(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガス分析部は、大気圧イオン化質量分析装置、ガスクロマトグラフ、検出器を有しないガスクロマトグラフと質量分析装置との組み合わせ、又は、検出器を有しないガスクロマトグラフと大気圧イオン化質量分析装置との組み合わせであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の破壊検査装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の技術では、真空容器中で検査対象物を破壊するため、その破壊により検査対象物から発生したガスが真空中で比較的広範囲に拡散してしまう結果、検査対象物から発生した成分を高感度で分析することができなかった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、検査対象物を破壊することにより検査対象物から発生する成分を高感度で分析することができる破壊検査装置及びその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、以下の各態様を提示する。第1の態様による破壊検査装置は、ガス導入口及びガス排出口を有し、前記ガス導入口及び前記ガス排出口を除いて気密に保たれた状態で内部に検査対象物を収容し得る検査室と、前記検査室の前記気密状態を保ちながら、前記検査室内に収容された前記検査対象物を破壊する破壊部と、前記ガス導入口から所定ガスを供給するガス供給部であって、前記所定ガス中の不純物濃度を所定濃度以下に低下させるガス純化部を有するガス供給部と、前記ガス供給部により前記所定ガスを前記ガス導入口に供給することで、前記検査室内を通流して前記ガス排出口から排出されるガスを、少なくとも前記検査対象物が前記破壊部により破壊された後に、分析するガス分析部と、を備えたものである。前記所定濃度は、例えば、1ppbであることが好ましい。
【0007】
この第1の態様では、ガス供給部により所定ガスを検査室のガス導入口に供給することで、検査室内を通流して検査室のガス排出口から排出されるガスが、少なくとも検査対象物が破壊部により破壊された後に、分析される。したがって、検査対象物の破壊により検査対象物から発生した成分は、さほど拡散せず、いわばところてん式に塊で動いていってガス分析部に供給される。このため、この第1の態様によれば、検査対象物から発生する成分が真空中で拡散してしまう前記従来技術に比べて高感度で、検査対象物を破壊することにより検査対象物から発生する成分を、分析することができる。
【0008】
第2の態様による破壊検査装置は、前記第1の態様において、前記破壊部は、針状、剣山状、刃状又はその他の突起状の工具を有するものである。この第2の態様によれば、検査対象物を局所的に破壊することができる。
【0009】
第3の態様による破壊検査装置は、前記第1の態様において、前記破壊部は、加圧手段により加圧され前記検査対象物を圧壊する圧壊部を有するものである。この第3の態様によれば、検査対象物を全体的に破壊することができる。
【0010】
第4の態様による破壊検査装置は、前記第1乃至第3のいずれかの態様において、前記検査対象物の破壊検査時の前記検査室内の圧力が大気圧以上であるものである。
【0011】
この第4の態様によれば、検査室内の圧力が大気圧以上であるので、下記第5の態様のような感度の高いガス分析部を採用することが可能となる。
【0012】
第5の態様による破壊検査装置は、前記第1乃至第4のいずれかの態様において、前記ガス分析部は、大気圧イオン化質量分析装置、ガスクロマトグラフ、検出器を有しないガスクロマトグラフと質量分析装置との組み合わせ、又は、検出器を有しないガスクロマトグラフと大気圧イオン化質量分析装置との組み合わせであるものである。この第5の態様は、ガス分析部の例を挙げたものであるが、これらの感度は高いので好ましい。
【0013】
第6の態様による破壊検査装置は、第1乃至第5のいずれかの態様において、前記検査室を加熱する加熱手段を備えたものである。
【0014】
この第6の態様によれば、加熱手段を備えているので、下記の第7乃至第10の態様のような使用方法が可能となるため、好ましい。
【0015】
第7の態様による破壊検査装置の使用方法は、前記第6の態様による破壊検査装置を使用する方法であって、前記検査室内に前記検査対象物を収容した後に、前記加熱手段により前記検査室を室温よりも高い温度に昇温させた状態で前記ガス供給部により前記所定ガスを前記ガス導入口に供給して前記検査室内を通流させることにより、前記検査室及び前記検査対象物をクリーニングするクリーニング段階と、前記クリーニング段階の後に、前記破壊部により前記検査対象物を破壊する破壊段階と、前記破壊段階の後に、前記ガス供給部により前記所定ガスを前記ガス導入口に供給することで、前記検査室内を通流して前記ガス排出口から排出されるガスを、分析するガス分析段階と、を備えたものである。
【0016】
検査対象物を検査室内へ入れる際に検査室内に外部の空気や水分等の物質が検査室内に導入されてしまうとともに、検査対象物自体にも水分等の物質が付着している。これらをそのままにして検査を行うと、これらがバックグラウンドとなってしまうため、検査対象物の破壊により検査対象物から発生する成分が前記バックグラウンドに埋もれてしまい、前記成分の分析に支障を来すおそれがある。
【0017】
これに対し、前記第7の態様によれば、検査室及び検査対象物をクリーニングするクリーニング段階が行われるので、前記バックグラウンドが低減され、検査対象物から発生する成分が前記バックグラウンドに埋もれてしまうようなことがなく、前記成分を適切に分析することができる。
【0018】
第8の態様による破壊検査装置の使用方法は、前記第7の態様において、前記破壊段階は、前記検査室の温度を前記クリーニング段階の前記検査室の温度よりも低い温度にした状態で行われ、前記ガス分析段階は、前記検査室の温度を前記クリーニング段階の前記検査室の温度よりも低い温度にした状態で行われるものである。
【0019】
この第8の態様によれば、検査対象物の破壊により検査対象物から発生する成分のうち、検査室の壁部等に付着し易いものの比較的多くが当該壁部等に付着する一方で、検査室の壁部等に付着し難いものの比較的多くがガス分析部に到達してガス分析部により分析されることになる。
【0020】
第9の態様による破壊検査装置の使用方法は、前記第7の態様において、前記破壊段階は、前記検査室の温度を前記クリーニング段階の前記検査室の温度よりも低い温度にした状態で行われ、前記ガス分析段階は、前記検査室の温度を前記クリーニング段階の前記検査室の温度よりも低い温度にした状態で行われる第1のガス分析段階と、その後に、前記第1のガス分析段階よりも高い温度にした状態で行われる第2のガス分析段階と、を有するものである。
【0021】
この第9の態様によれば、前記第1のガス分析段階において、検査対象物の破壊により検査対象物から発生する成分のうち、検査室の壁部等に付着し易いものの比較的多くが当該壁部等に付着する一方で、検査室の壁部等に付着し難いものの比較的多くがガス分析部に到達してガス分析部により分析されることになる。そして、前記第2のガス分析段階において、前記第1のガス分析段階において検査室の壁部等に付着していた成分が脱離してガス分析部に到達してガス分析部により分析されることになる。このように、前記第1のガス分析段階においては、検査対象物の破壊により検査対象物から発生する成分のうち、比較的低い温度において検査室の壁部等に付着し難いものを主に観察することができる一方、前記第2のガス分析段階においては、検査対象物の破壊により検査対象物から発生する成分のうち、比較的低い温度において検査室の壁部等に付着し易いものを主に観察することができ、両者を選別して分析することができる。
【0022】
第10の態様による破壊検査装置の使用方法は、前記第7の態様において、前記破壊段階は、前記検査室の温度を室温よりも高い温度にした状態で行われ、前記ガス分析段階は、前記検査室の温度を室温よりも高い温度にした状態で行われるものである。
【0023】
この第10の態様によれば、検査対象物の破壊により検査対象物から発生する成分のうち、比較的低い温度において検査室の壁部等に付着し難いもののみならず、比較的低い温度において検査室の壁部等に付着し易い成分であっても当該壁部等に付着せずに、両方ともガス分析部に到達してガス分析部により分析されることになる。したがって、この第10の態様は、両方とも一括して分析することを望む場合や、検査対象物の破壊により検査対象物から発生する成分には比較的低い温度において検査室の壁部等に付着し易い成分がそもそもほとんど含まれないような場合などに、特に有効である。
【0024】
第11の態様による破壊検査装置の使用方法は、前記第1乃至第6のいずれかの態様による破壊検査装置を使用する方法、あるいは、前記第7乃至第10のいずれかの態様による破壊検査装置の使用方法であって、前記検査対象物として、事前に振動及び/又はヒートサイクルが加えられた検査対象物を、前記検査室内に収容するものである。
【0025】
この第11の態様では、事前に振動及び/又はヒートサイクルが加えられた検査対象物を用いるので、検査対象物の性能劣化を加速させることができる。したがって、検査対象物の性能劣化試験等に要する時間を大幅に短縮することができる。したがって、例えば、有機ELディスプレイを検査対象物とする場合、封止材の耐久性や内部の乾燥吸着剤の性能の確認などを、短時間で行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、検査対象物を破壊することにより検査対象物から発生する成分を高感度で分析することができる破壊検査装置及びその使用方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明による破壊検査装置及びその使用方法について、図面を参照して説明する。
【0029】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態による破壊検査装置1を模式的に示す概略構成図である。
【0030】
本実施の形態による破壊検査装置1は、ガス導入口12及びガス排出口13を有する検査室11を有している。検査室11は、ガス導入口12及びガス排出口13を除いて気密に保たれた状態で、内部に検査対象物2を収容し得るようになっている。本実施の形態では、検査室11は、側方にガス導入口12及びガス排出口13を有するとともに上部が開口したカップ状の容器本体14と、容器本体14の上部開口を取り外し可能に閉塞するICFフランジ15とによって、構成されている。検査対象物2を検査室11内に出し入れする場合には、ICFフランジ15が容器本体14から取り外される。容器本体14とICFフランジ15との間には金属パッキン16が設けられ、検査室11の気密性が保たれるようになっている。検査対象物2から発生する成分が極力拡散しないように、検査室11は、検査対象物2が収容することができる程度に小さくすることが好ましい。
【0031】
ICFフランジ15には、直線導入機17が設けられている。直線導入機17の先端には、検査室11の気密状態を保ちながら検査室11内に収容された検査対象物2を破壊する破壊部としての突起状の工具18が設けられている。突起状の工具18としては、例えば、針状、剣山状、刃状などの工具を用いることができる。本実施の形態では、直線導入機17を用いることで、検査室11の気密状態を保ちながら、突起状の工具18を検査対象物2に進出させて検査対象物2を局所的に破壊することができるようになっている。
【0032】
本実施の形態では、検査室11を加熱する加熱手段として、加熱シート19が、取り外し可能に検査室11を覆うように設けられている。加熱シート19は、検査対象物2を検査室11内に出し入れする際には、取り外される。加熱シート19は、例えば、ガラスウール等の断熱材や電熱線等を用いて構成され、更に熱電対等の温度検出器が設けられ、指定される一定温度に加熱して維持し得るようになっている。なお、冷却を速めるため、検査室11を冷却する冷却手段も設けてもよい。前記加熱手段は、前述したような加熱シート19に限らず、例えば、ペルチェ素子等を用いて構成してもよい。この場合には、前記加熱手段は前記冷却手段を兼ねることができる。
【0033】
本実施の形態では、高純度のアルゴンガスを収容した高圧ボンベ(図示せず)からの所定ガスとしてのアルゴンガスが配管21を介して導入される。前記高圧ボンベに代えて、例えば、液体アルゴンを蒸発させて作ったアルゴンガスを配管21を介して導入するようにしてもよい。前記所定ガスは、アルゴンガスに限らず、例えば、窒素、ヘリウム、水素などでもよい。
【0034】
配管21は、開閉弁22を介してゲッター純化器等のガス純化器23のガス導入口23aに接続されている。ガス純化器23の純化ガス排出口23bは、開閉弁24、流量制御器25及びモレキュラシーブス等のガス純化器26を介して、検査室11のガス導入口12に接続されている。本実施の形態では、前記高圧ボンベ及び前記要素21〜26が、検査室11のガス導入口12から検査室11内へアルゴンガスを供給するガス供給部を構成している。また、本実施の形態では、ガス純化器23,26が、検査室11内へ供給されるアルゴンガス中の不純物濃度を所定濃度以下(例えば、1ppb以下)に低下させるガス純化部を構成している。
【0035】
検査室11のガス排出口13は、開閉弁27及び配管35を介して、公知の大気圧イオン化質量分析装置28のガス導入口28aに接続されている。検査対象物2から発生する成分が極力拡散しないように、配管35は細い方が好ましい。また、検査室11のガス排出口13は、開閉弁29を介して大気に解放されている。大気圧イオン化質量分析装置28のガス排出口28bは、排気管30を介して大気に解放されている。
【0036】
本実施の形態では、大気圧イオン化質量分析装置28が、前記ガス供給部により所定ガス(本実施の形態では、アルゴンガス)を検査室11のガス導入口12に供給することで、検査室11内を通流して検査室11のガス排出口13から排出されるガスを、少なくとも検査対象物2が前記破壊部により破壊された後に、分析するガス分析部を、構成している。
【0037】
また、本実施の形態では、ガス純化器23の純化ガス排出口23bは、開閉弁31、流量制御器32及びモレキュラシーブス等のガス純化器33を介して、大気圧イオン化質量分析装置28のガス導入口28aに接続されている。
【0038】
図2は、検査対象物2の一例としての、有機ELディスプレイ41の一例を模式的に示す概略断面図である。この有機ELディスプレイ41は、ガラス基板42と、ガラス基板42上のアノード43と、アノード43上の有機EL膜44と、有機EL膜44上のカソード45と、封止材を兼ねるUV接着剤46でガラス基板42に貼り合わされ中空部(気密室)49を形成するガラスキャップ(ガラス板)47と、吸着乾燥剤48とを備えている。
【0039】
UV接着剤46によるシール部分はパネルの周縁部のみであり、中空部49には乾燥窒素が封入されている。パネル外部からの水分やガスの浸入は、シール材46部分だけであり、シール材46の特性が有機ELの寿命に大きく影響する。パネル外部から侵入する水分は、シール材46により遮断することができるが、パネル内部のわずかな残留水分やガラス表面、金属缶に付着した水分、シール材に含まれる水分が封止内部に揮発し、カソードが酸化したり、有機膜の特性が著しく低下したりし、最終的には、ダークスポットと呼ばれる非発光部が生じ、暗欠陥となる。その為、パネル内部では、水分を所定濃度以下に保たなければならず、吸着乾燥剤48が設けられている。この吸着乾燥剤48の成分は、BaOやCaOが主流であり、種類、形状によりその吸着性能が異なる。例えば、シート状CaOが汎用化されている。この吸着乾燥剤48は、外部から進入する水分だけでなく、シール材46を初め、その他の構成材料から発生するアウトガスも吸着することができ、有機ELの高寿命化に寄与している。
【0040】
検査対象物2として有機ELディスプレイ41とすることで、その破壊検査結果から、例えば、有機ELディスプレイ41の良不良や、封止材46の耐久性や吸着乾燥剤48の性能などを確認することができる。
【0041】
もっとも、検査対象物2は有機ELディスプレイに限らず、例えば、パッケージングされた半導体装置や気密室を有するその他の物品などでもよい。
【0042】
検査室11内に収容する検査対象物2は、必要に応じて、事前に振動及び/又はヒートサイクルが加えられた物とする。この場合、検査対象物2の性能劣化を加速させることができる。したがって、検査対象物2の性能劣化試験等に要する時間を大幅に短縮することができる。したがって、例えば、有機ELディスプレイを検査対象物2とする場合、封止材の耐久性や内部の乾燥吸着剤の性能の確認などを、短時間で行うことができる。なお、通常の不良の有機ELディスプレイを破壊すると、その有機ELディスプレイからは、封止材の劣化により内部に取り込まれている大気中の水分・酸素が多く検出される。
【0043】
本実施の形態による破壊検査装置1を用いて検査対象物2の破壊検査を行う場合、まず、開閉弁24,27を閉じるとともに開閉弁22,29,31を開いた状態とし、一旦加熱シート19及びICFフランジ15を取り外して検査室11内に検査対象物2を収容した後に、ICFフランジ15を装着して検査室11を気密状態とし、更に加熱シート19を装着する。
【0044】
次に、加熱シート19により検査室11を室温よりも高い所定温度(例えば、100℃)に昇温させた状態で、開閉弁22,24,29を開くとともに開閉弁27を閉じることで、高純度のアルゴンガスを検査室11のガス導入口12に供給して検査室11内を通流させることにより、検査室11及び検査対象物2をクリーニングするクリーニング段階を行う。このクリーニング段階では、開閉弁31を開いて高純度のアルゴンガスを大気圧イオン化質量分析装置28のガス導入口28aに流すことで、大気圧イオン化質量分析装置28のイオン源に大気が流入しないようにしておく。
【0045】
このクリーニング段階の後、開閉弁29を閉じて開閉弁27を開いて、検査室11内を通流したガスを大気圧イオン化質量分析装置28に導入する。このとき、検査室11内の圧力はほぼ大気圧となる。
【0046】
この際、検査対象物2の破壊時に不純物発生が多いと思われる場合は、開閉弁31、流量制御器32及びガス純化器33を経由して大気圧イオン化質量分析装置28に導入される高純度のアルゴンガスの流量を増やして、検査室11内を通流したガスを希釈して、大気圧イオン化質量分析装置28で測定(分析)する。このとき、開閉弁29に接続されている排気管の途中に流量制御器(図示せず)を設けておき、開閉弁29を開いて当該流量制御器により排気流量を調整すれば、検査室11内を通流したガスの希釈率の可変範囲を広げることができる。一方、検査対象物2の破壊時に不純物発生が少ないと思われる場合は、開閉弁31を閉じて、検査室11内を通流したガスだけで測定(分析)する。
【0047】
この状態で、直線導入機17の先端の突起状の工具18で、検査対象物2を破壊する。この破壊により検査対象物2から発生する成分は、検査室11内を通流するアルゴンガスに含まれて、大気圧イオン化質量分析装置28により分析される。
【0048】
第1の例では、前記クリーニング段階の後においても、検査対象物2の破壊時及びその後の大気圧イオン化質量分析装置28によるガス分析時も、検査室11の温度を室温よりも高い温度(例えば、80℃)に昇温させた状態で行われる。この第1の例では、検査対象物2の破壊により検査対象物2から発生する成分のうち、比較的低い温度において検査室11の壁部等に付着し難いもののみならず、比較的低い温度において検査室11の壁部等に付着し易い成分であっても当該壁部等に付着せずに、両方とも大気圧イオン化質量分析装置28に到達して大気圧イオン化質量分析装置28により分析されることになる。したがって、この第1の例では、両方とも一括して分析することを望む場合や、検査対象物2の破壊により検査対象物2から発生する成分には比較的低い温度において検査室の壁部等に付着し易い成分がそもそもほとんど含まれないような場合などに、特に有効である。
【0049】
もっとも、前記クリーニング段階の後の検査室11の温度管理は、前記第1の例に限らない。
【0050】
例えば、第2の例では、前記クリーニング段階の後において、前記クリーニング段階よりも低い温度(例えば、40℃)にされた状態で、検査対象物2の破壊及びその後の大気圧イオン化質量分析装置28によるガス分析が行われる。この第2の例では、検査対象物2の破壊により検査対象物2から発生する成分のうち、検査室11の壁部等に付着し易いものの比較的多くが当該壁部等に付着する一方で、検査室11の壁部等に付着し難いものの比較的多くが大気圧イオン化質量分析装置28に到達して大気圧イオン化質量分析装置28により分析されることになる。
【0051】
また、第3の例では、前記クリーニング段階の後において、前記クリーニング段階よりも低い温度(例えば、40℃)にされた状態で、検査対象物2の破壊及びその後の大気圧イオン化質量分析装置28による第1のガス分析が行われ、その後、第1のガス分析時よりも高い温度(例えば、80℃)にされた状態で、大気圧イオン化質量分析装置28による第1のガス分析が行われる。この第3の例では、前記第1のガス分析段階において、検査対象物2の破壊により検査対象物2から発生する成分のうち、検査室11の壁部等に付着し易いものの比較的多くが当該壁部等に付着する一方で、検査室11の壁部等に付着し難いものの比較的多くが大気圧イオン化質量分析装置28に到達して大気圧イオン化質量分析装置28により分析されることになる。そして、前記第2のガス分析段階において、前記第1のガス分析段階において検査室11の壁部等に付着していた成分が脱離して大気圧イオン化質量分析装置28に到達して大気圧イオン化質量分析装置28により分析されることになる。このように、前記第1のガス分析段階においては、検査対象物2の破壊により検査対象物2から発生する成分のうち、比較的低い温度において検査室11の壁部等に付着し難いものを主に観察することができる一方、前記第2のガス分析段階においては、検査対象物2の破壊により検査対象物2から発生する成分のうち、比較的低い温度において検査室11の壁部等に付着し易いものを主に観察することができ、両者を選別して分析することができる。
【0052】
本実施の形態では、前述したように、高純度のアルゴンガスを検査室11のガス導入口12に供給することで、検査室11内を通流して検査室11のガス排出口13から排出されるガスが、少なくとも検査対象物2が突起状の工具18により破壊された後に、分析される。したがって、検査対象物2の破壊により検査対象物2から発生した成分は、さほど拡散せず、いわばところてん式に塊で動いていって大気圧イオン化質量分析装置28に供給される。
図3は、この様子を示している。
図3は、検査対象物2を破壊することにより検査対象物から発生する成分の様子を、大気圧イオン化質量分析装置28のガス導入口28aに接続されている配管35内の様子として、模式的に示している。
図3中の51はアルゴンガス中の成分(破壊により検査対象物2から発生した成分)を模式的に示し、52はその成分の濃度分布を模式的に示している。このため、本実施の形態によれば、検査対象物2から発生する成分が真空中で拡散してしまう前記従来技術に比べて高感度で、検査対象物2を破壊することにより検査対象物2から発生する成分を、分析することができる。
【0053】
図4は、本実施の形態による破壊検査装置1と比較される比較例による破壊検査装置101を模式的に示す概略構成図である。この比較例による破壊検査装置101は、前記従来技術に準じたものである。
図4において、102は検査対象物、103は検査室、104は直線導入機、105は直線導入機104の先端に設けられた突起状の工具、105は106は排気配管、107は開閉弁、108は質量分析装置、109はEIイオン源である。この破壊検査装置101では、真空にされた検査室103内に検査対象物102が収容され、その検査対象物102が突起状の工具105で破壊される。その破壊により検査対象物102から発生する成分が真空中で拡散してしまうので、その成分を質量分析装置108で高感度で分析することができない。これに対し、本実施の形態による破壊検査装置1では、前述したように、検査対象物2の破壊により検査対象物2から発生した成分は、さほど拡散せず、いわばところてん式に塊で動いていって大気圧イオン化質量分析装置28に供給されるので、その成分を高感度で分析することができるのである。なお、検出器本体においても、一般的な真空の質量分析装置108がppm(1/100万)の感度であるが、大気圧イオン化質量分析装置28の感度は、通常はppb(1/10億)以下であるため、本実施の形態によれば、この点からも高感度測定が可能である。
【0054】
本発明者は、次の実験を行った。検査対象物2のサンプルとして、アクリル板に細穴加工を行い、大気を封入したも(第1サンプル)のと、ゲッター材を入れたもの(第2サンプル)を用意した。それらの気密空間の容積は1マイクロリットル程度であった。ゲッター材の封入は、ゲッター材を小型石英加熱炉で400℃に加熱して活性化し封入した。ゲッター材は一般的に高温での活性化処理が必要であり、ガラスや金属内での活性化処理は用意だが、アクリル等の樹脂内での活性化処理は困難であるため、ゲッター材の封入は、高純度アルゴンガスを充満したグローブボックス内で行った。
【0055】
この第1サンプル及び第2サンプルについて、本実施の形態による破壊検査装置1と同様の装置を前述した方法で用いて破壊検査を行った。このとき、クリーニング段階の後の検査室11の温度管理は、前記第1の方法を採用した。大気を入れた第1サンプルからは酸素や水分が検出された。ゲッター材を封入した第2サンプルからも酸素や水分が検出されたが、それらは第1サンプルの場合に比べて低減されていた。これにより、ゲッター材を入れると、酸素や水分が低減されることがわかった。
図5は、この実験による第1サンプルの破壊検査で得た時間経過と酸素濃度との関係を示す図である。
図6は、この実験による第1サンプルの破壊検査で得た時間経過と水分濃度との関係を示す図である。
図5の結果と
図6の結果は、同時に行った実験で得られたものである。
【0056】
以上の実験結果から、破壊により検査対象物2から発生する1マイクロリットル程度のガスの成分を高感度で分析することができることが確認された。
【0057】
[第2の実施の形態]
図7は、本発明の第2の実施の形態による破壊検査装置61を模式的に示す概略構成図である。
図7において、
図1中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0058】
本実施の形態による破壊検査装置61が前記第1の実施の形態による破壊検査装置1と異なる所は、開閉弁27,29が取り除かれている点のみである。
【0059】
本実施の形態による破壊検査装置1を用いて検査対象物2の破壊検査を行う場合、まず、開閉弁24を閉じるとともに開閉弁22,31を開いた状態とし、一旦加熱シート19及びICFフランジ15を取り外して検査室11内に検査対象物2を収容した後に、ICFフランジ15を装着して検査室11を気密状態とし、更に加熱シート19を装着する。
【0060】
次に、加熱シート19により検査室11を室温よりも高い所定温度(例えば、100℃)に昇温させた状態で、開閉弁31を閉じるとともに開閉弁22,24を開いたまま、高純度のアルゴンガスを検査室11のガス導入口12に供給して検査室11内を通流させることにより、検査室11及び検査対象物2をクリーニングするクリーニング段階を行う。
【0061】
このクリーニング段階の後、大気圧イオン化質量分析装置28による測定を開始する。この際、検査対象物2の破壊時に不純物発生が多いと思われる場合は、開閉弁31、流量制御器32及びガス純化器33を経由して大気圧イオン化質量分析装置28に導入される高純度のアルゴンガスの流量を増やして、検査室11内を通流したガスを希釈して、大気圧イオン化質量分析装置28で測定(分析)する。一方、検査対象物2の破壊時に不純物発生が少ないと思われる場合は、開閉弁31を閉じて、検査室11内を通流したガスだけで測定(分析)する。
【0062】
この状態で、直線導入機17の先端の突起状の工具18で、検査対象物2を破壊する。この破壊により検査対象物2から発生する成分は、検査室11内を通流するアルゴンガスに含まれて、大気圧イオン化質量分析装置28により分析される。
【0063】
本実施の形態によっても、前記第1の実施の形態と同様の利点が得られる。本実施の形態は、特に、検査対象物2の破壊により検査対象物2から発生する不純物が少ない場合に有効である。
【0064】
[第3の実施の形態]
図8は、本発明の第3の実施の形態による破壊検査装置71を模式的に示す概略構成図である。
図8において、
図1中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0065】
本実施の形態による破壊検査装置71が前記第1の実施の形態による破壊検査装置1と異なる所は、ガス分析部として、大気圧イオン化質量分析装置28に代えて、検出器付きのガスクロマトグラフ(GC)72が用いられている点と、ガスクロマトグラフ72には被測定ガスを大気圧以上の圧力が必要になるので、その圧力を得るための圧力調整装置73がガスクロマトグラフ72の直前に設けられている点のみである。圧力調整装置73は、細管・ピンホール等、配管に抵抗(コンダクタンス)を付けられるものでも良い。
【0066】
本実施の形態によっても、前記第1の実施の形態と同様の利点が得られる。
【0067】
なお、本実施の形態において、ガス分析部として、ガスクロマトグラフ72に代えて、検出器を有しないガスクロマトグラフと質量分析装置との組み合わせ、又は、検出器を有しないガスクロマトグラフと大気圧イオン化質量分析装置との組み合わせを用いてもよい。
【0068】
ところで、前記各実施の形態において、検査室11の気密状態を保ちながら検査室11内に収容された検査対象物2を破壊する破壊部としては、突起状の工具18に限らず、例えば、検査対象物2を圧壊部を用いてもよい。
図9は、その例を示しており、検査室11等の他の例を模式的に示す概略断面図である。
図9において、
図1中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0069】
図9において、81は検査室11を画成する部材に取り付けられた油圧シリンダや空気圧シリンダ等の流体圧シリンダ、82は流体圧シリンダ81のピストン81aの先端に設けられた圧壊部としての圧壊部材、83は検査対象物2を載置する台、84はピストン81aの動きにも拘わらずに検査室11内を気密に保つための金属ベローズ、85,86は金属パッキンである。なお、
図9では、検査室11を加熱する加熱シート19の図示は省略している。
【0070】
このように破壊部として、圧壊部を採用すると、検査対象物2を全体的に破壊することができる。
【0071】
以上、本発明の各実施の形態及びその変形例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。