【文献】
Joao A. PAULO, et al.,Optimized sample preparation of endoscopic collected pancreatic fluid for SDS-PAGE analysis,Electrophoresis,英国,John Wiley & Sons Ltd.,2010年 7月,Vol.31/No.14,第2377-2387頁
【文献】
Kyung W. NOH, et al.,Do Cytokine Concentrations in Pancreatic Juice Predict the Presence of Pancreatic Diseases?,CLINICAL GASTROENTEROLOGY AND HEPATOLOGY,米国,2006年 3月22日,Vol.4,第782-789頁,URL,http://www.cghjournal.org/article/S1542-3565%2806%2900329-6/pdf
【文献】
Kenoki OHUCHIDA, et al.,S100P Is an Early Developmental Marker of Pancreatic Carcinogenesis,Clinical Cancer Research,米国,2006年 9月15日,Vol.12, No.18,第5411-5416頁,URL,http://clincancerres.aacrjournals.org/content/12/18/5411.full.pdf
【文献】
大内田研宙ほか,S100Pの膵癌診断における役割,胆と膵,日本,医学図書出版株式会社,2006年 3月,Vol.27, No.3,第141-145頁,URL,http://mol.medicalonline.jp/library/journal/download?GoodsID=aa6tnsid/2006/002703/003&name=0141-0145j
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1では、膵臓の組織や膵液中に含まれる膵細胞からRNAを抽出し、S100P遺伝子のmRNA発現レベルからS100Pの発現量を測定している。この方法では膵癌およびIPMNを高精度で検出できる。しかしながら、煩雑な多段階の工程が必要であり、検査には高額な費用と長い時間とが必要となる。非特許文献2では、膵液をTOF−MS(飛行時間型質量分析法)で解析することよりS100Pの発現量を測定しており、比較的大掛かりな設備が必要となる。すなわち、これらの方法で検査を実施できる施設は限られており、また、通常の臨床検査には不向きであるという不都合がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、簡略な設備と手順でありながら膵疾患を高感度で検査することができる
膵疾患を検出するためのデータを収集する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の
一態様は、
十二指腸内から採取された体液であって、排出刺激を行わずに生理的に分泌された膵液を含む前記体液中に含まれるS100Pの濃度を
、固相化された抗体を用いて測定する
膵疾患を検出するためのデータを収集する方法である。
上記態様においては、前記S100Pの濃度を、前記固相化された抗体を用いた免疫クロマトグラフィ法によって測定してもよい。
本発明の
一態様によれば、被検体内から採取した膵液および/または膵液を含む体液に含まれるS100Pの濃度は、膵臓腫瘍、IPMN、慢性膵炎を含む膵疾患が存在する場合には高い確率で上昇するので、測定したS100Pの濃度の値から膵疾患の有無を高感度で検査することができる。この場合に、S100Pの濃度の測定に、操作が簡便で特別な設備を必要としない免疫クロマトグラフィ法を用いることにより、簡略な設備と手順でありながら膵疾患を高感度で検査することができる。
【0007】
本発明の参考例においては、前記膵液が、膵管内から採取された膵液であってもよい。
このようにすることで、純度の高い膵液を用いることによって、被検体内において発現されたS100Pの濃度をより正確に測定することができる。
本発明の上記
態様においては、前記膵液を含む体液が
、十二指腸液であってもよい。
十二指腸内において、膵液を胆汁や十二指腸の分泌液と混合された状態で十二指腸液として採取することができる。このようにすることで、膵液を採取する際の被検体への侵襲を低減することができる。
【0008】
上記
態様においては、前記膵
液が、膵液分泌促進剤の使用などの積極的な排出刺激をせずに、生理的に分泌された膵
液であってもよい。
このようにすることで、検査に伴う被検体への負担を軽減することができる。
本発明の参考例においては、前記膵液および/または膵液を含む体液が、膵液分泌促進剤の投与により分泌させられた膵液および/または該膵液を含む体液であってもよい。
このようにすることで、十分な量の膵液および/または膵液を含む体液を検査に用いることができる。
【0009】
上記
態様においては、前記膵液に含まれる蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)の活性を阻害するプロテアーゼ阻害剤が収容された採取容器に採取された前
記膵液を含む体液を使用してもよい。
このようにすることで、採取および検査の過程で膵液に含まれる蛋白質分解酵素によってS100Pが分解されてしまうことを防ぎ、検査精度を向上することができる。
【0010】
本発明の
参考例は、被検物質を標識物質によって標識する第1の抗体および該第1の抗体と複合体を形成した前記被検物質を吸着させる第2の抗体として、S100Pの互いに異なるエピトープを認識する2つの抗S100P抗体を保持する免疫クロマトグラフィ装置を備える膵臓検査キットである。
上記
参考例においては、膵液に含まれるプロテアーゼの活性を阻害するプロテアーゼ阻害剤が収容された採取容器をさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡略な設備と手順でありながら膵疾患を高感度で検査することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態に係る膵臓検査キットおよび該膵臓検査キットを使用した膵臓検査方法について
図1から
図5を参照して説明する。
本実施形態に係る膵臓検査キットは、
図1に示されるように、シリンジの外筒2内にプロテアーゼ阻害剤Aが収容されてなる採取容器1と、
図2Aおよび
図2Bに示されるように、抗S100P抗体を保持する免疫クロマトグラフィ装置20とを備えている。
【0014】
採取容器1のシリンジは、外筒2と、該外筒2の内部空間を分画しつつ外筒2内において摺動可能に設けられたガスケット3と、該ガスケット3を押し引きするプランジャ4とを備えている。プロテアーゼ阻害剤Aは、ガスケット3により吸引口2a側に分画された空間内に配置されている。吸引口2aはキャップ5などによって密封されている。
【0015】
プロテアーゼ阻害剤Aは、水を主成分とする膵液および/または膵液を含む体液に容易に溶解する水溶性のものが用いられる。プロテアーゼ阻害剤Aとしては、例えば、スルホニル系化合物であるフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、アミジノファニルメタンスルフォニルフルオライト(APMSF)、4−(2−アミノエチル)−ベンゼンスルフォニルフルオライド(AEBSF)、トシル系化合物である1−クロロ−3−トシルアミド−7−アミノ−2−ヘプタノン塩酸塩(TLCK―HCL)、または、ペプチド系の阻害剤であるアプロチニン、ロイペプチン等が好適に用いられる。これらのプロテアーゼ阻害剤Aは、主にセリンプロテアーゼを不可逆的に阻害するものであり、膵液に多く含まれるプロテアーゼであるアミラーゼ、トリプシン、エラスターゼなどを強力に阻害する。
【0016】
プロテアーゼ阻害剤Aは、1種類のみが外筒2内に収容されていてもよいし、2種類以上が外筒2内に収容されていてもよい。また、プロテアーゼ阻害剤Aは、リパーゼなどの他の消化酵素の活性を阻害する阻害剤とともに収容されていてもよい。
プロテアーゼ阻害剤Aは、凍結乾燥された粉体である。これにより、プロテアーゼ阻害剤Aは、さらに容易に膵液および/または膵液を含む体液に溶解させられる。
【0017】
採取容器1により採取される被検液の採取量は、採取容器1の内容量に応じて、または、検査に必要な被検液の量に応じて予め所定量に設定されている。外筒2内に収容されるプロテアーゼ阻害剤Aの重量は、採取すべき所定量の被検液に溶解させられたときにプロテアーゼ阻害剤Aの濃度が所望の数値になるように決定される。
【0018】
免疫クロマトグラフィ装置20は、
図2Aに示されるように、被検液が展開される担体21と、担体21の両端にそれぞれ配置されたサンプルパッド22および吸収パッド23とを備えている。
担体21は、被検液を展開可能なものであればよく、例えば、ニトロセルロース製のメンブレンフィルターなどが好適に用いられる。担体21には、第1の抗体が保持された帯状の標識領域21aと、該標識領域21aから間隔をあけた位置において第2の抗体が固相化された帯状の吸着領域21bとが設けられている。第1の抗体および第2の抗体は、S100Pの互いに異なるエピトープを認識する抗S100P抗体である。
【0019】
第1の抗体は、所定の色を呈する物質、例えば、金コロイドや白金コロイド等の金属コロイド、または、彩色されたポリスチレンラテックス等の合成ラテックスや天然ゴムラテックスなどからなるラテックスコロイド(標識物質)によって標識されている。
第1の抗体を標識する標識物質は、酵素や放射性物質などであってもよい。
【0020】
サンプルパッド22は、吸水性に優れた材料、例えば、多孔質ポリエチレンや多孔質ポリプロピレン等の多孔質合成樹脂からなるシートまたはフィルム、もしくは、濾紙や綿布などのセルロース製の紙、織布または不織布等からなる。
吸収パッド23は、液体を迅速に吸収して保持できる材質、例えば、綿布、濾紙や、ポリエチレンやポリプロピレン等からなる多孔質プラスチック不織布等からなる。
【0021】
これらの担体21、サンプルパッド22および吸収パッド23は、
図2Bに示されるように、プラスチック製のケース24によって外装されている。ケース24は、サンプルパッド22に対応する位置において滴下窓24aが開口し、吸着領域21bに対応する位置において観察窓24bが開口している。
【0022】
このように構成された免疫クロマトグラフィ装置20を使用するには、操作者は、滴下窓24aからサンプルパッド22に被検液を滴下する。滴下された被検液はサンプルパッド22から吸収パッド23に向かって担体21を移動することにより展開される。展開の途中に、被検液に含まれるS100Pは、標識領域21aにおいて第1の抗体と結合して複合体を形成する。その後、該複合体は吸着領域21bにおいて第2の抗体と結合することにより吸着領域21bに吸着される。そして、複合体が吸着領域21bに集積することにより吸着領域21bは所定の色を呈する。したがって、操作者は、観察窓24b内に所定の色のバンドが出現したか否か、または、バンドの色の濃さから、S100Pの有無または濃度を測定することができる。
【0023】
次に、このように構成された膵臓検査キットを使用した膵臓検査方法について説明する。
本実施形態に係る膵臓検査方法は、被検体の十二指腸内から膵液を含む十二指腸液を採取容器内に採取し、採取した膵液を含む十二指腸液中のS100Pの濃度を免疫クロマトグラフィ装置20を使用して測定することにより行われる。十二指腸液の採取方法および採取容器は例示するカテーテルおよびシリンジに限定されず、膵液および/または膵液を含む体液が採取できればよい。
【0024】
具体的には、まず、十二指腸内に挿入した内視鏡のチャネルを介してカテーテルを十二指腸内の乳頭部近傍に配置し、
図3に示されるように、カテーテル6の基端を外筒2の吸引口2aに接続し、プランジャ4を引っ張る。これにより、乳頭部から十二指腸内に分泌された膵液を胆汁や十二指腸分泌液とともに十二指腸液として吸引して外筒2内に採取することができる。
【0025】
十二指腸液を吸引する前に、膵臓における膵液の分泌および乳頭部から十二指腸内への膵液の排出を促進する処置、例えば、セクレチンなどの膵液分泌促進剤の被検体への投与を行ってもよい。また、このような処置を行わずに、生理的な条件で十二指腸内に排出された膵液および/または該膵液を含む十二指腸液を採取してもよい。
【0026】
外筒2内に所定量まで膵液と胆汁、十二指腸分泌液との混合液(以下、膵液・十二指腸液という。)を採取した後、吸引口2aからカテーテル6を取り外し、外筒内2の膵液・十二指腸液を吸引口2aから免疫クロマトグラフィ装置20の滴下窓24aに滴下する。その後、膵液・十二指腸液が十分に担体21上に展開されるまで、例えば、5分から15分間待つ。以上の手順により、膵液・十二指腸液中のS100Pの有無、つまり、膵癌またはIPMNなどの膵疾患の有無を、観察窓24b内のバンドの出現の有無として検査することができる。なお、膵臓検査キットに緩衝液などからなる希釈液が付属され、該希釈液によって膵液・十二指腸液を希釈した後に滴下窓24aに滴下してもよい。
【0027】
観察窓24b内にバンドが観察された場合は、バンドの呈色の濃さを目視または免疫クロマトグラフィ用の読み取り機で測定することにより、S100Pの濃度を測定する。健常な人の膵液・十二指腸液から予め得られたバンドの呈色の濃さを基準値とし、この基準値と測定されたバンドの呈色の濃さとを比較することにより被検体の膵疾患の有無を判定してもよい。この場合、基準値の設定は、膵管内から採取した純粋膵液と膵液・十二指腸液とのいずれを用いるかによって異なり、また、採取量や採取に要する時間、膵液分泌促進剤を用いるか否かによっても異なる。したがって、様々な条件の下で被検液である膵液および/または膵液を含む体液を採取した場合の基準値が必要となる。
【0028】
この場合に、本実施形態によれば、膵液および/または膵液を含む体液中に含まれるS100Pの濃度と膵疾患の有無との間には高い相関があり、膵疾患が存在する場合には高い割合で膵液および/または膵液を含む体液中のS100Pの濃度が上昇する。したがって、膵疾患の有無を高い感度で検査することができる。
【0029】
さらに、膵液・十二指腸液は、カテーテル6から外筒2内に流入させられた後に外筒2内において迅速にプロテアーゼ阻害剤Aと混合させられる。これにより、膵液・十二指腸液中に含まれるS100Pの分解が迅速に抑制されるので、正確なS100Pの濃度を測定することができ、検査感度をさらに向上することができる。特に膵液は他の消化液に比べてプロテアーゼの活性が高いので、外筒2内に採取された膵液・十二指腸液中のプロテアーゼ阻害剤Aの濃度が十分に高くなるようプロテアーゼ阻害剤Aの収容量を設定することにより、検査精度を効果的に向上することができる。
【0030】
また、十二指腸に排出された膵液を十二指腸液として採取して検査に用いることにより、膵管内にカテーテル6を挿入して膵管内の純粋膵液を採取する場合と比べて侵襲を低減しながら簡便に膵液を採取することができる。また、免疫クロマトグラフィ装置20の操作に特別な設備や長い時間を必要としないので、例えば、比較的規模の小さいかかりつけの病院等でも、安価にかつ短時間で高感度な検査を実施することができる。
【0031】
なお、本実施形態においては、乳頭部から十二指腸内に排出されて胆汁、十二指腸分泌液と混合された膵液を検査に使用することとしたが、これに代えて、膵管内から採取された純粋膵液を検査に使用してもよい。純粋膵液は、造影しながらカテーテルを乳頭部から膵管内に挿入して吸引したり、バルーンカテーテルやチューブを膵管内に一定時間留置したりすることにより採取することができる。
このようにすることで、膵管内から採取された純粋膵液は、十二指腸液によって希釈されることがないので、被検体内でのより正確なS100Pの濃度を測定することができる。
【0032】
また、本実施形態においては、プロテアーゼ阻害剤Aとして、凍結乾燥された粉体のものを用いることとしたが、これに代えて、緩衝液などに溶解された液体のものを用いてもよい。このようにすることで、膵液・十二指腸液の採取量が少量であっても、プロテアーゼ阻害剤Aを容易に均一に膵液・十二指腸液と混合させることができる。
【0033】
また、本実施形態においては、採取容器1としてシリンジを用いた構成のものを例示したが、採取容器1の構成はこれに限定されるものではなく、接続されたカテーテル内を介して膵液および/または膵液を含む体液を吸引可能であり、膵液および/または膵液を含む体液が接触させられ膵液に含まれるプロテアーゼの活性を阻害するプロテアーゼ阻害剤が収容されている構成であればよい。例えば、採取容器1として、
図4に示されるように、トラップ型の容器を用いもよく、
図5に示されるように、内部が真空状態の容器を用いてもよい。
【0034】
また、採取容器は、採取されてきた膵液および/または膵液を含む体液が、容器内に予め収容されたプロテアーゼ阻害剤Aと迅速に接触させられる構成であればよく
図1、
図4および
図5に例示されている採取容器1以外の採取容器を採用することとしてもよい。また、例示したカテーテル以外の採取手段、例えば、吸引、吸収、回収などにより膵液および/または膵液を含む体液を採取する構成であってもよい。採取容器の構成は、採取手段に応じて選択することができる。
【0035】
図4に示される採取容器1は、カテーテル6に接続される吸引口2aと、排気ポンプ等に接続されたチューブ7に接続される排気口2bとを備え、排気口2bから排気することによって、吸引口2bから膵液・十二指腸液が流入して貯留するようになっている。
図5に示される採取容器1は、例えば、ゴムなどの弾性部材からなる栓8によって開口が塞がれ、カテーテル6に接続された中空針9を栓8に貫通させることにより、膵液・十二指腸液が内部に吸引されるようになっている。
このようにしても、膵液および/または膵液を含む体液に含まれるプロテアーゼの活性を、採取後迅速に阻害し、採取された膵液に含まれるS100Pの検査精度を向上することができる。
【0036】
ここで、従来の体液の採取容器の場合、カテーテルの基端に採取容器を接続して膵液および/または膵液を含む体液を貯留しながら吸引し、吸引が終了した後に膵液および/または膵液を含む体液を分注してプロテアーゼ阻害剤を添加するため、吸引の最中にも採取容器内において蛋白質の分解が進行してしまい、採取した膵液および/または膵液を含む体液から正確な検査結果を得ることが難しいという問題があった。
これに対して、本実施形態に係る採取容器1によれば、採取した膵液および/または膵液を含む体液中に含まれるプロテアーゼの活性を迅速に抑制することにより、S100Pのみならず膵液および/または膵液を含む体液中に含まれる他の蛋白質についても検出精度を向上することができ、他の蛋白質をマーカとした膵臓検査にも有効に用いることができる。
【0037】
また、本実施形態においては、S100Pの濃度を免疫クロマトグラフィ法によって測定することとしたが、固相化された抗体を用いて簡便に測定できる方法であれば他の測定方法を使用してもよい。例えば、小型の表面プラズモン共鳴装置(SPR)やマイクロフルイデ
ィクスなどを使用して測定してもよい。
【実施例】
【0038】
次に、上述した実施形態に係る膵臓検査方法の実施例について説明する。
〔実施例1〕
本発明に係る膵臓検査方法の検査感度を以下の実験により評価した。
被検体として31人の膵癌患者群および7人のIPMN患者群からカテーテル吸引により被検液である膵液および膵液を含む体液を採取した。患者から採取した被検液を採取後迅速に凍結保存した後、各被検液中に含まれるS100Pの濃度をサイクレックス社製のELISAキットを使用して測定した。対照群として、6人の良性の膵のう胞患者(MCN、SCN)についても同様の方法で被検液の採取および測定を行った。各患者の疾患は病理診断によって診断した。
【0039】
被検液としては、膵管内から採取した純粋膵液および膵液・十二指腸液を用いた。膵液・十二指腸液については、生理的に分泌および排出された膵液(以下、膵液・十二指腸液(−)という。)を含む十二指腸液およびセクレチン投与による膵液の分泌促進後に採取した十二指腸液(以下、膵液・十二指腸液(+)という。)を用いた。さらに、膵液・十二指腸液(−),(+)については、プロテアーゼ阻害剤が収容された採取容器(阻害剤(+))および空の採取容器(阻害剤(−))を使用して採取したものを測定した。その測定結果を
図6および
図7に示す。
【0040】
図6および
図7において、横軸は患者の症例を示し、縦軸は純粋膵液中または十二指腸液中のS100Pの濃度を示している。各ドットは、各患者から上記条件で採取された膵液または十二指腸液中のS100Pの濃度を示している。
【0041】
次に、対照群から得られたS100Pの濃度の最も高い値をカットオフ値とし、膵癌患者およびIPMN患者から得られたS100Pの濃度がカットオフ値を超えた場合に、その患者が膵癌またはIPMNの検査に陽性であると判定した。そして、各検査条件において、31人の膵癌患者群および7人のIPMN患者群のうち正常に検査が済んだ患者の合計に対して陽性と判定された患者の割合を陽性率として算出した。その結果を表1に示す。上述の条件で正常に採取できなかった被検液のデータは、表1、
図6および
図7に示す統計から除外されている。
【0042】
【表1】
【0043】
表1から分かるように、いずれの検査条件においても高い陽性率が得られた。すなわち、膵液・十二指腸液または純粋膵液に含まれるS100Pの濃度を測定することにより膵癌またはIPMNの有無を高感度で検査することができ、本発明の膵臓検査方法は膵癌またはIPMNの検査に有用であることが確認された。
【0044】
また、膵液・十二指腸液を用いた検査においては、プロテアーゼ阻害剤入りの本発明に係る採取容器を使用することにより検査感度を大幅に高めることができることが確認された。すなわち、プロテアーゼ阻害剤入りの採取容器は、膵液とともに分泌された豊富なプロテアーゼによるS100Pの分解を阻害することにより、特に分泌促進を行う場合の検査に対して有効であることが確認された。
【0045】
〔実施例2〕
次に、実施例1で用いたELISAに使用されている2種類の抗S100P抗体(MBL社製)を第1の抗体および第2の抗体として用いて本実施例に係る免疫クロマトグラフィ装置を作成した。該免疫クロマトグラフィ装置によって実施例1に用いた被検液を検査することにより、ELISA法と免疫クロマトグラフィ法とからそれぞれ得られる検査結果の相関を確認した。
【0046】
担体をニトロセルロース膜で作成し、第1の抗体を金コロイドで標識し、本実施例に係る免疫クロマトグラフィ装置を作成した。そして、作成した免疫クロマトグラフィ装置を使用して実施例1の被検液を検査し、バンドの呈色の有無および呈色の濃さを測定した。
【0047】
測定された免疫クロマトグラフィ装置の呈色の濃さを3つの階級に区分したところ、ELISA法で定量した濃度との間に相関があることが確認された。本実施例の検査に要した時間は約15分であった。すなわち、免疫クロマトグラフィ法を用いることにより、短時間で十分に感度の高い検査結果を得られることが確認された。
【0048】
〔実施例3〕
実施例1の結果を元に、
セクレチン投与による分泌促進を行わず、プロテアーゼ阻害剤を採取容器内に予め収容しておく方法にて、膵癌患者41例、IPMN患者17例、良性膵のう胞(SCN、MCN)患者6例、慢性膵炎患者4例、膵内分泌腫瘍患者3例について、膵液・十二指腸液を採取し、S100Pの濃度を測定した。膵液・十二指腸液の採取およびS100P濃度の測定は実施例1と同様の方法で行った。その測定結果を
図8に示す。
図8において、縦軸は対数表示となっている。
【0049】
良性膵のう胞患者6例から得られたS100Pの濃度の測定値のうち最も高い値をカットオフ値に設定し、各症例における陽性率を算出した。その結果、膵疾患の陽性率は、膵癌では90%、IPMNでは90%、慢性膵炎では100%、膵内分泌腫瘍では100%であった。
以上の実験結果から、膵液を含む十二指腸液中のS100P濃度を測定することにより上記の様々な膵疾患を高感度に検出できることが確認された。