(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本願発明に係る制御装置を適用した車両用内燃機関101の構成図である。尚、本実施形態において、内燃機関101は、直列4気筒の4サイクル機関であるが、本例に限定されない。
【0011】
図1において、内燃機関101の吸気管102には、スロットルモータ103aでスロットルバルブ103bを開閉駆動する電子制御スロットル103を介装してある。
そして、内燃機関101は、電子制御スロットル103及び吸気バルブ105を介して、各気筒の燃焼室106内に空気を吸入する。
【0012】
各気筒の吸気ポート130に、燃料噴射弁131を設けてあり、燃料噴射弁131は、制御装置としてのECU(エンジン・コントロール・ユニット)114からの噴射パルス信号によって開弁動作し、燃料を噴射する。
【0013】
燃焼室106内の燃料は、点火プラグ104による火花点火によって着火燃焼する。点火プラグ104それぞれには、点火コイル及び該点火コイルへの通電を制御するパワートランジスタを内蔵した点火モジュール112を装着してある。
【0014】
燃焼室106内の燃焼ガスは、排気バルブ107を介して排気管111に流出する。排気管111に設けたフロント触媒コンバータ108及びリア触媒コンバータ109は、排気管111を流れる排気を浄化する。
【0015】
吸気カム軸134,排気カム軸110は、一体的にカムを備え、このカムによって吸気バルブ105及び排気バルブ107を動作させる。
吸気バルブ105は、電動モータ(アクチュエータ)を用いて吸気カム軸134をクランク軸120に対して相対回転させる可変バルブタイミング機構(電動VTC)113により、バルブタイミングが可変に制御される。
【0016】
上記電動VTC113は、
図2〜
図7に示すように、内燃機関のクランク軸120によって回転駆動する駆動回転体であるタイミングスプロケット1と、シリンダヘッド上に軸受44を介して回転自在に支持され、前記タイミングスプロケット1から伝達された回転力によって回転する吸気カム軸134と、該タイミングスプロケット1の前方位置に配置されて、固定部であるチェーンカバー40にボルトによって取り付け固定されたカバー部材3と、前記タイミングスプロケット1と吸気カム軸134の間に配置されて、機関運転状態に応じて両者1,2の相対回転位相を変更する可変機構である位相変更機構4と、を備えて構成されている。
【0017】
タイミングスプロケット1は、全体が鉄系金属によって一体に形成され、内周面が段差径状の円環状のスプロケット本体1aと、該スプロケット本体1aの外周に一体に設けられて、巻回されたタイミングチェーン42を介してクランク軸からの回転力を受けるギア部1bと、から構成されている。また、タイミングスプロケット1は、前記スプロケット本体1aの内周側に形成された円形溝1cと前記吸気カム軸134の前端部に一体に設けられた肉厚なフランジ部2aの外周との間に介装された第3軸受である第3ボールベアリング43によって吸気カム軸134に回転自在に支持されている。
【0018】
スプロケット本体1aの前端部外周縁には、環状突起1eが一体に形成されている。このスプロケット本体1aの前端部には、前記環状突起1eの内周側に同軸に位置決めされ、内周に波形状の噛み合い部である内歯19aが形成された環状部材19と、大径円環状のプレート6がボルト7によって軸方向から共締め固定されている。また、前記スプロケット本体1aの内周面の一部には、
図5に示すように、円弧状の係合部であるストッパ凸部1dが周方向に沿って所定長さ範囲まで形成されている。
【0019】
プレート6の前端側外周には、前記位相変更機構4の後述する減速機8や電動モータ12の各構成部材を覆う状態で前方に突出した円筒状のハウジング5がボルト11によって固定されている。
【0020】
ハウジング5は、鉄系金属によって一体に形成されてヨークとして機能し、前端側に円環プレート状の保持部5aを一体に有していると共に、該保持部5aを含めた外周側全体が前記カバー部材3によって所定の隙間をもって覆われた形で配置されている。
【0021】
吸気カム軸134は、外周に吸気バルブ105を開作動させる一気筒当たり2つの駆動カムを有していると共に、前端部に従動回転体である従動部材9がカムボルト10によって軸方向から結合されている。また、吸気カム軸134の前記フランジ部2aには、
図5に示すように、前記スプロケット本体1aのストッパ凸部1dが係入する係止部であるストッパ凹溝2bが円周方向に沿って形成されている。このストッパ凹溝2bは、円周方向へ所定長さの円弧状に形成されて、この長さ範囲で回動したストッパ凸部1dの両端縁が周方向の対向縁2c、2dにそれぞれ当接することによって、タイミングスプロケット1に対する吸気カム軸134の最大進角側あるいは最大遅角側の相対回転位置を規制するようになっている。
【0022】
カムボルト10は、頭部10aの軸部10b側の端縁にフランジ状の座面部10c一体に形成されていると共に、軸部10bの外周に前記吸気カム軸134の端部から内部軸方向に形成された雌ねじ部に螺着する雄ねじ部が形成されている。
【0023】
従動部材9は、鉄系金属材によって一体に形成され、
図3に示すように、前端側に形成された円板部9aと、後端側に一体に形成された円筒状の円筒部9bとから構成されている。
【0024】
円板部9aは、後端面の径方向ほぼ中央位置に前記吸気カム軸134のフランジ部2aとほぼ同外径の環状段差突起9cが一体に設けられ、この段差突起9cの外周面と前記フランジ部2aの外周面が前記第3ボールベアリング43の内輪43aの内周に挿通配置されている。第3ボールベアリング43の外輪43bは、スプロケット本体1aの円形溝1cの内周面に圧入固定されている。
【0025】
また、円板部9aの外周部には、
図2〜
図6に示すように、後述する複数のローラ34を保持する保持器41が一体に設けられている。この保持器41は、前記円板部9aの外周部から前記円筒部9bと同じ方向へ突出して形成され、円周方向へほぼ等間隔の位置に所定の隙間をもった複数の細長い突起部41aによって形成されている。
【0026】
円筒部9bは、
図2に示すように、中央に前記カムボルト10の軸部10bが挿通される挿通孔9dが貫通形成されていると共に、外周側に第1軸受である後述の第1ニードルベアリング30が設けられている。
【0027】
カバー部材3は、
図2及び
図6に示すように、比較的に肉厚な合成樹脂材によって一体に形成され、カップ状に膨出したカバー本体3aと、該カバー本体3aの後端部外周に一体に有するブラケット3bと、から構成されている。
【0028】
カバー本体3aは、位相変更機構4の前端側を覆う、つまりハウジング5の軸方向の保持部5bから後端部側のほぼ全体を、所定隙間をもって覆うように配置されている。一方、前記ブラケット3bには、ほぼ円環状に形成されて6つのボス部にそれぞれボルト挿通孔3fが貫通形成されている。
【0029】
また、カバー部材3は、
図2に示すように、ブラケット3bが前記チェーンカバー40に複数のボルト47を介して固定されていると共に、前記カバー本体3aの前端部3cの内周面に内外2重のスリップリング48a,48bが各内端面を露出した状態で埋設固定されている。さらに上端部には、内部に前記スリップリング48a、48bと導電部材を介して接続されたコネクタ端子49aが固定されたコネクタ部49が設けられている。なお、前記コネクタ端子49aには、コントロールユニット21を介して図外のバッテリー電源から通電あるいは通電が遮断されるようになっている。
【0030】
そして、カバー本体3aの後端部側の内周面と前記ハウジング5の外周面との間には、
図2にも示すように、シール部材である大径な第1オイルシール50が介装されている。この第1オイルシール50は、横断面ほぼコ字形状に形成されて、合成ゴムの基材の内部に芯金が埋設されていると共に、外周側の円環状基部50aが前記カバー部材3a後端部の内周面に形成された円形溝3d内に嵌着固定されている。また、円環状基部50aの内周側には、前記ハウジング5の外周面に当接するシール面50bが一体に形成されている。
【0031】
位相変更機構4は、吸気カム軸134のほぼ同軸上前端側に配置された電動モータ12と、該電動モータ12の回転速度を減速して吸気カム軸134に伝達する前記減速機8と、から構成されている。
【0032】
電動モータ12は、
図2及び
図3に示すように、ブラシ付きのDCモータであって、タイミングスプロケット1と一体に回転するヨークであるハウジング5と、該ハウジング5の内部に回転自在に設けられた出力軸であるモータ軸13と、ハウジング5の内周面に固定された半円弧状の一対の永久磁石14,15と、ハウジング保持部5aの内底面側に固定された固定子16と、を備えている。
【0033】
モータ軸13は、筒状に形成されてアーマチュアとして機能し、軸方向のほぼ中央位置の外周に、複数の極を持つ鉄心ロータ17が固定されていると共に、該鉄心ロータ17の外周には電磁コイル18が巻回されている。また、モータ軸13の前端部外周には、コミュテータ20が圧入固定されており、このコミュテータ20には、前記鉄心ロータ17aの極数と同数に分割された各セグメントに前記電磁コイル18が接続されている。
【0034】
固定子16は、
図7に示すように、保持部5aの内底壁に4本のビス22aによって固定された円環板状の樹脂ホルダー22と、該樹脂ホルダー22と保持部5aを軸方向に貫通配置されて、各先端面が前記一対のスリップリング48a、48bに摺接して給電される周方向内外2つの第1ブラシ23a,23bと、樹脂ホルダー22の内周側に内方へ進退自在に保持されて、円弧状の先端部が前記コミュテータ20の外周面に摺接する第2ブラシ24a、24bと、から主として構成されている。
【0035】
第1ブラシ23a、23bと第2ブラシ24a、24bは、ピッグテールハーネス25a、25bによって接続されていると共に、それぞれに弾接した捩りばね26a、27aのばね力によってスリップリング48a、48b方向やコミュテータ20方向へそれぞれ付勢されている。
【0036】
モータ軸13は、カムボルト10の頭部10a側の軸部10bの外周面に第1軸受であるニードルベアリング28と該ニードルベアリング28の軸方向の側部に配置された軸受である第4ボールベアリング35を介して回転自在に支持されている。また、前記モータ軸13の吸気カム軸134側の後端部には、減速機8の一部を構成する円筒状の偏心軸部30が一体に設けられている。
【0037】
第1ニードルベアリング28は、偏心軸部30の内周面に圧入された円筒状のリテーナ28aと、該リテーナ28aの内部に回転自在に保持された複数の転動体であるニードルローラ28bとから構成されている。このニードルローラ28bは、前記従動部材9の円筒部9bの外周面を転動している。
【0038】
第4ボールベアリング35は、内輪35aが前記従動部材9の円筒部9bの前端縁とカムボルト10の座面部10cとの間に挟持状態に固定されている一方、外輪35bがモータ軸13の内周に形成された段差部と抜け止めリングであるスナップリング36との間で軸方向の位置決め支持されている。
【0039】
また、モータ軸13(偏心軸部30)の外周面とプレート6の内周面との間には、減速機8内部から電動モータ12内への潤滑油のリークを阻止するフリクション部材である第2オイルシール32が設けられている。この第2オイルシール32は、内周部が前記モータ軸13の外周面に弾接していることによって、該モータ軸13の回転に対して摩擦抵抗を付与するようになっている。
【0040】
減速機8は、
図2、
図3に示すように、偏心回転運動を行う前記偏心軸部30と、該偏心軸部30の外周に設けられた第2軸受である第2ボールベアリング33と、該第2ボールベアリング33の外周に設けられた前記ローラ34と、該ローラ34を転動方向に保持しつつ径方向の移動を許容する前記保持器41と、該保持器41と一体の前記従動部材9と、から主として構成されている。
【0041】
偏心軸部30は、外周面に形成されたカム面の軸心Yがモータ軸13の軸心Xから径方向へ僅かに偏心している。なお、前記第2ボールベアリング33とローラ34などが遊星噛み合い部として構成されている。
【0042】
第2ボールベアリング33は、大径状に形成されて、第1ニードルベアリング28の径方向位置で全体がほぼオーバラップする状態に配置され、内輪33aが偏心軸部30の外周面に圧入固定されていると共に、外輪33bの外周面には前記ローラ34が常時当接している。また、外輪33bの外周側には円環状の隙間Cが形成されて、この隙間Cによって第2ボールベアリング33全体が前記偏心軸部30の偏心回転に伴って径方向へ移動可能、つまり偏心動可能になっている。
【0043】
各ローラ34は、第2ボールベアリング33の偏心動に伴って径方向へ移動しつつ前記環状部材19の内歯19aに嵌入すると共に、保持器41の突起部41aによって周方向にガイドされつつ径方向に揺動運動させるようになっている。
【0044】
減速機8の内部には、潤滑油供給手段によって潤滑油が供給されるようになっている。この潤滑油供給手段は、
図2に示すように、シリンダヘッドの軸受44の内部に形成されて、図外のメインオイルギャラリーから潤滑油が供給される油供給通路47と、前記吸気カム軸134の内部軸方向に形成されて、前記油供給通路47にグルーブ溝を介して連通した油供給孔48と、従動部材9の内部軸方向に貫通形成されて、一端が該油供給孔48に開口し、他端が前記第1ニードルベアリング28と第2ボールベアリング33の付近に開口した小径なオイル供給孔45と、同じく従動部材9に貫通形成された大径な3つの図外のオイル排出孔と、から構成されている。
【0045】
以下、本電動VTC113の作動について説明すると、まず、機関のクランク軸が回転駆動するとタイミングチェーン42を介してタイミングスプロケット1が回転し、その回転力によりハウジング5と環状部材19とプレート6を介して電動モータ12が同期回転する。一方、環状部材19の回転力が、ローラ34から保持器41及び従動部材9を経由して吸気カム軸134に伝達される。これによって、吸気カム軸134のカムが吸気弁を開閉作動させる。
【0046】
そして、電動VTC113を駆動して吸気カム軸134の回転位相(吸気バルブ105のバルブタイミング)を変更するときは、コントロールユニット21からスリップリング48a、48bなどを介して電動モータ12の電磁コイル17に通電される。これによって、モータ軸13が回転駆動され、この回転力が減速機8を介して吸気カム軸134に減速された回転力が伝達される。
【0047】
すなわち、モータ軸13の回転に伴い偏心軸部30が偏心回転すると、各ローラ34がモータ軸13の1回転毎に保持器41の突起部41aに径方向へガイドされながら環状部材19の一の内歯19aを乗り越えて隣接する他の内歯19aに転動しながら移動し、これを順次繰り返しながら円周方向へ転接する。この各ローラ34の転接によって前記モータ軸13の回転が減速されつつ従動部材9に回転力が伝達される。このときの減速比は、ローラ34の個数などによって任意に設定することが可能である。
【0048】
これにより、吸気カム軸134がタイミングスプロケット1に対して正逆相対回転して相対回転位相が変換されて、吸気弁の開閉タイミングを進角側あるいは遅角側に変換制御するのである。
【0049】
そして、タイミングスプロケット1に対する吸気カム軸134の正逆相対回転の最大位置規制(角度位置規制)は、前記ストッパ凸部1dの各側面が前記ストッパ凹溝2bの各対向面2c、2dのいずれか一方に当接することによって行われる。
【0050】
すなわち、従動部材9が、偏心軸部30の偏心回動に伴ってタイミングスプロケット1の回転方向と同方向に回転することによって、ストッパ凸部1dの一側面がストッパ凹溝2bの一方側の対向面1cに当接してそれ以上の同方向の回転が規制される。これにより、吸気カム軸134は、タイミングスプロケット1に対する相対回転位相が進角側へ最大に変更される。
【0051】
一方、従動部材9が、タイミングスプロケット1の回転方向と逆方向に回転することによって、ストッパ凸部1dの他側面がストッパ凹溝2bの他方側の対向面2dに当接してそれ以上の同方向の回転が規制される。これにより、吸気カム軸134は、タイミングスプロケット1に対する相対回転位相が遅角側へ最大に変更される。
【0052】
図1に戻って、ECU114は、マイクロコンピュータを内蔵し、予めメモリに記憶したプログラムに従って演算を行い、電子制御スロットル103,燃料噴射弁131,点火モジュール112などを制御する。
【0053】
ECU114は、各種のセンサからの検出信号を入力する。各種のセンサとして、アクセルペダル116aの開度(アクセル開度)ACCを検出するアクセル開度センサ116、内燃機関101の吸入空気量Qを検出するエアフローセンサ115、内燃機関101の出力軸であるクランク軸120の回転に応じてパルス状の回転信号(単位クランク角信号)POSを出力するクランク角センサ(回転センサ)117、スロットルバルブ103bの開度TVOを検出するスロットルセンサ118、内燃機関101の冷却水の温度TWを検出する水温センサ119、吸気カム軸134の回転に応じてパルス状のカム信号PHASEを出力するカムセンサ133、車両の運転者がブレーキペダル121を踏み込んだ制動状態においてオンになるブレーキスイッチ122、内燃機関101を動力源とする車両の走行速度(車速)VSPを検出する車速センサ123などを設けている。
【0054】
更に、ECU114は、内燃機関101の運転・停止のメインスイッチであるイグニションスイッチ124のオン・オフ信号や、スタータスイッチ125のオン・オフ信号の他、バッテリの電圧Vbを入力する。該バッテリの電圧Vbの検出値は、バッテリを電源として駆動される電動モータ12の出力可能な限界操作量の検出値として用いられる。
【0055】
次に、電動VTC113の制御について説明する。
図8は、制御ブロック図を示す。該制御ブロック図に応じた基本的な制御を説明する。
規範モデルR(s)は、電動VTC113の動特性(運動方程式)に基づいて、安定した応答が得られるモデルとして予め設定される。
【0056】
フィードフォワード補償器は、電動VTC113を、規範モデルにしたがって応答させるためのフィードフォワード操作量FF(s)=P(s)
−1R(s)を算出する。
フィードバック補償器は、規範モデルの値と電動VTC113の実VTC角度との偏差に基づき、フィードバック操作量FB(s)算出する。
【0057】
上記フィードフォワード操作量FF(s)とフィードバック操作量FB(s)を加算した最終的な操作量が、制御対象である電動VTC113に出力される。
このように構成されたモデル規範制御において、制御対象(電動VTC113)の実伝達特性P’(s)と、モデル化した制御対象伝達特性P(s)が一致していれば、フィードフォワード操作量FF(s)のみで、電動VTC113の応答は、規範モデル応答に追従する。
【0058】
しかし、実際には、機関始動時(スタータ起動時)や低温時等には、バッテリ電圧Vbの低下により、出力可能な限界操作量(モータトルク)が制限され、規範モデルに沿った応答は得られず、目標角度への収束が遅れることとなる。
【0059】
そこで、フィードフォワード補償器が、フィードフォワード操作量と限界操作量とに基づいて設定された補正量によってフィードフォワード操作量に対して補正を行うことにより、目標角度への収束の遅れを抑制する。なお、フィードフォワード操作量の補正中は、フィードバック制御は停止される(フィードバック補償器によるフィードバック操作量が0とされる)。
【0060】
図9は、フィードフォワード操作量の補正を行いつつ電動VTC113を制御する第1実施形態のフローを示す。
ステップ1では、制御対象である電動VTC113(電動モータ12)への出力可能な限界操作量を検出する。具体的には、上述したように、電動VTC113(電動モータ12)を駆動する電源であるバッテリの電圧Vbを、限界操作量として検出する。上述したように、機関始動時(スタータ起動時)や低温時等には、バッテリ電圧Vb(限界操作量)は低下する。
【0061】
ステップ2では、VTC目標角度すなわち、電動VTC113によって制御される吸気カム軸134の目標回転位相(吸気バルブ105の目標バルブタイミング)を算出する。
ステップ3では、VTC目標角度に応じたフィードフォワード操作量を算出する。これは、上述したように、規範モデルにしたがって応答させるためのフィードフォワード操作量FF(s)=P(s)
−1R(s)として算出される。
【0062】
ステップ4では、カムセンサ133からのカム信号PHASEとクランク角センサからの回転信号POSを用いて、VTC実角度、すなわち、吸気カム軸134の実回転位相(吸気バルブ105の実バルブタイミング)を検出する。
【0063】
ステップ5では、VTC目標角度とVTC実角度との偏差に基づいて、PID制御等によりフィードバック操作量を算出する。
ステップ6では、フィードフォワード操作量が限界操作量以下であるかを判定する。
【0064】
そして、フィードフォワード操作量が限界操作量を超えていると判定されたときは、ステップ7へ進み、フィードフォワード操作量補正用の補正操作量として、フィードフォワード操作量から限界操作量を減算した値を、フィードフォワード操作量が実操作量である限界操作量を超える飽和量(出力不可能な操作量分)として算出する。
【0065】
ステップ8では、VTC操作量を限界操作量として電動VTC113(電動モータ12)に出力する。
ステップ9では、飽和量を積算する。具体的には、飽和量積算値の前回値に今回のステップ7で算出した飽和量を加算することにより、飽和量積算値を更新する。
【0066】
このように、フィードフォワード操作量が限界操作量を上回る飽和状態にあるときには、限界操作量を出力して電動VTC113を駆動しつつフィードフォワード操作量と限界操作量の差分である飽和量を積算する。この飽和量積算値は、本来出力されるべきフィードフォワード操作量に対し、出力不可能な操作量分の総量であり、該出力不可能な操作量によって生じる応答遅れを、飽和量積算の終了後に回復させるためにフィードフォワード操作量を補正する補正操作量として使用される。
る。
【0067】
そして、ステップ3で算出されるフィードフォワード操作量が、ステップ6で限界操作量以下に低下したと判定されると、ステップ10以降に進み、飽和状態の期間中に積算された飽和量積算値に応じてフィードフォワード操作量を補正する制御に切り換える。
【0068】
ステップ10では、後述する飽和量積算値の減算処理によって飽和量積算値が所定値以下まで低下したかと判定する。この所定値は、0として飽和量積算値が無くなるまで後述するフィードフォワード操作量の増加補正を行わせるようにしてもよいが、該増加補正によって初期のフィードフォワード操作量の不足による応答遅れが回復されて、VTCの実角度が目標角度に近づけられたと推定可能な値に設定してもよい。
【0069】
飽和量積算値が所定値を上回っていると判定されるとステップ11へ進み、フィードフォワード操作量の補正量(FF操作量補正量)を、限界操作量からフィードフォワード操作量を減算した値として算出する。
【0070】
ステップ12では、VTC操作量を、フィードフォワード操作量にステップ11で算出したFF操作量補正量を加算して算出する。この値は、限界操作量となる(したがって、本第1実施形態では、本ステップで演算を行うことなくVTC操作量=限界操作量としてもよい)。即ち、本実施形態では、飽和状態で不足したフィードフォワード操作量を最大限充足すべく、限界操作量に維持するように補正する。
【0071】
ステップ13では、飽和量積算値を、その前回値から今回用いたFF操作量補正量を減算した値で更新する。
このようにして飽和量積算値がフィードフォワード操作量の補正毎に減算され、ステップ10で飽和量積算値が所定値以下に低下したと判定されると、ステップ14へ進み、通常のフィードバック制御を開始する。即ち、VTC操作量を、フィードフォワード操作量に、フィードバック操作量を加算した値として算出する。
【0072】
ステップ15では、フィードフォワード操作量の補正終了に伴い飽和量積算値を0にリセットする。
本実施形態の作用を説明する。
【0073】
上述したように、スタータを駆動する機関始動時や低温時等バッテリ電圧が不足するときに、VTCを駆動すると、規範応答特性が得られるように設定されたフィードフォワード操作量が、出力可能な限界操作量を超える飽和状態となることがある。
【0074】
かかる飽和状態では、
図10に示すように、VTCのフィードフォワード操作量より小の限界操作量で制御される制御初期には、応答遅れを生じる。但し、限界操作量に維持することで、その間の遅れは最小限に留められる。一方、この間に、フィードフォワード操作量が限界操作量を超える飽和量(出力不可能な操作量分)が積算され、該積算終了時点の飽和量積算値が、フィードフォワード操作量を補正する補正操作量として算出される。
【0075】
そして、規範応答特性に応じたフィードフォワード操作量が限界操作量を下回って以降は、上記FF操作量補正量によってフィードフォワード操作量を増加補正し、トータルの補正量が、飽和量積算の終了時点の飽和量積算値、つまりフィードフォワード操作量を補正する補正操作量近くに達するまで該補正が継続される。
【0076】
このように、飽和状態となる制御初期での出力不可能な操作量分の総量を、補正操作量として算出し、該補正操作量によって、制御後期でフィードフォワード操作量を補正することにより、制御後期の応答速度が増加し、制御初期における応答遅れを回復して、電動VTC113を、飽和を生じない場合と同等の時間で目標角度に収束させることができる。
【0077】
なお、特許文献1では、既述したように、本実施形態のようなフィードフォワード操作量の補正がなされないので応答遅れを解消できず、また、初めからフィードバック制御を行った場合には、積分分が過大となり、制御後期での限界操作量での出力が長引いてオーバーシュートを生じ安定して目標角度へ収束させることが困難となる。
【0078】
本実施形態では、FF操作量補正量によるフィードフォワード操作量の補正を、飽和量積算値に応じた期間行うことにより、上記従来の問題を解消でき、応答遅れ及びオーバーシュートを抑制しつつ目標角度へ収束させることができる。
【0079】
上記第1実施形態では、飽和積算値に応じた補正を可能な限り大きくして応答速度を増加させ、制御初期における遅れを速やかに回復させることができるが、VTC動特性のバラツキ等により実際の応答速度が大きくなりすぎることが考えられる。
【0080】
図11は、上記の点を考慮してFF操作量補正量を応答速度に応じて変更しつつ電動VTC113を制御する第2実施形態のフローを示す。
ステップ1〜ステップ11までは、第1実施形態と同様であり、飽和状態で飽和量積算値を算出した後、ステップ11でフィードフォワード補正操作量を算出する。
【0081】
次いで、ステップ21では、電動VTC113の角度(回転位相)変化量、つまり、実応答速度を算出する。具体的には、今回のVTC実角度から前回のVTC実角度を減算した値を角度変化量として算出する。なお、角度変化量の算出としては、センサ(クランク角センサ及びカムセンサ)により検出される実角度を用いる他、予めコントロールユニットに設定されているVTCの物理特性と操作量履歴とから実角度を推定し、変化量を算出するようにしてもよい。
【0082】
ステップ22では、角度変化量に応じて補正量反映ゲインを算出する。ここで、角度変化量が大きいときほど補正量反映ゲインを小さい値となるように算出する。
ステップ23では、VTC操作量を、ステップ11で算出した補正量に、ステップ22で算出した補正量反映ゲインを乗じた値をフィードフォワード操作量に加算して算出する。
【0083】
ステップ13〜ステップ15については、第1実施形態と同様に、飽和量積算値からステップ11で算出したFF操作量補正量を減算していき、減算された飽和量積算値が所定値以下になった時点でフィードバック補正量を用いたフィードバック制御に切り換えられる。
【0084】
本第2実施形態によれば、飽和量積算値に応じたフィードフォワード操作量の補正を行う際に、VTCの角度変化量を考慮した補正を行い、角度変化量が大きいときほど小さい補正ゲインを乗じた値で補正することにより、応答速度が過剰となることを抑制しつつ目標角度へ安定して収束させることができる。
【0085】
図12は、FF操作量補正量をVTCの目標角度と実角度との偏差に応じて変更しつつ電動VTC113を制御する第3実施形態のフローを示す。
ステップ1〜ステップ11までは、第1及び第2実施形態と同様である。
【0086】
次いで、ステップ31では、電動VTC113の目標角度と実角度との偏差量を算出する。なお、第2実施形態と同様、実角度としてセンサ(クランク角センサ及びカムセンサ)により検出される実角度を用いる他、予めコントロールユニットに設定されているVTCの物理特性と操作量履歴とから実角度を推定し、変化量を算出するようにしてもよい。
【0087】
ステップ32では、偏差量に応じて補正量反映ゲインを算出する。ここで、偏差量が小さいほど補正量反映ゲインを小さい値となるように算出する。
以下、第2実施形態と同様に、ステップ23で、VTC操作量を、ステップ11で算出した補正量に、ステップ32で算出した補正量反映ゲインを乗じた値をフィードフォワード操作量に加算して算出する。
【0088】
ステップ13〜ステップ15については、第1及び第2実施形態と同様に、飽和量積算値からステップ11で算出した補正量を減算していき、減算された飽和量積算値が所定値以下になった時点でフィードバック補正量を用いたフィードバック制御に切り換えられる。
【0089】
本第3実施形態によれば、飽和量積算値に応じたフィードフォワード操作量の補正を行う際に、VTCの目標角度と実角度の偏差量を考慮した補正を行い、偏差量が小さくなるほど小さい補正ゲインを乗じた値で補正することにより、第2実施形態と同様、応答速度が過剰となることを抑制しつつ目標角度へ安定して収束させることができる。
【0090】
ところで、通常、バッテリ電圧Vbは、ノイズ除去のため、A/D値をフィルタリング処理した値を用いる。しかし、以上の実施形態において電動VTC113の出力可能な限界操作量としてバッテリ電圧Vbを検出する際には、フィルタリング処理後のバッテリ電圧Vbでは、始動時の電圧変動を再現しきれていない。即ち、通常のフィルタリング処理により平滑化された電圧は、電動VTC113の出力可能な限界操作量が大きめの値として検出されてしまう。この結果、飽和量(=フィードフォワード操作量−限界操作量)が
少なめに算出され、飽和量積算値に応じたフィードフォワード操作量の補正が不足して十分な応答遅れを回復できないことが考えられる。
【0091】
図13は、上記の点を考慮した限界操作量の算出フローを示す。
ステップ51では、エンジン始動信号(スタートスイッチ)がONであるか否かを判定する。
【0092】
エンジン始動信号(スタートスイッチ)がONである始動時と判定されたときは、ステップ52へ進み、バッテリ電圧フィルタのカット周波数を通常時の周波数より高い高周波数に設定する。
【0093】
一方、エンジン始動信号(スタートスイッチ)がOFFである始動後運転時と判定されたときは、ステップ53へ進み、バッテリ電圧フィルタのカット周波数を通常時の低周波数に設定する。
【0094】
ステップ54では、ステップ52、ステップ53のいずれかでカットオフ周波数が設定されたフィルタで処理されたバッテリ電圧Vbを、電動VTC113の出力可能な限界操作量として設定する。
【0095】
このようにすれば、
図14に示すように、始動時には、カットオフ周波数を高周波数としたフィルタで処理されたバッテリ電圧を電動VTC113の限界操作量として検出することで、大きく減少変動するA/D値に近い限界操作量を使用することができ、飽和量積算値に応じたフィードフォワード操作量の補正が不足することを抑制して応答遅れを良好に回復できる。
【0096】
また、本発明は、排気バルブのバルブ特性を可変とする可変動弁機構にも適用できる。