特許第5985285号(P5985285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985285
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20160823BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B62D5/04
   F16C19/06
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-158241(P2012-158241)
(22)【出願日】2012年7月17日
(65)【公開番号】特開2014-19237(P2014-19237A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】木本 進
【審査官】 神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−104366(JP,A)
【文献】 特開2012−056459(JP,A)
【文献】 特開2005−161894(JP,A)
【文献】 特開2001−010512(JP,A)
【文献】 特開2004−203155(JP,A)
【文献】 特開2002−211421(JP,A)
【文献】 特開2006−151043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00 − 5/06
B62D 5/07 − 5/32
F16C 19/00 − 19/56
F16C 33/30 − 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールに接続される操舵軸を有し、前記ステアリングホイールの回転に応じて転舵輪を転舵する操舵機構と、
前記操舵軸に設けられたウォームホイールと、
前記ウォームホイールに噛合するウォームシャフトと、
前記ウォームシャフトの一端側に設けられ、前記操舵機構に操舵アシスト力を付与する電動モータと、
前記ウォームホイールを収容するホイール収容部と前記ウォームシャフトを収容するシャフト収容部とを有するギヤハウジングと、
前記シャフト収容部より前記電動モータ側に設けられ、該電動モータ側へ向かって前記シャフト収容部よりも内径が2段階に大きくなるように段差拡径状に形成された内側段部と外側段部とからなる2つの段部のうち前記電動モータ側に位置する外側段部によって形成された軸受収容部と、
前記軸受収容部に収容配置され、前記ウォームシャフトの外周に嵌着されるインナレースと、前記インナレースの外周側に前記内側段部との間に軸方向隙間を有するかたちで設けられ、その外周面が軸方向中間部から軸方向両端側へ向かって外径が徐々に減少するような断面ほぼ円弧状に形成されたアウタレースと、前記インナレースと前記アウタレースとの間に介装された複数のボールと、前記アウタレースの外周側に前記外側段部に当接するかたちで設けられ、かつ前記前記その内周面が前記アウタレースの外周面の円弧形状に沿うような断面ほぼ円弧状に形成された揺動支持部材と、を有し、前記ウォームシャフトの一端側を回転自在に、かつ、前記アウタレースが揺動することで前記ウォームシャフトの一端側を支点として前記ウォームシャフトを揺動可能に支持する軸受と、
前記内側段部と前記アウタレースの軸方向端面との間に介装され、最も大きく潰れ変形した場合でも前記軸方向隙間内において前記アウタレースの径方向へと膨出することによって該アウタレースと前記内側段部との接触を抑制するように弾性変形可能な樹脂又はゴム材料からなる弾性部材と、
を備え、
前記内側段部の前記アウタレースと対向する軸方向端面には、前記弾性部材を収容する縦断面凹字形状の弾性材保持部が、前記アウタレースと対向する軸方向外側にのみ開口するように切欠形成されていることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
ステアリングホイールに接続される操舵軸を有し、前記ステアリングホイールの回転に応じて転舵輪を転舵する操舵機構と、
前記操舵軸に設けられたウォームホイールと、
前記ウォームホイールに噛合するウォームシャフトと、
前記ウォームシャフトの一端側に設けられ、前記操舵機構に操舵アシスト力を付与する電動モータと、
前記ウォームホイールを収容するホイール収容部と前記ウォームシャフトを収容するシャフト収容部とを有するギヤハウジングと、
前記シャフト収容部より前記電動モータ側に設けられ、該電動モータ側へ向かって前記シャフト収容部よりも内径が2段階に大きくなるように段差拡径状に形成された内側段部と外側段部とからなる2つの段部のうち前記電動モータ側に位置する外側段部によって形成された軸受収容部と、
前記軸受収容部に収容配置され、前記ウォームシャフトの外周に嵌着されるインナレースと、前記インナレースの外周側に前記内側段部との間に軸方向隙間を有するかたちで設けられ、その外周面が軸方向中間部から軸方向両端側へ向かって外径が徐々に減少するような断面ほぼ円弧状に形成されたアウタレースと、前記インナレースと前記アウタレースとの間に介装された複数のボールと、前記アウタレースの外周側に前記外側段部に当接するかたちで設けられ、その内周面が前記アウタレースの外周面の円弧形状に沿うような断面ほぼ円弧状に形成された揺動支持部材と、を有し、前記ウォームシャフトの一端側を回転自在に、かつ、前記アウタレースが揺動することで前記ウォームシャフトの一端側を支点として前記ウォームシャフトを揺動可能に支持する軸受と、
前記内側段部と前記アウタレースの軸方向端面との間に介装され、最も大きく潰れ変形した場合でも前記軸方向隙間内において前記アウタレースの径方向へと膨出することによって該アウタレースと前記内側段部との接触を抑制するように弾性変形可能な樹脂又はゴム材料からなる弾性部材と、
前記内側段部の前記アウタレースと対向する軸方向端面には、前記弾性部材を収容する縦断面L字形状かつ横断面コ字形状の弾性材保持部が前記シャフト収容部の開口縁の接線方向に沿って延設されていて、該弾性材保持部は、前記アウタレースと対向する軸方向外側と、前記ウォームシャフトと対向する径方向内側と、に開口するように構成されると共に、
前記弾性部材は、前記軸方向外側に開口し、かつ前記弾性材保持部の延設方向に延びる横断面コ字形状となる保持部材によって保持され、該保持部材は、前記開口を前記アウタレースと対向させるかたちで長手方向両端側が前記弾性材保持部の長手方向両端側に嵌着固定されることを特徴とするパワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に適用され、ウォームギヤによって構成される減速機構を備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車に適用されるパワーステアリング装置としては、例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
すなわち、このパワーステアリング装置では、ウォームシャフトの先端部に、当該ウォームシャフトをウォームホイールと噛み合う方向へと予圧を付与する予圧付与手段が設けられている。
【0004】
この予圧付与手段は、ウォームシャフトの先端部を回転自在に支持する軸受の反ウォームホイール側の外周面と、これに対向するハウジングの周壁面との間に板ばねを介装することによって構成され、当該板ばねの付勢力をもって、ウォームシャフトをその噛み合い方向であるウォームホイール側へと付勢するようになっている。
【0005】
そして、前記板ばねについては、ハウジングの周壁面との対向面を弾性材によって被覆することで、例えば路面の凹凸など、ウォームシャフトがウォームホイール側から大きな入力を受けた際の当該板ばねの外周面とハウジングの周壁面との衝突を緩衝して、かかる衝突による騒音発生の抑制が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−270943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来のパワーステアリング装置では、板ばねの外周面に弾性材を貼り付けることによって金属製の板ばね本体が金属製のハウジングに直接衝突することによる騒音の発生を抑制するのみであり、例えば前述のようなウォームホイール側からの大きな入力があった後、これに基づく板ばねの収縮により発生する当該板ばねの反力によってウォームシャフトがウォームホイール側へと戻る際に生ずる当該両者の衝突の緩衝に対しては何ら寄与し得ない。このため、前記ウォームホイール側からの大きな入力による騒音の発生を十分に抑制できないという技術的課題があった。
【0008】
本発明は、かかる技術的課題に鑑みて案出されたもので、ウォームシャフトの揺動に伴う軸受(アウタレース)の揺動に起因して発生するウォームギヤの歯部同士が衝突することによる騒音(以下、「歯打ち音」と呼称する。)を抑制し得るパワーステアリング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ウォームシャフトとウォームホイールにより構成されるウォームギヤを介して伝達される電動モータの回転力をもって操舵力を補助するパワーステアリング装置であって、とりわけ、前記ウォームシャフトを収容するギヤハウジング内において、前記ウォームシャフトの一端側を支持する軸受を揺動可能に配置構成すると共に、当該軸受のアウタレースとギヤハウジングとの軸方向間に樹脂又はゴム材料からなる弾性部材を介装したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記弾性部材によって、例えば路面側からの過大な入力等に起因したウォームシャフトの急激かつ大きな揺動に伴う軸受(アウタレース)の同揺動が減衰される結果、ウォームシャフトとウォームホイールとの間の歯打ち音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るパワーステアリング装置の概略図である。
図2】本発明の第1実施形態を示したもので、図1に示す減速機の構成を現した要図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る要図であって、(a)は図2の要部拡大断面図、(b)は図2のA−A線断面図、(c)は図2のB−B線断面図である。
図4】本発明の第1実施形態の他例を示し、(a)は要部拡大断面図、(b)は(a)のC−C線断面図、(c)は(a)のD−D線断面図である。
図5】本発明の第1実施形態の第1変形例を示し、(a)は要部拡大断面図、(b)は(a)のE−E線断面図、(c)は(a)のF−F線断面図である。
図6】本発明の第1実施形態の第2変形例を示し、(a)は要部拡大断面図、(b)は(a)のG−G線断面図、(c)は(a)のH−H線断面図である。
図7】本発明の第2実施形態を示し、(a)は要部拡大断面図、(b)は(a)のI−I線断面図、(c)は(a)のJ−J線断面図である。
図8】本発明の第3実施形態を示し、(a)は要部拡大断面図、(b)は(a)のK−K線断面図、(c)は(a)のL−L線断面図である。
図9】本発明の第4実施形態を示し、(a)は要部拡大断面図、(b)は(a)のM−M線断面図、(c)は(a)のN−N線断面図である。
図10】本発明の他例を示し、(a)は要部拡大断面図、(b)は(a)のO−O線断面図、(c)は(a)のP−P線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るパワーステアリング装置の各実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、下記実施形態では、このパワーステアリング装置を、従来と同様、自動車用の操舵装置に適用したものを示している。
【0013】
図1図3は本発明のパワーステアリング装置の第1実施形態を示し、このパワーステアリング装置は、図1に示すように、軸方向一端側がステアリングホイールSWと一体回転可能に連係される入力軸1(本発明の操舵軸に相当)と、軸方向一端側が周知のラック・ピニオン機構3を介して転舵輪WR,WLに連係される出力軸2と、が図外のトーションバーを介して相対回転可能に連結されることにより構成され、これら両軸1,2及びラック・ピニオン機構3によって本発明の操舵機構が構成される。また、前記ラック・ピニオン機構3は、出力軸2の一端部に創成されたピニオン歯2aと、これに噛合するラック歯4aを所定の軸方向範囲に有するラック軸4と、から構成され、ラック軸4の両端がタイロッド5,5を介して転舵輪WR,WLに連係されている。
【0014】
このような構成から、ステアリングホイールSWを回転させると、これに同期して入力軸1が回転することにより前記図外のトーションバーが捩られ、該トーションバーの弾性力によって入力軸1に追従して出力軸2が回転することとなる。これにより、この出力軸2の回転運動がラック軸4の直線(軸方向)運動へと変換されて、このラック軸4の軸方向移動に伴いタイロッド5,5を介してナックル6,6が左右に引っ張られることで、転舵輪WR,WLが転舵されるようになっている。
【0015】
また、このパワーステアリング装置は、入力軸1と出力軸2の相対回転変位量に基づいて運転者による操舵トルクを検出するトルクセンサ7と、該トルクセンサ7の検出結果や車速信号等に基づいて車載の電子コントロールユニット9によって駆動制御され、前記操舵トルクに応じた操舵アシストトルクを発生させる正逆回転可能な電動モータ8と、該電動モータ8の回転力を出力軸2に伝達する減速機10と、を備えている。これにより、運転者が操舵を行うと、その操舵方向に応じて電動モータ8の回転駆動方向が切り換えられて、減速機10の出力をもって前記運転者による操舵トルクに応じた操舵アシストトルクが出力軸2に付与されるようになっている。
【0016】
前記減速機10は、図2に示すように、出力軸2を収容する筐体と共通化されたギヤハウジング20の内部に収容されるウォームギヤによって構成され、このウォームギヤは、電動モータ8の駆動軸先端にこれを延長するように同軸上に連結され、軸方向の両端部が第1軸受13及び第2軸受14によって回転自在に支持されたウォームシャフト11と、出力軸2の外周に一体回転可能に固定され、その外周部に形成された歯部12aを介してウォームシャフト11の歯部11aと捩れの関係をもって噛み合うウォームホイール12と、から構成されている。なお、前記出力軸2を収容する筐体とギヤハウジング20とは、必ずしも一体に構成されている必要はなく、別体に構成されていてもよい。
【0017】
そして、前記ウォームシャフト11は、ギヤハウジング20の内部において電動モータ8の駆動軸の軸線上に穿設されたシャフト収容部21内に収容され、前記ウォームホイール12は、ギヤハウジング20の内部において、シャフト収容部21と直交し、かつ、所定範囲がシャフト収容部21に臨むように形成されたホイール収容部22内に収容されている。
【0018】
前記シャフト収容部21は、図2中右側の底部側となる一端側へと向かって段差縮径状に形成されていて、その一端部に形成される小径部23には、第1軸受13が収容されると共に、この第1軸受13と当該小径部23との径方向間には、ウォームシャフト11に対してウォームホイール12と噛み合う方向へと予圧を付与する予圧付与機構15が設けられている。すなわち、この予圧付与機構15は、ウォームホイール12の径方向において第1軸受13を弾性的に保持しつつウォームシャフト11をウォームホイール12側へとより強く付勢することで、ウォームシャフト11とウォームホイール12との噛み合いに係るバックラッシの調整、適正化を図っている。
【0019】
また、前記シャフト収容部21の軸方向中間部には、ウォームシャフト11の歯部11aを収容する中径部24が構成されると共に、当該中径部24の軸方向中間部には、前記ホイール収容部22と連通する連通部27が形成されていて、この連通部27を介してウォームシャフト11の歯部11aとウォームホイール12の歯部12aとが噛合するようになっている。
【0020】
また、前記シャフト収容部21の他端部には、前記中径部24に対して段部26を介して拡径形成されてなる大径部25(本発明に係る軸受収容部に相当)が構成されている。そして、この大径部25には、前記段部26に突き当てるかたちで第2軸受14が嵌挿されると共に、さらにその外側から軸受保持部材16が螺入されることにより、該軸受保持部材16と段部26とによって第2軸受14が挟持状態に保持される構成となっている。
【0021】
ここで、前記第1軸受13は周知の玉軸受により構成される一方、前記第2軸受14は、ウォームシャフト11を揺動可能に軸支するいわゆる揺動軸受として構成され、当該第2軸受14については、特に図3(a)に示すように、ウォームシャフト11の一端部11b外周面に嵌着されるインナレース31と、該インナレース31の外周側に配置され、その外周面に縦断面凸円弧状に形成されてなる摺動面32aを有するアウタレース32と、該アウタレース32の外周側に配置され、その内周面に形成される前記摺動面32aに対応する形状(縦断面凹円弧状)の支持面33aにより前記アウタレース32を揺動可能に支持する揺動支持部材33と、前記アウタレース32とインナレース31との間に介装される複数のボール34と、から構成されていて、前記揺動支持部材33を介して大径部25に圧入されることによって当該大径部25の内周面に嵌着固定されている。
【0022】
そして、前記段部26及び軸受保持部材16には、図3の(a)〜(c)に示すように、第2軸受14のアウタレース32と対向するかたちで、該アウタレース32の揺動の減衰に供する1対の弾性部材である第1弾性部材17及び第2弾性部材18が配設されている。この第1、第2弾性部材17,18は、いずれもゴム材料を環状に形成してなるもので、周知のOリングによって構成される。
【0023】
すなわち、前記段部26では、その外周域と内周域との間に若干の段差が設けられ、その外周域となる外側段部26aによって、軸受保持部材16と協働して揺動支持部材33を挟持状態に保持する一方、その内周域となる内側段部26bにおいて、周方向に沿って穿設された凹状の第1環状溝41内にて第1弾性部材17が収容保持されている。
【0024】
なお、前記内側段部26bは、前記アウタレース32の外周縁よりも径方向外側まで及ぶように形成され、アウタレース32の揺動時において当該アウタレース32が外側段部26aと干渉することがないように構成されている。
【0025】
また、前記第1環状溝41は、ウォームホイール12側から過大な力が入力されない通常の使用状態においてはアウタレース32の内端面32bとの間に軸方向隙間C1が形成されるように、かつ、前記ウォームホイール12側からの過大な入力があった場合など第1弾性部材17が最も大きく弾性変形(潰れ変形)した場合であっても当該第1弾性部材17が完全には埋没せず、アウタレース32が内側段部26bに接触することがないような溝深さに設定されている。
【0026】
さらに、この第1環状溝41は、内側段部26bにおいて、その溝幅の中心位置Xが径方向内側へ偏倚するように設けられていて、その結果、前記アウタレース32の揺動時に、第1弾性部材17に対してアウタレース32の外周縁が当接することがないような構成となっている。
【0027】
一方、前記軸受保持部材16も、アウタレース32に対向する内側面が前記段部26と同様の段部28として構成されていて、アウタレース32の外周縁よりも外側となる径方向領域において若干突出するように設けられる外側段部28aによって、段部28の外側段部28aとの間で揺動支持部材33を挟持状態に保持すると共に、その内周側の径方向領域に凹状に形成される内側段部28bにおいて、周方向に沿って穿設された凹状の第2環状溝42内にて第2弾性部材18を収容保持している。
【0028】
なお、この第2環状溝42も、前記第1環状溝41と同様、前記通常の使用状態ではアウタレース32の内端面32bとの間に軸方向隙間C2が形成されるように、かつ、前記ウォームホイール12側からの過大な入力等に基づいて第2弾性部材18が最も大きく弾性変形(潰れ変形)した場合であっても当該第2弾性部材18が完全には埋没しない溝深さに設定されると共に、その溝幅の中心Xが径方向内側へと偏倚するかたちで設けられている。
【0029】
以下、本実施形態に係るパワーステアリング装置の特徴的な作用について、図2図3に基づいて説明する。
【0030】
まず、前記ウォームホイール12側から過大な入力が作用しない通常の使用状態では、電動モータ8の出力によってウォームシャフト11が回転すると、当該ウォームシャフト11は、予圧付与機構15の付勢力に基づいてウォームホイール12と適正に噛み合った状態で第1、第2軸受13,14により回転支持される。このため、第2軸受14においては、アウタレース32が第1、第2弾性部材17,18のいずれに対しても離間状態を維持したまま、インナレース31がアウタレース32に対し相対回転することで、ウォームシャフト11が回転支持されることとなる。
【0031】
一方、例えば深い轍などによって路面側から過大な力が入力されると、当該入力はウォームホイール12側よりウォームシャフト11を大きく押し退けるように作用する結果、ウォームシャフト11が、第2軸受14による軸受中心Zを支点として、その他端側がウォームホイール12から離間する方向へ比較的大きく揺動することとなる。すると、かかるウォームシャフト11の大きな揺動に伴い第2軸受14のアウタレース32が第1、第2弾性部材17,18に当接(弾接)し、これにより当該各弾性部材17,18に発生する弾性力が、ウォームシャフト11がウォームホイール12側より受ける前記路面側からの過大入力を減衰するかたちで作用する結果、当該ウォームシャフト11の急激な揺動や必要以上の大きな揺動が抑制(減衰)されることとなる。
【0032】
すなわち、前記ウォームシャフト11の急激な揺動が減衰されることから、当該ウォームシャフト11の急激な揺動に伴って発生する予圧付与機構15の大きな反力によってウォームシャフト11とウォームホイール12とが大きく衝突してしまう不都合、具体的には両歯11a,12aの衝突による歯打ち音の発生が抑制されることとなる。さらには、前記ウォームシャフト11の必要以上の揺動が抑制されることから、当該ウォームシャフト11の必要以上の揺動によって前記過大入力が揺動支持部材33へと作用してしまう不都合、具体的には第2軸受14の損傷の発生や耐久性の低下なども回避されることとなる。
【0033】
以上のように、本実施形態に係るパワーステアリング装置では、前記第1、第2弾性部材17,18によってアウタレース32の揺動を弾性的に支持することで、例えば路面側から過大な入力が生じたときなどウォームシャフト11が急激かつ大きく揺動することに伴う第2軸受14の同揺動を減衰させることが可能となる。これにより、ウォームシャフト11とウォームホイール12の両歯11a,12a間における歯打ち音の発生を抑制することができる。
【0034】
しかも、本実施形態では、前記各弾性部材17,18をそれぞれリング状に構成したことから、アウタレース32のほぼ全周において前記減衰作用が得られる結果、前記アウタレース32についての急激かつ大きな揺動をより効果的に減衰させることができ、前記ウォームギヤ間の歯打ち音の十分な抑制を図ることもできる。
【0035】
さらに、前記各弾性部材17,18については、その配置についても、前記各段部26,28を2つの径方向領域に分けることにより形成される内側段部26b,28bのさらに内周側へ偏倚させるようにしたことから、例えば図4に示すような内側段部26b,28b外周側に第1、第2弾性部材17,18を配置する場合と比べ、前記アウタレース32の揺動時に第1、第2弾性部材17,18に対し当該アウタレース32の各外周縁が当接してしまう不都合を回避することも可能となる。これにより、当該アウタレース32外周縁の当接によって発生し得る第1、第2弾性部材17,18の損傷や耐久性の低下等も回避される。
【0036】
加えて、前記各弾性部材17,18の保持部についても、前記各環状溝41,42のような単一の開口を有する縦端面ほぼコ字形状として、当該各弾性部材17,18の変形を一方向のみに制限したことにより、当該各弾性部材17,18の弾性特性の管理が容易となり、所望とする減衰作用を確保することにも供される。
【0037】
また、本実施形態の場合には、前記過大入力のない通常の使用状態では第1、第2弾性部材17,18とアウタレース32との間にそれぞれ前記軸方向隙間C1を介在させるように構成したことから、当該通常の使用状態において第1、第2弾性部材17,18がウォームシャフト11の揺動を阻害してしまうこともない。すなわち、第2軸受14の円滑な揺動作用が得られる結果、予圧付与機構15による適正な予圧に基づくウォームシャフト11とウォームホイール12の良好な噛み合いも確保される。
【0038】
なお、本実施形態では、前記ギヤハウジング20の段部26と軸受保持部材16の段部28のそれぞれに弾性部材17,18を配置する構成を例示したが、前記アウタレース32の揺動の減衰という本発明の作用効果を得るにあたっては、ギヤハウジング20ないし軸受保持部材16の一方側に弾性部材が設けられていれば、当該一方側に設けられた弾性部材により前記アウタレース32の揺動を減衰させることができることから、前記弾性部材は必ずしもギヤハウジング20及び軸受保持部材16の両方に設けられている必要はない。
【0039】
図5は本発明の第1実施形態の第1変形例を示したものであって、前記第1実施形態においてアウタレース32との間に介在させていた各軸方向隙間C1,C2を廃止して、第1、第2弾性部材17,18とアウタレース32とを常時当接させるように構成したものである。
【0040】
したがって、本変形例の場合には、前記ウォームシャフト11の揺動に伴うアウタレース32の揺動時において、当該揺動の初期から第1、第2弾性部材17,18によってアウタレース32の同揺動を減衰させることが可能となる。これにより、前記過大入力等に伴うアウタレース32の急激かつ大きな揺動がより効果的に減衰され、前記ウォームギヤ間の歯打ち音の良好な抑制が図れることとなる。
【0041】
図6は本発明の第1実施形態の第2変形例を示したものであって、前記第1実施形態における第1、第2環状溝41,42の構成を変更したものである。
【0042】
すなわち、本変形例では、前記第1、第2環状溝41,42において、その溝深さが、ウォームホイール12側で大きく(図6(a)のD1)、反ウォームホイール12側で小さく(図6(a)のD2)、周方向において変化するような構成となっていて、当該周方向において第1、第2弾性部材17,18の扁平率(充填率)を変化させるようになっている。
【0043】
かかる構成から、本変形例では、前記アウタレース32の揺動に対する第1、第2弾性部材17,18の減衰特性をより最適化することが可能となり、前記歯打ち音の発生の一層効果的な抑制に供される。
【0044】
図7は本発明の第2実施形態を示したものであり、前記第1実施形態に対し第1、第2弾性部材17,18の構成を変更したものである。
【0045】
すなわち、本実施形態では、前記第1実施形態に係る第1、第2環状溝41,42を廃止することとし、その代わりに、前記各内側段部26b,28bの周方向におけるウォームホイール12に最も近くなる位置及び最も遠くなる位置に、横断面ほぼ矩形状をなす一対の第1、第2保持穴43,44が穿設されていて、これら各保持穴43,44内にて当該各保持穴43,44に対応する横断面形状を有するほぼブロック状に形成された各対の第1、第2弾性部材17,18がそれぞれ収容保持された構成となっている。
【0046】
なお、本実施形態においても、前記第1、第2保持穴43,44の深さ寸法や前記各内側段部26b,28bにおける径方向位置等の基本的な構成については、前記第1実施形態と同様である。
【0047】
以上のような構成から、本実施形態においても前記第1実施形態とほぼ同様の作用効果が奏せられるのは勿論のこと、特に本実施形態の場合には、前記各弾性部材17,18がそれぞれ分割して構成されていることから、当該各弾性部材17,18をリング状に形成する場合(図6参照)と比較して、前記ギヤハウジング20及び軸受保持部材16の各周方向位置において弾性特性を容易に変更することができる。
【0048】
図8は本発明の参考例を示したものであり、前記第2実施形態に対し前記第1、第2保持穴43,44の構成を変更したものである。
【0049】
すなわち、本参考例では、前記第1、第2保持穴43,44の各内周壁を削除し、当該第1、第2保持穴43,44を軸方向外側(アウタレース32側)及び径方向内側(ウォームシャフト11側)の双方に開口する第1、第2切欠部45,46として構成することとし、当該第1、第2切欠部45,46にて第1、第2弾性部材17,18が収容保持されるようになっている。
【0050】
なお、本参考例においても、前記第1、第2切欠部45,46の深さ寸法や前記各内側段部26b,28bにおける径方向位置等の基本的な構成については、前記第2実施形態と同様である。
【0051】
よって、かかる構成より、本参考例の場合には、前記第1、第2弾性部材17,18の保持部を、前記ギヤハウジング20及び軸受保持部材16の径方向内側へと開口する切欠状に形成したことにより、少なくとも当該第1、第2切欠部45,46の形成に際し、前記第2実施形態の場合と比べて、その加工作業を容易に行うことができる。この結果、装置の生産性の向上や、これによる製造コストの低廉化に供される。
【0052】
図9は本発明の第実施形態を示したものであり、前記参考例に対し前記第1、第2弾性部材17,18の各保持形態を変更したものである。
【0053】
すなわち、本実施形態では、前記第1、第2弾性部材17,18が、これと同様のゴム材料によって形成される弾性材(第1、第2弾性材51,52)をそれぞれ縦断面コ字形状の金属製のホルダ(第1、第2ホルダ53,54)に収容保持させることによって一体的に構成され、前記第1、第2切欠部45,46にて収容保持された構成となっている。
【0054】
なお、前記第1、第2ホルダ53,54の高さ寸法は第1、第2切欠部45,46の深さ寸法とほぼ同一に設定されていて、当該各ホルダ53,54が前記アウタレース32の揺動を阻害してしまう不都合を回避すうようになっている。そして、前記各切欠部45,46からの前記各弾性材51,52の突出量や、該各弾性材51,52の前記各内側段部26b,28bに対する径方向位置等の基本的な構成については、前記第3実施形態と同様である。
【0055】
このように、本実施形態では、弾性材(前記第1、第2弾性材51,52)をホルダ(前記第1、第2ホルダ53,54)を介して第1、第2切欠部45,46に保持させるように構成したことから、前記各弾性材51,52の変形に制限をかけつつも、当該各弾性材51,52の保持部を切欠状に構成することが可能となる。これにより、前記各切欠部45,46の良好な加工性と、前記弾性材51,52による良好な減衰作用との両立を図ることができる。
【0056】
本発明は、前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば前記各弾性部材17,18の形状や大きさ、数量については、前記アウタレース32の揺動に対する減衰特性のチューニングによって任意に変更可能である。
【0057】
また、前記第1実施形態のみ、前記第1、第2弾性部材17,18とアウタレース32との間に軸方向隙間C1,C2を介在させる構成となっているが、当該構成は前記第1〜第4実施形態においても同様に適用可能である。
【0058】
さらに、前記第2〜第実施形態では、前記第1、第2弾性部材17,18をそれぞれ1対設ける構成としているが、必ずしも対をなしている必要はなく、例えば図10に示すようにギヤハウジング20及び軸受保持部材16において単一の配置としてもよい。そして、当該配置に際しても、ギヤハウジング20又は軸受保持部材16の両方に設けられている必要はなく、いずれか一方側に設けられていれば本発明の前記特異な作用効果が奏せられる。
【0059】
以下、前記実施形態等から把握される特許請求の範囲に記載した以外の技術的思想について説明する。
【0060】
(a)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記軸受は、前記軸受収容部の開口端側から螺着される軸受保持部材と前記段部との間に挟持状態に保持され、
前記弾性部材は、前記軸受保持部材と前記アウタレースの間にも介装されることを特徴とするパワーステアリング装置。
【0061】
このような構成とすることで、当該軸受保持部材側の弾性部材と前記段部側の弾性部材とが協働して前記アウタレースの急激かつ大きな揺動をより効果的に減衰させることが可能となる結果、前記ウォームギヤ間の歯打ち音の十分な抑制に供される。
【0062】
(b)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記弾性部材には、前記アウタレースの軸方向端面を当接させ、当該アウタレースの外周縁を当接させないように構成したことを特徴とするパワーステアリング装置。
【0063】
このような構成とすることで、アウタレースの外周縁が当接することにより弾性部材が損傷してしまう不都合を回避することができる。
【0064】
(c)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記弾性部材を、ほぼリング状に形成して配置したことを特徴とするパワーステアリング装置。
【0065】
このような構成とすることで、アウタレースのほぼ全周において前記揺動の減衰作用が得られる結果、前記アウタレースの急激かつ大きな揺動をより効果的に減衰でき、前記ウォームギヤ間の歯打ち音の十分な抑制に供される。
【0066】
(d)前記(c)に記載のパワーステアリング装置において、
前記軸受保持部材の前記アウタレースと対向する軸方向端面には、前記弾性部材を収容する凹状の弾性材保持部が穿設されると共に、
前記弾性材保持部は、前記ウォームホイールに近い領域と遠い領域とで深さが異なるように構成されていることを特徴とするパワーステアリング装置。
【0067】
このように前記弾性材保持部の深さを変更することで、その周方向領域にて前記減衰作用の大きさなど減衰特性を調整することが可能となり、この結果、前記アウタレースの急激かつ大きな揺動をより一層効果的に減衰させることができる。
【0068】
(e)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記段部の前記アウタレースと対向する軸方向端面には、前記弾性部材を収容する凹状の弾性材保持部が穿設されると共に、
前記弾性材保持部は、前記アウタレースと対向する軸方向外側にのみ開口するように構成されていることを特徴とするパワーステアリング装置。
【0069】
このようにして弾性部材の弾性変形に制限をかけることで、当該弾性部材の弾性特性の管理が容易となる結果、当該弾性部材による所望とする減衰作用の確保に供される。
【0070】
(f)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記段部の前記アウタレースと対向する軸方向端面には、前記弾性部材を収容する凹状の弾性材保持部が穿設されると共に、
前記弾性材保持部は、前記アウタレースと対向する軸方向外側と、前記ウォームシャフトと対向する径方向内側と、に開口するように構成されていることを特徴とするパワーステアリング装置。
【0071】
このような構成とすることで、良好な加工作業性を得ることができ、生産性の向上及び製造コストの低廉化に供される。
【0072】
(g)前記(f)に記載のパワーステアリング装置において、
前記弾性部材は、前記軸方向外側に開口する断面コ字形状となる保持部材によって保持されると共に、該保持部材を介して前記アウタレースと対向させるかたちで前記弾性材保持部に嵌着固定されることを特徴とするパワーステアリング装置。
【0073】
このように構成することで、前記良好な加工作業性を確保したうえで、前記弾性特性の管理を容易に行うことが可能となる。換言すれば、弾性材保持部の良好な加工性と弾性部材による良好な減衰作用との両立を図ることができる。
【符号の説明】
【0074】
1…入力軸(操舵軸)
3…ラック・ピニオン機構(操舵機構)
8…電動モータ
11…ウォームシャフト
12…ウォームホイール
14…第2軸受(軸受)
17…第1弾性部材(弾性部材)
20…ギヤハウジング
21…シャフト収容部
22…ホイール収容部
25…大径部(軸受収容部)
26…段部
31…インナレース
32…アウタレース
33…揺動支持部材
34…ボール
SW…ステアリングホイール
WR,WL…転舵輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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