(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一の樹脂組成物が、ビスフェノールA系エピクロロヒドリン樹脂H1及びH2を、前記芳香族ポリヒドロキシエーテルP1に対して、(H1+H2):P1が0.05〜0.8の質量比の値で含有することを特徴とする、請求項1に記載の予備含浸された糸。
前記第一の樹脂組成物が、前記予備含浸された糸の総質量に対して0.4〜1.2質量%の濃度で存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の予備含浸された糸。
前記第二の樹脂組成物が、融点を20℃超える温度で、直径が25mmである接着面を基準として少なくとも5Nの接着強度を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の予備含浸された糸。
前記強化繊維フィラメントに接着性である、前記第二の樹脂組成物の粒子又は滴のサイズが、300μm未満であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の予備含浸された糸。
前記強化繊維フィラメントに接着性である、前記第二の樹脂組成物の粒子又は滴の平均サイズが、20〜150μmの範囲であることを特徴とする、請求項6に記載の予備含浸された糸。
前記第一の樹脂組成物と、前記第二の樹脂組成物との合計濃度が、前記予備含浸された糸の総質量に対して、2〜7質量%の範囲であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の予備含浸された糸。
糸が、ピッチ予備生成物、ポリアクリロニトリル予備生成物、リグニン予備生成物、又はビスコース予備生成物から得られた炭素繊維糸であるか、又はアラミド繊維糸、ガラス繊維糸、セラミック繊維糸、若しくはホウ素繊維糸であるか、又は合成繊維糸、若しくは天然繊維糸、又はこれらの繊維一種以上の組み合わせであることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の予備含浸された糸。
平らな帯状で存在し、かつ糸の幅の、糸の厚さに対する比の値が少なくとも20であることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の予備含浸された糸。
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維フィラメントの束から成る予備含浸された糸に関し、前記束には内側と外側があり、前記強化繊維フィラメントは、前記予備含浸された糸に浸漬した第一の樹脂組成物で含浸されており、当該樹脂組成物は何度も溶融可能であり、かつ室温に冷却することによって固体状態に移行可能なものである。本発明はさらに、このような糸を有するテキスタイル構造に関する。
【0002】
特に航空産業と宇宙航空産業の領域で、また例えば機械構造産業、風力産業、又は自動車産業では、繊維強化材料製の部材がますます用いられている。繊維強化材料には金属に比してしばしば、重量が軽い、及び/又は強度が高いという利点がある。この重要な側面は同時に、このように負荷可能であり、なおかつ重量の軽い複合材料部材が、コスト的に有利に製造できることにつながる。負荷耐性の観点、すなわち剛性と強度の点では、複合材料部材の場合、強化繊維の体積割合、特にまた強化繊維の配向性が、非常に大きく影響する。
【0003】
しばしば用いられる作製法は現在、いわゆるプリプレグ技術に基づく。ここで強化繊維、例えばガラス繊維又は炭素繊維は、例えば相互に平行に配置され、マトリックス樹脂内に埋め込まれ、帯状の半製品に加工される。部材作製のためには、この帯状体を部材の輪郭に応じて切断し、機械により、又は手で一層ごとに、部材の負荷に必要な強化繊維の配向性を考慮しながら、積層して製品にする。引き続き、マトリックスの硬化は、圧力と温度を考慮してオートクレーブ内で行われる。プリプレグ(英語のpre-impregnated fibersの略称)は通常、既に2つの成分(繊維とマトリックス樹脂)を最終的な混合比で有し、このため既に半完成品として曲げ耐性がある。事前の不所望の反応を避けるため、この材料はさらに冷却して貯蔵しなければならないが、それでも貯蔵時間は限られている。この曲げ耐性と、幅のある巻取り品として製造されることが原因で、プリプレグが適用されるのは、面積が大きく、ほぼ平らな部材の場合に限定されている。既存のマトリックス樹脂はテキスタイル加工ができず、プリプレグは、例えば狭い半径に沿って、又は著しく立体的な形状ではたたまずに保管できない。
【0004】
テキスタイル加工性が改善されている、含浸された糸製品を得るための例は例えば、US-A-5 275 883、及びUS-A-4 614 678に記載されており、ここには被覆を備える強化繊維糸が開示されている。これらの文献に記載の強化繊維糸は、まずポリマー粉末の混合物をぶつけ、続いてカバー、好ましくは熱可塑性ポリマー製のカバーで被覆し、ポリマー粉末を内部で安定化させる。これらの糸材料は、確かに一定の可撓性を有するが、しかしながら透過性の熱可塑製カバーのため、総体的に硬く、このため例えばテキスタイル的なさらなる加工法への適性は、限定的である。
【0005】
類似の生成物はEP-A 0 554 950 A1に開示されており、この文献は、まず開放性の強化繊維の糸束を、熱可塑性ポリマー粉末で含浸し、続いてこの含浸された繊維束に、熱可塑性ポリマーの透過性カバーを備えさせる方法に関するものである。これにより生じるカバーされた束は、熱可塑性プラスチックの軟化温度を超える温度でカレンダー成形され、この後、この束は最後に、顆粒状に切断される。この顆粒は、押出成形又は射出成形のような方法による複合体の製造に用いられる。
【0006】
EP-A-0 814 916 B1は、いわゆるトウプレグ(Towpreg)が記載されており、これはテキスタイルの予備成形工程で用いるのに適しており、ここでこのようなテキスタイルの予備成形工程に属するのはとりわけ、織り工程、編み工程、若しくはニット工程、又は糸巻き法(フィラメントワインディング)であるか、又は短い断片に加工可能なものである。EP-A-0 814 916 B1のトウプリプレグには多くの繊維と、マトリックス樹脂製の被覆が含まれ、ここで前記繊維は、実質的にマトリックス樹脂不含の内部繊維の配置において、また外部繊維の配置において構造化されており、ここで外部繊維は、マトリックス樹脂製の非透過性カバー内に、少なくとも部分的に埋め込まれている。トウプリプレグの製造は、マトリックス樹脂の粉末状粒子を、外部繊維に施与し、引き続きマトリックス樹脂粒子を部分的に溶融させることによって行われる。ここで使用するマトリックス樹脂は、熱硬化性又は熱可塑性の材料であり得る。
【0007】
US-A-6 228 474もまた、エポキシ樹脂組成物で含浸した強化繊維束製のトウプリプレグの製造に取り組んでおり、ここでトウプリプレグにおける樹脂の割合は、20〜50質量%の範囲である。エポキシ樹脂組成物は1つの実施態様において、2種以上のエポキシ樹脂を含むことがあり、これは単官能性若しくは二官能性のエポキシ樹脂と、三官能性又はそれより高い官能性のエポキシ樹脂との混合物であり得る。このエポキシ樹脂組成物はさらに、エポキシ樹脂に不溶性のゴム材料の微粒子と、エポキシ樹脂用の硬化剤成分を含有する。
【0008】
実質的に空洞や細孔が無い部材構造を得るため、トウプリプレグはマトリックス樹脂の含分が充分に高くなければならず(通常は15体積%超)、さらなるマトリックス樹脂を加えてはならない。このようなトウプリプレグは確かに、帯状のプリプレグに比べて、可撓性が高い。しかしながら特に、マトリックス樹脂含分が高いため、テキスタイル工程においてさらなる加工性は限定されている。加えて、マトリックス樹脂の存在によりたいていは、トウプリプレグの接着性強化につながり、これによってこのトウプリプレグの取り扱い時におけるコストが高くなる。さらに通常は、マトリックス樹脂の硬化が制御不能になるのを避けるため、さらなる加工の時点までトウプリプレグを継続的に冷却することが必要となる。最後にトウプリプレグには、三次元構造を作製する際、例えば繰り返し変形できないといった欠点がある。
【0009】
強化繊維製の繊維複合部材はますます、いわゆるニアネットシェイプの繊維予備成形体(「プリフォーム」)を上回って製造されている。これは実質的に、この繊維予備成形体が、強化繊維製の二次元又は三次元構造体の形をしたテキスタイルの半製品であり、繊維複合部材を製造するためのさらなる工程でこの半製品には、適切なマトリックス材料がインフュージョン又は注入によって、また真空を適用しながら導入される。最後に、マトリックス材料の硬化は通常、高温、高圧下で行われ、完成部材になる。マトリックス材料のインフュージョン又は注入のための公知の方法は、ここでいわゆる液体成形(Liquid Molding法)、又はこれに近い方法には例えば、レジントランスファー成形(RTM)、真空補助式レジントランスファー成形(VARTM)、樹脂膜インフュージョン(RFI)、液体樹脂インフュージョン(LRI)、又はレジンインフュージョンフレキシブルツーリング(RIFT)がある。これらの適用のためには、後の複合部材のために必要な量のマトリックス樹脂をまだ有さない強化繊維を用いる。と言うのも、マトリックス材料(例えば前述のもの)は、後続の加工工程で最終的な繊維予備成形体にするからである。他方、繊維予備成形体の製造に使用される繊維材料が、既に例えば僅かな量の硬化性又は温度低下により固体になるプラスチック材料(すなわち結合材料)で予備含浸されている場合には、繊維予備成形体における強化繊維の固定性を改善し、かつ繊維予備成形体に充分な安定性を与えるという利点がある。
【0010】
WO 98/50211は、繊維予備成形体の製造の際に適した、結合材料で被覆された強化繊維の使用に関し、ここでは結合材料が粒子の形態又は不連続の範囲で、強化繊維の表面に施与される。この結合材料は40〜90質量%が熱硬化性樹脂から成り、10〜60質量%が、後に繊維予備成形体から製造される繊維複合部材で使用されるマトリックス材料に適合された熱硬化性樹脂から成る。強化繊維に担持された結合材料は室温で固体であり、非接着性である。WO 98/50211によれば、このように被覆された強化繊維、又は例えばこの強化繊維から製造された織布は、ドレープ性が良好である。WO 98/50211によれば、それぞれ糸はまず結合材料を備えることができ、引き続き織布に加工できる。固定された糸幅を有する平面状の糸(自動的に繊維予備成形体へと直接加工するために慣用の糸)を製造するためには、WO 98/50211の糸は適していない。加えて、WO 98/50211に記載の結合材料で被覆された強化繊維は部分的に、結合材料を最大20質量%と比較的高く有することができ、このためこれから製造された繊維予備成形体の含浸性が、悪化し過ぎることにつながることがある。
【0011】
繊維予備成形体を製造するための予備含浸された糸はまた、WO 2005/095080に記載されている。WO 2005/095080の糸の場合、予備含浸された糸のフィラメントは樹脂組成物によって少なくとも部分的に結合され、この際に糸は、その全質量に対して樹脂組成物を2.5〜25質量%有し、ここでこの樹脂組成物は、少なくとも2種のエポキシ樹脂の混合物から成り、ここでこれらのエポキシ樹脂は、エポキシ値と分子量において異なる。この混合物におけるエポキシ樹脂の質量比は、樹脂組成物のエポキシ値が550〜2100mmol/kgであるように選択される。代替的には、ビスフェノールA系エピクロロヒドリン樹脂3種(エポキシ値、分子量、及び融点の点で規定の特性を有するもの)の混合物が提案されている。これらの樹脂組成物は、何度も溶融可能であり、室温に冷却することにより再度固体状に移行可能であり、かつこれにより予備含浸された糸が室温で非接着性であるが、高温下では接着性を有するように選択される。しかしながら、WO 2005/095080の樹脂組成物で含浸された糸は、あらゆる適用において充分な接着性を有するわけではなく、例えば糸が例えば90°の角度で相互に配置された糸における適用では接着性が不充分なことが示されている。
【0012】
従って、繊維予備成形体を製造するための、予備含浸された糸の改善要求が存在する。
【0013】
そこで本発明の課題は、このように改善され、予備含浸された強化繊維糸であって、特に繊維予備成形体の製造の際に用いるためのものを提供することであった。
【0014】
この課題は、強化繊維フィラメント製の束から成る、予備含浸された糸によって解決され、上記束には、内側と外側があり、
・前記強化繊維フィラメントは、前記予備含浸された糸に浸漬した第一の樹脂組成物で含浸されており、かつ、前記予備含浸された糸のフィラメントは、第一の樹脂組成物によって少なくとも部分的に結合されており、かつ
・前記第一の樹脂組成物は、少なくとも2種のビスフェノールA系エピクロロヒドリン樹脂H1及びH2を、H1:H2の質量比の値が1.1〜1.4で含有し、
・H1はエポキシド値が1850〜2400mmol/kgであり、平均分子量M
Nが800〜1000g/molであり、かつ室温で固体であり、
・H2はエポキシド値が5000〜5600mmol/kgであり、平均分子量M
Nが700g/mol未満であり、かつ室温で液状である、
前記予備含浸された糸において、その特徴は以下の通りである:
・前記予備含浸された糸は、前記第一の樹脂組成物を、総質量に対して0.1〜2質量%含有し、
・前記第一の樹脂組成物はさらに、芳香族ポリヒドロキシエーテルP1を含有し、当該P1の酸価は40〜55mgKOH/gであり、かつ当該P1の平均分子量M
Nは4000〜5000g/molであり、かつ
・前記予備含浸された糸は、前記束の外側に第二の樹脂組成物を、前記強化繊維フィラメントに接着性の粒子又は滴の形で有し、
・前記第二の樹脂組成物は室温で固体であり、80〜150℃の範囲の溶融温度を有し、かつ前記束の外側に、前記予備含浸された糸の総質量に対して0.5〜10質量%の濃度で存在し、
・前記束の外側の面積の少なくとも50%が、前記第二の樹脂組成物不含であり、
・前記束の内側は、前記第二の樹脂組成物不含である。
【0015】
このように予備含浸された糸は、三次元安定性が優れており、何度も溶融可能であり、室温に冷却することによって再度固体又はほぼ固体の状態に移行可能なことが判明している。さらに本発明による糸の場合、樹脂で被覆された糸が室温で非接着性であるように、前記樹脂を選択することができる。
【0016】
ここで非接着性の状態とは、例えば市販で得られる標準的な炭素繊維の場合にも存在し、例えば巻取りコイルに問題なく巻取り可能である状態と理解される。よってこのような糸はこの場合、巻取り可能なだけではなく、巻取られた状態でそのテキスタイル特性を維持したままで貯蔵でき、室温で長期間貯蔵した後でも、再度巻取り可能である。例えば本発明による糸は、12ヶ月の貯蔵時間後でも、問題なく巻取ることができ、DIN65382に従い測定した強度、弾性モジュール、及び破断点伸びという特性について、最大でほとんど変わらない値を示す。好ましい実施態様においては、第一及び/又は第二の樹脂組成物は、硬化剤不含である。
【0017】
本発明による糸は、短繊維フィラメント製の糸であるか、又は連続フィラメント製の糸であり得る。糸が連続フィラメントから成る場合、フィラメントの数は好適には6000〜48000フィラメントの範囲、特に好ましくは12000〜24000フィラメントの範囲にあり得る。同様に、400〜32000texの範囲の番手を有する糸が好ましく、800〜16000texの範囲の番手を有する糸が特に好ましい。
【0018】
さらに好ましい実施態様では、本発明による糸は、ピッチ予備生成物、ポリアクリロニトリル予備生成物、リグニン予備生成物、又はビスコース予備生成物から得られた炭素繊維であるか、又はアラミド繊維糸、ガラス繊維糸、セラミック繊維糸、又はホウ素繊維糸であるか、合成繊維糸、又は天然繊維、又は一種以上のこれらの繊維の組み合わせである。特に好ましくは、本発明による糸は、炭素繊維糸である。
【0019】
上述のように、本発明による糸は三次元安定性が高く、ここで三次元安定性とは、糸が安定的で、固定された糸幅、又は糸幅対糸の厚さの安定的な比率を有することと理解されるべきであり、また本発明による糸は支持されずに張力下で長距離にわたっても、又はテキスタイル工程で更に加工しても、そのままであるということである。これらの優れた三次元安定性に基づき、自動的な加工、例えば繊維予備成形体を形成するための自動化された配置が可能になる。さらに、固定され、安定的な、本発明による糸の糸幅により、繊維予備成形体製造の際、相互に配置された糸の安定的な接着につながる。本発明による糸の三次元安定性は大部分、予備含浸された糸に浸漬した第一の樹脂組成物によるものであり、ここで芳香族ポリヒドロキシエーテルP1の割合が、重要な役割を果たす。好ましい実施態様において、第一の樹脂組成物は、ビスフェノールA系エピクロロヒドリン樹脂H1及びH2を、芳香族ポリヒドロキシエーテルP1に対して、(H1+H2):P1の質量比の値が0.05〜0.8であるように含有する。試験では、質量比が0.05未満になると、糸の摩耗性が上昇し得ることが観察されている。これに対して質量比の値が0.8超になると、形状安定性が低い糸につながる。片面での三次元安定性と、もう片面でのドレープ性の観点では、第一の樹脂組成物が、予備含浸された糸の総質量に対して0.4〜1.2質量%の濃度で存在することが有利である。
【0020】
本発明による糸は、既にその製造の際に簡単な方法で平面的な帯状にすることができ、これはまず含浸されていない、容易に延展可能な糸を、適切な延展機により浴に通して、第一の樹脂組成物で含浸することによって行う。ここで第一の樹脂組成物は、糸のフィラメントを少なくとも部分的に結合し、非常に良好な結合力を有する。さらに、第一の樹脂組成物がその組成物に基づき、射出成形され、さらに含浸された糸に高い三次元安定性を付与し、これによって小さな帯形状は維持されたままであり、糸はこの形状で第二の樹脂組成物の施与後、例えば巻取りコイルに巻取ることができる。後に、本発明により予備含浸された糸は、さらなる措置無しで加工でき、その措置とは例えば適切な延展機による移行、テキスタイル構造(例えば二次元若しくは三次元の繊維予備成形体)、又は二次元構造体(例えば一方向の織布、若しくは複軸配置の形態)を製造するための通常の配置法によって行われるものである。この高い三次元安定性によって、予備含浸された糸の有利な態様において、糸幅の、糸の厚さに対する比の値が、少なくとも20である平面的な帯状で存在することが可能になる。特に好ましい実施態様において、この平面的な帯は、糸の幅の糸の厚さに対する比の値が、25〜60の範囲である。
【0021】
束の外側に施与された第二の樹脂組成物によって、本発明により予備含浸された糸は、上述のように室温では接着性がなく、例えば巻取ることができる。しかしながら高温下では、第二の樹脂組成物によって高い接着性が得られ、これはまた本発明による糸がある角度で相互に配置された構造物でも、冷却後に繊維予備成形体の構造物の高い安定性につながる。従って本発明による糸によって、糸を固定するためにコストの高い方法で結合材料をさらに追加せずに予備成形体が製造でき、それにも関わらず、糸の間の結合力は、従来技術の予備成形体のものよりも改善されている。
【0022】
同時に、記載された第二の樹脂組成物の濃度では、特に第二の樹脂組成物を、強化繊維フィラメントに接着する粒子又は滴の形で施与することにより、可撓性が高く、かつ良好なドレープ性を有する予備含浸された糸につながることが判明し、ここで束の外側の面積の少なくとも50%が第二の樹脂組成物不含であり、束の内側は、第二の樹脂組成物不含である。ここで、強化繊維フィラメントに接着する第二の樹脂組成物の粒子又は滴のサイズが、300μm未満であれば有利であり、また平均サイズが20〜150μmであれば特に有利であると判明している。
【0023】
特に接着性又は接着強度の点で本発明による糸の特性を達成するため、好ましい実施態様では、ビスフェノールA系エピクロロヒドリン樹脂H3であって、エポキシド値が480〜645mmol/kgであり、かつ平均分子量M
Nが2700〜4000g/molのもの、芳香族ポリヒドロキシエーテルP2、ポリアミド、ポリエチレン、エチレンコポリマー(例えばエチレンビニルアセテート(=EVA)のコポリマー)、若しくは熱可塑性ポリウレタン樹脂、又はこれらの化合物の混合物を少なくとも50質量%、第二の樹脂組成物が含有し、前記化合物は、融点が80〜150℃の範囲である。これにはまた、例えばビスフェノールA系エピクロロヒドリン樹脂H3が、ビスフェノールA系エピクロロヒドリン樹脂2種以上の混合物である場合が含まれるが、ただし、エポキシド値が480〜645mmol/kgであり、かつ平均分子量M
Nが2700〜4000g/molであり、融点が80〜150℃の範囲のものに限られる。
【0024】
特に好ましくは、第二の樹脂組成物は、上記化合物を少なくとも80質量%、極めて特に好ましくは少なくとも90質量%含有する。特に適切な実施態様では、第二の樹脂組成物が、上記化合物から成るか、又は上記化合物の混合物から成る。
【0025】
第二の樹脂組成物において使用される芳香族ポリヒドロキシエーテルP2と、第一の樹脂組成物に含有される芳香族ポリヒドロキシエーテルP1は、同じであっても異なっていてもよい。しかしながら芳香族ポリヒドロキシエーテルP2は同時に、融点が80〜150℃の範囲にあるという条件を満たさねばならない。
【0026】
繊維予備成形体を製造する際に、予備含浸された糸の接着強度を充分に高くするため、第二の樹脂組成物は、その融点より高い温度で良好な接着力好ましくは又は付着強度を有する。好ましい実施態様において第二の樹脂組成物は、融点を20℃上回る温度で、付着強度又は接着力が、直径25mmの接着面を基準として少なくとも5Nである。接着力又は付着力の測定は、ASTM D 2979を用いて行う。ここで接着力又は付着力とは、第二の樹脂組成物と接着面とを規定の負荷及び温度で、規定時間の間に接触させた直後に、第二の樹脂組成物の試料を接着面から分離するために必要な力とする。この測定の詳細については、後述する。
【0027】
本発明により予備含浸された糸の全体的な特性という観点、特に後にインフュージョン又はマトリックス樹脂による注型で、糸から製造される繊維予備成形体の良好な含浸特性を得るためには、第二の樹脂組成物の濃度が、第一の樹脂組成物の濃度よりも高いことが有利である。同様に、第一の樹脂組成物と、第二の樹脂組成物との合計濃度が、予備含浸された糸の総質量に対して、2〜7質量%の範囲であれば有利である。
【0028】
第一の樹脂組成物を糸に浸漬、又は第一の樹脂組成物による糸の含浸は原則的に、第一の樹脂組成物による糸の強化繊維フィラメントの迅速かつ完全な濡れをサポートするあらゆる技術が適している。このような方法は例えば、EP 1 281 498 Aに記載されている。例えば糸に、第一の樹脂組成物の分散液又はエマルションを吹き付けることができる。また、樹脂の分散液又はエマルションの塗膜を、平らなローラ又はローラの溝に塗布し、糸を平らなローラを介して、又はローラの溝を通して引っ張ることもできる。好ましくは糸を、第一の樹脂組成物の分散液又はエマルションを含有する浴に通す。同様に、糸を順次、第一の樹脂組成物の各成分で含浸することが可能であり、例えば糸を順次、第一の樹脂組成物の各成分を含有する異なる分散浴に通すことができる。ここで、含浸工程に置かれた糸をまず、適切な延展機によって所望の幅に延展して、各繊維又は各フィラメントを良好に含浸できるようにする。含浸すべき糸の束を好適には、本発明により予備含浸した糸について最終的に目標とする糸幅と糸の厚さとの比を有する、平らな帯状の形にする。
【0029】
上記の樹脂分散液又は樹脂エマルションには、液相として原則的に、本発明により使用される樹脂と安定的な分散液又はエマルションを形成するあらゆる液体混合物が適している。これらの液体混合物のうち、放出性の点で環境を保護するという理由から、水性であり、かつVOC(有機溶剤含分)が僅かなものが特に適している。ここで第一の樹脂組成物の成分は、粒子としてマイクロメーター範囲のものが有利であり、0.1μm未満の大きさのものが特に好ましい。
【0030】
もちろん、第一の樹脂組成物の分散液を含有する浴に糸を通す速度によって、浸漬する長さによって、また浴中の樹脂の濃度によって、第一の樹脂組成物の塗布量を、糸の総質量に対して調整することができる。ここで糸を浴に通す速度は、好適には120〜550m/h、特に好ましくは150〜250m/hである。浸漬する長さは好適には、0.2〜1mである。分散液中の樹脂濃度は、その質量に対して好適には2〜35質量%、特に好ましくは2〜7質量%である。
【0031】
第一の樹脂組成物による糸の含浸に引き続き、糸又は糸の束の外側に、第二の樹脂組成物をぶつける。このために含浸後、第二の樹脂組成物を粉末の形で外側に、好適にはまだ湿っている糸の束の外側に塗布する。第二の樹脂組成物の塗布は例えば、粉末撒布法によって、水性分散液によって、又は流動床法により行うことができ、これらは例えばUS-A-5 275 883、又はUS-A-5-094-883に記載されており、ここでこれらの粒子はまた、静電的な粉末スプレーの場合にも、静電的に帯電させることもできる。
【0032】
粒子状で存在する第二の樹脂組成物は粒径分布を有し、ここで好ましい実施態様において、レーザー回折分析によって測定した粒径分布は、平均粒径について粒径に特徴的なD
50値が約20〜120μmの範囲であり、D
90値が70〜160μmの範囲である。特に好ましくは、粒径分布についてD
50値が30〜100μmの範囲であり、D
90値が85〜155μmの範囲である。
【0033】
第一及び第二の樹脂組成物を有する糸を乾燥させるため、乾燥温度は100〜160℃の範囲が、特に適していると実証されている。この際同時に、第二の樹脂組成物が溶融し、束の外側に接着性の粒子又は滴が島状に形成される。
【0034】
本発明による予備含浸された糸の製造は、出発糸の製造工程に統合することができる。つまり、第一の樹脂組成物による糸の含浸と、第二の樹脂組成物の糸への施与は、置かれた糸の製造工程に直接、連続することができる。しかしながらまた、例えば巻取りコイルに巻取られて存在する出発糸も、別個の工程で第一の樹脂組成物を、続いて第二の樹脂組成物を備えることができる。同様に、第一の樹脂組成物で含浸され、巻取りコイルに巻取られている出発糸も、その後に別個の方法工程で第二の樹脂組成物を有することができる。
【0035】
本発明により予備含浸された糸は有利には、テキスタイル構造体(例えば繊維予備成形体)の製造に使用することができる。
【0036】
よって本発明のさらなる課題は、上述の本発明による糸を有するテキスタイル構造体によって解決され、ここで前記糸が好適には、接触箇所とは反対側で、第二の樹脂組成物によって相互に結合されている。好ましい実施態様において、このテキスタイル構造体は、繊維予備成形体である。
【0037】
本発明による糸からは、樹脂組成物の溶融及び再硬化後に、例えば特に耐スリップ性が高い繊維予備成形体が得られる織布も製造することができるが、このような繊維予備成形体は、本発明による糸から直接作製することが有利である。なぜならばこの場合、本発明による繊維予備成形体によって製造される複合材料を用いる際、非常に高い機械的負荷が予測される方向に、糸を配置することができるからである。
【0038】
そこで本発明による繊維予備成形体の好ましい態様においては、糸を一方向に配置し、これによって予備成形体を、その使用の際に最大の機械的負荷が予測される方向に糸が配置された複合部材にさらに加工することができる。
【0039】
本発明による繊維予備成形体のさらに好ましい態様では、糸が二方向、三方向、又は多方向に配置されており、これによって繊維予備成形体を、その使用の際に糸の2つ以上の方向において、最大の機械的負荷が予測される方向に糸が配置された複合部材にさらに加工できる。
【0040】
本発明による繊維予備成形体の上述の平面的な実施態様に加えて、単一方向、二方向、三方向、又は多方向に配置された糸を、例えばシリンダー形状の物体に巻き付けることができ、これにより三次元的な繊維予備成形体が得られる。
【0041】
さらに、本発明による繊維予備成形体の実施態様において好ましくは、本発明による糸を短い断片に破砕し(短切片)、この断片はあらゆる空間方向に配置されていてよい。これによりこの繊維予備成形体は特に、その使用の際にはあらゆる空間方向における負荷が生じ得る複合部材の製造に適している。
【0042】
本発明の課題はさらに、以下の工程を有する繊維予備成形体の製造方法により解決される:
a)本発明による糸を少なくとも1つ、置く工程、
b)少なくとも1つの糸を、所望の繊維予備成形体の形状に相当する形状に配置する工程、
c)工程b)で生じる形状を第二の樹脂組成物の融点を超える温度で加熱する工程、
d)工程c)で生じる形状を少なくとも第二の樹脂組成物の融点を下回る温度に冷却する工程。
【0043】
本発明による方法の好ましい実施態様では、工程c)において工程b)で生じる形状を加熱と同時にプレスする。
【0044】
本発明による繊維予備成形体、又は本発明による方法により製造される繊維予備成形体は、スリップ強度が高い。なぜならば、本発明による繊維予備成形体の糸は、少なくとも第二の樹脂組成物によって相互に結合されているからである。このため、本発明による繊維予備成形体は、良好に取り扱うことができ、このことは特に複合部材へとさらに加工する際に有利である。
【0045】
本発明による繊維予備成形体又は本発明による方法により製造される繊維予備成形体が、開口部を有するのが望ましい場合、糸を適切に配置することによって、あらゆる切断損失なく実現できる。このようにして金銭的、また作業的コストがかかる切断が省略され、廃棄物も出ない。これによって開口部のある複合部材の製造が容易になり、安価になる。
【0046】
さらに、本発明による繊維予備成形体、又は本発明により製造される繊維予備成形体の製造に際して、テキスタイルの平面構造物の代わりに本発明による糸を用いることにより、後で製造される複合部材を用いる際に、最大の機械的負荷が予測される方向に糸を配置することができる。
【0047】
例えば、本発明による方法の好ましい実施態様では、繊維予備成形体を製造するために工程b)において本発明による糸を一方向に配置し、これにより工程d)の後に、糸が一方向に配置されている本発明による繊維予備成形体を得る。
【0048】
本発明による予備成形体を製造するための本発明による方法のさらに好ましい実施態様では、工程b)において本発明による糸を二方向、三方向、又は多方向に配置して、所望の繊維予備成形体の配置に相応する配置にすることができる。この際、本発明による糸のみを使用できる。同様に、糸の配置内部で、一部が本発明による糸のみから成り、残りはそのフィラメントが樹脂被覆や、一般的に炭素繊維の加工性改善の為に用いられる糸調製物を何ら有さない糸から成っていてよい。この方法で形作られた糸は、本発明による方法の工程c)において第二の樹脂組成物の融点を超える温度で加熱し、この際に糸をプレスしてもよい。これによって糸が、接着性になる。工程d)において少なくとも第二の樹脂組成物の融点を下回る温度に冷却後、二方向、三方向、又は多方向に糸が配置された、本発明による繊維予備成形体が生じる。
【0049】
本発明による繊維予備成形体の製造方法のさらなる態様では、本発明による糸を短い断片に切断するが、これは例えば長さが1〜1000mm、好適には1〜40mmであり、工程a)で1つの形の短い糸の断片が配置される。その後、本発明による方法の工程b)において、短い糸の断片は、第二の樹脂組成物の融点を超える温度で加熱され、これにより短い糸の断片は接着性になり、この際にプレスしてもよい。工程d)において少なくとも第二の樹脂組成物の融点を下回る温度に冷却後、本発明による繊維予備成形体が生じ、ここで本発明による糸は、異方性方向を有する短糸として存在する。
【0050】
本発明による繊維予備成形体、又は本発明による方法により製造された繊維予備成形体、又は本発明による使用から生じる繊維予備成形体は、既に上述の理由から、マトリックスを有する複合部材の製造に有利に使用でき、前記マトリックスは、ポリマー、金属、セラミック、水硬性結合材料、及び炭素の群から選択されており、ここでポリマーマトリックスとしては熱可塑性プラスチック(例えばポリアミド、コポリアミド、ポリウレタンなど)、又は熱硬化性樹脂(例えばエポキシド)、金属マトリックスとしては例えば鋼(合金)、又はチタン、セラミックスマトリックスとしては例えば炭化ケイ素と窒化ホウ素、水硬性結合材料としてはモルタルとコンクリート、及び炭素マトリックスとしては例えば黒鉛が適している。
【0051】
本発明による使用から生じる複合部材では、本発明による糸が、複合部材を使用する際に、最大の機械的負荷が予測される方向に配置されている。よって、本発明による糸を使用することにより、また本発明により製造される繊維予備成形体を本発明により使用することにより、適度な切断によって糸の配向性が、予測される機械的負荷に適合された複合部材につながる。
【0052】
本発明を以下の実施例と比較例により、より詳細に説明する。この際に、以下の分析法を用いた。
【0053】
使用するエポキシド樹脂のエポキシド値は、DIN EN ISO 3001 :1999に従って測定する。
【0054】
分子量はGPC分析により、DIN 55672に従ってポリスチレン標準で測定する(溶離剤はテトラヒドロフラン)。
【0055】
酸価(mg/KOH)は、DIN 53240-2に従い水酸化カリウムによる滴定で測定する。
【0056】
粒径分布は、ISO 13320によりレーザー回折分析で測定する。粒径分布から引き続き、粒径について特徴サイズD
50とD
90を測定する。
【0057】
融点はDSCにより、DIN 65467に従い測定する。
【0058】
第二の樹脂組成物の接着力又は付着力は、融点を20℃上回る温度でASTM D2979を用いて測定する。接着力又は付着力とは、第二の樹脂組成物と接着面とを規定の負荷及び温度で、規定時間の間に接触させた直後に、第二の樹脂組成物の試料を接着面から分離するために必要な力として測定する。このために引張試験に適し、相応する力受容性を備える測定装置、例えばRheometer MCR 301(Anton Paar GmbH社製)を用いた。ここで接着力又は付着力の測定は、アルミニウム製のプレート(AlCuMgPb、材料番号3.1645 EN AW 2007)を有するプレート−プレートの測定形状で行い、そのプレート直径は25mmであった。
【0059】
試験すべき樹脂組成物約5gを(好適には粉末状で)、室温でプレート−プレート測定システムの下部プレートに施与する。測定システムのプレートを、試料材料が接触する直前まで、上側のプレートを動かしてその間の距離を約2.025mmにした。引き続き、この試料を適切な温度調整装置によって(例えばペルティエ式の温度処理システム)、試験すべき第二の樹脂組成物の溶融温度を20℃上回る、必要な測定温度に加熱する。測定温度に達した後、測定システムのプレートを、試料材料に接触するまで動かして、その距離を2mmにし、この試料材料を10Nという一定の力で5秒間プレスした。
【0060】
引き続き、上側のプレートを2mm/秒という一定の引張速度、及び一定の温度で上方に動かし、この際に必要な力を連続的に記録する。プレートの引き剥がしに必要な力の最大値を、試験した試料の接着性又は付着力の基準とする。
【0061】
予備含浸された糸の接着強度は、DIN EN 1465:2009を用いて測定する。このために、5つの糸の断片を順次交互に向き合って配置し、配向性0°で挿入型に配置し、端部が型の真ん中で互いに重なる長さが2cmになるように置く。重なっている長さと、使用する糸の幅から、接着面積Aが得られる。糸断片からできたステープルは炉内で、第二の樹脂組成物の融点を20℃超える温度で5分間処理し、ここでこのステープルは、中央領域で2kgという物質の質量によって負荷される。この際に活性化、すなわち第二の樹脂組成物の溶融につながる。冷却後に、こうして製造された試験体を引っ張り剪断試験にかけ、これは試験体の端部を10mm/分という試験速度で相互に引っ張ることによって行った。糸の接着強度を特徴付ける引張剪断強度は、最大の力F
max[N]と、接着面積A[mm
2]から、下記式によって算出される:
引張剪断強度=F
max[N]/A[mm
2]
【0062】
糸と樹脂組成物の総質量を基準とした樹脂組成物の濃度は、硫酸/過酸化水素を用いた抽出によってEN ISO 10548の方法Bにより特定する。
【0063】
実施例1:
糸の番手が800texで12000フィラメントの炭素繊維フィラメント糸を乾燥状態で、速度が約100m/h、糸の張力が1800cNで、第一の樹脂組成物の水性分散液を含有する浴に通した。この浴は、20℃の温度に温度調整されていた。この水性分散液は、第一の樹脂組成物として第一のエポキシ樹脂H1と、第二のエポキシ樹脂H2を、1.6質量%の濃度で含有しており、ここで樹脂H1とH2との質量比の値は、1.2であった。第一のエポキシ樹脂H1は、エポキシ値が約2000mmol/kgであり、平均分子量M
Nが900g/molであり、室温で固体であった。第二のエポキシ樹脂H2は、エポキシ値が約5400mmol/kgであり、平均分子量M
Nが700g/mol未満であり、室温で液体であった。この水性分散液はさらに、14.4質量%の濃度で直鎖状の芳香族ポリヒドロキシエーテルP1を含有しており、これは酸価が50mgKOH/g、平均分子量M
Nが4600g/molであり、室温で固体であった。
【0064】
第一の樹脂組成物の水性分散液を含有する浴を通した後、第一の樹脂組成物で浸漬した糸を、150℃の温度で乾燥させた。乾燥後に、炭素繊維フィラメント糸は、成分H1、H2、及びP1から成る第一の樹脂組成物を、第一の樹脂組成物で含浸された糸の質量に対して0.6〜0.8質量%の濃度で含有しており、良好な糸閉鎖性を示した。これはすなわち、炭素繊維フィラメント糸のフィラメントが、少なくとも部分的に第一の樹脂組成物によって相互に結合されているということである。
【0065】
乾燥に引き続き直ちに、第一の樹脂組成物で含浸した糸を、第二の水性分散液を含有する第二の浴に通した。第二の水性分散液は、同様に第一の樹脂組成物を含有していたが、ただしその濃度は0.5質量%である。この分散液はさらに、6.75質量%の濃度で、本実施例に従い、エポキシ樹脂H3から成る第二の樹脂組成物を含有していた。このエポキシ樹脂H3は、エポキシド値が500〜645mmol/kgであり、平均分子量M
Nが2900g/molであり、室温で固体であった。第二の樹脂組成物の接着力又は付着力は、10Nと特定された。エポキシ樹脂H3は、分散液中に粉末の形で存在しており、平均粒径D
50は70μmであり、D
90は125μmであった。
【0066】
第二の浴を出た後、さらに第一及び第二の樹脂組成物を負荷した糸を乾燥させたが、この乾燥は2つの相互に配置された水平型乾燥機によって行い、そこで200〜220℃の温度で乾燥させた。こうして得られる予備含浸された糸は、第一及び第二の樹脂組成物を、予備含浸された糸の総質量に対して4.8質量%の総濃度で有していた。この際に予備含浸されて完成した糸は、その外側に島状又は滴状の形をした第二の樹脂組成物の接着を示す一方、糸の内側は第二の樹脂組成物不含であった。予備含浸された糸は安定的な形状を有し、糸の幅対糸の厚さの比の値が38であった。含浸された糸の接着強度は、良好であった。単一方向に接着された糸を分離するためには、553Nの力が必要であり、これによって4.03N/mm
2という引張剪断強度が算出された。
【0067】
実施例2:
実施例1と同じように行った。実施例1と異なるのは、第一及び第二のエポキシ樹脂(H1とH2)の濃度が1.65質量%であり、直鎖状の芳香族ポリヒドロキシエーテルP1の濃度が、14.85質量%であったことである。
【0068】
第二の樹脂組成物としては同様に、実施例1で使用したエポキシ樹脂H3を用いた。実施例1とは異なり、第一の樹脂組成物が負荷され、まだ湿っている炭素繊維フィラメントの糸を、第一の樹脂組成物の分散液を含有する浴から出した後、乾燥を行わずに、通常の粉末被覆チャンバに入れ、第二の樹脂組成物を粉末被覆によって第一の樹脂組成物を浸漬した糸に塗布した。この際に、糸表面における第二の樹脂組成物の濃度は、通常の措置、例えば第二の樹脂組成物の粒子の体積流量によって、また排気流量によって制御した。
【0069】
粉末被覆チャンバから出た後に、第一及び第二の樹脂組成物を有する炭素繊維フィラメント糸を、120℃の温度で乾燥させた。乾燥後に、得られた予備含浸された糸は、H1、H2、及びP1(第一の樹脂組成物)についての濃度が、0.7〜0.9質量%であり、H3(第二の樹脂組成物)についての濃度が、2.4〜2.6質量%であった(それぞれ、予備含浸された糸の総質量に対して)。予備含浸されて完成した糸は、その外側に島状又は滴状の形をした第二の樹脂組成物の接着を示す一方、糸の内側は第二の樹脂組成物不含であった。予備含浸された糸は安定的な形状を有し、糸の幅対糸の厚さの比の値が48であった。相後に接着された糸を分離するためには、429Nの力が必要であり、これによって3.68N/mm
2という引張剪断強度が算出された。よってこの実施例の糸は、良好な接着強度を有する。
【0070】
実施例3:
実施例2と同じように行った。実施例2と異なるのは、粉末被覆により第一の樹脂組成物で浸漬した糸に塗布した第二の樹脂組成物として、エポキシ樹脂H3と、コポリアミドとの混合物を用いたことである。このエポキシ樹脂H3は、エポキシド値が500〜645mmol/kgであり、平均分子量M
Nが2900g/molであり、室温で固体であった。このコポリアミドは、カプロラクタムとラウリンラクタムとをベースとする脂肪族コポリマーであった。このコポリアミドは粒径分布が、平均粒径D
50について50μmであり、D
90が100μmであり、分子量が10,000g/molであった。これは室温で固体であり、融点が約135℃であった。第二の樹脂組成物の成分はともに、1:1の混合比で、平均粒径D
50が45μm、D
90が125μmで存在し、粉末被覆チャンバ内においてこの組成で第一の樹脂組成物で浸漬した糸に塗布した。第二の樹脂組成物の接着力又は付着力は、16Nと特定された。
【0071】
第一及び第二の樹脂組成物が負荷された炭素繊維フィラメント糸は、粉末被覆チャンバを出た後に140℃の温度で乾燥させた。乾燥後に、得られた予備含浸された糸は、H1、H2、及びP(第一の樹脂組成物)についての濃度が、0.7〜0.9質量%であり、H3とコポリアミド(第二の樹脂組成物)についての濃度が、4.3〜4.5質量%であった(それぞれ、予備含浸された糸の総質量に対して)。予備含浸されて完成した糸は、その外側に島状又は滴状の形をした第二の樹脂組成物の接着を示す一方、糸の内側は第二の樹脂組成物不含であった。予備含浸された糸は安定的な形状を有し、糸の幅対糸の厚さの比の値が27であった。接着性は678Nと測定され、引張剪断強度は、4.44N/mm
2と測定された。
【0072】
比較例1:
糸の番手が400texで6000フィラメントの炭素繊維フィラメント糸を乾燥状態で、速度が約240m/h、糸の張力が340cNで、2種のビスフェノールA系エピクロロヒドリン樹脂H1*とH2*から成る樹脂組成物の水性分散液を含有し、温度が20℃に調整された浴に通した。この水性分散液は、第一の樹脂組成物H1*を8.4質量%の濃度で、そして第二のエポキシ樹脂H2*を6.9質量%の濃度で含有しており、ここで樹脂H1*とH2*との質量比の値は、1.2であった。第一のエポキシ樹脂H1*は、エポキシ値が約2000mmol/kgであり、平均分子量M
Nが900g/molであり、室温で固体であった。第二のエポキシ樹脂H2*は、エポキシ値が約5400mmol/kgであり、平均分子量M
Nが700g/mol未満であり、室温で液体であった。
【0073】
H1*とH2*とから成る樹脂組成物の水性分散液を含有する浴を通した後(滞留時間12秒)、エポキシ樹脂H1*及びH2*に浸漬した糸を、温度を250℃から140℃に低下させて乾燥させた。乾燥後に炭素繊維フィラメント糸は、成分H1*及びH2*から成る樹脂組成物を、第一の樹脂組成物で含浸された糸の質量に対して1.2〜1.4質量%の範囲の濃度で含有していた。
【0074】
乾燥に引き続き直ちに、H1*及びH2*から成る樹脂組成物を浸漬させた糸を、第三のビスフェノールA系エピクロロヒドリンH3*の水性分散液を含有する第二の浴に通した。このエポキシ樹脂H3*は、エポキシド値が515mmol/kgであり、平均分子量M
Nが2870g/molであり、溶融範囲が120〜130℃であった。第二の水性分散液は、エポキシ樹脂H3*を3.8質量%の濃度で有し、ここでエポキシ樹脂H3*は、分散液中で粒径が0.35〜0.8μmの範囲であった。この分散媒体は、水76質量%と、2−プロポキシエタノール24質量%とから成っていた。
【0075】
第二の浴における糸の滞留時間は、15秒であった。第二の浴を出た後、さらに樹脂H1*、H2*、及びH3*を負荷した糸を乾燥させたが、この乾燥はまず垂直に設置された乾燥機で300℃で行い、引き続き、水平に設置された乾燥機で330℃の温度で乾燥させた。こうして得られる樹脂H1*、H2*、及びH3*を含浸させた糸は、樹脂の総濃度が、予備含浸された糸の総質量に対して3.6質量%であった。この際に樹脂H3*は、糸断面全体にわたって均一に分布していたことがわかる。同時に比較例の糸は、その外側にはエポキシ樹脂H3*の接着性粒子又は滴を有さず、その代わりにエポキシ樹脂H3*はまた、塗膜の形で表面に均一に分布している。
【0076】
予備含浸された糸は高い剛性を有し、比較的丸い形状を有し、糸の幅対糸の厚さの比の値が3.75であった。比較例の糸の接着性は、不充分であった。相互に接着された糸を分離するためには、99Nの力が必要であり、これによって2.32N/mm
2という引張剪断強度が算出された。
【0077】
実施例4:
実施例1により得られる予備含浸された糸を、両方の基底面がそれぞれ分離シートで覆われた金属プレートに、実験室用巻取り装置を用いて、糸速度23.1mm/秒、糸引張強度400cNで、それぞれ金属板の縁部まで巻取った。金属板の基底面は寸法が280×300mm
2であり、それぞれ反対側の面の端部の間の中央に、それぞれ第一又は第二の巻取り軸を有していた。
【0078】
まず、金属板の両方の面に第一の巻取り角を、単位面積当たり繊維重量267g/m
2で、第一の巻取り角に対して配向性90°で作成した。その後、金属プレートを90°回転させ、これにより既存の角度配置を第二の角度軸に対して平行に配向するようにした。次の工程では、同一の角度条件で、既存の巻取り層を別の巻取り層に、第一の巻取り層に対して90°の配向性で施与した。このようにして、金属プレートの両面にそれぞれ、0°の糸配置を有する層状の構造と、90°の糸配置を有する層状の構造とが生じた。上述の巻取り工程を、金属プレートの基底面双方にそれぞれ4つの巻取り層が相互に配置されるまで繰り返したのだが、これは0°と90°の糸配向性を交互に有するものである。
【0079】
引き続き巻取り層を、金属プレートの基底面の双方(それぞれ分離シート有する)に置いた。それからこれらの金属プレートを、それぞれ4層の巻取り構造2つと、分離シートとを完全に一緒にプレス機で5分間、平面圧力2bar、温度125℃で温度処理した。できあがったプレス成形体を、第二の樹脂組成物(エポキシ樹脂H3)の融点で冷却した。その後、2つの巻取り体を金属プレートの端面で切断し、4つの分離シートを取り外した。このようにして、それぞれ4層で、0°と90°の交互構造を有する2つの予備成形体が、つまり二方向性の糸配置で得られた。糸一層あたりの厚さは名目上、0.25mmであった。
【0080】
この予備成形体は、使用される予備含浸された糸の接着性が高いため、非常に変形安定性であり、問題なくさらに取り扱いできる。さらに、予備成形体を型に挿入後、マトリックス樹脂注入の際、予備成形体の良好な含浸性が確認された。
【0081】
比較例2:
実施例4と同じように行った。しかしながら予備含浸された糸としては、比較例1のようにして得られた糸を用いた。
【0082】
この比較例の予備成形体は、使用した予備含浸糸の接着性が低いため、形態安定性が低い。さらなる加工の際の取り扱いは、この不安定性のため問題があった。さらにマトリックス樹脂注入の際、この予備成形体の含浸性は悪化していることが確認された。
【0083】
実施例5:
実施例4と同様に製造した予備成形体ではあるが、糸の層の配向性が0°のみの8層構造を有するものから、正方形の断片を辺長200mmで切り取り、これを辺長が同じで高さが2mmの型に入れた。この型に、事前に80℃に温めたエポキシ樹脂(Hexcel社製のRTM6系)を、複合材料が60体積%の繊維体積を有するような量で注入した。樹脂で含浸された予備成形体は、180℃で硬化させた。糸の配向性が0°方向で8層構造を有する複合積層体が完成した。
【0084】
DIN EN 2563に従って層間剪断強度(ILSS)と圧力強度を、そしてDIN EN 2850に従って圧力モジュールを測定するために、前記複合積層体から試料を取り出した。予備含浸された糸で本発明により製造された複合積層体の機械的な特性値は、本発明による糸の樹脂塗布量の濃度と組成が、標準的な炭素繊維糸の組成物の濃度と組成から大きく逸脱するにも拘わらず、標準的な炭素繊維糸(Toho Tenax Europe GmbH社製のTenax HTS40 F13 12 K 800 tex)をベースとする積層体の特性値と同等の水準にあることが分かる。