特許第5985487号(P5985487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5985487改変ヒトU1snRNA分子、改変ヒトU1snRNA分子をコードしている遺伝子、遺伝子を含む発現ベクターおよび遺伝子治療におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985487
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】改変ヒトU1snRNA分子、改変ヒトU1snRNA分子をコードしている遺伝子、遺伝子を含む発現ベクターおよび遺伝子治療におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20160823BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20160823BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20160823BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20160823BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20160823BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20160823BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   C12N15/00 GZNA
   C12Q1/68 A
   A61P7/04
   A61P21/00
   A61P3/00
   A61K48/00
   A61K31/7088
【請求項の数】17
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-533322(P2013-533322)
(86)(22)【出願日】2011年10月14日
(65)【公表番号】特表2014-501493(P2014-501493A)
(43)【公表日】2014年1月23日
(86)【国際出願番号】IB2011054573
(87)【国際公開番号】WO2012049665
(87)【国際公開日】20120419
【審査請求日】2014年9月24日
(31)【優先権主張番号】TO2010A000840
(32)【優先日】2010年10月15日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】513094181
【氏名又は名称】ユニベルシタ・デッリ・ストゥディ・ディ・フェラーラ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITA’ DEGLI STUDI DI FERRARA
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(72)【発明者】
【氏名】パガーニ、フランコ
(72)【発明者】
【氏名】ピノッティ、ミルコ
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0087511(US,A1)
【文献】 Blood,2009年,Vol.113, No.25,p.6461-6464
【文献】 The Journal of Biological Chemistry,2000年,Vol.275, No.46,p.35914-35919
【文献】 Nature Genetics,2002年,Vol.30,p.426-429
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクソンの50塩基対上流〜20塩基対下流に含まれる配列中に局在している変異によって引き起こされるエクソンのスキッピングを是正できる改変ヒトU1snRNA分子であって、野生型ヒトU1snRNAの5’領域の一本鎖ヌクレオチド配列の部分が、エクソンスキッピングを誘発する変異が有る治療対象となる標的遺伝子から転写されるmRNA前駆体上の標的ヌクレオチド配列とハイブリダイズできる一本鎖結合ヌクレオチド配列により置きかえられており、それがエクソンの50塩基対上流〜20塩基対下流に含まれる配列中の変異からなる群から選択され、標的配列がエクソン/イントロン接合部位の2〜50塩基対下流に含まれる標的遺伝子のmRNA前駆体の領域中に位置しており、その前駆体のスプライシングが前記変異の影響を受けていることを特徴とする改変ヒトU1snRNA分子。
【請求項2】
前記結合ヌクレオチド配列により置きかえられている前記5’領域の前記部分が、長さ9〜20ヌクレオチドである、請求項1に記載の改変ヒトU1snRNA分子。
【請求項3】
治療対象となる前記標的遺伝子が凝固第IX因子遺伝子、SMN2遺伝子またはCFTR遺伝子である、請求項1または2に記載の改変ヒトU1snRNA分子。
【請求項4】
前記結合ヌクレオチド配列が、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の改変ヒトU1snRNA分子。
【請求項5】
エクソンスキッピングによって引き起こされるかまたはそれと関連した遺伝的疾患の治療的処置において使用するための、請求項1〜4のいずれかに記載の改変ヒトU1snRNA分子。
【請求項6】
前記疾患が、嚢胞性線維症、血友病Bまたは脊髄性筋萎縮症である、請求項5に記載の改変ヒトU1snRNA分子。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の改変ヒトU1snRNA分子をコードしている単離された遺伝子。
【請求項8】
プロモーター配列およびポリアデニル化シグナル配列を含む、請求項7に記載の単離された遺伝子。
【請求項9】
前記プロモーターが、ヒトU1snRNAをコードしている前記遺伝子の内在性プロモーターである、請求項8に記載の単離された遺伝子。
【請求項10】
エクソンスキッピングによって引き起こされる遺伝的疾患の治療的処置において使用するための、請求項7〜9のいずれかに記載の単離された遺伝子。
【請求項11】
前記疾患が、嚢胞性線維症、血友病Bまたは脊髄性筋萎縮症である、請求項10に記載の単離された遺伝子。
【請求項12】
請求項7〜9のいずれかに記載の単離された遺伝子を含む発現ベクター。
【請求項13】
アデノ随伴ウイルスベクターである、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項14】
エクソンスキッピングによって引き起こされるかまたはそれに関連した遺伝的疾患の治療的処置において使用するための、請求項13または14に記載の発現ベクター。
【請求項15】
前記疾患が、嚢胞性線維症、血友病Bまたは脊髄性筋萎縮症である、請求項14に記載の発現ベクター。
【請求項16】
請求項1〜4のいずれかに記載の改変ヒトU1snRNA分子、または請求項7〜9のいずれかに記載の単離された遺伝子、または請求項12もしくは13に記載の発現ベクター、および医薬として許容できる担体を含む医薬組成物。
【請求項17】
エクソンスキッピングを誘発する変異が有る治療対象となる標的遺伝子の正しいスプライシングを培養細胞において回復するためのin vitroの方法であって、前記培養細胞に請求項12または13に記載の発現ベクターをトランスフェクトすることを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【本発明】
【0001】
本発明は、改変ヒトsnRNA分子(以下エクソン特異的U1−ExSpeU1と呼ぶ)に関わり、これらは遺伝子治療の方法において使用されるのに適切である。具体的には、本発明は、遺伝的変異によって引き起こされ、しばしば非常に重篤な、異なる病歴を有するヒト疾患に関係した異常スプライシング過程を是正できるsnRNA分子に関する。
【0002】
ヒト遺伝的疾患の多く(約15%)は、メッセンジャーRNAの正しい細胞内成熟が妨害されることにより、それに続く正確なタンパク質生合成が損なわれ、機能しないタンパク質の合成が誘発されるという遺伝的変異によって引き起こされる。ほとんどの場合、スプライシング不良の主な原因となる点変異は、一次転写産物のプロセシングのために定められた機構による一次転写産物の認識にとって重要な遺伝子配列に関わっている。エクソン−イントロン境界に位置しているドナーおよびアクセプター部位ならびにエクソンまたはイントロン中の遺伝子特異的調節エレメント(Cartegni Lら、2002;Paganiら、2004)は、最重要配列の一つである。これら変異の結果として、成熟した転写産物からの1つのエクソンの除去(いわゆるエクソンスキッピング)に最も頻繁に関わる、様々な分子的事象が誘発され得る。
【0003】
メッセンジャーRNAのプロセシングにおける分子変化(たとえばエクソンスキッピングを含む)は、様々なヒト疾患(中でも血友病B、嚢胞性線維症および脊髄性筋萎縮症)の主要な疾病原因の機序を表すことが長い間知られており、それらは臨床経過の重篤性で共通している。異なる種類の変異、具体的にはドナー部位(または5’スプライシング部位)中の変異、アクセプター部位(3’スプライシング部位)中の変異またはエクソン変異はエクソンスキッピングを誘発し得る。エクソンスキッピングを誘発する異なる種類の変異の例として、以下にヒト疾患の3つのモデルについて記載されている。
【0004】
凝固第IX因子(FIX)中の不良は血友病Bの発症の原因となり、疾患は、時には非常に重篤であり障害性である様々な程度の出血症状を伴う。いくつかの症例において、疾患はスプライシング不良によって引き起こされる。具体的には、スプライシング過程の間のmRNAからのエクソン5の除去は、第IX因子遺伝子(F9)のエクソン5ドナー部位内の−2位における変異とアクセプター部位中のポリピリミジン配列内の−8および−9位における変異との両方によって引き起こされる。
【0005】
組換え外来FIXまたは血漿から直接得られるFIXの頻繁な点滴に主に基づく現在の血友病B療法の制約は、より高い効力および持続効果を特徴とする代替手法を開発する必要性を際立たせている。
【0006】
嚢胞性線維症(CF)は、白色人種集団において最も頻繁な致死的な先天性遺伝病である:生きて生まれてきた乳児2500〜2700人に1人の新生児がその影響を受けている。
【0007】
この疾患の病因は、上皮細胞の頂端膜中に局在しており水電解質交換を調節する機能を有するCFTR(嚢胞性線維症膜コンダクタンス調節因子)と呼ばれるタンパク質の異常による。
【0008】
CFTR改変の結果として、細胞膜を通しての塩の移動が損なわれて、「脱水状態」と定義され得る分泌物(ナトリウムおよび塩素が非常に豊富な汗ならびに脈管を塞ぎがちな高密度で粘稠性の粘液)の生成が主に引き起こされて、様々な器官および系の機能が損なわれる。いくつもの研究の過程で、CFTR遺伝子配列中の多くの改変が嚢胞性線維症と関連していると確認されており、それらはエクソンスキッピングを誘発する。具体的には、エクソン12のスキッピングは、エクソン自体のスプライシングドナー部位内に局在している変異とエクソン変異との両方によって引き起こされる。
【0009】
脊髄性筋萎縮症(SMA、OMIM 253300、253550および253400)は、脊髄α運動ニューロンの変性を特徴とする劣性常染色体神経筋疾患であり、有病率は1/10,000出生人と推定されている。SMAは、出生時から危機的な筋緊張低下および筋力低下を伴う極めて重篤なものから、後の幼年期または青年期に発症する軽症型にまで及ぶ臨床的症候群と関連している。現在まで、病歴の重篤性に応じた年齢で一般に死に至るこの疾患の処置はまだ特定されていない。
【0010】
症例の95%において、疾患はSMN1遺伝子の欠損によって引き起こされる。ヒトゲノムには、SMN2と称されるSMN1と相同な遺伝子がある。しかし、SMN2の発現は、メッセンジャーRNAの異常成熟、その結果であるエクソン7のスキッピングおよび遺伝子自体の不活化をもたらすエクソン中の同義変異によって損なわれている。したがってエクソン7を含有するSMN2転写産物の数を高めるように設計された手法により、SMAの潜在的に有効な処置に対して大きな意味を有するSMN2の正しい発現により、SMN1遺伝子の欠損に対する補償療法を適用できるようになる。
【0011】
スプライシング過程の間に、核内低分子RNA(snRNA)は、mRNAの全成熟過程を仲介するよう定められた細胞機構であるスプライセオソームの重要な構成部分として中心的な役割を果たしている。具体的には、長さ164リボヌクレオチドの低分子U1RNA(U1snRNA)は、ヒトゲノム内に数コピー存在する遺伝子にコードされており、核粒子U1snRNPのリボ核酸構成部分を表す。U1snRNA分子は、ステムループ三次元構造を有し、相補的な塩基対合によってmRNA前駆体分子上のスプライシングドナー部位に結合できる通常は長さ9ヌクレオチドの一本鎖配列を5’領域内に含む(Horowitzら、1994)。図1は、野生型U1snRNA構造の概略図を示している。スプライシングドナー部位を認識できる5’領域中の配列が、真核生物遺伝子の一次転写産物中のスプライシングドナー部位の共通配列と対合されて示されている。そのような配列は、様々な保存度を呈し、エクソン/イントロン接合部に位置している。U1snRNA5’領域によって仲介される認識は、一次転写産物上のエクソン/イントロン接合部を明確にし、スプライセオソーム複合体を正しく組み立てるために重要である。
【0012】
mRNA前駆体のスプライシング不良と関連したヒト遺伝的疾患の数の増加および同疾患の臨床経過の頻繁な重篤性により、分子レベルでスプライシング不良を是正することを目指した治療用分子の研究がここ数年で促された。
【0013】
5’ss部位に位置している変異の場合に、in vitroでエクソンの正しい包含を誘発し、凝固第VII因子mRNAの正しいスプライシングを回復できる改変U1snRNA分子の使用について、Pinotti Mら、2008およびPinotti Mら、2009に記載されている。示された機序は、改変U1snRNAが5’変異したスプライシング部位を直接的に認識しその上に結合することに基づいている。しかし、5’ss部位が相対的に保存されており、その結果として他の機能的な野生型遺伝子から作製された転写産物の成熟に干渉する恐れがあるため、この方法は治療用snRNA分子の標的遺伝子に対する作用に、ある程度の非特異性を提示する。さらに、それは5’ss中の各変異に対して改変されたU1snRNAを使用する必要がある。
【0014】
本発明は、5’スプライシング部位(および本明細書においてエクソン特異的U1、ExSpeU1と定義されている)の下流のイントロン配列と相補的な改変U1snRNA分子が、異なる種類の変異によって損なわれたエクソンの包含を、スプライシング過程の間に回復できることを実証している。治療対象となる3つの異なるヒト遺伝的疾患モデル(脊髄性筋萎縮症、血友病および嚢胞性線維症)において、本発明は、単一のExSpeU1またはExSpeU1の群が各疾患モデルに対応するエクソンの包含を誘発できることを実証している。単一のExSpeU1またはExSpeU1の群は、ドナー部位中の変異、アクセプター部位のポリピリミジン領域中の変異および調節エクソン配列中の変異によって引き起こされるエクソンスキッピングを是正する。ExSpeU1で得られる是正の有効性は、先行技術に記載されているそれと同じであるが、治療対象となる標的遺伝子転写産物に対する作用のより高い選択性を保証し得る。ExSpeU1手法によって、エクソンスキッピングを引き起こす異なる遺伝子変異のパネルを是正するために、単一の改変U1−snRNAを使用できるようになる。
【0015】
これらおよび他の目的は、請求項1に記載の改変ヒトU1snRNA分子によって達成される。改変ヒトU1snRNA分子は、野生型ヒトU1snRNAの5’領域中の一本鎖ヌクレオチド配列の部分が、異常スプライシングを誘発する変異が有る治療対象となる標的遺伝子の一次転写産物上の標的ヌクレオチド配列とハイブリダイズできる結合一本鎖ヌクレオチド配列により置きかえられていることを特徴とする。U1snRNA分子の標的ヌクレオチド配列は、エクソン/イントロン接合部位(5’ss)の2〜50塩基対下流に含まれるmRNA前駆体の領域中に位置しており、ただし標的ヌクレオチド配列は前記エクソン/イントロン接合部位を含まない。好ましくは、標的ヌクレオチド配列は長さ5〜50ヌクレオチド、より好ましくは9〜30ヌクレオチドである。
【0016】
先行技術と比較して、本発明の主題であるU1snRNA分子は、エクソン/イントロン接合部位の配列と比較して低い保存度を示す、スプライシングドナー部位に隣接するイントロン領域内に局在している一次転写産物上の標的ヌクレオチド配列に結合するとき、標的された選択的(エクソン特異的)な作用を及ぼすという利点を有する。しかし、本発明のU1snRNA分子が、エクソン/イントロン接合部位を含まない標的配列上で動作するにもかかわらず、エクソン変異またはアクセプター部位上の変異を含む異なる種類の変異の存在下で全く同様にエクソンの包含を誘発できることは驚くべきことである。
【0017】
本発明のさらなる特徴は添付の特許請求の範囲に定義されており、特許請求の範囲は本明細書の技術的な教示の不可欠な部分である。
【0018】
好ましい態様において、結合ヌクレオチド配列により置きかえられている野生型U1snRNAの一本鎖5’領域の部分は、長さ9〜12ヌクレオチドである。
【0019】
好ましくは、ExSpeU1によって是正されエクソンスキッピングを引き起こす変異は、イントロン/エクソン接合部位(3’スプライス部位)の3〜50塩基対上流に含まれる配列、エクソン変異およびスプライシングドナー部位の共通配列内の変異に位置している。
【0020】
凝固第IX因子、SMN2およびCFTR遺伝子は、治療対象である遺伝子、すなわち、本発明のExSpeU1を用いる処置に適する疾患に関係した変異が有るもののうちの一例として言及されている。
【0021】
好ましい態様において、本発明の改変ヒトU1snRNA分子は、配列番号1〜11、より好ましくは、1〜10からなる群から選択される結合ヌクレオチド配列を含む。
【0022】
好ましい態様において、遺伝子はプロモーター配列およびポリアデニル化シグナル配列を含む。本発明者らは、ヒトU1snRNAをコードしている遺伝子の内在性プロモーターが特に適切であることを検証したが、他のそれ自体公知のプロモーターも使用でき、それらのプロモーターは当業者によって容易に選択することができる。
【0023】
野生型ヒトU1snRNAをコードしている遺伝子の順鎖の配列(配列リストにおいて配列番号12と呼ばれる)が一例として以下に報告されており、ここで、改変U1snRNA分子において結合配列により置きかえられている一本鎖5’領域の部分は太字である。結合配列を挿入するために使用される1つしかないBglIIおよびBclI制限部位の配列には、下線が引かれている。RNAコード領域(大文字で示されている)に加えて、配列番号12の遺伝子配列も、その発現に必要ないくつかの調節エレメント、たとえばプロモーターおよびポリアデニル化シグナルを含む。
【0024】
5’-
taaggaccagcttctttgggagagaacagacgcaggggcgggagggaaaaagggagaggcagacgtcacttccccttggcggctctggcagcagattggtcggttgagtggcagaaaggcagacggggactgggcaaggcactgtcggtgacatcacggacagggcgacttctatgtagatgaggcagcgcagaggctgacgtcttcgccacttgctgcttcaccacgaaggagttcccgtgccctgggagcgggttcaggaccgctgatcggaagtgagaatcccagctgtgtgtcagggctggaaagggctcgggagtgcgcggggcaagtgaccgtgtgtgtaaagagtgaggcgtatgaggctgtgtcggggcagaggcccaagatctgATACTTACCTGGCAGGGGAGATACCATGATCACGAAGGTGGTTTTCCCAGGGCGAGGCTTATCCATTGCACTCCGGATGTGCTGACCCCTGCGATTTCCCCAAATGTGGGAAACTCGACTGCATAATTTGTGGTAGTGGGGGACTGCGTTCGCGCTTTCCCCTGactttctggagtttcaaaagtagactgtacgctaa-3'(配列番号:12)
言うまでもなく、上記の遺伝子配列は単なる一例として提供されている。別法として、本発明の改変U1snRNAをコードしている遺伝子を構築するために、配列番号12と相同ないずれかの遺伝子配列、すなわちスプライシングドナー部位の認識を有効に仲介できるU1snRNAをコードすることができるものを使用することができる。
【0025】
異なる結合配列を含有する本発明の主題である異なる改変U1snRNA分子の調製方法は、例の欄に詳細に記載されている。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、上で定義された単離された遺伝子を含む発現ベクターである。最も好ましい発現ベクターはアデノ随伴ウイルスベクターであるが、当業者にそれ自体公知の他の種類の発現ベクターも使用することができる。
【0027】
前述した通り、改変ヒトU1snRNA分子、そのようなRNA分子をコードしている遺伝子および前記遺伝子を含むベクターは、異常スプライシングによって引き起こされるかまたはそれと関連しており、エクソンスキッピングを特徴とする遺伝的疾患の治療的処置のために使用されるのに適切である。好ましくは、限定するものではないが、疾患は嚢胞性線維症、血友病Bまたは脊髄性筋萎縮症である。
【0028】
これを受けて、改変U1snRNA分子、遺伝子および/またはベクターは、治療上活性がある分子に加えて医薬として許容できる担体を含む医薬組成物へと処方される。担体および任意の医薬品賦形剤の選択は、十分に当業者の技術の範囲内のことである。
【0029】
本発明の別の局面は、培養細胞に上で定義された発現ベクターをトランスフェクトすることによって、異常スプライシングを誘発する変異が有る治療対象となる標的遺伝子の正しいスプライシングを培養細胞において回復するためのin vitroの方法である。
【0030】
本発明の主題である改変U1snRNA分子は、当業者に周知である従前通りの分子生物学的方法を使用することによって作製された。異常スプライシング過程の是正に対する本発明の主題であるU1snRNAの効果を評価し最も効率的なものを同定するために、本発明者らは、その適用が科学文献に広く記録されているミニ遺伝子法を広範に使用した。そのような方法は、スプライシング不良を引き起こす変異が有る遺伝子部分を発現ベクターにクローニングすること、および次いで組換えベクターをin vitro培養細胞にトランスフェクトすることを含む。対象遺伝子の部分から生じる転写産物の分析はRT−PCRによって実施され、こうして異常スプライシング過程から得られる正常でない長さのmRNA分子を同定できる。改変U1snRNAとミニ遺伝子の同時トランスフェクション後の正常な長さの対象転写産物の外観およびそれらの配列決定は、U1snRNA分子が正しいスプライシング過程を回復させる能力の明示を表す。
【0031】
しかし、正しいメッセンジャーRNAプロセシングの回復と、実際に治療的意義を有する最終的なタンパク質レベルの回復との間の類似性は明らかでない。
【0032】
このため、本発明者らは、スプライシングだけでなく発現されたタンパク質の研究も可能なハイブリッドミニ遺伝子法を使用した。本発明者らによってこの方法が導入されて、凝固FVIIにおけるスプライシング変異が研究された(Pinottiら、2009)。そのような方法は、全コード配列(「スプライシング能力があるcDNA構築物」)内でスプライシング不良を引き起こす変異が有る領域中にいくつかのイントロンを含有する遺伝子の部分を発現ベクターにクローニングすること、およびその後組換えベクターをin vitro培養細胞にトランスフェクトすることを含む。RT−PCRによる対象遺伝子の部分から生じる転写産物の分析ならびに合成されたタンパク質のレベルおよび活性の測定により、生物学的機能の回復を評価できるようになる。
【0033】
以下の例は、説明のため提供されており、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】野生型U1snRNAの構造
図2】プラスミドベクターpGEMに挿入されたU1snRNA遺伝子エレメントの概略
図3】構築物pTB FIX ex5の中央部の概略
図4】真核生物細胞中でのミニ遺伝子の発現と、変異によるエクソンスキッピングの誘発
図5】凝固第IX因子遺伝子のエクソン5スプライシング不良の是正のために利用された改変U1snRNA上の結合部位の局在
図6】異なる改変U1snRNAの、−2C位変異についてのエクソン5包含パーセンテージに対する効果
図7】−2C、−8T、−9T位の変異とfix9によるスプライシングの回復
図8】ベクターpBskFIXにクローニングされた構築物の概略
図9】fix9によるスプライシング回復による機能的なタンパク質への翻訳
図10】pCI−SMN2ミニ遺伝子の概略
図11】SMN2遺伝子のスプライシング不良を是正するために利用された改変SMN U1snRNAの局在
図12】SMN2スプライシングに対する改変SMN U1の効果
図13】pTB CFex12ミニ遺伝子の概略
図14】CFTR遺伝子のエクソン12のスプライシング不良を是正するために使用されたExSpeU1 cf11の局在
図15】5’ssおよびエクソン中に局在している異なる種類の変異によって誘発される異常スプライシングに対するExSPeU1 cf11の効果
【例】
【0035】
例1:改変U1snRNAの作製
改変U1snRNAは以下の手順によって作製された:野生型U1−snRNA遺伝子(すなわち改変されていないU1−snRNA)の配列を含有するプラスミドは、BglIIおよびBclI制限酵素で消化された。これら2つの制限部位の間に含まれる配列は、結合配列を含む二本鎖オリゴヌクレオチドで置きかえられた。各オリゴヌクレオチドの順向きおよび逆向き配列が下の表1に記載されており、得られた改変U1−snRNAは利用されたオリゴヌクレオチドの後に命名されている。
【0036】
さらに、図2はU1snRNA遺伝子エレメントの概略図を示している。異なる改変U1snRNAを調製したクローニング戦略が示されている。図2はプラスミドベクター(pGEM)に挿入されたプロモーターエレメントDSEおよびPSE、(中央に)U1snRNAをコードしている領域、ならびに3’プロセシングボックスを有するU1snRNA遺伝子を示している。転写開始点は、矢印によって示されている。BglIIおよびBclI制限部位の間の配列は、表1に示された改変U1snRNAを作製するのに特異的なオリゴヌクレオチドにより置きかえられた一本鎖U1snRNA尾部をコードしている領域を含む。
【表1】
【0037】
【0038】
【0039】
例2:培養細胞へのミニ遺伝子のトランスフェクションおよびスプライシング産物の分析
含有するベクターは、リポフェクタミン(リポソーム)を用いる一過性のトランスフェクションによって細胞に挿入された。Trizolを用いて細胞の全RNAを抽出した後に、特異的プライマーを用いるRT−PCRによってRNAが分析された。
【0040】
反応は2つのステップで起こる:鋳型としてランダムプライマーを使用する逆転写酵素によるcDNA鎖へのRNAの逆転写、およびDNAポリメラーゼによる得られたcDNAの増幅。
【0041】
PCR反応は、
−前述した両方の酵素が正しく機能するのに適切なAMV/Tfl 5x緩衝液5μl;
−10mM dNTPミックス1μl;
−50pmolフォワードプライマーおよび50pmolリバースプライマー;
−25mM MgSO4 2μl;
−細胞抽出RNA 2μl;
−AMV−RT(0.1μ/μl)1μl、Tfl DNAポリメラーゼ1μl;
−超純水適量
を含有する最終容量25μLの混合物中で実施された。
【0042】
逆転写ステップは、45℃で45分間実施された。PCRミックスが94℃の温度に2分間調整されるステップを次いで実施し、続いて40回のPCR、続いて最後に68℃で7秒間の伸長ステップを実施した。
【0043】
増幅産物は、アガロースゲル電気泳動によって分離されおよび/またはキャピラリー電気泳動によって流された。
【0044】
例3:血友病Bと関連した凝固第IX因子のドナー部位近くのエクソン変異およびエクソン5アクセプター部位の上流のポリピリミジン配列中の変異
第IX因子遺伝子(F9)において、エクソン5のドナー部位内の−2位におけるエクソン変異ならびにアクセプター部位内の−8および−9位における変異は、血友病Bと関連している。興味深いことに、エクソン中の−2位における変異は同義であり、コード配列を改変しないがエクソンスキッピングを誘発し、したがってそれらをスプライシング変異として分類できることに留意されたい。アクセプター部位内の−8および−9位における変異も、エクソン5のスキッピングを誘発する。
【0045】
表2は、血友病Bに罹患した患者において同定された論議中の変異を示している(血友病B国際データベース)。エクソン5に属しているヌクレオチドは大文字で示されており、イントロンに属しているそれらは小文字で示されている。図の一番下に示されている各位置は、1つ以上の変異の影響を受けており、そのヌクレオチド変化が太字で示されている。
【表2】
【0046】
pTB NdeI FIXと呼ばれるミニ遺伝子構築物の発現のベクターが構築されて、正常なおよび変異したFIXのスプライシングが研究された。これを行うために、エクソン5の308bp上流および変異の影響を受けた領域の283bp下流のゲノムDNAの部分が、in vitroスプライシングの研究のために広く使用されているベクター、pTBNdeIプラスミドに挿入された(Paganiら、2000;Paganiら、2002;Paganiら、2003)。
【0047】
図3において、スプライシング研究のために使用される構築物pTB FIX ex5の中央部分が概略的に表されている。長方形はαグロビンの構築物およびFIXエクソン5の中間領域を表し、イントロンは線で表されている。エクソン5および隣接するイントロン領域(IVS4およびIVS5)がプラスミドpTBにクローニングされた。転写は、αグロビンプロモーターおよびSV40エンハンサーの制御下にある。可能性がある2つのスプライシングアイソフォームが示されている。
【0048】
変異を挿入した後、本発明者らは次いで、HepG2真核生物細胞(肝臓由来タンパク質、たとえばFIXを研究する際に理想的な細胞モデルである)中で作製されたミニ遺伝子の発現によって、それらの原因となる効果を実証した。具体的には、ベクターは一過性のトランスフェクションによって細胞に挿入され、RNAは添付の方法に示すように、オリゴヌクレオチドalfa2−3およびBRA2をプライマーとして使用することによって分析された。具体的には、全ての変異がエクソンスキッピングを誘発する(図4)。
【0049】
作り出された改変U1−snRNAのリスト、それらの標的配列およびドナー部位の周りのそれらの局在が表3に報告されている。
【表3】
【0050】
凝固第IX因子遺伝子のエクソン5スプライシング不良の是正のために利用される改変U1snRNA上の結合部位の局在が、図5に示されている。エクソン5の配列は大文字で示されており、残りの配列はイントロンを示している。
【0051】
異なる改変U1snRNAが−2C位における変異について試験され、エクソン5包含のパーセンテージに対するそれらの効果が図6に示されている。観察できるように、多くの改変U1snRNAがエクソン5包含のパーセンテージを著しく増加させることができ、それによって−2C位における変異の影響が補償される。これは、ドナー部位または近くへのU1snRNAの結合(ExSpeU1)がエクソン5の明確化に有利に働くことを示している。効率は位置によって決まり、U1−FIX1、FIX9、FIX10はより高い活性を示す。効率は、5’ssスプライシング部位からの距離の増加に伴って減少する。重要なことに、スプライシング部位に隣接する保存されていないイントロン配列とのU1snRNAの相補性は、その特異性を増加させるために重要であることに留意されたい。さらに、FIXの小さな増加(正常の>2%)であっても、患者の出血傾向に著しい改善をもたらし得ることに注目しなければならない。この理由により、効率が低いExSpeU1分子でさえ、血友病Bならびに他の凝固不良において治療的意義を有することができる。改変U1snRNA分子を用いると、類似の効果がドナー部位(−2A>G、−2A>T)およびアクセプター部位(−8T>G、−9T>G)内の他の変異で達成された。
【0052】
1つの単一の改変U1snRNA、特に9位(FIX9)において対合するものが、調査された全ての異なる変異の存在下でスプライシングを著しく回復できるという実証は特に注目に値する。
【0053】
これまで全く報告されていないこの所見に関したデータが、図7に示されている。
【0054】
いかなる治療手法の有効性もタンパク質合成を誘発するその能力によって証明され、そのレベルは病態を受けて減少する。
【0055】
メッセンジャーRNAレベルで観察された是正によって合成の増加および分泌されたFIXの機能が得られるかどうかを検証するために、エクソン5およびそれに隣接するイントロン配列がFIX全長をコードしている配列に挿入されたミニ遺伝子が、作り出された。図8は、この研究のために作製されたベクターpBskFIXにクローニングされた構築物を概略的に報告している。長方形はATG開始コドンおよびTAA停止コドンを有するコード配列を示しており、イントロンは線として報告されている。
【0056】
機能的なFIXを合成し分泌するそれらの能力が元で選択されたBHKハムスター腎臓細胞へのこのミニ遺伝子のトランスフェクションは、メッセンジャーRNAが正しくプロセシングされタンパク質へと翻訳されていることを実証した(図9)。現実に、多量の機能的なタンパク質が培地中で測定される。対照的に、ドナー部位(−2A>G、−2A>T)またはアクセプター部位(−8T>G、−9T>G)中の変異は、エクソン5の除去および正常な凝固アッセイにおいて機能しない切断タンパク質バリアントの合成を引き起こす。ウェスタンブロッティング(上のパネル)によって、コード配列におけるエクソン5の欠損により、変異が低分子量のFIXバリアントの合成を引き起こすと実際に判明した。感知できるほどの凝固活性は、この形態に対応していない(下のパネル)。
【0057】
イントロンExSpeU1 fix9の発現はスプライシングを回復し、機能的な分泌されたFIXのレベルを、患者に投与した場合に治療閾値を大きく上回るレベルまで増加させることができる。これらの結果は、ExSpeU1法の有効性を確認するものである。
【0058】
例4:脊髄性筋萎縮症
SMN1(pCI−SMN1)およびSMN2(pCI−SMN2)ミニ遺伝子を発現するベクターを使用して研究した(Huaら、2007)。そのようなミニ遺伝子は、SMN2遺伝子中のスプライシング不良を是正できる治療用分子の効果を確認するために、広く使用されている(Huaら、2007;Huaら、2008)。
【0059】
2つのミニ遺伝子は、CMVプロモーターの制御下に、エクソン6の111ヌクレオチド、イントロン6の200ヌクレオチド、エクソン7の54ヌクレオチド、イントロン7の444ヌクレオチドおよびエクソン8の最初の75ヌクレオチドから構成されている。2つのミニ遺伝子は、エクソン7中の6位において1ヌクレオチドの置換が存在することで異なる。pCI−SMN1にはCがあり、pCI−SMN2にはTがある。そのような同義置換は、成熟した転写産物中のエクソン7のスキッピングを伴うpCI−SMN2中のスプライシング不良を誘発する。pCI−SMN2ミニ遺伝子が図10に概略的に表されている。エクソンスキッピングを誘発するエクソン中の+6T位における同義バリアントが示されている。
【0060】
多くの実験的証拠が、SMN2遺伝子中のスプライシングの是正がSMAの有効な治療戦略を表していることを実証してきた(Huaら、2007;Huaら、2008;Lorsonら、2010)。表5は、作製された改変U1−snRNAのリスト、それらの標的配列およびドナー部位の周りのそれらの局在を示している。異なる改変U1−snRNAおよびエクソン7包含のパーセンテージに対するそれらの効果が、SMN2ミニ遺伝子中で、および対照としてSMN1ミニ遺伝子中で試験された。
【表4】
【0061】
図11は、SMN2遺伝子のスプライシング不良を是正するために利用された改変SMN U1snRNAの局在を示している。
【0062】
ミニ遺伝子は、リポフェクタミン(リポソーム)を用いる一過性のトランスフェクションによってHeLa細胞に挿入された。RNAは実施例2に示された通りRT−PCRによって分析された。細胞から抽出されたRNAは、次いでプライマーpCIFwdBおよびE8−75Rを用いるRT−PCRに供されて、スプライシング産物が評価された。
【0063】
図12で観察できるように、培養細胞へのpCI SMN2プラスミドのトランスフェクションは、エクソン7のスキッピングを主に示している。U1−Wt対照プラスミド(ウェル2)との同時トランスフェクションは効果がない。U1ex7SMN−1G−2G−3A(ウェル3)、U1ex7SMN sh2(ウェル4)およびU1ex7SMN sh17(ウェル5)プラスミドの同時トランスフェクションは、エクソン7の包含のパーセンテージに著しい増加を誘発する。SMN1対照プラスミド中の異なる改変SMN U1 snRNAの同時トランスフェクションは効果を示さなかった。
【0064】
具体的には、図12はSMN2スプライシングに対する改変SMN U1の効果を示している。SMN2遺伝子(ウェル1)のエクソン7のスプライシングプロファイルおよび改変U1 snRNA(ウェル2〜5)の共発現の効果が、図の上部分に示されている。2つのエクソン7包含(+)および除去(−)アイソフォームが示されている。下のパネルにおいて、ヒストグラムは、エクソン7の包含の、したがって正しいスプライシングのパーセンテージを示している。データは、3回の独立した実験の平均である。
【0065】
例5:嚢胞性線維症と関連したエクソンおよびCFTRエクソン12ドナー部位中の変異
嚢胞性線維症は、CFTR遺伝子中の変異によって引き起こされる。異常なエクソンスキッピングを誘発する、重篤な疾患形態と関連したエクソン12スプライシング部位中に局在している変異が、表6に示されている。エクソン12中に局在しているいくつかの変異は、エクソンスキッピングを誘発する(Paganiら、2003)。エクソン12の除去を誘発するエクソン変異が表7に示されている。
【表5】
【表6】
【0066】
表8はCFTR遺伝子のエクソン12中のスプライシング不良を是正するために改変されたU1−snRNA遺伝子中の認識配列を示しており、認識配列は改変U1 snRNAのより大きなパネルから選択された。
【表7】
【0067】
利用されたpTB CFex12ミニ遺伝子が、図13に概略的に表されている(Paganiら、2003)。長方形はαグロビン構築物およびCFTRエクソン12の中間領域を表し、イントロンは線で表されている。エクソン12および隣接するイントロン領域は、プラスミドpTBにクローニングされた。転写は、αグロビンプロモーターおよびSV40エンハンサーの制御下にある。可能性がある2つのスプライシングアイソフォームが示されている。
【0068】
図14は、CFTR遺伝子のエクソン12のスプライシング不良を是正するために使用されたExSpeU1 cf11の局在を示している。
【0069】
RNAは実施例2に示された通りRT−PCRによって分析された:培養細胞へのミニ遺伝子のトランスフェクション、ならびにalfa2−3およびBRA2をプライマーとして使用しミニ遺伝子を使用することによるスプライシング産物の分析。
【0070】
図15は、5’ssおよびエクソン中に局在している異なる種類の変異によって誘発される異常スプライシングに対するExSPeU1 cf11の効果を示している。ExSPeU1 cf11は、分析された全ての変異体においてエクソン12の包含のパーセンテージに著しい増加を誘発する。
【0071】
異なるバリアント(奇数ウェル)のスプライシングプロファイルおよびExSPeU1 cf11(偶数ウェル)の共発現の効果が、図15の上部分に示されている。2つのエクソン12包含(+)および除去(−)アイソフォームが示されている。下のパネルにおいて、ヒストグラムは、エクソン12を含むパーセンテージ、したがって正しいスプライシングのパーセンテージを示している。データは、3回の独立した実験の平均である。
【0072】
細胞に、各特異的バリアントを発現する0.5μgのベクターをトランスフェクトした。スプライシングプロファイルは、プライマーALPHA2,3およびBRA2を用いるRT−PCRによって評価した。増幅された断片は、2%のアガロースゲルで分離された。エクソン12包含(+)または除去(−)転写産物の素性はゲルの右側に示されており、配列決定によって確認された。
【0073】
参照文献
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【配列表のフリーテキスト】
【0074】
図1
図2
図3
図4
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図6
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図9
図10
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図15
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]