圧作用することになる。これにより、駆動スプロケットからの駆動力を、クローラベルトに埋設した各芯金を介してクローラベルトに更に効率良く伝えることができる。
【0012】
又、前後の遊輪を外転輪型に構成したことにより、クローラベルトの各駆動用突出部に前後の遊輪の通過を許容する凹入深さの深い凹部を形成する必要がないことから、各駆動用突出部の被覆部を、前記一対の芯金突起の間を埋める突起間部分を有するように形成することができる。これにより、各駆動用突出部におけるクローラベルトの回動方向視での形状を、駆動スプロケットの各駆動用押圧部による押圧を受けないデッドスペースが存在しない形状に形成することができる。これにより、駆動スプロケットからの駆動力によってクローラベルトを駆動する場合には、駆動スプロケットの各駆動用押圧部にてクローラベルトの各駆動用突出部を効率良く適切に押圧することができる。
【0013】
従って、前後の遊輪及び各転輪に対するクローラベルトの左右方向での位置ズレを防止しながら、駆動スプロケットからの駆動力をより効率良くクローラベルトに伝えることができ、クローラ走行装置の推進力を更に向上させることができる。
【0014】
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、
前記クローラベルトは、その内周面側の駆動用突出部間に前記駆動用押圧部が係入する凹入部を形成している。
【0015】
この手段によると、各芯金における偏倚部の偏倚量を小さくしながらも、駆動スプロケットからの駆動力によってクローラベルトを駆動する場合には、駆動スプロケットの各駆動用押圧部を、各芯金における偏倚部の全体に対して適切に押圧作用させることができる。これにより、各駆動用押圧部からの押圧力を、クローラベルトに埋設した各芯金の基部に伝え易くなり、その分、駆動スプロケットからの駆動力をより効率良くクローラベルトに伝えることができる。
【0016】
従って、駆動スプロケットからの駆動力をより効率良くクローラベルトに伝達することができ、クローラ走行装置の推進力を向上させることができる。
【0017】
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、
前記凹入部のそれぞれは、前記凹入部に係入した前記駆動用押圧部の左右両端部分との当接により、前記駆動スプロケットに対する前記クローラベルトの左右方向への位置ズレを防止する当接部分を備えるように構成した。
【0018】
この手段によると、駆動スプロケットに対するクローラベルトの左右方向での位置ズレを防止することができる。
【0019】
本発明をより好適なものにするための手段の一つとして、
前記駆動用突出部は、前記被覆部における前記一対の芯金突起の間を埋める突起間部分の突出方向の長さが、前記一対の芯金突起の突出方向の長さよりも短くなるように形成して、前記駆動用突出部の突出端部位に凹入部分を備えるように構成し、
前記駆動スプロケットは、その外周縁に、前記凹入部分に係入して前記クローラベルトの左右方向への位置ズレを防止するリング状の係入部分を備えるように構成した。
【0020】
この手段によると、駆動スプロケットからの駆動力によってクローラベルトを駆動する場合に、駆動スプロケットの各駆動用押圧部が、クローラベルトの各駆動用突出部に備えた各芯金の偏倚部の全体に対して被覆部を介して適切に押圧作用する状態を得られるようにしながら、各駆動用突出部の被覆部における突起間部分の突出方向での長さが不必要に長くなるのを防止することができる。これにより、クローラベルトの軽量化及びコストの削減を図ることができる。
【0021】
そして、各突起間部分が不必要に長くなるのを防止することによって得られる凹入部分を有効利用して、各凹入部分に係入するリング状の係入部分を駆動スプロケットの外周縁に備えることにより、駆動スプロケットに対するクローラベルトの左右方向への位置ズレを防止することができる。
【0022】
従って、クローラベルトの軽量化及びコストの削減を図りながら、駆動スプロケットに対するクローラベルトの左右方向への位置ズレを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】クローラ走行装置を備えたトラクタの左側面図である。
図2】クローラ走行装置を縦断背面図である。
図3】クローラ走行装置における駆動部の縦断左側面図である。
図4図3におけるIV−IV断面図である。
図5】クローラベルトにおける凹入部形成箇所の縦断正面図である。
図6】クローラベルトにおける駆動用突出部形成箇所の縦断正面図である。
図7】クローラベルトの位置ズレ防止構造の別実施形態を示すクローラ走行装置における駆動部の縦断正面図である。
図8】クローラベルトの位置ズレ防止構造の別実施形態を示すクローラベルトにおける駆動用突出部間の縦断正面図である。
図9】クローラベルトの位置ズレ防止構造の別実施形態を示すクローラベルトにおける駆動用突出部形成箇所の縦断正面図である。
図10】駆動用押圧部の左右方向視での形状を突出方向に長い楕円形に形成した別実施形態を示す要部の縦断側面図である。
図11】駆動用押圧部の左右方向視での形状を円形に形成した別実施形態を示す要部の縦断側面図である。
図12】駆動用押圧部の左右方向視での形状を略V字状に形成した別実施形態を示す要部の縦断側面図である。
図13】駆動用押圧部の左右方向視での形状を略U字状に形成した別実施形態を示す要部の縦断側面図である。
図14】駆動用押圧部における突出端側の左右中央箇所に凹部を形成した別実施形態を示す要部の縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係るクローラ走行装置を、作業車の一例であるトラクタに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1に示すように、本実施形態で例示するトラクタは、車体フレーム1の前半部に原動部2を備え、車体フレーム1の後半部に搭乗空間を形成するキャビン3を配備している。そして、車体フレーム1における前部側の左右両側部に駆動可能で操舵可能な前輪4を配備し、車体フレーム1における後部側の左右両側部に駆動可能なクローラ走行装置5を配備することにより、4輪駆動型に構成している。
【0026】
図2に示すように、車体フレーム1は、その後部側をトランスミッションケース(以下、T/Mケースと称する)6によって構成している。T/Mケース6は、その後部の左右両側部に、T/Mケース6の内部から左右に延出する左右の後車軸7を支持する後車軸ケース8を装備している。
【0027】
図示は省略するが、車体フレーム1の後部には、ロータリ耕耘装置やプラウなどの作業装置の連結装備を可能にするリンク機構、リンク機構を介した作業装置の昇降操作を可能にする油圧式の昇降機構、及び、車体フレーム1の後部にロータリ耕耘装置などの駆動型の作業装置を連結した場合に作業装置への作業用動力の取り出しを可能にするPTO軸、などを装備している。
【0028】
図1及び図2に示すように、左右のクローラ走行装置5は、前後向きのトラックフレーム10、ゴム製のクローラベルト11、クローラベルト11を駆動する駆動スプロケット12、駆動スプロケット12の前下方にてクローラベルト11を回動案内する前側遊輪13、駆動スプロケット12の後下方にてクローラベルト11を回動案内する後側遊輪14、及び、前側遊輪13と後側遊輪14との間にてクローラベルト11を回動案内する4つの転輪15、などを備えている。
【0029】
左右のトラックフレーム10は、その前後中間部から車体フレーム1に向けて延出する連結部材16を装備している。連結部材16は、後車軸ケース8にボルト連結した支持部材17に、左右向きの支軸18を介して連結している。
【0030】
図1〜3に示すように、左右のクローラベルト11は、硬度の高いゴム材からなる無端帯状のベルト本体19と、ベルト本体19よりも硬度の低いゴム材からなる複数のラグ20とを備えるように成形している。ベルト本体19には、複数の芯金21を周方向に一定ピッチで埋設し、かつ、その内周面の左右中央側箇所にて突出する複数の駆動用突出部22を、各芯金21の埋設箇所と同じ位置に位置するように、周方向に一定ピッチで整列形成している。複数のラグ20は、ベルト本体19の外周側に左右2列で周方向に一定ピッチで並ぶ状態に整列形成している。
【0031】
左右の駆動スプロケット12は、対応する後車軸7にボルト連結した鋼板製で大径の回転ディスク23、及び、回転ディスク23の外周部にリング状にボルト連結した鋳造製の4つの分割スプロケット24、によって構成している。各分割スプロケット24は、回転ディスク23に対するボルト連結を可能にする板状の連結部24Aと、連結部24Aの外周縁から外向きに突出する複数の突出部24Bとを有するように形成している。そして、各突出部24Bを、連結部24Aから左右に張り出す幅広に形成することにより、突出部形成箇所の断面形状がT字状になるように構成している。各突出部24Bは、駆動スプロケット12を構成した場合に、クローラベルト11において隣接する2つの駆動用突出部22の間に入り込むことが可能な一定ピッチで、駆動スプロケット12の周方向に整列配備した状態となるように配置設定している。そして、駆動スプロケット12の回転駆動に伴って、その回転方向上手側に位置する駆動用突出部22を押圧することにより、駆動スプロケット12の回転方向にクローラベルト11を回動させるように構成している。
【0032】
つまり、左右の駆動スプロケット12は、各分割スプロケット24に形成した複数の突出部24Bにより、駆動スプロケット12の外周縁から外向きに突出する状態で、駆動スプロケット12の周方向に一定ピッチで整列形成した状態となる複数の駆動用押圧部25を構成している。そして、これらの駆動用押圧部25が、駆動スプロケット12の回転駆動に伴って、クローラベルト11の駆動用突出部22を駆動スプロケット12の回転方向に押圧するように構成している。
【0033】
この構成から、左右の後車軸7とともに左右の駆動スプロケット12を前進方向に回転駆動すると、この回転駆動に伴って、左右の駆動スプロケット12の各駆動用押圧部25が対応するクローラベルト11の各駆動用突出部22を前進方向に押圧する。これにより、左右のクローラベルト11を前進方向に回動させることができ、車体を前進させることができる。逆に、左右の後車軸7とともに左右の駆動スプロケット12を後進方向に回転駆動すると、この駆動に伴って、左右の駆動スプロケット12の各駆動用押圧部25が対応するクローラベルト11の各駆動用突出部22を後進方向に押圧する。これにより、左右のクローラベルト11を後進方向に回動させることができ、車体を後進させることができる。
【0034】
図1に示すように、左右の前側遊輪13は、前側遊輪13を前下方に突出付勢する付勢機構26を介してトラックフレーム10の前端部に装備することにより、駆動スプロケット12の前下方に配置している。又、クローラベルト11に形成した各駆動用突出部22の左右に隣接する左右の輪体27を備えた外転輪型に構成している。この構成により、クローラベルト11を緊張状態に維持するとともに、前側遊輪13に対するクローラベルト11の左右方向への位置ズレを防止している。
【0035】
左右の後側遊輪14は、トラックフレーム10の後端部に装備することにより、駆動スプロケット12の後下方に配置している。又、クローラベルト11に形成した各駆動用突出部22の左右に隣接する左右の輪体28を備えた外転輪型に構成することにより、後側遊輪14に対するクローラベルト11の左右方向への位置ズレを防止している。
【0036】
図1及び図2に示すように、左右の各転輪15は、トラックフレーム10の下部に前後方向に所定ピッチで装備することにより、前側遊輪13と後側遊輪14との間に配置している。又、クローラベルト11に形成した各駆動用突出部22の左右に隣接する左右の輪体29を備えた外転輪型に構成することにより、各転輪15に対するクローラベルト11の左右方向への位置ズレを防止している。
【0037】
図2〜6に示すように、左右のクローラベルト11は、ベルト本体19の内周面側における各駆動用突出部22の間に、各駆動用押圧部25の係入を許容する凹入部11Aを形成している。各凹入部11Aは、クローラベルト11の回動方向視での形状が幅広で底窄まりの台形状になり、かつ、クローラベルト11の左右方向視での形状が幅狭で底窄まりの台形状になるように形成している。又、それらの底壁部分11aが、クローラベルト11に埋設した各芯金21の芯金基部21Aと偏倚部21Bとの間に位置するように、それらの凹入深さを設定している。そして、それらの底壁部分11aに各駆動用押圧部25の突出端部分25aが接合するように形成している。又、それらの左右の側壁部分11bが、各駆動用押圧部25の左右の側端部分25bとの当接により、駆動スプロケット12に対するクローラベルト11の左右方向への位置ズレを防止する当接部分として機能するように形成している。更に、それらの前後の壁面部分11cにより、各駆動用突出部22における前後の壁面22Aの基端側部分を形成するように構成している。
【0038】
左右のクローラベルト11において、各芯金21は、ベルト本体19に左右向きの姿勢で埋設する左右の芯金基部21A、各芯金21の左右中央側箇所にて駆動スプロケット12の各駆動用押圧部25と対向するようにクローラベルト11の内周面側に屈曲偏倚させた偏倚部21B、及び、各偏倚部21Bから突出する左右の芯金突起21C、を備えるように形成している。そして、ベルト本体19に芯金基部21Aを埋設した状態では、左右の芯金突起21Cが、ベルト本体19の内周面から突出して、前側遊輪13と後側遊輪14と各転輪15とのそれぞれにおける左右の対応する輪体27〜29に隣接するように構成している。
【0039】
各駆動用突出部22は、芯金21に備えた偏倚部21Bと左右の芯金突起21C、及び、偏倚部21Bと左右の芯金突起21Cとを覆うクローラベルト11の被覆部11Bとから構成している。そして、クローラベルト11の左右方向視での形状が略三角形状になるように形成している。又、それらの突出長さを、前側遊輪13を支持する付勢機構26の支持部、及び、後側遊輪14や各転輪15を支持するトラックフレーム10の各支持部に接触しない範囲で極力長くすることにより、クローラベルト11の前後の遊輪13,14及び転輪15に対する左右方向への位置ズレをより確実に防止できるようにしている。
【0040】
各駆動用突出部22において、偏倚部21Bは、クローラベルト11におけるベルト本体19と被覆部11Bとの境界部位に位置して、境界部位の補強を行うように構成している。
【0041】
各被覆部11Bは、ベルト本体19と同じ性質のゴム材を用いて、ベルト本体19と同じ硬度となるようにベルト本体19に一体形成している。そして、前述したように前側遊輪13と後側遊輪14と各転輪15とを外転輪型に構成したことにより、左右の芯金突起21Cの間に前後の遊輪13,14や各転輪15の通過を許容する空間を形成する必要がないことから、左右の芯金突起21Cの間を埋める突起間部分11dを有するように構成している。これにより、各駆動用突出部22は、ベルト本体19の内周面から突出する部分におけるクローラベルト11の回動方向視での形状が略台形状になるように形成している。
【0042】
左右の駆動スプロケット12において、各駆動用押圧部25は、駆動スプロケット12の回転方向視での形状が、クローラベルト11の各凹入部11Aへの内接が可能な幅広で先窄まりの台形状になり、かつ、左右方向視での形状が、クローラベルト11の各凹入部11Aへの内接が可能な幅狭で先窄まりの台形状になるように形成している。そして、駆動スプロケット12の回転方向に面する前後両面に、クローラベルト11の各駆動用突出部22に対してクローラベルト11の回動方向に押圧作用する台形状の押圧面25cを備えるように形成している。各押圧面25cは、各駆動用突出部22における左右の芯金突起21Cにわたる幅広の左右幅を有して各駆動用突出部22の偏倚部21Bに対向している。
【0043】
左右のクローラベルト11において、各駆動用突出部22は、前後の壁面22Aにおける芯金21の偏倚部21Bが位置する基部側に、各駆動用押圧部25における押圧面25cの左右幅方向及び突出方向の全域に連続して当接する台形状の面部分22aを有するように形成している。これにより、各駆動用突出部22における前後の壁面22Aが、各駆動用押圧部25の押圧面25cに対して、各押圧面25cの全域を受け止めて押圧される被押圧面として機能するように構成している。
【0044】
以上の構成から、左右の後車軸7とともに左右の駆動スプロケット12を前進方向又は後進方向に回転駆動すると、左右のクローラベルト11の各駆動用突出部22は、それらの前側又は後側の壁面22Aにおける基部側の面部分22aにより、左右の駆動スプロケット12の各駆動用押圧部25における前側又は後側の押圧面25cの全域を受け止めたデッドスペースのない状態で、かつ、内部に備えた芯金21の偏倚部21Bを中心にした適切な状態で、各駆動用押圧部25によってクローラベルト11の回動方向に押圧されるようになる。その結果、左右の駆動スプロケット12からの駆動力を、駆動スプロケット12の各駆動用押圧部25がクローラベルト11の各駆動用突出部22に当接する際の衝撃音の発生を抑制しながら、クローラベルト11に埋設した各芯金21を介してクローラベルト11に効率良く伝えることができ、左右のクローラ走行装置5による推進力を高めることができる。又、重負荷牽引作業時における各駆動用突出部22の変形を抑制することができ、これにより、各駆動用押圧部25を各駆動用突出部22の間に位置する各凹入部11Aにスムーズに係入させることができる。
【0045】
そして、各駆動用突出部22が、ベルト本体19に埋設した芯金21に偏倚形成した偏倚部21Bと突出形成した左右の芯金突起21Cとを有することにより、各駆動用突出部22に採用するゴム材として、ベルト本体19に採用するゴム材と同じ硬度のものを採用しながら、各駆動用突出部22の耐久性を向上させることができる。これにより、例えば各駆動用突出部22をゴム材のみで構成する場合のように、高い耐久性を得るために、各駆動用突出部22に採用するゴム材の硬度を、ベルト本体19に採用するゴム材の硬度よりも高くする必要がなく、又、その硬度差を得るための別加硫を不要にすることができる。その結果、コストの削減や製造の容易化において有利にすることができる。
【0046】
又、左右のクローラベルト11に埋設する各芯金21に偏倚部21Bを備えたことにより、各クローラベルト11のベルト本体19において左右のラグ20を繋ぐ状態になる左右中央部位19Aの厚みを大きくすることができる。これにより、偏倚部21Bを備えない場合に生じていた、左右中央部位19Aにて大きい厚みを確保するためにベルト本体19の全体の厚みを大きくすることによる、クローラベルト11の不必要な重量化やコストの高騰などを防止することができる。
【0047】
図示は省略するが、左右のクローラベルト11において、ベルト本体19における各芯金突起21Cの外周側箇所には補強用の複数のスチールコードを埋設している。
【0048】
〔別実施形態〕
【0049】
〔1〕左右のクローラ走行装置5は、左右の前輪4に代えてトラクタなどの作業車における前部の左右に備えるように構成したものであってもよい。又、左右の前輪4及び左右の後輪に代えてトラクタなどの作業車の前後にわたる状態で作業車の左右に備えるように構成したものであってもよい。
【0050】
〔2〕図7〜9に示すように左右のクローラ走行装置5を構成してもよい。この構成について詳述すると、左右のクローラ走行装置5において、各クローラベルト11は、それらの各駆動用突出部22の被覆部11Bにおける一対の芯金突起21Cの間を埋める突起間部分11dの突出方向の長さが、駆動スプロケット12における各駆動用押圧部25の突出方向の長さに対応する長さを有する状態で、一対の芯金突起21Cの突出方向の長さよりも短くなるように形成して、駆動用突出部22の突出端部位に凹入部分22Bを備えるように構成している。又、駆動スプロケット12は、その外周縁を形成する各分割スプロケット24に、連結部24Aよりも幅広で突出部24Bよりも幅狭に形成することにより、凹入部分22Bに係入してクローラベルト11の左右方向への位置ズレを防止するリング状の係入部分12Aを備えている。
【0051】
これにより、左右の各クローラ走行装置5は、駆動スプロケット12からの駆動力によってクローラベルト11を駆動する場合に、クローラベルト11の各駆動用突出部22が、それらの各被押圧面22Aによって駆動スプロケット12の各駆動用押圧部25における押圧面25cの全域を受け止める状態などを得られるようにしながら、クローラベルト11における突起間部分11dの突出方向での長さが不必要に長くなるのを防止することができる。これにより、左右のクローラ走行装置5におけるクローラベルト11の軽量化及びコストの削減を図ることができる。
【0052】
そして、駆動スプロケット12の外周縁にリング状の係入部分12Aを備えることにより、クローラベルト11において各突起間部分11dが不必要に長くなるのを防止することによって得られる各駆動用突出部22の凹入部分22Bを有効利用して、駆動スプロケット12に対するクローラベルト11の左右方向への位置ズレを防止することができる。
【0053】
つまり、上記の実施形態で例示した、クローラベルト11における内周面側の駆動用突出部間のそれぞれに駆動用押圧部25が係入する凹入部11Aを形成する、といった構成に代えて、この別実施形態で例示した構成を採用しても、駆動スプロケット12に対するクローラベルト11の左右方向への位置ズレを防止することができる。又、上記の実施形態で例示した構成、又は、この別実施形態で例示した構成だけではクローラベルト11の位置ズレ防止が不十分な場合には、双方の構成を採用することにより、駆動スプロケット12に対するクローラベルト11の左右方向への位置ズレを確実に防止することができる。
【0054】
又、この別実施形態で例示した構成を採用すると、駆動スプロケット12における各駆動用押圧部25の突出長さを短くすることができ、その分、駆動スプロケット12の外径を短くすることができる。その結果、トラックフレーム10と駆動スプロケット12との離間距離を大きくすることができ、クローラ走行装置5の組み付け性を向上させることができる。
【0055】
〔3〕各芯金21は、芯金突起21Cとして、例えば、各駆動用突出部22の左右幅の略全域にわたる幅広の左右幅を有する単一の芯金突起21Cを形成したものであってもよい。又、芯金突起21Cを備えないように形成したものであってもよい。そして、各芯金21に芯金突起21Cを備えない場合は、クローラベルト11の各駆動用突出部22を、芯金21の偏倚部21Bと、偏倚部21Bを覆うクローラベルト11の被覆部11Bとから構成することになる。
【0056】
〔4〕各クローラベルト11において、それらの内周面側における各駆動用突出部22の間に形成する各凹入部11Aは、例えば、それらの底壁部分11aが、クローラベルト11に埋設した各芯金21の偏倚部21Bにおけるベルト外周側の端部と、クローラベルト11の回動方向視において一致するように、それらの凹入深さを設定したものであってもよい。
【0057】
〔5〕各駆動スプロケット12の構成は種々の変更が可能であり、例えば、回転ディスク23と3分割形状又は5分割形状などの分割スプロケット24とから構成してもよい。
【0058】
〔6〕各駆動スプロケット12における各駆動用押圧部25の形状は種々の変更が可能である。例えば、図10〜13示すように、各駆動用押圧部25の左右方向視での形状が、突出方向に長い楕円形(図10参照)、円形(図11参照)、略V字状(図12参照)、又は、略U字状(図13参照)、になるように各駆動用押圧部25を形成してもよい。又、図14に示すように、各駆動用押圧部25における突出端側の左右中央箇所に凹入部分25dを有するように各駆動用押圧部25を形成してもよい。更に、図示は省略するが、各駆動用押圧部25の左右幅が各駆動用突出部22の左右幅よりも大きくなるように各駆動用押圧部25を形成してもよい。
【0059】
〔7〕後側遊輪14を、トラックフレーム10の後端部に、後側遊輪14を後下方に突出付勢する付勢機構26を介して装備してもよい。
【0060】
〔8〕上記の実施形態では、左右のトラックフレーム10に4つの各転輪15を変位不能に装備する構成を例示したが、例えば、前側2つの転輪15と、後側2つの転輪15とを、それぞれ天秤アームを介して天秤揺動可能にトラックフレーム10に装備して、各転輪15がサスペンションとしての機能を有するように構成してもよい。又、トラックフレーム10に3つ以下又は5つ以上の転輪15を備えるように構成してもよい。
【0061】
〔9〕左右のクローラベルト11の各駆動用突出部22に形成する被押圧面22A(面部分22a)の形状、及び、左右の駆動スプロケット12の各駆動用押圧部25に形成する押圧面25cの形状は、種々の変更が可能であり、例えば、各被押圧面22Aと各押圧面25cとのそれぞれを矩形状に形成してもよい。尚、各被押圧面22Aが各押圧面25cの全域を受け止めて押圧される形状であることが好ましい。
【0062】
〔10〕左右のクローラベルト11においては、ベルト本体19に採用するゴム材よりも硬度の高いゴム材を各被覆部11Bに採用して、各駆動用突出部22における被覆部11Bの硬度がベルト本体19の硬度よりも高くなるように構成してもよい。この構成は、各芯金21に芯金突起21Cを備えない場合に特に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係るクローラ走行装置は、トラクタ、コンバイン、ニンジン収穫機、トウモロコシ収穫機、乗用田植機、などの農用作業機、バックホー、ドーザ、などの建設用作業機、あるいは運搬車などに適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
11 クローラベルト
11A 凹入部
11B 被覆部
11b 当接部分
11d 突起間部分
12 駆動スプロケット
12A 係入部分
13 前側遊輪
14 後側遊輪
15 転輪
21 芯金
21B 偏倚部
21C 芯金突起
22 駆動用突出部
22B 凹入部分
25 駆動用押圧部
25b 左右両端部分
27 輪体
28 輪体
29 輪体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14