(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ガラス転移温度は、高分子の弾性率等の力学的特性や耐熱性などと関連する重要な物性であり、高分子の設計段階で予測することが求められている。
【0003】
下記特許文献1には、分子動力学シミュレーションにより無定形高分子の温度毎の密度を求め、温度に対する比体積変化の屈曲点から該無定形高分子のガラス転移温度を算出する方法が開示されている。該屈曲点を示す温度は、ガラス転移温度の実測値よりも40〜60K高いため、屈曲点を示す絶対温度の値から40〜60Kを差し引いてガラス転移温度の予測を行っている。
【0004】
特許文献1では、上記屈曲点が明確にシミュレーションにて出現することを前提としているが,分子動力学シミュレーションにて求まる温度−比体積は応答が強いとはいえない。したがって、シミュレーションでガラス転移温度を特定するに際し、必ずしも実験と同じ物理量をみることが適切であるとはいえない。
【0005】
また、実験と同様に、シミュレーションにおいても、温度−比体積の関係から高温側と低温側より2本の近似直線を引き、その交点からガラス転移温度を予測する手法も行われている。しかしながら、この手法では、サンプリング点の選択如何により近似直線が変化するため、ガラス転移温度の算出結果にバラツキが生じる問題がある。
【0006】
一方、下記非特許文献1には、分子動力学シミュレーションにより、高分子の温度毎の平均二乗変位(MSD)を計算し、温度と平均二乗変位との関係からガラス転移温度を算出する方法が開示されている。この文献では、温度−平均二乗変位の関係から高温側と低温側より2本の近似直線を引き、その交点からガラス転移温度を算出している。しかしながら、平均二乗変位は一般に高温側においてデータのバラツキが大きくなるので、サンプリング点の選択如何により近似直線が変化し、上記と同様に、ガラス転移温度の算出結果にバラツキが生じる問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0014】
本発明の一実施形態に係る算出装置10について
図1〜
図6に基づいて説明する。
図1に示すように、算出装置10は、入力部12、分子動力学計算部14、近似曲線計算部16、曲率計算部18、ガラス転移温度算出部20、及び出力部22を有する。
【0015】
なお、この算出装置10は、例えば、マウスとキーボードを有する汎用のコンピュータを基本ハードウェアとして用いることでも実現することが可能である。すなわち、入力部12、分子動力学計算部14、近似曲線計算部16、曲率計算部18、ガラス転移温度算出部20、及び出力部22は、上記のコンピュータに搭載されたプロセッサにプログラムを実行させることにより実現することができる。このとき、算出装置10は、上記のプログラムをコンピュータに予めインストールすることで実現してもよいし、CD−ROM等の記憶媒体に記憶して、又はネットワークを介して上記のプログラムを配布して、このプログラムをコンピュータに適宜インストールすることで実現してもよい。
【0016】
以下、上記各部の構成と機能について順番に説明する。
【0017】
(1)入力部12
入力部12は、対象となる無定形高分子の分子構造を含む情報を取得する。分子構造としては、無定形高分子を構成するモノマーなどの繰り返し単位の構造、複数種の単位からなる場合にはその構成比、重合度、及び分子鎖の数などが挙げられ、これらのデータが入力される。
【0018】
無定形高分子としては、ガラス転移温度を有する各種の無定形高分子が挙げられ、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系モノマーの単独重合体又は共重合体、アクリル酸やメタクリル酸又はそれらのエステル、酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、アクリロニトリルなどのビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体、更には、これらジエン系モノマーとビニル系モノマーとの共重合体などが挙げられ、特に限定されない。
【0019】
(2)分子動力学計算部14
分子動力学計算部14は、上記無定形高分子の情報を用いて、無定形高分子の温度毎の平均二乗変位(以下、MSDという。)を分子動力学シミュレーションにより計算する。無定形高分子に対する分子動力学シミュレーション自体は、上記特許文献1に記載されているように公知である。例えば、無定形高分子を原子モデルで構成する場合、原子の間にいくつかのポテンシャル関数を設定し、ニュートンの運動方程式に従って原子位置を徐々にずらしていき、このようにして時々刻々と変化する原子位置が統計的な平衡状態に達する状況をシミュレートするのが分子動力学シミュレーションである。
【0020】
かかる分子動力学シミュレーションにより温度毎のMSDを計算することも、上記非特許文献1に記載されているように公知である。例えば、高温から一定のシミュレーション時間だけ分子動力学シミュレーションを行ってモデル高分子の原子位置の平衡化を行い、次いで一定時間冷却して再び同一時間平衡化を行いながら、平衡化させたときのMSDを計算する。このステップを繰り返して行って高分子モデルを段階的に冷却することにより、温度毎のMSDが得られる。
【0021】
図2に示すように、分子動力学計算部14は、システム作成部30と、冷却部32と、平衡化部34と、平均二乗変位計算部36と、判定部38を有する。
【0022】
システム作成部30は、入力部12で取得した情報を用いて、予想されるガラス転移温度よりも高温にて、無定形高分子をモデル化したシステムを作成する。このような高分子の無定形構造(アモルファス構造)を構築したシステムの作成温度は、ガラス転移温度よりも高温であれば、特に限定するものではないが、一般に600K〜700K程度であればよい。
【0023】
無定形高分子をモデル化する手法としては、例えば、ユナイテッドアトムモデルやビーズ−スプリングモデルなどが挙げられる。ここで、ユナイテッドアトムモデルは、水素を重原子(例えば炭素)に含めて1つの原子(質点)として取り扱う仮想原子モデルである。ビーズ−スプリングモデルは、kuhn長に相当する程度のいくつかのモノマーユニットを1つのビーズ(セグメント)としてモデル化するものである。
【0024】
冷却部32は、上記無定形構造のシステムを所定温度毎に冷却する。例えば、粒子数、圧力及び温度が一定の系であるNPTアンサンブルを用い、20K〜50K刻みにて、システムを冷却する。
【0025】
平衡化部34は、上記で冷却したシステムを平衡化させる。例えば、上記NPTアンサンブルでは、温度を変化させれば、時間発展によりシステムは平衡化する。詳細には、上記冷却後、所定時間刻みにて分子動力学計算(以下、MD計算という。)を行い、ある一定時間を経過した段階で平衡化したと判断する。すなわち、該一定時間t0の間、所定時間t1毎にMD計算を行って(t0>t1)、システムを平衡化させる。該一定時間t0としては、特に限定するものではないが、ユナイテッドアトムモデルであれば1ナノ秒〜10ナノ秒程度であることが好ましい。また、該所定時間t1としても、特に限定するものではないが、ユナイテッドアトムモデルであれば0.5フェムト秒〜5.0フェムト秒程度であることが好ましい。
【0026】
平均二乗変位計算部36は、上記平衡化した状態で当該温度でのMSDを計算する。MSDとは、運動の大きさを表す統計処理指標の1つであり、ある決まった時間幅の中での運動の始点と終点の距離の二乗(運動の方向性を無視する)の総和量である。ここで、該時間幅としては、特に限定されないが、ユナイテッドアトムモデルであれば1ナノ秒〜10ナノ秒程度とすることができる。
【0027】
本実施形態では、平均二乗変位計算部36は、システムを平衡化した後、次の温度に移行するまでの間に、MD計算により、無定形高分子モデルのMSDを算出する。その際、MSDは、無定形高分子の分子鎖の本数が複数である場合、各分子鎖毎の平均値を算出してもよく、あるいはまた、全体の平均値を算出してもよい。また、平衡化後、所定時間経過毎にMD計算を実施して各時刻でのMSDを求め、それらの平均値を、当該温度でのMSDとして算出してもよい。
【0028】
判定部38は、上記システムの温度が指定温度に到達したか否かを判定し、到達していなければ、上記冷却部32、平衡化部34及び平均二乗変位計算部36の処理を繰り返すように制御し、到達していれば、分子動力学シミュレーションによるMSDの計算を終了する。すなわち、該指定温度になるまで、上記冷却、平衡化及びMSDの算出を繰り返すように制御する。上記指定温度としては、予想されるガラス転移温度よりも低い温度が設定され、例えば100K〜150K程度の値が設定される。
【0029】
(3)近似曲線計算部16
近似曲線計算部16は、上記MD計算で求めたMSDと温度との関係に基づいて、温度に対するMSDの近似曲線を計算する。詳細には、
図4に示すように、MSDと温度との関係をプロットし、プロットした離散データを基に、最適化アルゴリズムを用いて、
図5に示すような近似曲線を求める。
【0030】
近似曲線としては、曲率計算部18で曲率を算出するため、非線形の近似曲線が用いられる。具体的には、多項式、指数関数、スプライン関数などの近似曲線が挙げられ、この中でもスプライン関数が好ましい。また、近似曲線を計算する際の最適化アルゴリズムとしては、最小二乗法、Levenberg-Marquardtアルゴリズムによる非線形最小二乗法、遺伝的アルゴリズムによる非線形最小二乗法などが挙げられる。近似曲線の相関係数は0.98以上であることが好ましい。
【0031】
(4)曲率計算部18
曲線計算部18は、上記近似曲線の曲率を計算して温度に対する曲率の変化を求める。詳細には、上記で得られた近似曲線を用いて、各温度における曲率を計算し、
図6に示すように、温度−曲率の関係としてプロットして両者の関係を求める。
【0032】
ここで、曲率κは、曲率半径Rの逆数として定義され、即ち、κ=1/Rである。また、曲率半径Rは、下記式(1)で表される。式中、xが温度、yがMSDである。
【数1】
【0033】
(5)ガラス転移温度算出部20
ガラス転移温度算出部20は、上記温度と曲率の関係に基づいて、
図6に示すように、曲率が最大値となるときの温度を、当該無定形高分子のガラス転移温度(Tg)として算出する。その際、温度と曲率の関係をプロットした離散データを基に、最適化アルゴリズムを用いて、温度−曲率の近似曲線を求め、該近似曲線を用いて曲率を最大にするに温度を用いてもよい。その場合の近似曲線としては、上記温度−MSDと同様、多項式近似曲線、指数関数近似曲線、スプライン関数近似曲線などの非線形近似曲線が用いられる。また、近似曲線を計算する際の最適化アルゴリズムとしても、上記と同様、最小二乗法、Levenberg-Marquardtアルゴリズムによる非線形最小二乗法、遺伝的アルゴリズムによる非線形最小二乗法などが挙げられる。該近似曲線の相関係数は0.98以上であることが好ましい。
【0034】
(6)出力部22
出力部22は、上記により得られたガラス転移温度を出力する。ガラス転移温度の出力は、ディスプレイによって表示したり、プリンタによって印刷したりすることにより行うことができる。
【0035】
次に、本実施形態に係る算出装置10の動作状態について、
図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0036】
ステップS1において、入力部12が、算出対象となる無定形高分子の分子構造を含む情報を取得する。
【0037】
次いで、分子動力学計算部14が、取得した情報を用いて無定形高分子の温度毎のMSDを分子動力学シミュレーションにより計算する。
【0038】
詳細には、まず、ステップS2において、システム作成部30が、取得した無定形高分子の情報を用いて、予想されるガラス転移温度よりも高温にて、高分子モデルの無定形構造からなるシステムを構築する。そしてステップS3に進む。
【0039】
ステップS3において、冷却部32が上記システムを所定温度だけ冷却する。次いで、 ステップS4において、平衡化部34が、所定のシミュレーション時間だけ分子動力学シミュレーションを行って、冷却したシステムを平衡化させる。その後、ステップS5において、平均二乗変位計算部36が、平衡化した状態で、その温度でのMSDをMD計算により算出する。そしてステップS6に進む。
【0040】
ステップS6において、判定部38が、上記システムの温度が指定温度に到達したか否かを判定し、到達していなければ、ステップS3、S4及びS5の処理を繰り返すように制御し、到達していれば、分子動力学シミュレーションを終了して、ステップS7に進む。
【0041】
ステップS7において、近似曲線計算部16が、上記で得られた各温度におけるMSDの値を用いて、
図4に示すように両者の関係をプロットし、プロットした離散データを基に、最小二乗法などの最適化アルゴリズムを用いて、
図5に示すような近似曲線を求める。そしてステップS8に進む。
【0042】
ステップS8において、曲率計算部18が、上記近似曲線を用いて、各温度における曲率を計算し、
図6に示すように、温度−曲率の関係としてプロットして、温度に対する曲率の変化を求める。そしてステップS9に進む。
【0043】
ステップS9において、ガラス転移温度算出部20が、上記温度に対する曲率の変化に基づいて、曲率が最大値となるときの温度をガラス転移温度として算出する。そしてステップS10に進む。
【0044】
ステップS10において、出力部22が、上記により得られたガラス転移温度を出力する。
【0045】
以上よりなる本実施形態によれば、分子動力学シミュレーションにより求まる温度−MSDの関係を曲線近似し、これにより得られた近似曲線の曲率が最大値となる温度をガラス転移温度として算出している。MSDは、高分子の分子鎖の運動を表すことに適した物理量であり、上記特許文献1で用いられた比体積よりも強い応答を示す。そのため、ガラス転移温度を算出する際の指標として優れており、より明瞭にガラス転移温度を算出することができる。また、温度−MSDの関係から近似曲線を求め、その曲率が最大値となるときの温度をガラス転移温度として算出するので、MSDの増加傾向が大きく変化する位置を明確に特定することができる。そのため、算出結果のバラツキを抑えながらガラス転移温度を算出することができる。
【0046】
このようにして算出されたガラス転移温度は、該無定形高分子の実際のガラス転移温度とは必ずしも一致していなくてもよい。すなわち、高分子の設計段階においては、その有用性を評価するために、当該無定形高分子を用いて、伸長・せん断変形に対する応力の周波数応答解析や誘電応答解析などを行う場合がある。そのような場合、用いる無定形高分子のガラス転移温度を知っておくことが重要である。ガラス転移温度を境として物性が大きく異なるためである。例えば、弾性率などのゴム物性を評価するためには、ガラス転移温度よりも高温でシミュレーションを行わなければならない。本実施形態によれば、無定形高分子のガラス転移温度をバラツキなく算出することができるので、該無定形高分子を用いた他の分子動力学シミュレーションを行う場合に有意義である。
【実施例】
【0047】
(実施例1,2及び比較例1〜4)
分子動力学シミュレーションには、公開プログラムのLAMMPS[Large-Scale Atomic/Molecular Massively Parallel Simulator:米国サンディア国立研究所]を用いた。上記実施形態に従い、実施例1ではポリブタジエン(BR)について、また、実施例2ではポリイソプレン(IR)について、ガラス転移温度を算出した。
【0048】
詳細には、実施例1では、シス1,4−ブタジエンをユナイテッドアトムモデルによりモデル化し、モノマー100個にて構成される直鎖5本を用いて、無定形構造のシステムを作成した。また、実施例2では、シス1,4−イソプレンをユナイテッドアトムモデルによりモデル化し、モノマー100個にて構成される直鎖5本を用いて、無定形構造のシステムを作成した。いずれも、力場にはDreiding力場を用いた。また、これらのシステムは、温度650Kにて作成した。
【0049】
作成したシステムについて、NPTアンサンブルを用いて、25K刻みで冷却し、平衡化させる分子動力学シミュレーションを行った。システムは、各温度毎に1fsec刻みで3nsecにわたってMD計算を行った。平衡化の時間は1.5nsecとした。詳細には、システムの冷却から1.5nsecの間、1fsec毎にMD計算を行って平衡化させた。平衡化した後、1.5nsecの間、1fsec毎にMD計算を行いながら、10fsec毎にMSDの値をサンプリングして、その平均値を算出し、当該温度におけるMSDの値とした。MD計算は、システムの温度が150Kになるまで行った。
【0050】
得られた温度−MSDの関係をプロットし(
図7(a)及び
図9(a)参照)、プロットした離散データに基づいて、最小二乗法による最適化アルゴリズムを用いて、5次の多項式近似曲線を求めた(
図7(b)〜(d)及び
図9(b)〜(d)参照)。そして、得られた近似曲線から各温度での曲率を計算して、温度−曲率の関係をプロットし、プロットした離散データから最小二乗法による最適化アルゴリズムを用いて、6次の多項式近似曲線を求めた(
図8及び
図10参照)。そして、この近似曲線から曲率が最大値となる温度を算出し、その温度をガラス転移温度として出力した。
【0051】
また、上記特許文献1に相当する比較例として、比較例1ではポリブタジエン(BR)について、比較例2ではポリイソプレン(IR)について、それぞれ、MD計算でMSDを算出する代わりに比体積を算出し、更に、温度−比体積の関係から高温側と低温側より2本の近似直線を引いてその交点の温度を算出し、その他は実施例1,2と同様にして、ガラス転移温度を求めた。
【0052】
更に、上記非特許文献1に相当する比較例として、比較例3ではポリブタジエン(BR)について、比較例4ではポリイソプレン(IR)について、それぞれ、MD計算で求めた温度−MSDの関係から高温側と低温側より2本の近似直線を引いてその交点の温度を算出し、その他は実施例1,2と同様にして、ガラス転移温度を求めた。
【0053】
図7(a)は、実施例1について温度−MSD関係をプロットした図であり、
図7(b)〜(d)は、その近似式とともに近似曲線を実線で示した図である。
図7(b)は600〜150Kのデータから、(c)は575〜175Kのデータから、(d)は550〜200Kのデータから、それぞれ近似曲線を求めている。
図9は、実施例2について、
図7と同様の結果を示したものである。
【0054】
図8は、実施例1について、温度−曲率の関係をプロットするとともに、その近似曲線及び近似式を示した図であり、(a)は600〜150Kのデータから、(b)は575〜175Kのデータから、(c)は550〜200Kのデータから、それぞれ近似曲線を求めている。
図10は、実施例2について、
図8と同様の結果を示したものである。
【0055】
図11(a)は、比較例1について温度−比体積関係をプロットした図であり、
図11(b)は600〜150Kのデータから、(c)は575〜175Kのデータから、(d)は550〜200Kのデータから、それぞれガラス転移温度を算出したときの近似直線をその近似式とともに示した図である。いずれも、図において黒丸で示す高温側と低温側の端から3点の温度における比体積データから近似直線を求めている。
図12は、比較例2について、
図11と同様の結果を示したものである。
【0056】
図13(a)は、比較例3について温度−MSD関係をプロットした図であり、
図13(b)は600〜150Kのデータから、(c)は575〜175Kのデータから、(d)は550〜200Kのデータから、それぞれガラス転移温度を算出したときの近似直線をその近似式とともに示した図である。近似直線を算出する際のMSDデータは、高温側については、(b)及び(c)では端から5点、(d)では端から3点を用いた。低温側については、いずれも端から3点とした。
図14は、比較例4について、
図13と同様の結果を示したものである。但し、近似直線を算出する際のMSDデータは、高温側については、(b)では端から5点、(c)及び(d)では端から3点とし、低温側については、いずれも端から3点とした。
【0057】
図11,12に示すように、比較例1,2に係る温度−比体積の関係では、屈曲点が明確に観察できなかった。また、
図11(b)〜(d)、
図12(b)〜(d)に示すように、それぞれ、サンプリング点の選択如何により近似直線の交点位置が大きく変化しており、その結果、下記表1に示すように、算出されたガラス転移温度についてもバラツキが大きかった。すなわち、比較例1,2ともに標準偏差が大きい。
【0058】
図13,14に示すように、比較例3,4では、MSDが高温側においてデータのバラツキが大きかったため、サンプリング点の選択如何により近似直線の交点位置が大きく変化しており、その結果、下記表1に示すように、算出されたガラス転移温度についてもバラツキが大きかった。
【0059】
これに対し、実施例1,2では、
図7,9に示すように、温度−MSDの関係において屈曲点が明確に観察された。また、下記表1に示すように、サンプリング点の選択によるガラス転移温度の算出結果のバラツキが比較例1〜4よりも小さく抑えられていた。
【0060】
【表1】
【0061】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。