(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985311
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】軸受トラック溝測定装置および軸受トラック溝測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 21/20 20060101AFI20160823BHJP
【FI】
G01B21/20 C
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-190242(P2012-190242)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-48105(P2014-48105A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】服部 雄一
【審査官】
櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−284017(JP,A)
【文献】
特開2002−098517(JP,A)
【文献】
特開平07−167790(JP,A)
【文献】
特許第2992625(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00−21/32
5/00− 5/30
11/00−11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受トラック溝の横断面形状を測定する軸受トラック溝測定装置であって、
軸受トラック溝を有するワークを固定する固定手段と、
軸受トラック溝の横断面における溝中心を中心として旋回して、その旋回中心からの溝底面までの寸法である半径値を検出する変位センサと、
前記変位センサにて検出した半径値における旋回角度を検出する旋回角度検出手段と、 前記変位センサにて検出した半径値と、旋回角度検出手段にて検出した旋回角度とに基づいて軸受トラック溝の形状波形を算出する算出手段とを備え、
前記固定手段は、前記ワークを所定設置位置に固定したままクランプ幅を調整してクランプするクランプ機構を有することを特徴とする軸受トラック溝測定装置。
【請求項2】
軸受トラック溝の横断面形状を測定する軸受トラック溝測定装置であって、
軸受トラック溝の横断面における溝中心を中心として旋回して、その旋回中心からの溝底面までの寸法である半径値を検出する変位センサと、
前記変位センサにて検出した半径値における旋回角度を検出する旋回角度検出手段と、 前記変位センサにて検出した半径値と、旋回角度検出手段にて検出した旋回角度とに基づいて軸受トラック溝の形状波形を算出する算出手段と、
前記変位センサの位置決めを行う位置決め手段を備え、
前記位置決め手段は、軸受トラック溝に嵌合する溝嵌合体を有することを特徴とする軸受トラック溝測定装置。
【請求項3】
前記溝嵌合体の上下方向の変位を可能とするフローティング構造を有することを特徴とする請求項2に記載の軸受トラック溝測定装置。
【請求項4】
前記溝嵌合体を鋼球にて構成したことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の軸受トラック溝測定装置。
【請求項5】
トラック溝を有するワークは、トラック溝が内径面に形成され、前記溝嵌合体はワーク内径側からトラック溝に嵌合することを特徴とする請求項2に記載の軸受トラック溝測定装置。
【請求項6】
トラック溝を有するワークは、トラック溝が外径面に形成され、前記溝嵌合体はワーク外径側からトラック溝に嵌合することを特徴とする請求項1に記載の軸受トラック溝測定装置。
【請求項7】
前記算出手段は、軸受トラック溝の横断面形状について、最小二乗法を用いて円近似として、溝の半径値と溝中心座標とを算出することを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の軸受トラック溝測定装置。
【請求項8】
軸受トラック溝の半径値と溝中心座標の算出値に基づいてゴシック円と2点で接触する仮想円を作図することを特徴とする請求項7に記載の軸受トラック溝測定装置。
【請求項9】
ゴシック円と仮想円の接触点角度を算出することを特徴とする請求項8に記載の軸受トラック溝測定装置。
【請求項10】
ゴシック円と仮想円の接触点距離を算出することを特徴とする請求項8に記載の軸受トラック溝測定装置。
【請求項11】
旋回中心と変位センサの検出値との関係校正手段を備え、この関係校正手段に溝形状模範を用いることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の軸受トラック溝測定装置。
【請求項12】
軸受トラック溝の横断面形状を測定する軸受トラック溝測定方法であって、
軸受トラック溝を有するワークを所定設置位置に固定したままクランプ幅を調整してクランプするクランプ工程と、
軸受トラック溝の横断面における溝中心を中心として旋回する変位センサにて、その旋回中心からの溝底面までの寸法である半径値を検出する半径検出工程と、
前記変位センサにて検出した半径値における旋回角度を検出する旋回角度検出工程と、
前記変位センサにて検出した半径値と、旋回角度検出手段にて検出した半径値における旋回角度とに基づいて軸受トラック溝の形状波形を算出する算出工程とを備えたことを特徴とする軸受トラック溝測定方法。
【請求項13】
軸受トラック溝の横断面形状を測定する軸受トラック溝測定方法であって、
軸受トラック溝の横断面における溝中心を中心として旋回する変位センサにて、その旋回中心からの溝底面までの寸法である半径値を検出する半径検出工程と、
前記変位センサにて検出した半径値における旋回角度を検出する旋回角度検出工程と、
前記変位センサにて検出した半径値と、旋回角度検出手段にて検出して半径値における旋回角度とに基づいて軸受トラック溝の形状波形を算出する算出工程と、
軸受トラック溝に嵌合する溝嵌合体を有する位置決め手段にて、前記変位センサの位置決めを行う位置決め工程とを備えたことを特徴とする軸受トラック溝測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受トラック溝測定装置および軸受トラック溝測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、軸受は、外径面に内側軌道面(軸受トラック溝)が形成された内輪と、内径面に外側軌道面(軸受トラック溝)が形成された外輪と、内輪の内側軌道面と外輪の外側軌道面との間に転動自在に介在された複数の玉と、内輪と外輪との間に配され、各玉を円周方向等間隔に保持する保持器とで主要部が構成されている。
【0003】
このため、玉(ボール)が転動する軸受トラック溝としては、高精度に加工されている必要がある。そこで、軸受トラック溝の断面形状を測定する必要がある。軸受トラック溝の断面形状を測定する場合、例えば、特許文献1で示されるような形状測定機を用いることができる。
【0004】
この特許文献1に記載の形状測定機は、X軸方向及びZ軸方向に移動自在に支持した触針を、被測定物の表面に沿って移動させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2992625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、軸受トラック溝のように、底面がアール曲面である形状のものに、X軸及びZ軸の2軸方向に沿って触針を移動させる測定方法では、触針に大きな負荷がかかることになって、高精度な測定を行えなかった。しかも、被測定部材(ワーク)が大型の軸受の内輪や外輪である場合、測定ストロークが大きくなり、測定装置の大型化および高コスト化することになる。また、ワークが測定装置に設置できないようなさらに大型のものでは、ワークを切断する破壊検査を行う必要が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、高精度な測定が可能でしかも、ワークが大型の軸受の内輪や外輪であっても破壊検査を行うことなく測定が可能である軸受トラック溝測定装置および軸受トラック溝測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の軸受トラック溝測定装置は、軸受トラック溝の横断面形状を測定する軸受トラック溝測定装置であって、
軸受トラック溝を有するワークを固定する固定手段と、軸受トラック溝の横断面における溝中心を中心として旋回して、その旋回中心からの溝底面までの寸法である半径値を検出する変位センサと、前記変位センサにて検出した半径値における旋回角度を検出する旋回角度検出手段と、前記変位センサにて検出した半径値と、旋回角度検出手段にて検出した旋回角度とに基づいて軸受トラック溝の形状波形を算出する算出手段とを備
え、前記固定手段は、前記ワークを所定設置位置に固定したままクランプ幅を調整してクランプするクランプ機構を有するものである。
また、本発明の第2の軸受トラック溝測定装置は、軸受トラック溝の横断面形状を測定する軸受トラック溝測定装置であって、軸受トラック溝の横断面における溝中心を中心として旋回して、その旋回中心からの溝底面までの寸法である半径値を検出する変位センサと、前記変位センサにて検出した半径値における旋回角度を検出する旋回角度検出手段と、前記変位センサにて検出した半径値と、旋回角度検出手段にて検出した旋回角度とに基づいて軸受トラック溝の形状波形を算出する算出手段と、
前記変位センサの位置決めを行う位置決め手段を備え、前記位置決め手段は、軸受トラック溝に嵌合する溝嵌合体を有するものである。
【0009】
本発明の軸受トラック溝測定方法は、軸受トラック溝の横断面形状を測定する軸受トラック溝測定方法であって、軸受トラック溝の横断面における溝中心を中心として旋回する変位センサにて、その旋回中心からの溝底面までの寸法である半径値を検出する半径検出工程と、前記変位センサにて検出した半径値における旋回角度を検出する旋回角度検出工程と、前記変位センサにて検出した半径値と、旋回角度検出手段にて検出して半径値における旋回角度とに基づいて軸受トラック溝の形状波形を算出する算出工程とを備えたものである。
【0010】
本発明の
第1の軸受トラック溝測定方法は、軸受トラック溝の横断面形状を測定する軸受トラック溝測定装置であって、軸受トラック溝の横断面における溝中心を中心として旋回して、その旋回中心からの溝底面までの寸法である半径値を検出する変位センサと、前記変位センサにて検出した半径値における旋回角度を検出する旋回角度検出手段と、前記変位センサにて検出した半径値と、旋回角度検出手段にて検出した旋回角度とに基づいて軸受トラック溝の形状波形を算出する算出手段と
、前記変位センサの位置決めを行う位置決め手段を備え、前記位置決め手段は、軸受トラック溝に嵌合する溝嵌合体を有するものである。
本発明の第2の軸受トラック溝測定方法は、軸受トラック溝の横断面形状を測定する軸受トラック溝測定方法であって、軸受トラック溝の横断面における溝中心を中心として旋回する変位センサにて、その旋回中心からの溝底面までの寸法である半径値を検出する半径検出工程と、前記変位センサにて検出した半径値における旋回角度を検出する旋回角度検出工程と、前記変位センサにて検出した半径値と、旋回角度検出手段にて検出した半径値における旋回角度とに基づいて軸受トラック溝の形状波形を算出する算出工程と、軸受トラック溝に嵌合する溝嵌合体を有する位置決め手段にて、前記変位センサの位置決めを行う位置決め工程とを備えたものである。
【0011】
クランプ機構を有するものでは、ワークを測定装置内にセットする必要がなく、ワークに対してクランプ機構のクランプ幅を調整することによって、この測定装置を装着できる。すなわち、ワーク自体を移動させる必要がないので、移動させることが困難な大型ワークであっても軸受トラック溝の形状波形を算出することができる。
【0012】
前記溝嵌合体の上下方向の変位を可能とするフローティング構造を有するものであってもよい。
【0013】
フローティング構造として、バネ部材にて構成したり、アクチュエータ機構にて構成したりできる。ここで、アクチュエータとは、入力されたエネルギーを物理的運動に変換するものであり、機械・電気回路を構成する機械要素である。能動的に作動または駆動するものである。また、アクチュエータはものを動かす駆動装置と、その動作により制御を行う機械的あるいは油空圧的装置である。アクチュエータの種類としては、動力シリンダ(油圧シリンダ・空圧シリンダ・電動シリンダ)、リニア・アクチュエータ(リニアモータによる往復駆動装置)、ラバー・アクチュエータ(ゴムチューブへの加減圧による変形を利用した往復駆動装置)等がある。
【0014】
溝嵌合体を鋼球にて構成することができる。このように鋼球を用いれば、軸受トラック溝に安定よく嵌合させることができる。
【0015】
トラック溝を有するワークは、トラック溝が内径面に形成され、溝嵌合体はワーク内径側からトラック溝に嵌合するものであっても、トラック溝が外径面に形成され、溝嵌合体はワーク外径側からトラック溝に嵌合するものであってもよい。
【0016】
軸受トラック溝の横断面形状が単一円形状であっても、ゴシック円形状であっても、複曲率円形状であってもよい。
【0017】
算出手段は、軸受トラック溝の横断面形状について、最小二乗法を用いて円近似として、溝の半径値と溝中心座標とを算出することができる。また、軸受トラック溝の半径値と溝中心座標の算出値に基づいてゴシック円と2点で接触する仮想円を作図することも可能となる。さらには、ゴシック円と仮想円の接触点角度を算出したり、ゴシック円と仮想円の接触点距離を算出したりできる。
【0018】
旋回中心と変位センサの検出値との関係校正手段を備えたものとでき、この際、関係校正手段に溝形状模範を用いたり、平面模範を用いたりできる。
【0019】
前記変位センサに電気マイクロメータを用いたり、レーザー変位センサを用いたりできる。電気マイクロメータは、接触式測定子をもつ検出器を用いて微小変位を電気的量に変換して測定する比較測長器である。電気的インピーダンスである電気抵抗,電気容量,電磁誘導などの回路要素を変位によって変化するように接続し、その回路に生ずる電流,電圧の変化を利用する。レーザー変位センサは、発光素子と受光素子の組み合わせで構成されるものであって、発光素子には、半導体レーザーが用いられる。半導体レーザーの光は投光レンズを通し集光され、測定対象物に照射される。そして、対象物から拡散反射された光線の一部は受光レンズを通して受光素子上にスポットを結ぶ。その対象物が移動するごとにスポットも移動するので、そのスポットの位置を検出することで対象物までの変位量を知ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、半径値と旋回角度でもって、軸受トラック溝の形状波形を算出することができ、しかも、変位センサへの負荷を小さく抑えることができる。このため、高精度の軸受トラック溝の形状測定が可能となる。
【0021】
クランプ機構を有する固定手段を備えたものでは、ワークを所定設置位置に固定したままクランプ幅を調整してクランプすることができ、ワーク側の移動を不要とし、移動が困難な大型のワークに対しても軸受トラック溝の安定した高精度の形状測定が可能となる。
【0022】
前記固定手段として、溝嵌合体を有するものでは、溝嵌合体を軸受トラック溝に嵌合させれば、センサの安定した位置決めが可能となり、より高精度の測定が可能となる。
【0023】
溝嵌合体の上下方向の変位を可能とするフローティング構造を有するものでは、溝嵌合体の軸受トラック溝に嵌合が安定する。フローティング構造を、バネ部材にて構成したり、アクチュエータ機構にて構成したりできるので、装置の設計自由度が大となって、設計し易い装置となる。
【0024】
溝嵌合体を鋼球にて構成すれば、軸受トラック溝に安定よく嵌合させることができ、より精度のよい位置決めを行うことができる。しかも、強度的にも剛性的にも優れ、長期の使用が可能であり、コスト低減を図ることができる。
【0025】
ワークとして、内径面のトラック溝が形成された外輪であっても、外径面にトラック溝が形成された内輪であってもよく、また、トラック溝としても、単一円形状であっても、ゴシック円形状であっても、複曲率円形状であってもよい。このように、種々のワークに対応することができる。
【0026】
関係校正手段を備えたものでは、より高精度の測定が可能となる。しかも、関係校正手段に溝形状模範を用いたり、平面模範を用いたりでき、汎用性に優れる。
【0027】
電気マイクロメータは、機械的な微小変位を電気的に拡大する方式であるので、検出センサとして、電気マイクロメータを用いれば、応答性に優れた精密測定が可能であり、コスト低減も図ることができる。また、レーザー変位センサは非接触式センサであるため、検出センサとして、レーザー変位センサを用いれば、測定時におけるワークへの疵付を有効に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態を示す軸受トラック溝測定装置の簡略ブロック図である。
【
図2】前記
図1に示す軸受トラック溝測定装置の要部簡略断面図である。
【
図3】前記
図1に示す軸受トラック溝測定装置の要部簡略側面図である。
【
図4】前記
図1に示す軸受トラック溝測定装置の変位センサとトラック溝との関係を示す簡略図である。
【
図6】軸受トラック溝の溝底の径方向位置と旋回角度との関係を示すグラフ図である。
【
図8】ゴシック量と接触点と接触角度との説明図である。
【
図9】ゴシック量と接触点と接触角度との説明図である。
【
図11】本発明の実施形態を示す軸受トラック溝測定装置を用いて測定した内輪と外輪とを使用した軸受の断面図である。
【
図12】前記
図1等に示す軸受トラック溝測定装置にて溝測定がなされた軸受の簡略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0030】
図11は、本発明にかかる軸受トラック溝測定装置にて溝測定された軸受(玉軸受)を示す。軸受は、内径面に外側軌道面(トラック溝)1aが形成された外輪1と、外径面に内側軌道面
2aが形成された内輪2と、内輪2の内側軌道面2aと外輪1の外側軌道面1aとの間に転動自在に介在された複数の転動体であるボール4と、内輪2と外輪1との間に配され、各ボール4を円周方向等間隔に保持する保持器5とで主要部が構成されている。
【0031】
軸受トラック溝測定装置は、
図1に示すように、ワークSである外輪1の軸受トラック溝1aの横断面における溝中心を中心として旋回して、その旋回中心からの溝底面までの寸法である半径値を検出する変位センサ11と、変位センサ11にて検出した半径値における旋回角度(変位センサ11の旋回角度)を検出する旋回角度検出手段12と、前記変位センサにて検出した半径値と、旋回角度検出手段12にて検出して半径値における旋回角度とに基づいて軸受トラック溝の形状波形を算出する算出手段13とを備える。
【0032】
変位センサ11は、例えば、3つのコイルと可動鉄心を備えた差動トランスを用いた電気マイクロメータにて構成できる。すなわち、この変位センサ11は、
図4に示すように、差動トランスが収容される検出器本体15と、この検出器本体15から突設される検出スピンドル16とを備えたものである。差動トランスは、1次コイルを交流(一定周波数電圧)で励磁すると、被測定物体(ワーク)のトラック溝1aに測定子16aが接触している検出スピンドル16に連動して動く可動鉄心により2次コイルに誘起電圧が発生する。これを差動結合し、電圧差として取り出し、変位出力することになる。
【0033】
ところで、この軸受トラック溝測定装置は、外輪1の軸受トラック溝1aの形状測定するものである。このため、ワークS(外輪1)を固定する固定手段20(
図2参照)と、変位センサ11の位置決めを行う位置決め手段21(
図3参照)を備える。
【0034】
固定手段20は、
図2に示すように、ワークS(外輪1)を所定設置位置に固定したままクランプ幅Wを調整してクランプするクランプ機構22を有する。すなわち、クランプ機構22は、基板25と、基板25の下面に付設されるクランプ体26とを有する。クランプ体26は、一対の挟持片26a、26bを有し、一方の挟持片26aが基板25に固定され、他方の挟持片26bが一方の挟持片26aに対して図示省略の駆動機構を介して接近・離間するように基板25に保持される。なお、挟持片26bの駆動機構としては、シリンダ機構、ボルトナット機構、リニアガイド機構等の種々の往復動機構を用いることができる。
【0035】
この場合、
図2に示すように、載置台T上に載置固定されたワークS(外輪1)に対して、基板25が載置された状態で、他方の挟持片26bが一方の挟持片26aに対して接近して、外輪1をクランプすることができる。
【0036】
また、位置決め手段21は、外輪1のトラック溝1aに嵌合する一対の嵌合体30,30を有する。この場合、溝嵌合体30に鋼球31が用いられ、この鋼球31が上下方向の変位を可能とするフローティング構造33を介して基板25から垂下される。
【0037】
フローティング構造33は、鋼球31を支持する支持体部材35を保持するバネ部材36を備える。支持体部材35は、
図3に示すように、基板部37と、この基板部37から突設させる鋼球支持部38とからなる。
【0038】
また、支持体部材35には、変位センサ11を支持する支持手段40が設けられている。支持手段40は、回転軸41と、この回転軸41を回転自在に支持する枢支機構42とを備える。枢支機構42は、支持体部材35の基板部37から突設される一対の脚部43を備え、各脚部43,43に軸受44,44が設けられ、この軸受44,44にて、回転軸41の端部41a、41bは枢支される。このため、回転軸41はその軸心廻りに回転する。
【0039】
また、回転軸41は、回転駆動機構45を介してその軸心廻りに回転することになる。回転駆動機構45は、駆動源としてのモータ(サーボモータ)46を備え、このモータ46の出力軸46aと前記回転軸41の一方の端部41aとが連動機構47にて連結されている。連動機構47として、例えば、この図例で示すようなベルト機構が用いられる。
【0040】
この場合、
図2や
図3等に示すように、鋼球31がトラック溝1aに嵌合した状態で、回転駆動機構45のモータ46を駆動すれば、
図4に示すように、センサ11がトラック溝1aの横断面における中心Oを中心として旋回する。そして、この旋回角度が前記旋回角度検出手段12
(図1参照)にて検出される。ここで、旋回角度検出手段12は、エンコーダを用いることができる。なお、エンコーダには、インクリメンタルエンコーダとアブソリュートエンコーダ等があり、旋回角度検出手段12においてはいずれのエンコーダであってもよい。
【0041】
算出手段13は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を中心としてROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等がバスを介して相互に接続されたマイクロコンピューター等で構成できる。
【0042】
次に、前記のように構成した装置を用いたトラック溝形状測定
方法を説明する。
軸受トラック溝を有するワークを所定設置位置に固定したままクランプ幅を調整してクランプするクランプ工程と、軸受トラック溝の横断面における溝中心を中心として旋回する変位センサにて、その旋回中心からの溝底面までの寸法である半径値を検出する半径検出工程と、前記変位センサにて検出した半径値における旋回角度を検出する旋回角度検出工程と、前記変位センサにて検出した半径値と、旋回角度検出手段にて検出した半径値における旋回角度とに基づいて軸受トラック溝の形状波形を算出する算出工程と、軸受トラック溝に嵌合する溝嵌合体を有する位置決め手段にて、前記変位センサの位置決めを行う位置決め工程とを備える。まず、
図2と
図3とに示すように、載置台T上に載置固定された外輪1にこの装置を装着する。すなわち、
図2の仮想線で示すように、クランプ機構22のクランプ体26の挟持片26a、26bの間隔を広げた状態として、基板25を外輪1に載置する。
【0043】
その後、クランプ幅Wを狭める。すなわち、挟持片26bを挟持片26aに矢印のように接近させる。これによって、このクランプ機構22にて外輪1をクランプする。この際、位置決め用の鋼球31がトラック溝1aに嵌合する。そして、この状態では、センサ11は、
図4に示すように、トラック溝1aの中心Oを中心に旋回する。
【0044】
この旋回によって、センサ11(電気マイクロメータ)によって、横断面におけるトラック溝1aの旋回中心からの溝底面までの寸法である半径値を検出することができる。この際、センサ11の旋回角度も旋回角度検出手段12であるエンコーダにて検出される。
【0045】
すなわち、電気マイクロメータ値とエンコーダ値とが
図6に示すように求めることができる。この
図6では、Aの波形は
図4におけるX軸に対して時計廻り方向の範囲H2の断面波形であり、Bの波形は
図4におけるX軸に対して反時計廻り方向の範囲H1の断面波形である。この
図6に示される波形をX−Zの直交座標系に変換することで
図7に示すようなゴシック溝輪郭形状波形が得られる。X座標値は次の数1で表され、Z座標値は、次の数2で表される。
【数1】
【0047】
数1及び数2において、αは校正値を示し、Rは電気マイクロメータ値を示し、θはエンコーダ値である。この得られたゴシック溝輪郭形状波形について最小二乗法により、ゴシック円のそれぞれの半径、中心座標を算出することができる。そして、これらの値から、
図5に示すように、使用鋼球の仮想円50を作図することができる。これによって、ゴシック量、接点幅(TW)、接点角度(Tθ)等を算出することができる。
【0048】
すなわち、
図8に示すように、第1溝Aの中心座標を(X1,Z1)とし、第2溝Bの中心座標を(X2,
Z2)とし、第1溝Aの半径をR1とし、第2溝Bの半径をR2とし、鋼球の中心座標を(X0,Z0)とし、鋼球半径をR0としたときに、(X0,Z0)から第1溝Aの中心座標を(X1,Z1)までの寸法A1は、次の数3で示され、(X0,Z0)から第2溝Bの中心座標を(X2,Z2)までの寸法A2は、次の数4で示される。
【0050】
また、座標(X1,Z1)と座標(X2,Z2)との間の寸法をLとすれば、Lは次の数5で示される。座標(X1,Z1)を中心に座標(X0,Z0)を通る円51と、座標(X2,Z2)を中心に座標(X0,Z0)を通る円52を描いた場合、円51と円52との交点O1と座標(X1,Z1)とを結ぶ線分L1と、前記線分L0とが成す角度α、つまり、前記線分Lと、座標(X1,Z1)と座標(X0,Z0)とを結ぶ線分L2とが成す角度は、次の数6で示される。
【数5】
【0052】
座標(X1,Z1)を通るZ軸に平行な直線L5と、線分Lとが成す角度をθとすれば、このθは、次の数7で示される。
【数7】
【0053】
このため、座標(X0,Z0)におけるX座標(X0)は次の数8で示され、Y座標(Y0)は次の数9で示される。
【数8】
【0055】
図9に示すように、座標(X1,Z1)と座標(X0,Z0)とを通過する線分L2と、X軸とが成す角度をβとしたときに、βは次の数10で示される。また、座標(X2,Z2)と座標(X0,Z0)とを通過する線分L3と、X軸とが成す角度をγとしたとき、γは次の数11で示される。
【数10】
【0057】
第1溝Aの接点座標TX1(線分L2の第1溝Aの交点のX座標値)は、次の数12で示され、第1溝Aの接点座標TZ1(線分L2の第1溝Aの交点のZ座標値)は、次の数13で示される。
【数12】
【0059】
第2溝Aの接点座標TX2(線分L3の第2溝Bの交点のX座標値)は、次の数14で示され、第2溝Aの接点座標TZ2(線分L3の第2溝Bの交点のZ座標値)は、次の数15で示される。
【数14】
【0061】
これによって、接点幅TWを次の数16で示すように求めることができ、接点角度Tθを次の数17で示すように求めることができる。
【数16】
【0063】
なお、電気マイクロメータの校正値(α)は旋回中心からの距離(旋回半径)に応じて決める必要がある。このため、旋回中心と変位センサ11の検出値との関係校正手段54を備えるのが好ましい。この場合、関係校正手段54として、
図10に示すような凹溝55aを有する模範55を形成し、この模範55を用いて校正することになる。なお、関係校正手段54として、平面模範を用いてもよい。
【0064】
本発明によれば、変位センサ11を、軸受トラック溝1aの横断面における溝中心Oを中心として旋回させつつ旋回中心Oからの溝底面までの寸法である半径値を検出することができる。これによって、軸受トラック溝1aの横断面形全体の半径値を求めることができる。また、各半径値での変位センサ11の旋回角度を検出できる。このため、半径値と旋回角度でもって、軸受トラック溝1aの形状波形を算出することができる。しかも、変位センサ11への負荷を小さく抑えることができる。このため、半径値と旋回角度でもって、軸受トラック溝1aの形状波形を算出することができ、しかも、変位センサ11への負荷を小さく抑えることができることになって、高精度の軸受トラック溝1aの形状測定が可能となる。
【0065】
クランプ機構22を有する固定手段20を備えたものでは、ワークSを所定設置位置に固定したままクランプ幅を調整してクランプすることができ、ワークS側の移動を不要とし、移動が困難な大型のワークSに対しても軸受トラック溝1aの安定した高精度の形状測定が可能となる。
【0066】
前記固定手段20として、溝嵌合体30を有するものでは、溝嵌合体30を軸受トラック溝1aに嵌合させれば、センサ11の安定した位置決めが可能となり、より高精度の測定が可能となる。
【0067】
溝嵌合体30の上下方向の変位を可能とするフローティング構造33を有するものでは、溝嵌合体30の軸受トラック溝1aに嵌合が安定する。フローティング構造33として、図例では、バネ部材36を用いたが、このようなバネ部材36を用いることなく、アクチュエータ機構を用いてもよい。ここで、アクチュエータとは、入力されたエネルギーを物理的運動に変換するものであり、機械・電気回路を構成する機械要素である。能動的に作動または駆動するものである。また、アクチュエータはものを動かす駆動装置と、その動作により制御を行う機械的あるいは油空圧的装置である。アクチュエータの種類としては、動力シリンダ(油圧シリンダ・空圧シリンダ・電動シリンダ)、リニア・アクチュエータ(リニアモータによる往復駆動装置)、ラバー・アクチュエータ(ゴムチューブへの加減圧による変形を利用した往復駆動装置)等がある。
【0068】
フローティング構造33を、バネ部材36にて構成したり、アクチュエータ機構にて構成したりできるので、装置の設計自由度が大となって、設計し易い装置となる。
【0069】
溝嵌合体30を鋼球31にて構成すれば、軸受トラック溝1aに安定よく嵌合させることができる。より精度のよい位置決めを行うことができる。しかも、強度的にも剛性的にも優れ、長期の使用が可能であり、コスト低減を図ることができる。
【0070】
次に、
図12は、内輪2のトラック溝2aの横断面形状を測定する状態を示す。この場合、軸受トラック溝測定装置である。この場合、支持体部材35の鋼球支持部38の突出量を、
図3に示す外輪1のトラック溝1aの横断面形状を測定している装置に対して伸ばしたものである。従って、鋼球支持部38として伸縮自在構造としたり、長さが相違する鋼球支持部38を備え、測定するワーク(外輪1や内輪2)等に応じて交換するようにすればよい。
【0071】
この
図12に示すように、溝嵌合体である鋼球を内輪2のトラック溝2aに嵌合させてこの装置を内輪2にセットすれば、外輪1の場合と同様、軸受トラック溝の横断面形全体の半径値を求めることができる。また、各半径値での変位センサの旋回角度を検出できる。このため、半径値と旋回角度でもって、軸受トラック溝の形状波形を算出することができる。
【0072】
ところで、前記実施形態では、トラック溝がゴシック円形状であったが、単一円形状であっても、複曲率円形状であっても、受トラック溝の横断面形全体の半径値を求めることができ、各半径値での変位センサの旋回角度を検出でき、半径値と旋回角度でもって、軸受トラック溝の形状波形を算出することができる。
【0073】
前記実施形態では、変位センサ11として、電気マイクロメータを用いたが、他のセンサ、例えば、レーザー変位センサを用いてもよい。ここで、レーザー変位センサは、発光素子と受光素子の組み合わせで構成されるものであって、発光素子には、半導体レーザーが用いられる。半導体レーザーの光は投光レンズを通して集光され、測定対象物に照射される。そして、対象物から拡散反射された光線の一部は受光レンズを通して受光素子上にスポットを結ぶ。その対象物が移動するごとにスポットも移動するので、そのスポットの位置を検出することで対象物までの変位量を知ることができる。
【0074】
電気マイクロメータは、機械的な微小変異を電気的に拡大する方式であるので、検出センサとして、電気マイクロメータを用いれば、応答性に優れた精密測定が可能であり、コスト低減も図ることができる。また、レーザー変位センサは非接触式センサであるため、検出センサとして、電気マイクロメータを用いれば、測定時におけるワークへの疵付を有効に防止できる。
【0075】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、測定するワークとして、前記実施形態では、単列の軸受の外輪や内輪であったが、複列の外輪や内輪であってもよい。また、変位センサとして、渦電流式変位センサや超音波式変位センサ等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1a トラック溝(外側軌道面)
1 外輪
2a トラック溝(内側軌道面)
2 内輪
11 変位センサ
12 旋回角度検出手段
13 算出手段
20 固定手段
21 位置決め手段
22 クランプ機構
30 溝嵌合体
31 鋼球
33 フローティング構造
36 バネ部材
37 基板部
54 関係校正手段
55 模範
S ワーク