(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光学多層膜における各層の材質が、Si、Nb、Zr、Ti、La、Ta、及びAlの少なくともいずれかを含有する酸化物である請求項1から8のいずれかに記載の位相差素子。
透明基板上に投影された第1の線分及び第2の線分のなす角の2等分線と、前記透明基板の一辺とのなす角度が略45°である請求項1から12のいずれかに記載の位相差素子。
プレチルトにより液晶分子が基板の表面の直交方向に対して傾斜している方向を透明基板上に投影したときの仮想線と、前記透明基板上に投影された第1の線分及び第2の線分のなす角の2等分線とが、略平行である請求項14に記載の液晶表示装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(位相差素子及びその製造方法)
本発明の位相差素子は、透明基板と、位相差付与反射防止層と、第1の複屈折層と、第2の複屈折層とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0015】
本発明の位相差素子の製造方法は、本発明の前記位相差素子の製造方法であって、第1の複屈折層形成工程と、第2の複屈折層形成工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
前記第1の複屈折層形成工程は、前記透明基材、及び前記位相差付与反射防止層のいずれかの上に、斜方蒸着により第1の複屈折層を形成する工程である。
前記第2の複屈折層形成工程は、前記第1の複屈折層上に、斜方蒸着により前記第2の複屈折層を形成する工程である。
【0016】
以下、前記位相差素子の各構成の説明を通して、本発明の前記位相差素子の製造方法についても説明する。
【0017】
なお、本発明において、正面入射光とは、液晶パネル、及び位相差素子に垂直に入射する光のことであり、斜入射光とは、正面入射光から一定の角度を持って入射する光を指す。
【0018】
<透明基板>
前記透明基板としては、使用帯域の光に対して透光性を有する基板であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記透明基板の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス、石英、水晶などが挙げられる。
【0019】
前記透明基板の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、四角形であることが好ましい。
【0020】
前記透明基板の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、基板の反りを防止する点から、0.1mm〜3.0mmが好ましく、0.1mm〜2.0mmがより好ましい。
【0021】
<位相差付与反射防止層>
前記位相差付与反射防止層としては、光学多層膜からなり、入射光のうち斜入射光に位相差を付与し、かつ前記入射光の反射を防止する層であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
前記光学多層膜における各層の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、Si、Nb、Zr、Ti、La、Ta、及びAlの少なくともいずれかを含有する酸化物であることが好ましい。
【0023】
前記光学多層膜における各層の平均厚みは異なることが好ましい。そうすることにより、十分な反射防止機能を得ることができる。
以下、各層の平均厚み、光学多層膜の平均厚み、誘電体多層膜の平均厚みを、膜厚と称することがある。
【0024】
前記位相差付与反射防止層は、前記透明基板に対する直交方向から15°傾斜した斜入射光に対して28nm以下の位相差を付与することが好ましい。
【0025】
従来、構造性複屈折と呼ばれる光学多層膜は、膜厚方向の位相差Rthを発現させる場合、光の干渉効果を利用しない。例えば、2種類の誘電体膜をそれぞれ誘電体膜a、誘電体膜bとし、誘電体膜aと誘電体膜bとの積層を1構成単位として100層近く積層した場合、誘電体膜aの膜厚taは、多層膜中で全て等価であり、誘電体膜bの膜厚tbも多層膜中で全て等価である。例えば、国際公開第2009/001799号公報の技術では、誘電体膜の膜厚は全て15nmである。このような従来の光学多層膜は、別途、反射防止膜をその両側に設ける必要がある。
【0026】
一方、本発明における位相差付与反射防止層は、誘電体膜への斜入射によって生じる位相差を利用し、さらに光の干渉効果を積極的に利用して、反射防止層としても機能する。すなわち、前記位相差付与反射防止層は、第1の複屈折層及び第2の複屈折層で制御困難である斜入射光の位相差の独立設計を可能とし、また、反射防止機能を有する。
【0027】
また、前記位相差付与反射防止層は、各層の平均厚みを等価にする必要はなく、積層数も比較的少なくすることが可能である。具体的には、各層の平均厚みをおおよそ全て異なるものとし、さらに積層数を最適なものとすることが好ましい。これは、従来の設計思想とは根本的に異なるものである。以下、前記位相差付与反射防止層をRd−AR層とも称する。
【0028】
図1は、Rd−AR層の一例を模式的に示す断面図である。このRd−AR層11は、
図1に示すように、透明基板10上に高屈折率の誘電体膜aと低屈折率の誘電体膜bとが交互に積層された誘電体多層膜である。
【0029】
前記Rd−AR層は、所望の波長帯域において反射防止機能を有し、かつ所定の角度を有する斜入射光に対して任意の位相差を付与するため、反射防止の設計と同時に斜入射光の位相差の設計も行う必要がある。
【0030】
前記Rd−AR層は、可視光の帯域に対しても設計することができるが、Redの波長帯域(例えば590〜680nm)、Greenの波長帯域(例えば510〜590nm)、Blueの波長帯域(例えば430〜510nm)の3原色の波長帯域のそれぞれに対して設計することが好ましい。誘電体は、屈折率の波長分散を有し、斜入射光の位相差も波長分散を持つため、可視光の帯域で一定の位相差を設計することは難しいが、RGBの3原色に分けることにより、斜入射光の位相差の波長分散を抑制し、また、反射防止の設計を容易にすることができる。
【0031】
前記Rd−AR層に用いられる誘電体膜としては、TiO
2、SiO
2、Ta
2O
5、A1
2O
3、CeO
2、ZrO
2、ZrO、Nb
20
5などの酸化物、又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。高屈折率の誘電体膜aとしてNb
2O
5、低屈折率の誘電体膜bとしてSiO
2が好ましく用いられる。
【0032】
また、高屈折率の誘電体膜aの平均厚みta及び低屈折率の誘電体膜bの平均厚みtbは、共に使用波長λに対し、λ/100≦ta,tb≦λ/2の関係を満たすことが好ましい。誘電体膜への斜入射によって生じる位相差Rdは、平均厚みをλ/2以下とすることにより、位相差の符号を一定とすることができる。また、平均厚みをλ/100以上とすることにより、位相差を発現させることができる。
【0033】
また、誘電体膜の層数dは、8≦d≦1,000の関係を満たすことが好ましい。誘電体膜の層数dが8層未満であると、位相差Rdの波長分散が大きくなってしまう。また、誘電体膜の層数dが1,000層以上であると、リードタイムが増加してしまう。
【0034】
また、各誘電体膜の平均厚みは、おおよそ全て異なることが好ましい。任意の位相差Rdを付与しながら反射防止層を形成するためには、各層の平均厚みを微調整し、光の干渉を積極的に利用することが重要になる。
【0035】
以下、誘電体膜の平均厚みについて、より具体的に説明する。
図2は、光学薄膜の一例を示す断面図である。この光学薄膜21は、平均厚みd、屈折率nを有し、屈折率がnaの媒質22とnbの媒質23とに挟まれている。
【0036】
ここでは、どの媒質も吸収はないものとする。また、媒質22の側から最初の界面に入射角θで入射する光に対するFresne1係数をr
pa、r
sa、t
pa、t
sa、もう一方の媒質23の界面でのFreshel係数をr
pb、r
sb、t
pb、t
sbとする。rは反射係数、tは透過係数、pとsはそれぞれの偏光を表す。
【0037】
この単層の光学薄膜の透過係数をτ
P、τ
sとすると、下記(1)式で表わすことができる。
【0041】
媒質に吸収はないとすると、Fresne1係数のt、rは、実数である。前記(1)式を有理化すると、下記(3)式になる。
【0043】
したがって、透過係数τ
P、τ
sは、それぞれ下記(4)式、下記(5)式となる。
【0045】
ただし、α、δ、β、εは、実数である。入射角が0でないとき、一般にδ、εは0ではない。さらに、前記(3)式から明らかなように、偏光によってtやrの大きさが違うため、δ、εの値も偏光によって異なる可能性がある。すなわち、入射角0以外では、位相差が生じるように作用するといえる。
【0046】
ここで、ある媒質0から別の媒質1へのp偏光とs偏光のFresne1係数r
p01、r
s01、t
p01、t
s01は、以下のとおりである。
【0047】
【数5】
ただし、下記(8)式、下記(9)式の関係にある。
【0049】
これを前記(5)式に代入することで、位相差を計算することができる。
【0050】
例えば、
図2において、na=nb=1、n=1.41のような屈折率を持つ構造を考える。このとき、入射光の角度θを変化させたときの位相差の光学膜厚依存性は、
図3に示すようなグラフになる。光学膜厚がλ/2までは位相差の符号は同一になるが、λ/2以上となると、特にθが小さい時には、符号が反転する。
【0051】
また、例えば、
図2において、na=nb=2、n=1.41のような屈折率を持つ構造を考える。このとき、入射光の角度θを変化させたときの位相差の光学膜厚依存性は、
図4に示すようなグラフになる。
図3と同様の傾向であり、光学膜厚がλ/2までは位相差の符号が同一であるが、λ/2以上となると、特にθが小さい時には、符号が反転する。
【0052】
以上のように、相対的に屈折率の異なる誘電体膜を積層する場合、光学膜厚がλ/2までは、光に生じる位相差の符号が一方向になる。そのため、Rd−AR層を用いてRdを制御する場合には、光学膜厚をλ/2以下とすることが好ましい。また、
図3、及び4からわかるように、光学膜厚が薄すぎても位相差が生じにくくなる。そのため、光学膜厚はλ/100以上であることが好ましい。
【0053】
次に、Rd−AR層における誘電体膜の層数について、より具体的に説明する。
図5は、誘電体多層膜の層数を4〜36層と変化させ、それぞれの層数でRd−AR層を設計したときの、最大付与できる位相差Rdを示す。縦軸は、位相差の絶対値を表している。高屈折率の誘電体膜としてNb
2O
5、低屈折率の誘電体膜としてSiO
2を用いた。入射光角度は25°とした。
図5に示すグラフより、Rd−AR層を設計する場合は、誘電体膜の層数が多くなるほど、最大付与できる位相差Rdを増加させることが可能となることが分かる。
【0054】
また、
図6は、誘電体多層膜各層の膜厚の総和を200nm〜1,300nmと変化させ、それぞれの膜厚でRd−AR層を設計したときの、最大付与できる位相差Rdを示す。縦軸は、位相差の絶対値を表している。高屈折率の誘電体膜としてNb
2O
5、低屈折率の誘電体膜としてSiO
2を用いた。入射光角度は25°とした。
図6に示すグラフより、Rd−AR層の総膜厚が大きいほど、最大付与できる位相差Rdを増加させることが可能となることが分かる。
【0055】
また、
図7は、Blueの波長帯域において、Rd(25°)が、1nm、2.6nm、4nm、8nm、16nmを目標値とした場合の積層数と位相差Rdの波長分散の関係を示すグラフである。波長分散とは、所定の波長帯域内での位相差Rdのばらつきを示す。
図7に示すグラフより、層数が8層以上であれば、Rdの分散が抑制でき、良好な位相差素子が作製できることが分かる。また、Blueの波長帯域に限らず、Greenの波長帯域やRedの波長帯域でも同様の傾向が得られる。特に、大きな位相差Rdを付与する場合、層数を多くすることにより、分散を抑制することができる。通常、透明基板に対する反射防止層は、4層〜6層程度で形成されるが、Rd−AR層は、以上の理由から、8層以上であることが好ましい。
【0056】
次に、相対的に最も高い屈折率NHを有する誘電体と、相対的に最も低い屈折率NLを有する誘電体とを含む誘電体多層膜について説明する。
【0057】
Rd−AR層は、相対的に最も高い屈折率NHを有する誘電体と、相対的に最も低い屈折率NLを有する誘電体との関係が下記式を満たすことが好ましい。
【0059】
図8は、相対的に最も高い屈折率NHを有する誘電体と、相対的に最も低い屈折率NLを有する誘電体とを用いて誘電体多層膜を形成したとき、25°の斜入射光に付与できる最大の位相差を示すグラフである。縦軸は、位相差の絶対値を表している。NH−NLが0.4以上であると、比較的大きな位相差Rdを与えやすい。一方、NH−NLが1.5以上であると、波長分散が大きくなる懸念がある。
【0060】
また、Rd−AR層は、相対的に最も高い屈折率を有する誘電体の膜厚をtH、相対的に最も高い屈折率を有する誘電体の膜厚をtLとすると、tL/(tH+tL)>0.4であることが好ましい。
図8に合わせて示すように、25°の斜入射光に最大の位相差を付与するように相対的に最も高い屈折率NHを有する誘電体と、相対的に最も低い屈折率NLを有する誘電体とを用いて誘電体多層膜を形成する場合は、tL/(tH+tL)>0.4とする必要がある。
【0061】
また、
図9は、25°の斜入射光に18nmの位相差を付与するときのtL/(tH+tL)と膜厚の関係を示すグラフである。tL/(tH+tL)が小さくなるほど、反射防止層と位相差付与を両立するために必要な膜厚は増加してしまうことが分かる。このため、tL/(tH+tL)>0.4であることが好ましい。
【0062】
以上説明したように、Rd−AR層は、所定の角度を有する斜入射光に位相差を付与するものであって、誘電体多層膜が負のCプレートで表わされるような複屈折を有するものではない。なぜなら、Rd−AR層が付与する位相差は、複屈折では定義されないからである。すなわち、Rd−AR層は、負のCプレートのような屈折率楕円体としてふるまうことなく、所定の角度を有する光に対して、任意の位相差を付与する機能を持つ。この機能は、例えば、光変調素子において、垂直配向液晶分子を通過する斜入射光に生じる位相差を補正するには十分なものである。
【0063】
<第1の複屈折層及び第2の複屈折層>
前記第1の複屈折層は、光学異方性無機材料を有してなる。
前記第1の複屈折層は、前記光学異方性無機材料の屈折率異方性の主軸が前記透明基板の表面となす角が90°ではなく、20°以上80°以下が好ましく、40°以上70°以下がより好ましい。
なお、主軸と透明基板の表面とのなす角の角度は、通常、合計を180°とする2つの角度をとり得るが、ここでは、90°未満の角度を指す。以下も同様である。
【0064】
前記第2の複屈折層は、光学異方性無機材料を有してなる。
前記第2の複屈折層は、前記光学異方性無機材料の屈折率異方性の主軸が前記透明基板の表面となす角が90°ではなく、20°以上80°以下が好ましく、40°以上70°以下がより好ましい。
【0065】
前記第1の複屈折層において前記光学異方性無機材料の屈折率異方性の主軸が前記透明基板の表面となす角と、前記第2の複屈折層において前記光学異方性無機材料の屈折率異方性の主軸が前記透明基板の表面となす角とは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、略同一角度であることが好ましい。ここで、略同一角度とは、±5°以内をいう。
【0066】
前記第2の複屈折層は、前記第1の複屈折層の屈折率異方性の主軸を表す第1の線分における前記透明基板側の端部を端部Aとし、前記第2の複屈折層の屈折率異方性の主軸を表す第2の線分における前記透明基板側の端部を端部Bとし、前記第1の線分及び前記第2の線分を前記透明基板上に投影し前記端部A及び前記端部Bを重ねたときに、前記透明基板上に投影された前記第1の線分及び前記第2の線分のなす角度(以下、「Nx1’−Nx2’間角度」と称することがある。)が0°及び180°ではないように前記第1の複屈折層に接している。
前記透明基板上に投影された前記第1の線分及び前記第2の線分のなす角度は、0°超90°以下が好ましく、0°超90°未満がより好ましく、70°以上90°未満がより好ましい。
ここで、「屈折率異方性の主軸」とは、複屈折層において屈折率が最も高い方向を意味する。
また、前記端部A及び前記端部Bを重ねるときには、前記透明基板上に投影された前記第1の線分及び前記第2の線分を投影面に対して回転させずに、重ねる。
また、前記第1の線分及び前記第2の線分のなす角度は、通常、合計を360°とする2つの角度をとり得るが、ここでは、角度が小さい方(劣角)を指す。
なお、第1の複屈折層及び第2の複屈折層に共通して説明する場合には、第1の複屈折層及び第2の複屈折層を区別せず、複屈折層と称することがある。
【0067】
前記第2の複屈折層は、前記第1の複屈折層の平均厚みと略同一の平均厚みを有する。ここでいう略同一とは、前記第1の複屈折層の平均厚みと前記第2の複屈折層の平均厚みとの差が、前記第1の複屈折層の平均厚みと前記第2の複屈折層の平均厚みとの和の、1/5以下であることをいう。
【0068】
前記第1の複屈折層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40nm〜400nmが好ましい。
前記第2の複屈折層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40nm〜400nmが好ましい。
ここで、複屈折層の厚みは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による複屈折層の断面観察により測定できる。平均厚みは、前記厚みを10箇所で測定し、それを算術平均することにより求めることができる。
【0069】
前記第1の複屈折層の前記光学異方性無機材料の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、Si、Nb、Zr、Ti、La、Ta、及びAlの少なくともいずれかを含有する酸化物が好ましい。
【0070】
前記第2の複屈折層の前記光学異方性無機材料の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、Si、Nb、Zr、Ti、La、Ta、及びAlの少なくともいずれかを含有する酸化物が好ましい。
【0071】
前記第1の複屈折層及び前記第2の複屈折層の少なくともいずれかは、次式:Nx>Ny>Nzを満たすことが好ましい。
ただし、前記Nxは、屈折率異方性の主軸に平行な方向における屈折率を表し、前記Nyは、前記Nxに直交する方向における屈折率を表し、前記Nzは、前記Nx及び前記Nyに直交する方向における屈折率を表す。
【0072】
前記第1の複屈折層の位相差と、前記第2の複屈折層の位相差との差としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10nm以下が好ましく、略同一であることが好ましい。ここで、略同一とは、差が3nm以下であることを意味する。
【0073】
前記透明基板上に投影された前記第1の線分及び前記第2の線分のなす角の2等分線と、前記透明基板の一辺とのなす角度は、略45°であることが好ましい。前記略45°とは、40°〜50°である。
【0074】
前記第1の複屈折層及び前記第2の複屈折層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、使用波長以下が好ましい。
【0075】
前記位相差素子においては、前記第1の複屈折層と前記第2の複屈折層との積層体を一単位として、複数の単位を繰り返し積層してもよい。
【0076】
前記第1の複屈折層及び前記第2の複屈折層は、例えば、斜方蒸着により形成できる。
例えば、斜方蒸着においては、高屈折率材料の粒子が透明基板に対して斜め方向から入射される。高屈折率材料としては、例えば、Ta
2O
5、TiO
2、SiO
2、A1
2O
3、CeO
2、ZrO
2、ZrO、Nb
2O
5などの酸化物、又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。Ta
2O
5を主成分とする材料が好ましく用いられ、Ta
2O
5にTiO
2を5質量%〜15質量%添加した材料が好ましく用いられる。
【0077】
斜方蒸着の後には、色抜き、及び柱状組織間に吸着している水分を蒸発させるためにアニール処理を行うことが好ましい。柱状組織間に水分が付着していると、蒸着膜の屈折率が変化し、特性が大きく変わってしまうことがある。このため、アニール処理は水分が蒸発する100℃以上が好ましい。また、温度を上げすぎると、柱状組織同士が成長しコラム状となり、複屈折の低下、透過率の低下などが起こるため、300℃以下であることが好ましい。
【0078】
斜方蒸着により形成される層は、セルフシャドーイングと呼ばれる効果により、基材面内において蒸着粒子の入射方向に垂直な方向(x方向とする。)の密度が相対的に高く、基材面内において蒸着粒子の入射方向に平行な方向(y方向とする。)の密度が相対的に低くなる。この蒸着膜に対して基材の垂直方向から光を入射すると、膜の密度の粗密差は屈折率の差異となり、複屈折を発現する。x方向の屈折率をNx、y方向の屈折率をNyとすると、以下の関係となる。
【0080】
このとき、基材面内に生じる位相差をR0とすると、面内位相差R0は以下の式で表わされる。
【0082】
ここで、Nx−Nyは、一般的に複屈折△nと呼ばれる。複屈折△nは蒸着される物質の屈折率と、蒸着条件などによって決定される。
【0083】
面内位相差R0は、複屈折△nと蒸着膜の厚みtとの積であるため、複屈折△nがある程度大きい蒸着膜であれば、膜厚によって位相差を制御することが可能となる。通常、位相差素子に必要な面内位相差R0は1nm〜30nm程度であり、例えば、液晶のプレチルト角によって具体的な位相差の値が決定される。本発明では、蒸着膜厚の制御によって、面内位相差R0を0nm<R0<1,000nmの範囲で設定することができ、1/4波長板や1/2波長板にも適用することができる。
【0084】
さらに、複屈折層の膜厚方向の位相差をRthとすると、Rthは以下の式で表わされる。
【0085】
Rth=〔Nz−(Nx十Ny)/2〕×d
式中、Nzは、複屈折層の膜厚方向の屈折率である。
【0086】
特開2005−172984号公報、及び特開2007−101764号公報では、位相差補償素子において、斜入射光に生じる偏光の乱れを補正するために、位相差Rthを所定の値に設定しているが、斜方蒸着においては、Nx、Ny、及びNzをそれぞれ独立して制御することは困難である。蒸着条件等を変更すると、NxとNyが同時に変化し、その変化量が異なることで複屈折△nが変化するため、Nx、Ny、及びNzを独立に制御することは難しい。特にNzは、斜め粒子形状や粒子間の空隙などによって影響を受けるため、Nx、Ny、及びNzの制御はさらに難しくなる。
【0087】
前記位相差素子は、例えば、斜方蒸着により形成した前記第1の複屈折層及び前記第2の複屈折層による面内複屈折を利用して、例えば、光変調素子のプレチルト角によって生じる偏光の乱れを補正する。
【0088】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、例えば、応力調整層、反射防止層などが挙げられる。
【0089】
<<応力調整層>>
前記応力調整層としては、位相差素子の反りを防止するために配置され、応力を調整する層であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、その材質としては、例えば、SiO
2などが挙げられる。
【0090】
前記位相差素子の層構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、以下の層構成などが挙げられる。
(1)位相差付与反射防止層/透明基板/第1の複屈折層/第2の複屈折層
(2)透明基板/第1の複屈折層/第2の複屈折層/位相差付与反射防止層
(3)透明基板/位相差付与反射防止層/第1の複屈折層/第2の複屈折層
また、透明基板と位相差付与反射防止層との間、透明基板と第1の複屈折層との間、位相差付与反射防止層と第1の複屈折層との間に応力調整層を有していてもよい。
【0091】
(液晶表示装置及びその製造方法)
本発明の液晶表示装置は、液晶パネルと、第1の偏光板と、第2の偏光板と、本発明の前記位相差素子とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0092】
本発明の液晶表示装置の製造方法は、本発明の前記液晶表示装置の製造方法であって、配置工程を少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
前記配置工程は、液晶パネルと第2の偏光板との間の光路上に、液晶パネルの基材の一辺と、位相差素子の一辺とが略同一となるように前記位相差素子を配置する工程である。
【0093】
<液晶パネル>
前記液晶パネルとしては、基板と、前記基板の主面の直交方向に対してプレチルトを有する液晶分子を含有するVAモード液晶層とを有し、入射された光束を変調するパネルでれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0094】
前記VAモード(vertical alignment mode)とは、基板に垂直に(又はプレチルトを有して)配置した液晶分子を、垂直方向の縦電界を使って動かす方式を意味する。
【0095】
前記基板としては、例えば、ガラス基板などが挙げられる。
【0096】
<第1の偏光板及び第2の偏光板>
前記第1の偏光板としては、前記液晶パネルの入射側に配置された偏光板であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0097】
前記第2の偏光板としては、前記液晶パネルの出射側に配置された偏光板であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0098】
前記第1の偏光板及び前記第2の偏光板は、耐久性の点から、無機偏光板であることが好ましい。前記無機偏光板としては、例えば、使用波長帯域に対して透明である基板(ガラス基板)にスパッタリング、真空蒸着等の真空成膜法により、大きさが使用波長帯域よりも短く、かつ、形状異方性を有する無機微粒子(半導体、金属)を形成したものなどが挙げられる。
【0099】
<位相差素子>
前記位相差素子は、本発明の前記位相差素子であって、前記液晶パネルと、前記第2の偏光板との間の光路に配置される。
【0100】
前記プレチルトにより前記液晶分子が前記基板の表面の直交方向に対して傾斜している方向を前記透明基板上に投影したときの仮想線と、前記透明基板上に投影された前記第1の線分及び前記第2の線分のなす角の2等分線とは、略平行であることが好ましい。そうすることにより、プレチルトによって発生する位相差を適切に補償することができる。ここで、略平行とは、±5°以内の角度であることをいう。
【0101】
前記液晶表示装置は、前記液晶パネルと、前記第1の偏光板との間に、前記第1の偏光板と同じ方向の偏光を透過する第3の偏光板を有することが好ましい。
【0102】
前記位相差素子と、前記液晶パネルとは、高耐熱性の接着剤により張り合わされていることが好ましい。
前記位相差素子と、前記第2の偏光板とは、高耐熱性の接着剤により張り合わされていることが好ましい。
【0103】
前記液晶表示装置において、前記位相差素子は、面内角度調整が可能なホルダに接着剤、又は両面テープにより端部が固定されていることが好ましい。
【0104】
(投射型画像表示装置)
本発明の投射型画像表示装置は、光源と、投射光学系と、本発明の前記液晶表示装置とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0105】
<光源>
前記光源としては、光を出射する部材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白色光を出射する超高圧水銀ランプなどが挙げられる。
【0106】
<投射光学系>
前記投射光学系としては、変調された光を投射する部材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、変調された光をスクリーンに投射する投射レンズなどが挙げられる。
【0107】
<液晶表示装置>
前記液晶表示装置は、前記光源と、前記投射光学系との間の光路上に配置される。
【0108】
代表的な光学系について、
図10を用いて説明する。垂直配向型の透過型液晶パネルの場合、無電圧印加状態での液晶分子1は、基板面の直交方向に対して一定の方向にプレチルト角αだけ傾いて配向する。このとき、液晶パネルは、透過軸方向が90°対向した一対の偏光板の間に挟み込まれるように配置される。なお、
図10において、符号2はガラス基板を示し、符号3はガラス基板を示し、符号4は位相差素子を示し、符号5は第2の偏光板を示し、符号6は第1の偏光板を示し、符号7は出射光を示し、符号8は入射光を示す。
【0109】
また、
図11は、本発明における位相差素子について、その構造の一例を示す概略図である。
図11において、符号31は透明基板を示し、符号32は位相差付与反射防止層を示し、符号33は第1の複屈折層を示し、符号34は第2の複屈折層を示し、符号35は保護層を示し、符号36は位相差付与反射防止層を示す。符号33’は2軸性の屈折率楕円体を示す。符号34’は2軸性の屈折率楕円体を示す。保護層としては、例えば、SiO
2などが挙げられる。
【0110】
さらに、
図12は、斜方蒸着によって形成される複屈折層により近似できる屈折率楕円体の概略図である。一般的には、蒸着方向に対し平行な方向に屈折率(以下、これをNxと称する)が最も大きい。また、蒸着方向と垂直な方向の屈折率をNyとし、NxとNyの両方に垂直な方向をNzとすると、典型的には、Nx>Ny>Nzの関係になる。
【0111】
図13Aは、本発明の位相差素子を、基板法線方向(透明基板の表面の直交方向)から透明基板上に投影したときの、各軸の位置を示した平面図である。このとき、第1の複屈折層のNxの軸(Nx1とする)と、第2の複屈折層のNxの軸(Nx2とする)を投影した軸Nx1’と軸Nx2’との間の角度(Nx1’−Nx2’間角度)を、70°以上90°未満とするように成膜することが好ましい。蒸着中に基板を回転させてもよいし、基板は固定して2つの異なる方向の蒸着源から成膜してもよい。
【0112】
このNx1’−Nx2’間角度のちょうど中間にNx12’という軸(透明基板21上に投影された2つの前記線分のなす角の2等分線)を描画すると、Nx12’軸と、透過型液晶パネルの液晶分子がプレチルト角分傾斜した際の長軸方向の基板投影軸方向とがおよそ同一とするように位相差素子を配置することが好ましい。
【0113】
図13Bは、液晶分子、第1の複屈折層、及び第2の複屈折層を、同一面上に並べたと仮定した場合、それぞれの傾斜方向を示した図である。
図13Bに示すように、液晶分子が傾斜している方向は、Nx1、Nx2の各方向と90°以上の角度方向になるようにそれぞれを配置することが好ましい。
以上のような形態とすることで、第1の複屈折層によって液晶パネルを透過した光の特性変化(光の進行方向の変化、偏光状態の変化、周波数などの光の基本的な特性パラメータのうちの少なくとも一つ)を補正し、さらに第2の複屈折層によって、光の特性変化を補正する。これによって液晶分子のプレチルト角による光の特性変化を効果的、かつ高精度に補正することができる。
【0114】
一方、液晶分子のプレチルト角は、液晶パネルの特性によって異なるため、プレチルト角を補正するために必要な位相差の値は、パネルに合わせて異なってくる。
例えば、国際公開第2008/081919号パンフレットには、対向する2つ以上の補償層が、補償層の膜厚を変えてその位相差の値を10nm異なるものとし、かつ面内に角度調整することで高コントラストが得られ、ばらつきの少ない補償効果が得られることが記載されている。
ここで、例えば、Ta
2O
5を主成分とした材料を、基板法線方向から70°傾斜した方向から斜方蒸着したとき、成膜された位相差層の複屈折Δnは約0.075となる(例えば、Thin film retardation plate by oblique deposition」 APPLIED OPTICS / Vol. 28, No. 13 / 1 July 1989参照)。このとき、正面入射光に生じる位相差(正面位相差と称する)Re0は、Re0=Δn×t(tは位相差層の膜厚)で表されるため、2つ以上の補償層の位相差を10nm異なるものとするためには、膜厚の差が10/0.075=133nm必要となる。仮に1つの補償層の厚みを100nmとすると、合計で100+(100+133)=333nmの補償層の厚みが必要となる。
【0115】
本発明によれば、位相差の制御は、主にNx1’−Nx2’間角度αによって制御することができる。
図14は、複屈折層1層あたりの平均厚みtを変えたときの、正面位相差とNx1’−Nx2’間角度αの関係を示す。一般的に、液晶パネルのプレチルト角によって生じる位相差は数nmである。例えば、補正する必要のある位相差が2nmであれば、位相差素子の設計としてt=40nm、かつα=70°、またはt=80nm、α=80°付近などを選択することができる。このときの複屈折層全体の膜厚は80nm、160nm程度であり、薄膜化が可能である。さらに、各層の膜厚が同一であるほうが、製造上のばらつきも少なくなる。
【0116】
一方、プレチルト角を補正するだけであれば、任意の膜厚を選択してαを調整すればよいが、液晶パネルは前述のように斜入射光にも位相差が生じる。この斜入射光の位相差を合わせて光学補償するには、複屈折層の膜厚は補償に適したものにする必要がある。
【0117】
図15A及び
図15Bは、それぞれ、本発明の位相差素子を用いた液晶表示装置において、液晶パネルのプレチルト角αを85°(
図15A)、87°(
図15B)としたときの、投影画像のコントラストの膜厚依存性を示す。なお、膜厚t=0のときは、位相差素子を配置しない液晶表示装置の測定結果を表している。
【0118】
評価に用いた光学系の構成図は、
図10に示すとおりである。第1の偏光板、液晶パネル、位相差素子、第2の偏光板、の順に設置し、第1の偏光板の外側から光を入射し、投影画像の輝度を測定する。輝度は光透過状態(液晶分子の平行配向状態)、及び光遮断状態(液晶分子の垂直配向状態)の2種類を測定し、その比率を計算してコントラストを算出している。
【0119】
本発明の構成とすることで、例えば、位相差素子を用いない場合と比較して、コントラストが向上する。さらに、プレチルト角によって、最適な膜厚が大きく変わることがわかる。これは、液晶層の厚みだけでなく、液晶分子のプレチルト角が異なることでも、液晶パネルを通過する斜入射光に発生する位相差が変化することを意味する。プレチルト角と、斜入射光に発生する位相差を同時、かつ最適に補正するには、膜厚を最適化し、かつ正面位相差を補正するようなNx1’−Nx2’間角度を決めてやればよい。本発明はそれに最適な形態である。
しかし、各軸の屈折率の調整が難しい斜方蒸着の複屈折層においては、膜厚の最適化だけでは光学補償が不十分な場合がある。本発明の液晶表示装置は、位相差付与反射防止層を兼ね備える位相差素子を配置することで、その問題についても解決できる。
【0120】
次に、投射型画像表示装置の一例について説明する。
図16は、投射型画像表示装置に用いられる光学エンジンの一部の構成を示す概略断面図である。この投射型画像表示装置は、透過型偏光子44と、垂直配向液晶層40と、透過型光変調素子41と、位相差素子43と、透過型偏光子42とを備える透過型液晶プロジェクターである。ここで、位相差素子43は、透明基板と、第1の複屈折層と、第2の複屈折層と、位相差付与反射防止層とを備え、位相差付与反射防止層は、複屈折層で生じる斜入射光位相差とは別の位相差を付与させ、さらに位相差の値を制御する。これにより、複屈折層により透過型光変調素子41のプレチルト角によって生じる偏光の乱れを補正し、また、位相差付与反射防止層により透過型光変調素子41への斜入射光によって生じる偏光の乱れを補正し、さらに、位相差付与反射防止層により反射を防止することができるため、高いコントラストを得ることができる。
図16において、符号45は入射光を表し、符号PはP偏光を表し、符号SはS偏光を表す。
【0121】
この液晶プロジェクターにおいて、光源より発せられた光は、平面偏光に変換されたのちR(赤)、G(緑)、B(青)の各色光に分解され、各色に設けられた透過型偏光子44に入射される。
透過型偏光子44で透過する直線偏光(S偏光成分)は、垂直配向液晶層40に入射し、画素ごとに変調した透過光が出射し、位相差素子43を透過したのち、透過型偏光子42を透過、又は反射及び吸収される。透過型偏光子42を透過した光はプリズムによって再度RGBが合成され、投影スクリーンに画像が表示される。
例えば、黒表示を行う場合、透過型偏光子44で透過するS偏光は、垂直配向液晶層40でS偏光のまま透過するように設定されるが、上述したように透過する際の偏光の乱れにより、望まない偏光成分(P偏光成分)も透過してしまう。位相差素子43がない場合、P偏光成分は透過型偏光子42を透過してしまうため、スクリーンに光として表示され黒表示を劣化させる要因となる。本発明の位相差素子を備えることで、偏光の乱れを補正し、P偏光成分を極力低減させることで、黒表示を向上させ、結果として投影画像のコントラストを向上することができる。
【実施例】
【0122】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0123】
(実施例1)
<位相差素子の作製>
ガラス基板(平均厚み0.7mm)上の一面に、Nb
2O
5とSiO
2とを用いて、下記表1のNo.1から順にNo.34までの34層をスパッタ法により交互積層することによって位相差付与反射防止層を形成した。このとき、ガラス基板の表面の直交方向から15°傾斜した斜入射光に付与する位相差は、7.0nmとなるような層構成とした。
【0124】
【表1】
【0125】
次に、前記ガラス基板のもう一方の面上に、Ta
2O
5にTiO
2を添加した蒸着材料を、前記ガラス基板面の直交方向に対して蒸着源が70°になるようにした状態で斜方蒸着を行い、第1の複屈折層を形成した。
次に、前記ガラス基板を面内方向に84°回転させて斜方蒸着を行い、形成された前記第1の複屈折層上に、第2の複屈折層を形成した。
蒸着後、色抜き、及び柱状組織間に吸着している水分を蒸発させるために200℃で5時間のアニール処理を行った。
第1の複屈折層、及び第2の複屈折層の平均厚みを、それぞれ40nm〜400nmの間で変化させたサンプルを準備した。
【0126】
次に、第2の複屈折層の上に透過率を向上させる目的でSiO
2/Nb
2O
5多層膜からなる反射防止層(平均厚み400nm)をスパッタ法により成膜した。
【0127】
<液晶表示装置の作製>
このようにして作製した位相差素子と、第1の偏光板(デクセリアルズ株式会社製メイン偏光板)と、第2の偏光板(デクセリアルズ株式会社製メイン偏光板)と、垂直配向型の液晶パネル(屈折率の異方性が正で、誘電率異方性が負の垂直配向型の液晶材料を注入した液晶パネルであって、比屈折率Δnと液晶層dとが、Δn×d=332nmとなるような液晶層を有し、また、斜方蒸着法により形成された配向膜によって制御された、85°のプレチルト角を有する液晶パネル)とを、
図10に示すように配置して、液晶表示装置を作製した。そして、投影画像のコントラストを測定した。
図17は、位相差素子の第1の複屈折層及び第2の複屈折層のそれぞれの平均厚み(膜厚)と、コントラストとの関係を示した図である。2層の膜厚は、略同一とした。膜厚が0のプロットは、位相差素子がない場合のコントラストを表している。
本発明の光学系形態では、位相差素子がない場合と比較して、第1の複屈折層及び第2の複屈折層のそれぞれの膜厚を80nm〜320nmとすることで、約2倍のコントラストを得た。さらに、第1の複屈折層及び第2の複屈折層のそれぞれの膜厚を120nm〜240nmとすることで、コントラストは約3倍に増加した。
また、
図18は、
図10と同様の構成としたときの、位相差素子の第1の複屈折層、及び第2の複屈折層の膜厚差と、投影画像のコントラストとの関係を示している。膜厚差が大きいほど、コントラストは低下した。このため、複屈折層の膜厚差は50nm以下であることが好ましい。
【0128】
(実施例2)
<位相差素子の作製>
ガラス基板(平均厚み0.7mm)上の一面に、Nb
2O
5とSiO
2とを用いて、前記表1のNo.1から順にNo.34までの34層をスパッタ法により交互積層することによって位相差付与反射防止層を形成した。このときガラス基板の表面の直交方向から15°傾斜した斜入射光に付与する位相差は、7.0nmとなるような層構成とした。
【0129】
次に、前記ガラス基板のもう一方の面上に、Ta
2O
5にTiO
2を添加した蒸着材料を、前記ガラス基板面の直交方向に対して蒸着源が70°になるようにした状態で斜方蒸着を行い、第1の複屈折層を形成した。
次に、前記第1の複屈折層上に、続けて第2の複屈折層を形成した。前記第1の複屈折層及び前記第2の複屈折層の平均厚み(膜厚)は、略160nmとした。このとき、
図13Aに示すNx1’−Nx2’間角度が、60°〜98°となるように変化させた数種類のサンプルを作製した。
蒸着後、色抜き、及び柱状組織間に吸着している水分を蒸発させるために200℃で5時間のアニール処理を行った。
【0130】
次に、複屈折層の上に透過率を向上させる目的で反射防止層をスパッタ法により成膜した。
【0131】
<液晶表示装置の作製>
このようにして作製した位相差素子と、第1の偏光板(デクセリアルズ株式会社製メイン偏光板)と、第2の偏光板(デクセリアルズ株式会社製メイン偏光板)と、垂直配向型の液晶パネル(屈折率の異方性が正で、誘電率異方性が負の垂直配向型の液晶材料を注入した液晶パネルであって、比屈折率Δnと液晶層dとが、Δn×d=332nmとなるような液晶層を有し、また、斜方蒸着法により形成された配向膜によって制御された、85°のプレチルト角を有する液晶パネル)とを、
図10に示すように配置して、液晶表示装置を作製した。そして、投影画像のコントラストを測定した。
図19は、Nx1’−Nx2’間角度と、投影画像のコントラストとの関係を示した図である。角度が0°のプロットは、位相差素子がない場合のコントラストを表している。本発明の光学系形態では、位相差素子がない場合と比較して、コントラストが大きく増加した。特に、角度が70°以上90°以下であれば、位相差素子がない状態と比較してコントラストが2倍以上に増加した。
【0132】
(実施例3)
<位相差素子の作製>
実施例1と同様の方法で、第1の複屈折層、及び第2の複屈折層の膜厚を、それぞれ40nm〜400nmの間で変化させた位相差素子をそれぞれ作製した。Nx1’−Nx2’間角度は、82°とした。
【0133】
<液晶表示装置の作製>
このようにして作製した位相差素子と、第1の偏光板(デクセリアルズ株式会社製メイン偏光板)と、第2の偏光板(デクセリアルズ株式会社製メイン偏光板)と、垂直配向型の液晶パネル(屈折率の異方性が正で、誘電率異方性が負の垂直配向型の液晶材料を注入した液晶パネルであって、比屈折率Δnと液晶層dとが、Δn×d=332nmとなるような液晶層を有し、また、斜方蒸着法により形成された配向膜によって制御された、87°のプレチルト角を有する液晶パネル)とを、
図10に示すように配置して、液晶表示装置を作製した。そして、投影画像のコントラストを測定した。
図20は、位相差素子の第1の複屈折層及び第2の複屈折層のそれぞれの平均厚み(膜厚)と、コントラストとの関係を示した図である。2層の膜厚は、略同一とした。膜厚が0のプロットは、位相差素子を挿入しない場合のコントラストを表している。本発明の光学系形態では、位相差素子がない場合と比較して、膜厚を40nm〜200nmとすることで1.5倍以上のコントラストを得た。さらに、膜厚を80nm〜120nmとすることでコントラストは約2倍に増加した。
【0134】
(実施例4)
<位相差素子の作製>
実施例2と同様の方法で、Nx1’−Nx2’間角度が、60°〜98°となるように変化させた数種類の位相差素子を作製した。第1の複屈折層及び第2の複屈折層の平均厚み(膜厚)は、略80nmとした。
【0135】
<液晶表示装置の作製>
このようにして作製した位相差素子と、第1の偏光板(デクセリアルズ株式会社製メイン偏光板)と、第2の偏光板(デクセリアルズ株式会社製メイン偏光板)と、垂直配向型の液晶パネル(屈折率の異方性が正で、誘電率異方性が負の垂直配向型の液晶材料を注入した液晶パネルであって、比屈折率Δnと液晶層dとが、Δn×d=332nmとなるような液晶層を有し、また、斜方蒸着法により形成された配向膜によって制御された、87°のプレチルト角を有する液晶パネル)とを、
図10に示すように配置して、液晶表示装置を作製した。そして、投影画像のコントラストを測定した。
図21は、Nx1’−Nx2’間角度と、投影画像のコントラストとの関係を示した図である。角度が0のプロットは、位相差素子がない場合のコントラストを表している。本発明の位相差素子を光学系に挿入することで、コントラストが増加することがわかる。本発明の光学系形態では、位相差素子がない場合と比較して、角度を75°以上86°以下とすることで約1.5倍以上のコントラストを得た。更に角度を78°以上82°以下とすることで、約2倍のコントラストが得られた。
【0136】
実施例1〜4で示されるように、本発明の液晶表示装置においては、特に位相差素子の角度調整等を行うことなく、様々な液晶パネルに対して、最適な光学補償が可能であり、コントラストを向上させることができる。
【0137】
次に、位相差付与反射防止層の効果について、実施例を基に説明する。
【0138】
(実施例5)
ガラス基板(平均厚み0.7mm)上の一面に、Nb
2O
5とSiO
2とを用いて、スパッタ法により表1〜表4のNo.1から順に交互積層することによって位相差付与反射防止層を形成した。このとき、基板法線方向から15°傾斜した入射光に付与する位相差が、3.5nm、7.0nm、10.5nm、14.0nmとなるような層構成のサンプルをそれぞれ作製した。各サンプルの位相差付与反射防止層の構成を表1(位相差7.0nm)、表2(位相差3.5nm)、表3(位相差10.5nm)、表4(位相差14.0nm)に示した。
次に、前記ガラス基板の他方の面に、実施例1と同様のプロセスを用いて複屈折層を作製した。平均厚み(膜厚)は160nm、層間角度は84°とした。以上のプロセスで、液晶表示装置に用いる位相差素子を作製した。
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【0141】
【表4】
【0142】
(実施例6)
ガラス基板(平均厚み0.7mm)上の両面に、Nb
2O
5とSiO
2とをスパッタ法により交互積層することによって位相差付与反射防止層を形成した。このとき、ガラス基板の表面の直交方向からから15°傾斜した斜入射光に付与する位相差が、一方の面の位相差付与反射防止層は7.0nm、他方の面の位相差付与反射防止層は14.0nmとなるような層構成とした。層構成は、一方の面が表1(位相差7.0nm)、他方の面が表4(位相差14.0nm)の層構成とした。このようにして、ガラス基板両面の反射防止層によって付与する合計の位相差が21.0nmとなるような層構成とした。次に、一方の位相差付与反射防止層上に、実施例1と同様のプロセスを用いて第1の複屈折層及び第2の複屈折層を作製した。それぞれの複屈折層の平均厚み(膜厚)は160nmとした。層間角度は84°とした。以上のプロセスで、液晶表示装置に用いる位相差素子を作製した。
【0143】
(実施例7)
ガラス基板(平均厚み0.7mm)上の両面に、スパッタ法によりNb
2O
5とSiO
2とを交互積層することによって位相差付与反射防止層を形成した。このとき、ガラス基板の表面の直交方向から15°傾斜した斜入射光に付与する位相差が、合計して28.0nmとなるような層構成とした。表4(位相差14.0nm)の層構成でガラス基板両面に成膜することによって実現した。次に、一方の反射防止層上に、実施例1と同様のプロセスを用いて第1の複屈折層及び第2の複屈折層を作製した。それぞれの複屈折層の平均厚み(膜厚)は160nmとした。層間角度は84°とした。以上のプロセスで、液晶表示装置に用いる位相差素子を作製した。
【0144】
(比較例1)
ガラス基板(平均厚み0.7mm)上の一面に、スパッタ法によりNb
2O
5とSiO
2とを交互積層することによって、ガラス基板の表面の直交方向から15°傾斜した斜入射光に付与する位相差がほぼ0nmとなるような反射防止層を形成した。次に、ガラス基板の他方の面に、実施例1及び2と同様のプロセスを用いて第1の複屈折層及び第2の複屈折層を作製した。それぞれの複屈折層の平均厚み(膜厚)は160nmとした。層間角度は84°とした。以上のプロセスで、液晶表示装置に用いる位相差素子を作製した。
【0145】
実施例5〜7、及び比較例1の位相差素子と、第1の偏光板(デクセリアルズ株式会社製メイン偏光板)と、第2の偏光板(デクセリアルズ株式会社製メイン偏光板)と、垂直配向型の液晶パネル(屈折率の異方性が正で、誘電率異方性が負の垂直配向型の液晶材料を注入した液晶パネルであって、比屈折率Δnと液晶層dとが、Δn×d=332nmとなるような液晶層を有し、また、斜方蒸着法により形成された配向膜によって制御された、85°のプレチルト角を有する液晶パネル)とを、
図10に示すように配置して、液晶表示装置を作製した。そして、投影画像のコントラストを測定した。
【0146】
図22は、位相差素子が入射光角度15°の光に対して付与する位相差の値と、投影画像のコントラストとの関係を示した図である。位相差0nmのプロットは、比較例1の位相差素子を用いた場合のコントラスト評価結果を示す。このときのコントラストを1.0として、縦軸を規格化した。位相差付与反射防止層を導入することで、導入しない場合よりもコントラストが向上することがわかる。付与する位相差は、28nm以下であることが望ましい。28nmを超えると、逆にコントラストは低下した。
【0147】
さらに、
図23A、
図23Bは、実施例1のように、ガラス基板の表面の直交方向から15°傾斜した斜入射光に付与する位相差が7.0nmとなるような位相差付与反射防止層を形成した位相差素子(
図23A)と、比較例1のように、ほぼ0nmとなるような位相差付与反射防止層を形成した位相差素子(
図23B)において、投影画像のコントラストの面内分布を等高線で示した模式図である。
図23Bでは、投影画像の端部(特に角部分)でコントラストの低下が見られた。一方、
図23Aでは、コントラストの分布が画面全体で均一傾向である。以上のように、位相差付与反射防止層は、コントラストの分布改善に顕著な効果を得ることができる。
【0148】
(比較例2)
例えば、他の種類の位相差素子として、C−Plateを液晶パネルに対して傾斜配置する方法が知られている。
ガラス基板(平均厚み0.7mm)上の一面に、スパッタ法によりNb
2O
5とSiO
2とを30nm×72層の構造で交互積層することによって、Rth=−200nmのC−Plate位相差素子を作製した。
図10のような光学系の構成において、コントラストを測定した。
【0149】
図24は、
図10のような光学系の構成において、
(1)位相差素子を用いない場合、
(2)比較例2で挙げたC−Plateを液晶パネルと3°〜7°傾斜させて配置した場合、
(3)実施例1(膜厚160nm)の位相差素子を液晶パネルと平行に配置した場合、
の投影画像のコントラストを比較したものである。
位相差素子を用いない場合のコントラストを1とすると、(2)では1.9倍〜2.1倍の増加率であったが、本発明である(3)では、液晶パネルと平行に配置しているにもかかわらずNx1’−Nx2’間角度を70°〜90°のときに2.1〜2.8倍と高い増加率を得ることができた。このことから、従来のC−Plateと比較しても、配置スペースを大幅に縮小できる上に、コントラストにも優れることが確認できた。