【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明が以下の実施例に限定されるわけではない。
【0057】
(
参照例1)
PTFEファインパウダー(旭フロロポリマーズ社製「フルオンCD−123N」(S
SG2.155))100重量部に液状潤滑剤(ドデカン)19重量部を均一に混合し、
この混合物を丸棒状に予備成形した。次いで、この成形体を、フィッシュテールダイを装着した押出機を用いてシート状に押し出した。押し出したPTFEシートの厚みは1.5mm、幅は20cmであった。
【0058】
さらに、PTFEシートを1対の金属圧延ロールの間を通過させて圧延した。この圧延は、圧延の前後においてPTFEシートの幅方向の長さに変化がないように、圧延ロールの下流側に配置したロールを用いてPTFEシートをその長手方向に引っ張りながら実施した。圧延して得たPTFEシートの厚みは0.2mmであった。
【0059】
引き続き、テンターを用い、圧延したPTFEシートを、液状潤滑剤を含んだままの状態でその幅方向に3倍に延伸した。その後、延伸したPTFEシートを150℃に保持して液状潤滑剤を除去した。
【0060】
次いで、液状潤滑剤を除去したPTFEシートを、2軸延伸機を用い、300℃の雰囲気中において長手方向および幅方向にそれぞれ4倍ずつ延伸し、未焼成PTFE多孔質膜を得た。液状潤滑剤を除去してから実施した延伸の延伸面倍率は16倍である。
【0061】
最後に、未焼成PTFE多孔質膜を、熱風発生炉を用いて380℃で焼成し、帯状のPTFE多孔質膜を得た。このPTFE多孔質膜の厚さは30μmであった。
【0062】
(
参照例2)
液状潤滑剤を含んだままの状態で実施する幅方向への延伸の倍率を5倍とした以外は
参照例1と同様にして、厚さ17μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0063】
(
参照例3)
液状潤滑剤を含んだままの状態で実施する幅方向への延伸の倍率を7倍とした以外は
参照例1と同様にして、厚さ11μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0064】
(
参照例4)
PTFEファインパウダーとしてデュポン社製「601A」、SSG2.150を用いた以外は
参照例1と同様にして、厚さ20μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0065】
(
参照例5)
液状潤滑剤を含んだままの状態で実施する幅方向への延伸の倍率を5倍とした以外は
参照例4と同様にして、厚さ17μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0066】
(
参照例6)
液状潤滑剤を含んだままの状態で実施する幅方向への延伸の倍率を7倍とした以外は
参照例4と同様にして、厚さ14μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0067】
(実施例7)
液状潤滑剤を除去したPTFEシートの長手方向および幅方向への延伸倍率をそれぞれ8倍とした以外は
参照例1と同様にして、厚さ9μmのPTFE多孔質膜を作製した。この実施例では、液状潤滑剤を除去してから実施した延伸の延伸面倍率が64倍となる。
【0068】
(実施例8)
液状潤滑剤を含んだままの状態で実施する幅方向への延伸の倍率を5倍とした以外は実施例7と同様にして、厚さ5μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0069】
(実施例9)
液状潤滑剤を含んだままの状態で実施する幅方向への延伸の倍率を7倍とした以外は実施例7と同様にして、厚さ3μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0070】
(
参照例7)
液状潤滑剤を除去したPTFEシートの長手方向および幅方向への延伸倍率をそれぞれ8倍とした以外は
参照例4と同様にして、厚さ6μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0071】
(実施例11)
液状潤滑剤を含んだままの状態で実施する幅方向への延伸の倍率を5倍とした以外は
参照例7と同様にして、厚さ4μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0072】
(実施例12)
液状潤滑剤を含んだままの状態で実施する幅方向への延伸の倍率を7倍とした以外は
参照例7と同様にして、厚さ3μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0073】
(
参照例8)
圧延後のPTFEシートの厚みが0.4mmとなるように金属圧延ロールの間隔を調整した以外は
参照例7と同様にして、厚さ10μmのPTFE多孔質膜を作製した。この圧延も、圧延の前後においてPTFEシートの幅方向の長さに変化がないように、圧延ロールの下流側に配置したロールを用いてPTFEシートをその長手方向に引っ張りながら実施した。
【0074】
(実施例14)
PTFEファインパウダーとしてダイキン社製「ポリフロンF−104」、SSG2.17を用いた以外は実施例7と同様にして、厚さ30μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0075】
(実施例15)
液状潤滑剤を含んだままの状態で実施する幅方向への延伸の倍率を5倍とした以外は実施例14と同様にして、厚さ3μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0076】
(実施例16)
液状潤滑剤を含んだままの状態で実施する幅方向への延伸の倍率を7倍とした以外は実施例14と同様にして、厚さ2μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0077】
(比較例1)
圧延した後の液状潤滑剤を含んだ状態にあるPTFEシートをその幅方向に延伸する工程を省略した以外は
参照例1と同様にして、厚さ120μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0078】
(比較例2)
圧延した後の液状潤滑剤を含んだ状態にあるPTFEシートをその幅方向に延伸する工程を省略した以外は
参照例4と同様にして、厚さ110μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0079】
(比較例3)
圧延した後の液状潤滑剤を含んだ状態にあるPTFEシートをその幅方向に延伸する工程を省略した以外は実施例7と同様にして、厚さ20μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0080】
(比較例4)
圧延した後の液状潤滑剤を含んだ状態にあるPTFEシートをその幅方向に延伸する工程を省略した以外は
参照例8と同様にして、厚さ50μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0081】
(比較例5)
圧延した後の液状潤滑剤を含んだ状態にあるPTFEシートをその幅方向に延伸する工程を省略した以外は実施例14と同様にして、厚さ40μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0082】
(比較例6)
圧延後のPTFEシートの厚みが0.6mmとなるように金属圧延ロールの間隔を調整した以外は比較例3と同様にして、厚さ60μmのPTFE多孔質膜を作製した。この圧延も、圧延の前後においてPTFEシートの幅方向の長さに変化がないように、圧延ロールの下流側に配置したロールを用いてPTFEシートをその長手方向に引っ張りながら実施した。
【0083】
(比較例7)
圧延後のPTFEシートの厚みが0.8mmとなるように金属圧延ロールの間隔を調整した以外は比較例4と同様にして、厚さ80μmのPTFE多孔質膜を作製した。この圧延も、圧延の前後においてPTFEシートの幅方向の長さに変化がないように、圧延ロールの下流側に配置したロールを用いてPTFEシートをその長手方向に引っ張りながら実施した。
【0084】
(比較例8)
圧延後のPTFEシートの厚みが0.4mmとなるように金属圧延ロールの間隔を調整した以外は比較例5と同様にして、厚さ50μmのPTFE多孔質膜を作製した。この圧延も、圧延の前後においてPTFEシートの幅方向の長さに変化がないように、圧延ロールの下流側に配置したロールを用いてPTFEシートをその長手方向に引っ張りながら実施した。
【0085】
(比較例9)
PTFEファインパウダー(ダイキン社製「ポリフロンF−104」、SSG2.17)100重量部に液状潤滑剤(ドデカン)19重量部を均一に混合し、この混合物を丸棒状に予備成形した。次いで、この成形体を、丸棒状にペースト押出しした。押し出したPTFEシートの直径は44mmであった。
【0086】
さらに、丸棒状の成形体を150kNで30分間プレスして厚さ0.2mmのシートとし、さらに1対の金属圧延ロールの間を通過させて圧延した。この圧延は、圧延の前後においてPTFEシートの幅方向の長さに変化がないように、圧延ロールの下流側に配置したロールを用いてPTFEシートをその長手方向に引っ張りながら実施した。以降は比較例1と同様にして、厚さ80μmのPTFE多孔質膜を得た。
【0087】
(比較例10)
液状潤滑剤を除去したPTFEシートの長手方向および幅方向への延伸倍率をそれぞれ4倍とした以外は比較例5と同様にして、厚さ120μmのPTFE多孔質膜を作製した。
【0088】
(比較例11)
PTFEファインパウダーとして旭フロロポリマーズ製「フルオンCD−1」、SSG2.20を用いた以外は実施例7と同様の方法により、PTFE多孔質膜の作製を試みた。しかし、長手方向および幅方向についてそれぞれ8倍に延伸したところ、膜が破断した。
【0089】
(比較例12)
PTFEファインパウダーとして旭フロロポリマーズ製「フルオンCD−1」、SSG2.20を用いた以外は実施例8と同様の方法により、PTFE多孔質膜の作製を試みた。しかし、液状潤滑剤を含んだままの状態で幅方向に5倍の倍率で延伸したところ、膜が破断した。
【0090】
各実施例
、参照例1〜8および比較例1〜10から得たPTFE多孔質膜について、耐水圧および通気度を測定した。耐水圧は、JIS L1092に規定されている耐水度試験機(高圧法)により測定した。また、通気度は、JIS P8117に規定されているガーレー試験機によりガーレー数G[秒/100ml]を測定し、関係式(4)を用いてGをフラジール数Fに換算した。ただし、通気度が高いPTFE多孔質膜については、測定の精度を上げるために、ガーレー数の測定を100mlではなく300mlの空気を用いて実施し、この結果から100mlの空気がPTFE多孔質膜を通過する時間を算出し、ガーレー数Gを求めた。300mlの空気を用いた場合には、得られた値の1/3の数値を関係式(4)のGに代入した。結果を表1に示す。
【0091】
測定した耐水圧および通気度を
図3に示す。
図3における○および●は実施例
および参照例を、×は比較例をそれぞれ示す。また、Eとともに付与されている数字は実施例の番号であり、Cとともに付与されている数字は比較例の番号である。
【0092】
図3に破線矢印で示したように、圧延後の厚さを変えることによって、PTFE多孔質膜を厚膜化すると、耐水圧は高くなるが通気度は低くなる。このように、耐水圧と通気度とは、通常、トレードオフの関係があるため、その両方を改善することは難しい。また、
図3に一点鎖線の矢印で示したように、ダイからの押出形状を丸棒からフィッシュテールダイによるシート状に変更しただけでは通気度は却って低下する。各比較例は、
図3に実線で示した直線よりも下方に存在する(R<―0.1F+0.5)。
【0093】
各比較例と対比すると、各実施例のPTFE多孔質膜は、単層膜でありながらも、耐水性および通気性が高いレベルでバランスがとれており、
図3の直線よりも上方にプロットされている(R≧―0.1F+0.5)。
【0094】
実施例の中でも、標準比重2.16以下のPTFEファインパウダーを用い、工程Cにおける延伸(湿式延伸)の倍率を5.0倍以上に設定し、工程Eにおける延伸(乾式延伸)の面倍率を50倍以上140倍以下として得た実施例8,9,11,12のPTFE多孔質膜は、フラジール通気度Fが1〜4cm
3/秒/cm
2であって耐水圧Rが0.5〜1MPaの特性を示し、耐水性および通気性がとりわけ高いレベルで両立していた。
【0095】
図3には、乾式延伸の面倍率を16倍(50倍未満)とした
参照例をグループAとして、標準比重が2.17(2.16超)であるPTFEファインパウダーを用いた実施例をグループBとして表示し、湿式延伸の倍率を3倍(5倍未満)とした実施例
および参照例を黒丸(●)により示した。これらのグループに含まれる実施例
および参照例と比較すると、実施例8,9,11,12は耐水性および通気性のバランスに優れていることが理解できる。
【0096】
【表1】
【0097】
実施例14〜16から得たPTFE多孔質膜の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図4〜
図6に示す。また、比較例5から得たSEM写真を
図7として示す。いずれのSEM写真も紙面上下方向が長手方向(MD方向)である。
図4〜
図6のPTFE多孔質膜の膜構造は、従来の製法から得られたPTFE多孔質膜の膜構造(
図7)と比較すると、小径化したフィブリル、ノードとしては判別しがたい程度に小さい多数の「ノード」、および延伸方向以外の方向に伸びるフィブリルの増加によって特徴づけられる。