(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記摺動案内部は、前記弾性支持部材の収縮復元力により弾性支持部材の端部が前記シートバックフレームに対し前方に摺動するように、後部から前部に向かって弾性支持部材の収縮方向に傾斜していることを特徴とする請求項1,3〜5の何れか1の請求項に記載の乗物用シート。
前記摺動案内部には、シートクッションに着座した乗員の上体から前記弾性支持部材に作用する後方移動荷重が所定値に達するまで、弾性支持部材の端部の後方への摺動を規制する摺動規制部が設けられていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1の請求項に記載の乗物用シート。
前記摺動案内部には、後方に摺動する前記弾性支持部材の端部を所定の終端位置に停止させる位置規制部が設けられていることを特徴とする請求項1〜8の何れか1の請求項に記載の乗物用シート。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の乗物用シートバック構造においては、上段支持部材の端部をシートバックに対して後方に変位可能に支持する変位機構や、下段支持部材に所定値以上の後方荷重が加わった場合にのみ変位機構を作動させるトリガ機構が必要であって、構造が複雑であり、部品点数が増加するという問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような技術的背景に鑑みてなされたものであり、乗員の上体を弾性的に支持する弾性支持部材を簡単な構造により後方移動可能とし、部品点数の増加も抑制することができる乗物用シートを提供することを課題とする。また、乗物の後面衝突時に、乗員の上体をシートバックに沈み込ませて衝撃を吸収でき、その際、乗員に違和感を与えることなく乗員の上体を安定して受け止めることができる乗物用シートを提供することを課題とする。さらに、弾性支持部材の後方移動および前方への自律的復帰動作を安定した状態で容易かつ円滑に行わせることができるようにすることも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決する本発明の乗物用シートは、少なくともシートクッションおよびシートバックを備えた乗物用シートであって、シートバックは、骨格を構成するシートバックフレームと、このシートバックフレームに左右の端部が連結されることで、シートクッションに着座した乗員の上体を弾性的に支持する弾性支持部材と、この弾性支持部材の左右の少なくとも一端部をシートバックフレームに対し後方に誘導可能に連結する誘導連結部とを有し、誘導連結部は、弾性支持部材の端部を後方に摺動させるための摺動案内部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る乗物用シートでは、乗物の後面衝突時に乗員の上体が慣性力によってシートバックに押し付けられると、乗員の上体を弾性的に支持する弾性支持部材の左右の少なくとも一端部が誘導連結部の摺動案内部に案内されて後方に摺動する。これにより、乗員の上体がシートバックに深く沈み込んで乗員への衝撃が吸収される。
【0010】
本発明の乗物用シートにおいて、弾性支持部材の左右の端部が連結されるシートバックフレームの左右部分に剛性差があり、その片側に誘導連結部を設ける場合、剛性の高い側に誘導連結部を設けると、シートバックに沈み込む乗員の上体をシートバックフレームの剛性の高い側が安定して受け止めるようになるので好ましい。また、この場合、シートバックフレームの剛性が低い側の後方への倒れが可能となるため、乗物の後面衝突時に乗員の上体が捩られるような違和感が抑制される。
【0011】
本発明の乗物用シートにおいて、弾性支持部材の端部を前方に摺動させるための戻し部を設けられていると、弾性支持部材の前方への復帰動作が容易かつ円滑となるので好ましい。また、本発明の乗物用シートにおいて、誘導連結部の摺動案内部は、弾性支持部材の収縮復元力により弾性支持部材の端部がシートバックフレームに対し前方に摺動するように、後部から前部に向かって弾性支持部材の収縮方向に傾斜しているのが好ましい。
【0012】
ここで、誘導連結部は、シートバックフレームの構成部材に切起し形成することができる。この誘導連結部には、摺動案内部の背面側を補強する補強部を設けるのが好ましい。また、弾性支持部材は線状のバネで構成することができる。
【0013】
誘導連結部の摺動案内部には、シートクッションに着座した乗員の上体から弾性支持部材に作用する後方移動荷重が所定値に達するまで、弾性支持部材の端部が後方へ摺動するのを規制する摺動規制部を設けるのが好ましい。この場合、乗員の上体は、弾性支持部材に作用する後方移動荷重が所定値に達するまで不用意にシートバックに沈むことがなく、乗員の着座姿勢が安定する。
【0014】
誘導連結部の摺動案内部には、後方に摺動する弾性支持部材の端部を所定の終端位置に停止させる位置規制部を設けるのが好ましい。この場合、乗員の上体から弾性支持部材に作用する後方移動荷重が所定値以下に低下すると、弾性支持部材の収縮復元力により弾性支持部材の端部が容易に前方に摺動するようになる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、弾性支持部材の左右の少なくとも一端部をシートバックフレームに対し後方に誘導可能に連結する誘導連結部を有するため、乗物の後面衝突時に乗員の上体がシートバックに押し付けられた際、乗員の上体をシートバックに沈み込ませて衝撃を吸収することができる。特に、弾性支持部材の左右の少なくとも一端部を後方に摺動させる手段が誘導連結部の摺動案内部で構成されるため、構造が簡単であり、部品点数の増加も抑制することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、シートバックフレームの剛性の高い側に誘導連結部を有するため、乗物の後面衝突時に乗員の上体がシートバックに沈み込む際、乗員の上体をシートバックフレームの剛性の高い側で安定して受け止めることができる。また、シートバックフレームの剛性の低い側には誘導連結部を有しないため、軽量化できる。さらに、シートバックフレームの剛性が低い側の後方への倒れが可能となるため、乗物の後面衝突時に乗員の上体が捩られるような違和感を抑制することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、弾性支持部材の端部を前方に摺動させるための戻し部を設けられているため、弾性支持部材の前方への復帰動作を容易かつ円滑に行わせることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、誘導連結部の摺動案内部が後部から前部に向かって弾性支持部材の収縮方向に傾斜しているため、乗物の後面衝突時に乗員の上体に押されて伸張した弾性支持部材が乗物の後面衝突後に伸張状態から収縮復元力により収縮状態に復帰する際、弾性支持部材の左右の少なくとも一端部を誘導連結部の摺動案内部に沿って自律的に前方に復帰移動させることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、誘導連結部がシートバックフレームの構成部材に切起し形成されているため、構造の簡素化を達成でき、部品点数の増加も一層抑制することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、摺動案内部の背面側を補強する補強部が誘導連結部に設けられているため、弾性支持部材の左右の少なくとも一端部が摺動案内部に沿って摺動する際、その摺動を阻害することなく安定した摺動を確保することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、弾性支持部材が線状のバネで構成されているため、弾性支持部材の左右の少なくとも一端部の取付けが容易となる。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、シートクッションに着座した乗員の上体から弾性支持部材に作用する後方移動荷重が所定値に達するまで、弾性支持部材の端部の後方への摺動を規制する摺動規制部が摺動案内部に設けられているため、後方移動荷重が所定値を超える乗物の後面衝突時にのみ、乗員の上体をシートバックに沈み込ませることができる。
【0023】
請求項9に記載の発明によれば、後方に摺動する弾性支持部材の端部を所定の終端位置に停止させる位置規制部が摺動案内部に設けられているため、弾性支持部材の端部が前方の始端位置に向けて摺動する際の摺動を円滑に開始させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る乗物用シートの一実施形態について説明する。一実施形態の乗物用シートは、例えば
図1に示すように、自動車の運転席に配置される車両用シートSとして構成されている。この車両用シートSは、ウレタンフォームなどのクッション材からなるパッド材が合成皮革や布地などの表皮で覆われたシートクッションS1、シートバックS2およびヘッドレストS3を備えている。なお、以下の説明において、前後、左右の方向は、シートクッションS1に乗員が着座した状態を想定し、その乗員から見た方向とする。
【0026】
シートクッションS1およびシートバックS2は、
図2および
図3に示すようなシートクッションフレーム10およびシートバックフレーム20を骨格として内蔵している。また、図示省略したが、ヘッドレストS3もその骨格を構成するヘッドレストフレームを内蔵している。
【0027】
シートクッションフレーム10は、概略長方形の皿形にプレス成形されたパンフレーム11を主体に構成されている。このパンフレーム11は、運転席のフロア上にスライドレール30を介して前後方向に位置調節自在となっている。
【0028】
一方、シートバックフレーム20は、縦長の長方形に枠組みされたパイプフレーム21と、このパイプフレーム21の右側部分に溶接された右サイドフレーム22と、パイプフレーム21の左側部分の下部に溶接された左サイドフレーム23と、左サイドフレーム23の直上方に配置されてパイプフレーム21の左側部分に溶接された支持ブラケット24とを備えている。
【0029】
右サイドフレーム22は、パイプフレーム21の右側部分から前方に張り出す形状にプレス成形されている。この右サイドフレーム22は、後縁部がパイプフレーム21の右側部分に沿って溶接され、下部がパイプフレーム21の後面に廻り込んで強固に溶接されることで、パイプフレーム21の右側部分の剛性を高めている。
【0030】
このような右サイドフレーム22の下端部は、シートクッションフレーム10の右側後部に固定された右側連結ブラケット40にリクライニングユニットRUを介して前後に傾動自在に連結されている。
【0031】
左サイドフレーム23は、パイプフレーム21の左側の下端部の外側面を包持して溶接されている。この左サイドフレーム23の下端部は、シートクッションフレーム10の左側後部に固定された左側連結ブラケット50に対し前後に傾動自在に連結されている。
【0032】
支持ブラケット24は、図示しないアームレストの支持部材を兼用するものであり、アームレストを起倒自在に支持するための支持ピン24Aを有している。
【0033】
右サイドフレーム22と支持ブラケット24との間には、連続する波形に屈曲形成された線状のバネからなる弾性支持部材の一例としての上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26が張設されている。なお、シートクッションS1に着座した乗員の上体を受け止める受圧板(図示省略)を設ける場合、受圧板は、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26に装着することで、シートの前後方向に弾性的に支持される。このような受圧板を支持する弾性支持部材はワイヤスプリングで構成することができる。
【0034】
ここで、剛性の高い右サイドフレーム22には、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部をそれぞれ後方に誘導可能に連結するための誘導連結部22A,22Aが、右サイドフレーム22を構成する板材の切り起こしにより形成されている。
【0035】
上下の誘導連結部22A,22Aは、同様に構成されているため、上部弾性支持部材25の右端部を後方に誘導可能に連結する上方の誘導連結部22Aについてのみ説明し、下部弾性支持部材26の右端部を後方に誘導可能に連結する下方の誘導連結部22Aについては説明を省略する。
【0036】
誘導連結部22Aは、
図4に拡大して示すように、右サイドフレーム22の左側面から前端部が内側に突出するように舌片状に斜めに切り起こされている。この誘導連結部22Aの前端部には、上部弾性支持部材25の右端部を係止するフック部22Bが外側方向にL字状に折り曲げ形成されている。また、誘導連結部22Aの後端部には、補強部22Cが内側方向に膨出して形成されている。この補強部22Cは、後述する摺動案内部22Dの後部の背面側を補強する。なお、摺動案内部22Dの後端部には、上部弾性支持部材25の右端部を前方へ離れ易くするための逃げ部(内側凸部)22Hがあるので、上部弾性支持部材25の右端部は、摺動案内部22Dの後端部での抵抗が抑えられて前方に戻り易くなる。
【0037】
このような誘導連結部22Aの外側の面は、上部弾性支持部材25の右端部を後方に摺動させるための摺動案内部22Dに設定されている。この摺動案内部22Dは、後部から前部に向かって上部弾性支持部材25の収縮方向に斜めに傾斜している。すなわち、摺動案内部22Dは、右サイドフレーム22の左側面から離間する内側方向に斜めに傾斜しており、前側が後側より内側に位置している。
【0038】
そして、摺動案内部22Dの前部の外側に屈曲する部に、前方への摺動を規制する摺動規制部(前方摺動規制部)22Eが設定されている。この摺動規制部22Eは、上部弾性支持部材25に作用する後方移動荷重が所定値に達するまで、上部弾性支持部材25の右端部が後方へ摺動するのを規制するための部である。
【0039】
また、摺動案内部22Dの後端部には、後方に摺動する上部弾性支持部材25の右端部を所定の終端位置に停止させるストッパーとして機能する位置規制部22Fが設けられている。この位置規制部22Fは、消音効果のある樹脂材料やゴム材料により、例えば断面が三角形の棒状に形成されていて、摺動案内部22Dの後端部に接着などで固定されている。
【0040】
ここで、誘導連結部22Aが切り起こされた右サイドフレーム22の切起こし窓の上部には、上方に突出した逃げ部(山形形状)22Gが形成されている。この逃げ部22Gは、線状のバネからなる上部弾性支持部材25の右端部を誘導連結部22Aのフック部22Bに掛け止める作業に際し、上部弾性支持部材25の右端部との干渉を避けて作業性を向上させるためのものである。なお、このような山形形状の逃げ部22Gは必須のものではないため、
図4に二点鎖線で示すように、逃げ部22Gは省略することができる。
【0041】
一方、
図5に拡大して示すように、支持ブラケット24には、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の左端部をそれぞれ包持して固定する固定部(保持部)24B,24Bが折曲げ形成されている。この固定部(保持部)24B,24Bは、上下に振り分けられていて、その間に支持ピン24Aや取付部があるため、コンパクトな配置となっている。そして、支持ピン24Aが突出するベース部24Cと上方の固定部(保持部)24B付近とが上部連結片24Dを介して連結され、ベース部24Cと下方の固定部(保持部)24B付近とが下部連結片24Eを介して連結されることで、支持ブラケット24の剛性の向上が図られている。
【0042】
続いて、本発明に係る乗物用シートの一実施形態として構成された車両用シートSにつき、その作用効果を説明する。
図1に示す車両用シートSが運転席に配置された車両において、シートクッションS1に着座した乗員の上体BからシートバックS2に押圧力が殆ど加わらない無負荷状態では、
図7に示すように、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26は後方に撓まない。
【0043】
一方、車両の急加速時などのように、乗員の上体Bが慣性力によってシートバックS2に押し付けられる通常運転時の負荷状態では、
図8に示すように、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26が後方移動荷重を受けて後方に撓む。
【0044】
この場合、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26と誘導連結部22Aの摺動案内部22Dとの間の角度Xが90°より大きいため、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部は、摺動案内部22Dの前部の摺動規制部22Eに係止された状態を保持している。従って、乗員の上体Bは適度にシートバックS2に沈み込み、乗員の着座姿勢が安定する。
【0045】
ここで、自車両の後部に他車両が追突し、あるいは、後退する自車両の後部が他車両や構造物に衝突したりする車両の後面衝突時の大負荷状態では、乗員の上体Bが大きな慣性力により強くシートバックS2に押し付けられるため、
図9に示すように、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26が大きな後方移動荷重を受けて後方に大きく撓む。
【0046】
この場合、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26と誘導連結部22Aの摺動案内部22Dとの間の角度Xが90°より小さくなるため、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部は、摺動案内部22Dの前部の摺動規制部22Eから後方に向かって摺動案内部22Dを摺動する。そして、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部は、位置規制部22Fに受け止められて所定の終端位置で停止する。
【0047】
従って、乗員の上体BはシートバックS2に深く沈み込み、乗員の頭部がヘッドレストS3に接近する。その結果、乗員の頭部が速やかにヘッドレストS3に受け止められ、乗員の頸部への負荷が大幅に軽減される。
【0048】
ちなみに、従来例のように、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26が、左右の端部において後方に移動できることなくサイドフレームに固定されていた場合、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の最大撓みは
図9に二点鎖線で示すとおりであり、実線で示す一実施形態の上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の最大撓みより大幅に小さくなる。
【0049】
図10は、前述した従来例と一実施形態とを比較して示す上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の変位―荷重曲線のグラフである。
図10に示すように、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の変位量は、荷重の増大途中まで(
図10の荷重F1参照)は、破線で示す一実施形態も実線で示す従来例も変わりがないが、負荷荷重がさらに増大すると、破線で示す一実施形態の変位量が実線で示す従来例の変位量よりも大きくなることが分かる(荷重F2参照)。
【0050】
そして、車両の後面衝突時の大負荷状態が解消して上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26に作用する後方移動荷重が所定値以下に低下すると、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の収縮復元力により、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部は、摺動案内部22Dの後部の位置規制部22Fから前方の摺動規制部22Eに向かって摺動案内部22Dを摺動し、自律的に摺動の始端位置に復帰する。
【0051】
一実施形態の車両用シートSによれば、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部をシートバックフレーム20に対し後方に誘導可能に連結する誘導連結部22Aを有するため、自車両の後面衝突時に乗員の上体BがシートバックS2に押し付けられた際、乗員の上体BをシートバックS2に沈み込ませて乗員の頭部をヘッドレストS3に接近させることができ、乗員の頭部を効果的に保護することができる。
【0052】
特に、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部を後方に摺動させる手段が右サイドフレーム22に切り起こされた誘導連結部22Aの摺動案内部22Dで構成されるため、構造が簡単であり、部品点数の増加も抑制することができる。
【0053】
また、シートバックフレーム20の右側部分の剛性を高める右サイドフレーム22に誘導連結部22Aが設けられているため、自車両の後面衝突時には、シートバックフレーム20の剛性の高い右側部分の上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26が大きく沈み込んで、乗員の上体Bを受け止めることができる。なお、シートバックフレーム20の剛性の低い左側部分には誘導連結部22Aが存在しないが、剛性の低い左側部分は、自車両の後面衝突時に後方に大きく倒れて変形するするため、乗員の上体は左右両方が後方移動するのであり、上体が捩られるような違和感が抑制される。
【0054】
さらに、誘導連結部22Aの摺動案内部22Dが後部から前部に向かって上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の収縮方向に傾斜しているため、車両の後面衝突時に乗員の上体Bに押されて伸張した上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26が車両の後面衝突後に伸張状態から収縮復元力により収縮状態に復帰する際、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部を誘導連結部22Aの摺動案内部22Dに沿って自律的に前方に復帰移動させることができる。
【0055】
また、誘導連結部22Aには、摺動案内部22Dの後部を背面側から補強する補強部22Cが形成されているため、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部が摺動案内部22Dに沿って摺動する際、その摺動を阻害することなく安定した摺動を確保することができる。
【0056】
さらに、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26が線状のバネで構成されているため、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部が誘導連結部22Aの摺動案内部22Dに沿って摺動する際、その摺動を円滑化することができる。
【0057】
また、乗員の上体Bから上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26に作用する後方移動荷重が所定値に達するまで、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部が後方へ摺動するのを規制する摺動規制部22Eが摺動案内部22Dに設けられているため、後方移動荷重が所定値を超える場合にのみ、乗員の上体BをシートバックS2に深く沈み込ませることができる。
【0058】
加えて、後方に摺動する上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部を所定の終端位置に停止させる位置規制部22Fが摺動案内部22Dに設けられているため、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部が前方の始端位置に向けて摺動する際の摺動を円滑に開始させることができる。
【0059】
以上、本発明に係る乗物用シートの一実施形態としての車両用シートSについて説明したが、本発明の乗物用シートは、一実施形態の車両用シートSに限定されるものではなく、その構造は適宜変更することができる。例えば右サイドフレーム22に切り起こされた誘導連結部22Aは、
図11〜
図13に示す種々の誘導連結部27、すなわち、右サイドフレーム22の内側面に溶接された別部品からなる種々の誘導連結部27に変更することができる。
【0060】
図11〜
図13に示す各誘導連結部27は、右サイドフレーム22の内側面に閉断面を構成するように前部および後部が右サイドフレーム22の内側面に溶接された板材からなり、
図7に示した誘導連結部22Aのフック部22Bの機能を有する前壁部27Aと、摺動案内部22Dに相当する摺動案内部27Bと、摺動規制部22Eに対応した摺動規制部(後方摺動規制部)27Cとを有する。
【0061】
ここで、
図11に示す誘導連結部27は、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の収縮方向に向けて倒れる摺動案内部27Bの後端部に、右サイドフレーム22の板状部分に対し45度より大きい角度で傾斜する位置規制部27Fが設けられている。この位置規制部27Fは、図示のように、摺動案内部27Bを段差状に折り曲げて形成されている。この位置規制部27Fにより、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26のワイヤが摺動案内部27Bの後端に位置したときに摺動案内部27Bと右サイドフレーム22の板状部分とによりワイヤが挟まれないようになっている。これにより、後突時に上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26が後方に移動した後、前方に復帰するのが容易となっている。
【0062】
図12に示す誘導連結部27は、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の収縮方向に向けて倒れる摺動案内部27Bの前後方向に対する傾斜角度が大きく設定されている。このため、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部を摺動案内部27Bに沿って後方に摺動させるために必要となる上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の後方移動荷重は増大する。すなわち、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26は、後方に大きく撓み難くなる。
【0063】
図13に示す誘導連結部27は、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の収縮方向に向けて倒れる摺動案内部27Bの傾斜角度が二段階に設定されている。すなわち、前側の摺動案内部27Dの傾斜角度が大きく設定され、後側の摺動案内部27Eの傾斜角度が小さく設定されている。このため、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の右端部を摺動案内部27Dに沿って後方に摺動させるために必要となる上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の後方移動荷重は、前側の摺動案内部27Dでは大きく、後側の摺動案内部27Eでは急激に減少する。すなわち、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26は、後方移動荷重が作用し始める初期段階では後方に撓み難くいが、初期段階を超えて大きな後方移動荷重が作用すると、一気に後方に大きく撓む。この形態における摺動案内部27Dは、段形状に形成された摺動規制部と見ることができる。このように、段形状に摺動案内部27Dを設けることで、所定荷重を超えたときに一気に上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26を移動させるような動作を実現することができる。
【0064】
一実施形態の車両用シートSにおいて、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26は、連続する波形に屈曲形成された線状のバネとしたが、例えば、網状に形成された荷重を受ける部材の左右の両端部にコイルスプリングを連結した構造のものとしてもよい。
【0065】
また、一実施形態の車両用シートSにおいては、上部弾性支持部材25および下部弾性支持部材26の端部を前方に摺動させるための戻し部を設けるのが好ましい。この戻し部は、傾斜面やバネ部材などで構成することができる。
【0066】
一実施形態の車両用シートSは、運転席が右側に配置された車両を対象として構成されているが、左右方向の構造を逆に構成することで、運転席が左側に配置された車両に適用できる。
【0067】
また、一実施形態の車両用シートSは、シートクッションS1とシートバックS2とヘッドレストS3とが一体に構成されたバケットタイプの車両用シートとして構成することもできる。
【0068】
前記実施形態においては、弾性支持部材に作用する後方移動荷重が所定値に達するまで、弾性支持部材の端部の後方への摺動を規制する摺動規制部が設けられた形態を例示したが、摺動案内部の前端付近の前後方向に対する傾斜角を非常に小さくして、摺動規制部を無くし、後方移動荷重が小さいときから、弾性支持部材が移動可能に構成してもよい。
【0069】
前記実施形態においては、誘導連結部をシートバックフレーム20の左右の一方にのみ設けていたが、弾性支持部材の両端部に対応させて左右の両方に誘導連結部を設けるようにしてもよい。
【0070】
さらに、本発明の乗物用シートは、船舶用や航空機用のシートとして構成することもできる。