特許第5984978号(P5984978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984978
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】ジャーナル軸受装置及び回転機械
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/03 20060101AFI20160823BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20160823BHJP
   F04D 29/057 20060101ALI20160823BHJP
   F04D 29/056 20060101ALI20160823BHJP
   F01D 25/16 20060101ALI20160823BHJP
   F02C 7/06 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   F16C17/03
   F16C33/10 Z
   F04D29/057 A
   F04D29/056 A
   F01D25/16 A
   F02C7/06 Z
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-17745(P2015-17745)
(22)【出願日】2015年1月30日
(65)【公開番号】特開2016-142314(P2016-142314A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2015年9月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中野 隆
(72)【発明者】
【氏名】篠原 種宏
(72)【発明者】
【氏名】貝漕 高明
(72)【発明者】
【氏名】小澤 豊
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−116959(JP,A)
【文献】 特開2002−276662(JP,A)
【文献】 特開昭53−118648(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102008020330(DE,A1)
【文献】 特開昭57−144313(JP,A)
【文献】 特開昭55−006005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/03
F01D 25/16
F02C 7/06
F04D 29/056
F04D 29/057
F16C 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の空間を存してロータ軸のジャーナルを囲繞可能なキャリアリングと、
前記ジャーナルを回転可能に支持するように前記空間にそれぞれ配置され、前記キャリアリングの周方向に配列された少なくとも2つの軸受パッドと、
を備え、
前記軸受パッドは、
複数の溝が開口する表面を有する基材と、
前記基材の表面に前記溝を覆うように積層され、前記ジャーナルの外周面と対向可能な軸受材と、を有し、
前記複数の溝は、前記キャリアリングの軸線の周りを延びる複数の仮想的な螺旋にそれぞれ沿うように延び
前記キャリアリングの軸線方向にて前記軸受パッドの端部に位置する前記基材の表面の縁部は、全域に渡って、前記キャリアリングの軸線方向にて前記軸受パッドの端面に近づくほど前記キャリアリングの中心から離れるように傾斜した傾斜面によって構成され、
前記複数の溝の端は、前記傾斜面に開口し、
前記軸受材は、前記傾斜面を覆っている
ことを特徴とするジャーナル軸受装置。
【請求項2】
前記複数の仮想的な螺旋のリード長をLとし、前記ロータ軸のジャーナルの外径をDとしたとき、次式:
0<D/L≦0.86
で示される関係が満たされている
ことを特徴とする請求項1に記載のジャーナル軸受装置。
【請求項3】
前記キャリアリングの軸線方向での前記複数の溝のピッチをPとし、前記ロータ軸のジャーナルの外径をDとしたとき、次式:
0<P/D≦0.3
で示される関係が満たされている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のジャーナル軸受装置。
【請求項4】
前記キャリアリングの幅方向での前記複数の溝の各々の開口幅をWとし、前記キャリアリングの径方向での前記複数の溝の各々の深さをHとしたとき、次式:
0.5≦H/W≦4.0
で示される関係が満たされている
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のジャーナル軸受装置。
【請求項5】
前記キャリアリングの幅方向での前記複数の溝の各々の開口幅をWとし、前記キャリアリングの幅方向での前記複数の溝の各々の底の幅をwとしたとき、次式:
0≦w/W≦1.0
で示される関係が満たされている
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のジャーナル軸受装置。
【請求項6】
前記複数の溝の各々はV字形の断面形状を有する
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のジャーナル軸受装置。
【請求項7】
前記複数の仮想的な螺旋は、相互に旋回方向が異なる複数の仮想的な螺旋を含んでいる
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のジャーナル軸受装置。
【請求項8】
前記複数の溝は、第1旋回方向の仮想的な螺旋に沿う第1溝と、前記第1旋回方向とは逆の第2旋回方向の仮想的な螺旋に沿う第2溝とを含み、
前記キャリアリングの軸線方向にて、前記第1溝が存在する領域と前記第2溝が存在する領域が相互に重なっている
ことを特徴とする請求項7に記載のジャーナル軸受装置。
【請求項9】
前記複数の溝は、第1旋回方向の仮想的な螺旋に沿う第1溝と、前記第1旋回方向とは逆の第2旋回方向の仮想的な螺旋に沿う第2溝とを含み、
前記キャリアリングの軸線方向にて、前記第1溝が存在する領域と前記第2溝が存在する領域が相互に重なっていない
ことを特徴とする請求項7に記載のジャーナル軸受装置。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載のジャーナル軸受装置を備えることを特徴とする回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はジャーナル軸受装置及び回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば蒸気タービンやガスタービン等の回転機械は、ロータ軸を回転可能に支持するジャーナル軸受装置を有している。この種のジャーナル軸受装置として、例えば、特許文献1や特許文献2が開示するティルティングパッド型のジャーナル軸受装置は、ロータ軸のジャーナルを囲むキャリアリングを有し、ジャーナルの外周面とキャリアリングの内周面との間に複数の軸受パッドが配置されている。
【0003】
軸受パッドはすべり軸受であり、基材と、基材の表面に一体に設けられた軸受材とを有する。軸受材は、例えば特許文献3に記載された遠心鋳造により、基材の表面上に積層される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2010/097990号
【特許文献2】特開2010−116959号
【特許文献3】特開2005−114019号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軸受パッドにおいては、その信頼性を高めるという観点から、基材の表面に対する軸受材の密着性が高いほどよい。
上述した事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、高い信頼性を有する軸受パッドを有するジャーナル軸受装置、及び、該ジャーナル軸受装置を備える回転機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るジャーナル軸受装置は、
円筒形状の空間を存してロータ軸のジャーナルを囲繞可能なキャリアリングと、
前記ジャーナルを回転可能に支持するように前記空間にそれぞれ配置され、前記キャリアリングの周方向に配列された少なくとも2つの軸受パッドと、
前記キャリアリングの周方向にて相互に離間して前記空間に配置され、それぞれ前記空間に潤滑油を供給可能な複数のノズルヘッドと、
を備え、
前記軸受パッドは、
複数の溝が開口する表面を有する基材と、
前記基材の表面に前記溝を覆うように積層され、前記ジャーナルの外周面と対向可能な軸受材と、を有し、
前記複数の溝は、前記キャリアリングの軸線の周りを延びる複数の仮想的な螺旋にそれぞれ沿うように延びている。
【0007】
上記構成(1)のジャーナル軸受装置では、基材の表面に仮想的な螺旋に沿う複数の溝が形成され、溝の中に軸受材の一部が入り込んでいる。このため、基材の表面に対する軸受材の密着性が高められ、ジャーナル軸受装置は高い信頼性を有する。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記構成(1)において、
前記複数の仮想的な螺旋のリード長をLとし、前記ロータ軸のジャーナルの外径をDとしたとき、次式:
0<D/L≦0.86
で示される関係が満たされている。
【0009】
上記構成(2)の回転機械では、仮想的な螺旋のリード長Lに対するジャーナルの外径Dの比D/Lが0超0.86以下であることによって、キャリアリングの周方向に対して溝が大きく傾斜している。このため、キャリアリングの周方向に荷重が作用したときに、軸受材が溝に対して滑ることが防止され、基材の表面に対する軸受材の密着性を更に高めることができる。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記キャリアリングの軸線方向での前記複数の溝のピッチをPとし、前記ロータ軸のジャーナルの外径をDとしたとき、次式:
0<P/D≦0.3
で示される関係が満たされている。
【0011】
上記構成(3)では、ジャーナルの外径Dに対するピッチPの比P/Dが0超0.3以下であることによって、基材の表面に十分な数の溝が存在している。このため、基材の表面に対する軸受材の密着性を更に高めることができる。
【0012】
(4)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(3)の何れか1つにおいて、
前記キャリアリングの幅方向での前記複数の溝の各々の開口幅をWとし、前記キャリアリングの径方向での前記複数の溝の各々の深さをHとしたとき、次式:
0.5≦H/W≦4.0
で示される関係が満たされている。
【0013】
上記構成(4)では、溝の開口幅Wに対する深さHの比H/Wが0.5以上4.0以下であることによって、溝から軸受材が抜けづらく、基材の表面に対する軸受材の密着性を更に高めることができる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(4)の何れか1つにおいて、
前記キャリアリングの幅方向での前記複数の溝の各々の開口幅をWとし、前記キャリアリングの幅方向での前記複数の溝の各々の底の幅をwとしたとき、次式:
0≦w/W≦1.0
で示される関係が満たされている。
【0015】
上記構成(5)では、溝の開口幅Wに対する底の幅wの比w/Wが0以上1.0以下であるため、機械加工によって溝を容易に形成することができる。
【0016】
(6)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(5)の何れか1つにおいて、
前記複数の溝の各々はV字形の断面形状を有する。
上記構成(6)では、複数の溝の各々はV字形の断面形状を有するので、機械加工によって溝を容易に形成することができる。
【0017】
(7)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(6)の何れか1つにおいて、
前記複数の仮想的な螺旋は、相互に旋回方向が異なる複数の仮想的な螺旋を含んでいる。
上記構成(7)では、複数の溝が、旋回方向が異なる複数の仮想的な螺旋に沿っていることで、基材に対する軸受材の密着性を高めることができる。
【0018】
(8)幾つかの実施形態では、上記構成(7)において、
前記複数の溝は、第1旋回方向の仮想的な螺旋に沿う第1溝と、前記第1旋回方向とは逆の第2旋回方向の仮想的な螺旋に沿う第2溝とを含み、
前記キャリアリングの軸線方向にて、前記第1溝が存在する領域と前記第2溝が存在する領域が相互に重なっている。
上記構成(8)では、旋回方向の異なる第1溝と第2溝が同じ領域に存在することで、溝の密度を高めることができ、基材に対する軸受材の密着性を高めることができる。
【0019】
(9)幾つかの実施形態では、上記構成(7)において、
前記複数の溝は、第1旋回方向の仮想的な螺旋に沿う第1溝と、前記第1旋回方向とは逆の第2旋回方向の仮想的な螺旋に沿う第2溝とを含み、
前記キャリアリングの軸線方向にて、前記第1溝が存在する領域と前記第2溝が存在する領域が相互に重なっていない。
上記構成(9)では、旋回方向の異なる第1溝と第2溝が別々の領域に存在することで、特定の領域に対し特定の方向に負荷が作用する場合に、該負荷が作用する方向に応じて基材に対する軸受材の密着性を高めることができる。
(10)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(9)の何れか1つにおいて、
前記基材の表面の縁部は、前記複数の溝の端が開口する傾斜面によって構成され、
前記軸受材は、前記傾斜面を覆っている
上記構成(10)では、基材の表面の縁部が傾斜面によって構成され、軸受材が傾斜面を覆っていることで、基材の表面の縁部における軸受材の密着性を高めることができる。
【0020】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械は、
上記構成(1)乃至(10)の何れか1つのジャーナル軸受装置を備える。
上記構成(11)によれば、ジャーナル軸受装置が高い信頼性を有するので、回転機械も高い信頼性を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、高い信頼性を有する軸受パッドを有するジャーナル軸受装置、及び、該ジャーナル軸受装置を備える回転機械が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るタービンの概略的な構成を示す断面図である。
図2】一実施形態に係るジャーナル軸受装置の縦断面を概略的に示す図である。
図3図2中のIII−III線に沿う概略的な断面図である。
図4図2中のIV−IV線に沿う概略的な断面図である。
図5図2及び図3中の軸受パッドを概略的に示す斜視図である。
図6図5の軸受パッドの基材を概略的に示す斜視図である。
図7図5中のVII面に沿う軸受パッドの概略的な部分断面図である。
図8図5中のVIII面に沿う軸受パッドの概略的な部分断面図である。
図9】軸受パッドの基材に形成された溝の形状を説明するための図である。
図10】幾つかの実施形態に係る軸受パッドの図8に相当する部分断面図である。
図11】幾つかの実施形態に係る軸受パッドの基材に形成された溝の形状を説明するための図である。
図12】幾つかの実施形態に係る軸受パッドの基材に形成された溝の形状を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係るタービン1の概略的な構成を示す断面図である。
タービン1は、例えばコンバインドサイクル発電に適用可能な蒸気タービンであり、発電機3に接続されている。タービン1は、蒸気を利用してトルクを発生させ、発電機3はタービン1が出力したトルクを利用して発電する。
【0025】
タービン1は、ハウジング(車室)5と、ロータ軸7と、ハウジング5に固定された静翼列と、ロータ軸7に固定された複数の動翼列とを有する。ロータ軸7は、ジャーナル軸受装置9,10及びスラスト軸受装置11によって、水平軸の回りで回転可能に支持され、ロータ軸7の少なくとも一部は、ハウジング5内を延びている。ロータ軸7の一端側に、発電機3が接続されている。
【0026】
ハウジング5とロータ軸7との間には筒状の内部流路12が形成され、内部流路12に静翼列及び動翼列が配置される。各静翼列は、ロータ軸7の周方向に配列された複数の静翼14からなり、各静翼14はハウジング5に対して固定されている。各動翼列は、ロータ軸7の周方向に配列された複数の動翼15からなり、各動翼15は、ロータ軸7に対して固定されている。各静翼列では、蒸気の流れが加速され、各動翼列では、蒸気のエネルギがロータ軸7の回転エネルギに変換される。
【0027】
以下、図2図9を参照して、本発明の幾つかの実施形態に係るジャーナル軸受装置10について説明する。
図2は、一実施形態に係るジャーナル軸受装置10の縦断面を概略的に示す図であり、図3中のII−II線に沿う概略的な断面図である。図3は、図2中のIII−III線に沿う概略的な断面図である。図4は、図2中のIV−IV線に沿う概略的な断面図である。図5は、図2及び図3中の軸受パッドを概略的に示す斜視図である。図6は、図5の軸受パッドの基材を概略的に示す斜視図である。図7は、図5中のVII面に沿う軸受パッドの概略的な部分断面図である。図8は、図5中のVIII面に沿う軸受パッドの概略的な部分断面図である。図9は、軸受パッドの基材に形成された溝の形状を説明するための図である。
【0028】
ジャーナル軸受装置10は、図2及び図3に示したように、軸受ハウジング30と、キャリアリング32と、少なくとも2つの軸受パッド34と、複数のノズルヘッド38と、一対の隔壁部40と、少なくとも1つの半円環軸受部42とを有する。
軸受ハウジング30は、例えば、台座30aと、台座30aに対し固定されるカバー30bとを有する。
【0029】
キャリアリング32は、軸受ハウジング30の内部に配置されている。例えば、キャリアリング32と軸受ハウジング30の間には少なくとも1つのキー33が配置され、軸受ハウジング30はキー33を介して、キャリアリング32を支持する。キー33は、例えば、球面キーや平キーである。
キャリアリング32は、円筒形状の内周面を有し、キャリアリング32の内周面は、ロータ軸7の一部、すなわちジャーナル7aを、円筒形状の空間44を存して囲繞可能である。空間44は、ジャーナル7aの外周面とキャリアリング32の内周面との間に規定される。キャリアリング32は例えば円筒形状を有する。
【0030】
少なくとも2つの軸受パッド34は、空間44の下半領域にそれぞれ配置され、キャリアリング32の周方向に配列されている。つまり、少なくとも2つの軸受パッド34は、キャリアリング32の径方向内側に配置されている。軸受パッド34は、キャリアリング32の軸線方向に沿って見たときに扇形形状を有し、それぞれ分割円筒形状の湾曲した内面34a及び外面34bを有している。軸受パッド34の内面34aは、軸受合金、例えばホワイトメタルによって形成され、ジャーナル7aの外周面と対向して配置される。
【0031】
少なくとも2つの軸受パッド34は、傾動可能又は揺動可能に設けられており、ジャーナル7aと軸受パッド34の隙間は、ジャーナル7aの周方向又は軸線方向にて徐々に変化可能である。そのために、例えば、少なくとも2つの軸受パッド34の各々とキャリアリング32との間には、図示しない傾動ユニットが設けられる。傾動ユニットは、例えばピボットによって構成される。或いは軸受パッド34の外面34bとキャリアリング32の内周面の曲率が相互に異なるように構成される。
【0032】
複数のノズルヘッド38は、キャリアリング32の周方向にて相互に離間して空間44に配置され、それぞれ空間44に潤滑油を供給可能である。例えば、キャリアリング32に図示しない潤滑油の供給路が形成され、供給路を通じてノズルヘッド38に潤滑油が供給される。なお、空間44に潤滑油を供給可能な他の装置があれば、ノズルヘッド38は必須の構成ではない。
【0033】
一対の隔壁部40は、ロータ軸7を挿通可能な軸孔を有し、キャリアリング32の軸線方向にて空間44の両端を規定している。隔壁部40は、例えば、円環形状のサイドプレート46によって構成され、サイドプレート46は、キャリアリング32に対しボルトによって固定される。
【0034】
少なくとも1つの半円環軸受部42は、空間44の上半領域に配置され、例えば図示しないボルトによって、キャリアリング32に対し固定される。半円環軸受部42は、キャリアリング32の軸線方向に沿って見たときに扇形形状を有している。半円環軸受部42は、キャリアリング32の径方向にて内側に軸受面50を有する。軸受面50は、ジャーナル7aの外周面の上半領域に沿うように湾曲した、軸受パッド34よりも短軸の半円筒形状を有し、ジャーナル7aの外周面の上半領域と軸受隙間を存して対向する。キャリアリング32の軸線方向での軸受面50の存在位置は、軸受パッド34の存在位置に重なっている。
【0035】
図5図8に示したように、軸受パッド34は、基材53と、基材53に積層された軸受材54とを有する。
軸受材54は、例えばホワイトメタル等の軸受合金からなり、軸受パッド34の内面34aを形成している。
【0036】
基材53は、軸受材54によって覆われた表面55を有し、表面55には、基材53に形成された複数の溝56が開口している。複数の溝56は、図9に示したように、キャリアリング32の軸線の周りを延びる複数の仮想的な螺旋Sにそれぞれ沿うように延びている。複数の溝56は、キャリアリング32の周方向及び軸線方向に対して傾斜してそれぞれ延びており、キャリアリング32の軸線方向に相互に離れている。
例えば、軸受材54は、遠心鋳造により軸受パッド34の表面55に積層可能である。
【0037】
上述したジャーナル軸受装置10では、タービン1の作動中、即ちロータ軸7の回転中、ノズルヘッド38から空間44に潤滑油が供給される。ノズルヘッド38から噴出した潤滑油は、軸受パッド34の内面34aとジャーナル7aの外周面との間に流入し、これらの間に油膜を形成する。軸受パッド34は、油膜を介して、ロータ軸7の自重に基づく下方に向かう荷重を支持しながら、ロータ軸7を回転可能に支持する。
【0038】
その上、上述したジャーナル軸受装置10では、基材53の表面55に仮想的な螺旋Sに沿う複数の溝56が形成され、溝56の中に軸受材54の一部が入り込んでいる。このため、基材53の表面55に対する軸受材54の密着性が高められ、ジャーナル軸受装置10は高い信頼性を有する。
また、複数の溝56は螺旋Sに沿って延びているので、旋盤加工により基材53に容易に形成することができる。
【0039】
幾つかの実施形態では、図9に示すように、複数の仮想的な螺旋Sのリード長をLとし、ロータ軸のジャーナルの外径をDとしたとき、次式:
0<D/L≦0.86
で示される関係が満たされている。
【0040】
上記構成によれば、仮想的な螺旋Sのリード長Lに対するジャーナルの軸受径Dの比D/Lが0超0.86以下であることによって、キャリアリング32の周方向に対して溝56が大きく傾斜している。具体的には、表面55に接する平面に投影したとき、投影された平面にてキャリアリング32の周方向と螺旋Sのなす角θが30°以上である。このため、キャリアリング32の周方向に荷重が作用したときに、溝56の側壁が荷重を受け止めることで軸受材54が溝56に対して滑ることが防止され、基材53の表面55に対する軸受材54の密着性を更に高めることができる。
幾つかの実施形態では、比D/Lは0超0.5以下である。この場合、表面55に接する平面に投影したとき、投影された平面にてキャリアリング32の周方向と螺旋Sのなす角θが45°以上である。
なお、リード長Lは、キャリアリング32の軸線方向での螺旋Sの一周期の長さである。
【0041】
幾つかの実施形態では、キャリアリング32の軸線方向での複数の溝56のピッチをPとし、ロータ軸7のジャーナル7aの外径をDとしたとき、次式:
0<P/D≦0.3
で示される関係が満たされている。
【0042】
上記構成によれば、ジャーナル7aの外径Dに対するピッチPの比P/Dが0超0.3以下であることによって、基材53の表面55に十分な数の溝56が存在している。このため、基材53の表面55に対する軸受材54の密着性を更に高めることができる。
【0043】
幾つかの実施形態では、キャリアリング32の幅方向での複数の溝56の各々の開口幅をWとし、キャリアリング32の径方向での複数の溝56の各々の深さをHとしたとき、次式:
0.5≦H/W≦4.0
で示される関係が満たされている。
【0044】
上記構成によれば、溝56の開口幅Wに対する深さHの比H/Wが0.5以上4.0以下であることによって、溝56から軸受材54が抜けづらく、基材53の表面55に対する軸受材54の密着性を更に高めることができる。
【0045】
幾つかの実施形態では、キャリアリング32の幅方向での複数の溝56の各々の開口幅をWとし、キャリアリング32の幅方向での複数の溝56の各々の底の幅をwとしたとき、次式:
0≦w/W≦1.0
で示される関係が満たされている。
【0046】
上記構成によれば、溝56の開口幅Wに対する底の幅wの比w/Wが0以上1.0以下であるため、機械加工によって溝56を容易に形成することができる。
【0047】
幾つかの実施形態では、図10に示したように、複数の溝56の各々はV字形の断面形状を有する。
上記構成によれば、複数の溝56の各々はV字形の断面形状を有するので、機械加工によって溝56を容易に形成することができる。
【0048】
幾つかの実施形態では、複数の仮想的な螺旋Sは、相互に旋回方向が異なる複数の仮想的な螺旋を含んでいる。この場合、図11及び図12に示したように、複数の溝56は、第1旋回方向の仮想的な螺旋Sに沿う第1溝56aと、第1旋回方向とは反対方向の第2旋回方向の仮想的な螺旋Sに沿う第2溝56bとを含む。
上記構成では、複数の溝56、すなわち第1溝56a及び第2溝56bが、旋回方向が異なる複数の仮想的な螺旋Sに沿っていることで、基材53に対する軸受材54の密着性を高めることができる。
【0049】
幾つかの実施形態では、図11に示したように、キャリアリング32の軸線方向にて、第1溝56aが存在する領域と第2溝56bが存在する領域が相互に重なっている。
上記構成では、旋回方向の異なる第1溝56aと第2溝56bが同じ領域に存在することで、溝56の密度を高めることができ、基材53に対する軸受材54の密着性を高めることができる。
【0050】
幾つかの実施形態では、図12に示したように、キャリアリング32の軸線方向にて、第1溝56aが存在する領域と第2溝56bが存在する領域が相互に重なっていない。
上記構成では、旋回方向の異なる第1溝56aと第2溝56bが別々の領域に存在することで、特定の領域に対し特定の方向に負荷が作用する場合に、該負荷が作用する方向に応じて基材53に対する軸受材54の密着性を高めることができる。
【0051】
幾つかの実施形態では、図7及び図8に示したように、基材53の表面55の縁部は、キャリアリング32の径方向に対し傾斜した傾斜面55a,55bによって構成されている。複数の溝56の端は、傾斜面55a,55bに開口し、軸受材54は、傾斜面55a,55bを覆っている。
【0052】
上記構成によれば、基材53の表面55の縁部が傾斜面55a,55bによって構成され、軸受材54が傾斜面55a,55bを覆っていることで、基材53の表面55の縁部における軸受材54の密着性を高めることができる。
【0053】
幾つかの実施形態では、溝56の開口幅は、溝56の底面の幅よりも大である。この構成では、基材53に対し、旋盤加工により溝56を容易に形成することができる。
幾つかの実施形態では、軸受パッド34の内面34aは、溝56の存在の影響を受けずに、凹凸のない湾曲面によって構成されている。
【0054】
幾つかの実施形態では、ジャーナル軸受装置10は、隔壁部40を有していなくてもよい。
幾つかの実施形態では、空間44の上半領域に、半円環軸受部42に代えて少なくとも1つの軸受パッド34が配置されていてもよい。幾つかの実施形態では、キャリアリング32の周方向にて全域にわたるように、相互に間隔を存して4つの軸受パッド34が空間44に配置される。
【0055】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変更を加えた形態や、これらの形態を組み合わせた形態も含む。
例えば、タービン1は、蒸気タービンに限定されることはなく、ガスタービンであってもよい。また、ジャーナル軸受装置10は、タービン1以外の回転機械、例えば送風機、圧縮機、ターボチャージャ、発電機等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 タービン
3 発電機
5 ハウジング(車室)
7 ロータ軸
9 ジャーナル軸受装置
10 ジャーナル軸受装置
11 スラスト軸受装置
12 内部流路
14 静翼
15 動翼
30 軸受ハウジング
30a 台座
30b カバー
32 キャリアリング
33 キー
34 軸受パッド
34a 内面
34b 外面
38 ノズルヘッド
40 隔壁部
42 半円環軸受部
44 空間
46 サイドプレート
50 軸受面
53 基材
54 軸受材
55 表面
55a,55b 傾斜面
56 溝
56a 第1溝
56b 第2溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12