(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の技術的構成及びその作用効果は、以下の通りである。
【0014】
本発明の第1の発明である白銀色光輝性塗膜は、薄片面の平均長径が35μmよりも大きい薄片状チタン酸を含む塗膜であって、該塗膜表面の算術平均粗さRaが4μm以下である白銀色光輝性塗膜である。
【0015】
チタン酸は種々の結晶構造を持つものが知られているが、層状の結晶構造を有するチタン酸(以降、層状チタン酸と称することもある)を用いるのが好適である。
【0016】
層状チタン酸にも、種々の結晶構造を持つものが確認される。その結晶形は結晶学的にA型(アナタース型)やR型(ルチル型)の酸化チタンとは異なるものである。層状チタン酸としては例えば、TiO6八面体が稜共有してa軸およびc軸方向に2次元的に広がったシートを作り、その間にカチオンを含んで積層した構造の、レピドクロサイト構造に類似した結晶構造を有する層状チタン酸を用いることができる。このような層状チタン酸は、粉末X線回折(Cukα)により、2θ=9.7〜10.0°,19.4〜19.7°,29.2〜29.6°に層状構造に起因するピークが観察される。
【0017】
本発明において、「薄片状」とは、板状、シート状、フレーク状、鱗片状と呼ばれるものを包含する概念であり、厚みに対する幅及び長さの比が比較的大きな形状を有するものである。また、本発明においては、層状チタン酸は、薄片状の形態を有するチタン酸(以降、薄片状チタン酸と称することもある)である。
【0018】
本発明においては、薄片状チタン酸として、その粒子の大きさを、厚みと、厚み方向に対して略垂直な面(以下、薄片面という)の長径(最長幅)、短径(最短幅)で表したときに、長径の平均値(以降、平均長径とする)が35μmよりも大きいものを用いる。
【0019】
このように、薄片状チタン酸として薄片面の平均長径が35μmよりも大きいものを塗膜に含ませ、且つ、その塗膜表面の算術平均粗さを4μm以下とすることで、柔らかな白銀色の金属調光沢をもち、滑らかで質感の高い色調を示す白銀色光輝性塗膜とすることができる。塗膜表面の算術平均粗さRaが4μmを超えると表面平滑性が低下し、光散乱により塗膜表面と塗膜内部での正反射が減少し光干渉が減少する。このため、光輝性が得られず、薄片面の平均長径が35μm以下となると、光干渉の単位面積が小さく且つ粒界が多いことによると考えられるが、光輝性が得られない。従って、薄片状チタン酸の平均長径と塗膜の表面粗さを同時に満たさなければ、本発明のような白銀色で光輝性の高い塗膜は得られない。
【0020】
本発明において光輝性を更に高めるためには、薄片状チタン酸の薄片面の平均長径を40μm以上とするのが好ましく、44μm以上とするのがより好ましい。また、長径の平均値と短径の平均値の平均値を薄片面の平均粒径としたとき、平均粒径が30μm以上とすることがより一層好ましく、平均粒径を35μm以上とすると更に好ましい。光輝性の観点からは、平均長径の上限に制限は無いと考えられるが、後述する分散液において適度な粘度と充分な固形分濃度を両立させる点から、250μm以下とすることが好ましい。
【0021】
本発明において光輝性を更に高めるためには、塗膜表面の算術平均粗さRaは3μm以下とするのが好ましく、2μm以下とするのがより好ましい。下限値については特に制限は無い。
【0022】
塗膜表面の算術平均粗さRaの測定は、以下のようにして行う。塗膜表面の任意の領域の750μm×560μmの範囲を、超深度形状測定顕微鏡にて0.05μm間隔でスキャンし、表面形状を測定する。得られた測定値からJIS B 0601‐2001に準じた方法で算術平均粗さRaを算出する。具体的には、範囲内の測定点全てから最小二乗法で高さデータの基準面を求め、その範囲の表面粗さを算出する。
超深度形状測定顕微鏡としてはKEYENCE社製超深度形状測定顕微鏡VK―8550が使用でき、表面形状測定及び算術表面粗さRaの算出には、画像計測・解析ソフトVK―H1A7が使用できる。
【0023】
薄片状チタン酸の寸法の測定は、走査型電子顕微鏡を用いて行う。走査型電子顕微鏡(HITACHI社製 S−4800)にて得られた像から、粒子100個を選択し、各粒子について薄片面の長径および短径を測定する。得られた測定値から、長径と短径それぞれの平均値を求め、それぞれ平均長径、平均短径とする。また、平均長径と平均短径の平均値を薄片面の平均粒径とする。
【0024】
塗膜中の薄片状チタン酸の含有量には特に制限は無く、その塗膜に光輝性が得られる範囲で適宜設定できる。下限値は、具体的には30%以上とすることができ、40%以上とすると好ましい。上限値も特に制限は無く、実質的に樹脂を含まない、すなわちほぼ100%とすることもできる。塗膜には、後述するその他の第三成分などが含まれていてもよい。
【0025】
塗膜の乾燥膜厚としては、光輝性を発現するとともに隠ぺい力を持たせるため、10μm以上とするのが好ましく、15μm以上とするのがより好ましい。膜厚の上限値については、塗膜中の薄片状チタン酸の含有量などにも影響されるが、膜厚が一定以上であればその効果は飽和するため特に制限は無く、例えば50μm程度や、70μm程度など適宜設定すればよい。
【0026】
また、本発明の白銀色光輝性塗膜においては、薄片状チタン酸が稠密に並び、且つ、配向して積層した塗膜を形成していること、より具体的には、走査型電子顕微鏡で500倍の倍率で塗膜表面を観察した時に、粒子同士の境界や独立粒子の存在があまり確認されず、連続調の表面をもつ塗膜を形成していることが好ましい。
【0027】
「稠密に並び」とは、走査型電子顕微鏡で500倍の倍率で塗膜表面をその法線方向から観察したときに、ある薄片状チタン酸の粒子と隣接する薄片状チタン酸粒子との間には空隙が形成されているのが観察されるが、その空隙が少ないことを指す。具体的には、観察面における空隙部分の面積比率が10%以下、好ましくは5%以下である。この面積比率は、走査電子顕微鏡写真をもとに、空隙部分の面積と、全面積から求めることができる。
【0028】
「配向して積層」とは、各薄片状チタン酸の粒子が、その薄片面が塗膜を塗布する基材の面とほぼ平行になるような向きで積層している状態のことを言う。
チタン酸を含む塗膜をこのような構造にすることで、柔らかな白銀色の金属調光沢をもち、滑らかで質感の高い色調を示す白銀色光輝性塗膜とすることができる。
【0029】
本発明の第2の発明の白銀色光輝性塗膜は、酸化チタン顔料を含む塗膜と、該塗膜の上に前記第1の発明の薄片状チタン酸含有塗膜を少なくとも有する複層塗膜である。塗膜をこのような構成とすることにより、白銀色光輝性塗膜に隠ぺい力を付与することができるとともに、該塗膜の光輝性を更に向上させることができる。この要因は明らかではないが、チタン酸含有塗膜を透過した光が酸化チタン顔料を含む塗膜で反射され、チタン酸含有塗膜からの反射光と何らかの相互作用をしているものと考えられる。
【0030】
酸化チタン顔料を含む塗膜としては、顔料級酸化チタンを含有する公知の塗料を用いて形成すればよい。塗料種には特に制限は無く、他層の塗膜との相性に応じて適宜決定できる。その膜厚についても特に制限は無い。その製造方法についても特に制限は無い。具体例として、特登‐04668705号公報の評価1に記載の塗料、塗膜化方法が挙げられる。
【0031】
複層塗膜の光輝性向上の点からは、酸化チタン顔料含有塗膜として、L値が80以上、好ましくは90以上、隠ぺい率(CR値)が70以上、好ましくは75以上の塗膜を用いるのが好適である。当該L値は公知の方法で測定できる。例えば、塗料をガラス板に10ミルのアプリケーターにて塗布後、カラーメーターでL,a,b値を計測する方法が挙げられる。また、当該隠ぺい率も公知の方法で測定できる。例えば、塗料を白黒チャート紙に#30バーコーターにて塗布し、カラーメーターで白地上のY値(Yw)、黒地上のY値(Yb)を測定し、CR値=100×Yb/Ywを算出する方法が挙げられる。このような塗膜を形成できる酸化チタン顔料としては、CR‐90,CR‐93,CR‐95,CR‐97(いずれも石原産業製)などが挙げられる。
【0032】
なお、本発明の複層塗膜の下地にさらにベースコート層を形成してもよい。また、本発明の複層塗膜の上に、さらにクリア塗膜などのオーバーコート層を形成してもよい。ベースコート層やオーバーコート層には公知のものを用いることができ、目的に応じて適宜選択できる。
【0033】
次に、本発明の第3の発明は、薄片面の平均長径が35μmよりも大きく、塩基性の有機化合物を少なくとも表面に有する薄片状チタン酸が分散媒に分散した白銀色光輝性塗膜製造用分散液である。該分散液は、そのまま白銀色光輝性塗膜製造用の塗料として好適に用いることができ、また、該塗料の原料として用いることもできる。
【0034】
前記塩基性の有機化合物としては、(1)水酸化4級アンモニウム化合物(水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等)、(2)アルキルアミン化合物(プロピルアミン、ジエチルアミン等)、(3)アルカノールアミン化合物(エタノールアミン、アミノメチルプロパノール等)等が挙げられ、中でもアルキルアミン化合物が好ましく、n−プロピルアミンを用いるとより好ましい。
【0035】
前記塩基性の有機化合物は、薄片状チタン酸とともに分散媒中に存在すると、少なくともその一部は薄片状チタン酸粒子の表面に存在し、分散液中で薄片状チタン酸粒子の分散剤として有効に働くと推測される。更に、薄片面の平均長径が35μmよりも大きく前記塩基性の有機化合物を少なくとも表面に有する薄片状チタン酸は、製膜過程において、薄片状チタン酸粒子が、各粒子の端面同士が融着したような状態となるとともに、薄片面が塗膜を塗布する基材の面とほぼ平行に配向して積層する、いわゆる自己組織化能を有するようになるため、本発明の表面粗さの小さい白銀色光輝性塗膜、薄片状チタン酸が稠密に並び且つ配向して積層した塗膜が形成されやすくなると推定される。
【0036】
前記塩基性の有機化合物の含有量が多すぎると反対に薄片状チタン酸粒子の凝集を招く場合があるとともに、薄片状チタン酸粒子の層間剥離が進行して光輝性が低下しやすくなるため、その含有量は、薄片状チタン酸に含まれるチタン(Ti)に対して0.01〜3当量の範囲が好ましく、0.03〜1.5当量の範囲がより好ましく、0.05〜0.5当量の範囲が更に好ましく、0.09〜0.2当量の範囲が一層好ましい。
【0037】
前記白銀色光輝性塗膜製造用分散液中の薄片状チタン酸の含有量は適宜調整することができる。含有量が低くなりすぎると白銀色光輝性塗膜としての性能を出すための塗膜厚みを得るのに煩雑な工程が必要になるため、TiO2換算で1重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましく、5重量%以上が更に好ましい。含有量が高くなりすぎると薄片状チタン酸粒子一つ当たりが占め得る体積が小さくなり凝集が起きて沈降し易くなるため、TiO2換算で20重量%以下が好ましく、より好ましくは10重量%以下である。このことから、TiO2換算で1〜20重量%がより好ましく、3〜20重量%がより好ましく、5〜20重量%がより好ましく、5〜15重量%が更に好ましい。
【0038】
前記分散媒には特に制限は無く、任意の溶媒を用いてよい。具体的には、水又はアルコール等の有機溶媒、あるいはそれらの混合物が挙げられ、工業的には水を主体とする水性媒液を用いるのが好ましい。
【0039】
有機溶媒を用いる場合、その種類は用途に応じて適宜選択することができるが、誘電率が5以上の有機溶媒であると薄片状チタン酸が分散し易いため好ましく、誘電率が10以上の有機溶媒がより好ましい。このような有機溶媒としてはアセトニトリル(誘電率37、沸点82℃)、メタノール(誘電率33、沸点65℃)、ジメチルスルホキシド(誘電率47、沸点189℃)、エタノール(誘電率24、沸点78.3℃)、2−プロパノール(誘電率18、沸点82.5℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(誘電率38、沸点153℃)、メチルエチルケトン(誘電率18.5、沸点80℃)、1−ブタノール(誘電率17.8、沸点118℃)及びホルムアミド(誘電率109、沸点210℃)からなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。また、有機溶媒としては低温度での乾燥が容易になることから、低沸点のものが好ましく、沸点が200℃以下のものがより好ましく、150℃以下のものが更に好ましく、100℃以下のものが更に好ましい。
【0040】
本発明の分散液には、薄片状チタン酸粒子、塩基性の有機化合物、分散媒以外にも、本発明の効果を阻害しない範囲で、樹脂バインダー、分散剤、表面調整剤(レベリング剤、濡れ性改良剤)、pH調整剤、消泡剤、乳化剤、着色剤、増量剤、防カビ剤、硬化助剤、増粘剤等の各種添加剤、充填剤等が第三成分として含まれていても良い。具体的には、樹脂バインダーとしては、(1)無機系バインダー((a)重合性ケイ素化合物(加水分解性シラン又はその加水分解生成物又はその部分縮合物、水ガラス、コロイダルシリカ、オルガノポリシロキサン等)、(b)金属アルコキシド類等)、(2)有機系バインダー(アルキド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、変性シリコーン系樹脂)等が挙げられる。分散剤としては、(1)界面活性剤((a)アニオン系(カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等)、(b)カチオン系(アルキルアミン塩、アルキルアミンの4級アンモニウム塩、芳香族4級アンモニウム塩、複素環4級アンモニウム塩等)、(c)両性(ベタイン型、アミノ酸型、アルキルアミンオキシド、含窒素複素環型等)、(d)ノニオン系(エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型等)等、(2)シリコーン系分散剤(アルキル変性ポリシロキサン、ポリオキシアルキレン変性ポリシロキサン等)、(3)リン酸塩系分散剤(リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、オルトリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等)、(4)アルカノールアミン類(アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール等)等が挙げられる。表面調整剤は有機溶剤分散体の表面張力をコントロールして、ハジキ、クレーター等の欠陥を防止するものであり、アクリル系表面調整剤、ビニル系表面調整剤、シリコーン系表面調整剤、フッ素系表面調整剤等が挙げられる。
【0041】
薄片状チタン酸、塩基性の有機化合物、分散媒以外の第三成分の添加量は適宜調整することができ、例えば分散剤として前記の界面活性剤、シリコーン系分散剤、リン酸塩系分散剤、アルカノールアミン類を用いる場合は、薄片状チタン酸の重量に対して0.005〜2.0重量%程度が好ましく、0.01〜0.2重量%程度がより好ましい。表面調整剤としては前記のシリコーン系表面調整剤等を用いることができ、薄片状チタン酸の重量に対して0.005〜2.0重量%程度が好ましく、0.01〜0.2重量%程度がより好ましい。
【0042】
次に、本発明の第4の発明は、金属酸化物または加熱により金属酸化物に分解される化合物と、酸化チタンまたは加熱により酸化チタンを生ずる化合物とを混合し、焼成して得られるチタン酸金属塩を得る工程と、該チタン酸金属塩を酸と接触させて層状構造のチタン酸化合物を生成する工程と、次いで該層状チタン酸化合物を塩基性化合物の共存下で液媒体中に分散し、層間を膨潤または剥離する工程、とを含む、薄片面の平均長径が35μmよりも大きく、塩基性の有機化合物を少なくとも表面に有する薄片状チタン酸を含む白銀色光輝性塗膜製造用分散液の製造方法、である。
【0043】
チタン酸金属塩は、次のようにして製造したチタン酸混合アルカリ金属塩が好ましい。すなわち、アルカリ金属酸化物M2O及びM’2O(M,M’は各々相異するアルカリ金属である)又は加熱により各々M2O及びM’2Oに分解される各化合物と、二酸化チタン又は加熱により二酸化チタンを生ずる化合物とを、好ましくは、M/M’/Tiのモル比で3/1/5から3/1/11の割合で混合し、焼成して製造する。その後、必要に応じて解砕してもよい。
【0044】
アルカリ金属酸化物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの酸化物の中から少なくとも1種を用いることができる。また、加熱によりアルカリ金属酸化物に分解される化合物としては、アルカリ金属の炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩などが使用できるが、これらのなかでも炭酸塩、水酸化物が好ましい。また、加熱により酸化チタンを生ずる化合物としては、メタチタン酸、オルトチタン酸などの含水酸化チタン、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物が挙げられるが、含水酸化チタンが好ましい。
【0045】
上記で得られたチタン酸混合アルカリ金属塩は、ホスト骨格中のTi4+席の一部が、層間のアルカリ金属とは異なるアルカリ金属イオンで置換された、組成式Mx[M’x/3Ti2−x/3]O4(式中のM,M’は各々相違するアルカリ金属であり、xは0.50〜1.0である)で示される、斜方晶の層状構造(レピドクロサイト型の結晶構造)を有する化合物である。
【0046】
組成式中のxは、出発原料の混合比を変化させることにより、コントロールできる。また、均一で単相の化合物を得るためには、前記合成工程の中、混合を十分に行うことが好ましく、原料粉末を自動乳鉢などで摩砕混合することが好ましい。
【0047】
前記焼成温度は1050〜1200℃であるが、チタン酸アルカリ金属塩の種類によって異なり、本発明においては、(チタン酸アルカリ金属塩の融点−150)℃〜チタン酸アルカリ金属塩の融点未満の温度とするのが好ましい。焼成温度をこの範囲とすると、チタン酸アルカリ金属塩の粒成長が著しく促進され、最終的に薄片面の平均長径が35μmよりも大きい、好ましくは平均粒径が30μmよりも大きい薄片状チタン酸が得られやすくなる。例えば、M=K、M’=Liの場合、焼成温度は1050〜1200℃とするのが好ましい。代表的な組成、すなわちM=K、M’=Liで、x=0.8の場合、1050〜1150℃がより好ましく、1080〜1140℃が更に好ましい。その他の焼成条件、例えば、昇降温速度、焼成時間、焼成雰囲気などには特に制限は無く、適宜設定してよい。また、焼成の際に融剤を添加する所謂フラックス法を採用してもよい。融剤としては、例えば塩化ナトリウムが挙げられる。
【0048】
次に、前記したとおり、チタン酸金属塩を酸水溶液と接触させる。具体的には、例えば、チタン酸金属塩を水溶媒に懸濁した後、酸水溶液を添加し、金属イオンを抽出(チタン酸金属塩中の金属イオンと、酸中の陽イオンとをイオン交換)することによって層状チタン酸化合物を生成させる方法が挙げられる。
【0049】
酸水溶液としては、塩酸、硫酸などの無機酸、酢酸、しゅう酸などの有機酸の水溶液が挙げられ、特に制限はない。濃度は好ましくは、0.5規定から6規定、さらに好ましくは、1規定から3規定である。反応に要する時間を適当なものとし、また、チタン酸の分解を防ぐためには上記の濃度範囲が好ましい。
【0050】
本発明においては、チタン酸金属塩に前述のチタン酸混合アルカリ金属塩を用いることが好ましい。このチタン酸混合アルカリ金属塩中のMとM’で示されたアルカリ金属イオンは活性であるので、他の陽イオンとの交換反応や有機物のインターカレーションによるとり込みを起こす。このため、酸水溶液と接触させると、層間(M)及びホスト骨格中(M’)のアルカリ金属イオンが、短時間で他の陽イオンと交換され、工業的に生産する場合に効率良く、生産コストの低い薄片状チタン酸分散体を得ることができる。M及びM’の組み合わせとして、(M、M’)=(カリウム、リチウム)、(ルビジウム、リチウム)、(セシウム、リチウム)が好ましく、(カリウム、リチウム)の組合せが特に好ましい。
【0051】
酸との反応を効率よく行う方法として、チタン酸アルカリ金属塩を酸性スラリーとした後、フィルタープレスやブフナーなどの吸引濾過器でケーキ状にし、そのまま吸引しながら新鮮な酸を通ずる方法を採ることが好ましい。また、酸水溶液との接触・反応後、イオン交換水等で洗浄して余分な酸を取り除くことが好ましい。その後、必要に応じて粗粒分離などを行ってもよい。また、該チタン酸金属塩を酸と接触させる工程を複数回行ってもよい。
【0052】
上記層状チタン酸化合物として、層と層との間のアルカリ金属イオンが水素イオンで置換され、かつ、ホスト骨格中のTi4+席の一部も置換された組成式
H4x/3Ti2−x/3O4・nH2O
(式中xは0.50〜1.0であり、nは0〜2である)で示される、斜方晶の層状構造を有する化合物が好ましい。
【0053】
前記方法により、M元素を水素イオンで高効率で置換することができる。具体的には、M2O/TiO2換算で1%以下、好ましくは0.2%以下とすることができる。
【0054】
次に、前記工程で得られた層状チタン酸を媒液に懸濁した後、塩基性の有機化合物を添加し、必要に応じて外力を印加することで、層間が膨潤又は層間で剥離した薄片状チタン酸分散液を得る。
【0055】
層状チタン酸を懸濁させる溶媒には特に制限は無く、任意の溶媒を用いてよい。具体的には、水又はアルコール等の有機溶媒、あるいはそれらの混合物が挙げられる。工業的には水を主体とする水性媒液を用いるのが好ましい。
【0056】
媒液への層状チタン酸及び塩基性の有機化合物の添加の順序は特に限定されず、例えば水に層状チタン酸と塩基性の有機化合物を加え、撹拌して混合することができる。また層状チタン酸を水に分散させたスラリーに塩基性の有機化合物を加えても、塩基性の有機化合物水溶液に層状チタン酸を加えても良い。
【0057】
次いで、撹拌を続けると層状チタン酸の層の少なくとも一部が剥離して、薄片状チタン酸粒子が得られる。その際の反応温度に特に制限は無く、適宜設定できる。反応温度を室温下(20〜30℃)とすると剥離状態を制御し易くなるため好ましい。反応時間に特に制限は無く、反応温度と目的とする剥離状態に応じて適宜設定できる。例えば反応温度20〜30℃の場合、30分〜12時間程度とするのが好ましい。攪拌条件も適宜設定してよい。攪拌以外の外力の印加方法として、溶液を入れた容器を振とうしても良い。振とうには、振とう器、ペイントコンディショナー、シェーカー等を用いることができる。その場合の振とう条件も適宜設定できる。
【0058】
なお、薄片状チタン酸の平均長径は、塩基性の有機化合物を作用させて層間剥離を行う行程で印加する外力が強すぎない限り、原料である層状チタン酸塩の平均長径をほぼ保つ。
【0059】
塩基性の有機化合物は、層状チタン酸に含まれる水素イオンに対して好ましくは0.05〜3中和当量の範囲で媒液中で混合する。そして、層状チタン酸に含まれる水素イオンを脱離させるとともに塩基性化合物を層間に挿入させ、次いで、少なくとも一部の層を剥離させて薄片状チタン酸を製造する。塩基性化合物の量が前記範囲より少ないと水素イオンが十分脱離せず、多いと膨潤して却って層間の剥離が困難になるか、又は、層状チタン酸の層間剥離が進行しすぎて、塗膜化した際の光輝性が低下しやすくなる。より好ましい量は0.01〜3中和当量、更に好ましくは0.09〜0.2中和当量である。塩基性の有機化合物の量は層状チタン酸に含まれるチタン(Ti)に対しては0.01〜3当量の範囲が好ましく、0.03〜1.5当量の範囲がより好ましく、0.05〜0.5当量の範囲が更に好ましく、0.09〜0.2当量の範囲が一層好ましい。塩基性の有機化合物の量は前記の水素イオンに対する好ましい範囲及びチタン(Ti)に対する好ましい範囲の両者を満たすことが好ましい。このような塩基性の有機化合物の一部はカチオンとして薄片状チタン酸に、好ましくは粒子表面に含まれる。
【0060】
塩基性の有機化合物としては、前述の第3の発明である白銀色光輝性塗膜製造用分散液の項において、塩基性の有機化合物として例示した化合物を用いるのが好ましい。中でもアルキルアミン化合物が好ましく、n−プロピルアミンを用いるとより好ましい。
【0061】
媒液に対する層状チタン酸の濃度によっても剥離の程度を制御することができる。その濃度は、1〜20重量%とするのが好ましく、3〜15重量%とするとより好ましく、5〜15重量%とすると更に好ましい。
【0062】
層状チタン酸の濃度、塩基性の有機化合物の種類、添加量、層状チタン酸含有媒液との混合温度、時間、外力の印加などの条件を適宜設定することによって、層状チタン酸化合物の剥離の程度を制御し、薄片状チタン酸の厚みを制御することができ、さらにその分散安定性が保たれる。
【0063】
このようにして作製した薄片状チタン酸分散液は、そのまま塗布対象部に塗布し、白銀色光輝性塗膜を簡便に製造するために用いることができる。また、第3の発明の項で述べた第三成分や分散媒を適宜追加して用いることもできる。
【0064】
上記薄片状チタン酸分散液から、例えば以下のような方法で薄片状チタン酸を分取して、白銀色光輝性塗膜製造用分散液を製造してもよい。
【0065】
例えば、上記薄片状チタン酸分散液から薄片状チタン酸を固液分離し、後述の方法で塗料を調製することができる。固液分離には公知のろ過方法を用いてよく、例えば、通常、工業的に用いられるロータリープレス、ファイルタープレス等のろ過装置を用いることができる。その際に、必要に応じて洗浄を行い、可能性塩類等を除去してもよい。その後、必要に応じて乾燥を行ってもよい。ろ過に先立ち、事前に分散液のpH調整を行ってもよい。調整後のpHは2〜9が好ましく、3〜7がより好ましい。pH調整は任意の酸又は塩基を用いることができる。酸としては、無機酸が好ましく、中でも硫酸がより好ましい。洗浄には、例えば純水を用いることができる。乾燥も任意の装置を用いることができ、乾燥温度及び時間も適宜設定することができる。乾燥温度としては50〜300℃が好ましく、100〜300℃がより好ましい。
【0066】
または、上記薄片状チタン酸分散液を凍結乾燥して凍結乾燥物を得、後述の方法で塗料を調製することもできる。凍結乾燥には通常の凍結乾燥機を用いることができる。得られた凍結乾燥物は、引き続き真空下において氷を昇華しても良い。
【0067】
または、上記薄片状チタン酸分散液を遠心分離して、沈降物と媒液を分取し、後述の方法で塗料を調製することもできる。遠心分離には通常の遠心分離器を用いることができる。遠心分離を2回以上繰り返しても良い。
【0068】
更に、上記処理物を焼成することもできる。焼成により、薄片状チタン酸を薄片状酸化チタンとすることができる。なお、本願においては、当該焼成で得られた薄片状酸化チタンについても薄片状チタン酸と表記し、本願発明に包含する。焼成温度が高いと、粒子同士が不規則に焼結し易くなり、塗膜を製造した際の表面が粗くなり易い。約800℃を超えると粒子の黄変が起き易く、更に高温では薄片形状が崩れ易くなるため好ましくない。従って、焼成温度は650℃未満とするのが好ましく、600℃未満とするのがより好ましい。焼成には、ロータリーキルン、トンネルキルン等の公知の焼成装置を用いることができる。焼成時間は適宜設定することができ、0.5〜10時間程度が適当である。また焼成の雰囲気は、大気中あるいは酸素ガス等の酸素含有雰囲気が好ましく、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性雰囲気、水素ガス等の還元ガス雰囲気でもよい。
【0069】
得られた焼成物に必要に応じて粉砕を行うことができる。粉砕には公知の粉砕機、例えば、縦型サンドミル、横型サンドミル、ボールミル等の湿式粉砕機、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、解砕機等の摩砕粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機、スプレードライヤー等の噴霧乾燥機等を用いることができる。薄片状チタン酸の形状(大きさ)維持の観点からは粉砕力は弱いほうが好ましい。そのような粉砕機としては、例えば、ハンマーミル、ピンミル、スプレードライヤーが挙げられる。
【0070】
薄片状チタン酸の平均厚みは、10nm〜1μm程度とするのが好ましい。この範囲より薄いと、塗膜化したときに隠ぺい性が低くなり、白銀色の光輝性が低くなるとともに、製造工程にろ過工程を含む場合には、ろ過性が低下して生産効率が著しく悪化する。この範囲よりも厚い場合、表面粗さの小さい塗膜が形成されにくくなり、白銀色の光輝性が得られにくくなる。平均厚みとしては0.1μm〜0.9μmとするのがより好ましく、0.3μm〜0.7μmとするのが更に好ましい。
【0071】
引き続き、分散媒と前記分取又は焼成で得られた薄片状チタン酸とを含む分散液を作製する。前記分取を中和で行った場合や焼成を行った場合は、塩基性の有機化合物を別途含ませることが好ましい。前記第3の発明の白銀色光輝性塗膜製造用分散液の項で述べた第三成分を含ませることもできる。分散媒についても、前記第3の発明の項で例示したものを用いることができる。分散液の作製は、前記材料を混合し、薄片状チタン酸を分散させればよい。分散には、通常の撹拌機、コロイドミル、ボールミル、ビーズミル等の分散機、振とう器、ペイントコンディショナー、シェーカー等を用いることができる。前記材料の混合順序には特に制限は無く、各材料の性質に応じて適宜決定することができる。通常は、薄片状チタン酸を分散媒に投入した後、塩基性の有機化合物を添加して、更に前記第三成分を添加する。このようにして作製した薄片状チタン酸分散液を塗布対象に塗布し、塗膜を形成することもできる。
【0072】
次に、本発明の第5の発明は、薄片面の平均長径が35μmよりも大きい薄片状チタン酸を含む分散液を基材部に塗布する工程、塗布した分散液を乾燥する工程を含む、薄片状チタン酸を含む白銀色光輝性塗膜の製造方法、である。
【0073】
薄片面の平均長径が35μmよりも大きい薄片状チタン酸を含む分散液としては、薄片面の平均長径が35μmよりも大きい薄片状チタン酸を含んでいればよく、特に制限はないが、塩基性の有機化合物を更に含む分散液であることが好ましく、前記第3の発明の分散液や、前記第4の発明で製造された分散液を用いることがより好ましい。
【0074】
分散液を基材に塗布する方法としては、スピンコート、スプレー塗装、ローラーコート、ディップコート、フローコート、ナイフコート、静電塗装、バーコート、ダイコート、ハケ塗り、液滴を滴下する方法等、一般的な方法を制限無く用いることができる。ディップコートであれば、基材の両面に薄片状チタン酸含有塗膜を作製することができ、スピンコート、スプレー塗装、ローラーコート、フローコート等であれば基材の片面に薄片状チタン酸含有塗膜を作製することができる。また、適宜重ね塗りを行っても良い。
【0075】
塗膜の厚みは分散液の配合や塗布方法、重ね塗りの回数等によって適宜調整できるが、充分な白銀色光輝性をもつ塗膜を得るためには、乾燥後膜厚で10μm以上とすることが好ましく、15μm以上とすることがより好ましい。膜厚の上限値については、塗膜中の薄片状チタン酸の含有量などにも影響されるが、膜厚が一定以上であればその効果は飽和するため特に制限は無く、例えば50μm程度や、70μm程度など適宜設定すればよい。
【0076】
基材の材質には、紙、プラスチックス、ガラス、セラミックス、金属、木材、繊維等特に制限を受けない。基材の表面には、酸化チタン膜と基材との密着性を向上させたり、基材を保護する等の目的で、予めプライマー層や中間塗装層を形成しておいてもよい。
【0077】
引き続いて、塗布した分散液を乾燥する。乾燥は、塗膜から分散媒を除去すればよく、基材の材質にも依存するが、5〜500℃の範囲の温度下で行うのが好ましい。より好ましい温度は5〜200℃の範囲であり、更に好ましくは5〜150℃の範囲であり、更に好ましくは5〜130℃の範囲である。前記の温度範囲の下限はそれぞれ室温が好ましい。
【0078】
本発明によれば、製膜過程において、薄片状チタン酸粒子が、各粒子の端面同士が融着したような状態となるとともに、薄片面が塗膜を塗布する基材の面と略平行になるように配向して積層する、いわゆる自己組織化能を有するようになるため、本発明の表面粗さの小さい白銀色光輝性塗膜、薄片状チタン酸が稠密に並び且つ配向して積層した塗膜が形成されやすくなる。
【実施例】
【0079】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0080】
TiO2(石原産業社製 A−100)、炭酸カリウム(関東化学社製 特級)および炭酸リチウム(関東化学社製 鹿特級)を重量比100:40:9.2でメノウ乳鉢にて混合した後、大気中、1100℃で5時間焼成しチタン酸リチウムカリウム(K0.8Li0.27Ti1.73O4)粉末を得た。得られたチタン酸リチウムカリウム粉末をメノウ乳鉢にて粉砕した後、チタン酸リチウムカリウムをその4倍重量の5%硫酸と接触させてイオン交換を行い、層状チタン酸を得た。イオン交換後、得られた層状チタン酸固形物をろ過、洗浄した後、TiO2換算で100g/Lとなるように再度純水に分散させた。当該層状チタン酸分散液をアンモニア水にてpH7.3に調整後、TiO2換算でTiO2 100gあたり3.5gのn‐プロピルアミンを添加し、温度を30℃に維持したまま1時間、攪拌羽根で攪拌することにより、薄片状チタン酸分散液Aを得た。得られた分散液Aを#60のバーコーターにて白黒チャート紙に塗布し、120℃で乾燥させることにより本発明の白銀色光輝性塗膜Aを得た。乾燥後の膜厚は約15μmである。なお、分散液Aから洗浄・乾燥により得られた薄片状チタン酸の走査電子顕微鏡写真を
図1に示す。走査電子顕微鏡(HITACHI社製 S−4800)像より薄片状チタン酸粒子100個の厚みを測定し求めた平均厚みは0.68μmであった。また、当該薄片状チタン酸について粉末X線回折測定を行った結果、2θ=9.8°、19.5°、29.4°に明瞭なピークが観察された。
【0081】
(比較例1)
実施例1において、焼成温度を1000℃とする以外は同様にして分散液B及び塗膜Bを得た。
【0082】
(比較例2)
実施例1において作製された薄片状チタン酸の分散液を、硫酸にてpH4に調整した後、ろ過、純水洗浄および乾燥を行った。得られた薄片状チタン酸乾燥物を、650℃で焼成することにより薄片状酸化チタンを得た。この薄片状酸化チタンの表面にはn−プロピルアミンが存在していなかった。この薄片状酸化チタン8.4gにアルキド樹脂(DIC社製 J‐524IM)1.9g、メラミン樹脂(DIC社製J‐820)0.8g、キシレン/ブタノールの重量比4:1混合溶媒14.3gを、ガラスビーズとともにペイントシェーカーで10分間振とうして分散させ、薄片状酸化チタン分散液Cを得た。得られた分散液Cを#60バーコーターで白黒チャート紙に塗布、120℃で乾燥させることにより塗膜Cを得た。乾燥後の膜厚は約60μmである。
【0083】
(比較例3)
比較例2において、使用する薄片状酸化チタンとしてルクセレンシルクD(住友化学社製)を使用する以外は同様にして塗料D及び塗膜Dを得た。
【0084】
(評価1)
前記の実施例1及び比較例1〜3で得られた塗膜A〜Dを走査型電子顕微鏡(HITACHI社製 S−4800)にて表面観察した。塗膜A〜Dの走査電子顕微鏡写真をそれぞれ
図2〜5に示す。本発明で得られた塗膜Aは薄片状チタン酸が稠密に並び、且つ、高配向に積層して塗膜を形成していること、言い換えると、走査型電子顕微鏡で500倍の倍率で塗膜表面を観察した時に、粒子同士の境界や独立粒子の存在があまり確認されず、連続調の表面をもつ塗膜を形成していることがわかる。これに対し、塗膜B〜Dには、粒子同士の境界や空隙、独立粒子が多く観察される。上記走査電子顕微鏡写真から求めた塗膜A〜Dの空隙部分の面積比率はそれぞれ、1%、10%、20%、30%であった。
【0085】
(評価2)
次に、前記塗膜A〜Dについて、塗膜の外観、すなわち色調、質感、光輝性を目視評価した。結果を表1に示す。塗膜Aは、柔らかな白銀色の金属調光沢をもち、滑らかで質感の高い色調の、高い光輝性を示す一方、他の塗膜はそのような特徴が無かった。光輝性の評価としては、デジタル変角光沢計(スガ試験機社製 UGV-5D)を用いて、光の入射角を40°に固定した場合の白黒チャート紙上の黒地部の塗膜の変角光沢の測定も行った。変角光沢のピーク強度及び受光角40℃を中心とした幅が大きいもの、具体的には、受光角40°における光沢の値が4ポイント以上で、且つ、半値幅が15°以上、好ましくは、光沢の値が6ポイント以上で、且つ、半値幅が18〜40°の塗膜は目視評価で光輝性が高い。塗膜A〜Dの変角光沢測定結果を
図6に示す。本発明で得られた塗膜Aは、40°における光沢値が7.4ポイント、半値幅は20°と、受光角が40℃を中心にブロードなピークを示し、柔らかな白銀色の金属調光沢をもち、滑らかで質感の高い色調の、高い光輝性を示すことがわかった。一方、塗膜B〜Dには明瞭なピークが認められず、光輝性を持つ塗膜ではなかった。
【0086】
【表1】
光輝性・・・◎:非常に高い、○:高い、△:低い、×:なし
【0087】
(評価3)
続いて、前記の実施例1および比較例1〜3で得られた塗膜A〜Dについて、超深度形状測定顕微鏡(KEYENCE社製VK‐8550)を用いて、0.05μm間隔で750μm×560μm範囲の表面形状を測定し、画像計測・解析ソフト(KEYENCE社製VK‐H1A7)にて各塗膜の算術表面粗さRa(μm)を算出した。結果を表2に示す。また、前述の走査型電子顕微鏡観察にて得られた像から薄片状チタン酸粒子100個を選択し、各粒子について薄片面の長径および短径を算出し、平均長径と平均短径の平均値を算出することにより薄片面の平均粒径を算出した。平均長径と平均粒径の結果も合わせて表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
本発明で得られた塗膜Aは、含まれる薄片状チタン酸の薄片面の平均長径が35μmよりも大きく、且つ塗膜の表面粗度が4μm以下である。この2つの要件を同時に満たしている本発明の塗膜は、白銀色光輝性塗膜として優れていることがわかる。また、本発明の白銀色光輝性塗膜製造用分散液が白銀色光輝性塗膜の製造に好適であることがわかる。
【実施例2】
【0090】
次に酸化チタン顔料を含む塗膜と薄片状チタン酸含有塗膜の複層塗膜について評価した。
【0091】
酸化チタン顔料粉末(石原産業社製 CR-90)10.0gにアルキド樹脂(DIC社製 J-524IM)11.7g、メラミン樹脂(DIC社製 J-820)5.0g、キシレン/ブタノールの重量比4:1混合溶媒6.1gを、ガラスビーズとともにペイントシェーカーで20分間振とうして分散させ、酸化チタン顔料を含む流動性組成物を得た。得られた流動性組成物を#30バーコーターで白黒チャート紙に塗布、乾燥させることにより下地酸化チタン膜を得た。本塗膜のL値(黒地部)、隠ぺい率はそれぞれ94、80であった。
【0092】
前記下地酸化チタン膜の上に、実施例1で作製した分散液Aを#60のバーコーターにて塗布し、乾燥させることにより複層塗膜Eを得た。
【0093】
(比較例4)
実施例2において、分散液Aに替えて分散液Bを用いた以外は実施例2と同様にして複層塗膜Fを得た。
【0094】
次に、評価2と同様の方法で前記複層塗膜E及びFについて、光輝性を評価した。変角光沢測定結果を
図7に示す。複層塗膜Fの場合、その変角光沢は塗膜Bからほとんど変化しないが、本発明の塗膜Aと酸化チタン膜を積層した本発明の複層塗膜Eの場合、更に光輝性を高めることができ、特異的な相乗効果があることがわかる。