【文献】
周波数領域における音声雑音除去,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.104 No.164,2004年 7月 1日,PP.37−41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第二微分処理手段において微分処理を行う制御時間T2を、前記第一微分処理手段において微分処理を行う制御時間T1に比べて、2倍から3倍長い時間に設定すること
を特徴とする請求項1に記載の雑音低減装置。
前記第二微分処理ステップにおいて前記第二微分処理手段が微分処理を行う制御時間T2を、前記第一微分処理ステップにおいて前記第一微分処理手段が微分処理を行う制御時間T1に比べて、2倍から3倍長い時間に設定すること
を特徴とする請求項4に記載の雑音低減装置の雑音低減方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スペクトルサブトラクション法は、音声に対して雑音レベルが小さい場合(SNR(Signal to Noise ratio:S/N比)が大きい状態)にその効果が高いものであり、SNRが低い場合、つまり、雑音レベルが高い場合には、音声と雑音との識別が困難になる傾向があった。
【0006】
また、音声が連続して発話されている場合には、スペクトルサブトラクション法を用いて雑音レベルの推定を行うことが困難であり、十分な雑音の低減効果を得ることが容易ではなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、スペクトルサブトラクション法のように、音声区間を検出したり、雑音レベルを推定したりすることなく、低SNR環境(雑音レベルが高い環境)や連続発話が続く場合であっても、十分な雑音の低減効果を得ることが可能な雑音低減装置および雑音低減方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る雑音低減装置は、入力信号に対してフーリエ変換処理を施すことにより、入力信号を周波数スペクトル毎に周波数領域の信号へ変換するフーリエ変換手段と、該フーリエ変換手段によりフーリエ変換された信号のうち振幅スペクトルに該当する信号に対して微分処理を行う第一微分処理手段と、該第一微分処理手段により微分処理された信号のマイナス側の振幅を0に制限することにより雑音制御信号を生成する第一リミッタ手段と、前記フーリエ変換された信号のうち振幅スペクトルに該当する信号から、前記雑音制御信号を減算することにより、差分信号を算出する減算手段と、該減算手段により算出された前記差分信号に対して、微分処理を行う第二微分処理手段と、該第二微分処理手段により微分処理された信号のマイナス側の振幅を0に制限する第二リミッタ手段と、該第二リミッタ手段により振幅が制限された信号のゲイン調整を行うことにより補正信号を生成するゲイン手段と、該ゲイン手段により生成された前記補正信号を、前記第一リミッタ手段により生成された前記雑音制御信号に合成する合成手段と、該合成手段により合成された信号と、前記フーリエ変換手段によりフーリエ変換された信号のうち位相スペクトルに該当する信号とを用いて、逆フーリエ変換処理を施すことにより、時間領域の出力信号を生成する逆フーリエ変換手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る雑音低減装置の雑音低減方法は、入力信号に対してフーリエ変換処理を施すことにより、フーリエ変換手段が、入力信号を周波数スペクトル毎に周波数領域の信号へ変換するフーリエ変換ステップと、該フーリエ変換ステップにおいてフーリエ変換された信号のうち振幅スペクトルに該当する信号に対して、第一微分処理手段が微分処理を行う第一微分処理ステップと、該第一微分処理ステップにおいて微分処理された信号のマイナス側の振幅を、第一リミッタ手段が0に制限することにより雑音制御信号を生成する第一リミッタステップと、前記フーリエ変換された信号のうち振幅スペクトルに該当する信号から、前記雑音制御信号を減算することにより、減算手段が差分信号を算出する減算ステップと、該減算ステップにおいて算出された前記差分信号に対して、第二微分処理手段が微分処理を行う第二微分処理ステップと、該第二微分処理ステップにおいて微分処理された信号のマイナス側の振幅を、第二リミッタ手段が0に制限する第二リミッタステップと、該第二リミッタステップにおいて振幅が制限された信号のゲイン調整を行うことにより、ゲイン手段が補正信号を生成するゲイン調整ステップと、該ゲイン調整ステップにおいて生成された前記補正信号を、合成手段が、前記第一リミッタステップにおいて生成された前記雑音制御信号に合成する合成ステップと、該合成ステップにおいて合成された信号と、前記フーリエ変換ステップにおいてフーリエ変換された信号のうち位相スペクトルに該当する信号とを用いて、逆フーリエ変換手段が逆フーリエ変換処理を施すことにより、時間領域の出力信号を生成する逆フーリエ変換ステップとを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る雑音低減装置および雑音低減方法では、第一微分処理手段が、フーリエ変換された信号のうち振幅スペクトルに該当する信号に対して微分処理を行うことによって、定常成分、つまり、DC(Direct Current)成分を抑制することが可能となる。一般的に、雑音は、入力信号に対して定常的に存在する場合が多いため、入力信号における定常成分を抑制することにより、雑音の低減を図ることが可能となる。
【0011】
さらに、本発明に係る雑音低減装置および雑音低減方法では、フーリエ変換された信号のうち振幅スペクトルに該当する信号から、雑音制御信号を減算することにより差分信号を算出する。このようにして算出された差分信号は、入力信号から雑音制御信号が減算された信号であるため、雑音制御信号を生成するための微分処理により抑制されてしまった雑音以外の成分が含まれた信号に該当する。このため、第二微分処理手段が、差分信号に対して微分処理を行うことによって、差分信号における定常的な雑音を抑制しつつ、微分処理により抑制されてしまった雑音以外の成分の信号を補正信号として求める(抽出する)ことができる。
【0012】
そして、雑音制御信号に対して補正信号を合成することにより、微分処理により抑制されてしまった雑音以外の成分を、雑音制御信号に付加することができるので、最適に雑音が低減され、所望の信号成分に対しては影響を及ぼさない雑音低減処理を行うことが可能となる。
【0013】
さらに、本発明に係る雑音低減装置および雑音低減方法では、雑音を推定するのではなく、DC成分の定常性のある雑音を直接除去することができるので、従来のようにスペクトルサブトラクション法を使う必要がない。
【0014】
また、上述した雑音低減装置は、前記第二微分処理手段において微分処理を行う制御時間T2を、前記第一微分処理手段において微分処理を行う制御時間T1に比べて、2倍から3倍長い時間に設定するものであってもよい。
【0015】
さらに、上述した雑音低減装置の雑音低減方法は、前記第二微分処理ステップにおいて前記第二微分処理手段が微分処理を行う制御時間T2を、前記第一微分処理ステップにおいて前記第一微分処理手段が微分処理を行う制御時間T1に比べて、2倍から3倍長い時間に設定するものであってもよい。
【0016】
第二微分処理手段において微分処理を行う制御時間T2を、前記第一微分処理手段において微分処理を行う制御時間T1に比べて、2倍から3倍長い時間に設定することにより、第二微分処理手段では第一微分処理手段に比べて緩やかに変化する信号を補正信号として抽出することができ、制御時間が短い第一微分処理手段では十分に抽出することができなかった雑音以外の成分の信号を補正信号に含めることが可能となる。このため、最適に雑音が低減され、所望の信号成分に対しては影響を及ぼさない雑音低減処理を行うことが可能となる。
【0017】
また、上述した雑音低減装置は、前記逆フーリエ変換により生成された出力信号と、前記入力信号との出力レベルのレベル差を求める比較手段を備え、前記ゲイン手段は、前記比較手段により求められたレベル差に基づいて、ゲイン調整量の設定を行うものであってもよい。
【0018】
さらに、上述した雑音低減装置の雑音低減方法は、前記逆フーリエ変換により生成された出力信号と、前記入力信号との出力レベルのレベル差を、比較手段が求める比較ステップを備え、前記ゲイン調整ステップにおいて、前記ゲイン手段が前記比較手段により求められたレベル差に基づいて、ゲイン調整量の設定を行うものであってもよい。
【0019】
このように、出力信号と入力信号とのゲイン差に基づいてゲイン設定の調整を行うことにより、雑音が低減された出力信号の質の向上を図り、最適に雑音の低減を行うことが可能になる。具体的には、ゲイン差が小さくなるようにゲイン設定の調整を行うことにより、入力信号に対する出力信号のゲインの調整を行い、出力信号の質の向上を図ることが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る雑音低減装置および雑音低減方法によれば、第一微分処理手段が、フーリエ変換された信号のうち振幅スペクトルに該当する信号に対して微分処理を行うことによって、定常成分、つまり、DC(Direct Current)成分を抑制することが可能となる。一般的に、雑音は、入力信号に対して定常的に存在する場合が多いため、入力信号における定常成分を抑制することにより、雑音の低減を図ることが可能となる。
【0021】
さらに、本発明に係る雑音低減装置および雑音低減方法では、フーリエ変換された信号のうち振幅スペクトルに該当する信号から、雑音制御信号を減算することにより差分信号を算出する。このようにして算出された差分信号は、入力信号から雑音制御信号が減算された信号であるため、雑音制御信号を生成するための微分処理により抑制されてしまった雑音以外の成分が含まれた信号に該当する。このため、第二微分処理手段が、差分信号に対して微分処理を行うことによって、差分信号における定常的な雑音を抑制しつつ、微分処理により抑制されてしまった雑音以外の成分の信号を補正信号として求める(抽出する)ことができる。
【0022】
そして、雑音制御信号に対して補正信号を合成することにより、微分処理により抑制されてしまった雑音以外の成分を、雑音制御信号に付加することができるので、最適に雑音が低減され、所望の信号成分に対しては影響を及ぼさない雑音低減処理を行うことが可能となる。
【0023】
さらに、本発明に係る雑音低減装置および雑音低減方法では、雑音を推定するのではなく、DC成分の定常性のある雑音を直接除去することができるので、従来のようにスペクトルサブトラクション法を使う必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施の形態に係る雑音低減装置の概略構成を示したブロック図である。
【
図2】本実施の形態に係るFFT部の短時間フーリエ変換処理におけるフーリエ変換長Nとオーバーラップ長Mとの関係を示した図である。
【
図3】本実施の形態に係る周波数スペクトル領域フィルタリング部の概略構成を示したブロック図である。
【
図4】本実施の形態に係る第1HPF部および第2HPF部のカットオフ周波数と制御時間との関係を示した図である。
【
図5】本実施の形態に係る周波数スペクトル領域フィルタリング部において、振幅スペクトル毎に雑音制御処理・補正処理を行う様子を示したブロック図である。
【
図6】(a)は、1kHzの正弦波からなる入力信号の振幅の時間変化を示し、(b)は、雑音制御信号に対して補正信号を合成しなかった場合の出力信号の振幅の時間変化を示し、(c)は、補正信号に対して雑音制御信号を合成しなかった場合の出力信号の振幅の時間変化を示し、(d)は、雑音制御信号と補正信号とが合成された出力信号の振幅の時間変化を示している。
【
図7】(a)は、雑音が含まれていない所望の音声信号が入力信号として入力された場合の振幅の時間変化を示し、(b)は、雑音制御信号に対して補正信号を合成しなかった場合の出力信号の振幅の時間変化を示し、(c)は、補正信号に対して雑音制御信号を合成しなかった場合の出力信号の振幅の時間変化を示し、(d)は、雑音制御信号と補正信号とが合成された出力信号の振幅の時間変化を示している。
【
図8】(a)は、所望の音声信号にホワイト雑音が加わった信号が入力信号として入力された場合の振幅の時間変化を示し、(b)は、雑音制御信号に対して補正信号を合成しなかった場合の出力信号の振幅の時間変化を示し、(c)は、補正信号に対して雑音制御信号を合成しなかった場合の出力信号の振幅の時間変化を示し、(d)は、雑音制御信号と補正信号とが合成された出力信号の振幅の時間変化を示している。
【
図9】(a)は、所望の音声信号に1.2kHzの正弦波雑音が加わった信号が入力信号として入力された場合の振幅の時間変化を示し、(b)は、雑音制御信号に対して補正信号を合成しなかった場合の出力信号の振幅の時間変化を示し、(c)は、補正信号に対して雑音制御信号を合成しなかった場合の出力信号の振幅の時間変化を示し、(d)は、雑音制御信号と補正信号とが合成された出力信号の振幅の時間変化を示している。
【
図10】比較部が設けられた雑音低減装置の概略構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る雑音低減装置について、一例を示して詳細に説明を行う。
図1は、雑音低減装置の一例の概略構成を示したブロック図である。雑音低減装置1は、FFT部(フーリエ変換手段)10と、周波数スペクトル領域フィルタリング部11と、IFFT部(逆フーリエ変換手段)12とを備えている。雑音低減装置1に入力された信号(以下、入力信号という)は、FFT部10へ入力され、その後に雑音の低減処理(雑音制御処理・補正処理)が行われた音声信号が、IFFT部12から出力信号として出力される。
【0026】
FFT部10は、入力信号に対して、オーバーラップ処理と窓関数による重み付け処理とを行った後に、短時間フーリエ変換処理を行う。短時間フーリエ変換処理により、入力信号は、時間領域の信号から周波数領域の信号へと変換され、FFT部10において、実数と虚数との周波数スペクトルの信号として出力される。さらに、FFT部10では、周波数スペクトルの信号を、振幅スペクトルと位相スペクトルとに該当する信号へ変換する処理を行う。FFT部10において求められた振幅スペクトルに該当する信号(以下、振幅スペクトル信号とする。)は、周波数スペクトル領域フィルタリング部11へと出力されて、後述する雑音制御処理・補正処理が行われる。一方で、位相スペクトルに該当する信号(以下、位相スペクトル信号とする。)は、周波数スペクトル領域フィルタリング部11において雑音制御処理・補正処理を行うことなく、そのままIFFT部12へと出力される。
【0027】
図2は、FFT部10において行われる、短時間フーリエ変換処理のフーリエ変換長Nと、オーバーラップ長Mとの関係を示した図である。フーリエ変換長Nに対して、オーバーラップ長Mは短い長さ(N>M)に設定されている。FFT部10では、フーリエ変換長Nとオーバーラップ長Mとの差分ずつ時間をシフトさせながら、短時間フーリエ変換を実行する。
【0028】
図3は、周波数スペクトル領域フィルタリング部11の概略構成を示したブロック図である。周波数スペクトル領域フィルタリング部11は、第1HPF部(第一微分処理手段)20と、第1リミッタ部(第一リミッタ手段)21と、減算部(減算手段)22と、第2HPF部(第二微分処理手段)23と、第2リミッタ部(第二リミッタ手段)24と、ゲイン部(ゲイン手段)25と、加算部(合成手段)26とを備えている。
【0029】
周波数スペクトル領域フィルタリング部11には、既に説明したように、振幅スペクトル信号だけがFFT部10より入力され、位相スペクトル信号は入力されない。周波数スペクトル領域フィルタリング部11は、振幅スペクトル信号に対して雑音制御処理・補正処理を行う役割を有している。
【0030】
第1HPF部20は、入力された振幅スペクトル信号に対して、スペクトル毎にハイパスフィルタリング処理、すなわち微分処理を行う。微分処理された振幅スペクトル信号は、第1リミッタ部21へ出力される。第1リミッタ部21は、第1HPF部20において微分処理された振幅スペクトル信号のマイナス側の振幅を制限して0にする役割を有している。
【0031】
第1HPF部20では、同一周波数の振幅スペクトルにおいて、CW(Constant Wave)等の定常的に存在する信号を雑音と判断して、微分処理により定常成分、すなわち、DC(Direct Current)成分を抑制する。第1HPF部20における微分処理では、ハイパスフィルタのカットオフ周波数が小さくなるほど、DC近傍が抑圧されることになる。DC近傍は、変化が緩やかな成分であるため、より定常性のある信号が抑圧されることになる。ここで、一般的に雑音は、他の音に比べて定常性が高いという特徴を有している。このため、定常性のある信号を抑制することにより、雑音を効果的に低減させることが可能となる。第1HPF部20および第1リミッタ部21によって、定常成分を抑圧された信号は、雑音制御信号として、加算部26と減算部22とに出力される。
【0032】
減算部22では、FFT部10より入力された振幅スペクトル信号から雑音制御信号の減算を行うことにより、スペクトル毎(異なる周波数毎)に制御の差分信号を抽出する。第2HPF部23は、制御の差分信号をハイパスフィルタリング処理、すなわち微分処理する役割を有している。第2リミッタ部24は、マイナス側の振幅を制限して0にする役割を有している。ゲイン部25は、第2HPF部23において微分処理され、さらに、第2リミッタ部24においてマイナス側の振幅が制限された信号に対して、レベル調整(ゲイン調整)を行うことにより、補正信号を生成する役割を有している。
【0033】
ここで、補正信号は、入力された振幅スペクトル信号から雑音制御信号を減算した信号に基づいて生成される。第2HPF部23において、振幅スペクトル信号から雑音制御信号を減算した信号の微分処理を行うことにより、雑音制御信号が除かれた振幅スペクトル信号であって出力変動の大きな部分が抽出される(つまり、定常成分が抑制される)ことになる。一般に、雑音は定常的な出力として示されることが多いので、出力変動が大きい部分は雑音以外の要素を多く含む部分に該当することが多い。このため、雑音制御信号が除かれた振幅スペクトル信号に基づいて補正信号を生成することにより、雑音制御信号において十分に抽出することができなかった雑音以外の信号を補正信号として抽出することが可能となる。ゲイン部25において生成された補正信号は、加算部26へと出力される。
【0034】
加算部26は、第1リミッタ部21より入力される雑音制御信号と、ゲイン部25より入力される補正信号との合成を行う役割を有している。雑音制御信号は、第1HPF部20のカットオフ周波数の設定によっては、所望の信号成分が抑圧される過制御となってしまうおそれがある。過制御の場合には、入力された振幅スペクトル信号の雑音以外の要素が削除されてしまい、所望の信号成分が含まれていない雑音制御信号が生成されるおそれがある。加算部26において、雑音制御信号に対して補正信号を合成して雑音制御信号の補正を行うことにより、雑音制御信号が過制御となってしまった場合であっても、雑音以外の成分を補正信号により補完することができる。このため、最適に雑音が低減され、音声などの所望の信号成分に対しては影響を及ぼさない雑音低減処理を行うことが可能となる。
【0035】
図4は、第1HPF部20および第2HPF部23における、カットオフ周波数と制御時間との関係を示している。第1HPF部20および第2HPF部23において、フィルタのカットオフ周波数を調整することにより、雑音の制御時間の調整を行うことができる。
図4に示すように、カットオフ周波数が大きくなるほど、雑音の制御時間が短くなり、カットオフ周波数が小さくなるほど、雑音の制御時間が長く(大きく)なる。なお、本実施の形態に係る周波数スペクトル領域フィルタリング部11では、カットオフ周波数の逆数がほぼ制御時間となり、カットオフ周波数の範囲は0.033Hz〜10Hz(制御時間30sec〜0.1sec)とする。
【0036】
また、周波数スペクトル領域フィルタリング部11の第1HPF部20および第1リミッタ部21で行われる雑音制御処理と、第2HPF部23および第2リミッタ部24で行われる補正処理とは、
図5において雑音制御処理・補正処理として示されるブロック図のように、振幅スペクトル毎に(
図5においては、周波数f1〜fnまでのn個の振幅スペクトル毎に)行われる。例えば、フーリエ変換長Nが1,024の場合には、それぞれ1,024の処理が行われることになる。
【0037】
IFFT部12は、周波数スペクトル領域フィルタリング部11において雑音制御処理・補正処理が行われた周波数スペクトル信号と、FFT部10より入力される位相スペクトル信号とに基づいて、実数と虚数の周波数スペクトルの生成(変換)を行う。そして、IFFT部12は、変換された周波数スペクトル信号に対して、短時間逆フーリエ変換処理とオーバーラップ加算処理とを行うことにより、信号を周波数領域から時間領域へと変換して出力信号を生成する。生成された出力信号は、図示を省略したスピーカ等を介して出力することが可能となっている。
【0038】
次に、雑音低減装置1に対して様々な入力信号を入力させた場合について説明する。
図6(a)は、1kHzの正弦波からなる入力信号の振幅の時間変化を示している。一方で、
図6(b)は、
図6(a)に示す入力信号により生成された雑音制御信号に対して、補正信号を合成しなかった場合の出力信号の振幅の時間変化を示し、
図6(c)は、補正信号に対して雑音制御信号を合成しなかった場合の出力信号の振幅の時間変化を示している。そして、
図6(d)は、加算部26において雑音制御信号と補正信号とが合成された出力信号の振幅の時間変化を示している。
【0039】
なお、
図6(a)に示した入力信号のサンプリング周波数は44.1kHzであって、雑音が含まれていない信号を示している。また、
図6(b)〜(d)に示した雑音制御信号、補正信号および出力信号は、FFT部10におけるフーリエ変換長Nとして8,192sample、オーバーラップ長Mとしてフーリエ変換長Nの15/16倍の7,680sample、窓関数にハミング、振幅スペクトルのサンプリング周波数として、それぞれ86Hz(44,100×(16/8,192)≒86)が設定された場合を示している。また、第1HPF部20として、一次のバタワースハイパスフィルタが用いられて、カットオフ周波数が0.33Hzに設定され、第2HPF部23として、一次のバタワースハイパスフィルタが用いられて、カットオフ周波数が0.11Hzに設定されて、ゲイン部25のレベル調整は、1.2倍に設定されている。
【0040】
図6(b)に示す雑音制御信号は、
図6(a)に示す入力信号に対して、パルス波形が短くなっている。しかしながら、
図6(c)に示す補正信号を、
図6(b)に示す雑音制御信号に合成することにより、
図6(d)に示すように、出力信号のパルス波形が、入力信号のパルス波形と同じ長さとなり、振幅も同じ値を示している。
【0041】
雑音低減装置1において雑音の除去処理を行う場合には、雑音制御信号に対して補正信号を合成して雑音制御信号の補正を行うことにより、雑音制御信号が過制御となってしまった場合であっても、雑音以外の成分を補正信号により補完することができる。このため、
図6(a)に示すように、入力信号に雑音が含まれていない場合においては、雑音制御信号に補正信号を合成することにより、
図6(d)に示すように、入力信号にほぼ一致する出力信号を生成することができ、雑音低減装置1の雑音低減処理において雑音以外の音声成分に影響が及んでしまうことを防止することが可能となる。
【0042】
図7(a)は、雑音低減装置1における各種設定を、
図6(a)〜(d)と同じにした場合において、雑音低減装置1に音声信号が入力信号として入力された場合の振幅の時間変化を示している。また、
図7(b)は、
図7(a)に示した入力信号が入力された場合において、第1リミッタ部21より出力される雑音制御信号に補正信号を合成しなかった場合の出力信号の振幅の時間変化を示し、
図7(c)は、補正信号に対して雑音制御信号を合成しなかった場合の出力信号の振幅の時間変化を示し、
図7(d)は、加算部26において雑音制御信号と補正信号とが合成された出力信号の振幅の時間変化を示している。
【0043】
図7(a)に示す入力信号には、
図6(a)と同様に、定常的な雑音が含まれていない。このため、雑音制御信号に補正信号を合成することにより、
図7(d)に示すように、入力信号にほぼ一致する出力信号を生成することができる。従って、雑音低減装置1における雑音低減処理において、所望の信号成分に影響が及ぼされないようにすることができる。
【0044】
図8(a)は、雑音低減装置1における各種設定を、
図6(a)〜(d)および
図7(a)〜(d)と同じにした場合において、雑音低減装置1に入力させた入力信号の振幅の時間変化を示している。
図8(a)には、所望の音声信号にホワイト雑音が加わった信号が、入力信号として示されている。このホワイト雑音は、
図8(a)に示すように音声信号に対して雑音のレベルが非常に高いという特徴を有しており、低SNRの入力信号に該当する。従来のスペクトルサブトラクション法を用いる雑音低減方法では、
図8(a)に示すような低SNRの入力信号を、音声信号と雑音とに識別・分離することが困難であった。
【0045】
しかしながら、本実施の形態に係る雑音低減装置1を用いて、雑音制御信号(
図8(b))に対して補正信号(
図8(c))を合成して、雑音制御処理・補正処理を行った出力信号は、
図8(d)に示すように、
図8(a)に示す入力信号に比べて、雑音の振幅レベルが2/5に低減されており、SNRで8dB程度のノイズ低減が実現されている。
【0046】
図9(a)は、雑音低減装置1における各種設定を、
図6、
図7および
図8と同じにした場合において、雑音低減装置1に入力させた入力信号の振幅の時間変化を示している。
図9(a)には、所望の音声信号に1.2kHzの正弦波雑音が加わった信号が、入力信号として示されている。本実施の形態に係る雑音低減装置1を用いて、
図9(b)に示す雑音制御信号と、
図9(c)に示す補正信号とが合成された出力信号は、
図9(d)に示すように、
図9(a)の入力信号に含まれていた正弦波雑音がほぼゼロになり、SNRが大幅に改善されている。本実施の形態に係る雑音低減装置1では、定常成分を雑音成分とし判断して抑制を行うため、定常性を備える雑音ほど、大きな低減効果を奏することが可能となる。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態に係る雑音低減装置1では、従来のスペクトルサブトラクション法のように、雑音レベルの推定を行う必要がないため、連続的に発話している音声に雑音が含まれる場合であっても、効果的に雑音だけを低減することができる。
【0048】
また、雑音レベルの推定を行う必要がないため、入力信号として正弦波パルスや音声が用いられる場合だけでなく、楽器音などにより構成される音楽に雑音が含まれる場合であっても、雑音の低減を行うことが可能である。このため、音源の収録環境や音源の処理過程において定常的な雑音が混入した場合であっても、雑音低減を行うことができ、音質の向上を図ることが可能となる。
【0049】
具体的には、第1HPF部20および第2HPF部23のカットオフ周波数を調整することにより、
図4に示すように、微分処理における制御時間を調整することができる。この制御時間を適切に設定することにより、音源に応じた適切な雑音低減効果を奏することが可能となる。例えば、音声に比べて振幅スペクトル毎の時間変化が大きい打楽器などの音では、第1HPF部20および第2HPF部23における制御時間を短く設定し、振幅スペクトル毎の時間変化が小さい弦楽器などの音では、第1HPF部20および第2HPF部23における制御時間を長く設定することが望ましい。
【0050】
また、本実施の形態に係る雑音低減装置1では、第1HPF部20および第1リミッタ部21を用いることによって、雑音を推定するのではなく、DC付近の定常性のある雑音を直接除去することができる。さらに、入力信号から雑音制御信号が除かれた(減算された)信号に基づいて、第2HPF部23および第2リミッタ部24で、定常性のある雑音を除去した補正信号を生成するので、第1HPF部20および第1リミッタ部21において、過制御により雑音以外の要素が削除されてまった場合であっても、削除された雑音以外の成分を補正信号により補完することができる。このため、雑音低減装置1では、最適に雑音が低減され、音声などの所望の信号成分に対しては影響を及ぼさない雑音低減処理を行うことが可能となる。
【0051】
また、本実施の形態に係る周波数スペクトル領域フィルタリング部11の第1HPF部20および第2HPF部23では、
図4に示すように、カットオフ周波数と制御時間との関係が成立している。
図4に示すように、カットオフ周波数が大きくなるほど、雑音の制御時間が短くなり、カットオフ周波数が小さくなるほど、雑音の制御時間が長く(大きく)なる。このため、第1HPF部20のカットオフ周波数の値を、第2HPF部23のカットオフ周波数の値より大きな値にすることにより、第2HPF部23における微分処理の制御時間T2を、第1HPF部20における微分処理の制御時間T1よりも長い時間に設定することができる。
【0052】
第2HPF部23の制御時間T2を第1HPF部20の制御時間T1よりも長い時間、例えば、2倍から3倍程度長く設定することにより、第2HPF部23において緩やかに変化する信号を補正信号として抽出することが可能となる。このため、第1HPF部20の微分処理において削除されてしまった緩やかに変化する雑音以外の成分の信号を、補正信号に有効に含めることができる。
【0053】
以上、本発明に係る雑音低減装置について、一例として雑音低減装置1を用いて詳細に説明を行ったが、本発明に係る雑音低減装置および雑音低減方法は、上述した実施の形態に示す事例には限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0054】
本実施の形態に係る周波数スペクトル領域フィルタリング部11のゲイン部25では、レベル調整として1.2倍の設定がなされているが、ゲイン部のレベル調整の設定値は、1.2倍に限定されるものではない。適宜、ゲインの設定を行うことにより最適な出力信号を得ることが可能となる。
【0055】
例えば、
図10に示すように、ゲインの設定を行うために、出力信号と入力信号とのゲイン比較を行うための比較部(比較手段)27を設けて、比較部27において出力信号と入力信号とのゲイン差を求めて、求められたゲイン差をパラメータ調節信号としてゲイン部25へフィードバックさせる構成を採用することも可能である。このように、出力信号と入力信号とのゲイン差に基づいて、ゲイン部25におけるゲイン設定の調整を行うことにより、雑音低減装置において雑音が低減された出力信号の質の向上を図ることが可能となり、最適に雑音の低減を行うことが可能となる。