特許第5984839号(P5984839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984839
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20160823BHJP
【FI】
   F04D19/04 E
   F04D19/04 D
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-547192(P2013-547192)
(86)(22)【出願日】2012年11月28日
(86)【国際出願番号】JP2012080775
(87)【国際公開番号】WO2013081019
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2015年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2011-261793(P2011-261793)
(32)【優先日】2011年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000155698
【氏名又は名称】株式会社有沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
(72)【発明者】
【氏名】川合 裕一
(72)【発明者】
【氏名】堀 正樹
(72)【発明者】
【氏名】飯吉 孝弘
【審査官】 後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−4383(JP,A)
【文献】 特開2004−278512(JP,A)
【文献】 特開2005−180265(JP,A)
【文献】 特開2010−116980(JP,A)
【文献】 特開平6−331032(JP,A)
【文献】 特開平11−82888(JP,A)
【文献】 特開2001−221186(JP,A)
【文献】 特許第3098139(JP,B2)
【文献】 特開2009−108752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に螺旋状のねじ溝部が設けられる固定円筒部と、該固定円筒部内に配設される回転円筒部とを備え、該回転円筒部を回転させることにより前記ねじ溝部と前記回転円筒部の外周面とで形成される螺旋状の排気流路を通じて排気を行うねじ溝ポンプ部を具備した真空ポンプであって、前記回転円筒部は、複数の繊維強化樹脂層を積層して構成されるものであり、最外の前記繊維強化樹脂層が、隣接する層より厚くなるように構成されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1記載の真空ポンプにおいて、最外の前記繊維強化樹脂層は、隣接する層より25%以上厚くなるように構成されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項3】
内周面に螺旋状のねじ溝部が設けられる固定円筒部と、該固定円筒部内に配設される回転円筒部とを備え、該回転円筒部を回転させることにより前記ねじ溝部と前記回転円筒部の外周面とで形成される螺旋状の排気流路を通じて排気を行うねじ溝ポンプ部を具備した真空ポンプであって、前記回転円筒部は、複数の繊維強化樹脂層を積層して構成されるものであり、該繊維強化樹脂層には繊維をヘリカル巻して形成されるヘリカル層と繊維をフープ巻して形成されるフープ層とがあり、最外の前記フープ層が、隣接する層より厚くなるように構成されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項4】
請求項3記載の真空ポンプにおいて、最外の前記フープ層は、隣接する層より25%以上厚くなるように構成されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の真空ポンプにおいて、前記回転円筒部の表面が少なくとも一部除去されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の真空ポンプにおいて、前記回転円筒部の最外層をフープ層としたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の真空ポンプにおいて、前記回転円筒部の最内層をフープ層としたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項8】
請求項7記載の真空ポンプにおいて、前記回転円筒部の最外層及び最内層の前記フープ層を同一厚さとしたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項に記載の真空ポンプにおいて、前記回転円筒部の最外層及び最内層以外の他の層は同一厚さに設定されていることを特徴とする真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ溝ポンプ部を具備した真空ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空装置の高真空環境を実現するために用いられている複合型ターボ分子ポンプは、回転翼と固定翼とを交互に配置して成る軸流ポンプの下流に、回転円筒とこの回転円筒に対向する固定円筒から成るねじ溝ポンプを設けたものである。
【0003】
このねじ溝ポンプは、対向する回転円筒と固定円筒との隙間が小さいほど、排気性能が向上することから、ねじ溝ポンプを構成する回転円筒部分には高精度が要求される。
【0004】
そのため、通常、回転円筒部分は、金属製であり、回転翼と一体に削り出して形成されているが、この回転翼と回転円筒とを有する回転体の軽量化を図るべく、回転円筒部分を軽量で且つ強度に秀れるFRP製(繊維強化樹脂製)の円筒に置き換える技術が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−108752号公報
【特許文献2】特開2004−278512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記回転体は高速回転するため、円周方向に荷重がかかる。また、回転円筒は回転軸に一端のみが固定される構造のため、円周方向だけでなく軸方向にも荷重がかかる。
【0007】
そこで、FRP製の回転円筒は、円周方向に繊維を配置したフープ層と、軸方向に若干の角度を与えて繊維を配置したヘリカル層とを交互に積層した多層構造とするのが一般的である。また、この際、回転円筒の材料特性を平均化するため、可能な限り各層の厚みを薄くして積層数を多くする点も一般的といえる。
【0008】
しかしながら、上記多層構造とする場合、ヘリカル層における繊維の重なりや、繊維を巻きつける際の僅かな位置ずれ等により、表面に凹凸が生じる。
【0009】
そのため、回転円筒は、通常は最外層がフープ層となるように繊維を巻回して成形した後、表面の凹凸を除去加工して所定の形状精度に仕上げる必要がある。
【0010】
ところが、表面の凹凸を除去加工(仕上加工)することによって、内部ひずみの解放による内部応力のムラが発生し、回転円筒全体が歪むことにより、対向する固定円筒との隙間を十分に小さくできないという問題がある。
【0011】
これは、FRP製の回転円筒が少なくとも2種の素材(繊維及び樹脂)で形成されていること、フープ層とヘリカル層という繊維配向の異なる層が一体化されていること、さらに素材の樹脂硬化時の硬化収縮による歪みや熱膨張率の差により、大きな内部応力が生じていることによるものと考えられる。
【0012】
また、別の観点から、表面の凹凸を除去加工(仕上加工)することによって、
A)連続した繊維の切断、
B)異方性材料層と他の異方性材料層の歪みバランスの崩れ、
C)層の所定の部分の繊維の張力の変化
によって回転円筒が変形することもある。また、繊維を切断しなくても、ある一部の樹脂層を削り取ると、その歪みバランスが崩れ、回転円筒が変形することもある。
【0013】
また、更に別の観点から、FRPは鉄などの等方性材料とは異なる異方性材料であり、フープ層とヘリカル層とではその材料特性が異なる。FRPでは、フープ層とヘリカル層をひとつの硬化工程で硬化させた場合(即ち、フープ層のみを硬化させ、次いでヘリカル層のみを硬化させるという方法ではなく、フープ層、ヘリカル層をワインディング工程で積層巻回させ、フープ層とヘリカル層を同時一体で硬化させた場合)、ヘリカル層とフープ層はバランスして回転円筒を維持している。従って、このバランスが崩れると回転円筒自体に大きな変形が生じてしまう。言い換えると、フープ層若しくはヘリカル層の一部を切削加工し繊維を切断したり、繊維を切断しなくてもその樹脂層を削り取った場合は、回転円筒において応力バランスが崩れ、回転円筒の形状を維持できなくなる、という問題点がある。
【0014】
本発明は、上記問題点を解決したものであり、繊維強化樹脂製の回転円筒の歪みを可及的に低減して回転円筒と固定円筒との隙間を十分小さくすることが可能で、それだけ排気性能の向上を図れる極めて秀れた真空ポンプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0016】
内周面に螺旋状のねじ溝部1が設けられる固定円筒部2と、該固定円筒部2内に配設される回転円筒部3とを備え、該回転円筒部3を回転させることにより前記ねじ溝部1と前記回転円筒部3の外周面とで形成される螺旋状の排気流路を通じて排気を行うねじ溝ポンプ部を具備した真空ポンプであって、前記回転円筒部3は、複数の繊維強化樹脂層を積層して構成されるものであり、最外の前記繊維強化樹脂層が、隣接する層より厚くなるように構成されていることを特徴とする真空ポンプに係るものである。
【0017】
また、請求項1記載の真空ポンプにおいて、最外の前記繊維強化樹脂層は、隣接する層より25%以上厚くなるように構成されていることを特徴とする真空ポンプに係るものである。
【0018】
また、内周面に螺旋状のねじ溝部1が設けられる固定円筒部2と、該固定円筒部2内に配設される回転円筒部3とを備え、該回転円筒部3を回転させることにより前記ねじ溝部1と前記回転円筒部3の外周面とで形成される螺旋状の排気流路を通じて排気を行うねじ溝ポンプ部を具備した真空ポンプであって、前記回転円筒部3は、複数の繊維強化樹脂層を積層して構成されるものであり、該繊維強化樹脂層には繊維をヘリカル巻して形成されるヘリカル層4と繊維をフープ巻して形成されるフープ層5とがあり、最外の前記フープ層5が、隣接する層より厚くなるように構成されていることを特徴とする真空ポンプに係るものである。
【0019】
また、請求項3記載の真空ポンプにおいて、最外の前記フープ層5は、隣接する層より25%以上厚くなるように構成されていることを特徴とする真空ポンプに係るものである。
【0020】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の真空ポンプにおいて、前記回転円筒部3の表面が少なくとも一部除去されていることを特徴とする真空ポンプに係るものである。
【0021】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の真空ポンプにおいて、前記回転円筒部3の最外層をフープ層5としたことを特徴とする真空ポンプに係るものである。
【0022】
また、請求項1〜6いずれか1項に記載の真空ポンプにおいて、前記回転円筒部3の最内層をフープ層5としたことを特徴とする真空ポンプに係るものである。
【0023】
また、請求項7記載の真空ポンプにおいて、前記回転円筒部3の最外層及び最内層の前記フープ層5を同一厚さとしたことを特徴とする真空ポンプに係るものである。
【0024】
また、請求項1〜8いずれか1項に記載の真空ポンプにおいて、前記回転円筒部3の最外層及び最内層以外の他の層は同一厚さに設定されていることを特徴とする真空ポンプに係るものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は上述のように構成したから、繊維強化樹脂製の回転円筒の歪みを可及的に低減して回転円筒と固定円筒との隙間を十分小さくすることが可能で、それだけ排気性能の向上を図れる極めて秀れた真空ポンプとなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施例の概略説明断面図である。
図2】従来の回転円筒部の概略説明図断面図である。
図3】本実施例の回転円筒部の概略説明図断面図である。
図4】回転円筒部の内部応力または層の所定の部分の繊維の張力の差による変形の例を示す概略説明図である。
図5】本実施例の回転円筒部の概略説明断面図である。
図6】本実施例の別例の概略説明断面図である。
図7】最外層(最外のフープ層)の厚さと除去加工前後の表面の凹凸量のシミュレート結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0028】
最外の繊維強化樹脂層(例えばフープ層5)を隣接する層よりも厚くすることで、除去加工による、内部ひずみの解放による内部応力のムラを相対的に小さくすることが可能となり、よって、繊維強化樹脂製の回転円筒部3の歪みが低減されることになる。また、除去加工による、連続した繊維の切断や異方性材料層と他の異方性材料層の歪みバランスの崩れや層の所定の部分の繊維の張力の変化による影響を相対的に小さくすることが可能となり、よって、繊維強化樹脂製の回転円筒部3の歪みが低減されることになる。
【実施例】
【0029】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0030】
本実施例は、内周面に螺旋状のねじ溝部1が設けられる固定円筒部2と、該固定円筒部2内に配設される回転円筒部3とを備え、該回転円筒部3を回転させることにより前記ねじ溝部1と前記回転円筒部3の外周面とで形成される螺旋状の排気流路を通じて排気を行うねじ溝ポンプ部を具備した真空ポンプであって、前記回転円筒部3は、複数の繊維強化樹脂層を積層して構成されるものであり、該繊維強化樹脂層には繊維をヘリカル巻して形成されるヘリカル層4と繊維をフープ巻して形成されるフープ層5とがあり、最外の前記フープ層5は表面が除去されており、当該除去後の最外の前記フープ層5が隣接する層より厚くなるように構成されているものである。
【0031】
具体的には、本実施例は、図1に図示したように、筒状のポンプケース6内に回転体7(ロータ)を回転可能に配置したねじ溝ポンプである。回転体7は、DCモータ8の回転軸9に取り付けられる金属製の円盤状の取付部10と、該取付部10が嵌合連結される回転円筒部3とで構成されている。図中、符号11はチャンバー12と連通する吸気口、13は排気口、14は径方向電磁石、15は軸方向電磁石である。
【0032】
取付部10と回転円筒部3とは、例えば、取付部10の外径と回転円筒部3の内径とを略同径とし、取付部10を液体窒素等で冷却しながら回転円筒部3の上部に挿入嵌合する所謂冷やし嵌めにより嵌合連結される。
【0033】
また、本実施例の回転円筒部3は、公知のフィラメントワインディング法を用いて形成される繊維強化樹脂層を複数積層して成るものであり、マンドレルの軸心に対する繊維の巻回角度が80°未満のヘリカル巻きにより形成されるヘリカル層4と、マンドレルの軸心に対する繊維の巻回角度が80°以上のフープ巻きにより形成されるフープ層5とを交互に複数積層して形成している。
【0034】
具体的には、本実施例の回転円筒部3は、ヘリカル層4(マンドレル軸心に対する巻回角度±20°)とフープ層5とを交互に、少なくとも最内層及び最外層がフープ層5となるようにフープ層/ヘリカル層/フープ層構成を含む3層以上を積層することで形成している(好ましくは5〜7層程度。)。
【0035】
ヘリカル層4は軸方向の力に対する耐力を得るため、フープ層5は円周方向の力に対する耐力を得るために夫々設けている。また、層間の歪みは各層が厚いほど、積層数が少ないほど大きくなるため、積層数を多くして各層の厚さを薄くすることで層間の歪みを低減できる。なお、最外層及び最内層はフープ層5に限らず、ヘリカル層4や樹脂のみの層としても良いが、フープ層5とした方がより回転円筒部3の歪みを低減できる。
【0036】
例えば、回転円筒部3は、樹脂を含浸させた炭素繊維をマンドレルに巻回積層し、フープ層5及びヘリカル層4を交互に積層し、樹脂を加熱硬化させた後、マンドレルを脱型することで形成する。なお、樹脂はフェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などから用途にあったものを選定すると良い。
【0037】
また、マンドレル脱型後、回転円筒部3の最外層の表面(の凹凸)を、回転円筒部3の外径を所定の寸法(形状)とするためわずかに研磨(除去加工)する。
【0038】
表面の凹凸を除去加工(仕上加工)したことによる、内部ひずみの解放による内部応力のムラを可及的に低減すべく、本実施例においては最外のフープ層5の厚さが隣接する層より厚くなるように構成している。また、表面の凹凸を除去加工(仕上加工)したことによる、連続した繊維の切断や異方性材料層と他の異方性材料層の歪みバランスの崩れや層の所定の部分の繊維の張力の変化による影響を可及的に低減すべく、本実施例においては最外のフープ層5の厚さが隣接する層より厚くなるように構成している。なお、他の層の厚さは同一厚さに設定する。
【0039】
ここで、図2は、最外層と各層との厚さが同一となるようにフィラメントワインディング成形した従来の回転円筒部3’における最外層の厚さ最大時(a)と厚さ最少時(b)とを示すものであり、図3は、最外層の厚さが最大となるようにフィラメントワインディング成形した本実施例の回転円筒部3における最外層の厚さ最大時(a)と厚さ最少時(b)とを示すものである。図中、符号4’及び4はヘリカル層、5’及び5はフープ層である。
【0040】
図2,3から、内側層(最外層及び最内層を除く内側の層)の厚みムラの累積差aが最大となり、且つ、除去加工量の差bが最大となった場合(最外層の厚さにおける加工前の厚さと加工後の厚さの差が最大となった場合)、図3の方が最外層の厚さ変化の影響度合いがより小さくなることがわかる。なお、図4は内部応力または層の所定の部分の繊維の張力の差による変形の例であり、このように変形することから各部で除去加工量の差bに違いが生じる。
【0041】
除去加工した後の最外層(最外のフープ層5)の厚みが小さい場合には、この変形の影響が大きく、回転円筒部3の真円度が除去加工前よりかえって悪くなる場合がある。そのため、この最外層(最外のフープ層5)の厚さは、前述の内部応力または層の所定の部分の繊維の張力の差を低減するためには可及的に厚くするのが好ましい。
【0042】
ここで、最外層(最外のフープ層5)の厚さと、除去加工前後の表面の凹凸量との関係は、例えば、図7のようになる。
【0043】
図7の例では、ヘリカル層における繊維の重なりや、繊維を巻きつける際の僅かな位置ずれ等により、除去加工前の表面に0.25mmの凹凸が生じている。この凹凸を取り除くために除去加工するのであるが、繊維の重なりなどに起因する凹凸を取り除いても、加工ムラによって内部ひずみの解放による内部応力のムラが生じ、円筒全体が大きく歪むことがある。また、加工ムラによって連続した繊維の切断や異方性材料層と他の異方性材料層の歪みバランスの崩れや層の所定の部分の繊維の張力の変化が生じ、円筒全体が歪むこともある。さらに、繊維強化樹脂製の樹脂硬化後の円筒は、繊維を切断することにより、その繊維の張力が変化し、円筒全体が歪むことがある。
【0044】
その結果、繊維の重なりなどに起因する凹凸と、円筒全体の歪みによる凹凸を合わせた表面の全凹凸量が、除去加工前より、かえって悪くなる場合がある。図7の例では、本実施例と同様の構成において、最外層の厚さを変化させた場合に、加工ムラ(内側層の厚みムラ)が比較的少ない場合(0.05mm)と比較的多い場合(0.07mm)の双方で、表面の全凹凸量をシミュレートしている。その結果、除去加工後の最外層の厚みが薄い場合には、表面の全凹凸量が除去加工前より大きくなるが、除去加工後の最外層の厚みを増やすと表面の全凹凸量が低下するとの結果になっている。例えば、加工ムラが0.07mmの場合、除去加工後の最外層の厚みが0.1mmの場合には、除去加工後の表面の全凹凸量が0.35mmまで増加してしまうが、除去加工後の最外層の厚みを1.6mmにすると、表面の全凹凸量が0.17mmまで低減できる。また、表面の凹凸量が加工前より小さくなるのが(ある程度の余裕をもって)、概ね0.5mm(他の層:0.4mmの1.25倍)であることから、表面除去後の厚さが他の層より25%以上厚くなるようにするのが望ましいと推測される。
【0045】
上記のように最外のフープ層5の厚さを設定することで、除去加工で除去する繊維量にムラが生じても、この除去加工時に除去される繊維量のムラに起因する内部ひずみの解放による内部応力のムラを相対的に小さくすることが可能となり、よって、繊維強化樹脂製の回転円筒部3の歪みが低減され、それだけ回転円筒と固定円筒との隙間を十分(金属製とした場合と遜色ない、例えば1mm程度まで)小さくすることが可能で、それだけ排気性能の向上を図れることになる。また、除去加工時に除去される繊維量のムラに起因する連続した繊維の切断や異方性材料層と他の異方性材料層の歪みバランスの崩れや層の所定の部分の繊維の張力の変化による影響を相対的に小さくすることが可能となり、上記同様の効果が得られる。
【0046】
更に、最内層の厚さを最外層と同一に設定しても良い(最外層と最内層とが最大厚さを有するように構成しても良い。)。図5に図示したように、最外層及び最内層の厚さが同一でない場合(a)に比し、最外層及び最内層の厚さを同一(対称)にした場合(b)、内部応力が内外で対称となり、モーメントの発生を防止でき、内部応力を打ち消すことが可能となるからである。また、除去加工による所定の部分の張力の変化による、内外の張力の差も相対的に少なくする事が可能となる。なお、この場合、最外層及び最内層は、最外層及び最内層以外の他の層(最少厚さの層)より25%以上厚くなるようにする。これにより、最外層が除去加工により薄くなっても、回転円筒部3の真円度(形状)を保持できる。
【0047】
また、本実施例はねじ溝ポンプについて説明しているが、図6に図示した別例のような複合型のターボ分子ポンプなど、ねじ溝ポンプ部を有する構成であれば上記構成は同様に採用できる。図中、符号16はポンプケース6の内壁面に多数段所定間隔をおいて突設される固定翼、17は固定翼16と交互に配設される回転翼(DCモータ8の回転軸9に取り付けられる金属製の取付部10に一体に設けられる)であり、取付部10の下端部に設けられる環状の嵌合部18を冷やし嵌めにより回転円筒部3に嵌合連結している。その余は図1の場合と同様である。
【0048】
本実施例は上述のように構成したから、繊維強化樹脂製の回転円筒部3の歪みを可及的に低減して回転円筒部3と固定円筒部2との隙間を十分小さくすることが可能で、それだけ排気性能の向上を図れる極めて秀れたものとなる。
【符号の説明】
【0049】
1 ねじ溝部
2 固定円筒部
3 回転円筒部
4 ヘリカル層
5 フープ層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7