特許第5984953号(P5984953)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5984953インナーディッケル付きコーティングヘッド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984953
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】インナーディッケル付きコーティングヘッド
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/02 20060101AFI20160823BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B05C5/02
   B05C11/10
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-542198(P2014-542198)
(86)(22)【出願日】2013年10月18日
(86)【国際出願番号】JP2013078344
(87)【国際公開番号】WO2014061791
(87)【国際公開日】20140424
【審査請求日】2015年3月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-232341(P2012-232341)
(32)【優先日】2012年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】九十九 弘
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/127974(WO,A1)
【文献】 特開昭57−109616(JP,A)
【文献】 特開平09−225372(JP,A)
【文献】 特開平07−068207(JP,A)
【文献】 特開2011−200843(JP,A)
【文献】 特開2012−091149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00〜21/00
B05D1/00〜 7/26
Japio−GPG/FX
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の:
基材の幅方向に延設された一対の部材から成り、これらの部材間に、該基材に対向し、かつ近接して開口するスリット部(1a)及びマニューホールド部(1b)から成る塗工液流路(1c)と、該塗工液流路(1c)に連通する塗工液注入口(1d)とを有するコーティングヘッド本体(1);及び
該コーティングヘッド本体(1)の両端又は片端から、該塗工液流路(1c)内に、該コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って摺動自在に挿入された、少なくともマニューホールドシールユニット(2f)を具備するインナーディッケル(2);
を含むインナーディッケル付きコーティングヘッドであって、該インナーディッケル(2)のマニューホールドシールユニット(2f)は、拡張して、該塗工液流路(1c)の内壁をシールし、かつ塗工液の塗布幅を変えることができ
前記マニューホールドシールユニット(2f)は、内部に空洞部を有し、該空洞部内の気体又は液体の圧力によって拡張する、前記インナーディッケル付きコーティングヘッド。
【請求項2】
前記インナーディッケル(2)は、前記マニューホールドシールユニット(2f)の両端にマニューホールド先端対応ユニット(2e)とマニューホールド後端対応ユニット(2g)をさらに有し、該マニューホールドシールユニット(2f)は、該マニューホールド先端対応ユニット(2e)と該マニューホールド後端対応ユニット(2g)間での圧縮により拡張する、請求項1に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【請求項3】
前記マニューホールドシールユニット(2f)は、内部に空洞部を有し、該空洞部内の気体又は液体の加熱による熱膨張によって拡張する、請求項1に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【請求項4】
前記インナーディッケル(2)は、長手方向(E)を有し、そして該長手方向(E)に直交する方向におけるインナーディッケル(2)の断面積は、前記コーティングヘッド本体(1)の前記長手方向(A)に直交する方向における前記塗工液流路(1c)の断面積と同じであるか又はそれより小さい、請求項1〜のいずれか1項に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【請求項5】
前記マニューホールドシールユニット(2f)の引張弾性率が、前記マニューホールド先端対応ユニット(2e)又は前記マニューホールド後端対応ユニット(2g)の引張弾性率より小さい、請求項2に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【請求項6】
以下の:
基材の幅方向に延設された一対の部材から成り、これらの部材間に、該基材に対向し、かつ近接して開口するスリット部(1a)及びマニューホールド部(1b)から成る塗工液流路(1c)と、該塗工液流路(1c)に連通する塗工液注入口(1d)とを有するコーティングヘッド本体(1);及び
該コーティングヘッド本体(1)の両端又は片端から、該塗工液流路(1c)内に、該コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って摺動自在に挿入された、少なくともマニューホールドシールユニット(2f)を具備するインナーディッケル(2);
を含むインナーディッケル付きコーティングヘッドであって、該インナーディッケル(2)のマニューホールドシールユニット(2f)は、拡張して、該塗工液流路(1c)の内壁をシールし、かつ塗工液の塗布幅を変えることができ、
前記インナーディッケル(2)は、前記マニューホールドシールユニット(2f)の両端にマニューホールド先端対応ユニット(2e)とマニューホールド後端対応ユニット(2g)をさらに有し、該マニューホールドシールユニット(2f)は、該マニューホールド先端対応ユニット(2e)と該マニューホールド後端対応ユニット(2g)間での圧縮により拡張し、
前記インナーディッケル(2)は、前記コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って、スリット先端対応ユニット(2a)及びスリットシールユニット(2b)を含み、該スリットシールユニット(2b)の該スリット先端対応ユニット(2a)との接触面には、切り込み部があり、そして該スリット先端対応ユニット(2a)は、該切り込み部に入ることにより該スリットシールユニット(2b)と結合して、該スリットシールユニット(2b)を拡張させる、インナーディッケル付きコーティングヘッド。
【請求項7】
前記スリットシールユニット(2b)の引張弾性率が、前記スリット先端対応ユニット(2a)の引張弾性率より小さい、請求項に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【請求項8】
前記インナーディッケル(2)は、前記コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って、スリット後端対応ユニット(2c)をさらに含み、そして前記スリットシールユニット(2b)の引張弾性率が、該スリット後端対応ユニット(2c)の引張弾性率より小さい、請求項又はに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【請求項9】
前記インナーディッケル(2)は、押し引きボルト(2d)をさらに含み、かつ該押し引きボルト(2d)を回転させることにより圧縮又は復元される、請求項のいずれか1項に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【請求項10】
前記コーティングヘッド本体(1)の内圧によって前記コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)における前記インナーディッケル(2)の位置が変わらないように、前記インナーディッケル(2)の端部には、固定装置(3c)が設けられている、請求項1〜のいずれか1項に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【請求項11】
前記インナーディッケル(2)に、前記塗工液の塗布幅を狭くすることができる連結治具(3d)が搭載されている、請求項1〜10のいずれか1項に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【請求項12】
前記インナーディッケル付きコーティングヘッドに通液する塗布液の粘度が1mPa・s〜20000mPa・sである、請求項1〜11のいずれか1項に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【請求項13】
前記塗工液が感光性樹脂液又は電解質膜樹脂液である、請求項1又は6に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーディッケル付きコーティングヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
各種基材に各種塗工液を塗布して基材上に塗工液の層を有する物品は、一般に、コーティングヘッドを用いて製造されている。詳細には、塗工液がコーティングヘッドに供給され、コーティングヘッドから吐出された塗工液に対してコーティングヘッド又は基材が移動し、塗工液が基材に塗布される。その塗工幅はコーティングヘッドの塗工液流路幅にほぼ等しくなる。
しかしながら、塗工液が基材に塗布されて製造された物品は、消費者の要望の物品幅に裁断され出荷される。また、消費者が要望する物品幅は消費者毎に異なる。一般に、塗工液を基材に塗布して製造される塗工幅は一定であるので、消費者の要望する物品幅によっては、塗布製品の裁断時に塗布製品の耳部分の損失(以下、「耳ロス」という)が大きくなる場合がある。耳ロス部分は、廃棄しなければならず、コストの観点から、著しく不経済なものとなっている。
【0003】
耳ロスを回避するためには、消費者の要求に応じて、塗工液の塗布幅を変えればよいが、その手段としては、従来、塗布幅ごとに、コーティングヘッドを交換するか、塗布幅毎にコーティングヘッドのシムを交換するか、コーティングヘッドのスリット部の間隙にテープを貼ったりすることが、行われている。
しかしながら、コーティングヘッドの交換自体に、時間と労力を要するだけでなく、交換したコーティングヘッドを高精度で調整するためにも、時間と労力を要する。
コーティングヘッドのシムを交換するにしても、以下の特許文献1に記載されるように、精度の観点から、コーターの再調整が必要であり、また、金属性のシムを挟むことに因り、コーティングヘッドに傷が入る頻度が増大する。さらに、金属性のシムを用いても、粘度が20,000mPa・s以下の塗工液を塗布する場合には、液漏れする場合がある。
コーティングヘッドとシートとの間に未塗工部分を形成する薄板を設ける方法もあるが、基材に塗工液を塗布した物品は薄膜化の方向にあり、基材とコーターヘッドの間隙の精度も高くなければならないことから、コーティングヘッドのスリット部の間隙にテープを貼ったり、薄板を設けたりすることは、塗工液の薄膜化、均一化の観点から、許容されるものではない(以下の特許文献2及び3参照)。
【0004】
他方、樹脂成型ラミネーション用ディッケル付Tダイが提案されている。樹脂成型ラミネーション用ディッケル付Tダイは、例えば、ポリエチレン等のシート状物品を押出成形し、他のフィルムと貼り合わせるためのダイであり、溶融押出機の下端に接続されるものであり、ディッケルを有し、これを樹脂流路内に摺動させて、シート状成型品の幅を変更させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−18227号公報
【特許文献2】特開平5−263号公報
【特許文献3】特開2007−10992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した樹脂成型ラミネーション用ディッケル付Tダイは、200℃〜400℃の温度で、約100,000mPa・sの粘度を有する溶融したポリエチレンをシート状に吐出するために使用されるものであり、10℃〜50℃で、通常1mPa・s〜20,000mPa・sの粘度を有する塗工液の塗布には、ディッケルとシールメタルの接触面より液漏れが発生し、使用することはできないものである。つまり、高精度が要求される比較低粘度の塗工液を任意の幅で塗布することができるコーティングヘッドは、未だ存在していない。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、基材上に比較的低粘度の塗工液を所定の厚みで、かつ、所定範囲内の任意の幅で、幅可変作業が容易にでき、塗布することができる、インナーディッケル付きコーティングヘッド、及びそれを用いて塗工液を基材上に塗布することにより、基材上に塗工液層を有する物品を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記した従来技術の問題を鋭意検討し、実験を重ねた結果、コーティングヘッドの塗工液流路内にインナーディッケルを挿入し、インナーディッケルのシール部を拡張又は熱膨張させることにより、インナーディッケルの断面積を増減させて、塗工液流路の内壁に対するシール性及び塗工液の塗布幅を調整できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
【0009】
[1]以下の:
基材の幅方向に延設された一対の部材から成り、これらの部材間に、該基材に対向し、かつ近接して開口するスリット部(1a)及びマニューホールド部(1b)から成る塗工液流路(1c)と、該塗工液流路(1c)に連通する塗工液注入口(1d)とを有するコーティングヘッド本体(1);及び
該コーティングヘッド本体(1)の両端又は片端から、該塗工液流路(1c)内に、該コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って摺動自在に挿入された、少なくともマニューホールドシールユニット(2f)を具備するインナーディッケル(2);
を含むインナーディッケル付きコーティングヘッドであって、該インナーディッケル(2)のマニューホールドシールユニット(2f)は、拡張して、該塗工液流路(1c)の内壁をシールし、かつ塗工液の塗布幅を変えることができる、前記インナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0010】
[2]前記インナーディッケル(2)は、前記マニューホールドシールユニット(2f)の両端にマニューホールド先端対応ユニット(2e)とマニューホールド後端対応ユニット(2g)をさらに有し、該マニューホールドシールユニット(2f)は、該マニューホールド先端対応ユニット(2e)と該マニューホールド後端対応ユニット(2g)間での圧縮により拡張する、前記[1]に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0011】
[3]前記マニューホールドシールユニット(2f)は、内部に空洞部を有し、該空洞部内の気体又は液体の圧力によって拡張する、前記[1]に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0012】
[4]前記マニューホールドシールユニット(2f)は、内部に空洞部を有し、該空洞部内の気体又は液体の加熱による熱膨張によって拡張する、前記[1]に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0013】
[5]前記インナーディッケル(2)は、長手方向(E)を有し、そして該長手方向(E)に直交する方向におけるインナーディッケル(2)の断面積は、前記コーティングヘッド本体(1)の前記長手方向(A)に直交する方向における前記塗工液流路(1c)の断面積と同じであるか、又はそれより小さい、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0014】
[6]前記マニューホールドシールユニット(2f)の引張弾性率が、前記マニューホールド先端対応ユニット(2e)又は前記マニューホールド後端対応ユニット(2g)の引張弾性率より小さい、前記[2]又は[5]に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0015】
[7]前記インナーディッケル(2)は、前記コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って、スリット先端対応ユニット(2a)及びスリットシールユニット(2b)を含み、該スリットシールユニット(2b)の該スリット先端対応ユニット(2a)との接触面には、切り込み部があり、そして該スリット先端対応ユニット(2a)は、該切り込み部に入ることにより該スリットシールユニット(2b)と楔状態で結合して、該スリットシールユニット(2b)を拡張させる、前記[2]、[5]、及び[6]のいずれかに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0016】
[8]前記スリットシールユニット(2b)の引張弾性率が、前記スリット先端対応ユニット(2a)の引張弾性率より小さい、前記[7]に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0017】
[9]前記インナーディッケル(2)は、前記コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って、スリット後端対応ユニット(2c)をさらに含み、そして前記スリットシールユニット(2b)の引張弾性率が、該スリット後端対応ユニット(2c)の引張弾性率より小さい、前記[7]又は[8]に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0018】
[10]前記インナーディッケル(2)は、押し引きボルト(2d)をさらに含み、かつ該押し引きボルト(2d)を回転させることにより圧縮又は復元される、前記[2]、及び[5]〜[9]のいずれかに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0019】
[11]前記コーティングヘッド本体(1)の内圧によって前記コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)における前記インナーディッケル(2)の位置が変わらないように、前記インナーディッケル(2)の端部には、固定装置(3c)が設けられている、前記[1]〜[10]のいずれかに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0020】
[12]前記インナーディッケル(2)に、前記塗工液の塗布幅を狭くすることができる連結治具(3d)が搭載されている、前記[1]〜[11]のいずれかに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0021】
[13]前記インナーディッケル付きコーティングヘッドに通液する塗布液の粘度が1mPa・s〜20000mPa・sである、前記[1]〜[12]のいずれかに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0022】
[14]以下の:
基材の幅方向に延設された一対の部材から成り、これらの部材間に、該基材に対向し、かつ近接して開口するスリット部(1a)及びマニューホールド部(1b)から成る塗工液流路(1c)と、該塗工液流路(1c)に連通する塗工液注入口(1d)とを有するコーティングヘッド本体(1);及び
該コーティングヘッド本体(1)の両端又は片端から、該塗工液流路(1c)内に、該コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って摺動自在に挿入された、少なくともマニューホールドシールユニット(2f)を具備するインナーディッケル(2);
を含むインナーディッケル付きコーティングヘッドであって、該塗工液が感光性樹脂液又は電解質膜樹脂液であることを特徴とするインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0023】
[15]前記インナーディッケル(2)は、前記マニューホールドシールユニット(2f)の両端にマニューホールド先端対応ユニット(2e)とマニューホールド後端対応ユニット(2g)をさらに有し、該マニューホールドシールユニット(2f)は、該マニューホールド先端対応ユニット(2e)と該マニューホールド後端対応ユニット(2g)間での圧縮により拡張する、前記[14]に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0024】
[16]前記マニューホールドシールユニット(2f)は、内部に空洞部を有し、該空洞部内の気体又は液体の圧力によって拡張する、前記[14]に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0025】
[17]前記マニューホールドシールユニット(2f)は、内部に空洞部を有し、該空洞部内の気体又は液体の加熱による熱膨張によって拡張する、前記[14]に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0026】
[18]前記インナーディッケル(2)は、長手方向(E)を有し、そして該長手方向(E)に直交する方向におけるインナーディッケル(2)の断面積は、前記コーティングヘッド本体(1)の前記長手方向(A)に直交する方向における前記塗工液流路(1c)の断面積と同じであるか、又はそれより小さい、前記[14]〜[17]のいずれかに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0027】
[19]前記マニューホールドシールユニット(2f)の引張弾性率が、前記マニューホールド先端対応ユニット(2e)又は前記マニューホールド後端対応ユニット(2g)の引張弾性率より小さい、前記[15]又は[18]に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0028】
[20]前記インナーディッケル(2)は、前記コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って、スリット先端対応ユニット(2a)及びスリットシールユニット(2b)を含み、該スリットシールユニット(2b)の該スリット先端対応ユニット(2a)との接触面には、切り込み部があり、そして該スリット先端対応ユニット(2a)は、該切り込み部に入ることにより該スリットシールユニット(2b)と楔状態で結合して、該スリットシールユニット(2b)を拡張させる、前記[15]、[18]、及び[19]のいずれかに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0029】
[21]前記スリットシールユニット(2b)の引張弾性率が、前記スリット先端対応ユニット(2a)の引張弾性率より小さい、前記[20]に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0030】
[22]前記インナーディッケル(2)は、前記コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って、スリット後端対応ユニット(2c)をさらに含み、そして前記スリットシールユニット(2b)の引張弾性率が、該スリット後端対応ユニット(2c)の引張弾性率より小さい、前記[20]又は[21]に記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0031】
[23]前記インナーディッケル(2)は、押し引きボルト(2d)をさらに含み、かつ該押し引きボルト(2d)を回転させることにより圧縮又は復元される、前記[15]、及び[18]〜[22]のいずれかに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0032】
[24]前記コーティングヘッド本体(1)の内圧によって前記コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)における前記インナーディッケル(2)の位置が変わらないように、前記インナーディッケル(2)の端部には、固定装置(3c)が設けられている、前記[14]〜[23]のいずれかに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0033】
[25]前記インナーディッケル(2)に、前記塗工液の塗布幅を狭くすることができる連結治具(3d)が搭載されている、前記[14]〜[23]のいずれかに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【0034】
[26]前記インナーディッケル付きコーティングヘッドに通液する塗布液の粘度が1mPa・s〜20,000mPa・sである、前記[14]〜[25]のいずれかに記載のインナーディッケル付きコーティングヘッド。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係るインナーディッケル付きコーティングヘッドを用いれば、コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って、塗工液流路(1c)内に、インナーディッケル(2)を、摺動自在に挿入することにより、基材上に塗布される塗工液層の幅を自在に変更することができる。これにより、例えば、耳ロスを回避するためのコーティングヘッド自体の交換等の必要性がなくなるため、経済的に有利になる。
また、例えば、1mPa・s〜20,000mPa・s付近の超低粘度の塗工液を用いても、コーティングヘッドのスリット部(1a)及びマニューホールド部(1b)からの液漏れがない。
さらに、インナーディッケル(2)の材料として樹脂を用いると、コーティングヘッド本体(1)の内部に傷を付けない。樹脂製インナーディッケルの挿入は、コーティングヘッド本体(1)の塗工液流路(1c)のスリット部(1a)の間隙の精度に影響を及ぼさない。
さらに、例えば、インナーディッケル(2)は、塗工液吐出部の先端に至るまで、塗工液流路(1c)のスリット部(1a)に挿入されるが、塗工液が吐出される部分においては、コーティングヘッドの前面に遮蔽物は存在しないため、基材とコーティングヘッドの間隙の精度に影響を及ぼさない。
さらに、シールプレート(スリットシールユニット(2b)及びマニューホールドシールユニット(2f))は、押し引きボルト(2d)の締め付けをトルク管理することで、スリット間隙の精度を落すことなく、塗工液をシールして、容易かつ非常に高精度に塗工液を塗布することができる。
さらに、樹脂製インナーディッケルを幅方向に動かしながら、コーティングヘッド本体(1)の内部を洗浄することできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】コーティングヘッドの斜視図である。
図2図2(a)は、スリット対応部分としてスリット先端対応ユニット及びスリットシールユニットを有するインナーディッケル本体の側面図であり、図2(b)は、スリット対応部分としてスリット先端対応ユニット、スリットシールユニット及びスリット後端対応ユニットを有するインナーディッケル本体の側面図であり、そして図2(c)は、図2(b)の切断線II−IIにおけるスリット対応部分の断面図である。
図3図3(a)は、インナーディッケルを少し挿入したときのインナーディッケル付きダイヘッドの状態を示す側面図であり、そして図3(b)は、インナーディッケルをかなり挿入したときインナーディッケル付きダイヘッドの状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、図1図3を参照して詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0038】
インナーディッケル付きコーティングヘッド
実施の形態では、インナーディッケル付きコーティングヘッドは、コーティングヘッド本体及びインナーディッケルを含む。
図3に示されるように、インナーディッケル付きコーティングヘッドは、コーティングダイヘッド(3a)などのコーティングヘッド本体(1)、インナーディッケル本体(3b)、インナーディッケル押さえ治具(3c)などの固定装置、及び連結治具(3d)から構成されることができる。
また、図3に示すように、コーティングヘッド(1)に挿入されるインナーディッケル(2)により、コーティングヘッド(1)から吐出される塗工液の塗布幅は、変更されることができる。
【0039】
塗工液は、特に限定されないが、例えば、帯電防止フィルム、反射防止フィルム、紫外線防止フィルム、電磁波防止フィルム、カラーフィルターフィルム、ブラックマトリックスフィルム、酸素遮断フィルム、フィルムコンデンサーシート、感熱フィルム、絶縁フィルム、ボンディングシート、カバーレイフィルム、異方導電フィルム、グリーンシート、樹脂付き銅箔、リチウムイオン電極シート、燃料電池シート、磁気記録媒体シート、遮光フィルム、粘着テープ、粘着シート、ソルダーレジストフィルム、その他の各種表面塗工フィルムの製造において塗布される液であることができる。塗工液は、好ましくは、感光性樹脂液又は電解質膜樹脂液である。実施の形態では、塗工液の粘度は、特に限定されないが、インナーディッケル付きコーティングヘッドが後述されるシール構造を有するように、比較的低いことが好ましい。インナーディッケル付きコーティングヘッドに通液する塗布液の粘度は1mPa・s〜20,000mPa・sであり、好ましくは、50mPa・s〜4,000mPa・sである。
【0040】
塗工液を塗布される基材は、製造されるべき物品の種類に従って変動するが、例えば、樹脂フィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリアミド等)、金属箔(例えば、銅箔、アルミ箔等)、不織布、有機・無機繊維織物、紙、ガラス板、基板、フィルム材料、シート材料などであることができる。また、基材は、長尺な形態でよく、長手方向と長手方向に直行する幅方向とを有することが好ましい。さらに、基材は、ロールのように巻き取られた形態で使用されることができる。
以下、インナーディッケル付きコーティングヘッドの各要素ついて順に説明する。
【0041】
コーティングヘッド
一般に、コーティングヘッドとしては、例えば、ダイコーターヘッド、スロットダイコーターヘッド、リップコーターヘッド、キャップコーターヘッド、テーブルコーターヘッド、カーテンコーターヘッド等が挙げられる。
図1に示されるように、コーティングヘッド本体(1)は、基材の幅方向に延設された一対の部材から成り、これらの部材間に、基材に対向し、長手方向(A)を有し、かつ近接して開口するスリット部(1a)及びマニューホールド部(1b)から成る塗工液流路(1c)と、該塗工液流路(1c)に連通する塗工液注入口(1d)とを有することができる。
【0042】
塗工液流路(1c)のスリット部(1a)の幅は、塗布される塗工液の粘度又は塗布層の厚みに応じて決められるが、好ましくは、0.03mm〜1.0mmである。
図3に示すように、例えば、コーティングダイヘッド(3a)の通常の塗布幅をCとして、インナーディッケル本体(3b)の挿入量(すなわち、挿入幅)を両端から各々aとすると、塗工液の塗布幅BはC−2aで表される。
【0043】
実施の形態では、コーティングヘッド本体(1)の材料は、特に制限されるものではなく、必要に応じて任意の材料を用いてコーティングヘッド本体(1)を作製することができる。一般には、コーティングヘッド本体(1)の材料は、例えば、ステンレス鋼などの金属である。また、コーティングヘッド本体(1)の大きさ、及び内部又は外部の形状は、塗工液の粘度・表面張力・密度・沈殿などの物性と生産条件(例えば、塗布幅・厚み・生産速度など)に応じて決定されることができる。
【0044】
実施の形態では、コーティングヘッド本体(1)は、スリット部(1a)の開口部を有する面に、開口部の長手方向に沿って、任意の目盛りを有するスケールなどの測量手段を備えることが好ましい。この測量手段は、塗布幅の精度及びインナーディッケル付きコーティングヘッドのハンドリング性を向上させるという観点から好ましい。
【0045】
インナーディッケル
インナーディッケルは、コーティングヘッド本体(1)の両端又は片端から、塗工液流路(1c)内に、コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って摺動自在に挿入されることができる。また、図2に示されるように、インナーディッケル(2)は、長手方向(E)を有することができる。さらに、インナーディッケル(2)は少なくともマニューホールドシールユニット(2f)を具備する。マニューホールドシールユニット(2f)は拡張して、該塗工液流路(1c)の内壁をシールし、かつ塗工液の塗布幅を変えることができる。
【0046】
マニューホールドシールユニット(2f)の拡張は、該マニューホールドシールユニット(2f)の両端にマニューホールド先端対応ユニット(2e)とマニューホールド後端対応ユニット(2g)をさらに有し、これらの間で圧縮することによって、拡張することができる。
あるいは、マニューホールドシールユニット(2f)は、内部に空洞部を有し、該空洞部内の気体又は液体の圧力によって拡張することができきる。
あるいは、マニューホールドシールユニット(2f)は、内部に空洞部を有し、該空洞部内の気体又は液体の加熱による熱膨張によって拡張することできる。
【0047】
本発明においては、マニューホールドシールユニット(2f)は前記いずれかの方法に拡張して、所定の塗工液に適した態様で、塗工液流路(1c)の内壁をシールし、かつ塗工液を塗布するときに液漏れを抑制し、かつ塗工液の塗布幅を任意に変えることができる。
【0048】
インナーディッケル(2)の形状及び大きさは、コーティングヘッド本体(1)の塗工液流路(1c)の形状に応じて、決定されることができる。塗工液の塗布幅を適切に調整し、かつ塗工液流路(1c)の内壁に対するシール性を向上させるために、長手方向(E)に直交する方向におけるインナーディッケル(2)の断面積は、コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に直交する方向における塗工液流路(1c)の断面積と同じであるか、又はそれより小さいことが好ましい。
【0049】
図2(a)及び(b)に示すように、インナーディッケル(2)は、コーティングヘッド本体(1)の塗工液流路(1c)の内壁をシールするために、スリット部(1a)と対応する部分(以下、「スリット対応部分」ともいう)及びマニューホールド部(1b)と対応する部分(以下、「マニューホールド対応部分」ともいう)を含む。
【0050】
スリット対応部分は、塗工液流路(1c)内のスリット部(1a)をシールするために、図2(a)で示されるように、スリット先端対応ユニット(2a)及びスリットシールユニット(2b)を含むか、又は図2(b)で示されるように、スリット先端対応ユニット(2a)、スリットシールユニット(2b)及びスリット後端対応ユニット(2c)を含むことができる。
尚、図2(b)の態様においては、マニューホールドシールユニット(2f)は、上記スリットシールユニット(2b)と一体となって、拡張することができる。
また、図示しないが、マニューホールドシールユニット(2f)は、上記スリットシールユニット(2b)と一体となって、内部に空洞部を有し、該空洞部内の気体又は液体の圧力によって、又は該空洞部内の気体又は液体の加熱による熱膨張によって拡張することできる。
【0051】
スリット先端対応ユニット(2a)又はスリット後端対応ユニット(2c)の材料としては、例えば、樹脂、金属などが挙げられる。インナーディッケルをコーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って挿入して、自由に摺動させるために、スリット先端対応ユニット(2a)の材料は、樹脂であることが好ましく、そして樹脂としては、例えば、ジュラコン(登録商標)、PET樹脂などが挙げられる。
また、ダイヘッド内圧の関係からスリット先端対応ユニット(2a)又はスリット後端対応ユニット(2c)の強度を向上させるために、スリット先端対応ユニット(2a)又はスリット後端対応ユニット(2c)の材料として金属を用いることができる。この場合には、金属表面にテフロン(登録商標)コーティング等のコーティングを行なうことが好ましい。
【0052】
スリット先端対応ユニット(2a)又はスリット後端対応ユニット(2c)の形状又は大きさとしては、コーティングヘッド本体(1)のスリット幅に対して小さくすることが好ましく、そしてスリットシールユニット(2b)と接する面を断面上鋭角にすると、スリットシールユニット(2b)との密着性が向上するのでより好ましい。
【0053】
実施の形態では、スリットシールユニット(2b)は、プレートの形態であることが好ましい。また、スリットシールユニット(2b)の引張弾性率は、スリット先端対応ユニット(2a)及び/又はスリット後端対応ユニット(2c)の引張弾性率より小さいことが好ましい。本明細書では、引張弾性率は、ISO527の引張試験により測定されることができる。
例えば、インナーディッケル(2)のマニューホールドシールユニット(2f)とスリットシールユニット(2b)を、スリット先端対応ユニット(2a)とスリット後端対応ユニット(2c)の間に挟んで圧縮することにより、拡張させて、シール性を向上させるという観点から、スリットシールユニット(2b)は、例えば、テフロン(登録商標)又はカルレッツ(登録商標)から製作されることが好ましい。
【0054】
図2(b)及び図2(c)に示されるように、スリットシールユニット(2b)の断面、特に、スリットシールユニット(2b)のスリット先端対応ユニット(2a)との接触面には、スリット先端対応ユニット(2a)を受け入れることができる切り込み部があることが好ましい。スリット先端対応ユニット(2a)は、切り込み部に入ることによりスリットシールユニット(2b)と楔状態で結合するか、又は切り込み部を介してスリットシールユニット(2b)と咬合して、それによりインナーディッケル(2)のスリット対応部分の断面積を増加させることができるので好ましい。
また、切り込み部の切り込みの程度は、スリット対応部分の長手方向への切り込みの深さとして、0.2mm〜2.0mmが好ましく、0.3mm〜1.0mmがより好ましい。
【0055】
インナーディッケル(2)のスリット対応部分は、スリット対応部分の厚みが、コーティングヘッド本体(1)のスリット幅に対して−1μm〜−20μm程度の公差を有するように、加工されることが好ましい。
【0056】
インナーディッケル(2)のマニューホールド対応部分は、任意の構造で設計されることができる。好ましくは、マニューホールド対応部分は、一体構造物ではなく、例えば、二つ割り構造物として形成されると、マニューホールド対応部分よりも狭いスリット対応部分の加工が容易になるので好ましい。
但し、マニューホールドシールユニット(2f)がスリットシールユニット(2b)と一体となって、内部に空洞部を有し、該空洞部内の気体又は液体の圧力によって、又は該空洞部内の気体又は液体の加熱による熱膨張によって拡張する場合には、該空洞部は密閉され、内保の気体又は液体の加熱、圧力に耐える構造を有する必要がある。例えば、以下に説明する押し引きボルト(2d)の位置に空洞部と通じる通路を設け、インナーディッケルの末端から加熱した又は昇圧した気体又は液体を空洞部に送るか又は循環させることができる構造とすることができる(図示せず)。
【0057】
本発明においては、マニューホールド対応部分は、コーティングヘッド本体(1)の長手方向(A)に沿って、以下の:
マニューホールド先端対応ユニット(2e);
マニューホールド後端対応ユニット(2g);及び
該マニューホールド先端対応ユニット(2e)と該マニューホールド後端対応ユニット(2g)の間に位置し、かつ該マニューホールド先端対応ユニット(2e)と該マニューホールド後端対応ユニット(2g)により圧縮されて体積が増加するマニューホールドシールユニット(2f);
を含むことが好ましい。
【0058】
マニューホールド先端対応ユニット(2e)又はマニューホールド後端対応ユニット(2g)の材料は、スリット先端対応ユニット(2a)又はスリット後端対応ユニット(2c)の材料と同じであること好ましく、例えば、ジュラコン(登録商標)、PET樹脂などの樹脂から製作されることがより好ましい。
【0059】
実施の形態では、マニューホールドシールユニット(2f)は、プレートの形態であることが好ましい。また、マニューホールドシールユニット(2f)の引張弾性率は、マニューホールド先端対応ユニット(2e)及び/又はマニューホールド後端対応ユニット(2g)の引張弾性率より小さいことが好ましい。
さらに、マニューホールドシールユニット(2f)の材料は、スリットシールプレート(2b)の材料と同じでもよく、例えば、テフロン(登録商標)又はカルレッツ(登録商標)などから製作されることができる。
尚、前記したように、マニューホールドシールユニット(2f)はスリットシールプレート(2b)と一体のものとして形成されることができる。
【0060】
実施の形態では、圧縮による拡張力の観点から、装置の精度への影響、例えばスリット部(1a)の圧縮力が伴うことによる精度誤差を防ぐため、マニューホールドシールユニット(2f)の幅は、2mm〜40mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mmである。また、マニューホールドシールユニット(2f)は、一体型の部材であるか、又は複数の部材から構成されることができるが、シール性及び圧縮性の観点から、複数の部材を積層することにより得られる多層構造体であることが好ましい。
【0061】
押し引きボルト
図2で示されるように、インナーディッケル(2)は、支え部品(2h)内に押し引きボルト(2d)をさらに含み、押し引きボルト(2d)を回転させることにより圧縮又は拡張されることが好ましい。
例えば、押し引きボルト(2d)の先端は、スリット先端対応ユニット(2a)及びマニューホールド先端対応ユニット(2e)と固定されており、そして押し引きボルト(2d)を回転させることにより、スリット先端対応ユニット(2a)及びマニューホールド先端対応ユニット(2e)が、回転の方向に応じて、スリット後端対応ユニット(2c)又はマニューホールド後端対応ユニット(2g)に近付くか、又はスリット後端対応ユニット(2c)又はマニューホールド後端対応ユニット(2g)から遠ざかるので、スリット/マニューホールド先端対応ユニットとスリット/マニューホールド後端対応ユニットの間のスリット/マニューホールドシールユニットが、圧縮されるか、又は復元されることができる。
押し引きボルト(2d)の材料は、特に限定されないが、押し引きボルト(2d)の強度の観点から、金属であることが好ましい。
【0062】
図3で示されるように、インナーディッケル本体(3b)をコーティングダイヘッドの長手方向に沿ってコーティングダイヘッド(3a)に挿入して自由に摺動させるときに、押し引きボルト(2d)を回して、スリット/マニューホールド先端対応ユニットとスリット/マニューホールド後端対応ユニットの間の距離を増減させると、それによりインナーディッケル本体(3b)も圧縮又は復元されるので、塗工液の塗布幅(B,C)を容易に微調整することができる。
【0063】
基材上に塗工液層が形成されている物品の製造では、所定の塗布幅になるようにインナーディッケル(2)を移動させて、スリット/マニューホールド先端対応ユニットとスリット/マニューホールド後端対応ユニットを近づけるように、押し引きボルト(2d)を回すことによって、スリット/マニューホールドシールユニットを塗工液流路(1c)の内壁に近付けるほどに、塗工液流路(1c)に対するシール性を向上させることができる。
【0064】
固定装置
図3に示されるように、コーティングダイヘッド(3a)の内圧によって、コーティングダイヘッド(3a)の長手方向におけるインナーディッケル本体(3b)の位置が変わらないように、インナーディッケル本体(3b)の端部の一方又は両方には、押さえ治具(3c)などの固定装置が設置されていることが好ましい。より詳細には、インナーディッケル本体(3b)がダイ内圧から受ける力と反対向きにインナーディッケル本体(3b)を押すために、インナーディッケル付きコーティングダイヘッドの両端部には、ボルト状の押さえ治具(3c)を設置することが好ましい。なお、本明細書では、「押さえ治具」とは、ダイヘッド内の液圧が高まってきたときに、インナーディッケルをダイヘッドの外部に出さず、かつ所定の塗布幅を保持することができる手段をいう。
【0065】
基材上に塗工液層が形成されている物品の製造方法
本発明は、以下の工程:
前記インナーディッケル付きコーティングヘッドを用いて、基材上に塗工液を所定の厚み及び幅で塗布する工程;
を含む、基材上に塗工液層が形成されている物品の製造方法にも関する。
また、基材上に塗工液を塗布するときには、塗工液のハンドリング性を向上させるために、塗工液の粘度が、1mPa・s〜20,000mPa・sであることが好ましい。
【0066】
本発明に係るインナーディッケル付きコーティングヘッドは、塗工を必要とする多くの分野、例えば、印刷分野、電子工業分野、材料リサイクル分野などで利用されることができる。
【実施例】
【0067】
以下の実施例及び比較例を参照して実施の形態をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、実施例に限定されるものではない。
【0068】
<感光性樹脂液の調製例1>
以下に示す化合物を混合し、感光性樹脂液を調製した。
メタクリル酸メチル50質量%、メタクリル酸25質量%、及びスチレン25質量%の三元共重合体のメチルエチルケトン溶液(固形分濃度35%、重量平均分子量5万、酸当量344、分散度3.1)
・・・154質量部
ビスフェノールAの両端にそれぞれ平均2モルずつのエチレンオキサイドを付加したポリエチレングリコールのジメタクリレート(新中村化学工業(株)製NKエスエルBPE−200)
・・・15質量部
ビスフェノールAの両端にそれぞれ平均2モルずつプロピレンオキサイドと平均6モルずつエチレンオキサイドを付加したポリアルキレングリコールのジメタクリレート
・・・30質量部
β-ヒドロキシプロピル-β’-(アクリロキシ)プロピルフタレート
・・・5質量部
トリオキシエチルトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業(株)製NKエステルA−TMPT−3EO)
・・・5質量部
4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン
・・・0.3質量部
2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体
・・・3質量部
ダイアモンドグリーン(保土ヶ谷化学(株)製 アイゼン(登録商標)DIAMOND GREEN GH)
・・・0.15質量部
ロイコクリスタルバイオレット
・・・0.4質量部
以下の実施例1〜5及び比較例1〜2では、上記感光性樹脂液を、必要に応じて粘度を調整して使用した。
【0069】
以下の実施例、比較例における「液漏れ」と「塗布精度」の評価は以下の方法で実施した。
(1)液漏れ
1mPa・s〜20,000mPa・s付近の超低粘度の塗工液を所定の塗工液吐出圧力下で塗工する際に目視にてコーティングヘッドのスリット部(1a)及びマニューホールド部(1b)からの液漏れの有無を確認した。
(2)塗布精度
塗布精度の評価においては、接触式厚み計ロータリーキャリパー(名産株式会社製)を用い、塗布された幅を幅方向にて0.5mm間隔で測定し、その測定値の全点中の最大値−最小値の値が目標厚み×5%以下になっているか確認をし、なっているものを○、なっていないものを×として判定した。
【0070】
[実施例1]
表1に示す通り、長手方向のスリット幅800mm、すなわち塗布幅が800mmの圧縮拡張タイプ(マニューホールドシールユニット(2f)がマニューホールド先端対応ユニット(2e)とマニューホールド後端対応ユニット(2g)間での圧縮により拡張するタイプ)のインナーディッケル付きコーティングヘッドを用いて、粘度1mPa・sの感光性樹脂塗工液を吐出圧力0.1MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムにスリット全幅で塗布し、乾燥後、厚み7μmの感光性樹脂膜を作製した。液漏れを確認したところ漏れはなく、塗布精度も、幅方向における厚み精度の誤差が7μm×5%以下の範囲内である0.3μmであり、良好な膜を作製できた。
次に、コーティングヘッド両側のインナーディッケルを150mmずつ内側に挿入させた。挿入作業に要した時間は10分であり、作業は容易であった。同様に粘度1mPa・sの感光性樹脂液を吐出圧力0.1MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、乾燥後、厚み7μmの感光性樹脂膜を作製した。液漏れはなく、塗布幅は500mmとなり、塗布精度も幅方向における厚み精度の誤差が7μm×5%以下の範囲内である0.3μmであり、良好な膜を作製できた。
【0071】
[実施例2]
表1に示す通り、実施例1と同様に圧縮拡張タイプのインナーディッケル付きコーティングヘッドを用い、粘度2,000mPa・sの感光性樹脂塗工液を吐出圧力0.3MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムにスリット全幅で塗布し、乾燥後、厚み40μmの感光性樹脂膜を作製した。液漏れはなく、塗布幅は800mmとなり、塗布精度も幅方向における厚み精度の誤差が40μm×5%以下の範囲である0.5μmであり、良好な膜を作製できた。
次に、コーティングヘッド両側のインナーディッケルを150mmずつ内側に挿入させた。挿入作業に要した時間は10分であり作業は容易であった。同様に粘度2000mPa・sの感光性樹脂塗工液を吐出圧力0.3MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、乾燥後、厚み10μmの感光性樹脂膜を作製した。液漏れはなく、塗布幅は500mmとなり、塗布精度も幅方向における厚み精度の誤差が10μm×5%以下の範囲である0.5μmであり、良好な膜を作製できた。
【0072】
[実施例3]
表1に示す通り、実施例1と同様に圧縮拡張タイプのインナーディッケル付きコーティングヘッドを用い、粘度10,000mPa・sの感光性樹脂塗工液を吐出圧力1MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムにスリット全幅で塗布し乾燥後、厚み150μmの感光性樹脂膜を作製した。液漏れはなく、塗布幅は800mmとなり、塗布精度も、幅方向における厚み精度の誤差が150μm×5%以下の範囲である2.5μmであり、良好な膜を作製できた。
次に、コーティングヘッド両側のインナーディッケルを150mmずつ内側に挿入させた。挿入作業に要した時間は10分であり作業は容易であった。同様に粘度10,000mPa・sの感光性樹脂塗工液を吐出圧力1MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、乾燥後、厚み150μmの感光性樹脂膜を作製した。液漏れはなく、塗布幅は500mmとなり、塗布精度も、幅方向における厚み精度の誤差が150μm×5%以下の範囲内である2.5μmであり、良好な膜を作製できた。
【0073】
[実施例4]
長手方向のスリット幅800mm、すなわち塗布幅が800mmの圧力拡張タイプ(マニューホールドシールユニット(2f)が内部に空洞部を有し、空洞部内の気体又は液体の圧力によって拡張するタイプ)のインナーディッケル付きコーティングヘッドを用いて、インナーディッケル内部に水を圧力0.3MPaにて通液し、マニューホールドシールユニット(2f)を圧力拡張させ、粘度2,000mPa・sの感光性樹脂塗工液を吐出圧力0.1MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムにスリット全幅で塗布し、乾燥後、厚み40μmの感光性樹脂膜を作製した。液漏れはなく、塗布幅は800mmとなり、塗布精度も幅方向における厚み精度の誤差が40μm×5%以下の範囲内である0.5μmであり、良好な膜を作製できた。次に、コーティングヘッド両側のインナーディッケルを150mmずつ内側に挿入させた。挿入作業に要した時間は15分であり、作業は容易であった。同様に粘度1mPa・sの感光性樹脂液を吐出圧力0.1MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、乾燥後、厚み10μmの感光性樹脂膜を作製した。液漏れはなく、塗布幅は500mmとなり、塗布精度も、幅方向における厚み精度の誤差が10μm×5%以下の範囲内である0.3μmであり、良好な膜を作製できた。粘度2000mPa・sの感光性樹脂液を吐出圧力0.1MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布した場合にも同様に、液漏れはなく、幅方向における厚み精度の誤差が5%以下の範囲内である良好な膜を作製できた。
【0074】
[実施例5]
長手方向のスリット幅800mm、すなわち塗布幅が800mmの熱拡張タイプ(マニューホールドシールユニット(2f)が内部に空洞部を有し、空洞部内の気体又は液体の加熱による熱膨張によって拡張するタイプ)のインナーディッケル付きコーティングヘッドを用いて、インナーディッケル内部に通液した水を40℃に加熱して、マニューホールドシールユニット(2f)を熱膨張により拡張させ、粘度2,000mPa・sの感光性樹脂塗工液を吐出圧力0.1MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムにスリット全幅で塗布し、乾燥後、厚み40μmの感光性樹脂膜を作製した。液漏れはなく、塗布幅は800mmとなり、塗布精度も幅方向における厚み精度の誤差が40μm×5%以下の範囲内である0.5μmであり、良好な膜を作製できた。次に、コーティングヘッド両側のインナーディッケルを150mmずつ内側に挿入させた。挿入作業に要した時間は15分であり、作業は容易であった。同様に粘度1mPa・sの感光性樹脂液を吐出圧力0.1MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し乾燥後、厚み10μmの感光性樹脂膜を作製した。サイドプレートからの液漏れはなく、塗布幅は500mmとなり、塗布精度も幅方向における厚み精度の誤差が10μm×5%以下の範囲内である0.3μであり、良好な膜を作製できた。粘度2000mPa・sの感光性樹脂液を吐出圧力0.1MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布した場合にも同様に、液漏れはなく、幅方向における厚み精度の誤差が5%以下の範囲内である良好な膜を作製できた。
【0075】
[比較例1]
表1に示す通り、長手方向のスリット幅800mm、すなわち塗布幅が800mmの樹脂成型ラミネーション用ディッケル付Tダイを用い、粘度1mPa・sの感光性樹脂塗工液を液吐圧力0.1MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムにスリット全幅で塗布し、乾燥後、厚み10μmの感光性樹脂膜を作製した。但し、液漏れが発生したので塗布を中止した。塗布できた箇所の厚み塗布精度評価した結果、10μm×5%以下の範囲の上限を超える1.2μmの誤差であった。
【0076】
[比較例2]
表1に示す通り、比較例1に用いた樹脂成型ラミネーション用ディッケル付Tダイを用い、粘度10,000mPa・sの感光性樹脂塗工液を吐出圧力1MPaでポリエチレンテレフタレートフィルムにスリット全幅で塗布し、乾燥後、厚み150μmの感光性樹脂膜を作製した。液漏れが発生したので塗布を中止した。塗布できた箇所の塗布精度を評価した結果、150μm×5%以下の範囲の上限を超える、14μmの誤差であった。
【0077】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係るインナーディッケル付きコーティングヘッドは、基材上に、塗工液を、所定の厚みで、かつ、所定範囲内の任意の幅で、塗布する工程を含む、基材上に塗工液の層を有する物品の製造方法に、好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 コーティングヘッド本体
1a スリット部
1b マニューホールド部
1c 塗工液流路
1d 塗工液注入口
A コーティングヘッド本体の長手方向
B 塗工液の吐出方向
2 インナーディッケル
2a スリット先端対応ユニット
2b スリットシールユニット
2c スリット後端対応ユニット
2d 押し引きボルト
2e マニューホールド先端対応ユニット
2f マニューホールドシールユニット
2g マニューホールド後端対応ユニット
2h 支え部品
E インナーディッケルの長手方向
3 インナーディッケル付ダイヘッド
3a コーティングダイヘッド
3b インナーディッケル本体
3c 押さえ治具
3d 連結治具
図1
図2
図3