(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポンプ駆動時間積分手段は、前記電動ポンプの駆動停止中に、前記駆動時間積分値から該電動ポンプの連続停止時間に応じて設定された時間毎の補正値を減算することを特徴とする請求項1に記載の電動ポンプの制御装置。
前記ポンプ駆動時間積分手段は、ポンプの駆動停止中に、外部から作動油温度情報を入力し、ポンプ駆動再開時に最新の作動油温度情報に基づいて前記駆動時間積分値の下限制限値を算出し、前記ポンプの駆動停止中の駆動時間積分値が、前記下限制限値より小さいときには、ポンプ駆動再開時の駆動時間積分値を前記下限制限値とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電動ポンプの制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を、車両の無段変速機に潤滑及び冷却のため作動油(作動流体)を供給する電動ポンプに適用した実施の形態を説明する。
図1において、エンジン(内燃機関)1には、トルクコンバータ2及び発進用クラッチ機構である前後進切換機構3を介して無段変速機4が接続されている。
【0010】
前後進切換機構3は、例えば、エンジン出力軸と連結したリングギア、ピニオン及びピニオンキャリア、変速機入力軸と連結したサンギアからなる遊星歯車機構と、変速機ケースをピニオンキャリアに固定する後退ブレーキと、変速機入力軸とピニオンキャリアを連結する前進クラッチと、を含んで構成され、車両の前進と後退とを切換える。これら後退ブレーキ及び前進クラッチの切換えは、無段変速機4と共通の作動油を用いた油圧による締結の切換えによって行われる。
【0011】
無段変速機4は、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42と、これらプーリ間に掛けられたVベルト43と、を含んで構成され、プライマリプーリ41の回転は、Vベルト43を介してセカンダリプーリ42へ伝達され、セカンダリプーリ42の回転は、駆動車輪へ伝達されて車両が走行駆動される。
【0012】
上記駆動力伝達中、プライマリプーリ41の可動円錐板及びセカンダリプーリ42の可動円錐板を軸方向に移動させてVベルト43との接触位置半径を変えることにより、プライマリプーリ41とセカンダリプーリ42との間の回転比つまり変速比を変えることができる。
【0013】
かかる前後進切換機構3及び無段変速機4を備えた変速機構20の制御は、以下のように行われる。
車両の各種信号に基づいて外部装置としてのCVTコントロールユニット5が変速制御信号を演算し、該変速制御信号を入力した調圧機構6が、エンジン駆動される機械式ポンプ7からの吐出圧を変速機構20の各部毎に調圧して、それぞれ供給することにより行われる。
【0014】
一方、前記機械式ポンプ7をバイパスする通路に電動ポンプ8が配設される。該電動ポンプ8は、車両の始動時における締結ショックを緩和するため、あるいは、各被潤滑部の潤滑及び冷却のため、外部装置としてのCVTコントロールユニット(CVTCU)5からの制御信号によって駆動される。
【0015】
なお、電動ポンプ8出口の油通路には、必要に応じて通常時の作動油の逆流を防止する逆止弁9を配設してもよい。また、図示点線で示すように、電動ポンプ8からの吐出圧を所定圧以下に制限するため、該所定圧以下で開弁するリリーフ弁10を設けてもよい。
【0016】
図2は、上記電動ポンプの制御ブロック図を示す。
CVTCU5は、車両の各種センサからの検出信号(車速、ブレーキ、アクセル、シフト位置、エンジン回転速度、バッテリ電圧、その他)及び油温センサ11によって計測される作動油の温度(油温)を入力し、これら信号に基づいて検出された車両運転状態に応じて、電動ポンプ8の目標回転数を演算し、該目標回転数を指令値として電動ポンプ8に出力する。
【0017】
電動ポンプ8は、ポンプ本体81と、該ポンプ本体81を駆動するモータ82と、該モータ81を駆動する駆動回路83とを備えて構成されている。
駆動回路83は、モータ回転数(ポンプ回転数)を検出してCVTCU5に送信しつつ、CVTCU5からの指令値に基づいて、実回転数を目標回転数に収束させるようにモータ82を駆動する。
【0018】
また、CVTCU5から駆動回路83には油温情報が送信されないが、駆動回路83は、電動ポンプ8の駆動時間に基づいて以下のように、駆動回路83やモータ82(駆動回路等)の耐熱性を満たすためのモータ電流の制限値(電流制限値)を算出する。
【0019】
図3は、ポンプ駆動開始時の油温がポンプ駆動領域における下限値で、かつ、駆動後の連続駆動時間の増大に応じて上昇する油温が下限上昇率で上昇するとき、つまり、時間毎の油温が下限値であるときの特性を示す。なお、ポンプ作動領域において、油温が上昇するほど、作動油の粘性が低下し、電動ポンプ8の駆動抵抗が減少するので必要電流は減少する。
【0020】
連続駆動時間に対して
図3から求めた時間毎の油温下限値と、該油温下限値に応じて必要な電流値が求められる。この必要電流値は上述したように油温が低いほど大きくなるので、上限必要電流値として求められる。そして、この時間毎の上限必要電流値を許容しつつ、上限必要電流値より過剰な電流の通電を抑制してモータ82、駆動回路83等の耐熱性を満たすための電流制限値が
図4に示す特性のように設定され、この特性がメモリに記憶される。
【0021】
そして、本実施形態では、
図4の横軸における時間(連続駆動時間)として、モータ駆動時間の積分値を用いる。該積分値は、
図5に示すように、運転状況に応じて電動ポンプ8が断続的に駆動される場合、停止によってリセットすることなく、駆動時の駆動時間T1,T2,T3,・・・を順次積分して算出する。即ち、通常は、走行中にポンプ駆動によって一度上がった油温は短時間で大きく変化しにくいので、この間の積分値は一定に維持したまま、駆動中の駆動時間を順次積分することで油温の上昇に応じた値とする。
【0022】
図6は、本第1の実施形態において、電流制限値を設定する制御のフローを示す。
ステップS1でポンプが駆動中か否かを判別し、駆動中と判定されたときは、ステップS2で駆動時間T1,T2,T3,・・・を順次積分して積分値を算出する。
【0023】
ステップS3で算出された駆動時間の積分値に基づいて、
図4に示した特性のマップから電流制限値を設定する。
このようにして駆動時間積分値に基づいて設定された電流制限値によりモータ電流を制限することにより、ポンプ駆動と停止が繰り返される状況でも駆動時間積分値の増大に伴い上昇する油温に応じたモータ82の必要電流が減少し、電流制限値が減少して設定される。
【0024】
これにより、電動ポンプ8の駆動抵抗が増大するフリクション故障時におけるモータ電流の増大を電流制限値で制限することができ、駆動回路83等の耐熱性を確保してポンプ故障を抑制でき、無駄な電力消費も抑制できる。
【0025】
なお、駆動回路83に内蔵されたタイマを用いて演算できる駆動時間の積分値を用いて、適正な電流制限値を設定することができるので、例えば、電流制限値設定用の油温検出値をCVTCU5から駆動回路83に送信する必要がなく、PWM通信等、CVTCU5から駆動回路83への送信情報量に制約があるシステム、あるいは、CAN通信等でも送信情報量を増やしたくないシステムに適用した場合にも有効である。
【0026】
上記のように通常は、電動ポンプ8の駆動中に上昇した油温の停止中での低下は無視しうるが、特に、ハイブリッド車両等では、エンジンが非回転で、かつ、長時間イグニッションスイッチがON状態で放置されるような状況では、油温の低下が考えられる。このように油温が低下した状態でポンプ駆動が再開され、停止前の駆動時間積分値に基づき上昇した油温に応じて設定された電流制限値でモータ電流が制限されると、低下した油温に見合った必要電流を確保することが難しくなる。
【0027】
第2の実施形態は、上記の点に対応するもので、駆動停止中に直前の駆動終了時における駆動時間積分値を、経過時間に応じて低減補正する。
但し、停止中の積分値を減少させて電流制限値が引き上げられても再駆動後の駆動回路83の過剰な発熱は抑制されて耐熱性を確保できるように、駆動回路83等の放熱特性を考慮して積分値の低減特性を設定する。例えば、
図7(B)の実線で示すように、駆動OFF時間の1/3の時間を低減する積分値低減率に設定する。
【0028】
また、放置状態では油温(及び駆動回路)が一次フィルタ特性で低下するので、この特性変化に応じて積分値を
図7(B)の一点鎖線で示す特性の積分値低減率で低減させてもよい。
【0029】
図8は、第2の実施形態おいて、電流制限値を設定する制御のフローを示す。
ステップS1で電動ポンプ8の停止中と判定されたときは、ステップS4へ進んでステップS2で算出された駆動時間積分値から上記のように設定された積分値低減率で積分値を低減する。
【0030】
駆動停止後、駆動を再開するときには、停止終了時の積分値を初期値としてステップS2での積分演算が再開される。
第2の実施形態によれば、駆動停止中に推定される油温低下に伴う必要電流の増大に応じて駆動回路83等の耐熱性を確保できる範囲で電流制限値を引き上げることにより、特に停止時間が長引いた場合でも必要電流を確保してポンプ制御を良好に維持できる。
【0031】
また、本実施形態において、駆動停止後の連続停止時間が、油温が十分に低下する所定時間を経過したときには、駆動時間積分値を0とするようにしてもよい。
一方、駆動中の駆動時間積分値は、
図3で説明したように時間毎の油温が下限値であるときの特性に対応して上限必要電流値を確保できる電流制限値が得られるように算出されるが、実油温が下限温度より高温である場合には、必要電流は減少し、これに応じて電流制限値を低減することが可能である。また、電動ポンプ8の駆動停止中も、クラッチ接続後に機関駆動される機械式ポンプ7など回転機構の摩擦熱等により作動油が加熱され、油温が上昇する場合もある。
【0032】
第3の実施形態は、上記の点に対応するもので、駆動停止中にCVTCU5から駆動指令値の代わりに油温情報を駆動回路83に入力させ、駆動回路83が油温情報に基づいてに基づいて電流制限値を、より適正に設定するものである。
【0033】
図9は、第3の実施形態おいて、電流制限値設定する制御のフローを示す。
ステップS1でポンプの駆動が停止されていると判定されたときは、ステップS4で駆動時間積分値から上記のように設定された積分値低減率で積分値を低減した後、ステップS5へ進む。
【0034】
ステップS5では、CVTCU5から駆動回路83へ供給された油温情報に基づいて、実油温に対応する駆動時間積分値の下限値Bを算出する。この下限値Bは、
図3において、横軸を駆動時間積分値の下限値Bとして算出することができる。
【0035】
ステップS6では、ステップS4で低減した駆動時間積分値(=A)が、ステップS5で算出した駆動時間積分値の下限値Bより小であるかを判定する。
ステップS6でA≧Bと判定されたときは、ステップS4で算出した積分値Aが選択され、駆動回路83等の耐熱性を確保する。
【0036】
一方、ステップS6で、A<Bと判定されたときは、ステップS7にて、駆動時間積分値として下限値Bを選択する。
図10は、本第3の実施形態において、油温の
図3で示した下限油温状態の挙動時(油温挙動X)と、これより高油温状態での挙動時(油温挙動Y)とで、それぞれ駆動時間積分値の変化を示す。油温挙動Yの場合、電動ポンプ8駆動開始からの同一の経過時間に対する油温が油温挙動Xに比較して高く、油温に対応する駆動時間積分値が大きく設定されることとなる。
【0037】
第3の実施形態によれば、駆動停止中に入力される油温の最新情報に基づき、2回目以降の駆動開始毎に駆動時間積分値が、駆動回路83等の耐熱性を確保でき、かつ、実油温に応じた下限値B以上に引き上げられて更新される。これにより、電流制限値を必要限度に減少させることができ、フリクション故障時等に無駄な電流を流すことを極力抑制することができる。
【0038】
また、フリクション故障時には、上記下限値Bでの電流制限により、モータ回転数の低下が顕著に現れるため、早期に故障を発見することが可能となる。
なお、PWM通信の場合、ポンプ駆動時と停止時の周波数を異ならせ、周波数によって駆動/停止を判別させると共に、それぞれの周波数において駆動時は油温に応じた指示回転数(または指示電流)の情報、停止時は検出された油温情報をデューティ値で供給するようにすれば、送信情報量を増やすことなく1個のPWM通信で対処できる。CAN通信の場合でも送信情報量を増やしたくない場合は、駆動停止時に指示電流から油温情報の伝達に切り換えれば済むため、有効である。
【0039】
また、本第3の実施形態でのステップS4における低減演算を行わず、ステップS2で算出した電動ポンプ8の駆動終了時の駆動時間積分値A’と、ステップS5で実油温に応じた下限値Bとの大きい方を選択する構成の実施形態(第4の実施形態)としてもよい。
【0040】
なお、通常は、下限油温状態に応じて設定された駆動時間積分値A及びこれより低減された駆動時間積分値A'に対し、実油温に対応して設定された下限値Bの方が大きくなるので、下限値Bを駆動再開時の駆動時間積分値(初期値)として設定してもよいが、駆動時間積分値をAまたはA'と比較して大きい方を選択する方式により油温センサ11の異常等によって下限値Bの方が低下した場合でも、駆動時間積分値をAまたはA'が選択されるので、駆動回路83等の耐熱性を確保できる。
【0041】
また、以上示した第1〜第4の実施形態において、電動ポンプ8駆動中の駆動時間を、駆動中のモータ電流が大きいほど大きい重み付けを与える補正を行って積分するようにしてもよい。駆動回路83等の温度はモータ電流に応じて上昇するため、上記補正によって駆動回路83等の推定温度を実際の温度に近づけることができるため、該推定温度に応じて電流制限値がより小さく設定され、消費電力を節減できる。電流センサを有しない場合、あるいはモータ電流検出値を駆動回路側に入力できない場合は、上記の油温に応じた目標回転数のデューティ値に基づいて補正してもよい。
【0042】
以上示した実施形態のように、電動ポンプ8の駆動時間を積分する場合、イグニッションスイッチをOFFにした後は、駆動時間の積分値をリセットするが、イグニッションスイッチをOFF後に短時間でONして発進する場合は、OFF操作直後に積分値がリセットされると、電流制限値が大きすぎて実質的に電流制限を行うことができない。
【0043】
図11は、上記の点に対応して、CVTCU5にセルフシャット機能を持たせ、あるいは予めセルフシャット機能を有するものに適用した第5の実施形態にける制御のフローを示す。
【0044】
ステップS11では、エンジンのイグニッションスイッチがOFFされたかを判定する。
イグニッションスイッチがOFFされたと判定されたときは、ステップS12へ進み、所定時間が経過したかを判定する。この所定時間は、駆動回路83等の温度が、駆動時間積分値をリセットすべき温度まで低下しうる時間に設定される。
【0045】
所定時間を経過したと判定されたときに、ステップS13へ進んで、CVTCU5をセルフシャット処理し、これにより、駆動時間積分値がリセットされる。
本第4の実施形態によれば、イグニッションスイッチがOFFされた後、短時間で油温が十分に下がりきらない状況で、イグニッションスイッチをON操作した場合には、セルフシャット処理が作動しない。
【0046】
これにより、ON操作前の駆動時間積分値の記憶が維持され、該記憶された積分値を初期値として積分が再開されるので、油温に見合った積分値を算出することができ、電流を適切に制限することができる。
【0047】
以上の実施形態は、変速機油圧生成用の電動ポンプの制御装置に適用したものを示したが、ハイブリッド車の走行用モータもしくはインバータの冷却用等に用いられる電動ポンプの制御装置等にも同様にして適用することができ、同様の効果を得られる。