特許第5984916号(P5984916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984916
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】電力変換器
(51)【国際特許分類】
   H02M 5/293 20060101AFI20160823BHJP
【FI】
   H02M5/293 Z
【請求項の数】5
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2014-510998(P2014-510998)
(86)(22)【出願日】2012年8月20日
(86)【国際出願番号】JP2012071005
(87)【国際公開番号】WO2014030202
(87)【国際公開日】20140227
【審査請求日】2015年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】赤木 泰文
(72)【発明者】
【氏名】川村 弥
【審査官】 麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/144987(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/139077(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0149848(US,A1)
【文献】 S.Angkitirakul,Capacitor Voltage Balancing Control for a Modular Matrix Converter,米国電気電子学会議事録,米国,米国電気電子学会応用パワーエレクトロニクス専門家会,2006年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 5/293
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流入力側に一相あたり3個設けられる交流入力端子と、前記交流入力端子それぞれに接続されるリアクトルと、三相交流出力側に一相あたり1個設けられる交流出力端子と、入力側に直流コンデンサを固有に有する単相フルブリッジ変換器が、出力側でカスケード接続されることで構成されるクラスタと、を備え、異なる相に設けられた前記交流入力端子に前記リアクトルを介して接続された前記クラスタが、同一の前記交流出力端子に接続されるように設けられた三相の電力変換器であって、
前記電力変換器内を循環する循環電流を所定の循環電流指令値に追従させる制御をする循環電流制御部と、
三相交流入力側の電流を交流入力電流指令値に追従させ、三相交流出力側の電流を交流出力電流指令値に追従させる制御をする交流入出力電流制御部と、
前記電力変換器内の全ての直流コンデンサの電圧を平均して得られた全直流コンデンサ電圧平均値が、所定の直流コンデンサ電圧指令値に追従するよう、三相交流入力側から前記電力変換器へ流入する有効電力を制御する有効電力制御部と、
を備えることを特徴とする電力変換器。
【請求項2】
前記クラスタごとの前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られたクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値が、前記全直流コンデンサ電圧平均値にそれぞれ追従するよう、前記電力変換器内を循環する循環電流を制御する直流コンデンサ電圧バランス制御部を備える請求項1に記載の電力変換器。
【請求項3】
前記直流コンデンサ電圧バランス制御部は、
同一の相に接続されている3個の前記クラスタからなるスター変換器について、前記循環電流の正相成分を制御することで前記スター変換器間で互いに電力を授受することにより、前記スター変換器間において生じる前記クラスタ内直流コンデンサ電圧平均値の偏差を抑制するスター変換器間バランス制御部と、
前記循環電流の逆相成分を制御することで前記スター変換器内の前記クラスタ間で互いに電力を授受することにより、前記クラスタ間において生じる前記クラスタ内直流コンデンサ電圧平均値の偏差を抑制するスター変換器内バランス制御部と、
を有する請求項2に記載の電力変換器。
【請求項4】
三相交流入力側から前記スター変換器に流入する瞬時有効電力を、前記スター変換器から三相交流出力側へ流出する瞬時有効電力に併せて時間変化させて三相交流出力側の電流の周波数の2倍の周波数成分が打ち消すように前記循環電流を制御する直流コンデンサ電圧変動抑制制御部をさらに備える請求項1〜3のいずれか一項に記載の電力変換器。
【請求項5】
各前記ブリッジセルの直流コンデンサの電圧を、当該ブリッジセルの直流コンデンサが属しているクラスタについての前記クラスタ内直流コンデンサ電圧平均値にそれぞれ追従させる制御をする個別バランス制御部をさらに備える請求項1〜4のいずれか一項に記載の電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相の電力変換器に関し、特に、複数の単相フルブリッジ変換器の出力側がカスケード接続されて構成されるクラスタが三相交流入力側に対して一相あたり3個設けられ、三相交流入力側で異なる相にそれぞれ接続された3個のクラスタが三相交流出力側に対して同一相に設けられることで構成される三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
実装が容易で大容量・高電圧用途に適した次世代トランスレス電力変換器として、モジュラーマルチレベルカスケード変換器(MMCC:Modular Multilevel Cascade Converter)がある。モジュラーマルチレベルカスケード変換器は、高電圧誘導モータや高電圧同期モータのためのモータドライブ装置や、系統連系用電力変換器への適用が期待されている。
【0003】
このようなモジュラーマルチレベルカスケード変換器の回路構成として、三重スターブリッジセル(TSBC:Triple−Star Bridge−Cells)方式が検討されている(例えば、非特許文献1および4参照。)。本回路構成はモジュラーマトリックスコンバータとも呼ばれている。三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器(MMCC−TSBC)は、入出力側ともに三相交流が接続され、これら三相交流間の双方向直接変換を実現できるため、入力側に整流器が不要であり、かつ入出力電流を正弦波に制御することが可能である。
【0004】
図8は、一般的な三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器(MMCC−TSBC)の主回路構成を示す回路図である。また、図9および10は、図8に示すモジュラーマルチレベルカスケード変換器におけるセルを説明する回路図である。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。
【0005】
図8において、三相交流入力側の各相をuvw相とし、三相交流出力側の各相をabc相とするが、三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器(MMCC−TSBC)100は、三相交流間を双方向に直接に変換することができ、また後述するようにその回路構成は対称性を有していることから、ここでの説明における「三相交流入力側」および「三相交流出力側」は便宜上の定義に過ぎず、例えばuvw相を「三相交流入力側」、abc相を「三相交流出力側」と定義してもよい。
【0006】
図8において、モジュラーマルチレベルカスケード変換器100の三相交流入力側に接続される電圧源の電圧をvSu、vSvおよびvSwとし、中性点をOとする。また、モジュラーマルチレベルカスケード変換器100の三相交流出力側に接続される電圧源の電圧をvMa、vMbおよびvMcとし、中性点をNとする。ここで、モジュラーマルチレベルカスケード変換器100が高電圧三相誘導モータためのモータドライブ装置に用いられる場合は、モジュラーマルチレベルカスケード変換器100の三相交流入力側の電圧源は商用三相交流電源が相当し、三相交流出力側の電圧源は三相モータが相当する。また、モジュラーマルチレベルカスケード変換器100が系統連系用電力変換器に用いられる場合は、モジュラーマルチレベルカスケード変換器100の三相交流入力側の電圧源は一方の三相交流系統であり、三相交流出力側の電圧源はもう一方の三相交流系統が相当する。
【0007】
三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器100は、図10に示すような単相フルブリッジ変換器をモジュール単位としている。以下、この単相フルブリッジ変換器を「ブリッジセル」と称する。ブリッジセルは、直流コンデンサCと、この直流コンデンサCに2つ並列接続される半導体スイッチ群と、を有する。各半導体スイッチ群は、直列接続された2つの半導体スイッチをそれぞれ有する。直列接続された2つの半導体スイッチの接続点が、ブリッジセルの出力端となる。半導体スイッチは、オン時に一方向に電流を通す半導体スイッチング素子と、この半導体スイッチング素子に逆並列に接続された帰還ダイオードと、を有する。なお、図8を見やすくするために、図8では、図10に示すブリッジセルを図9に示すように簡略化して表記する。
【0008】
ブリッジセルの出力側をカスケード(直列)接続して構成した単位を「クラスタ(cluster)」と称する。各ブリッジセルは、そのブリッジセルに固有の直流側には直流コンデンサが設けられるが、これら直流コンデンサはブリッジセルごとに独立した構造を有している。1クラスタ中のブリッジセルの個数をn個(ただし、nは正の整数)とする。
【0009】
三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器100は、9個のクラスタを有しており、入力側三相交流と出力側三相交流との各相間にリアクトルLとともに接続される。具体的には、クラスタは、三相交流入力側に対してリアクトルを介して一相あたり3個設けられる。また、三相交流出力側では、三相交流入力側で異なる相にそれぞれ接続された3個のクラスタが同一相に設けられる。三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器100は、三相交流入力側に一相あたり3個設けられる交流入力端子と、三相交流出力側に一相あたり1個設けられる交流出力端子と、を有する。交流入力端子それぞれには、リアクトルLが接続される。異なる相に設けられた交流入力端子にリアクトルを介して接続されたクラスタは、同一の交流出力端子に接続されるように設けられる。
【0010】
例えば、三相交流入力側のu相、v相およびw相に設けられる三相交流入力端子と、三相交流出力側のa相に設けられる三相交流出力端子との間には、リアクトルLが接続されたクラスタu−a、v−aおよびw−aがそれぞれ設けられる。すなわち、三相交流入力側のu相、v相およびw相とリアクトルLを介して接続されるクラスタu−a、v−aおよびw−aは、三相交流出力側ではa相に接続される。
【0011】
同様に、三相交流入力側のu相、v相およびw相に設けられる三相交流入力端子と、三相交流出力側のb相に設けられる三相交流出力端子との間には、リアクトルLが接続されたクラスタu−b、v−bおよびw−bがそれぞれ設けられる。すなわち、三相交流入力側のu相、v相およびw相とリアクトルLを介して接続されるクラスタu−b、v−bおよびw−bは、三相交流出力側ではb相に接続される。
【0012】
同様に、三相交流入力側のu相、v相およびw相に設けられる三相交流入力端子と、三相交流出力側のc相に設けられる三相交流出力端子との間には、リアクトルLが接続されたクラスタu−c、v−cおよびw−cがそれぞれ設けられる。すなわち、三相交流入力側のu相、v相およびw相とリアクトルLを介して接続されるクラスタu−c、v−cおよびw−cは、三相交流出力側ではc相に接続される。
【0013】
ここでは、三相交流入力側あるいは三相交流出力側からみて、同一の相に設けられている3個のクラスタのグループを、「スター変換器」と称する。例えば、三相交流出力側からみると、a相に設けられているクラスタu−a、v−aおよびw−aはスター変換器aを構成し、b相に設けられているクラスタu−b、v−bおよびw−bはスター変換器bを構成し、c相に設けられているクラスタu−c、v−cおよびw−cはスター変換器cを構成する。また、三相交流入力側からみると、u相に設けられているクラスタu−a、u−bおよびu−cはスター変換器uを構成し、v相に設けられているクラスタv−a、v−bおよびv−cはスター変換器vを構成し、w相に設けられているクラスタw−a、w−bおよびw−cはスター変換器wを構成する。
【0014】
このように、三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器100は、三相交流入力側からみた場合と三相交流出力側からみた場合とで、クラスタの接続関係が対称となる回路構成を有している。この対称性を考慮して、図8において、各部における電流、電圧を次のように定義する。
【0015】
このような三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器の制御方法として、1台のスター変換器の電圧電流方程式に座標変換を施し、入出力電流制御および直流コンデンサの電圧バランスの制御を行う方法がある(例えば、非特許文献2参照。)。
【0016】
また、このような三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器をモータのドライブ装置に用いた場合において、モータの低速運転時に生じる直流コンデンサの交流電圧変動を抑制する方法が提案されている(例えば、非特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】S.アンキティトラクル(S.Angkititrakul)、R.W.エリクソン(R.W.Ericson)著、「モジュラーマトリックスコンバータのためのコンデンサ電圧バランス制御(Capacitor voltage balancing control for a modular matrix converter)」、(米国)、米国電気電子学会議事録(IEEE.Rec)、米国電気電子学会応用パワーエレクトロニクス専門家会議(IEEE−APEC)、2006年
【非特許文献2】F.カメラー(F.Kammerer)、M.ブラウン(M.Braun)著、「モジュラーマルチレベルマトリックスコンバータのための新しいカスケードベクトル制御方法(A novel cascaded vector control scheme for the modular multilevel matrix converter)」、(米国)、米国電気電子学会議事録(IEEE.Rec)、米国電気電子学会年次大会(IEEE−IECON)、pp1097〜1102、2011年
【非特許文献3】A.J.コーン(A.J.Korn)、M.ウィンケルンケンペル(M.Winkelnkemper)、J.W.コラー(J.W.Kolar)著、「ギアレス低速度ドライブのためのダイレクトモジュラーマルチレベルコンバータ(Direct Modular Multi−Level Converter for Gearless Low−Speed Drives)」、(米国)、米国電気電子学会議事録(IEEE.Rec)、米国電気電子学会ヨーロッパパワーエレクトロニクス会議(IEEE−EPE)、2011年
【非特許文献4】川村弥、萩原誠、赤木泰文著、「モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCC−TSBC)の分類と名称」、電気学会全国大会、no.4−052、2012年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器(MMCC−TSBC)においては、各ブリッジセルの直流コンデンサはフローティングとなるため、各ブリッジセル内の直流コンデンサの電圧を安定に維持する制御を行う必要がある。
【0019】
一般に、モジュラーマルチレベルカスケード変換器においては、三相交流出力側が低周波数である場合には、直流コンデンサの電圧の脈動幅が周波数に反比例して大きくなり、低周波数時の運転継続が困難であるという問題がある。
【0020】
また、引用文献2に記載された方法によれば、各相独立に、すなわちスター変換器ごとに、ブリッジセル内の直流コンデンサの電圧を個別に制御するので、三相全てのスター変換器における直流コンデンサ制御を実現した場合、各相の電流制御系が干渉し、三相平衡を実現することが難しい。また、変換器の零相電圧を用いた制御を行うので、スイッチング信号作成にPWM変調方式を用いた場合、変調率が1付近での制御が困難になる可能性がある。
【0021】
また、引用文献3に記載された方法によれば、モータ周波数が電源周波数の3分の1に近づくと、直流コンデンサの電圧の脈動幅が増大するという問題がある。また、引用文献3には、三相交流出力側が力率1でない場合についての制御について記載されておらず、適用できる運転方法が限られているという問題がある。
【0022】
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、複数の単相フルブリッジ変換器の出力側がカスケード接続されて構成されるクラスタが三相交流入力側に対して一相あたり3個設けられ、三相交流入力側で異なる相にそれぞれ接続された3個のクラスタが三相交流出力側に対して同一相に設けられることで構成される三相の電力変換器において、入出力電流の制御に干渉せずに直流コンデンサを安定に制御することができる電力変換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
三相交流入力側に一相あたり3個設けられる交流入力端子と、交流入力端子それぞれに接続されるリアクトルと、三相交流出力側に一相あたり1個設けられる交流出力端子と、入力側に直流コンデンサを固有に有する単相フルブリッジ変換器が、出力側でカスケード接続されることで構成されるクラスタと、を備え、異なる相に設けられた交流入力端子にリアクトルを介して接続されたクラスタが、同一の交流出力端子に接続されるように設けられた三相の電力変換器は、電力変換器内を循環する循環電流を所定の循環電流指令値に追従させる制御をする循環電流制御部と、三相交流入力側の電流を交流入力電流指令値に追従させ、三相交流出力側の電流を交流出力電流指令値に追従させる制御をする交流入出力電流制御部と、電力変換器内の全ての直流コンデンサの電圧を平均して得られた全直流コンデンサ電圧平均値が、所定の直流コンデンサ電圧指令値に追従するよう、三相交流入力側から電力変換器へ流入する有効電力を制御する有効電力制御部と、を備える。
【0024】
電力変換器は、クラスタごとの直流コンデンサの電圧値を平均して得られたクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値が、全直流コンデンサ電圧平均値にそれぞれ追従するよう、電力変換器内を循環する循環電流を制御する直流コンデンサ電圧バランス制御部を備える。
【0025】
直流コンデンサ電圧バランス制御部は、同一の相に接続されている3個のクラスタからなるスター変換器について、循環電流の正相成分を制御することでスター変換器間で互いに電力を授受することにより、スター変換器間において生じるクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値の偏差を抑制するスター変換器間バランス制御部と、循環電流の逆相成分を制御することでスター変換器内のクラスタ間で互いに電力を授受することにより、クラスタ間において生じるクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値の偏差を抑制するスター変換器内バランス制御部と、を有してもよい。
【0026】
また、電力変換器は、三相交流入力側からスター変換器に流入する瞬時有効電力を、スター変換器から三相交流出力側へ流出する瞬時有効電力に併せて時間変化させて三相交流出力側の電流の周波数の2倍の周波数成分が打ち消すように循環電流を制御する直流コンデンサ電圧変動抑制制御部をさらに備えてもよい。
【0027】
また、電力変換器は、各ブリッジセルの直流コンデンサの電圧を、当該ブリッジセルの直流コンデンサが属しているクラスタについてのクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値にそれぞれ追従させる制御をする個別バランス制御部をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0028】
複数の単相フルブリッジ変換器の出力側がカスケード接続されて構成されるクラスタが三相交流入力側に対して一相あたり3個設けられ、三相交流入力側で異なる相にそれぞれ接続された3個のクラスタが三相交流出力側に対して同一相に設けられることで構成される三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器(MMCC−TSBC)について、当該電力変換器内を循環する循環電流を制御することにより9個のクラスタ内のブリッジセルの直流コンデンサを一括制御することによって、入出力電流の制御に干渉せずに、クラスタ間に生じる各ブリッジセル内の直流コンデンサの電圧の不均衡を解消することができる。また、変換器の零相電圧を制御に用いないため、変調率1付近の運転においても過変調が起こりにくい。
【0029】
また、循環電流制御部内に直流コンデンサ電圧変動抑制制御部を設け、三相交流出力側の電流の周波数に応じて、抑制制御のモード適宜切り換えて電力変換器を運転することで、三相交流出力側の周波数いかんにかかわらず、直流コンデンサの電圧の脈動を抑制し、直流コンデンサを安定に制御することができる。また、直流コンデンサ電圧変動抑制制御部による制御は、電力変換器内を循環する循環電流を制御することにより実現するので、入出力電流の制御に干渉せずに直流コンデンサ電圧変動抑制制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】電力変換器を示す回路図である。
図2】直流コンデンサ電圧変動抑制制御部の動作を説明する図である。
図3】本発明による電力変換器の制御装置を示すブロック図である。
図4】シミュレーションに用いた主回路構成を示す図である。
図5】スター変換器間バランス制御部の動作を検証したシミュレーション結果を示す図である。
図6】直流コンデンサ電圧変動抑制御の抑制制御Iモードの動作を検証したシミュレーション結果を示す図である。
図7】直流コンデンサ電圧変動抑制御の抑制制御IIモードの動作を検証したシミュレーション結果を示す図である。
図8】一般的な三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器(MMCC−TSBC)の主回路構成を示す回路図である。
図9図8に示すモジュラーマルチレベルカスケード変換器におけるセルを説明する回路図(その1)である。
図10図8に示すモジュラーマルチレベルカスケード変換器におけるセルを説明する回路図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下図面を参照して、三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器(MMCC−TSBC)について説明する。しかしながら、本発明は、図面又は以下に説明される実施形態に限定されるものではないことを理解されたい。
【0032】
図1は、本発明による電力変換器を示す回路図である。なお、図1を見やすくするために、図1では、図10に示すブリッジセルを図9に示したものに簡略化して表記する。図1において、三相交流入力側の各相をuvw相とし、三相交流出力側の各相をabc相とするが、三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器(MMCC−TSBC)(以下、単に「電力変換器」と称する。)は、三相交流間を双方向に直接に変換することができるものであり、また上述したようにその回路構成は対称性を有しているので、ここでの説明における「三相交流入力側」および「三相交流出力側」は便宜上の定義に過ぎず、abc相を「三相交流入力側」、uvw相を「三相交流出力側」と定義してもよい。
【0033】
図1では、電力変換器1の三相交流入力側に接続される電圧源の電圧をvSu、vSvおよびvSwとし、中性点をOとする。また、電力変換器1の三相交流出力側に接続される電圧源の電圧をvMa、vMbおよびvMcとし、中性点をNとする。ここで、電力変換器1が高電圧誘導モータためのモータドライブ装置に用いられる場合は、電力変換器1の三相交流入力側の電圧源は商用三相交流電源が相当し、三相交流出力側の電圧源は三相モータが相当する。また、電力変換器1が系統連系用電力変換器に用いられる場合は、電力変換器1の三相交流入力側の電圧源は一方の三相交流系統であり、三相交流出力側の電圧源はもう一方の三相交流系統が相当する。
【0034】
電力変換器1は、図10に示したような単相フルブリッジ変換器(ブリッジセル)をモジュール単位としている。ブリッジセルは、直流コンデンサCと、この直流コンデンサCに2つ並列接続される半導体スイッチ群と、を有する。各半導体スイッチ群は、直列接続された2つの半導体スイッチをそれぞれ有する。直列接続された2つの半導体スイッチの接続点が、ブリッジセルの出力端となる。半導体スイッチは、オン時に一方向に電流を通す半導体スイッチング素子と、この半導体スイッチング素子に逆並列に接続された帰還ダイオードと、を有する。
【0035】
複数のブリッジセルがその出力側をカスケード(直列)接続されることでクラスタを構成する。電力変換器1は、9個のクラスタを有している。各ブリッジセルは、そのブリッジセルに固有の直流側には直流コンデンサが設けられるが、これら直流コンデンサはブリッジセルごとに独立した構造を有している。1クラスタ中のブリッジセルの個数をn個(ただし、nは正の整数)とする。
【0036】
電力変換器1は、三相交流入力側に一相あたり3個設けられる交流入力端子と、三相交流出力側に一相あたり1個設けられる交流出力端子と、を有する。また、交流入力端子それぞれには、リアクトルLが接続される。異なる相に設けられた交流入力端子にリアクトルを介して接続されたクラスタは、同一の交流出力端子に接続されるように設けられる。すなわち、クラスタは、三相交流入力側に対してリアクトルを介して一相あたり3個設けられる。また、三相交流出力側では、三相交流入力側で異なる相にそれぞれ接続された3個のクラスタが同一相に設けられる。より詳細に説明すると次の通りである。
【0037】
三相交流入力側のu相、v相およびw相に設けられる三相交流入力端子と、三相交流出力側のa相に設けられる三相交流出力端子との間には、リアクトルLが接続されたクラスタu−a、v−aおよびw−aがそれぞれ設けられる。すなわち、三相交流入力側のu相、v相およびw相とリアクトルLを介して接続されるクラスタu−a、v−aおよびw−aは、三相交流出力側ではa相に接続される。
【0038】
同様に、三相交流入力側のu相、v相およびw相に設けられる三相交流入力端子と、三相交流出力側のb相に設けられる三相交流出力端子との間には、リアクトルLが接続されたクラスタu−b、v−bおよびw−bがそれぞれ設けられる。すなわち、三相交流入力側のu相、v相およびw相とリアクトルLを介して接続されるクラスタu−b、v−bおよびw−bは、三相交流出力側ではb相に接続される。
【0039】
同様に、三相交流入力側のu相、v相およびw相に設けられる三相交流入力端子と、三相交流出力側のc相に設けられる三相交流出力端子との間には、リアクトルLが接続されたクラスタu−c、v−cおよびw−cがそれぞれ設けられる。すなわち、三相交流入力側のu相、v相およびw相とリアクトルLを介して接続されるクラスタu−c、v−cおよびw−cは、三相交流出力側ではc相に接続される。
【0040】
三相交流入力側または三相交流出力側からみて、同一の相に設けられている3個のクラスタは、スター変換器を構成する。例えば、三相交流出力側からみると、a相に設けられているクラスタu−a、v−aおよびw−aはスター変換器aを構成し、b相に設けられているクラスタu−b、v−bおよびw−bはスター変換器bを構成し、c相に設けられているクラスタu−c、v−cおよびw−cはスター変換器cを構成する。また、三相交流入力側からみると、u相に設けられているクラスタu−a、u−bおよびu−cはスター変換器uを構成し、v相に設けられているクラスタv−a、v−bおよびv−cはスター変換器vを構成し、w相に設けられているクラスタw−a、w−bおよびw−cはスター変換器wを構成する。
【0041】
このように、電力変換器1は、三相交流入力側からみた場合と三相交流出力側からみた場合とで、クラスタの接続関係が対称となる回路構成を有している。この対称性を考慮して、図1において、各部における電流、電圧を次のように定義する。
【0042】
電力変換器1の三相交流入力側から流れ込むuvw各相の電流をiSu、iSvおよびiSw、三相交流出力側へ流れ出すabc各相の電流をiMa、iMbおよびiMcとする。クラスタu−a、v−aおよびw−aに流れる各クラスタ電流をそれぞれiau、iavおよびiawとし、クラスタu−b、v−bおよびw−bに流れる各クラスタ電流をそれぞれibu、ibvおよびibwとし、クラスタu−c、v−cおよびw−cに流れる各クラスタ電流をそれぞれicu、icvおよびicwとする。クラスタu−a、v−aおよびw−aの各出力電圧をそれぞれvau、vav、およびvawとし、クラスタu−b、v−bおよびw−bの各出力電圧をそれぞれvbu、vbv、およびvbwとし、クラスタu−c、v−cおよびw−cの各出力電圧をそれぞれvcu、vcv、およびvcwとする。
【0043】
また、1クラスタ中には、互いにカスケード接続されたn個(ただし、nは正の整数)のブリッジセルが存在する。クラスタu−a内のj番目(ただし、j=1〜n。以下同様。)のブリッジセル内の直流コンデンサの電圧をvCaujとし、クラスタv−a内のj番目のブリッジセル内の直流コンデンサの電圧をvCavjとし、クラスタw−a内のj番目のブリッジセル内の直流コンデンサの電圧をvCawjとする。同様に、クラスタu−b内のj番目のブリッジセル内の直流コンデンサの電圧をvCbujとし、クラスタv−b内のj番目のブリッジセル内の直流コンデンサの電圧をvCbvjとし、クラスタw−b内のj番目のブリッジセル内の直流コンデンサの電圧をvCbwjとする。同様に、クラスタu−c内のj番目のブリッジセル内の直流コンデンサの電圧をvCcujとし、クラスタv−c内のj番目のブリッジセル内の直流コンデンサの電圧をvCcvjとし、クラスタw−c内のj番目のブリッジセル内の直流コンデンサの電圧をvCcwjとする。
【0044】
上述のような主回路構成を有する電力変換器1においては、循環電流制御部11と交流入出力電流制御部12と有効電力制御部13と個別バランス制御部14と直流コンデンサ電圧バランス制御部21と直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22とを有する制御装置10により、各クラスタ内の半導体スイッチング素子のスイッチング動作が制御される。上記各部を有する制御装置10は、例えばDSPやFPGAなどの演算処理装置を用いて実現される。
【0045】
循環電流制御部11は、電力変換器1内を循環する循環電流を所定の循環電流指令値に追従させる制御をする。
【0046】
電力変換器1を構成する回路素子のバラツキなどによって各クラスタ間および各ブリッジセル間において直流コンデンサの電圧に不均衡が生じるが、これを解消するために、直流コンデンサ電圧バランス制御部21は、クラスタごとの直流コンデンサの電圧値を平均して得られたクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値が、電力変換器1内の全ての直流コンデンサの電圧を平均して得られた全直流コンデンサ電圧平均値にそれぞれ追従するよう、電力変換器1内を循環する循環電流を制御するが、直流コンデンサ電圧バランス制御部21は、このための循環電流指令値を作成する。
【0047】
この直流コンデンサ電圧バランス制御部21は、スター変換器間バランス制御部とスター変換器内バランス制御部とを有する。スター変換器間バランス制御部は、同一の相に接続されている3個のクラスタからなるスター変換器について、循環電流の正相成分を制御することでスター変換器間で互いに電力を授受することにより、スター変換器間において生じるクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値の偏差を抑制する。スター変換器内バランス制御部は、循環電流の逆相成分を制御することでスター変換器内のクラスタ間で互いに電力を授受することにより、クラスタ間において生じるクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値の偏差を抑制する。スター変換器間バランス制御部およびスター変換器内バランス制御部の詳細については後述する。
【0048】
交流入出力電流制御部12は、三相交流入力側の電流を交流入力電流指令値に追従させ、三相交流出力側の電流を交流出力電流指令値に追従させる制御をする。例えば、電力変換器1を三相モータのドライブ装置として用いるべく三相交流出力側に三相モータが接続される場合には、交流出力電流値として所望のモータ回転状態を得るための指令値としたり、あるいは、三相モータに流れるモータ電流をクラスタ電流から求めてこれを利用して三相モータをベクトル制御するようにしてもよい。
【0049】
有効電力制御部13は、電力変換器1内の全ての直流コンデンサの電圧を平均して得られた全直流コンデンサ電圧平均値が、所定の直流コンデンサ電圧指令値に追従するよう、三相交流入力側から電力変換器へ流入する有効電力を制御する。すなわち、電力変換器1内に存在する内部抵抗等により各クラスタ内の直流コンデンサに蓄積されたエネルギーが消費され、直流コンデンサの電圧は低下するので、消費されたエネルギーを補うために、有効電力制御部13は、三相交流入力側から取り込む有効電力の量を調整する制御を行う。
【0050】
個別バランス制御部14は、各ブリッジセルの直流コンデンサの電圧を、当該ブリッジセルの直流コンデンサが属しているクラスタについてのクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値にそれぞれ追従させる制御をする。
【0051】
上記各制御部に加えて、電力変換器1の制御装置10内に直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22を設けてもよい。直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22は、三相交流入力側からスター変換器に流入する瞬時有効電力を、スター変換器から三相交流出力側へ流出する瞬時有効電力に併せて時間変化させて三相交流出力側の電流の周波数の2倍の周波数成分が打ち消されるように循環電流を制御するものであり、直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22は、このための循環電流指令値を作成する。直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22の詳細については後述する。
【0052】
循環電流制御部11は、電力変換器1内を循環する循環電流を、直流コンデンサ電圧バランス制御部21が作成した循環電流指令値に、または直流コンデンサ電圧バランス制御部21が作成した循環電流指令値と直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22が作成した循環電流指令値とを合成した循環電流指令値に、追従させる制御をする。
【0053】
次に、各制御系の動作原理についてより詳細に説明する。
【0054】
まず、ωSを電力変換器1の入力側の三相交流の角周波数として、αβ0変換の変換行列[Cαβ0]を式1のように定義する。
【0055】
【数1】
【0056】
また、dq変換の変換行列[Cdq]を式2のように定義する。
【0057】
【数2】
【0058】
図1に示す主回路について、式3に示す電圧方程式が成り立つ。ここで、vNは三相交流入力側の中性点Oからみた三相交流出力側の中性点Nの電位であり、電力変換器1の零相電圧に相当する。
【0059】
【数3】
【0060】
ここで、クラスタ電流iau、iav、iaw、ibu、ibv、ibw、icu、icvおよびicwについて、abc座標およびuvw座標をαβ0座標に変換すると、式4のようになる。
【0061】
【数4】
【0062】
式4について、左から式1に示す変換行列[Cαβ0]を乗じてabc座標をαβ0座標に変換し、右から式1に示す変換行列[Cαβ0]の転置行列t[Cαβ0](一般的には「[Cαβ0t」とも表される)を乗じることでuvw座標をαβ0座標に変換すると式5のようになる。
【0063】
【数5】
【0064】
式5において、vSおよびvMの零相電圧を0と仮定している。また、三相交流入力側の中性点Oと三相交流出力側の中性点Nとの間を流れる電流経路がないため、i00=0としている。
【0065】
ここで、αβ0座標上のクラスタ電流について、図1およびキルヒホッフの電流側から式6、式7、式8および式9に示す関係式が成り立つ。
【0066】
【数6】
【0067】
【数7】
【0068】
【数8】
【0069】
【数9】
【0070】
すなわち、式4に示すiα0、iβ0、i0αおよびi0βは、それぞれ、三相交流出力側の電流iおよびiならびに三相交流入力側の電流iSαおよびiSβに相当する。したがって、以後、iα0、iβ0、i0αおよびi0βについては、i、i、iSαおよびiSβで表すこととする。
【0071】
また、式4について、電流成分iαα、iαβ、iβαおよびiββ、については、上記の通り、電流成分i、i、iSαおよびiSβが三相交流出力側および三相交流入力側の電流にそれぞれ相当したことから、三相交流出力側および三相交流入力側に入出力されずに電力変換器1内のみを循環する電流であると考えられる。そこで、この電力変換器1内の主回路配線のみを循環する電流iαα、iαβ、iβαおよびiββを「循環電流」として定義する。この循環電流は電力変換器1内のみを流れるため、その値にかかわらず三相交流出力側および三相交流入力側の電流に一切の影響を与えない一方で、後述するようにブリッジセル内の直流コンデンサの充放電に影響を与える。そこで、この循環電流iαα、iαβ、iβαおよびiββを、後述する直流コンデンサ電圧バランス制御部21によるクラスタ間の直流コンデンサの電圧のバランス制御および直流コンデンサ電圧変動抑制制御部による直流コンデンサの電圧変動の抑制制御に利用する。
【0072】
図1に示す主回路配線の電圧方程式をαβ0座標上で表した式5に基づいて、制御装置10は、各クラスタu−a、v−a、w−a、u−b、v−b、w−b、u−c、v−cおよびw−cの各出力電圧を制御するための電圧指令値vau*、vav*、vaw*、vbu*、vbv*、vbw*、vcu*、vcv*およびvcw*を作成する。生成された電圧指令値は適宜規格化された後、スイッチング指令値として利用される。このスイッチング指令値は制御装置10内のスイッチング制御部(図示せず)によりキャリア周波数の三角波キャリア信号(最大値:1、最小値:−1)と比較され、最終的にPWMスイッチング信号が生成される。生成されたPWMスイッチング信号は、対応するクラスタ内のブリッジセル内の半導体スイッチング素子のスイッチング制御に用いられる。なお、電圧指令値vau*、vav*、vaw*、vbu*、vbv*、vbw*、vcu*、vcv*およびvcw*は、クラスタとしての出力指令値であるので、実際には、上述のように1クラスタ内にはn個のブリッジセルがカスケード接続されていることから、当該電圧指令値を例えばn等分してブリッジセルごとのスイッチング指令値を生成して用いる。
【0073】
次に、式5に基づいた制御装置10による電圧指令値の作成について説明する。
【0074】
式5において、v00については、クラスタ電流には影響を与えず、三相交流出力側の中性点Nにおける電位vNのみに影響を与える。本発明では、電力変換器の零相電圧を使用しないので、電圧指令値v00*=0とする。
【0075】
電力変換器1の三相交流入力側については、三相交流入力側の電圧源の電圧と、リアクトルLに流れる三相交流入力側の電流とクラスタの三相交流入力側の電位との関係から、式10が成り立つ。
【0076】
【数10】
【0077】
式10の両辺に、dq変換の変換行列[Cdq]を左から乗じると式11が得られる。
【0078】
【数11】
【0079】
したがって、制御装置10内の交流入出力電流制御部12は、式12に示すような、三相交流入力側の電流を交流入力電流指令値iSd*およびiSq*に追従させる制御を行う。
【0080】
【数12】
【0081】
式12において、KSおよびTSはそれぞれ三相交流入力側の電流制御の比例制御ゲインおよび積分制御の時定数である。なお、上述の三相交流入力側の電流の制御は、クラスタの出力電圧指令値の一部を構成する電圧指令値v0d*およびv0q*を与える形で行う。
【0082】
また、循環電流は電力変換器1内のみを流れるので、式5について、電流成分iαα、iαβ、iβαおよびiββの部分についてのみについて表すと式13が成り立つ。
【0083】
【数13】
【0084】
したがって、制御装置10内の循環電流制御部11は、式14に示すような、循環電流iαα、iαβ、iβαおよびiββを循環電流指令値iαα*、iαβ*、iβα*およびiββ*に追従させる制御を行う。
【0085】
【数14】
【0086】
式14において、KZは循環電流の制御の比例制御ゲインである。なお、上述の循環電流の制御は、クラスタの出力電圧指令値の一部を構成する電圧指令値vαα*、vαβ*、vβα*およびvββ*を与える形で行う。
【0087】
交流入出力電流制御部12は、電力変換器1の三相交流出力側について電流を交流出力電流指令値に追従させる制御をする。例えば、電力変換器1を三相モータのドライブ装置として用いるべく三相交流出力側に三相モータが接続される場合には、所望のモータ回転状態を得るための交流出力電流指令値を直接与えたり、あるいは、三相モータに流れるモータ電流をクラスタ電流から求めてこれを利用して三相モータをベクトル制御するようにしてもよい。
【0088】
また、電力変換器1内に存在する内部抵抗等により各クラスタ内の直流コンデンサに蓄積されたエネルギーが消費され、直流コンデンサの電圧は低下することから、有効電力制御部13は、消費されたエネルギーを補うために、三相交流入力側から取り込む瞬時有効電力の量を調整し、電力変換器1内の全ての直流コンデンサの電圧を平均して得られた全直流コンデンサ電圧平均値を、所定の直流コンデンサ電圧指令値に追従させる制御を行う。三相交流入力側から電力変換器1に取り込む瞬時有効電力の指令値をp*、直流コンデンサの電圧の指令値をVC*、全ての直流コンデンサの電圧を平均した値をvCaveとしたとき、d軸電流指令値iSd*は式15のように表わせる。
【0089】
【数15】
【0090】
式15において、KAおよびTAはそれぞれ有効電力制御の比例制御ゲインおよび積分制御の時定数である。
【0091】
また、三相交流入力側から電力変換器1に取り込む瞬時無効電力の指令値をq*、としたとき、q軸電流指令値iSq*は式16のように表わせる。
【0092】
【数16】
【0093】
続いて、直流コンデンサ電圧バランス制御部21の動作原理について説明する。直流コンデンサ電圧バランス制御部21は、クラスタごとの直流コンデンサの電圧値を平均して得られたクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値が、全直流コンデンサ電圧平均値にそれぞれ追従するよう、電力変換器1内を循環する循環電流を制御するためのものであり、直流コンデンサ電圧バランス制御部21はこのための循環電流指令値を作成する。
【0094】
各クラスタu−a、v−a、w−a、u−b、v−b、w−b、u−c、v−cおよびw−cについてのクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値vCauave、vCavave、vCawave、vCbuave、vCbvave、vCbwave、vCcuave、vCcvave、vCcwaveを行列の形式で示すと式17のようになる。
【0095】
【数17】
【0096】
式17に示す行列に対して、左から式1に示す変換行列[Cαβ0]を乗じてabc座標をαβ0座標に変換し、右から式1に示す変換行列[Cαβ0]の転置行列t[Cαβ0]を乗じることでuvw座標をαβ0座標に変換すると式18のようになる。
【0097】
【数18】
【0098】
ここで、仮にクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値を直流コンデンサ電圧指令値VC*に制御することができた場合、式18に示す行列は式19に示す行列のようになるはずである。
【0099】
【数19】
【0100】
したがって、式18に示す行列の各要素を式19に示す行列の値に制御することができれば、全てのクラスタについてのクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値をVC*にすることができ、クラスタ間に生じる各ブリッジセル内の直流コンデンサの電圧の不均衡を解消することができる。
【0101】
式1において、vC00aveはその定義から全ての直流コンデンサの電圧を平均した値vCaveの3倍の値に等しいといえるので、この成分の制御に関しては式15を参照して説明した有効電力制御によって既に実現されている。そこで、式1について、vC00ave以外の8成分について、次に説明するスター変換器間バランス制御部およびスター変換器内バランス制御部によって、0に収束させる制御を行う。これら8成分のうち、v0ave、v0ave、vC0αaveおよびvC0βaveについてはスター変換器間バランス制御部によって、vαave、vβave、vαaveおよびvβaveについてはスター変換器内バランス制御部によって、それぞれ0に収束させる。
【0102】
直流コンデンサ電圧バランス制御部21内のスター変換器間バランス制御部の動作原理について説明すると次の通りである。スター変換器間バランス制御部は、同一の相に接続されている3個のクラスタからなるスター変換器について、循環電流の正相成分を制御することでスター変換器間で互いに電力を授受することにより、スター変換器間において生じるクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値の偏差を抑制する。
【0103】
Sを三相交流入力側の周波数、fMを三相交流出力側の周波数、δMを三相交流入力側の初期位相を基準にした三相交流出力側の初期位相、K0をスター変換器間バランス制御部における比例制御ゲインとしたとき、θSを式20のように定義し、θMを式21のように定義する。
【0104】
【数20】
【0105】
【数21】
【0106】
また、三相交流入力側の電圧を式22のように仮定し、三相交流出力側の電圧を式23のように仮定する。ここで、VSを三相交流入力側の線間電圧の実効値とし、VMを三相交流出力側の線間電圧の実効値とする。
【0107】
【数22】
【0108】
【数23】
【0109】
また、三相交流入力側の電流を式24のように仮定し、三相交流出力側の電流を式25のように仮定する。ここで、ISを三相交流入力側の電流の実効値とし、IMを三相交流出力側の電流の実効値とする。
【0110】
【数24】
【0111】
【数25】
【0112】
スター変換器間バランス制御部において指令値として与える循環電流を式26のように表す。
【0113】
【数26】
【0114】
【数27】
【0115】
ここで、ΔvCa0aveなどは式28の関係を満たす。
【0116】
【数28】
【0117】
式27から分かるように、スター変換器間バランス制御部においては、各スター変換器に対して正相の電流を注入する。このクラスタ電流と、 クラスタ両端に印加される電圧とで形成されるクラスタ内に流入する周期平均有効電力は、式29のように表わされる。
【0118】
【数29】
【0119】
式29をαβ0変換すると式30が得られる。
【0120】
【数30】
【0121】
式30が意味することは次の通りである。すなわち、例えば、直流コンデンサ電圧がv0ave成分のみに正の値を持つような電圧偏差を有している場合を考えると、K0>0、KS>0であるから、式30のPα0成分に負の有効電力が形成される。この有効電力により、v0ave成分の正の値を持つような電圧偏差が解消されて0に近づくフィードバック制御が実現される。ここで、式30から、Pα0成分とv0ave成分、Pβ0成分とv0ave成分、P0α成分とvC0αave成分、P0β成分とvC0βave成分が、それぞれ一対一に対応していることがわかり、このことから、スター変換器間バランス制御部において、ある成分の制御によって他の成分が干渉を受けることがなく、非干渉化を実現できていることがわかる。このように、スター変換器間バランス制御部は、同一の相に接続されている3個のクラスタからなるスター変換器について、循環電流の正相成分を制御することでスター変換器間で互いに電力を授受することにより、スター変換器間において生じるクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値の偏差を抑制することができる。
【0122】
続いて、直流コンデンサ電圧バランス制御部21内のスター変換器内バランス制御部の動作原理について説明すると次の通りである。スター変換器内バランス制御部は、循環電流の逆相成分を制御することでスター変換器内のクラスタ間で互いに電力を授受することにより、クラスタ間において生じるクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値の偏差を抑制する。既に説明したスター変換器間バランス制御部では三相交流入力側の周波数fS成分と三相交流出力側の周波数fM成分を制御に用いたが、スター変換器内バランス制御部では、三相交流入力側の周波数fS成分を制御に用いる。なお、上述したように電力変換器1の回路構成は対称性を有しているので、三相交流出力側の周波数fM成分を制御に用いてもよい。
【0123】
スター変換器内バランス制御部において指令値として与える循環電流を式31のように表す。
【0124】
【数31】
【0125】
式31において、式32〜式35であるとする。また、K1はスター変換器内バランス制御部における比例制御ゲインである。
【0126】
【数32】
【0127】
【数33】
【0128】
【数34】
【0129】
【数35】
【0130】
【数36】
【0131】
式36から分かるように、スター変換器内バランス制御部においては、各スター変換器に対して逆相の電流を注入する。その位相は、「vCaαave、vCbαave、vCcαave」と「vCaβave、vCbβave、vCcβave」との比で決定される。このクラスタ電流と、 クラスタ両端に印加される電圧とで形成されるクラスタ内に流入する周期平均有効電力は、式37のように表わされる。
【0132】
【数37】
【0133】
式37をαβ0変換すると式38が得られる。
【0134】
【数38】
【0135】
式38が意味することは次の通りである。すなわち、例えば、直流コンデンサ電圧がvαave成分のみに正の値を持つような電圧偏差を有している場合を考えると、K1>0、KS>0であるから、式38のPαα成分に負の有効電力が形成される。この有効電力により、vαave成分の正の値を持つような電圧偏差が解消されて0に近づくフィードバック制御が実現される。ここで、式38から、Pαα成分とvαave成分、Pαβ成分とvβave成分、Pβα成分とvαave成分、Pββ成分とvβave成分が、それぞれ一対一に対応していることがわかり、このことから、スター変換器内バランス制御部において、ある成分の制御によって他の成分が干渉を受けることがなく、非干渉化が実現できていることがわかる。このように、スター変換器内バランス制御部は、循環電流の逆相成分を制御することでスター変換器内のクラスタ間で互いに電力を授受することにより、クラスタ間において生じるクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値の偏差を抑制することができる。
【0136】
次に、個別バランス制御部14による、同一のクラスタ内におけるブリッジセルの直流コンデンサの電圧のバランス制御について説明する。個別バランス制御部14は、各クラスタについて、当該クラスタに流れている電流と同位相もしくは逆位相の電圧を出力することで有効電力を流入もしくは流出させ、これにより、各クラスタについて、当該クラスタ内の各ブリッジセルの直流コンデンサの電圧を、当該ブリッジセルの直流コンデンサが属している当該クラスタについてのクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値に追従させる。一例として、クラスタu−aについて説明すると次の通りである。クラスタu−a内のj番目(ただし、j=1〜n)のブリッジセルの直流コンデンサ電圧を、当該ブリッジセルの直流コンデンサが属しているクラスタについてのクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値に追従させるための、電力変換器1に取り込む有効電力を制御するための電圧指令値vBauj*を、式39のように表す。
【0137】
【数39】
【0138】
本バランス制御と位相シフトPWM制御との併用により、段数に応じて式39を追加することで段数の拡張が容易に可能である。
【0139】
循環電流制御部11は、電力変換器1内を循環する循環電流を、直流コンデンサ電圧バランス制御部21が作成した循環電流指令値に追従させる制御をする。
【0140】
上述した循環電流制御部11ならびに直流コンデンサ電圧バランス制御部21内のスター変換器間バランス制御部およびスター変換器内バランス制御部による循環電流を用いた各制御により、電力変換器1を構成する回路素子のバラツキなどによって従来生じていた各クラスタ間および各ブリッジセル間の直流コンデンサの電圧の不均衡を解消することができる。
【0141】
また、上記構成に加え、三相交流出力側が低周波数である場合に生じる直流コンデンサの電圧の脈動を抑制し、三相交流出力側の周波数いかんにかかわらず直流コンデンサを安定に制御することができるようにするために、循環電流制御部11内に直流コンデンサ電圧変動抑制制御部をさらに設けてもよい。以下、直流コンデンサ電圧変動抑制制御部について説明する。
【0142】
図2は、直流コンデンサ電圧変動抑制制御部の動作を説明する図である。直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22は、抑制制御なしモードと抑制制御Iモードと抑制制御IIモードとを有する。
【0143】
まず、「抑制制御なしモード」について説明する。抑制制御なしモードは、式40に示すような、既に説明したバランス制御に用いる循環電流以外は電力変換器1内に循環電流を流さないモードである。
【0144】
【数40】
【0145】
この場合、各クラスタには三相交流入力側からの電流と三相交流出力側への電流はそれぞれ3分の1ずつ分かれて流れるため、クラスタ電流に含まれる周波数成分は、三相交流入力側の電流の周波数fSおよび三相交流出力側の電流の周波数fMである。クラスタの両端に印加される電圧にも、三相交流入力側の電流の周波数fSおよび三相交流出力側の電流の周波数fMが含まれる。直流コンデンサの交流電圧変動に含まれる周波数成分はクラスタに流入する瞬時有効電力に含まれる周波数成分と同じであることから、直流コンデンサの交流電圧変動には、2fS、2fM、およびfS±fMの周波数成分が含まれる。一般に、モジュラーマルチレベルカスケード変換器においては、図2の実線に示すように、脈動幅(交流電圧変動幅)は交流電圧変動に含まれている周波数に反比例する。したがって、抑制制御なしモードの場合、三相交流出力側の電流の周波数fSが0に近づいたときまたは三相交流入力側の電流の周波数fMが0に近づいたとき、直流コンデンサの電圧の脈動幅は急激に増大し、運転継続が困難になる。
【0146】
次に抑制制御Iモードについて説明する。一般に、三相交流入力側から電力変換器1内の各スター変換器に供給される瞬時有効電力は一定である一方で、各スター変換器から三相交流出力側へ供給される瞬時有効電力は三相交流出力側の電流の周波数fMの2倍で変動している。三相交流出力側の電流の周波数fMが0に近づいた場合、三相交流入力側から供給されている瞬時有効電力に対して、三相交流出力側に供給する瞬時有効電力が大きいかもしくは小さい状態が「1/(4fM)」秒間にわたって続き、直流コンデンサはその間平均的に放電もしくは充電を続ける。したがって、このような低周波数で運転を継続するためには、より大きな直流コンデンサ容量を必要とする。
【0147】
直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22の抑制制御Iモードでは、循環電流を式41に示すように制御し、三相交流入力側から各スター変換器に供給される瞬時有効電力を、三相交流出力側へ供給する瞬時有効電力にあわせて時間変化させることで、直流コンデンサの交流電圧変動に含まれる2fMの周波数成分を打ち消すようにする。
【0148】
【数41】
【0149】
式41において、φSは三相交流入力側の力率角を表し、φMは三相交流出力側の力率角を表す。以下、式41に基づく抑制制御Iモードの動作原理について説明すると次の通りである。
【0150】
クラスタ電流の三相交流入力側の電流成分および三相交流出力側の電流成分は、式24および式25から、式42のように表わせる。
【0151】
【数42】
【0152】
式42で表せるクラスタ電流の三相交流入力側の電流成分および三相交流出力側の電流成分と、クラスタ両端に印加される電圧とで形成されるクラスタ内に流入する瞬時有効電力は、式43のように表わされる。
【0153】
【数43】
【0154】
なお、式43では、特に抑制制御のみを考察するため、簡潔に表現すべく瞬時有効電力の直流成分と2fM成分のみを表し、2fS成分およびfS±fM成分については省略している。
【0155】
式41に示す循環電流をuvw座標軸およびabc座標軸上に逆変換すると式44が得られる。
【0156】
【数44】
【0157】
式44で表すクラスタ電流の循環電流成分と、クラスタ両端に印加される電圧とで形成されるクラスタ内に流入する瞬時有効電力は、式45のように表わされる。
【0158】
【数45】
【0159】
なお、式45では、特に抑制制御のみを考察するため、簡潔に表現すべく瞬時有効電力の直流成分と2fM成分のみを表し、fS±fM成分、2(fS±fM)成分およびfS±3fM成分については省略している。
【0160】
ここで、P=√3VSScosφS=√3VMMcosφMであるので、式43の右辺第2項と式45の右辺は打ち消しあう。すなわち、直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22の抑制制御Iモードでは、循環電流を式41に示すように制御し、三相交流入力側から各スター変換器に供給される瞬時有効電力を、三相交流出力側へ供給する瞬時有効電力にあわせて時間変化させることで、直流コンデンサの交流電圧変動に含まれる2fMの周波数成分を打ち消すことができる。
【0161】
直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22が抑制制御Iモードに従って動作すると、クラスタ電流にはfS成分およびfM成分のほかに、fS±2fM成分を含むことになる。また、直流コンデンサの交流電圧変動には2fS成分、fS±fM成分、2(fS±fM)成分、およびfS±3fM成分が含まれる。したがって、抑制制御Iモードの場合、図2の点線に示すように、抑制制御なしモードで運転継続が困難であった三相交流出力側の電流の周波数fMが0付近については運転を継続することができる。しかしながら、fM=fS/3またはfM=fS付近では、運転継続が困難である。
【0162】
次に抑制制御IIモードについて説明する。直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22の抑制制御IIモードでは、循環電流を式46に示すように制御し、fS+2Mの周波数成分のみを用いて三相交流入力側から各スター変換器に供給される瞬時有効電力を、三相交流出力側へ供給する瞬時有効電力にあわせて時間変化させる。
【0163】
【数46】
【0164】
式46に示す循環電流をuvw座標軸およびabc座標軸上に逆変換すると式47が得られる。
【0165】
【数47】
【0166】
式47で表せるクラスタ電流の三相交流入力側の電流成分および三相交流出力側の電流成分と、クラスタ両端に印加される電圧とで形成されるクラスタ内に流入する瞬時有効電力は、式48のように表わされる。
【0167】
【数48】
【0168】
なお、式48では、特に抑制制御のみを考察するため、簡潔に表現すべく瞬時有効電力の直流成分と2fM成分のみを表し、fS±fM成分、2(fS+fM)成分およびfS+3fM成分については省略している。
【0169】
ここで、P=√3VSScosφS=√3VMMcosφMであるので、式43の右辺第2項と式48の右辺は打ち消しあう。すなわち、直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22の抑制制御IIモードでは、循環電流を式46に示すように制御することで、循環電流にはfS+2fM成分のみを含むことになる。結果として、クラスタ電流にはfS成分およびfM成分のほかに、fS+2fM成分を含むことになる。また、直流コンデンサの交流電圧変動には2fS成分、fS±fM成分、2(fS±fM)成分、およびfS+3fM成分が含まれる。したがって、上述の通り抑制制御なしモードでは運転継続が困難であったfM=0付近についておよび上述の通り抑制制御Iモードでは運転継続が困難であったfM=fS/3付近については、抑制制御IIモード(図2において一点鎖線で示す)を用いれば、運転を継続することができる。
【0170】
以上まとめると、図2に示すように、fM=0付近では抑制制御Iモードもしくは抑制制御IIモードで電力変換器1を運転するのが有効であり、fM=0からfS/3付近までは抑制制御IIモードで電力変換器1を運転するのが有効であり、fS/3より大きい周波数領域では抑制制御なしモードもしくは抑制制御IIモードで電力変換器1を運転するのが有効であることがわかる。したがって、循環電流制御部11内に直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22を設け、三相交流出力側の電流の周波数に応じて、上記の通り抑制制御なしモード、抑制制御Iモードおよび抑制制御IIモードを適宜切り換えて電力変換器1を運転することで、三相交流出力側の周波数いかんにかかわらず、直流コンデンサの電圧の脈動抑制制御を安定して実行することができる。また、直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22による脈動抑制制御は循環電流を用いて実現するので、入出力電流の制御に干渉せずに直流コンデンサ電圧変動抑制制御を実現することができる。
【0171】
この場合、循環電流制御部11は、電力変換器1内を循環する循環電流を、直流コンデンサ電圧バランス制御部21が作成した循環電流指令値と直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22が作成した循環電流指令値とを合成した循環電流指令値に、追従させる制御をする。
【0172】
以上説明した各式に基づいて動作する制御装置をブロック図に表すと図3のようになる。図3は、本発明による電力変換器の制御装置を示すブロック図である。図3においては、各相の電流および電圧を表1〜表4に示すように一部まとめて表している。
【0173】
【表1】
【0174】
表1に示すように、各クラスタu−a、v−a、w−a、u−b、v−b、w−b、u−c、v−cおよびw−cを流れるクラスタ電流iau、iav、iaw、ibu、ibv、ibwcu、icvおよびicw図3ではiabcuvwで表す。これらクラスタ電流をαβ0変換した電流iαα、iαβ、iβαおよびiββ(すなわち循環電流)を図3ではiαβαβで表し、電流iα0およびiβ0図3ではiαβ0で表し、電流i0αおよびi0β図3ではi0αβで表す。また、三相交流入力側の電流のαβ0変換後の電流iSαおよびiSβ図3ではiSαβで表し、三相交流出力側の電流のαβ0変換後の電流iおよびi図3ではiMαβで表す。また、循環電流指令値iαα*、iαβ*、iβα*およびiββ*図3ではiαβαβ*で表す。
【0175】
【表2】
【0176】
表2に示すように、各クラスタu−a、v−a、w−a、u−b、v−b、w−b、u−c、v−cおよびw−cの各出力電圧を制御するための電圧指令値vau*、vav*、vaw*、vbu*、vbv*、vbw*、vcu*、vcv*およびvcw*図3ではvabcuvw*で表し、これら電圧指令値をαβ0変換した電圧指令値vαα*、vαβ*、vβα*およびvββ*図3ではvαβαβ*で表し、電圧指令値vα0*およびvβ0*図3ではvαβ0*で表し、電圧指令値v0α*およびv0β*図3ではv0αβ*で表す。三相交流入力側の電圧源の電圧vSu、vSvおよびvSw図3ではvSuvwで表す。
【0177】
【表3】
【0178】
表3に示すように、各クラスタu−a、v−a、w−a、u−b、v−b、w−b、u−c、v−cおよびw−c内のブリッジセルの直流コンデンサの電圧平均値であるクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値vCauave、vCavave、vCawave、vCbuave、vCbvave、vCbwave、vCcuave、vCcvave、vCcwave図3ではvCabcuvwaveで表す。これら直流コンデンサの電圧平均値をαβ0変換した値vαave、vβave、vαaveおよびvβave図3ではvCαβαβaveで表し、値vC0αaveおよびvC0βave図3ではvC0αβaveで表し、値v0aveおよびv0ave図3ではvCαβ0aveで表す。
【0179】
【表4】
【0180】
表4に示すように、各クラスタu−a、v−a、w−a、u−b、v−b、w−b、u−c、v−cおよびw−c内のj番目(ただし、j=1〜n)のブリッジセルにおける、直流コンデンサを均一にするために電力変換器1に取り込む有効電力を制御するための電圧指令値vBauj*、vBavj*、vBawj*、vBbuj*、vBbvj*、vBbwj*、vBcuj*、vBcvj*およびvBcwj*図3ではvBabcuvwj*で表す。また、各クラスタu−a、v−a、w−a、u−b、v−b、w−b、u−c、v−cおよびw−c内のj番目(ただし、j=1〜n)のブリッジセルの出力電圧の電圧指令値vauj*、vavj*、vawj*、vbuj*、vbvj*、vbwj*、vcuj*、vcvj*およびvcwj*図3ではvabcuvwj*で表す。
【0181】
図3のブロックB1では、各クラスタu−a、v−a、w−a、u−b、v−b、w−b、u−c、v−cおよびw−c内のブリッジセルの直流コンデンサの電圧平均値であるクラスタ内直流コンデンサ電圧平均値vCauave、vCavave、vCawave、vCbuave、vCbvave、vCbwave、vCcuave、vCcvave、vCcwaveを計算する。
【0182】
ブロックB2では、ブロックB1で算出した直流コンデンサの電圧平均値をαβ0変換した値vαave、vβave、vαave、vβave、vC0αave、vC0βave、v0ave、v0aveおよびvC00aveを計算する。
【0183】
ブロックB3では、vC00aveを3分の1倍する。
【0184】
ブロックB4では、各クラスタu−a、v−a、w−a、u−b、v−b、w−b、u−c、v−cおよびw−cを流れるクラスタ電流iau、iav、iaw、ibu、ibv、ibwcu、icvおよびicwをαβ0変換した電流iαα、iαβ、iβαおよびiββ(すなわち循環電流)、電流iα0およびiβ0、ならびに電流i0αおよびi0βを計算する。
【0185】
ブロックB5では、電流i0αおよびi0βを√3倍する。
【0186】
ブロックB6では、式12に基づいて三相交流入力側の電流の制御を行い、式15に基づいて三相交流入力側から電力変換器1に瞬時有効電力を取り込んで全直流コンデンサ電圧平均値を所定の直流コンデンサ電圧指令値に追従させる制御を行い、式16に基づいて三相交流入力側から電力変換器1に瞬時無効電力を取り込む制御を行う。
【0187】
ブロックB7(スター変換器間バランス制御部)とブロックB8(スター変換器内バランス制御部)とで、直流コンデンサ電圧バランス制御部21が構成される。
【0188】
ブロックB7(スター変換器間バランス制御部)では、式26に基づいてスター変換器間バランス制御を行う。
【0189】
ブロックB8(スター変換器内バランス制御部)では、式31に基づいてスター変換器内バランス制御を行う。
【0190】
ブロックB9(直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22)では、式40、式41および式46に基づいて直流コンデンサ電圧変動抑制制御を行う。上述のように、直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22では、電力変換器1の三相交流出力側の電流の周波数に応じて抑制制御なしモード(式40)、抑制制御Iモード(式41)あるいは抑制制御IIモード(式46)に適宜切り換えを行う。
【0191】
ブロックB10(循環電流制御部11)では、ブロックB7(スター変換器間バランス制御部)、ブロックB8(スター変換器内バランス制御部)およびブロックB9(直流コンデンサ電圧変動抑制制御部22)で得られた各循環電流指令値を加算し、式14に基づいて、循環電流iαα、iαβ、iβαおよびiββを循環電流指令値iαα*、iαβ*、iβα*およびiββ*に追従させる制御を行う。
【0192】
ブロックB11では、電流iα0およびiβ0を√3倍して三相交流出力側の電流iおよびiを算出する。
【0193】
ブロックB12(交流入出力電流制御部12)では、三相交流入力側の電流を交流入力電流指令値に追従させ、三相交流出力側の電流を交流出力電流指令値に追従させる制御をする。例えば、電力変換器1を三相モータのドライブ装置として用いるべく三相交流出力側に三相モータが接続される場合には、交流出力電流値として所望のモータ回転状態を得るための指令値としたり、あるいは、三相モータに流れるモータ電流をクラスタ電流から求めてこれを利用して三相モータをベクトル制御するようにしてもよい。
【0194】
ブロックB13(個別バランス制御部)では、式39に基づいて、各クラスタu−a、v−a、w−a、u−b、v−b、w−b、u−c、v−cおよびw−c内のj番目(ただし、j=1〜n)のブリッジセルにおける、直流コンデンサを均一にするために電力変換器1に取り込む有効電力を制御するための電圧指令値vBauj*、vBavj*、vBawj*、vBbuj*、vBbvj*、vBbwj*、vBcuj*、vBcvj*およびvBcwj*を計算する。本バランス制御と位相シフトPWM制御との併用により、段数に応じて式39を追加することで段数の拡張が容易に可能である。
【0195】
ブロックB14では、上述のようにして得られたαβ0座標軸上の電圧指令値vαα*、vαβ*、vβα*、vββ*、vα0*、vβ0*、v0α*、v0β*およびv00*を、αβ0逆変換し、電圧指令値vau*、vav*、vaw*、vbu*、vbv*、vbw*、vcu*、vcv*およびvcw*を算出する。
【0196】
ブロックB15では、1クラスタ中のブリッジセルの個数はn個(ただし、nは正の整数)であることから、ブロックB14で得られた電圧指令値vau*、vav*、vaw*、vbu*、vbv*、vbw*、vcu*、vcv*およびvcw*それぞれをn分の1倍することで、同一のクラスタ内にある各ブリッジセルの出力電圧指令値を計算する。
【0197】
そして、各ブリッジセルの出力電圧指令値に、ブロックB13で算出した電圧指令値vBauj*、vBavj*、vBawj*、vBbuj*、vBbvj*、vBbwj*、vBcuj*、vBcvj*およびvBcwj*をそれぞれ加算し、各クラスタu−a、v−a、w−a、u−b、v−b、w−b、u−c、v−cおよびw−c内のj番目(ただし、j=1〜n)のブリッジセルの出力電圧の電圧指令値vauj*、vavj*、vawj*、vbuj*、vbvj*、vbwj*、vcuj*、vcvj*およびvcwj*図3ではvabcuvwj*で表す)を生成する。生成された電圧指令値は制御装置10内のスイッチング制御部(図示せず)によりキャリア周波数の三角波キャリア信号(最大値:1、最小値:−1)と比較され、PWMスイッチング信号が生成される。生成されたPWMスイッチング信号は、対応するクラスタ内のブリッジセル内の半導体スイッチング素子のスイッチング制御に用いられる。なお、電圧指令値との比較に用いられる三角波キャリア信号を、互いにπ/nずつ位相差を持たせて位相シフトPWMを採用し、交流出力電圧のマルチレベル化を実現してもよい。
【0198】
次に、本発明による電力変換器1のシミュレーション結果について説明する。図4はシミュレーションに用いた主回路構成を示す図である。基本的には図1を参照して説明した主回路と同じであるが、シミュレーションでは各クラスタ内のブリッジセルの個数を6個とした。また、シミュレーションでは、表5に示す回路パラメータおよび表6に示す制御ゲインを用いた。モータ負荷は、出力電力がモータ周波数に比例する定格トルク負荷を想定し、RL負荷で模擬している。負荷インダクタンスは0.3mHで固定しており、いずれの場合でも負荷力率はほぼ1となる。
【0199】
【表5】
【0200】
【表6】
【0201】
図5は、スター変換器間バランス制御部の動作を検証したシミュレーション結果を示す図である。スター変換器間バランス制御部において、式26の右辺第2項目の制御項を無効状態から有効状態(すなわち動作開始)にした場合をシミュレーションした。なお、モータ周波数fMは25Hzとし、直流コンデンサ変動抑制制御は適用していない。スター変換器間バランス制御の無効状態ではスター変換器u、vおよびwの各直流コンデンサ電圧平均値vCuave、vCvaveおよびvCwaveに偏差が生じているが、スター変換器間バランス制御を動作させると、偏差が抑制されていることがわかる。このとき、循環電流iααおよびiαβにはモータ周波数である25Hz成分が流れており、スター変換器間で電力の授受が発生していることがわかる。また、スター変換器間バランス制御を動作させても電源電流およびモータ電流にほとんど変化が見られないため、外部電流に干渉せずバランス制御を実現していることがわかる。
【0202】
図6は、直流コンデンサ電圧変動抑制御の抑制制御Iモードの動作を検証したシミュレーション結果を示す図である。また、図7は、直流コンデンサ電圧変動抑制御の抑制制御IIモードの動作を検証したシミュレーション結果を示す図である。シミュレーションでは、モータ周波数を電源周波数の3分の1としたfM=50/3Hzの条件で直流コンデンサ電圧変動抑制御の抑制制御Iモードと抑制制御IIモードとの動作を比較した。図6に示すように抑制制御Iモードでは、スター変換器間バランス制御およびスター変換器内バランス制御によって直流コンデンサ電圧の発散を免れてはいるが、直流コンデンサ間の電圧偏差が図7に示す抑制制御IIモードの場合に比べて大きい。したがって、fM=fS/3付近の直流コンデンサ電圧バランス制御の安定性の観点から、直流コンデンサ電圧変動抑制制御部の抑制制御IIモードが有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明は、複数の単相フルブリッジ変換器の出力側がカスケード接続されて構成されるクラスタが三相交流入力側に対して一相あたり3個設けられ、三相交流入力側で異なる相にそれぞれ接続された3個のクラスタが三相交流出力側に対して同一相に設けられることで構成される三重スターブリッジセル方式のモジュラーマルチレベルカスケード変換器(MMCC−TSBC)に適用することができる。本発明は、モジュラーマルチレベルカスケード変換器を、例えば誘導モータや同期モータのためのモータドライブ装置、無効電力補償装置(STATCOM)、系統間連系設備や周波数変換設備などのBTB(Back−To−Back)システムなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0204】
1 電力変換器
10 制御装置
11 循環電流制御部
12 交流入出力電流制御部
13 有効電力制御部
14 個別バランス制御部
21 直流コンデンサ電圧バランス制御部
22 直流コンデンサ電圧変動抑制制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10