(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記第1のループコイルは、上記最内周のコイルパターン以外の、外周側のコイルパターンの線幅が、上記最内周のコイルパターンの線幅よりも広い請求項1又は請求項2記載の複合コイルモジュール。
上記第1のループコイルは、上記第2のループコイルと重畳する上記コイルパターンに、該コイルパターンに沿ってスリットが形成されている請求項1又は請求項2記載の複合コイルモジュール。
上記第1のループコイルは、外周側のコイルパターン間のピッチが、内周側のコイルパターン間のピッチよりも小さい請求項1又は請求項2記載の複合コイルモジュール。
上記第1のループコイルは、上記第2のループコイルと重畳しないコイルパターンと、上記第2のループコイルと重畳するコイルパターンの線幅及び/又はコイルパターン間のピッチが異なる請求項1、2、3、5、6のいずれか1項に記載の複合コイルモジュール。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁誘導を利用した近距離無線通信システムにおいては、リーダライタ側のアンテナモジュールと、リーダライタから発信された磁界を受けて発生した電流によって駆動されるトランスポンダ側のアンテナモジュールとの間で、アンテナコイルの大きさが大きく異なる場合、通信できないおそれがある。
【0005】
例えば、ICタグが貼られたポスターなどにリーダライタとなる携帯電話をかざすことにより、そのポスターの情報(クーポン・地図・キャンペーン案内など)を取得するような場合、ICタグに内蔵されたアンテナコイルは一辺が2cm角程度の大きさであるのに対して、携帯電話に内蔵されたアンテナコイルは一辺が4cm角程度と大きい。具体的に、NFC用のアンテナモジュールにおいて、携帯電話やスマートフォンに搭載されるアンテナコイルの外径は60mm×50mmであるのに対して、ICタグ等に内蔵される小型のアンテナコイルの外径は20mm×25mm程度である。
【0006】
ここで、携帯電話側のアンテナモジュールから発信される磁界はアンテナコイルの近くで密となり、アンテナコイルから遠くなるほど磁束密度が疎となる。ICタグ側のアンテナモジュールから発信される磁界も、同様である。そして、近距離無線通信では、通信を行うアンテナモジュールをほぼ密着させて行う。そのため、
図16(a)に示すように、通信を行う相互のアンテナコイルの内外径差が小さい場合は問題ないが、
図16(b)に示すように、通信を行う相互のアンテナコイルの内外径差が大きくなると、一方が発信した磁束Fが他方に届かず、誘導結合ができないおそれがある。
【0007】
そのため、携帯電話側のアンテナモジュールのアンテナパターンがICタグ側のアンテナモジュールのアンテナパターンに近接するように、携帯電話側のアンテナモジュールのアンテナパターンのピッチや線幅を大きくしてアンテナコイルの内径を小さくする方法も提案されている。
【0008】
一方、電子機器の小型化、高機能化に伴い、携帯端末機器等の電子機器に上述のような複数のアンテナを搭載するのに割り当てられるスペースは極めて小さくなってきている。そこで、RFID用のアンテナコイルと非接触充電用の充電コイルとを同一スペースに搭載するために、アンテナモジュールの小型化、薄型化、さらには、複数のコイルモジュールの複合化、集積化の要求が強まっている。
【0009】
例えば
図17に示す複合コイルモジュール100は、RFID用のアンテナモジュール101と、非接触充電用の充電モジュール102とが積層一体化されている。RFID用のアンテナモジュール101は、それぞれ、磁束集束用の磁性シート103と、導線を渦巻状に巻回して形成されたスパイラルコイル状のアンテナコイル104とを有する。磁性シート103は、一面に、スパイラルコイル状に形成されたアンテナコイル104が貼り付けられている。
【0010】
また、充電モジュール102も、同様に、磁束収束用の磁性シート105と、導線を渦巻状に巻回して形成されたスパイラルコイル状の充電コイル106とを有する。また、磁性シート105は、一面に、スパイラルコイル状に形成された充電コイル106が貼り付けられている。そして、複合コイルモジュール100は、アンテナモジュール101のアンテナコイル104の内周側に、充電モジュール102が重畳されることにより一体化されている。
【0011】
ここで、このような複合コイルモジュール100において、RFID用のアンテナコイル104のピッチや線幅を大きく取ることにより内径を小さくした場合、
図18に示すように、RFID用のアンテナコイル104と、非接触充電用の充電コイル106同士が重畳する。そのため、例えば非接触充電用の充電コイル106によって磁束を受けようとした場合、RFID用のアンテナコイル104も磁界を受けることによって、渦電流が発生することによるロスが生じ、また渦電流によって磁束を跳ね返してしまう。したがって、充電コイル106に届く磁束が少なくなってしまい、そのために磁性シートの大型化などの対策が必要となってしまう。また、アンテナコイル104も、渦電流の発生に伴い、発熱し、複合コイルモジュール100やその周囲の構造物に熱衝撃が及ぶおそれもある。
【0012】
そこで、本発明は、複合コイルモジュールにおいて、ループコイル同士が重畳した場合にも良好に誘導結合される複合コイルモジュール及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明に係る複合コイルモジュールは、第1の磁性シートと、上記第1の磁性シート上に設けられ、面状に巻回された第1のループコイルとを備えた第1のコイルモジュールと、第2の磁性シートと、上記第2の磁性シート上に設けられ、面状に巻回された第2のループコイルとを備えた第2のコイルモジュールとを有し、上記第1のコイルモジュールと上記第2のコイルモジュールとが積層されるとともに、上記第1のループコイルの少なくとも最内周のコイルパターンと上記第2のループコイルとが重畳され、上記第1のループコイルの上記第2のループコイルと重畳する上記最内周のコイルパターンの線幅は1mm以下である。
【0014】
また、本発明に係る電子機器は、機器筐体内に複合コイルモジュールが搭載された電子機器であって、上記複合コイルモジュールは、第1の磁性シートと、上記第1の磁性シート上に設けられ、面状に巻回された第1のループコイルとを備えた第1のコイルモジュールと、第2の磁性シートと、上記第2の磁性シート上に設けられ、面状に巻回された第2のループコイルとを備えた第2のコイルモジュールとを有し、上記第1のコイルモジュールと上記第2のコイルモジュールとが積層されるとともに、上記第1のループコイルの少なくとも最内周のコイルパターンと上記第2のループコイルとが重畳され、上記第1のループコイルの上記第2のループコイルと重畳する上記最内周のコイルパターンの線幅は1mm以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1のループコイルの第2のループコイルと重畳する最内周のアンテナパターンの線幅を1mm以下としているため、第2のループコイルによって磁束を受けようとした場合に、第2のループコイルと重畳する最内周のコイルパターンにおいて渦電流の発生を抑制することができる。したがって、渦電流の発生による損失を減らし、また、最内周のコイルパターンの渦電流によって磁束を跳ね返して効率的に充電できない事態や、渦電流の発生による最内周のコイルパターンの発熱で周囲に熱衝撃が及ぶことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明が適用された複合コイルモジュールを示す図であり、便宜上、非接触充電モジュールを透過して示している。
【
図3】アンテナコイルの内径と、ICタグ側の小型アンテナコイルの外径との差を示す平面図である。
【
図4】アンテナパターンの線幅と、アンテナパターンに流れる渦電流の値との関係を示すグラフである。
【
図5】左右辺のアンテナパターンの線幅及びピッチを固定し、上下辺のアンテナパターンの線幅及びピッチを可変とする複合コイルモジュールを示す平面図であり、非接触充電モジュールを透過して示す。
【
図6】上下左右の全辺のアンテナパターンの線幅及びピッチを等しく可変とする場合の複合コイルモジュールを示す平面図であり、非接触充電モジュールを透過して示す。
【
図7】最内周のアンテナパターンの線幅を固定し、その外側のアンテナパターンの線幅を可変とする複合コイルモジュールを示す平面図であり、非接触充電モジュールを透過して示す。
【
図8】最内周のアンテナパターンのみ幅を1mmに固定して外周パターンの幅を可変としたアンテナモジュールと、内外周に亘って等しく幅を可変としたアンテナモジュールにおける渦電流とパターン幅との関係を示すグラフである。
【
図9】最内周のアンテナパターンの幅を1mmに固定して外周パターンの幅を等しく可変とした複合コイルモジュールを示す平面図であり、非接触充電モジュールを透過して示す。
【
図10】最内周のアンテナパターンの幅を1mmに固定して外周パターンの幅を等しく可変としたアンテナモジュールと、全周に亘ってパターン幅を等しく可変としたアンテナモジュールにおける渦電流とパターン幅との関係を示すグラフである。
【
図11】アンテナコイルの非接触充電コイルと重畳する辺におけるアンテナパターンにスリットを形成した複合コイルモジュールを示す平面図であり、非接触充電モジュールを透過して示す。
【
図12】スリットを複数形成した複合コイルモジュールを示す平面図であり、非接触充電モジュールを透過して示す。
【
図13】スリットの本数と、渦電流との関係を示すグラフである。
【
図14】各同径の一枚の磁性シートとアンテナコイルと非接触充電コイルとを備える複合コイルモジュールを示す平面図である。
【
図16】アンテナコイルの内外径の違いによる通信性能を説明するための図であり、(a)は内外径差が小さく通信可能な状態を示し、(b)は内外径差が大きく通信不可能な状態を示す。
【
図17】アンテナモジュールと非接触充電モジュールとが積層された複合コイルモジュールを示す図である。
【
図18】アンテナモジュールと非接触充電モジュールとが積層された複合コイルモジュールにおいて、アンテナコイルの内径を小さくし、非接触充電コイルと重畳した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明が適用された複合コイルモジュール、及び電子機器について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0018】
本発明が適用された複合コイルモジュール1は、携帯型の電子機器に組み込まれるものであって、近距離無線通信機能と非接触充電機能との両方を実現するものである。具体的に、本発明が適用された複合コイルモジュール1は、
図1に示すように、第1のコイルモジュールとなるアンテナモジュール2と、アンテナモジュール2の内側に設けられ第2のコイルモジュールとなる非接触充電モジュール3とを有する。アンテナモジュール2は、NFC等のRFID用のモジュールであり、磁性材料により形成されたシート状の第1の磁性シート4と、第1の磁性シート4上に設けられ、面状に巻回されたスパイラルコイル状のアンテナコイル5とを備える。また、非接触充電モジュール3は、Qi等の非接触充電用のモジュールであり、磁性材料により形成されたシート状の第2の磁性シート6と、第2の磁性シート6上に設けられ、面状に巻回されたスパイラルコイル状の非接触充電コイル7とを備える。
【0019】
[アンテナモジュール]
第1の磁性シート4は、例えば、NiZn系フェライトの焼結体からなる。第1の磁性シート4は、予め薄くシート状に塗布したフェライト粒子を高温環境下で焼結させることによりシート化し、その後、所定の形状に型抜きすることにより形成される。あるいは、第1の磁性シート4は、予め最終形状と同形状にフェライト粒子をシート状に塗布し、焼結することにより形成することもできる。その他、第1の磁性シート4は、長方形断面を持った型に、フェライト粒子を詰め込み、平面視矩形状の直方体にフェライト粒子を焼結し、この焼結体を薄くスライスすることにより、所定の形状を得ることもできる。
【0020】
なお、第1の磁性シート4は、軟磁性粉末からなる磁性粒子と結合材としての樹脂とを含んでいてもよい。
【0021】
また、磁性粒子は、フェライト等の酸化物磁性体、センダスト、パーマロイ等のFe系、Co系、Ni系、Fe−Ni系、Fe−Co系、Fe−Al系、Fe−Si系、Fe−Si−Al系、Fe−Ni−Si−Al系等の結晶系、微結晶系磁性体、あるいはFe−Si−B系、Fe−Si−B−C系、Co−Si−B系、Co−Zr系、Co−Nb系、Co−Ta系等のアモルファス金属磁性体の粒子を用いることができる。
【0022】
なかでも、NFC等のRFID用アンテナモジュール2に用いられる第1の磁性シート4は、磁性材料として上述したNiZn系フェライトが好適に用いられる。
【0023】
結合材は、熱、紫外線照射等により硬化する樹脂等を用いることができる。結合材としては、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル等の樹脂、あるいはシリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム等の周知の材料を用いることができる。なお、結合材は、上述の樹脂又はゴムに、難燃剤、反応調整剤、架橋剤又はシランカップリング剤等の表面処理剤を適量加えてもよい。
【0024】
なお、第1の磁性シート4は、単一の磁性材料で構成する場合のみに限らず、2種類以上の磁性材料を、混合して用いてもよく、あるいは多層に積層して形成してもよい。また、第1の磁性シート4は、同一の磁性材料であっても、磁性粒子の粒径及び/又は形状を複数選択して混合してもよく、あるいは多層に積層して形成してもよい。
【0025】
アンテナコイル5は、ポリイミド等によるフレキシブル基板にCu箔等からなる導電パターンがスパイラルコイル状に形成されてなる。また、アンテナコイル5は、略矩形状の外径を有し、相対向する一方の2辺5a,5bにおけるパターン間のピッチは狭く、一方の2辺と直交する他方の2辺5c、5dにおけるパターン間のピッチが広く形成されている。なお、以下の説明では、相対向する一方の2辺5a,5bを左辺5a、右辺5bといい、相対向する他方の2辺5c、5dを上辺5c、下辺5dという。
【0026】
これにより、アンテナコイル5は、上辺5c、下辺5dに沿って形成されたアンテナパターンのうち、少なくとも最内周のアンテナパターンが、後述する非接触充電モジュール3の非接触充電コイル7と重畳されている。なお、左辺5a、右辺5bに沿って形成されたアンテナパターンも、同様に最内周のアンテナパターンが非接触充電コイル7と重畳されているが、必ずしも重畳されている必要はない。
【0027】
磁性シート4は、アンテナコイル5の外径以上の外径を有し、さらに開口部2aを有している。この開口部2aには後述する非接触充電モジュール3を配置することができる。開口部2aに非接触充電モジュール3が配置されることにより、複合コイルモジュール1は、第1の磁性シート4の厚さに相当する厚さだけ薄型化を図ることができる。なお、アンテナモジュール2は、磁性シート4を、左辺5a、右辺5bに沿って形成されたアンテナパターンとのみ重畳させてもよい。これにより、アンテナモジュール2は、一対の磁性シート4の間に、磁性シート4が設けられていない空隙部が形成され、この空隙部に非接触充電モジュール3を配置することができる。
【0028】
[近距離無線通信システム]
次に、アンテナモジュール2による近距離無線通信機能について説明する。例えば
図2に示すように、複合コイルモジュール1は、例えば携帯電話60の筐体61内部に組み込まれ、アンテナモジュール2は、RFID用の無線通信システム70として使用される。
【0029】
無線通信システム70は、リーダライタ71が、アンテナモジュール2とともに携帯電話60に組み込まれたメモリモジュール73に対してアクセスするものである。ここで、アンテナモジュール2とリーダライタ71とは、三次元直交座標系xyzのxy平面において互いに対向するように配置されているものとする。
【0030】
リーダライタ71は、xy平面において互いに対向するアンテナモジュール2のアンテナコイル5に対して、z軸方向に磁界を発信する発信器として機能し、具体的には、アンテナコイル5に向けて磁界を発信するアンテナ72と、メモリモジュール73と通信を行う制御基板74とを備える。
【0031】
すなわち、リーダライタ71は、アンテナ72と電気的に接続された制御基板74が配設されている。この制御基板74には、一又は複数の集積回路チップ等の電子部品からなる制御回路が実装されている。この制御回路は、アンテナコイル5を介してメモリモジュール73から受信されたデータに基づいて、各種の処理を実行する。例えば、制御回路は、メモリモジュール73に対してデータを送信する場合、データを符号化し、符号化したデータに基づいて、所定の周波数(例えば、13.56MHz)の搬送波を変調し、変調した変調信号を増幅し、増幅した変調信号でアンテナ72を駆動する。また、制御回路は、メモリモジュール73からデータを読み出す場合、アンテナ72で受信されたデータの変調信号を増幅し、増幅したデータの変調信号を復調し、復調したデータを復号する。なお、制御回路では、一般的なリーダライタで用いられる符号化方式及び変調方式が用いられ、例えば、マンチェスタ符号化方式やASK(Amplitude Shift Keying)変調方式が用いられている。
【0032】
アンテナモジュール2は、アンテナコイル5が、リーダライタ71から発信される磁界を受けリーダライタ71と誘導結合して、携帯電話60に組み込まれた記憶媒体であるメモリモジュール73に信号を供給する。
【0033】
アンテナコイル5は、リーダライタ71から発信される磁界を受けると、リーダライタ71と誘導結合によって磁気的に結合され、変調された電磁波を受信して、端子部8a、8bを介して受信信号をメモリモジュール73に供給する。
【0034】
メモリモジュール73は、アンテナコイル5に流れる電流により駆動し、リーダライタ71との間で通信を行う。具体的に、メモリモジュール73は、受信された変調信号を復調し、復調したデータを復号して、復号したデータを、当該メモリモジュール73が有する内部メモリに書き込む。また、メモリモジュール73は、リーダライタ71に送信するデータを内部メモリから読み出し、読み出したデータを符号化し、符号化したデータに基づいて搬送波を変調し、誘導結合によって磁気的に結合されたアンテナコイル5を介して変調された電波をリーダライタ71に送信する。
【0035】
[リーダライタ機能]
また、アンテナモジュール2は、リーダライタとしても機能し、例えば、ICタグを備えたポスターや電化製品に携帯電話60をかざすことにより、そのポスターの情報(クーポン・地図・キャンペーン案内など)を取得したり、電化製品の情報(消費電力や各種設定状態など)を取得し、あるいは設定の変更等を行う。この場合、アンテナモジュール2は、携帯電話60に内蔵されたバッテリパック81より電力が供給されることによりリーダライタとして機能する。リーダライタであるアンテナモジュール2とICタグとの近距離無線通信は、上述したリーダライタ71とアンテナモジュール2との通信と同様である。
【0036】
ここで、ICタグに設けられたアンテナコイルは、携帯電話60に内蔵されたアンテナモジュール2のアンテナコイル5よりも小さい。例えば、アンテナコイル2の外径が60mm×50mmであるのに対して、NFC規格におけるICタグ等に内蔵される小型のアンテナコイルの外径は20mm×25mmである。
【0037】
上述したように、携帯電話側のアンテナモジュールから発信される磁界はアンテナコイルの近くで密となり、アンテナコイルから遠くなるほど磁束密度が疎となる。ICタグ側のアンテナモジュールから発信される磁界も、同様である。そして、近距離無線通信では、携帯電話60をICタグにかざすことにより、アンテナモジュール2とICタグ側のアンテナコイルとの距離が数mmまで密着させて行う。そのため、通信を行うアンテナコイル5の内径と、ICタグ側の小型アンテナコイルの外径との内外径差が大きくなると、一方が発信した磁束が他方に届かず、誘導結合ができないおそれがある(
図16参照)。
【0038】
そのため、携帯電話60側のアンテナモジュール2は、
図3に示すように、アンテナコイル5の内径がICタグ側のアンテナモジュールの小型アンテナコイル20の外径に近接するように、上辺5c、下辺5dに形成されたアンテナパターンのうち、少なくとも最内周のアンテナパターンが、左辺5a、右辺5bに形成されたアンテナパターンよりもアンテナコイル5の中心側に形成されている。これにより、アンテナコイル5がICタグ側のアンテナコイルのパターンに近接させることができ、小型のアンテナコイル20とも通信を行うことができる。
【0039】
[アンテナコイルの幅]
また、これによりアンテナコイル5は、上辺5c、下辺5dに形成されたアンテナパターンのうち、少なくとも最内周のアンテナパターンが非接触充電モジュール3の非接触充電コイル7と重畳される。このとき、
図1に示すように、アンテナコイル5は、非接触充電コイル7と重畳する最内周のアンテナパターンの線幅Wを、最内周よりも外側のアンテナパターンの線幅以下とする。具体的に、アンテナコイル5は、最内周のアンテナパターンの線幅Wを、1mm以下とする。
【0040】
これにより、非接触充電コイル7によって磁束を受けようとした場合に、非接触充電コイル7と重畳する最内周のアンテナパターンにおいて渦電流の発生を抑制することができる。したがって、渦電流の発生による損失を減らし、また、最内周のアンテナパターンの渦電流によって磁束を跳ね返して効率的に充電できない事態や、渦電流の発生による最内周のアンテナパターンの発熱で周囲に熱衝撃が及ぶことを防止することができる。
【0041】
渦電流を小さくするには、表皮厚みと同程度までコイルの線幅を狭めることが有効となる。この幅になると、電流が銅の中を回って流れる時に抵抗が大きくなり渦電流が流れにくくなるためである。
【0042】
図4は、アンテナコイル5の上辺5c、下辺5dにおけるアンテナパターンの線幅と、当該上下辺5c、5dにおけるアンテナパターンに流れる渦電流の値との関係を示すグラフである。具体的な条件は、120kHzで送電側のコイルから磁界を発生させ、そのときのアンテナコイル5に発生する渦電流を求めた。
【0043】
アンテナコイル5として、
図5に示すように、左辺5a、右辺5bのアンテナパターンの線幅を1mmに固定し、非接触充電コイル7と重畳する上辺5c、下辺5dのアンテナパターンの線幅及びピッチを変更するタイプ1と、
図6に示すように、アンテナパターンが全周に亘って同一の線幅で形成され、全辺5a〜5dのアンテナパターンの線幅及びピッチを等しく変更するタイプ2とを用意した。
図4に示すように、アンテナパターンの線幅を狭めるにつれて渦電流の発生が抑制されていき、線幅が1mm以下の場合、その効果が顕著に表れることが分かる。
【0044】
また、アンテナコイル5は、最内周のアンテナパターンの線幅のみを幅狭(1mm以下)としてもよい。最内周のアンテナパターンの線幅を1mmに固定したときの、その外側におけるアンテナパターンの線幅と渦電流との関係を調べた。具体的な測定条件は、120kHzで送電側のコイルから磁界を発生させ、そのときのアンテナコイル5に発生する渦電流を求めた。
【0045】
アンテナコイルとして、
図7に示すように、左辺5a、右辺5bのアンテナパターンの線幅を1mmに固定し、非接触充電コイル7と重畳する上辺5c、下辺5dのアンテナパターンのうち、最内周のアンテナパターンの線幅を1mmに固定し、その外側のアンテナパターンの線幅を変更するタイプ3を用意した。そして、このタイプ3と、同様に左辺5a、右辺5bのアンテナパターンの線幅を1mmに固定し、非接触充電コイル7と重畳する上辺5c、下辺5dのアンテナパターンの線幅及びピッチを等しく変更するタイプ1とを対比した。
【0046】
図8に示すように、最内周のアンテナパターンの線幅を1mmに固定し外側のアンテナパターンの線幅を変えたタイプ3は、上辺5c、下辺5dにおけるアンテナパターンの線幅を等しく変えたタイプ1に比して、渦電流の抑制において同等の効果を奏する。これは、アンテナコイル5の外周側を通る磁束密度は小さいために、渦電流の発生も僅かとなることによる。すなわち、最内周のアンテナパターンの線幅のみを幅狭(1mm以下)とすることでも効果を奏することが分かる。
【0047】
また、
図9に示すように、非接触充電コイル7と重畳する最内周のアンテナパターンの線幅を1mmに固定し、その外側のアンテナパターンが全周に亘って同一の線幅で形成されているタイプ4を用意し、このタイプ4と、アンテナパターンが全周に亘って同一の線幅で形成されているタイプ2とについて、外側のアンテナパターンの線幅を変えたときの渦電流を調べた。
図10に示すように、タイプ4は、アンテナパターンが全周に亘って同一の線幅で形成されているタイプ2に比して、渦電流の抑制において同等の効果を奏する。これは、アンテナコイル5の外周側を通る磁束密度は小さいために、渦電流の発生も僅かとなることによる。これによっても、最内周のアンテナパターンの線幅のみを幅狭(1mm以下)とすることでも効果を奏することが分かる。
【0048】
[スリット]
また、アンテナコイル5は、
図11に示すように、上辺5c、下辺5dにおけるアンテナパターンの長手方向に沿ってスリット10を形成してもよい。スリット10を形成することによっても、幅を狭めたときと同様に、スリット10の形成領域において実質的にアンテナパターンの線幅を狭め、渦電流の発生を抑制することができる。このため、アンテナパターンとしては、スリット10によって分割されたパターン幅が1mm以下となることが好ましい。
【0049】
スリット10は、
図11に示すように、1本のアンテナパターンに一つ形成してもよく、また、
図12に示すように、1本のアンテナパターンに複数形成してもよい。また、スリット10は、上辺5c、下辺5dにおけるアンテナパターンのすべてに形成してもよいが、最内周のアンテナパターンにのみ形成しても同等の効果を奏する。
【0050】
また、スリット10は、アンテナコイル5の他方の2辺5c、5dにおけるアンテナパターンのすべてにおいて同幅で形成してもよく、あるいは内周側から外周側にかけて漸次拡幅させてもよい。
【0051】
図13は、アンテナコイル5の上辺5c、下辺5dにおけるアンテナパターンの線幅を、左辺5a、右辺5bにおけるアンテナパターンの線幅よりも太くするとともに、パターン間のピッチも大きくした複合コイルモジュール1において、上辺5c、下辺5dのアンテナパターンに形成するスリット10の本数を変えたときの、渦電流の発生状態を示すグラフである。
【0052】
具体的な条件は、120kHzで送電側のコイルから磁界を発生させ、そのときのアンテナコイル5に発生する渦電流密度を計算し、その値の絶対値をコイル体積で積分した。この値をIeddyとする。この値が大きければコイル内の熱が大きくなることになる。
図13に示すように、スリット10を形成することで渦電流の発生が抑制され、スリット10の本数が増えると、渦電流の抑制効果が高まることが分かる。
【0053】
また、複合コイルモジュール1は、
図14に示すように、一枚の磁性シート11と、この磁性シート11と重畳されるアンテナコイル5、及び非接触充電コイル7とにより形成してもよい。磁性シート11とアンテナコイル5とはほぼ同じ形状で形成され、また非接触充電コイル7は、アンテナコイル5及び磁性シート11の外側縁に内接するように、ほぼ同じ径で形成されている。
【0054】
磁性シート11は、アンテナコイル5と非接触充電コイル7のそれぞれに磁界を引き込む。磁性シート11の構成は上述した第1の磁性シート4や第2の磁性シート6と同様である。また、
図14に示す構成においても、アンテナコイル5は、非接触充電コイル7と重畳する最内周のアンテナパターンの線幅Wを、最内周よりも外側のアンテナパターンの線幅以下とする。具体的に、アンテナコイル5は、最内周のアンテナパターンの線幅Wを、1mm以下とする。
【0055】
図14に示す構成においては、アンテナコイル5と非接触充電コイル7とを同じ径で形成すると共に磁性シート11を共用させることで、複合コイルモジュール1の専有面積を小さくすることができる。また、
図14に示す構成においても、非接触充電コイル7によって磁束を受けようとした場合に、非接触充電コイル7と重畳する最内周のアンテナパターンにおいて渦電流の発生を抑制することができる。
【0056】
[非接触充電モジュール]
非接触充電モジュール3は、第1の磁性シート4と異なる磁性材料により形成されたシート状の第2の磁性シート6と、第2の磁性シート6上に設けられ、面状に巻回されたスパイラルコイル状の非接触充電コイル7とを備える。
【0057】
第2の磁性シート6は、アンテナコイルモジュール2の開口部2aの内側に収まる大きさで形成されている。また、第2の磁性シート6は、上述した第1の磁性シート4と同様に、シート状に形成された磁性粒子の焼結体からなり、例えばMnZn系フェライトを好適に用いることができる。また、第2の磁性シート6は、NiZn系フェライトで形成してもよい。この第2の磁性シート6は、第1の磁性シート4と同様に製造することができる。
【0058】
また、第2の磁性シート6も、第1の磁性シート4と同様に、軟磁性粉末からなる磁性粒子と結合材としての樹脂とを含んでシート状に形成されてもよい。また第2の磁性シート6は、磁性粒子や結合材も第1の磁性シート4に用いることができる上述した材料を用いることができる。
【0059】
また、第2の磁性シート6は、第1の磁性シート4と同様に、単一の磁性材料で構成する場合のみに限らず、2種類以上の磁性材料を、混合して用いてもよく、あるいは多層に積層して形成してもよい。また、第2の磁性シート6は、同一の磁性材料であっても、磁性粒子の粒径及び/又は形状を複数選択して混合してもよく、あるいは多層に積層して形成してもよい。
【0060】
非接触充電コイル7は、送電コイルから発信される磁界を受けて送電コイルと誘導結合することにより、複合コイルモジュール1が組み込まれた携帯機器のバッテリに充電電流を供給する。非接触充電コイル7は、例えばスパイラルコイル状に巻回された導線からなる。
【0061】
非接触充電コイル7を構成する導線は、非接触充電モジュール3を、例えば5W程度の充電出力容量を有する非接触充電用の二次側充電コイルとして用いる場合であって、120kHz程度の周波数で用いられるときには、0.20〜0.45mmの径のCu又はCuを主成分とする合金からなる単線を用いることが好ましい。あるいは、導線は、表皮効果を低減させるために、上述の単線よりも細い細線を複数本束ねた平行線、編線を用いてもよく、厚みの薄い平角線又は扁平線を用いて1層又は2層のα巻としてもよい。また、非接触充電コイル7は、電流容量に応じて、フレキシブル基板等の基板上にパターン形成されたCu箔等を用いてもよい。
【0062】
[非接触充電システム]
次に、非接触充電コイル7による非接触充電機能について説明する。例えば
図15に示すように、非接触充電コイル7は、例えばQi規格の非接触充電システム80として使用される。
【0063】
非接触充電システム80は、非接触充電モジュール3の非接触充電コイル7と接続されたバッテリパック81に対して、充電装置82により充電を行うものである。ここで、非接触充電モジュール3の非接触充電コイル7と充電装置82の送電コイル83とは、上述したアンテナコイル5とリーダライタ71との位置関係と同様に、三次元直交座標系xyzのxy平面において互いに対向するように配置されているものとする。
【0064】
充電装置82は、xy平面において互いに対向する非接触充電モジュール3の非接触充電コイル7に対して、z軸方向に磁界を発信する送電手段として機能し、具体的には、非接触充電コイル7に向けて磁界を発信する送電コイル83と、送電コイル83を介して誘導結合された非接触充電コイル7への電力の供給を制御する送電制御基板84とを備える。
【0065】
すなわち、充電装置82は、送電コイル83と電気的に接続された送電制御基板84が配設されている。この送電制御基板84には、一又は複数の集積回路チップ等の電子部品からなる制御回路が実装されている。この制御回路は、送電コイル83と誘導結合された非接触充電コイル7に充電電流を供給する。具体的に、送電制御基板84は、所定の周波数例えば、110kHzの比較的低周波数の送電電流により送電コイル83を駆動する。
【0066】
非接触充電モジュール3は、上述したように、携帯電話60の筐体61内部に組み込まれ、非接触充電コイル7が、送電コイル83から発信される磁界を受け送電コイル83と誘導結合して、携帯電話60に組み込まれたバッテリパック81に受電した電流を供給する。
【0067】
非接触充電コイル7は、充電装置82から発信される磁界を受けると、充電装置82と誘導結合によって磁気的に結合され、変調された電磁波を受電して、端子部9a、9bを介して充電電流をバッテリパック81に供給する。
【0068】
バッテリパック81は、非接触充電コイル7に流れる充電電流に応じた充電電圧を、当該バッテリパック81内部のバッテリセルに印加する。
【0069】
以上のような複合コイルモジュール1によれば、近距離無線通信機能を実現するアンテナコイル5と、非接触充電機能を実現する非接触充電コイル7とが形成されているので、電子機器である携帯電話60に組み込んだ際に筐体61の小型化を図りつつ、近距離無線通信機能と非接触充電機能との両立を実現することができる。
【0070】
このとき、複合コイルモジュール1によれば、アンテナコイル5の非接触充電コイル7と重畳する最内周のアンテナパターンの線幅Wを1mm以下としているため、非接触充電コイル7によって磁束を受けようとした場合に、非接触充電コイル7と重畳する最内周のアンテナパターンにおいて渦電流の発生を抑制することができる。したがって、渦電流の発生による損失を減らし、また、最内周のアンテナパターンの渦電流によって磁束を跳ね返して効率的に充電できない事態や、渦電流の発生による最内周のアンテナパターンの発熱で周囲に熱衝撃が及ぶことを防止することができる。