(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984809
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】内燃機関用のピストン並びにピストンを製造する方法
(51)【国際特許分類】
F02F 3/00 20060101AFI20160823BHJP
F02F 3/26 20060101ALI20160823BHJP
F02F 3/16 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
F02F3/00 301B
F02F3/26 A
F02F3/16
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-523485(P2013-523485)
(86)(22)【出願日】2011年8月9日
(65)【公表番号】特表2013-533430(P2013-533430A)
(43)【公表日】2013年8月22日
(86)【国際出願番号】DE2011001563
(87)【国際公開番号】WO2012019592
(87)【国際公開日】20120216
【審査請求日】2014年4月16日
(31)【優先権主張番号】102010033881.8
(32)【優先日】2010年8月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ライナー シャープ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ケラー
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−270812(JP,A)
【文献】
特開平10−298663(JP,A)
【文献】
特開平09−239569(JP,A)
【文献】
特開2001−082247(JP,A)
【文献】
特表2004−505195(JP,A)
【文献】
特表2007−524512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00−3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のピストン部材(11,111,211)と第2のピストン部材(12,112,212)とから成る、内燃機関用のピストン(10,110,210)を製造する方法であって、下記の方法ステップ、すなわち
(a)調質可能な鋼又は析出硬化する鋼から成っていて少なくとも1つの接合面(29,31)を備える、前記第1のピストン部材(11,111,211)のブランク(211′)を準備し、
(b)調質可能な鋼又は析出硬化する鋼から成っていて少なくとも1つの接合面(32,33)を備える、前記第2のピストン部材(12,112,212)のブランク(212′)を準備し、
(c)前記ブランク(211′,212′)を調質又は析出硬化し、
(d)前記第1のピストン部材(11,111,211)のブランク(211′)と前記第2のピストン部材(12,112,212)のブランク(212′)とを、前記接合面(29,31,32,33)を介して摩擦溶接によって結合して1つのピストンブランク(210′)を形成し、この際に少なくとも1つの摩擦溶接シーム(25,26,125,226)と該少なくとも1つの摩擦溶接シーム(25,26,125,226)の領域における熱影響ゾーン(30,30′)とを形成し、
(e)前記熱影響ゾーン(30,30′)を維持しながら、前記ピストンブランク(210′)に焼き戻し又は応力除去焼き鈍しを、施し、
(f)前記ピストンブランク(210′)を、1つのピストン(10,110,210)に後加工及び/又は仕上げ加工する、
という方法ステップを特徴とする、内燃機関用のピストンを製造する方法。
【請求項2】
前記ブランク(211′,212′)を、ステップ(c)とステップ(d)との間において予備加工する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの摩擦溶接シーム(26,125)を、該摩擦溶接シーム(26,125)が半径方向においてピストン中心軸線(A)に対して鋭角(α)又は鈍角(β)を成して延びるように、形成する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのブランク(211′,212′)に少なくとも1つのリング溝(34,36,37)を設け、前記ブランク(211′,212′)の少なくとも1対の対応する接合面(29,32)を、ステップ(d)の後で1つのリング溝(34)の下側の溝面(34′)と外側の摩擦溶接シーム(25,125)の中心との間の間隔が、該摩擦溶接シームの熱影響ゾーン(30)の軸方向高さよりも小さくなるように、位置決めする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ステップ(f)において、前記ピストンブランク(210′)に少なくとも1つのリング溝(34,36,37)を設け、この際に1つのリング溝(34)の下側の溝面(34′)と外側の摩擦溶接シーム(25,125)の中心との間の間隔が、該摩擦溶接シームの熱影響ゾーン(30)の軸方向高さよりも小さくなるようにする、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)において、ピストンベース体(11,111,211)のブランク(211′)に、外側の接合面(29)及び内側の接合面(31)と、両接合面(29,31)の間を延びる環状の下側の冷却通路部分(23a)とを、準備し、ステップ(b)において、ピストンリングエレメント(12,112,212)のブランク(212′)に、外側の接合面(32)及び内側の接合面(33)と、両接合面(32,33)の間において環状に延びる上側の冷却通路部分(23b)とを、準備する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
燃焼室凹部(24)を有する、ピストンリングエレメント(12,112,212)のブランク(212′)を使用する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
燃焼室凹部(24)の少なくとも1つの壁領域(28′)を有する、ピストンリングエレメント(12,112,212)のブランク(212′)を使用し、燃焼室凹部(24)の少なくとも1つの底領域(27)を有する、ピストンベース体(11,111,211)のブランク(211′)を使用する、請求項6記載の方法。
【請求項9】
第1のピストン部材(11,111,211)と第2のピストン部材(12,112,212)とから成る、内燃機関用のピストン(10,110,210)であって、該ピストン(10,110,210)は、ピストン頂部(19)と環状のトップランド(21)と、リング溝(34,36,37)を備える環状のリング部分(22)とピストンスカート(15)とを有する、ピストンにおいて、
前記第1のピストン部材(11,111,211)及び前記第2のピストン部材(12,112,212)は、調質可能な鋼又は析出硬化する鋼から成っていて、摩擦溶接によって互いに結合されており、少なくとも1つの摩擦溶接シーム(25,26,125,226)は、熱影響ゾーン(30,30′)によって取り囲まれており、
前記少なくとも1つの摩擦溶接シーム(25,125)は、1つのリング溝(34)の下側の溝面(34′)と摩擦溶接シーム(25,125)の中心との間の間隔が、該摩擦溶接シーム(25,125)の熱影響ゾーン(30)の軸方向高さよりも小さくなるように、位置決めされていることを特徴とする、内燃機関用のピストン。
【請求項10】
前記少なくとも1つの摩擦溶接シーム(26,125)は、該摩擦溶接シーム(26,125)が半径方向においてピストン中心軸線(A)に対して垂直に又は鋭角(α)又は鈍角(β)を成して延びている、請求項9記載のピストン。
【請求項11】
前記第1のピストン部材は、少なくとも1つのピストンスカート(15)を有するピストンベース体(11,111,211)であり、前記第2のピストン部材は、少なくとも1つのピストン頂部(19)と環状のトップランド(21)と、リング溝(34,36,37)を備える環状のリング部分(22)とを有するピストンリングエレメント(12,112,212)であり、前記ピストンベース体(11)と前記ピストンリングエレメント(12)とは、環状の冷却通路(23)を形成している、請求項9記載のピストン。
【請求項12】
前記ピストンリングエレメント(12)は燃焼室凹部(24)を有する、請求項11記載のピストン。
【請求項13】
前記ピストンリングエレメント(12,112,212)は、燃焼室凹部(24)の少なくとも1つの壁領域(28′)を有し、前記ピストンベース体(11,111,211)は、燃焼室凹部(24)の少なくとも1つの底領域(27)を有する、請求項11記載のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1のピストン部材と第2のピストン部材とから成る、内燃機関用のピストンを製造する方法に関する。本発明はさらに、内燃機関用のこのようなピストンに関する。本発明はさらにまた、第1のピストン部材と第2のピストン部材とから成る、内燃機関用のピストンであって、該ピストンは、ピストン頂部と環状のトップランドと、リング溝を備える環状のリング部分とピストンスカートとを有する、ピストンに関する。
【0002】
今日の内燃機関用のピストンは、ますます、僅かなオイル消費で済むように設計される。今日の内燃機関においては同時にピストンに対する熱的及び機械的な負荷が、ますます高まっているので、ピストンに機関運転時に十分なオイルが供給されないおそれがある。その結果、より高い摩擦負荷が生じることになる。これにより、より激しい摩耗、ひいてはピストンの耐用寿命の低下が惹起される。従って、このような激しい摩耗にさらされる、ピストンの部分領域もしくは部分構造、例えば第1のリング溝の下側の溝面を、例えば窒化によって(EP0985739A1参照)又はレーザビームを用いて(DE102007006948A1)によって、硬化することが望まれている。これらの処置は、大きな手間を、ひいては高いコストを要する。
【0003】
ゆえに本発明の課題は、ピストンの部分領域もしくは部分構造の硬化を、減じられた手間もしくはコストで行うことができる、ピストン製造方法を、提供することである。
【0004】
この課題を解決する本発明の方法は、下記の方法ステップ、すなわち、(a)調質可能な鋼又は析出硬化する鋼から成っていて少なくとも1つの接合面を備える、第1のピストン部材のブランクを準備し、(b)調質可能な鋼又は析出硬化する鋼から成っていて少なくとも1つの接合面を備える、第2のピストン部材のブランクを準備し、(c)ブランクを調質又は析出硬化し、(d)第1のピストン部材のブランクと第2のピストン部材のブランクとを、接合面を介して摩擦溶接によって結合して1つのピストンブランクを形成し、この際に少なくとも1つの摩擦溶接シームと該少なくとも1つの摩擦溶接シームの領域における熱影響ゾーンとを形成し、(e)熱影響ゾーンを維持しながら、ピストンブランクに焼き戻し又は応力除去焼き鈍しを、施し、(f)ピストンブランクを、1つのピストンに後加工及び/又は仕上げ加工する、という方法ステップを特徴とする。
【0005】
本発明によるピストンは、第1のピストン部材及び第2のピストン部材が、調質可能な鋼又は析出硬化する鋼から成っていて、摩擦溶接によって互いに結合されており、少なくとも1つの摩擦溶接シームが、熱影響ゾーンによって取り囲まれていることを特徴とする。
【0006】
調質(Vergueten)というのは、焼き入れと焼き戻しとから成る、鋼の熱処理のことを意味し、このような熱処理によって、鋼の所望の硬度と強度が調節される。これに関連して焼き入れ(Haerten)というのは、オーステナイト組織の状態に加熱した後、急冷して、マルテンサイト組織及び/又はベイナイト組織の状態に変化させる、鋼の熱処理のことを意味する。焼き戻し(Anlassen)は、鋼製のワークを焼き入れ後に鉄・炭素線図における下側の変態点Ac1以下の温度で加熱し、保持し、次いで冷却することである。応力除去焼き鈍し(Spannungsarmgluehen)というのは、ワークの冷却時に発生する内部応力(残留応力)を、組織の実質的な変化なしに、低減させる熱処理のことを意味する。
【0007】
本明細書において使用されている、焼き入れ、焼き戻し、調質、応力除去焼き鈍し等の概念は、DIN EN 10052に関連している。
【0008】
調質可能な鋼又は析出硬化する鋼(AFP−鋼)では、摩擦溶接によって、摩擦溶接シームの近傍周囲において硬化が進む。従来技術では、上記のような鋼から成るブランクは、場合によっては予備加工され、軟質状態において摩擦溶接によって互いに結合され、これによって形成されたピストンブランクは、次いで初めて調質される。これによって軟質の材料は硬化されるが、摩擦溶接シームの近傍領域における硬化はさらに高められる。
【0009】
本発明による思想は、ブランクを初めに調質するか又は、鍛造プロセス後における他の好適な熱導入(析出硬化)によって所望の強度にもたらし、次いでこの状態において摩擦溶接によって互いに結合することにある。この場合においても摩擦溶接シームの近傍周囲においては硬化が生じる。この領域において硬度は、400HV(ビッカース)までの値だけ高まる。この硬化された領域を、本明細書では「熱影響ゾーン」と呼ぶ。この熱影響ゾーンは、該熱影響ゾーンの外におけるピストンブランクの調質された又は析出硬化された材料よりも、硬い。
【0010】
摩擦溶接後における調質は、本発明による方法では、もはや不要である。その代わりに、摩擦溶接後に形成されたピストンブランクには、場合によっては存在する応力を消滅させるために、焼き戻し又は応力除去焼き鈍しが実施される。この際に熱影響ゾーンにおける硬度は幾分低下するが、250HV(ビッカース)までの硬度を有する硬化は維持される。つまり完成したピストンにおける熱影響ゾーンは、ピストンの残りの材料よりも高い硬度を有する、摩擦溶接シームの周囲における領域である。
【0011】
この熱影響ゾーンは本発明によれば、強い摩耗にさらされるピストンの部分領域もしくは部分構造を硬化するために利用される。そのために摩擦溶接シームもしくは、摩擦溶接シームを用いて結合される、ピストン部材のブランクの接合面は、次のように、すなわち、強い摩耗にさらされ、ゆえに硬化することが望まれている、製造されるピストンの部分領域もしくは部分構造が、摩擦溶接後に熱影響ゾーンに位置するように、位置決めされる。これによって、部分領域もしくは部分構造に、窒化又はレーザビーム処理のような別の硬化工程を施す必要がなくなる。
【0012】
本発明は、請求項に記載されているようなすべてのピストン構造態様のために、並びに、調質を実施しやすい鋼材料から成るすべてのピストン部材のために、適している。
【0013】
本発明の有利な態様は、従属請求項に記載されている。
【0014】
ブランクは、鍛造又は鋳造によって製造することができ、好ましくは摩擦溶接の前に予備加工することができ、これによって例えばボス孔、燃焼室凹部及び冷却通路部分のような構造を、鍛造もしくは鋳造によって可能であるよりも精密かつ正確に成形することができる。
【0015】
本発明の好適な態様では、少なくとも1つの摩擦溶接シームを、該摩擦溶接シームが半径方向においてピストン中心軸線に対して鋭角又は鈍角を成して延びるように、形成する。このようにすると、摩擦溶接工程の開始時に両方のピストン部材のセンタリングを促進することができる。そしてこれにより、付加的なガイド面、ガイド縁部又はこれに類したものは不要になる。
【0016】
本発明の特に好ましい態様では、少なくとも1つのブランクに少なくとも1つのリング溝を設け、ブランクの少なくとも1対の対応する接合面を、ステップ(d)の後で1つのリング溝の下側の溝面と外側の摩擦溶接シームの中心との間の間隔が、該摩擦溶接シームの熱影響ゾーンの軸方向高さよりも小さくなるように、位置決めする。この態様とは択一的な態様では、ステップ(f)において、ピストンブランクに少なくとも1つのリング溝を設け、この際に1つのリング溝の下側の溝面と少なくとも1つの摩擦溶接シームの中心との間の間隔が、該摩擦溶接シームの熱影響ゾーンの軸方向高さよりも小さくなるようにする。このようにすると、強い摩耗にさらされるリング溝を硬化することができる。このことは特に、第1のリング溝の下側の溝面に該当する。
【0017】
本発明による方法は例えば次のようなピストン、すなわち第1のピストン部材として、ピストンスカートを備えるピストンベース体を有し、かつ第2のピストン部材として、ピストン頂部と環状のトップランドと、環状溝を有する環状のリング部分とを備えるピストンリングエレメントを有し、ピストンベース体とピストンリングエレメントとが環状の冷却通路を形成しているピストンのために適している。
【0018】
特にこのようなピストンのために好適な態様では、ステップ(a)において、ピストンベース体のブランクに、外側の接合面及び内側の接合面と、両接合面の間を延びる下側の冷却通路部分とを、準備し、ステップ(b)において、ピストンリングエレメントのブランクに、外側の接合面及び内側の接合面と、両接合面の間において環状に延びる上側の冷却通路部分とを、準備する。ピストンリングエレメントのブランクは燃焼室凹部を有することができる。その代わりにピストンリングエレメントのブランクは、燃焼室凹部(24)の少なくとも1つの壁領域を有してもよい。この場合には、ピストンベース体のブランクは、燃焼室凹部の少なくとも1つの底領域を有する。
【0019】
次に図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1a】本発明によるピストンの1実施形態を示す断面図である。
【
図1b】
図1aに示したピストンの一部を拡大して示す図である。
【
図2a】本発明によるピストンの別の実施形態を示す断面図である。
【
図2b】
図2aに示したピストンの一部を拡大して示す図である。
【
図3】本発明によるピストンを製造するための、ピストンベース体のブランクとピストンリングエレメントのブランクとの1実施形態を示す断面図である。
【
図4】
図3に示したブランクの予備加工後を示す断面図である。
【
図5】
図4に示した部材から製造された、本発明によるピストンのためのピストンブランクを示す断面図である。
【
図6】
図5に示したピストンブランクから製造された、本発明によるピストンを示す断面図である。
【0021】
図1a及び
図1bは、本発明によるピストン10の第1実施形態を示す。このピストン10はピストンベース体11とピストンリングエレメント12とから成っている。両部材はそれぞれ、例えばDIN EN 10083又はDIN EN 10267による鋼材料から成っていてよく、このような鋼材料は、調質することができ、かつ摩擦溶接に適している。
【0022】
図示の実施形態では、ピストンベース体11はAFP鋼から成っている。このピストンベース体11は、ピストンスカート15を有し、このピストンスカート15は、自体公知のように、ボス16と、ピストンピン(図示せず)を受容するためのボス孔17と、摺動面(図示せず)を備えるスカート領域18とを有している。ピストンリングエレメント12は、図示の実施形態では42CrMo4から製造されている。ピストンリングエレメント12は、ピストン頂部19と環状のトップランド(Feuersteg)21とを有している。ピストンベース体11とピストンリングエレメント12とは、ピストンリング(図示せず)を受容するための環状のリング部分22、環状の閉鎖された冷却通路23及び燃焼室凹部24を形成している。
【0023】
ピストンベース体11とピストンリングエレメント12とは、自体公知のように、摩擦溶接によって互いに結合されている。従ってピストン10は、リング部分22の領域に外側の摩擦溶接シーム25を有し、かつ燃焼室凹部24の領域に内側の摩擦溶接シーム26を有している。図示の実施形態では、外側の摩擦溶接シーム25がピストン10の中心軸線Aに対して垂直に延びているのに対して、内側の摩擦溶接シーム26は、中心軸線Aに対して鋭角αを成して延びている。内側の摩擦溶接シーム26の延在形態によって、ピストンベース体11におけるピストンリングエレメント12のセンタリングを促進することができる。摩擦溶接シームの延在形態に関しては、もちろん、摩擦溶接シームの他の位置及び角度を任意に組み合わせることができる。
【0024】
図2a及び
図2bは、ピストンベース体111とピストンリングエレメント211とから成る本発明によるピストン110の別の実施形態を示す。このピストン110は、
図1a及び
図1bに示したピストン10にほぼ相当しているので、同一の構造エレメントには同じ符号が用いられていて、これについては
図1a及び
図1bに対する上記記載を参照するものとする。両実施形態におけるただ1つの相違は、外側の摩擦溶接シーム125がピストン110の中心軸線Aに対して鈍角βを成して延びていることにある。中心線Aに対して鋭角αを成して延びている摩擦溶接シーム26との組合せにおいて、摩擦溶接シームのこの位置及び角度組合せによって、ピストンベース体11におけるピストンリングエレメント12の特に確実な促進されたセンタリングが可能になる。
【0025】
図3〜
図6は、本発明によるピストン210の別の実施形態と、本発明によるピストン10,110,210のすべての実施形態のための本発明による製造方法の1実施形態を示す。ピストン210は、
図1a及び
図1bに示したピストン10にほぼ相当しているので、同一の構造エレメントには同じ符号が用いられていて、これについては
図1a及び
図1bに対する上記記載を参照するものとする。ただ1つの相違は、内側の摩擦溶接シーム226がピストン210の中心軸線Aに対して垂直に延びていることである。
【0026】
本発明によるピストン10,110,210は、以下に記載するように製造される。製造方法は、ピストン210を例にとって記載されるが、当該記載はピストン10,110に対しても言える。
【0027】
図3に示すように、初めにピストンベース体211のブランク211′とピストンリングエレメント212のブランク212′が、例えば鍛造、鋳造又は焼結を用いて準備される。図示の実施形態では、リング部分、冷却通路、燃焼室凹部、ピストンボス及びボス孔は、まったく又は完全には加工されていない。ピストン上側部分は、リング圧延を用いて、又は管からの切断によっても製造することができる。
【0028】
ブランク211′,212′は、鋳造もしくは鍛造の後、自体公知のように、調質又は析出硬化によって所望の硬度に調節される。
【0029】
調質については、DIN EN 10083の基準が通用する。すなわち、42CrMo4に対しては、850℃でのオーステナイト化、オイル中における硬化/急冷、600℃での焼き戻し。38MnVS6の析出硬化:約1280℃での固溶化熱処理、約1000℃までの変形、次いで600℃未満へのコントロールされた空気冷却。熱処理後にブランク211′,212′は、240〜360HV(ビッカース)の硬度を有する。
【0030】
図示の実施形態ではブランク211′,212′は、熱処理後に
図4に示すように予備加工される。
【0031】
ピストンベース体211のブランク211′には図示の実施形態では、燃焼室凹部24の底領域27及び壁領域28の一部が、例えば旋削によって加工される。さらにボス16及びボス孔17、並びに摺動面を備えるスカート領域18が加工される。最後に、冷却通路23の環状の下側の冷却通路部分23aが加工される。これによって外側の接合面29と内側の接合面31とが形成される。ピストンリングエレメント212のブランク212′には図示の実施形態では、燃焼室凹部24の壁領域の残りの部分28′が、例えば旋削によって加工される。さらに冷却通路23の環状の上側の冷却通路部分23bが加工される。これによって外側の接合面32と内側の接合面33とが形成される。
【0032】
ブランク211′の外側の接合面29は、ブランク212′の外側の接合面32と対応する。相応に、ブランク211′の内側の接合面31は、ブランク212′の内側の接合面33と対応する。すなわち両方のブランク211′,212′は、その接合面29,31;32,33に沿って互いに結合されて1つのピストンブランク210′を形成することができる。両ブランク211′,212′を結合するために、両ブランク211′,212′は、自体公知のように、互いに接合させられて押圧され、この際に選択された溶接シーム位置によって、センタリングを促進させることができる。次いで両ブランク211′,212′の溶接は、従来技術に基づいて良く知られているフライホイール式摩擦溶接によって行われる。
【0033】
摩擦溶接工程によって、発生した摩擦溶接シーム25,226の周りにはそれぞれ、
図1b及び
図2bに示すような、熱による変質部つまり熱影響ゾーン30,30′が形成される。これらの熱影響ゾーン30,30′は、摩擦溶接シーム25,26,125,226の上下にそれぞれ約1〜3mmにわたって延在する。熱影響ゾーン30,30′の領域において硬度は、熱影響ゾーン30,30′の外におけるブランク211′,212′の調質された材料に対して、400HV(ビッカース)までの値だけ高められている。すなわち、熱影響ゾーン30,30′の領域においては約600〜800HV(ビッカース)の最大硬度が発生する。
【0034】
このようにして形成されたピストンブランク210′には、図示の実施形態では摩擦溶接の後で、熱処理、つまり焼き戻し又は応力除去焼き鈍しが、好ましくは550℃で1時間、施される。このような熱処理によって、熱影響ゾーン30,30′における材料の硬度は、約200HV(ビッカース)だけ減じられる。すなわち熱影響ゾーン30,30′の領域において、最大硬度は、約400〜600HV(ビッカース)に減じられる。その他の領域は、熱処理によって硬度変化を被らない。これによって、硬化された熱影響ゾーン30,30′とブランク211′,212′の残りの材料との間における持続的な硬度の差異が得られる。
【0035】
図5に示したピストンブランク210′は、上に記載の摩擦溶接工程の結果として、外側の摩擦溶接シーム25及び内側の摩擦溶接シーム226に沿って、摩擦溶接ビード35を有している。ピストンブランク210′は、自体公知のように、ブランク211′,212′の構成に関連して、後加工もしくは仕上げ加工される。例えば外形、表面、燃焼室凹部、ボス孔等を仕上げ加工することができ、接近可能な摩擦溶接ビード35は除去される。本発明によれば、リング溝34,36,37(
図1b、
図2b参照)を備えたリング部分22が加工され、この際にリング部分22の加工は、第1のリング溝34の下側の溝面34′が、熱影響ゾーン30の領域に位置決めされ、リング溝34の下側の溝面34′と外側の摩擦溶接シーム25,125の中心との間の間隔が、熱影響ゾーン30の軸方向高さよりも小さくなるように(
図1b、
図2b参照)、なされる。結局、下側の溝面31′は、特にその外縁部34′′の領域において硬化されている。そして溝面の硬度は、約400〜600HV(ビッカース)であり、このことは本発明によれば、約100〜200HV(ビッカース)の硬度の上昇に相当し、耐摩耗性を改善することになる。最終的に、
図6に示すような完成したピストン210が得られる。もちろん、他のリング溝36,37もまたこのようにして硬化させることができる。同様なことは、本発明によるピストン10,110,210の、硬化することが望まれている他の部分領域及び部分構造に対しても言える。このような部分領域及び部分構造は、摩擦溶接後に熱影響ゾーン30,30′の領域に位置することが望ましい。