(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985478
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】ヒドロキシアパタイト樹脂から樹脂を劣化させずにタンパク質を溶出する方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/16 20060101AFI20160823BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20160823BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20160823BHJP
【FI】
C07K1/16
C12P21/08
!C07K16/00
【請求項の数】20
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-524960(P2013-524960)
(86)(22)【出願日】2011年8月17日
(65)【公表番号】特表2013-534252(P2013-534252A)
(43)【公表日】2013年9月2日
(86)【国際出願番号】US2011048082
(87)【国際公開番号】WO2012024400
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2014年3月24日
(31)【優先権主張番号】61/380,919
(32)【優先日】2010年10月18日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/374,750
(32)【優先日】2010年8月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507190880
【氏名又は名称】バイオ−ラッド ラボラトリーズ インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カミングス ラリー ジェイ.
【審査官】
上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/034442(WO,A1)
【文献】
特表2010−510963(JP,A)
【文献】
特表2007−532477(JP,A)
【文献】
特表2010−501623(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/143354(WO,A1)
【文献】
特表2001−525338(JP,A)
【文献】
CHT Ceramic Hydroxyapatite Instruction Manual[online],p.1-12,[検索日:2015年4月23日]、インターネット<http://www.bio-rad.com/cmc_upload/0/000/039/227/Lit-611d.pdf>
【文献】
Archives of Oral Biology,1986年,Vol.31, No.9,p.565-572
【文献】
SCHRODER, E. et al.,Analytical Biochemistry,2003年,Vol.313,p.176-178
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質が固定されているヒドロキシアパタイトを含む固相から該タンパク質を溶出する方法であって、該固相に、25ppm〜260ppmの濃度のカルシウムイオンおよび2mM〜40mMの濃度のリン酸イオンを含む、pHが5.3〜5.8である溶出緩衝液を通過させる工程を含む、方法。
【請求項2】
溶出緩衝液がさらに、30mM〜2000mMの濃度の塩化ナトリウムを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
溶出緩衝液が、実質的に塩化ナトリウムを含有しない、請求項1記載の方法。
【請求項4】
カルシウムイオン濃度が40ppm〜200ppmである、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
カルシウムイオン濃度が50ppm〜150ppmである、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
リン酸イオン濃度が15mM〜35mMである、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
ヒドロキシアパタイトがセラミックヒドロキシアパタイトである、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
モノクローナル抗体および高分子量会合体を含む溶液において該会合体から該抗体を抽出する方法であって、
(i)該溶液を、ヒドロキシアパタイトを含む固相に適用する工程、および
(ii)該固相に、50ppm〜225ppmの濃度のカルシウムイオン、5mM〜40mMの濃度のリン酸イオン、0.3M〜1.5Mの濃度のアルカリ金属塩を含む、pHが5.3〜5.8である溶出緩衝液を通過させて、該モノクローナル抗体を含有する溶出液を得る工程
を含む、方法。
【請求項9】
アルカリ金属塩が、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウム、硝酸ナトリウム、および硝酸カリウムからなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
アルカリ金属塩が、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムからなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項11】
アルカリ金属塩が塩化ナトリウムである、請求項8記載の方法。
【請求項12】
タンパク質が固定されているヒドロキシアパタイトを含む固相からのタンパク質の溶出における使用のために該ヒドロキシアパタイトに適用される溶出緩衝液であって、25ppm〜260ppmの濃度のカルシウムイオンおよび2mM〜40mMの濃度のリン酸イオンを含む、pHが5.3〜5.8である緩衝水溶液からなる溶出緩衝液。
【請求項13】
緩衝水溶液がさらに、30mM〜2000mMの濃度の塩化ナトリウムを含む、請求項12記載の溶出緩衝液。
【請求項14】
緩衝水溶液が実質的に塩化ナトリウムを含有しない、請求項12記載の溶出緩衝液。
【請求項15】
カルシウムイオン濃度が40ppm〜200ppmである、請求項12〜14のいずれか一項記載の溶出緩衝液。
【請求項16】
カルシウムイオン濃度が50ppm〜150ppmである、請求項12〜14のいずれか一項記載の溶出緩衝液。
【請求項17】
リン酸イオン濃度が15mM〜35mMである、請求項12〜16のいずれか一項記載の溶出緩衝液。
【請求項18】
高分子量会合体からのモノクローナル抗体の抽出用の、ヒドロキシアパタイトを含む固相に適用される溶出緩衝液であって、50ppm〜225ppmの濃度のカルシウムイオン、5mM〜40mMの濃度のリン酸イオン、0.3M〜1.5Mの濃度のアルカリ金属塩を含む、pHが5.3〜5.8である緩衝水溶液からなる溶出緩衝液。
【請求項19】
カルシウムイオン濃度が50ppm〜100ppmである、請求項18記載の溶出緩衝液。
【請求項20】
アルカリ金属塩が、0.4M〜0.8Mの濃度の水酸化ナトリウムである、請求項18または19記載の溶出緩衝液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年8月18日に出願された米国仮特許出願第61/374,750号および2010年9月8日に出願された米国仮特許出願第61/380,919号の恩典を主張するものである。両仮出願の内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
1.発明の分野
本発明は、ヒドロキシアパタイト樹脂、およびタンパク質溶出におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
2.先行技術の説明
ヒドロキシアパタイトは、親和性、イオン交換、または疎水性相互作用を伴う保持プロトコルを使用したタンパク質の分離および精製において有用であることが公知である。ヒドロキシアパタイトは、宿主細胞タンパク質、会合体、内毒素、およびDNA由来の遺伝子組換えタンパク質の精製において、特に有用である。ヒドロキシアパタイトカラムのタンパク質負荷は、一般的に、ヒドロキシアパタイト表面へのタンパク質の吸着を促進する条件である、2mM〜5mMのリン酸緩衝液を用いてpH6.5において行われる。場合によって、吸着は、少量のNaClまたはKClを含ませることによってさらに促進される。タンパク質負荷の前に、樹脂は、一般的に、負荷緩衝液と同じ強度の緩衝液および同じpHに平衡化される。平衡化緩衝液および負荷緩衝液は両方とも、ヒドロキシアパタイト表面をヒドロキソニウムイオン(H
3O
+)で飽和させる。残念ながら、これらのイオンは、溶出の間に典型的に遭遇する酸性条件に起因して、タンパク質の溶出の間に脱離する傾向にあり、これが、樹脂の経時的劣化の原因となる。
【発明の概要】
【0004】
樹脂の劣化を生じることなく、吸着されたタンパク質を樹脂から溶出させることによって、セラミックヒドロキシアパタイトなどのヒドロキシアパタイトの、タンパク質溶出の際の劣化を緩和できることが見出された。これにより、ヒドロキシアパタイト樹脂の有効寿命が延長され、単一の樹脂を使用して、試料から連続的にタンパク質を分離および精製することができる。吸着されたタンパク質の溶出は、そうでなければヒドロキシアパタイトが溶解するような酸性度を含む約pH6.0以下の酸性条件において、カルシウムイオンおよびリン酸イオンを組み合わせて含有する溶出緩衝液を使用することによって達成される。本発明のある特定の実践形態では、タンパク質の脱離を高めるために、塩化ナトリウムも溶出緩衝液に含ませる。塩化ナトリウムを含ませるか否かおよび含ませる場合のその量の選択は、例えば、イオン交換相互作用または配位化学的相互作用といったタンパク質とヒドロキシアパタイトとの間の保持相互作用のタイプに依存する。上記において言及されたpH、特に5.3〜5.8の範囲のpHにおいてリン酸カルシウムおよびアルカリ金属塩を含む溶出緩衝液を使用したヒドロキシアパタイトにおけるカチオン交換により、モノクローナル抗体の二量体およびより大きい多量体などの高分子量会合体から、モノクローナル抗体を分離することができることも見出された。したがって、本明細書では、セラミックヒドロキシアパタイト固相からタンパク質およびモノクローナル抗体を溶出する方法を開示し、さらには、これらの溶出を実施するために使用される緩衝液も開示する。
[本発明1001]
タンパク質が固定されているヒドロキシアパタイトを含む固相から該タンパク質を溶出する方法であって、該固相に、約5.3〜約5.8のpHにおいて約25ppm〜約260ppmの濃度のカルシウムイオンおよび約2mM〜40mMの濃度のリン酸イオンを含む溶出液を通過させる工程を含む、方法。
[本発明1002]
溶出液がさらに、約30mM〜約2000mMの濃度の塩化ナトリウムを含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
溶出液が、実質的に塩化ナトリウムを含有しない、本発明1001の方法。
[本発明1004]
カルシウムイオン濃度が約40ppm〜約200ppmである、本発明1001の方法。
[本発明1005]
カルシウムイオン濃度が約50ppm〜約150ppmである、本発明1001の方法。
[本発明1006]
リン酸イオン濃度が約15mM〜約35mMである、本発明1001の方法。
[本発明1007]
ヒドロキシアパタイトがセラミックヒドロキシアパタイトである、本発明1001の方法。
[本発明1008]
モノクローナル抗体および高分子量会合体を含む溶液において該会合体から該抗体を抽出する方法であって、
(i)該溶液を、ヒドロキシアパタイトを含む固相に適用する工程、および
(ii)該固相に、約5.3〜約5.8のpHにおいて、約50ppm〜約225ppmの濃度のカルシウムイオン、約5mM〜約40mMの濃度のリン酸イオン、約0.3M〜約1.5Nの濃度のアルカリ金属塩を含む溶出液を通過させて、該モノクローナル抗体を含有する溶出液を得る工程
を含む、方法。
[本発明1009]
アルカリ金属塩が、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウム、硝酸ナトリウム、および硝酸カリウムからなる群より選択される、本発明1008の方法。
[本発明1010]
アルカリ金属塩が、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムからなる群より選択される、本発明1008の方法。
[本発明1011]
アルカリ金属塩が塩化ナトリウムである、本発明1008の方法。
[本発明1012]
ヒドロキシアパタイトからのタンパク質の溶出における使用のための溶出緩衝液であって、約5.3〜約5.8のpHにおいて約25ppm〜約260ppmの濃度のカルシウムイオンおよび約2mM〜約40mMの濃度のリン酸イオンを含む水溶液からなる溶出緩衝液。
[本発明1013]
水溶液がさらに、約30mM〜約2000mMの濃度の塩化ナトリウムを含む、本発明1012の溶出緩衝液。
[本発明1014]
水溶液が実質的に塩化ナトリウムを含有しない、本発明1012の溶出緩衝液。
[本発明1015]
カルシウムイオン濃度が約40ppm〜約200ppmである、本発明1012の溶出緩衝液。
[本発明1016]
カルシウムイオン濃度が約50ppm〜約150ppmである、本発明1012の溶出緩衝液。
[本発明1017]
リン酸イオン濃度が約15mM〜約35mMである、本発明1012の溶出緩衝液。
[本発明1018]
高分子量会合体からのモノクローナル抗体の抽出における使用のための溶出緩衝液であって、約5.3〜約5.8のpHにおいて約50ppm〜約225ppmの濃度のカルシウムイオン、約5mM〜約40mMの濃度のリン酸イオン、約0.3M〜約1.5Mの濃度のアルカリ金属塩を含む水溶液からなる溶出緩衝液。
[本発明1019]
カルシウムイオン濃度が約50ppm〜約100ppmである、本発明1018の溶出緩衝液。
[本発明1020]
アルカリ金属塩が、約0.4M〜約0.8Mの濃度の水酸化ナトリウムである、本発明1018の溶出緩衝液。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1A】光学濃度対時間のプロットの形態における、本明細書の説明に従って溶出緩衝液を使用したオボアルブミン溶出のプロファイル。
【
図2A】
図1とは異なる溶出緩衝液を使用したオボアルブミン溶出での試みのプロファイル。光学濃度対時間のプロット。
【
図3A】
図2の条件を変更したオボアルブミン溶出のプロファイル。光学濃度対時間のプロット。
【発明を実施するための形態】
【0006】
詳細な説明
本明細書において説明される溶出緩衝液に含ませるためのカルシウムイオンは、典型的には水溶液である当該溶出緩衝液に可溶な任意のカルシウム塩であって、当該溶出緩衝液の他の成分、ヒドロキシアパタイト樹脂、および当該樹脂に保持されているタンパク質、ならびに多くの場合、タンパク質の抽出を試みる供給源溶液の残りの成分、に対して不活性であるカルシウム塩によって供給され得る。カルシウムのハロゲン化物塩が、使用にとって好都合であり、塩化カルシウムは特に都合が良い。本明細書の趣旨のある特定の態様において、最も良い結果は、溶出緩衝液中における約25ppm〜約260ppmのカルシウムイオン濃度によって達成されるであろう。代替の範囲は、約40ppm〜約200ppmであり、さらなる代替の範囲は、約50ppm〜約150ppmである。
【0007】
同様に、溶出緩衝液に含ませるためのリン酸イオンは、やはり典型的には水溶液である溶出緩衝液に可溶な任意のリン酸塩であって、当該緩衝液の他の成分、樹脂、タンパク質、および供給源溶液の残りの成分に対して不活性であるリン酸塩から供給され得る。アルカリ金属またはアルカリ土類金属のリン酸塩は、好都合であり、例として、リン酸ナトリウムが挙げられる。本明細書における趣旨のある特定の態様において、最良の結果は、溶出緩衝液中における約2mM〜約40mMのリン酸イオン濃度において達成され、ある特定のタンパク質に対しては、最適な範囲は約15mM〜約35mMである。
【0008】
上記において述べたように、溶出緩衝液の最適な組成は、タンパク質をヒドロキシアパタイトに結合させている相互作用のタイプによって変わり得る。当該相互作用が、カチオン交換である場合、例えば、特に高濃度、例えば、約30mM〜約2000mMの範囲内の濃度において塩化ナトリウムを含ませることは有益であろう。当該相互作用が、例えばキレート化化学などによるカルシウム配位錯体の形成を伴う場合、低塩化ナトリウム濃度の緩衝液、または場合によって塩化ナトリウムを含有していない緩衝液が、最も効果的に使用することができる。この段落およびこれ以前の段落におけるガイドラインにより、任意の特定のタンパク質またはタンパク質の組み合わせのための最適な溶出緩衝液の組成は、通常の実験によって容易に特定される。
【0009】
高分子量会合体からのモノクローナル抗体の精製での使用のための溶出緩衝液は、好ましくは、約50ppm〜約225ppmの濃度のカルシウムイオン、約5mM〜約40mMの濃度のリン酸イオン、および約0.3M〜約1.5Mの濃度のアルカリ金属塩を含む。さらに好ましい範囲は、カルシウムイオン濃度については約50ppm〜約100ppm、アルカリ金属塩については約0.4M〜約0.8Mである。好ましいアルカリ金属塩は、ナトリウムおよびカリウム塩、あるいはアルカリ金属のハロゲン化物および硝酸塩である。塩化ナトリウムおよび塩化カリウムは、特に好ましい。
【0010】
本明細書におけるすべての溶出および精製のための溶出緩衝液は、pHが約5.3〜約5.8の範囲内であるほとんどの用途において、最適な結果を提供するであろう。pHは、従来の緩衝液、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、コハク酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸、グルタミン酸、マレイン酸塩、カコジル酸塩、2−(N−モルホリノ)−エタンスルホン酸(MES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、ピペラジン−N,N'−2−エタンスルホン酸(PIPES)、2−(N−モルホリノ)−2−ヒドロキシ−プロパンスルホン酸(MOPSO)、N,N−ビス−(ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、3−(N−モルホリノ)−プロパンスルホン酸(MOPS)、N−2−ヒドロキシエチル−ピペラジン−N−2−エタンスルホン酸(HEPES)、3−(N−トリス−(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(TAPSO)、3−(N,N−ビス[2−ヒドロキシエチル]アミノ)−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N'−(2−ヒドロキシプロパンスルホン酸)(HEPPSO)、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンプロパンスルホン酸(EPPS)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)−メチル]グリシン(Tricine)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、[(2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸(TAPS)、N−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−3−アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)、およびビス[2−ヒドロキシエチル]イミノトリス−[ヒドロキシメチル]メタン(Bis−Tris)である。当技術分野において公知の他の緩衝液も使用することができる。任意のそのような緩衝液の量および所望の値へのpHの調節方法は、周知であり、または当業者には容易に明かとなるであろう。
【0011】
本明細書において説明される溶出緩衝液の使用によって恩恵を受けるであろうヒドロキシアパタイトの形態としては、水和ヒドロキシアパタイトゲル、例えば、Bio−Gel HTゲル(リン酸ナトリウム緩衝液中に懸濁)、Bio−Gel HTPゲル(Bio−Gel HTの乾燥タイプ)、およびDNAグレードのBio−Gel HTP(Bio−Gel HTPより小さい粒径を有するBio−Gel HTの乾燥タイプ)など、ならびにセラミックヒドロキシアパタイト(CHT)が挙げられ、これらはすべて、Bio-Rad Laboratories, Inc.(ハーキュリーズ、カリフォルニア、米国)から入手可能である。本明細書の実施例において用いられるセラミックヒドロキシアパタイト(CHT)は、高温で焼結された化学的に純粋な形態のヒドロキシアパタイトである。セラミックヒドロキシアパタイトは、球状であり、約10ミクロン〜約100ミクロンの範囲の粒径を有し、典型的には、20ミクロン、40ミクロン、および80ミクロンの公称直径において入手可能である。セラミックヒドロキシアパタイトは、マクロ多孔性であり、2つのタイプ:中程度の有孔率および比較的高い結合能力を有するタイプI、ならびにより大きい有孔率および低い結合能力を有するタイプII、が入手可能である。いずれかの有孔率を使用することができ、任意の特定のタンパク質の分離または精製にとって最適な有孔率は、タンパク質または供給源混合物の組成によって変わるであろう。いずれの形態のヒドロキシアパタイトも、他の分離媒体または支持体との混合物ではなく、単独で使用することができ、ならびに、天然であるかまたは水和されているかに関係なく、非官能化形態において使用することができる。
【0012】
本明細書において開示される溶出緩衝液による連続的なタンパク質分離においてヒドロキシアパタイト樹脂が使用される場合、当該樹脂は、各分離の後に、従来の方法により、残留タンパク質および不純物質の樹脂を清浄化し、樹脂をタンパク質の保持および溶出のために使用される状態へと平衡化させることによって、再生することができる。したがって、多くの場合、再生は、例えば、適切な塩基性溶液による樹脂の中和、それに続く中性pHへの再生、続いて今度は、タンパク質保持にとって最も適合する範囲内であるわずかに酸性のpHへの、および塩が含まれる場合には塩濃度への平衡化、を含むであろう。一般的に、ヒドロキシアパタイト樹脂は、樹脂の無欠陥性および機能を失うことなく、10回以上、しばしば25回以上、しばしば50回以上のタンパク質分離および溶出に使用することができる。
【実施例】
【0013】
実施例1
およそ12グラムの40μm粒子のヒドロキシアパタイトを充填したカラムにおいて、pH6.5において5mMのリン酸イオンおよび100MのNaClを含有する適用緩衝液を使用してオボアルブミンをセラミックヒドロキシアパタイトI型に固定した。次いで、当該固定されたオボアルブミンを、pH5.6において、3.0mMの塩化カルシウム、30mMのリン酸塩、および20mMのMES(2−(N−モルホリノ)−エタンスルホン酸)を含有する溶出緩衝液を適用することにより、溶出させた(当該溶出緩衝液はNaClを含有しない)。溶出プロファイルを
図1A、1B、および1Cに示しており、
図1Aは、時間に対する光学濃度を示しており、
図1Bは時間に対するpHを示しており、
図1Cは時間に対する導電率を示している。12分にカラムの衛生化、36分にpH調節、および108分にタンパク質の負荷を実施した。154分に溶出が始まり、続いて、240分に中和を、および252分に再生を開始した。108分に始まる光学濃度における低い上昇は、カラムに固定されずに通過する少量のタンパク質を示しており、154分に始まる光学濃度のピークは、カラムからのオボアルブミンの溶出を表しており、中和段階(240分)に始まる光学濃度のピークは、オボアルブミン中の不純物質の溶出を表している。
【0014】
この実施例は、使用した条件においてオボアルブミンがヒドロキシアパタイトから溶出し得ることを示している。
【0015】
実施例2
この実施例は、低濃度リン酸塩、高濃度塩の溶出緩衝液において実施した以外、実施例1の繰り返しである。溶出緩衝液は、30mMの代わりに11mMのリン酸塩を用い、さらに550mMのNaClを含有しており、他のすべての成分および操作条件は同じである。溶出プロファイルを
図2A、2B、および2Cに示しており、それぞれ、時間に対する光学濃度、時間に対するpH、および時間に対する導電率を表している。108分に始まる光学濃度の低い上昇は、
図1Aと同様に、カラムに固定されずに通過する少量のタンパク質を示しており、中和段階(240分)に始まる光学濃度のピークは、やはり、オボアルブミン中の不純物質を表している。
【0016】
光学濃度の軌跡は、この溶出緩衝液ではオボアルブミンはカラムから溶出しないことを示している。
【0017】
実施例3
この実施例は、溶出緩衝液のリン酸濃度を34mMに増加させ、他のすべての材料および条件は同じにおいて、実施例2を繰り返した。溶出プロファイルを
図3A、3B、および3Cに示しており、それぞれ、時間に対する光学濃度、時間に対するpH、および時間に対する導電率を表している。オボアルブミンによるカラムへの過負荷に起因するオボアルブミンの破過点が、144分に認められるが、180分のピークは、高濃度リン酸溶出緩衝液によってカラムからのオボアルブミンの脱着が回復したことを示している。
【0018】
実施例4
この実施例は、pH5.6での、220mM(220ppm)のカルシウムイオン、22.9mMのリン酸塩、20mMのMES、および0.55MのNaClを含有する溶出緩衝液に対する繰り返し曝露におけるセラミックヒドロキシアパタイトの安定性を示している。上記の実施例と同様に、40ミクロンの粒径のセラミックヒドロキシアパタイトI型およそ12グラム(具体的には、11.97グラム)を含有するカラムを使用した。実験は、以下の一連の材料を当該カラムに34回通過させることによって実施した(タンパク質は含まれない)。
【0019】
(表I)セラミックヒドロキシアパタイトの処理プロトコル
【0020】
34回のサイクルの後、樹脂をカラムから取り出し、清浄化し、秤量した。最終重量は13.36gであり、1.39gの増量を表していた。細孔容積における小さな減少が認められたが、粒子はマクロ多孔性であるため、この減少は、当該粒子のタンパク質結合能力に影響を及ぼさないであろう。溶出液のカルシウムイオン含有量は、120〜125ppmの範囲、または入力値225ppmより約95ppm低かった。
【0021】
上記の実施例は、オボアルブミンの保持および溶出を対象としているが、それに匹敵する結果が、他のタンパク質おいても達成可能である。これらのタンパク質の例は、等電点が増加する順に、α−ラクトアルブミン、トランスフェリン、ウシ血清アルブミン、カルボニックアンヒドラーゼ、カタラーゼ、コンアルブミン、ミオグロビン、リボヌクレアーゼA、α−キモトリプシノーゲンA、リゾチーム、およびシトクロムcである。5.8以上の等電点を有するタンパク質(例えば、コンアルブミン、ミオグロビン、リボヌクレアーゼA、α−キモトリプシノーゲンA、リゾチーム、およびシトクロムc)は、典型的には、イオン交換によってヒドロキシアパタイトに結合し、かつ溶出され、これらのタンパク質の溶出は、溶出緩衝液中の塩化ナトリウムの高い濃度から恩恵を受ける。5.8未満の等電点を有するタンパク質(例えば、α−ラクトアルブミン、トランスフェリン、ウシ血清アルブミン、カルボニックアンヒドラーゼ、およびカタラーゼ)は、典型的には、カルシウム配位錯体の形成によってヒドロキシアパタイトに結合し、脱錯体化によるこれらのタンパク質の溶出は、溶出緩衝液中のリン酸塩濃度が低い場合に最も良く達成される。
【0022】
実施例5
この実施例は、ヒドロキシアパタイトカラムにおいて高分子量会合体からモノクローナル抗体を精製するための、本発明の範囲内の溶出緩衝液の使用を示している。
【0023】
長さ22cm、内径2.2cm(カラム容積83.63mLおよび横断面積3.803cm
2)のカラムに、40ミクロン粒径のセラミックヒドロキシアパタイトI型49.70gを入れた。結果として得られる充填されたカラムは、175cm/時間または11.09mL/分の流量であった。5%(重量ベース)の高分子量会合体を含有するモノクローナル抗体溶液を、出発材料として使用した。カラムを通過させた一連の材料は、以下の通りであった。
【0024】
(表II)モノクローナル抗体の精製プロトコル
【0025】
カラムから溶出するMAb中の高分子量会合体の含有量は、0.6重量%未満まで減少した。
【0026】
本明細書に添付の請求の範囲において、用語「1つの(「a」または「an」)」は、「1または複数」を意味することが意図される。用語「含む(「comprise」)」およびその変形、例えば、「含む(「comprises」)」および「含むこと(「comprising」)」などは、工程または要素の列挙の前にある場合、さらなる工程または要素の追加が、任意でありかつ排除されないことを意味することが意図される。本願明細書中に引用された全ての特許、特許出願、その他公開された参考資料は、参照によりその全体が本願明細書に組み入れられる。本明細書において引用された任意の参考資料または一般的な任意の先行技術と、本明細書の明確な教示との間の任意の矛盾は、本明細書における教示を優先して解消することが意図される。これは、単語または句について当技術分野において理解される定義と、当該単語または句に対して本明細書において明確に提供される定義との間におけるあらゆる矛盾も包含する。