特許第5985440号(P5985440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5985440送信および受信ダイバーシチを含む通信受信機におけるデータ等化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985440
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】送信および受信ダイバーシチを含む通信受信機におけるデータ等化方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 24/02 20090101AFI20160823BHJP
   H04B 7/005 20060101ALI20160823BHJP
   H04W 88/00 20090101ALI20160823BHJP
【FI】
   H04W24/02
   H04B7/005
   H04W88/00
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-124728(P2013-124728)
(22)【出願日】2013年6月13日
(62)【分割の表示】特願2009-526830(P2009-526830)の分割
【原出願日】2007年12月12日
(65)【公開番号】特開2013-232930(P2013-232930A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2013年6月13日
【審判番号】不服2015-3007(P2015-3007/J1)
【審判請求日】2015年2月17日
(31)【優先権主張番号】2006907315
(32)【優先日】2006年12月28日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】314008976
【氏名又は名称】レノボ・イノベーションズ・リミテッド(香港)
(74)【代理人】
【識別番号】100084250
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】ブイ サン
(72)【発明者】
【氏名】ユアン アレン
(72)【発明者】
【氏名】ヒー ホーリー
(72)【発明者】
【氏名】リン タオ
【合議体】
【審判長】 佐藤 智康
【審判官】 吉田 隆之
【審判官】 水野 恵雄
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−510928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信および受信アンテナ間に備えられた複数の異なる伝搬経路と、
送信および受信ダイバーシチと、を有し、通信システムを構成する通信受信機におけるデータ等化を行うためのデータ等化方法において、
(a) 各i番目の受信アンテナおよび各j番目の送信アンテナに関して、マルチパスチャネル推定値からチャネル応答行列Hi,jを計算するステップと、
(b) 前記各i番目の受信アンテナに関して、前記チャネル応答行列Hi,jとスカラ雑音係数βから、チャネル利得行列Giを計算するステップと、
(c) 前記チャネル利得行列Giの逆行列Gi-1の中央列c0を計算するステップと、
(d) 前記チャネル利得行列Giの逆行列Gi-1の前記中央列c0と対応する前記チャネル応答行列Hi,jのエルミート転置行列Hi,jHとから、フィルタ係数ベクトルwi,jを計算するステップと、
(e) 前記各i番目の受信アンテナで受信された入力データriを、対応する前記フィルタ係数ベクトルwi,jを使用してフィルタ処理するステップと、
(f) フィルタ処理された前記各i番目の受信アンテナからの前記入力データを逆拡散するステップと、
(g) 逆拡散された前記データに対して符号化を行うステップと、
(h) 逆拡散された全アンテナからの前記データを合成して等化された受信データを得るステップとを含み、
前記ステップ(c)は
(i) 前記チャネル利得行列Giに対してコレスキ分解を行って、下三角行列Lと上角行列Uを得るステップと、
(j) 前記下三角行列Lに対して前進代入を行い、列ベクトルdを計算するステップと、
(k) 前記列ベクトルdと前記下三角行列Lのエルミート転置行列LHとに対して後進代入を行い、前記チャネル利得行列Giの逆行列Gi-1の前記中央列c0を計算するステップとを含み、
前記反転対象のチャネル利得行列Giは、式
【数1】
から計算され、ここでIは恒等行列であることを特徴とするデータ等化方法。
【請求項2】
送信および受信ダイバーシチを有し、通信システムを構成する通信受信機に使用されるチップ等化器おいて、前記等化器は請求項1記載の方法を実行するための1個以上の演算ブロックを含むことを特徴とするチップ等化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般にスペクトラム拡散受信機に関し、特に、多重解決可能フェージングパスチャネル(multiple resolvable fading paths channel)を介して送信されるスペクトラム拡散信号の、送信および受信ダイバーシチを含む通信受信機における等化を最適化する方法に関する。本発明はW-CDMA送信技術に関する応用として使用するのに最適であり、その応用例に関連して本発明を説明するのが適切であろう。
【背景技術】
【0002】
W-CDMA通信システムでは、送信機におけるマルチコード信号は互いに直交している。しかし、この直交性は、信号がマルチパスフェージングチャネルを伝搬してゆくにつれて失われる。W-CDMA受信機において、チップ等化器は、この信号の直交性を復元するための手段であり、これによって受信機性能を改善するものである。
【0003】
一般に、チップ等化器の実施として、ファイナイト(有限)インパルスレスポンス(FIR)フィルタが挙げられる。チップ等化器はチャネルを反転することによって、マルチパス干渉の補償を試みる。チップ等化器フィルタの最適係数を計算する既知の方法は、直接反転行列法(direct inversion matrix method)を使用するが、この方法では、式G=HHH+βIからチャネル利得行列Gを推定する。ここで、HHHはチャネル相関行列、Iは恒等行列、βはW-CDMA通信システムのスカラ雑音係数である。行列反転方法に基づくチップレベル等化は行列の分解や後進代入および前進代入を含む膨大な計算を必要とする。
【0004】
現時点での第三世代協同作業(3GPP)の標準では、受信ダイバーシチは受信機のダウンリンク性能を改善するのに使用される。受信ダイバーシチは、より強力な信号受信を可能とするために、受信機において多数のアンテナを使用する。これによってデータレートが高められ、システム容量が拡大される。現時点での3GPP標準では、リーストミニマム平均二乗誤差(LMMSE)チップレベル等化器(CLE)を基準として、受信機に対する要請を規定している。CLEは、送信または受信ダイバーシチを有しない通信システムの場合に容易に実施されるが、送信および受信ダイバーシチを有する受信機の場合におけるCLEについては、実用的で計算上効率の良い実施はまだなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願第2006/0018367号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の不都合を一点でも改善または解消することのできる送信および受信ダイバーシチを有する通信受信機におけるデータ等化を実施する方法を供給することが現在必要とされている。また、通信受信機のチップレベル等化器の性能を最適化するところの、送信および受信ダイバーシチを有する通信受信機でのデータ等化を実施する方法を供給することが必要とされている。さらに、単純であり、実用的な計算上効率良く実施可能である送信および受信ダイバーシチを有する通信受信機でのデータ等化を実施する方法を供給することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これを考慮して、本発明の様態によれば、送信および受信アンテナ間に備えられた複数の異なる伝搬経路と、送信および受信ダイバーシチと、を有し、通信システムを構成する通信受信機におけるデータ等化を行うための方法が提供され、前記方法は
(a) 各i番目の受信アンテナおよび各j 番目の送信アンテナに関して、マルチパスチャネル推定値からチャネル応答行列Hi,jを計算するステップと、
(b) 前記各i番目の受信アンテナに関して、前記チャネル応答行列Hi,jとスカラ雑音係数βから、チャネル利得行列Giを計算するステップと、
(c) 前記チャネル利得行列Giの逆行列Gi-1の中央列c0を計算するステップと、
(d) 前記チャネル利得行列Giの逆行列Gi-1の前記中央列c0と対応する前記チャネル応答行列Hi,jのエルミート転置行列Hi,jHとから、フィルタ係数ベクトルwi,jを計算するステップと、
(e) 前記各i番目の受信アンテナで受信された入力データriを、対応する前記フィルタ係数ベクトルwi,jを使用してフィルタ処理するステップと、
(f) フィルタ処理された前記各i番目の受信アンテナからの前記入力データを逆拡散するステップと、
(g) 逆拡散された前記データに対して位相補償を行うステップと、
(h) 逆拡散された全アンテナからの前記データを合成して等化された受信データを得るステップとを含む。
【0008】
好ましくは、前記ステップ(c)は、
(h) 前記各チャネル利得行列Giに対してコレスキ分解を行って、下三角行列Lと上角行列Uを得るステップと、
(i) 前記下三角行列Lに対して前進代入を行い、列ベクトルdを計算するステップと、
(j) 前記列ベクトルdと前記下三角行列Lのエルミート転置行列LHとに対して後進代入を行い、前記チャネル利得行列Giの逆行列Gi-1の前記中央列c0を計算するステップとを含む。
【0009】
好ましくは、前記反転対象のチャネル利得行列Giは、次式から計算される。
【0010】
【数1】
【0011】
ここでIは恒等行列である。
【0012】
本発明の他の様態によれば、送信および受信ダイバーシチを有し、通信システムを構成する通信受信機に使用されるチップ等化器おいて、前記等化器は前記方法を実行するための1個以上の演算ブロックを含むチップ等化器が提供される。
【0013】
以下の説明では、本発明の各種特徴を詳述する。本発明の理解を容易にするために、データ等化の実施方法とチップ等化器を好ましい実施形態として示している添付図面を参照して説明する。本発明は添付図面に示された好ましい実施形態に限定されないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】送信および受信ダイバーシチを有する通信受信機を含む通信システムの概略図である。
図2図1の通信システムを構成する通信受信機で使用される等化器の一部の機能ブロックを示す概略図である。
図3図2に示される等化器用の行列反転計算ブロックで実行される一連のステップを示す流れ図である。
図4図2に示される等化器によって実行されるフィルタ係数計算方法における前進代入および後進代入をそれぞれ示したグラフである。
図5図2に示される等化器によって実行されるフィルタ係数計算方法における前進代入および後進代入をそれぞれ示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで、図1を参照すると、通信受信機12へデータ符号を送信するための通信システム10の全体が示されている。通信システム10は、異なる特性の多数の通信チャネルを使用することによって、受信機12へ送信されるメッセージ信号の信頼性を改善するために、ダイバーシチ技法を使用する。この図に表される例では、4個の通信チャネル14−20が示されている。通信チャネル14−20のそれぞれは、異なるレベルのフェージングおよび干渉を受ける。
【0016】
現時点では、2個の異なるタイプの送信ダイバーシチモード、すなわち、空間時間送信ダイバーシチ(STTD)と閉ループ送信ダイバーシチモード(CLM)がある。したがって、受信機12へ送信されるべき符号に対して、空間時間符号化またはCLM重み付けが、符号処理ブロック22によって行われる。空間時間符号化またはCLM重み付けされた符号は、符号拡散器24,26に供給される。
【0017】
拡散に続いて、データ符号は、通信受信機12の多数の受信アンテナ、および多数の送信アンテナを使用して異なる伝搬経路を介して効率的に通信受信機12へ転送される。この例では、2個の受信アンテナ28,30が例示され、および2個の送信アンテナがデータ符号を送信するのに使用されているが、他の実施例においては任意の個数の受信および/または送信アンテナの使用が可能である。
【0018】
データ符号を通信受信機12へ送信中に、実際には、分散σ2の特性を持つ雑音が分散用チャネル14−20に導入される。通信受信機12は、分散用チャネル14−20によって歪みを受けた送信データ信号とこれらの分散用チャネルに導入された雑音とを復元するために設計された等化器32を含む。
【0019】
図2に、等化器32の演算ブロックの一部を示す。等化器32は、チャネル応答行列計算ブロック34、直接利得行列計算ブロック36、行列反転ブロック38、FIRフィルタブロック40−46、逆拡散ブロック48−54、STTDまたはCLMプロセッサ56、58、およびデータ符号合成ブロック60を含む。使用上、i個の受信機アンテナのそれぞれにサンプルri、すなわち、第1受信アンテナ28で受信された分散用チャネル14および16を介してサンプルr1を、および第2受信アンテナ30で受信された分散用チャネル18および20を介してサンプルr2を受信する。
【0020】
各i番目の受信アンテナで受信された分散用チャネルに対するチャネル推定値が受信機12内で計算され、チャネル行列計算ブロック34への入力として供給される。チャネル推定値
【0021】
【数2】
【0022】
(l = 0,1,2,....,L-1)は、各i番目の受信アンテナで受信された各送信チャネルのL個の多重解決可能フェージングパスチャネル用のチャネル行列計算ブロック34で受信される。
【0023】
各i番目の受信アンテナおよび各j番目の送信アンテナに関するチャネル応答行列
【0024】
【数3】
【0025】
は、受信されたチャネル推定値を用いて、列ごとにチャネルベクトルを連続的に移動することによって形成される。ここで、チャネルベクトルは、L個のチャネル推定値
【0026】
【数4】
【0027】
を、列方向のそれぞれのマルチパス位置に配列することによって形成される。図2に示される例では、このようなチャネル行列が4個形成される。
【0028】
次に、チャネル応答行列Hi,1、Hi,2の推定値および通信システム10のスケールと雑音のファクタの推定値を基に、各i番目の受信機に対して、チャネル利得行列Giが形成される。チャネル利得行列Gi次式で計算される。
【0029】
【数5】
【0030】
ここで、
【0031】
【数6】
【0032】
は各i番目の受信アンテナで受信される2個の分散用チャネルのチャネル応答行列、
【0033】
【数7】
【0034】
はこれらのチャネル応答行列のそれぞれのエルミート転置行列、
【0035】
【数8】
【0036】
は通信システム10の雑音係数の推定値、およびIは恒等行列である。
【0037】
【数9】
【0038】
は通信システム10の各i番目の分散用チャネルに対するチャネル相関行列である。通信システム10の雑音係数の推定値
【0039】
【数10】
【0040】
は、出願人名義において、2005年7月19日に出願された米国特許出願第2006/0018367号に記載の方法により、受信機12によって計算されうる。また、その内容は参照することにより組み込まれるものとする。
【0041】
続いて、チャネル利得行列Giは行列反転ブロック38で反転される必要がある。図3の流れ図に、行列反転ブロック38で実行される演算上有効な一連のステップが示される。ステップ70において、チャネル利得行列Giに対してコレスキ分解が実施され、下三角行列Lと上三角行列Uとが得られる。
【0042】
次にステップ72で、前進代入が行われ等式、
【0043】
【数11】
【0044】
が解かれて、列ベクトルdが得られる。図4は、下三角行列L、列ベクトルdおよび結果としての列ベクトルeを概略的に示す。好ましくは、このベクトル(
【0045】
【数12】
【0046】
で示され、
【0047】
【数13】
【0048】
)の半分のみが次の演算ステップに入力されればよい。
【0049】
ついでステップ74で、後進代入が行われ等式、
【0050】
【数14】
【0051】
が解かれて、行列Gi-1の中央列に対応するベクトルc0の半分 (
【0052】
【数15】
【0053】
で示す) が得られる。図5に、このステップで行われる後進代入をグラフに示す。ここで、全ベクトルc0が以下のように得られる。
【0054】
【数16】
【0055】
ステップ76では、各i番目フィルタに関して
【0056】
【数17】
【0057】
を計算することによって、FIRフィルタ40−46のそれぞれに対するフィルタ係数wiのベクトルが得られる。
【0058】
入力データriは、受信機12の動作中、フィルタ係数wiで周期的に更新される。逆拡散器ブロック48−54は、それぞれ受信アンテナ28、30で受信された多重解決可能フェージングパスからの入力データ符号推定値に対して逆拡散処理を行う。これにより、各逆拡散器ブロックは、各i番目の受信アンテナおよび各j番目の送信アンテナの組合わせに対応する推定符号を得る。
【0059】
次に、STDDまたはCLMプロセッサ56、58は、受信アンテナ28、30で受信された入力信号から得られた符号推定値をそれぞれ符号化するように動作する。
【0060】
合成ブロック60は、上記符号化された符号推定値を合成し、等化されたデータ符号を得るように動作する。
【0061】
前進代入ステップ72と後進代入ステップ74で解かれた一次方程式はN個と(N+1)/2個の未知数を含むので、解を得るためには0(N2)の計算量ですむ。これは計算量を極めて減少させるので、等化器32を実際の通信に使用することが可能となる。
【0062】
上記から、通信システムにおいて、直接行列反転を使用する受信機のためのフィルタ係数を計算するには、通常は、前進および後進代入処理のために最大で0(N3)の虚数乗法が必要であることを理解されたい。ここで、Nは反転対象の正方チャネル行列の次元である。この膨大な計算量は、本方法を実際の通信装置に使用することを阻む要因である。上記の等化器は、前進および後進代入処理のために虚数乗法が0(N2)だけの効率的計算方法を使用して、直接行列反転を使用する通常の等化器と全く同じ性能を得る。この簡略化された計算は、チャネル応答行列Gの特別な性質(エルミートおよび正値)と、等化器受信機の特定な実施でフィルタ係数を計算する方法とを利用して実現されうる。
【0063】
最後に、この等化器および等化器のためのフィルタ係数の計算方法に対して、ここに記載の本発明の範囲を逸脱することなく、修正および/または追加が可能であるものと理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5