【文献】
Biol. Chem. Hoppe Seyler, (1996), 377, [3], p.195-201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a) (1) 細胞の培養由来の少なくとも10個の細胞からDNAを別々に単離する段階であって、選択剤の非存在下における該細胞の30世代の培養時間の後のポリペプチドの生産率が、該培養の第1世代後の該細胞の該生産率の90%未満である、段階
(2) 該単離されたDNAのシトシンを亜硫酸水素塩処理により修飾する段階、
(3) 段階(2)で得られたDNAに基づいて、少なくとも0.2のメチル化頻度を有する、該ポリペプチドをコードする構造遺伝子に機能的に連結されたSEQ ID NO:01の核酸配列を有するプロモーター核酸内のCpG部位を識別し、それによってCpG部位を同定する段階
を含む方法を用いて、プロモーター核酸内のCpG部位を同定する段階;
(b) 段階(a)と同じであるSEQ ID NO:01の核酸配列を有するプロモーター核酸に機能的に連結されたポリペプチドをコードする構造遺伝子を含む核酸を含有する細胞クローンについて、段階(a)で同定されたSEQ ID NO:01の425位でのCpG部位のメチル化頻度を、該核酸の少なくとも10コピーまたはその培養から得られた少なくとも10個の細胞に基づいて、測定する段階;
(c) 段階(b)で測定されたメチル化頻度が非CpG部位でのシトシンのメチル化の測定によって得られた平均値の2倍未満である細胞クローンを選択するか、または、段階(b)で測定されたメチル化頻度が5%未満である細胞クローンを選択する段階
を含む、細胞クローンを選択するための方法。
(a) SEQ ID NO:01の核酸配列を有するプロモーター核酸に機能的に連結されたポリペプチドをコードする構造遺伝子を含む核酸を含有する少なくとも1個の細胞クローンのそれぞれについて、該核酸の少なくとも10コピーについてまたは各細胞クローンの培養から得られた少なくとも10個の細胞において測定されたメチル化に基づいて、SEQ ID NO:01の425位でのCpG部位のメチル化頻度を測定する段階;
(b) 測定されたメチル化頻度が5%未満である細胞クローンを選択する段階
を含む、細胞クローンを選択するための方法。
プライマーがSEQ ID NO:11、14および15からなる群より選択され、ユニバーサルプライマーがSEQ ID NO:09の配列を有し、メチル化特異的プライマーがSEQ ID NO:17、18および19からなる群より選択されることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか一項記載の方法。
ユニバーサルプライマーがSEQ ID NO:09および11の配列を有し、メチル化特異的プライマーがSEQ ID NO:11および18の配列を有することを特徴とする、請求項3〜6のいずれか一項記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
組換えタンパク質生産用の哺乳動物細胞株は、長期の培養時間にわたり生産性を維持する必要がある。長期安定性試験は、多くの時間とエネルギーを要するものの、細胞株の開発中に不安定な候補株を特定して排除するために広く行われている。製造用細胞株の生産の不安定性は、異種プロモーターのメチル化とサイレンシングに関連付けることができる。ヒトサイトメガロウイルスの主要前初期プロモーター/エンハンサー(hCMV-MIE)内のCpGジヌクレオチドは、不安定な抗体産生チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株では頻繁にメチル化されていることが、本明細書で確認された。メチル化特異的リアルタイムqPCRが確立されたことにより、多数の細胞株におけるhCMV-MIEメチル化の迅速かつ高感度な測定が可能となり、hCMV-MIEメチル化および導入遺伝子コピー数は組換えCHO細胞株の生産安定性を予測するための初期マーカーとして使用できるという証拠が提供された。これらのマーカーは、細胞株開発の早い段階で安定した産生細胞を増やす機会を提供するはずである。
【0021】
したがって、本明細書では、細胞の選択方法ならびにポリペプチドの生産方法が報告される。選択される細胞と、さらにポリペプチドの生産に用いられる細胞も、長期産生細胞である。そうした細胞は、本明細書で報告するように、ポリペプチドをコードする構造遺伝子に機能的に連結されたプロモーターのメチル化に基づいて、選択することができる。
【0022】
「ほぼ」という用語は、この表現の後に続く値が若干のばらつきのある中央値であることを示す。一態様において、ばらつきはその値の±20%であり、別の態様では、ばらつきは±10%であり、さらなる態様では、ばらつきは±5%である。したがって、「ほぼ一定」という用語は、ある値が一態様では80%〜120%の範囲にあり、別の態様では90%〜110%の範囲にあり、さらなる態様では95%〜105%の範囲にあることを示す。
【0023】
「抗体」という用語は、少なくとも2本のいわゆる軽鎖ポリペプチド(軽鎖)と2本のいわゆる重鎖ポリペプチド(重鎖)を含む分子を意味する。重鎖および軽鎖ポリペプチドのそれぞれは、抗原と相互作用することができる結合領域を有する可変ドメイン(可変領域)(一般には、ポリペプチド鎖のアミノ末端部分)を含む。重鎖および軽鎖ポリペプチドのそれぞれはまた、定常領域(一般には、カルボキシ末端部分)を含む。重鎖の定常領域は、i) Fcガンマ受容体(FcγR)を保有する細胞、例えば食細胞への、またはii) Brambell受容体としても知られる新生児Fc受容体(FcRn)を保有する細胞への、抗体の結合を仲介する。それはまた、成分(C1q)などの古典的補体系の因子を含めて、いくつかの因子への結合をも仲介する。
【0024】
重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、抗体は異なるクラスに分割される:IgAクラス、IgDクラス、IgEクラス、IgGクラス、およびIgMクラス。これらのクラスのいくつかはサブクラス(アイソタイプ)にさらに分割され、すなわち、IgGはIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4に、またはIgAはIgA1およびIgA2に分割される。抗体が属するクラスに応じて、重鎖の定常領域は、それぞれα(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)、およびμ(IgM)と呼ばれる。一態様において、抗体はIgGクラスの抗体である。別の態様では、抗体がヒト定常領域またはヒト起源に由来する定常領域を有する。さらなる態様では、抗体がIgG4サブクラス、またはFcγ受容体(例えば、FcγRIIIa)結合性および/もしくはC1q結合性が検出されないように修飾されたIgG1、IgG2もしくはIgG3サブクラスのものである。一態様では、抗体がヒトIgG4サブクラスまたは変異ヒトIgG1サブクラスのものである。一態様では、抗体が変異L234AおよびL235Aを含むヒトIgG1サブクラスのものである。別の態様において、抗体は、Fcγ受容体結合性に関して、L234、L235および/またはD265に変異を有するIgG4サブクラスまたはIgG1もしくはIgG2サブクラスのものであり、かつ/または、PVA236変異を含む。さらなる態様では、抗体はS228P、L234A、L235A、L235E、SPLE(S228PおよびL235E)、および/またはPVA236(PVA236は、IgG1のアミノ酸位置233-236のアミノ酸配列ELLG(一文字アミノ酸コードで示す)またはIgG4のEFLGがPVAで置き換えられることを意味する)から選択される変異を有する。一態様では、抗体はIgG4サブクラスのもので、IgG4の変異S228Pを有するか、または抗体はIgG1サブクラスのもので、変異L234AおよびL235Aを有する。
【0025】
免疫グロブリンの軽鎖または重鎖の可変ドメインはさらに、異なるセグメント、すなわち、4つのフレームワーク領域(FR)および3つの超可変領域(CDR)を含む。
【0026】
「亜硫酸水素塩処理」という用語は、核酸内のシトシン塩基を亜硫酸水素イオンの存在下でウラシル塩基に変換するための反応を意味し、5-メチル-シトシン塩基はこれによって有意に変換されない。メチル化シトシンを検出するためのこの反応は、Frommerら(Frommer, M., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 1827-1831)およびGriggとClark (Grigg, G.W. and Clark, S., Bioessays 16 (1994) 431-436; Grigg, G.W., DNA Seq. 6 (1996) 189-198)により詳細に説明されている。亜硫酸水素塩反応は脱アミノ化工程と脱スルホン化工程を含み、これらの工程は別々にまたは同時に行うことができる。5-メチル-シトシン塩基は有意に変換されないという記述は、(非メチル化)シトシン塩基を唯一かつ排他的に変換することが意図されるにもかかわらずわずかな割合の5-メチル-シトシン塩基がウラシルに変換されることを排除するわけにいかないという事実を考慮に入れたにすぎない。
【0027】
「細胞」という用語は、核酸、例えば、(任意で異種の)ポリペプチドをコードする核酸が導入/トランスフェクションされ得るまたはされた細胞を意味する。「細胞」という用語には、プラスミドの増殖のために用いられる原核細胞と、核酸の発現のために用いられる真核細胞の両方が含まれる。一態様において細胞は真核細胞であり、さらなる態様において真核細胞は哺乳動物細胞である。別の態様では、哺乳動物細胞はCHO細胞(例えば、CHO K1、CHO DG44)、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK 293細胞、HEK 293 EBNA細胞、PER.C6(登録商標)細胞、およびCOS細胞を含む哺乳動物細胞の群より選択される。本明細書中で用いる表現「細胞」には、対象の細胞とその子孫が含まれる。したがって、「細胞」という用語は、対象の初代細胞と、継代数には関係なく、それに由来する培養物を意味する。また、理解されるように、すべての子孫は、故意のまたは故意でない突然変異のため、DNAの内容が正確に同一でない可能性がある。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングされたものと同じ機能または生物学的活性を有するバリアント.子孫は包含される。
【0028】
「CpG部位」という用語は、細胞のメチル化酵素によって認識され得る核酸内のジヌクレオチドCGを表し、ここでシトシンが5-メチルシトシンに変換され得る。一態様において、CpG部位はプロモーター核酸内にある。
【0029】
「発現カセット」という用語は、少なくとも細胞内に含まれる核酸を発現させるための、プロモーターおよびポリアデニル化部位などの、必要な調節エレメントを含む構築物を表す。
【0030】
「発現プラスミド」という用語は、細胞内に含まれる構造遺伝子を発現させるための、すべての必要なエレメントを提供する核酸を表す。一般的に、発現プラスミドは、例えば大腸菌(E. coli)の、複製起点を含む原核生物プラスミド増殖単位と、選択マーカーとしての真核生物選択マーカーと、関心対象の構造遺伝子を発現させるための1つ以上の発現カセット(それぞれがプロモーター核酸、構造遺伝子、およびポリアデニル化シグナルなどの転写ターミネーターを含む)を含有する。通常、遺伝子発現はプロモーター核酸の制御下に置かれ、そのような構造遺伝子はプロモーター核酸に「機能的に連結されている」と言われる。同様に、調節エレメントとコアプロモーター核酸は、該調節エレメントがコアプロモーター核酸の活性を調節する場合に、機能的に連結されている。
【0031】
「世代時間」という用語は、細胞が分裂して娘細胞を生成するのに要する時間を表す。したがって、1回分裂した細胞は1世代の齢を有する。「世代」という用語は、細胞の細胞分裂数を表す。
【0032】
「高頻度」という用語は、個々の細胞またはDNAクローンのそれぞれ統計的有意数のメチル化の解析に基づいて、そのメチル化部位でシトシンが他のメチル化部位よりも頻繁にメチル化されることを意味する。この統計的有意数とは、一態様では、それぞれ少なくとも10個の細胞またはDNAクローンであり、さらなる態様では、それぞれ少なくとも15個の細胞またはDNAクローンであり、別の態様では、それぞれ少なくとも20個の細胞またはDNAクローンである。一態様では、それぞれ最大400個の細胞またはDNAクローンが解析される。
【0033】
「長期産生細胞」という用語は、比生産率が少なくとも30世代にわたってほぼ一定している、ポリペプチド(一態様では、異種ポリペプチド)を産生する細胞を意味する。長期産生細胞は、一態様では少なくとも30世代にわたって、別の態様では少なくとも45世代にわたって、さらなる態様では少なくとも60世代にわたって、ほぼ一定の比生産率を有する。長期産生細胞は、一態様では最大60世代にわたって、さらなる態様では最大75世代にわたって、別の態様では最大90世代にわたって、ほぼ一定の比生産率を有する。
【0034】
「メチル化」という用語は、プロモーターに機能的に連結されたポリペプチドをコードする構造遺伝子を含む核酸でトランスフェクトされた細胞内における、プロモーター核酸のシトシンが5-メチルシトシンに変換されるプロセスを意味する。少なくとも1個のシトシンが5-メチルシトシンに変換されているプロモーター核酸は、「メチル化」核酸として示される。
【0035】
「機能的に連結された」という用語は、そのように記載された2つ以上の成分がそれらの意図される様式でそれらを機能させる関係にある、該2つ以上の成分の並置を意味する。例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサーは、それが連結されたコード配列の転写を制御または調節するためにシスに作用する場合、そのコード配列に機能的に連結されている。一般的に、しかし必ずしもそうではないが、「機能的に連結された」DNA配列は隣接しており、分泌リーダーおよびポリペプチドのような2つのタンパク質コード領域を結合させる必要がある場合には、隣接していて、なおかつ同じ(読み)枠にある。しかしながら、機能的に連結されたプロモーターは一般にコード領域の上流に位置づけられるが、必ずしもコード領域と隣接していない。エンハンサーは隣接している必要がない。エンハンサーがコード配列の転写を高める場合、そのエンハンサーはコード配列に機能的に連結されている。機能的に連結されたエンハンサーは、コード配列の上流、内部または下流に、かつプロモーターからかなりの距離で、位置することができる。ポリアデニル化部位は、転写がコード配列を通ってポリアデニル化配列へと進行するように、コード配列の下流端に位置づけられる場合、コード配列に機能的に連結されている。翻訳停止コドンは、翻訳がコード配列を通って停止コドンまで進行し、そこで終止するように、コード配列の下流端(3'末端)に位置づけられる場合、エクソン核酸配列に機能的に連結されている。連結は、当技術分野で公知の組換え法により、例えばPCR法を用いておよび/または便利な制限部位でのライゲーションにより、達成される。便利な制限部位が存在しない場合は、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが従来の方法に従って用いられる。
【0036】
「ポリペプチド」という用語は、天然でまたは合成的に生産されたかにかかわらず、ペプチド結合により結合されたアミノ酸からなるポリマーを意味する。約20個より少ないアミノ酸残基のポリペプチドは「ペプチド」と呼ばれることがあるのに対し、2本以上のポリペプチドからなる分子または100個より多いアミノ酸残基のポリペプチド1本を含む分子は「タンパク質」と呼ばれることがある。ポリペプチドはまた、非アミノ酸成分、例えば糖鎖、金属イオン、またはカルボン酸エステルを含んでもよい。非アミノ酸成分はポリペプチドが発現される細胞によって付加され、細胞の種類によって変化し得る。ポリペプチドは、本明細書では、そのアミノ酸主鎖構造またはそれをコードする核酸によって規定される。糖鎖のような付加物は一般に特定されないが、それにもかかわらず存在し得る。
【0037】
プロモーター核酸の「変異体」という用語は、プロモーター核酸内の1個以上のヌクレオチドがプロモーター核酸の機能を妨げることなく変更されていることを意味する。そうした変更は制限部位を除去または導入するためであり得る。
【0038】
「産生」という用語は、細胞内での発現カセットに挿入された構造遺伝子の発現を表す。この用語には、核酸の転写および翻訳のプロセスが含まれる。産生は適切な原核または真核細胞において行われ、発現された、すなわち産生されたポリペプチドは、溶解後の細胞からまたは培養上清から回収することができる。
【0039】
「プロモーター核酸」という用語は、それに機能的に連結されている遺伝子/構造遺伝子または核酸配列の転写を制御する、ポリヌクレオチド配列を意味する。プロモーター核酸にはRNAポリメラーゼの結合および転写開始のためのシグナルが含まれる。用いられるプロモーター核酸は、選択された構造遺伝子の発現が意図される細胞内で機能するものである。さまざまな異なる供給源からの、構成的、誘導性および抑制性プロモーターを含む、多数のプロモーター核酸が当技術分野では周知であり(かつGenBankなどのデータベースで識別されており)、(例えば、ATCCのような寄託機関ならびに他の商業的または個別の供給源から)クローニングされたポリヌクレオチドとして、またはクローニングされたポリヌクレオチド内で利用可能である。
【0040】
「プロモーター核酸」は、機能的に連結された構造遺伝子の転写を指令するまたは促進するヌクレオチド配列を意味する。一般的に、プロモーター核酸は遺伝子の5'非コード領域または非翻訳領域に位置しており、構造遺伝子の転写開始部位に近接している。転写開始の段階で機能するプロモーター核酸内の配列エレメントは、しばしば、共通のヌクレオチド配列によって特徴付けられる。こうしたエレメントとしては、以下が挙げられる:RNAポリメラーゼ結合部位、TATA配列、CAAT配列、分化特異的エレメント(DSE)、サイクリックAMP応答エレメント(CRE)、血清応答エレメント(SRE)、グルココルチコイド応答エレメント(GRE)、ならびにCRE/ATF、AP2、SP1、cAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)およびオクタマー因子などの、他の転写因子の結合部位。プロモーター核酸が誘導性プロモーター核酸である場合、転写の速度は誘導剤に応答して増加する。例えば、2つのtetオペレーター部位が後に続くCMVプロモーター核酸、メタロチオネインプロモーター核酸および熱ショックプロモーター核酸など。プロモーター核酸が構成的に活性なプロモーター核酸である場合には、転写速度は誘導剤によって制御されない。中でも、発現用の強力なプロモーター核酸として同定されている真核生物プロモーター核酸は、SV40初期プロモーター核酸、アデノウイルス主要後期プロモーター核酸、マウスメタロチオネイン-Iプロモーター核酸、ラウス肉腫ウイルスのロングターミナルリピート、チャイニーズハムスター伸長因子1α(CHEF-1)、ヒトEF-1α、ユビキチン、およびヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーター核酸(CMV IE)である。
【0041】
「選択マーカー」という用語は、それを保有する細胞が、対応する選択剤の存在下で特異的に選択されるようにさせる、核酸を意味する。一般的に、選択マーカーは薬物に対する耐性を付与するか、またはそれが導入される細胞における代謝または異化代謝欠陥を補償するものである。選択マーカーは正、負、または二機能性とすることができる。有用な正の選択マーカーは、対応する選択剤(例えば抗生物質)の存在下で形質転換細胞の選択を可能にする、抗生物質耐性遺伝子である。非形質転換細胞は選択条件下で、すなわち選択剤の存在下で、増殖または生存することができない。負の選択マーカーは、そのマーカーを保有する細胞を選択的に排除できるようにする。真核細胞で用いられる選択マーカーとしては、例えば、以下が挙げられる:アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)をコードする構造遺伝子、例えば、ハイグロマイシン(hyg)、ネオマイシン(neo)、およびG418選択マーカー、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(tk)、グルタミンシンテターゼ(GS)、アスパラギンシンテターゼ、トリプトファンシンテターゼ(選択剤インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(選択剤ヒスチジノールD)、ならびにピューロマイシン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン、およびミコフェノール酸に対する耐性を付与する核酸。
【0042】
「短期生産率」という用語は、所定の期間(その期間は短期である)および生細胞密度において産生されたポリペプチドの量から決定される、1日のうちに単一の細胞により産生されたポリペプチドの量を表す。一態様では、短期培養は2〜20日間であり、別の態様では4〜15日間であり、さらなる態様では10〜14日間である。
【0043】
「比生産率」(specific production rate)または「生産率」という用語は、所定の期間および生細胞密度において産生されたポリペプチドの量から決定される、1日のうちに単一の細胞により産生されたポリペプチドの量を表す。比生産率(SPR)は次の式を用いて算出することができる:
SPR = P
2-P
1/((D
2-D
1)/2*Δt) (式2)
式中、
SPR [pg/細胞/日]:比生産率
P
1 [μg/ml]:その期間の開始時のポリペプチド濃度
P
2 [μg/ml]:その期間の終了時のポリペプチド濃度
D
1 [細胞/ml]:その期間の開始時の生細胞密度
D
2 [細胞/ml]:その期間の終了時の生細胞密度
Δt [日]:その期間の持続日数。
【0044】
「構造遺伝子」という用語は、シグナル配列を含まない遺伝子の領域、すなわちコード領域を表す。
【0045】
ポリペプチドを産生する細胞、すなわち、異種ポリペプチドをコードする構造遺伝子を含む発現カセットを含む核酸でトランスフェクトされた細胞は、異なるクラスに分類することができる:第1クラスの細胞では、比生産率が複数世代にわたってほぼ一定であるのに対し、第2クラスの細胞では、比生産率が複数世代にわたって減少していき、特に単調に減少していく。ポリペプチドを産生する細胞および細胞株それぞれの生産性の漸減は、ポリペプチドをコードする構造遺伝子に機能的に連結されたプロモーター核酸の、徐々に増加するメチル化とそれに伴うサイレンシングによって、または構造遺伝子のコピー数の喪失によって引き起こされる。
【0046】
ポリペプチドをコードする構造遺伝子に機能的に連結されたプロモーター核酸のメチル化の存在が検出可能であることにより、細胞または細胞株のそれぞれの長期生産性に関する情報が提供されることが見いだされた。
【0047】
構造遺伝子の発現に用いられる各プロモーター核酸は、保護エレメントによって遮蔽されない場合には、それが導入された細胞の酵素によりメチル化を受けやすい部位を含んでいる。メチル化の影響を受けやすい部位はCpG部位と呼ばれており、ジヌクレオチドCGを含む/からなる。しかし、すべてのCpG部位が同じ相対頻度でメチル化されるわけではない - CpG部位の一部は他よりも頻繁にメチル化される。例えば、ヒトCMVプロモーター内の特定の部位は異なる頻度でメチル化されて、プロモーターのサイレンシングに異なる影響を及ぼすことが見いだされた。
【0048】
下記の方法は、核酸配列中のCpG部位を同定するために使用することができ、
(1) 細胞を提供する段階であって、選択剤の非存在下における細胞の30世代の培養時間の後のポリペプチドの生産率が、該培養の第1世代後の該細胞の該生産率の90%未満である、段階;
(2) 段階(1)の細胞の培養由来の少なくとも10個の細胞からDNAを別々に単離する段階;
(3) 該単離されたDNAのシトシンを亜硫酸水素塩処理により修飾する段階;
(4) 段階(3)で得られたDNAに基づいて、少なくとも0.2のメチル化頻度を有する、ポリペプチドをコードする構造遺伝子に機能的に連結されたプロモーター核酸内のCpG部位を識別し、それによってCpG部位を同定する段階
を含む。
【0049】
一態様において、30世代の培養時間後の細胞の生産率は、該培養の第1世代後の細胞の生産率の60%またはそれより低い。別の態様では、メチル化頻度が少なくとも0.4である。さらなる態様では、DNAが少なくとも20個の細胞から単離される。また、ある態様では、プロモーター核酸がSEQ ID NO:01の配列を有するか、またはその断片もしくは変異体を含む。
【0050】
一態様において、単離されたDNAのシトシンを亜硫酸水素塩処理により修飾する段階は、
(3-a) 単離されたDNAを亜硫酸水素イオンの存在下でインキュベートし、それによりDNAを脱アミノ化する段階;および
(3-b) 脱アミノ化されたDNAをアルカリ性条件下でインキュベートし、それにより脱アミノ化DNAを脱スルホン化する段階
を含む。
【0051】
ポリペプチドを産生する細胞を取得する方法は、少なくとも1回のトランスフェクション段階と少なくとも1回の選択段階を含むプロセスである。選択段階には、トランスフェクション後に直接、または選択剤の存在下で増殖させた後に、トランスフェクションに成功した細胞の単一細胞沈殿(single cell depositing)を行うことが含まれる。選択段階では、細胞をその短期の比生産率に基づいて、すなわち短期培養後の上清中のポリペプチド濃度に基づいて識別する。選択された細胞の中には、比生産率が複数世代にわたってほぼ一定している細胞もあれば、比生産率が複数世代にわたって単調に減少し続ける細胞もある。したがって、一般的に適用される選択基準を用いて、安定した長期生産性を有する細胞(1個または複数)の特異的選択を行うことはできない。
【0052】
かくして、本明細書では、
(a) プロモーター核酸に機能的に連結されたポリペプチドをコードする構造遺伝子を含む核酸を含有する少なくとも1個の細胞について、該プロモーター核酸内のメチル化頻度の高いCpG部位のメチル化を測定する段階;および
(b) 段階(b)で測定されたメチル化が閾値以下であるポリペプチド産生細胞を選択する段階
を含む、ポリペプチド産生細胞の選択方法が報告される。
【0053】
本明細書で報告する方法では、トランスフェクト細胞によって産生される関心対象のポリペプチドをコードする構造遺伝子に機能的に連結されたプロモーター核酸を含む発現カセットを含む発現プラスミドでトランスフェクトすることにより得られる細胞はどれも、解析することができる。発現プラスミドは一般的に選択マーカーをも含む。したがって、一態様では、トランスフェクション段階の後で選択段階の前に、細胞を選択剤の存在下で培養する。別の態様では、前記方法は、事前の単一細胞沈殿または限界希釈を行わずに、選択剤の存在下でプールとして細胞を培養することを含む。さらなる態様では、前記方法は単一細胞沈殿または限界希釈の後で細胞を培養することを含む。
【0054】
一態様において、前記の測定する段階は、
(1) 提供された細胞のそれぞれからDNAを個別に単離する段階;
(2) メチル化特異的PCRを行う段階;
(3) 段階(2)で得られた結果を用いて、プロモーター核酸内のメチル化頻度の高いCpG部位のメチル化を算出する段階
を含む。
【0055】
別の態様において、段階(2)は、
(2) メチル化特異的プライマーとユニバーサルプライマーを用いてPCRを行う段階;または
(2) DNAを制限酵素で消化し、消化したDNAとメチル化特異的プライマーとユニバーサルプライマーを用いてPCRを行う段階
である。
【0056】
プール培養/選択の後で、単一細胞沈殿を行う必要がある。単一細胞沈殿がプール培養段階の後に行われる場合には、細胞はその単一細胞沈殿の後でさらに培養される。
【0057】
複数世代にわたってほぼ一定の比生産率をもつ細胞または細胞株を同定するために、複数世代にわたる長期培養の特定の培養時期に、上清中のポリペプチド濃度および生細胞密度を測定しなければならない。メチル化頻度の高いCpG部位は、例えばpH5での、一本鎖DNAの亜硫酸水素塩処理と、続いて起こるアルカリ脱硫によって同定することができる。ここでは、メチル化CpG部位と非メチル化CpG部位を識別することが可能である。特定の処理条件下で、シトシンはN-へテロ環の4位で脱アミノ化されてウラシルに変換されるが、5-メチル-シトシンは変換されない。相補的DNA鎖は、もはや相補的でない2本の鎖、A鎖とB鎖に変換される。前記測定はこれらの鎖のいずれかに基づくことができる。
【0058】
この長期培養は、そのプロモーター核酸またはプロモーター核酸と細胞株の組合せについて1度しか行う必要がない。同じプロモーター核酸または組合せを2度目に用いる場合、選択はすでに収集されたデータに基づくことができる。
【0059】
多くの技術を適用して、亜硫酸水素塩処理後のメチル化アレルと非メチル化アレル間の配列の違いを明らかにすることができる。一態様では、関心対象の配列(A鎖またはB鎖のいずれか)を非メチル化特異的条件下で、すなわちメチル化部位に感受性でないプライマーを用いて、PCRで増幅し、続いてDNA配列決定(クローニングの有無にかかわらず)、高解像度融解温度分析またはマイクロアレイ解析などの方法により解析することができる。別の態様では、メチル化感受性であるかもしくはメチル化特異的であるプライマーまたはプローブを用いて定量的PCR(qPCR)を実施することができる。これに代わる態様としては、5-メチルシトシン特異的抗体を用いてメチル化DNAを沈降させ、その後に定量的ポリメラーゼ連鎖反応を実施する。
【0060】
また、メチル化特異的PCR(MSP)を用いて、関心対象の領域の事前のPCR増幅を行わずに直接、亜硫酸水素塩処理DNAの配列に対処することも可能である。MSPで用いられるプライマーは1つまたは複数のCpG部位を含むものである。それらは、メチル化DNAの検出のために未変換の5-メチル-シトシンに相補的であるか、または非メチル化DNAの検出のためにシトシンから変換されたウラシルに相補的であるかのいずれかである。
【0061】
同定されたCpG部位のメチル化はいくつかの細胞について測定される。一態様では、細胞の数が少なくとも10個、別の態様では少なくとも15個、さらなる態様では少なくとも20個である。その後、各CpG部位のメチル化頻度を計算する、すなわち、各CpG部位について、そのCpG部位でメチル化された細胞の数を、解析した細胞の総数で割ることにより算出する。メチル化頻度の測定は、長期培養中に比生産率の最大の低下を示す1個の細胞またはいくつかの細胞について行われる。一態様において、メチル化頻度の高いCpG部位とは、少なくとも0.2の、別の態様では少なくとも0.25の、さらなる態様では少なくとも0.4の、なおもさらなる態様では少なくとも0.5のメチル化頻度を有する、CpG部位である。
【0062】
メチル化頻度の高いCpG部位が確認された後で、長期培養中に比生産率の低下が最も少なかったかまたは比生産率がほとんど低下しなかったいくつかの細胞において、それぞれのCpG部位のメチル化を実施する。
【0063】
本明細書で報告する方法に適した、メチル化頻度の高いCpG部位とは、長期培養中に比生産率の低下を示すいくつかの細胞に基づいて測定するとメチル化頻度が高く、かつ長期培養中に比生産率の低下が最も少ないかまたは比生産率がほとんど低下しないいくつかの細胞に基づいて測定するとメチル化頻度が所定の閾値以下である、CpG部位である。
【0064】
一態様において、所定の閾値とは、非CpG部位のシトシンの見かけ上のメチル化の平均値の5倍である。「見かけ上の」という用語は、メチル化がまったく存在しないにもかかわらず、メチル化の頻度を決定することができることを意味する。したがって、この値はバックグラウンドノイズに相当する。別の態様において、閾値は平均値の3倍である。さらなる態様では、閾値は平均値の2倍である。本明細書で報告する方法の選択段階では同じ閾値を使用することができる。
【0065】
本明細書で報告する別の局面は、
(a) 本明細書で報告する方法に従って、ポリペプチドを産生する細胞を選択する段階;
(b) 選択された細胞を培養する段階;ならびに
(c) 培養培地および/または細胞からポリペプチドを回収し、それにより該ポリペプチドを生産する段階
を含む、ポリペプチドの生産方法である。
【0066】
一態様において、前記方法は以下のさらなる段階を含む:
(d) 回収されたポリペプチドを精製する段階。
【0067】
別の態様において、前記方法は、段階(a)の前に、次の段階を含む:
(a-3) 細胞を提供する段階;
(a-2) 提供された細胞を、プロモーター核酸に機能的に連結されたポリペプチドをコードする構造遺伝子を含む核酸でトランスフェクトする段階;
(a-1) (i)任意で、トランスフェクト細胞を選択剤の存在下で培養し、(ii)トランスフェクト細胞を単一沈殿させ、(iii)単一沈殿させたトランスフェクト細胞を選択剤の存在下で培養する段階。
【0068】
一態様において、段階(a)は、
(i) プロモーター核酸に機能的に連結されたポリペプチドをコードする構造遺伝子を含む核酸を含有する、少なくとも1個の細胞を提供する段階;
(ii) プロモーター核酸内のメチル化頻度の高いCpG部位のメチル化を測定する段階;および
(iii) 段階(b)で測定されたメチル化が閾値以下である、ポリペプチドを産生する細胞を選択する段階
を含む。
【0069】
ポリペプチドの生産に用いた細胞または細胞株における、低レベルの、すなわち所定の閾値を上回るメチル化プロモーター核酸さえも、長期培養中の生産性の低下を予測するために使用可能であることが見いだされた。
【0070】
したがって、本明細書で報告する一局面は、任意で異種であるポリペプチドをコードする核酸に機能的に連結されたプロモーター核酸のメチル化を測定し、それにより細胞の長期生産性を判定する方法である。また、ポリペプチドをコードする構造遺伝子に機能的に連結されたプロモーター核酸のメチル化を測定することによって、ポリペプチド生産用の細胞を選択する方法も、一局面である。
【0071】
より詳細には、前記方法は、一態様において、
(a) 安定的長期生産性を有する細胞と非安定的長期生産性を有する細胞を提供する段階;
(b) 安定的長期生産性を有する細胞株由来のプロモーター核酸を基準として用いることにより、非安定的長期生産性を有する細胞株由来の亜硫酸水素塩処理したプロモーター核酸をクローニングすることによってメチル化CpGを同定する段階;
(c) 任意で、高解像度融解温度分析を行う段階;
(d) 段階(b)で同定されたメチル化CpG部位のためのメチル化感受性PCRプライマーまたはプローブを提供する段階;
(e) 任意で、安定的および非安定的長期生産性を有するさらなる細胞株を提供することによって、同定されたメチル化CpG部位の予測値を検証する段階
を含む。
【0072】
一態様において、段階(e)は、同じ親細胞株に由来し、かつ同じプロモーター核酸に機能的に連結された関心対象のポリペプチドを発現するための同じ発現カセットを含む、少なくとも10個の異なる細胞または細胞株を用いて実施される。
【0073】
一態様において、DNAは亜硫酸水素塩処理の前に消化される。
【0074】
一態様において、細胞は真核細胞である。別の態様において、細胞は哺乳動物細胞である。さらなる態様では、細胞はCHO細胞、BHK細胞、HEK細胞、およびSp2/0細胞から選択される。さらに別の態様では、細胞はCHO細胞である。さらなる態様では、細胞はCHO K1細胞である。
【0075】
図1には、異なる細胞から得られた同じプロモーター核酸のメチル化CpG部位の数が示される。
【0076】
本明細書で報告する方法は、以下では、本発明がなされた時点に我々の研究室で十分な量で入手できたヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーター(CMV IEプロモーター)を用いて例証される。このデータは、本明細書で報告する方法を例証するために提示され、限定として提示するものではない。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載される。
【0077】
ヒトCMV IEプロモーターの核酸配列を以下に示す(CpG部位には下線が引いてある):
(SEQ ID NO:01)。
【0078】
SEQ ID NO:01には、33箇所のCpG部位が存在し、これらは核酸メチル化の可能な部位である。上で説明した方法を用いて、主としてメチル化されるヒトCMVプロモーター内のシトシン残基を同定することができる。
【0079】
すべてのCpG部位が保存されているA鎖はヌクレオチド配列
(SEQ ID NO:02)を有し、完全に脱アミノ化されたA鎖はヌクレオチド配列
(SEQ ID NO:03)を有する。すべてのCpG部位が保存されているB鎖はヌクレオチド配列
(SEQ ID NO:04)を有し、完全に脱アミノ化された形のB鎖はヌクレオチド配列
(SEQ ID NO:05)を有する。
【0080】
図4には、異なる細胞株における個々のCpG部位でのメチル化の頻度が示される。ポリペプチドを発現するための発現カセットを含むプラスミドでトランスフェクションした後の異なるCHO親細胞株から得られた19〜22個の異なるクローンを分析することによって、数値を決定した。
図4は、各細胞株についての単一のDNAのメチル化パターン(下)および単一のCpG部位でのメチル化頻度(上)を示す。細胞株K18.1は高度にメチル化される(
図4A)。メチル化の頻度は別々のCpG部位において等しい訳ではないが、3つのクラスター、すなわち、5'末端、3'末端、および400位(のヌクレオチド)付近に集中しているようである。配列決定された22のインサートのうち14は425位にシトシンを有した。細胞株43-16 A10におけるプロモーター核酸のメチル化は
図4Eに示される。メチル化の分布は細胞株K18.1で観察された分布に類似している。K18.1と同様に、425位が最も頻繁にメチル化された - 配列決定された20のインサートのうち5つがその位置にシトシンを含んでいた。
【0081】
分析した他の3つの細胞株では、シトシンが散発的に、すなわち単一のイベントとして、異なるCpG部位で検出される(
図4B、4Cおよび4D)。メチル化が全体的に低い細胞株について統計的有意性を得るためには、数百ものインサートの配列決定が必要になるだろう。さらに、単一のイベントは、実際のプロモーターメチル化ではなく、不完全なシトシン脱アミノ化による偽陽性のイベントを表す可能性もある。
【0082】
CpG位置特異的メチル化の信頼性の高い測定のために、メチル化特異的PCR法が開発されている。メチル化特異的PCRのために、以下の表に示すプライマーを使用することができる。単独または組合せたこれらのプライマーもまた、本明細書で報告する局面である。
【0083】
(表)メチル化特異的PCRに使用できるプライマー
【0084】
プライマーの評価の過程で、425位にシトシンを有する脱アミノ化CMVプロモーターDNAに対して高度に選択的であるメチル化特異的プライマー対は、異なる性質を有することが見いだされた(
図6参照)。一態様において、メチル化特異的PCR用のプライマーはSEQ ID NO:14およびSEQ ID NO:18のヌクレオチド配列を有する。
【0085】
したがって、本明細書で報告する方法の一態様では、SEQ ID NO:01のヒトCMVプロモーター核酸がプロモーター核酸である。一態様では、メチル化頻度の高いCpG部位が、SEQ ID NO:01の80、96、425、437、563および591位(bp)のCpG部位から選択される。別の態様では、メチル化頻度の高いCpG部位が、425位(bp)のCpG部位、および425位(bp)のCpG部位と80、96、438、563および591位(bp)のCpG部位のうちの少なくとも1つとの組合せから選択される。
【0086】
(表)qPCRにおけるメチル化特異的(MSP)プライマー対とユニバーサルプライマー対の予想される結果
【0087】
ユニバーサルプライマー対は4つすべての鋳型を増幅する一方、MSPプライマー対は鋳型#62(SEQ ID NO:22)と鋳型#01(SEQ ID NO:23)を選択的に増幅する。ΔCp値は、鋳型#62および鋳型#01ではMSPプライマー対とユニバーサルプライマー対の間で可能な限り小さくなる必要がある。これとは対照的に、鋳型#11(SEQ ID NO:21)および#04(SEQ ID NO:24)に対しMSPプライマー対を用いて得られるCp値は可能な限り高くなるべきであり、すなわち、ユニバーサルプライマー対を用いた増幅と比較したΔCpが最大になるべきである。
【0088】
メチル化特異的プライマーは、さらに2つのメチル化位置が416および437位に存在するにもかかわらず、選択的に425位の5-メチルシトシンを検出できる。
【0089】
メチル化の判定は1%から100%までのメチル化の頻度により可能である。
【0090】
メチル化の程度に関して同等の結果が、メチル化特異的PCRを用いて、ならびにクローニングおよび配列決定によって観察されたが、メチル化特異的PCRの方がはるかに高感度である。長期的生産において生産性が徐々に低下していく細胞株は、閾値を上回るメチル化頻度で425位でメチル化されている。閾値は、一態様において、測定方法のバックグラウンドノイズの2倍である。安定的な長期生産性をもつ細胞株は、そのCpG部位でのメチル化頻度が閾値を下回る。
【0091】
高解像度融解温度分析では、プロモーター核酸は334位から開始して487位まで、つまり154bp増幅される。典型的な融解温度分析は
図10Aに示され、その一次導関数が
図10Bに示される。高解像度融解温度分析を用いると、メチル化プロモーター核酸(鋳型#16、SEQ ID NO:25)が非メチル化プロモーター核酸(鋳型#11)から区別され得ることがわかる。メチル化プロモーター核酸断片は50%以上の相対頻度で検出することができる。非メチル化プロモーター断片は10%以上の相対頻度で検出することができる。
【0092】
これらのデータから、ヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサーによって駆動される外来遺伝子を含む組換えCHO細胞株の安定性は、425位のシトシンのメチル化状態を測定することにより予測可能であることが示される。
【0093】
こうして、C425メチル化の測定は、生成された細胞クローンにおけるポリペプチド発現の安定性を判別するための予測マーカーとして使用でき、それによって細胞株の開発中に安定的な生産性をもつ安定したクローンを選択できることが、見いだされた。さらに、5%以下のC425メチル化が、安定した細胞クローンを選択するための適切な基準であることが判明した。また、安定であると誤って予測される細胞クローン(偽陰性細胞クローン)の割合は、試験前にそれらをMTXの非存在下で一定期間間培養することによって減らせることがわかった。
【0094】
CpG部位425でのhCMV-MIEヌクレオチドのメチル化を定量するための高感度で正確なPCR法が確立されたので、組換えCHO細胞株K18.1、43 16 A10およびG45-2におけるメチル化を評価する。配列決定により解析された亜硫酸水素塩処理DNAを直接、または完全なhCMV-MIE領域のPCR増幅後に、メチル化特異的リアルタイムqPCRにおいて鋳型として使用した(
図8Aおよび8B)。これら2つのアッセイの構成は同等の結果をもたらした。さらに重要なことに、それらは亜硫酸水素塩配列決定の結果とよく相関した。このことは、CpG部位425メチル化特異的qPCRアッセイが、組換えCHO細胞株においてCpG部位425でのhCMV-MIEメチル化を測定するために使用でき、かつ標的DNAの事前のPCR増幅なしで使用できることを実証している。
【0095】
原理上は、生産の不安定性を予測するために、CMV前初期プロモーター/エンハンサーDNA内の他のCpG部位を検討することもできた。しかし、C425でのメチル化はすべてのCpG部位の平均メチル化より約5倍高いことが判明した。さらに、高度にメチル化された細胞クローンにおいてさえも、いくつかの部位、例えばC280およびC289はまったくメチル化されなかった(
図4F、4Jおよび13)。プロモーターのメチル化解析のために正しい、すなわち頻繁に修飾されるCpG部位を選択することによって、そのアッセイはより高感度になる。クローンG25-17、G25-10および43-16 A10のメチル化は約10%と顕著であり、解析のためにCpG部位が無作為に選ばれるとしたら、見逃される可能性が高い。
【0096】
プロモーター核酸内の関連するCpG部位のメチル化状態を扱うことによる安定性の予測は、他の異種プロモーター核酸の場合にも使用することができる。
【0097】
初期プロモーターのメチル化と生産の不安定性との潜在的相関関係を評価するために、安定性試験の開始時のCpG部位425メチル化を、MTXの存在下または非存在下で、qPの相対的変化に対してプロットした。相関プロットは
図11A(MTXあり)および11B(MTXなし)に示される。評価のために、プロットエリアは、5%メチル化での限界(メチル化測定のバックグラウンドの2〜3倍に等しい、すなわち検出限界)およびqPの40%減少(生産安定性の許容限界を表す)を用いて4つの区画に分けられた。異なる区画内のクローンの数を測定した。ピアソンのカイ二乗検定を用いるメチル化状態による安定性状態の偶然性解析は、MTXありの培養については有意な関連性(p値0.05)を、MTXなしの培養についてはある傾向(p値0.13)を示した。CpG部位425でのメチル化が5%未満であるクローンの大部分は、安定したクローンの画分(MTXの有無にかかわらずqPの40%未満の減少、左上の区画に表示)内に見いだされることが判明した。
【0098】
したがって上記を要約すると、スケールアップ時の生産性の喪失は製造用細胞株の開発における主要なリスクである。そのため、迅速かつ簡便に検査することができる生産不安定性の分子マーカーが必要である。プロモーターのメチル化は、組換えCHO細胞株における生産性の将来の喪失を予測するために使用できることが判明した。それを評価するために、広く用いられるhCMV-MIEプロモーター/エンハンサーの603bp領域内の33箇所のCpG部位のDNAメチル化を解析した。検討された領域の全体的なメチル化レベルは、全CpG部位の約1%と18%の間で変化した。1%の見かけ上のメチル化は、非メチル化シトシンの不完全な脱アミノ化から生じる技術的バックグラウンドを表している(データは示さず)。さらに、メチル化されたプロモーターでは、メチル化のレベルが個々のCpG部位間で大きく変化し、かつ3つのクラスターに蓄積して、CpG部位425で最大となる。CpG部位425でのメチル化は、他のすべてのCpG部位の平均的なメチル化度より約5倍高いようであった。一方、いくつかのCpG部位は、高度にメチル化された細胞株においてさえも、全くメチル化されていないようである。hCMV-MIEの全体的なメチル化、ならびに個々のCpG部位間のメチル化の分布は、細胞型および組織間でかなり異なることがある(例えば、Kong, Q., et al., PLoS One 4 (2009) e6679; Krishnan, M., et al., FASEB J. 20 (2006) 106-108; Mehta, A.K., et al., Gene 428 (2009) 20-24 9を参照されたい)。
【0099】
CpG部位425の優勢なメチル化はhCMV-MIEのメチル化のためのマーカーとして適していることが見いだされた。ミディアムスループットの高速かつ高感度の方法として、CpG部位425メチル化特異的qPCRが確立された。多数の細胞株をCpG部位425メチル化特異的qPCRで分析すると、不安定な産生株の大多数は長期培養の前でさえCpG部位425で5%超のメチル化を示した一方、安定した産生株の大半はこの部位での5%未満のメチル化を示したことがわかった。
【0100】
CpG部位425の初期のメチル化は、異種プラスミドを10コピーより多く保有するクローンでもっぱら見られた。以前の報告により、導入遺伝子の複数コピーのタンデムリピートは、哺乳動物細胞においてメチル化とサイレンシングの影響を比較的受けやすい、という証拠がいくつか提供されている(Garrick, D., et al., Nat. Genet. 18 (1998) 56-59; McBurney, M.W., et al., Exp Cell Res 274 (2002) 1-8)。
【0101】
軽鎖遺伝子のコピー数とメチル化のレベル(両方とも安定性試験の前)は、
図15Aに互いに対してプロットされている。初期のメチル化、すなわち安定性試験前のメチル化は、導入遺伝子を10コピーより多く保有する細胞でもっぱら見られた(
図15A中の黒丸)。結果として、安定性試験の前に導入遺伝子のコピー数が低いクローンを選択することもまた、安定な生産性を有するクローンを豊富にする。10コピーまたは10コピーより少ない導入遺伝子を含む2つのクローンは長期培養中にメチル化を獲得し(
図15A中の灰色丸)、コピー数、10コピーから3コピーへおよび2コピーから6コピーへ。
【0102】
MTXなしでの長期培養の前と後の導入遺伝子コピー数が
図15で比較される。
図15Aでは、安定性試験の開始時の単一クローンのCpG部位425メチル化(mCpG 425
start)が、安定性試験の開始時の軽鎖遺伝子のコピー数(LC遺伝子コピー数
start)に対してプロットされた;白丸:長期安定性試験の開始時および終了時にCpG部位425メチル化が5%未満であるクローン;灰色丸:長期安定性試験の間にCpG部位425メチル化が5%より高くなるクローン;黒丸:安定性試験の開始時および終了時にCpG部位425メチル化が5%超であるクローン。クローンは番号で識別される。
図15Bでは、安定性試験の開始時(S)およびMTXなしでの長期培養の終了時(E)の単一クローンの軽鎖遺伝子のコピー数(LC遺伝子コピー数)が示される。白のバー:長期安定性試験の開始時および終了時にCpG部位425メチル化が5%未満であるクローン;灰色のバー:長期安定性試験の間にCpG部位425メチル化が5%より高くなるクローン;黒のバー:安定性試験の開始時および終了時にCpG部位425メチル化が5%超であるクローン。データは4回の独立した実験の平均値±SEM(エラーバー)を表す。
【0103】
導入遺伝子コピー数が少ないクローンを選択することによって、安定した産生株を濃縮できることが、本明細書で示された。
【0104】
要約すると、hCMV-MIEのCpG部位425でのメチル化および高い導入遺伝子コピー数、すなわち10コピーを超える構造遺伝子およびプロモーター核酸の存在は、組換えCHO細胞株の生産不安定性の初期指標として使用することができる。これらの指標は細胞株開発の早い段階で安定した産生株を濃縮するための機会を提供する。
【0105】
以下の実施例、配列表および添付の図面は本発明の理解を助けるために提供されるものであり、本発明の真の範囲は添付の特許請求の範囲に記載される。記載された方法には、本発明の精神から逸脱することなく変更がなされ得ることが理解される。
【0106】
配列表の説明
SEQ ID NO:01 ヒトCMV前初期(hCMV)プロモーター/エンハンサーのヌクレオチド配列
SEQ ID NO:02 すべてのCpG部位が保存された、hCMVプロモーター/エンハンサーのA鎖のヌクレオチド配列
SEQ ID NO:03 完全に脱アミノ化された、hCMVプロモーター/エンハンサーのA鎖のヌクレオチド配列
SEQ ID NO:04 すべてのCpG部位が保存された、hCMVプロモーター/エンハンサーのB鎖のヌクレオチド配列
SEQ ID NO:05 完全に脱アミノ化された、hCMVプロモーター/エンハンサーの完全脱アミノ化B鎖のヌクレオチド配列
SEQ ID NO:06 プライマー227
SEQ ID NO:07 プライマー228
SEQ ID NO:08 プライマー229
SEQ ID NO:09 プライマー237
SEQ ID NO:10 プライマー238
SEQ ID NO:11 プライマー239
SEQ ID NO:12 プライマー240
SEQ ID NO:13 メチル化特異的プライマー254
SEQ ID NO:14 プライマー263
SEQ ID NO:15 プライマー264
SEQ ID NO:16 メチル化特異的プライマー265
SEQ ID NO:17 メチル化特異的プライマー266
SEQ ID NO:18 メチル化特異的プライマー267
SEQ ID NO:19 メチル化特異的プライマー268
SEQ ID NO:20 メチル化特異的プライマー262
SEQ ID NO:21 鋳型#11の配列
SEQ ID NO:22 鋳型#62の配列
SEQ ID NO:23 鋳型#01の配列
SEQ ID NO:24 鋳型#04の配列
SEQ ID NO:25 鋳型#16の配列
SEQ ID NO:26 プライマー133
SEQ ID NO:27 プライマー132
SEQ ID NO:28 プライマー166
SEQ ID NO:29 プライマー178
SEQ ID NO:30 プライマー180
SEQ ID NO:31 プライマー185
【実施例】
【0107】
実施例1
一般的技術
組換えDNA技術
標準方法を用いて、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)に記載されるようにDNAを操作した。分子生物学的試薬はメーカーの指示に従って使用した。
【0108】
DNA配列決定
DNA配列決定はSequiServe GmbH (Vaterstetten, ドイツ)で行った。
【0109】
DNAとタンパク質の配列解析および配列データ管理
EMBOSS(ヨーロッパ分子生物学オープンソフトウェアスイート)ソフトウェアパッケージおよびInvitrogen社のVector NTIバージョン9.1を配列の作成、マッピング、解析、注釈および図解のために使用した。
【0110】
タンパク質定量
クロマトグラフ法を用いて、サンプル中に存在する抗体の量を定量化した。抗体のFc領域に結合するPorosAカラムを使用した。抗体を該カラムに結合させ、その後低pH条件で溶出する。タンパク質濃度は、アミノ酸配列に基づいて計算されたモル吸光係数を用いて、320nmの参照波長で、280nmでの光学密度(OD)を測定することにより決定した。
【0111】
実施例2
組換えCHO細胞株の作製
クラスIgGのヒト抗体を発現する組換え細胞株は、CHO-K1またはCHO-DG44懸濁培養細胞を、ヒト免疫グロブリンκ軽鎖とヒト免疫グロブリンγ1またはγ4重鎖とを含む抗体の該軽鎖と該重鎖とをコードするベクターで安定的にトランスフェクトすることにより作製した。このベクターはマウスジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をコードする核酸をさらに含んでいた(
図2)。軽鎖と重鎖の発現カセットはいずれも、ヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサー(SEQ ID NO:1)の制御下にあった。細胞のトランスフェクションは、ヌクレオフェクション (Lonza Cologne GmbHまたはAmaxa Biosystems社)により、またはGene Pulser XCell (BIO-RAD社)を用いたエレクトロポレーションにより実施した。
【0112】
例えば、CHO-K1またはCHO-DG44懸濁液は、NucleofectorキットVと組み合わせたNucleofectorデバイス(Lonza Cologne GmbH, Cologne, ドイツ)を用いて、またはGene Pulser XCell (Bio-Rad社, Hercules, CA)を用いるエレクトロポレーションにより、メーカーのプロトコルに従って、線形化したプラスミドDNAでトランスフェクトした。トランスフェクト細胞を、選択剤として各種濃度のメトトレキサート(MTX)を加えたチミジンフリー培地を含む96または384ウェルプレートに播種した。3週間後、培地中の抗体価をELISAで測定することにより、抗体を発現する細胞株を同定した。上位の産生株をより高い容積まで増殖させ、限界希釈法によりサブクローニングして凍結保存した。
【0113】
安定的にトランスフェクトされた細胞は、選択剤として20nM〜1200nMのメトトレキサート(MTX)を含有するチミジンおよびタンパク質フリーの培地中で選択した。抗体を発現する細胞または細胞株は、培地中の抗体価を測定することによって同定し、限界希釈法および/またはFACS単一細胞沈殿によりサブクローニングした。
【0114】
細胞は、使い捨て50mlベント式振とうフラスコ内で標準加湿条件(95%rH、37℃、および5%〜8%CO
2)下、120rpm/分〜150rpm/分の一定の撹拌速度で増殖させた。3〜4日ごとに細胞を新鮮な培地に分割した。培養物の密度と生存率はCASY TTまたはCedex HiRes細胞カウンター(Roche Innovates AG, Bielefeld, ドイツ)を用いて測定した。
【0115】
さらに、標準的な細胞培養技術が、例えばCurrent Protocols in Cell Biology, Bonifacino, J.S.ら(編), John Wiley & Sons, Inc., New York (2000)に記載されるように適用された。
【0116】
実施例3
長期培養および生産
実施例2に従って得られた5つのCHO細胞株は長期的な生産性について検討された:細胞株K18.1はCHO-K1細胞に由来し、ヒトサブクラスIgG1の抗体を産生する;細胞株G25-10、G25-17およびG42-5はそれぞれCHO-K1細胞に由来し、ヒトサブクラスIgG4の抗体を産生する;細胞株43-16 A10はCHO-DG44細胞に由来し、ヒトサブクラスIgG4の抗体を産生する。
【0117】
細胞は選択剤の非存在下で35〜70世代にわたって表現型(すなわち、生産)安定性について試験された。細胞を、50mlのMTX不含培地を含有するベント式125ml振とうフラスコ内で継続的に培養し、新鮮な培地で週2回希釈した。播種密度を2〜3×10
5細胞/mlとした。継代に先立って、生細胞密度と生存率を測定した。各継代の終了時の培養物の年齢(世代数で表される)を次の式に従って算出した:
a
2 = a
1 + ln(D
2/D
1)/ln2 (式1)
式中、
a
2 [世代数]:その継代の終了時の培養物の年齢
a
1 [世代数]:その継代の開始時の培養物の年齢、すなわち、前の継代の終了時の培養物の年齢
D
1 [細胞/ml]:その継代の開始時の生細胞密度
D
2 [細胞/ml]:その継代の終了時の生細胞密度。
【0118】
上清中の抗体濃度(抗体価)は、各継代の終了時にプロテインA HPLCで測定した。これらのデータから、各継代の比生産率(SPR)を次の式に従って算出した:
SPR = P
2-P
1/((D
2-D
1)/2*Δt) (式2)
式中、
SPR [pg/細胞/日]:比生産率
P
1 [μg/ml]:その継代の開始時の抗体価
P
2 [μg/ml]:その継代の終了時の抗体価
D
1 [細胞/ml]:その継代の開始時の生細胞密度
D
2 [細胞/ml]:その継代の終了時の生細胞密度
Δt [日]:その継代期間の持続日数。
【0119】
SPRの値は、各継代の終了時の培養物の年齢(世代数)に対してプロットされた。すべてのSPRデータ点にわたって線形傾向線を算出し、試験した期間にわたるSPR(%)の相対的な変化を次の式に従って算出した:
ΔSPR = m*a/SPR
0*100 (式3)
式中、
ΔSPR [%]:SPRの変化パーセント
m [pg/細胞/日/世代]:線形傾向線の傾き
a [世代数]:培養物の年齢
SPR
0:線形傾向線のy軸切片。
【0120】
細胞株G42-5は、試験した全期間(およそ70世代)にわたってSPRの変化を示さなかった。他のすべての細胞株は30世代後にはすでに生産性の低下を示した。その低下は29%〜73%に及んだ。細胞株G25-17、G42-5および43-16 A10については、培養を35〜45世代後に停止した(
図3A〜3E、表1および2)。
【0121】
(表1)MTX非存在下での5つの細胞株の培養の際のSPR変化
n.d.=測定せず。
【0122】
(表2)MTX非存在下での5つの細胞株の培養の際の残存SPR。100%=第1世代のSPR
n.d.=測定せず。
【0123】
実施例4
亜硫酸水素塩処理およびDNA配列決定によるヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサーDNA内のメチル化CpG部位の同定
抗体の軽鎖および重鎖遺伝子の発現のために用いたヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサー断片(SEQ ID NO:01)には、33箇所のCpG部位が含まれる。
【0124】
ゲノムDNAを、Qiagen社(Hilden, ドイツ)からのAllprep DNA/RNA Miniキットを用いて、CHO細胞株K18.1、G25-10、G25-17、G42-5および43-16 A10から単離した。5μgのDNAを酵素DraIで切断し、260nmでの吸光を測定することにより定量化した。100ngのDNAを亜硫酸水素塩処理に供し、EpiTect Bisulfiteキット(Qiagen社, Hilden, ドイツ)を用いて精製した。亜硫酸水素塩処理したDNAを20μlのRNAseフリー水(Qiagen社, Hilden, ドイツ)中に回収した。
【0125】
ヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサー断片のA鎖(フォワード)(SEQ ID NO:02)を増幅するために、1μlの亜硫酸水素塩処理したDNAを24μlのPCRマスターミックスと組み合わせて、GeneAmp(登録商標)PCRシステム9700 (Applied Biosystems社, 米国)を用いてPCRに供した。
【0126】
24μlのPCRマスターミックスに以下を含めた:
1μlのフォワードプライマー227(SEQ ID NO:06)(10pmol/μl)
1μlのリバースプライマー229(SEQ ID NO:08)(10pmol/μl)
22μlのPlatinum(登録商標)PCR SuperMix HighFidelty (Invitrogen社, 米国)。
【0127】
フォワードプライマー227は、ヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサー断片の5'末端に相補的である。リバースプライマー229は、免疫グロブリン遺伝子の5'-UTR内の下流に結合する。
【0128】
PCR条件は次のとおりであった。
【0129】
PCR産物はアガロースゲル電気泳動でサイズと純度を調べ、TOPO TAクローニングキット(Invitrogen社, 米国)を用いてベクターpCR4 (Invitrogen社, 米国)にクローニングした。プラスミドクローンを単離し、制限酵素消化とアガロースゲル電気泳動により解析した。各細胞株につき、19〜22のインサート含有プラスミドを配列決定した。非CpG部位での亜硫酸水素塩処理の脱アミノ化効率を推定するため、非CpG部位の残留シトシンの数を測定した。脱アミノ化効率(%)は次のように算出した:
E
mod = 100-(C
res/C
total*100) (式4)
式中、
E
mod [%]:脱アミノ化効率
C
res:解析したすべてのインサート(PCRプライマー部位を除く)内の非CpG部位の残留シトシンの数
C
total:解析したインサートの数を乗じた、非亜硫酸水素塩処理CMVプロモーター/エンハンサー断片(PCRプライマー部位を除く)内のシトシンの数、すなわち107 * 20。
【0130】
非CpGシトシンでの脱アミノ化効率はすべてのサンプルにおいて99%より高いことが判明した(表3)。
【0131】
(表3)非CpGシトシンでの脱アミノ化効率
【0132】
脱アミノ化からの5-メチルシトシンの保護は、dcm
+大腸菌から単離されたプラスミドDNAの亜硫酸水素塩処理とその後のクローニングおよび配列決定により確認した。dcm
+大腸菌は配列CCAGGまたはCCTGG(dcm部位)内の内部シトシン残基をメチル化する。脱アミノ化効率は非dcm部位で99%であり、dcm部位内の内部シトシンで5%未満であることが判明した。
【0133】
亜硫酸水素塩処理したCMVプロモーター/エンハンサー断片内のCpG部位でのDNAメチル化の程度を定量化するために、各CpG部位で見られたシトシンの数を測定して、解析した各細胞についてプロットした。
【0134】
細胞株K18.1は高度にメチル化される(
図3A)。メチル化の頻度は3つのクラスター(すなわち、5'末端に1つ、3'末端に1つ、および400位付近に1つ)に蓄積する。最も高いメチル化度は425位に見られた。配列決定された22のインサートのうち14がここにシトシンを有した。
【0135】
細胞株43-16 A10由来のCMVプロモーターのメチル化は注目に値した(
図3E)。メチル化の分布は細胞株K18.1で観察された分布に類似していた。425位は最も頻繁にメチル化された。配列決定された20のインサートのうち5つがこの位置にシトシンを含んでいた。
【0136】
検討された他の3つの細胞株では、シトシンがCpG部位に散発的に検出されたにすぎなかった(
図3B、3Cおよび3D)。
【0137】
実施例5
亜硫酸水素塩処理したヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサーDNAの定量的メチル化特異的PCR
この実施例では、CpG位置でのメチル化、具体的にはhCMVプロモーター核酸の425位でのメチル化、を検出する方法として、メチル化特異的リアルタイムqPCRを報告する。
【0138】
2セットのプライマーを設計した:
- 425位でメチル化されたDNAを表す、425位にシトシンを有する脱アミノ化CMVプロモーターDNAを選択的に増幅するメチル化特異的プライマー対(MSPプライマー対)、および
- メチル化状態にかかわらず脱アミノ化CMVプロモーターDNAを増幅するユニバーサルプライマー対。
【0139】
ユニバーサルプライマー対を正規化のために使用した。同じPCRランで使用するために、両方のプライマー対は同様の融解温度をもつ必要がある。
【0140】
425位でのメチル化を検出するプライマーの設計は、接近している2つの追加のCpG部位(416位と437位)の存在によって複雑になった。メチル化感受性プライマーは、416位と437位のメチル化状態とは無関係に、5mC425を検出すべきである。
【0141】
425および437位での可能な配列変化を表す、実施例4で単離された4つの脱アミノ化ヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサー断片、すなわち#11、#62、#01および#04(表4、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22)を、メチル化特異的PCRプライマー対およびユニバーサルプライマー対のためのqPCR鋳型として使用した。
【0142】
(表4)qPCRにおけるMSPプライマー対とユニバーサルプライマー対の予期される結果
【0143】
ユニバーサルプライマーを用いると、4つすべての鋳型が同等に増幅されるのに対して、メチル化特異的プライマー対は鋳型#62と鋳型#01を選択的に増幅することができる。ΔCpは、鋳型#62および鋳型#01ではメチル化特異的プライマー対とユニバーサルプライマー対の間で可能な限り小さくなる必要がある。鋳型#11および鋳型#04に対しメチル化特異的プライマー対を用いて得られるCp値は可能な限り高くなるべきであり、すなわち、ユニバーサルプライマー対による増幅と比較したΔCpが最大になるべきである。
【0144】
qPCRのためにLightCycler(登録商標)480 IIシステムを使用し(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, ドイツ)、LightCycler(登録商標)480 SYBR Green I Master (Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, ドイツ)を用いてサンプルを調製した。0.05ngのDNAを含む鋳型溶液5μlを、96ウェルのマルチウェルプレートのウェルにて15μlのPCRマスターミックスと混ぜ合わせた。
【0145】
15μlのPCRマスターミックスに以下を含めた:
- 4.2μlの水
- 0.4μlのフォワードプライマー239、263または264(プライマー227、228、240、238も可能)(10pmol/μl)
- 0.4μlのリバースプライマー237、254、262、265、266、267または268(プライマー229も可能)(10pmol/μl)
- 10μlのSYBR Green I Master。
【0146】
マルチウェルプレートをLightCycler(登録商標)480シーリングホイル(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, ドイツ)で密封し、1,500×gで2分間遠心した。その後、プレートをLightCycler(登録商標)480システムに搭載してqPCRに供した。各サンプルは2回、3回または4回反復して試験した。絶対コピー数の測定を可能にするために、標準として線状化発現プラスミドを用いて、LCおよびHC導入遺伝子のために標準曲線を作成した。標準希釈物に2.5×10
7、2.5×10
6、2.5×10
5、2.5×10
4または2.5×10
3のプラスミドコピーを含めた。ゲノムDNAは3回反復して試験した;標準は4回反復して試験した。
【0147】
PCRの条件は次のとおりであった。
【0148】
データの収集と解析は、LightCycler(登録商標)480ソフトウェアバージョン1.5を用いて行った。見かけ上のメチル化度は次の式を用いて算出し、ここで、理想的な増幅効率が仮定された(E=2)。
mC
app = 2
Cp(t)-Cp(m)*100 (式5)
式中、
mC
app [%]:見かけ上のメチル化度
Cp(t):ユニバーサルプライマーを用いて得られたCp値
Cp(m):メチル化特異的プライマーを用いて得られたCp値。
【0149】
プライマー評価の際に、425位にシトシンを含む(「メチル化された」)脱アミノ化CMVプロモーターDNAに対して高度に選択的であるメチル化特異的プライマーの設計は慎重に行わなければならないことがわかった。プライマー266および267は、Cp(#11)とCp(#62)との最大差を示し、すなわち「メチル化」DNAに対して最高の選択性を示した。プライマー265、268および254が示した選択性は低いものであった。最小ΔCpのための対照としてユニバーサルプライマー対263/237を試験した(
図6および表5)。
【0150】
(表5)プライマー評価の結果
【0151】
図5には、メチル化特異的プライマー対239/267(SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:18)をユニバーサルプライマー対239/237(SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:09)と組み合わせて用いて得られた結果が示される。ユニバーサルプライマー対239/237は4つすべての鋳型をほぼ同等にうまく増幅したのに対し、メチル化特異的プライマー対239/267は鋳型#62および#01を増幅した。鋳型#11および#4はプライマー対239/267によってわずかに増幅されるにすぎない。
【0152】
Cp値から算出されたメチル化頻度は、鋳型#62と鋳型#01がほぼ100%であり、鋳型#11と鋳型#04がほぼ0%であった(表6A)。このことは、425位でメチル化されたCMVプロモーターDNAと425位でメチル化されていないCMVプロモーターDNAとをリアルタイムqPCRによって区別するために、ユニバーサルプライマー対239/237と組み合わせたメチル化特異的プライマー対239/267を使用できることを示している。
【0153】
追加のユニバーサルプライマー対およびメチル化特異的プライマー対が見いだされ、表6Aおよび6Bで特性解析される。
【0154】
(表6A)3つの異なるフォワードプライマーと組み合わせたメチル化特異的リバースプライマー267および非メチル化特異的リバースプライマー237
【0155】
(表6B)2つの異なるフォワードプライマーと組み合わせたメチル化特異的リバースプライマー266および非メチル化特異的リバースプライマー237
【0156】
広範囲にわたるメチル化度の定量化のために、鋳型#62をさまざまな比率で鋳型#11と混合した。プライマー対239/237および239/267を用いて上記のようにqPCRを実施し、鋳型#11をバックグラウンドとした鋳型#62の回収率を計算した。
【0157】
鋳型#62 DNAの割合を計算するために、使用した条件下でのプライマー対の増幅効率を測定した。鋳型#62および#11のn=0.005ngから0.5ng DNAまでの連続希釈物をqPCRに供し、測定されたCp値をlog(n)に対してプロットした。回帰直線はXLfit (Microsoft)を用いて算出した。増幅効率は次の式を用いて計算した:
E = 10
-1/m (式6)
式中、
E:増幅効率
m:線形傾向線の傾き。
【0158】
両方のプライマー対の増幅効率は約1.7と計算された。以下の式は鋳型#62 DNAの割合を計算するために使用された:
mC = 1.7
Cp(t)-Cp(m)*100 (式7)
式中、
mC [%]:425位でメチル化されたDNAの割合
Cp(t):ユニバーサルプライマー対を用いて得られたCp値
Cp(m):メチル化特異的プライマー対を用いて得られたCp値。
【0159】
2つの独立した実験から測定された鋳型#62 DNAの割合を期待値に対してプロットした(
図7)。1%と100%の間のメチル化の定量化を行うことができる。
【0160】
実施例6
ヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサーのメチル化と長期生産性との相関
a)プレ増幅したヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサーのA鎖を用いるメチル化特異的qPCR
実施例4に報告したように、ゲノムDNAをCHO細胞株K18.1、G25-10、G25-17、G42-5および43-16 A10から単離し、酵素DraIで切断し、亜硫酸水素塩処理により脱アミノ化した。ヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサーのA鎖はプライマー227および229を用いて増幅した。
【0161】
PCR産物を1:50,000に希釈した。5μlの各希釈物をリアルタイムqPCRに使用した。プライマー239および237を全CMVプロモーターDNAの定量化のために使用した;プライマー239および267を425位でメチル化されたCMVプロモーター/エンハンサーDNAの定量化のために使用した。サンプルは3回反復して試験した。鋳型#11、#62および#01を対照として用いた。
【0162】
qPCRは、実施例5で報告したように、5μlの鋳型を15μlのPCRマスターミックスと混ぜ合わせることでセットアップされた。PCR条件は実施例5で報告したとおりである。プライマーのアニーリング温度は58℃とした。
【0163】
b)亜硫酸水素塩処理したゲノムDNAを用いるメチル化特異的qPCR
ゲノムDNAをCHO細胞株K18.1、G25-10、G25-17、G42-5および43-16 A10から抽出し、酵素DraIで切断して、亜硫酸水素塩処理により脱アミノ化した。3μlの水で希釈した2μlの脱アミノ化DNAをリアルタイムqPCRで鋳型として使用した。リアルタイムqPCRでは、全CMVプロモーター/エンハンサーA鎖の増幅のためにプライマー対239/237を適用し、425位でメチル化されたCMVプロモーター/エンハンサーA鎖の増幅のためにプライマー対239/267を適用した。サンプルは3回反復して試験した。鋳型#11および#62を対照として用いた。
【0164】
PCRをセットアップし、実施例5で報告したようにqPCRを行った。プライマーのアニーリング温度は58℃とした。
【0165】
a)およびb)について、425位でメチル化されたプロモーターDNAの割合は次のように算出された:
mC = 1.7
Cp(t)-Cp(m)*100 (式7)
式中、
mC [%]:425位でメチル化されたDNAの割合
Cp(t):ユニバーサルプライマー対239/237を用いて得られたCp値
Cp(m):メチル化特異的プライマー対239/267を用いて得られたCp値。
【0166】
両方のアッセイの構成は同等の結果を与えた。3回の反復試験内の標準偏差は、CMVプロモーターA鎖のプレ増幅なしでより高かった(
図8Aおよび8B)。細胞株K18.1、G25-10、G25-17および43-16 A10におけるCMVプロモーター核酸の425位のメチル化は、不完全な脱アミノ化のバックグラウンド(約1%であることがわかった)よりも高かった。細胞株G42-5でのメチル化は、バックグラウンドレベルより低いか、バックグラウンドレベルで最大であった。細胞株K18.1については、最高のメチル化が測定された(60%を上回る)。
【0167】
アッセイ設定a)は、他のユニバーサルプライマー対およびメチル化特異的プライマー対を用いて実施された。425位でメチル化されたDNAの割合を計算するために、すべてのプライマー対の増幅効率を2と仮定した:
mC = 2
Cp(t)-Cp(m)*100 (式5')
式中、
mC [%]:425位でメチル化されたDNAの割合
Cp(t):ユニバーサルプライマー対を用いて得られたCp値
Cp(m):メチル化特異的プライマー対を用いて得られたCp値。
【0168】
表7は、CMVプロモーターDNAのプレ増幅を行ってまたは行わずに、クローニングDNA鋳型またはゲノムDNAのいずれかに対して試験されたプライマー対の組合せの概要を示す。
【0169】
(表7)プライマー対の組合せ
【0170】
実施例7
ヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサーのメチル化および組換えCHO細胞株の生産不安定性の予測
CHO-K1細胞を、ヒトIgG4抗体をコードするプラスミドでトランスフェクトし、DHFR/MTXシステムを用いて安定したクローンを選択した。高生産性の親クローンを限界希釈法によりサブクローニングした。完全な細胞株の発生プロセスの間、MTXを増殖培地中に維持した。10個の親クローンから16個のサブクローンが選択された。
【0171】
選択した細胞を250nM MTXの存在下で再培養した。それらが安定した増殖を示したらすぐに、それらをMTXの存在下および非存在下での60〜80世代にわたる長期生産の安定性について試験した。60世代にわたるSPRの相対変化を計算した。C435のメチル化は、MTXの存在下で増殖させた細胞を用いる試験の開始時と、MTXなしで培養した細胞からの試験の終了時に測定した。
【0172】
試験の開始時のC425メチル化は、MTXの存在下(
図11A)および非存在下(
図11B)でのSPRの相対変化に対してプロットされた。C425でのメチル化が5%未満であるクローンの大部分は安定したクローン(MTXの有無にかかわらず、SPRの40%未満の低下)の画分に見いだされる一方、C425でのメチル化が5%を超えるクローンの大部分は不安定なクローンの画分にクラスター化された。これは、メチル化がMTXの存在下でまたは非存在下での安定性と相関していたか否かとは無関係であった(表8も参照のこと)。MTXの存在下で20%未満の生産性を、およびMTXの非存在下で30%未満の生産性を失う安定したクローンのほとんどは、5%未満のC425メチル化を示す。
【0173】
(表8)MTXの存在下または非存在下(A)およびプラスミドコピー数(B)におけるメチル化と安定性との相関
【0174】
この知見は、生成された細胞クローンにおけるポリペプチド発現の安定性を判別し、それによって細胞株の開発中に安定的な生産性を有する安定したクローンの選択を可能にするための予測マーカーとして、C425メチル化の測定を使用できることを示している。5%以下のC425メチル化は、安定した細胞クローンを選択するための適切な基準であることが判明した。
【0175】
さらに、中間的に安定した2個の細胞クローンならびに試験の開始時にメチル化されていなかった非常に不安定な2個のクローンは、MTXなしでの安定性試験の間にメチル化が5%より高くなることが見いだされた(
図12も参照のこと)。これは、試験前にMTXの非存在下で一定期間それらを培養することによって、誤って安定と予測される細胞クローン(偽陰性細胞クローン)の割合を減らせることを示している。
【0176】
C425メチル化を第2の方法で確認するために、本発明者らは、高度にメチル化されたクローン44-28を用いて亜硫酸水素塩配列決定を行った(
図13)。C425でのメチル化度は80%であると判明した。これはメチル化特異的PCRの結果と一致した(両アッセイのばらつきを考慮した)。クローンK18.1および43-16 A10と同様に(
図4)、C425はヒトCMV前初期プロモーター/エンハンサーDNA内のすべてのCpG部位の中で最も頻繁にメチル化されていた。他のメチル化イベントは5'末端と3'末端にクラスター化されていた。すべての部位での平均メチル化度は18%であった。
【0177】
実施例8
初期のメチル化は導入遺伝子の高コピー数と一致する
本発明者らは、TaqMan原理に基づくマルチプレックスqPCRアッセイを用いて、安定性試験の開始時と終了時に免疫グロブリン軽鎖および重鎖遺伝子の組み込まれたコピー数を測定した。フォワードプライマー、リバースプライマーおよび加水分解プローブからなる2つのプライマーセットを使用した:一方はヒトκ鎖遺伝子に特異的であり、他方はヒトγ重鎖遺伝子に特異的である。絶対コピー数の決定を可能にするために、線状化発現プラスミド(トランスフェクションに用いたもの)を標準として使用した。サンプルおよび標準の等しい増幅効率を確保した。
【0178】
qPCRのためにLightCycler(登録商標)480 IIシステムを使用し(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, ドイツ)、LightCycler(登録商標)480 Probes Master (Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, ドイツ)を用いてサンプルを調製した。
【0179】
50ngのゲノムDNAを含む鋳型溶液5μlを、96ウェルのマイクロタイタープレートのウェルにて15μlのPCRマスターミックスと混ぜ合わせた。標準の場合には、鋳型溶液には2.5×10
7、2.5×10
6、2.5×10
5、2.5×10
4および2.5×10
3コピーの対応する線状化プラスミドDNAを含めた。
【0180】
15μlのPCRマスターミックスに以下を含めた:
10μlのLightCycler(登録商標)480 Probes Master
1μlのフォワードプライマー#133 (10pmol/μl)
1μlのリバースプライマー#132 (10pmol/μl)
0.5μlのプローブ#166 (10pmol/μl)
1μlのフォワードプライマー#178 (10pmol/μl)
1μlのリバースプライマー#180 (10pmol/μl)
0.5μlのプローブ#185 (10pmol/μl)。
【0181】
プレートをLightCycler(登録商標)480シーリングホイル(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, ドイツ)で密封し、1,500×gで2分間遠心した。その後、プレートをLightCycler(登録商標)480システムに搭載してqPCRに供した。各サンプルは3回反復して試験し、標準は4回反復して行った。
【0182】
PCR条件は次のとおりであった。
【0183】
データの収集と解析は、LightCycler(登録商標)480ソフトウェアバージョン1.5を用いて行った。基本的には、プラスミド標準希釈物の平均Cp値をそれぞれの遺伝子コピー数に対してプロットして標準曲線を作成し、その曲線からサンプル中の導入遺伝子の数を外挿した。
【0184】
細胞あたりの導入遺伝子数は、細胞あたりの平均DNA量がjpgであると仮定して算出した。
N
c = N
s/50000*6
N
c:細胞あたりの導入遺伝子のコピー数
N
s:サンプル中の導入遺伝子のコピー数
【0185】
(表9)プライマー配列
【0186】
図14は、安定性試験の前と後のメチル化細胞および非メチル化細胞の軽鎖遺伝子コピー数を示す。驚くことではないが、同一のコピー数が重鎖遺伝子で見出されたのは、細胞が両遺伝子を保有する二重遺伝子ベクターでトランスフェクトされていたからである(データは示さず)。初期のメチル化、すなわち安定性試験の前のメチル化は、10より多い導入遺伝子コピーを保有する細胞でもっぱら見られるのに対し、10未満の導入遺伝子コピーを保有するいくつかのクローンは安定性試験の間にメチル化を獲得した。結果として、安定性試験の前に導入遺伝子コピー数の低いクローンを等しく選択することで、安定した生産性をもつクローンが濃縮される(表10)。
【0187】
(表10)MTXの存在下または非存在下での導入遺伝子コピー数と安定性との相関
【0188】
本発明者らはさらに、生産の不安定性が、導入遺伝子コピー数の喪失と一般的に関連していないことを観察した。クローン1A5-05、1A5-21、1A5-24および2B1-02は導入遺伝子コピー数を失い、2B-13は安定しており、14-13および14-23は遺伝子コピー数が増加した(
図11Bも参照のこと)。